第二十一章『千錯万綜』
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「さて。始めっか。的は―――――・・・」
床にずっと座ったままで静観するようにしていたクロは、この弓景の言葉を合図として、自身に向けられた闇夜トリオ二人からの視線に気づき、ぎくりと顔を強張らせてしまう。
「おや? おやおや~~~? 今日はとってもいい〝的〟がある予感♥」
「働くっつー話だもんなぁ? さ―――――働いてもらおうかァ?」
吊戯は舌を出しながら、弓景は口端を吊り上げながら、揃ってにたぁと笑顔でクロを見遣っていて。
「動く的で実戦形式だ―――♥ 今日の的は一発当てても消えないぞ♥」
両手に二対の長銃を構えた吊戯が楽し気ともいえる口調でそう言ったのを合図として、意地の悪い笑みを浮かべた弓景もまた右手で一丁の長銃を肩に構えたその瞬間―――――本能的に我が身に迫った危険を回避すべく。だっ、とクロはその場から駆け出したのだが。
―――――ドン
その刹那、弓景から狙撃されることとなり。
「に゛ゃ」
クロは咄嗟に両手を前に着いて、猫の姿の時と同じ要領で、飛び上がって回避したものの、着弾した場所の床は抉れており。威力は中々のモノのようだったのだが―――――。
「おい、これ左にズレっぞ」
どうやら、再調整が必要なようだった。
そして弓景に続いて吊戯が笑みを浮かべながら、
「次、オレ―――――♥」
―――――ドカ
銃弾を撃ち込むと、またもや激しい爆発が巻き起こるのと同時に、に゛ゃあああ―――――~というクロの悲鳴が轟いて。
「くっ、クロ・・・!!」
真昼が顔を引き攣らせながら絶句した中で。
「・・・・・・車守さん。これって『道具の動作チェック』なんですよね・・・・・・」
瑠璃もまた、唖然とした面持ちになりながらそう言うと。
「さすがに一人じゃキツイんじゃないか?」
一先ず様子見という姿勢を取っていた盾一郎は、はは・・・と苦笑いを浮かべながら応じてきて。
「・・・・・・ッ、瑠璃姉!!」
「・・・・・・真昼君!!」
そこで真昼とは同じタイミングで互いに名前を呼び合うと。
「待ってろっ、クロ!!」
「今、真昼君と私も加勢するからっ!!」
タッと二人揃ってクロの元に駆け出して行ったのだ。
「やば―――――い。主人の武器のデータも取れる!」
そうしてその展開に対して、外でモニターをしていたイズナが歓声を上げると。
「それだけじゃなく、〝ミストレス〟が所持している『鍵』のデータまでも取れるなんて。貴重だね―――――」
同じ化学班のメンバーである眼鏡を重ねて掛けていた男もまた興味深そうな口調でそう呟いたのだ。そしてその時、そこには三人目のメンバーである露木の姿もあったのだが。しかし露木は最後まで見届けることをせず、無言でその場から立ち去ってしまったのだ。
それから真昼と瑠璃も参戦してから程なくして、吊戯と弓景の側に盾一郎が加わり。
そこからは三対三で模擬戦闘のようなモノを繰り広げることとなった。
そして『武器』を所持している真昼がクロとともに前衛にて立ち回り、『鍵』を所持している瑠璃は後衛から仕掛けることにしたものの。模擬戦闘のようなモノが終わったその時点で、真昼は両膝と両手を地面に突いた状態で、ぜ―――――っ、は―――――っ、ぜ―――――っ、は―――――、と激しい息切れ状態に陥ってしまっていて。
一番の標的にされていたクロはといえば、人型から黒猫の姿になっただけでなく、完全に魂が抜けかけた状態で、真昼の背中の上に横たわっていた。そして瑠璃も、真昼程ではないにせよ、苦しくなってしまった呼吸を整えるために、右手を胸に添えながら深呼吸を繰り返していたのだが―――――。
片や、戦闘のプロである弓景達にとっては肩慣らし程度にしかならなかったようで。
モニターを終えてテスト結果を聞きに来たイズナに対し平然とした態度で、
「これは照準にブレがありすぎ」
あと重い、と最初に手にした武器の問題点を弓景が報告をしたのに続き、
「こっちはいいと思うけど」
盾一郎が使った武器の感想を述べていて。
―――――・・・全然ダメだ俺。動きについていけてないし。
―――――ただの足手まとい・・・・・・。
耳朶に聴こえてきた二人の声に反応して、真昼が歯を食いしばるようにしながら上半身を起こすと、背中にいた黒猫がごろんと下に向かって転がり落ちてしまう。
しかし、黒猫が落ちたことに気づくことなく、弓景たちのほうを見遣った真昼が何を考えているのか察した瑠璃もまた眉根を寄せると。
―――――防御シールドを展開しつつ、空間転移で隙をついて攻撃をしようとしたものの、吊戯さん達の動きを追うのに精一杯で、クロと真昼君と連携を取る事すらできなかった・・・・・・。
―――――この3人相手に力尽くで・・・・・・っていうのは、今の私達では絶対に無理だと思うわ。
落下によって頭を地面にぶつけた衝撃で目覚めて、にゃ―――――と悲鳴をあげた黒猫をそっと瑠璃は腕の中に抱き上げると、よしよしと頭を撫でながら、溜息を吐いてしまう。
と―――――
「あ・・・あの、俺まず何から始めたら強くなれるでしょうか・・・」
真昼が彼らに教えを乞うべく、そう言葉を切り出して。
「技に名前をつけるといいよ!! キマるよ!!」
それに応じてきたのは吊戯だったのだが。
は―――――!! と左手を突きだす仕草をしながら、上着を翻した吊戯に「そういうのじゃなくて」と真昼は突っ込みを入れた後に。カッコだけじゃないですかっ、と眉を顰めると。
「いやいや~~~名前って大事だよ―――――?」
はっは、と吊戯は笑いながら真昼に応じた後に「ね? 瑠璃ちゃん」と瑠璃のほうにも視線を向けてきて。
「・・・・・・確かに何事も〝まずは形から入ってみる〟っていうのも方法の一つだっていう話は聞いたことがありますね」
それに対し瑠璃が微苦笑を浮かべつつ応じると。
「やったね。瑠璃ちゃんに褒められちゃったよ」
得意気な面持ちになった吊戯のほうに、イズナとの話を終えた処で目を向けてきた盾一郎は、眉を下げながら苦笑を浮かべたのみだったものの。
「いや。瑪瑙は別にテメェのこと褒めたわけじゃねーだろ」
弓景が眉を顰めながら吊戯を見遣ると。瑠璃の腕の中から下りて人型に戻ったクロもまた「自分にいい様に解釈するとか、向き合えねー」と漏らしたものの。
「さて、じゃあ、この二つを最終テスト してくればいいのかな?」
吊戯は別段気にした様子もなく、イズナの元に近づいて行って。
「うん、お願いしまーす」
イズナが二つの武器を吊戯に対して預けようとした処で。
「おい、吊戯・・・それ俺も行く」
弓景が会話に口を挟むようにそう言ったものの。
「え―――――弓ちゃんはいいよ。気分いい仕事じゃないよ?」
しかし、それもまた吊戯に軽く受け流されてしまい。
「お前その仕事やめろって言っただろ」
今度は苦言を弓景は呈したのだが。
「だってさあ、誰かはやんないとだし。人が嫌がる仕事は給料高いよ?」
それでも吊戯は譲歩するつもりはないようで。
〝―――――疑似太陽光の発射―――――〟
〝―――――今日の的は一発当てても消えない―――――〟
そんな二人のやり取りを呆然とした面持ちで見ていた真昼は、ふと意識の内に過った〝二つの言葉〟を思い出して顔を強張らせてしまう。
「あ・・・の、このテストって。普段はどうやって・・・・・・」
そうして恐々と絞り出すような声音で吊戯にそう問いかけると。
「そりゃあ、捕まえた下位吸血鬼を使うけど?」
真昼のほうに振り返ってきた吊戯は平然とした面持ちでそう告げてきて。
「・・・・・・っ!!」
その瞬間、真昼は目を見開くと、激昂しようとした。
「―――――吊戯さん、その仕事に行くのはやめて下さい!!」
しかし、瑠璃のほうが先に吊戯に向かって非難の声を上げたのだ。
「・・・・・・瑠璃ちゃん?」
耳朶に届いた瑠璃の叫び声にイズナが呆然と目を瞬かせる。
と―――――
「あのね、瑠璃ちゃん。それから真昼くんもね」
目を細めながら此方に振り返ってきた吊戯がゆっくりと近付いてきて。
「その服を着てる〝キミ達〟に怒る権利ないよ?」
スッと徐に伸ばした左手で真昼の制服の襟首を掴むとそう告げてきたのだ。
さらに吊戯に続いて、イズナの近くで調書を作成していたもう一人の化学班メンバーである眼鏡を重ねて掛けていた男が部屋から立ち去る前に「新しい技術ですし・・・役に立ちますよ。色々試してみないと―――――もったいないでしょ―――――・・・?」そんな台詞を付け足すように口にしたものの。
吊戯から受けた〝指摘〟によって、真昼と瑠璃はグッと押し黙るしかなく、その様を目にしたイズナが気まずそうに視線を俯けたその直後のことだった。
ビ―――――ッ、ビ―――――ッとけたたましい音が鳴り響いて。
「わっ?」
「何が起こったの?」
真昼と瑠璃が驚きの声を漏らしながら顔を上げると、地面にしゃがみこんでいたクロは「うるせ」と顔を顰めながら両手で耳を塞ぎ。
「警報・・・!?」
その一方で突如として響き渡った甲高い音に、顔色を変えて反応したのは吊戯だった。
御国と壮絶なケンカを繰り広げた時でさえも、どこ吹く風といった態度だったというのに。一体全体如何したというのだろうか。
―――――吊戯さん、何だか様子が・・・・・・。
視線を周囲に巡らせた中で、吊戯の雰囲気がなんとなく変だと感じた瑠璃が眉を顰めると。
『あ―――――すみません。この警報は』
ザザッというノイズ音とともに、館内放送が聞こえてきて。
その放送に瑠璃は耳を澄ませようとしたものの、すぐ傍で聞こえたバチッという放電音に、バッとそちらに目を向けると。吊戯がイズナから受け取った武器である銃に魔力を勢いよく流し込んでいる姿が視界に飛び込んできて。
「―――――っ!?」
警報を警戒しての備えなのだろうか。しかし、仄暗い影を宿した金色の瞳は明らかに冷静さを欠いているように見える。
「吊戯さん・・・・・・?」
小さく瑠璃は息を呑むと、緊張した声音で吊戯に向かって呼び掛ける。
と―――――
「・・・・・・」
吊戯は無言のまま左手を瑠璃に向かって伸ばしてきて。
「えっ!?」
「―――――瑠璃ッ!!」
グイッと吊戯に腕を掴まれて、抱き寄せられた瑠璃が驚きの声を上げると、それに気づいたクロがすぐさま瑠璃を吊戯から奪還すべく動こうとしたのだが。
その刹那―――――
「―――――・・・・・なっ!?」
―――――ドン
吊戯が右手に構えた銃をクロ目掛けて勢いよく打ち放ったのだ。
そして硝煙が立ち込めた中には、吊戯からの攻撃を避けることが出来ず、きゅう・・・・・・と負傷した状態で意識を失ってしまった黒猫の姿が在り。
「クロ・・・・・・!?」
「クロ!! 吊戯さんっ、なんで・・・!」
瑠璃が愕然となった中で、真昼も戸惑いの面持ちになりながら叫び声を上げると。
「OH! 警報はミスだそうでーす。〝強欲〟の真祖 のほうで何か起きたらしくて・・・・っ?」
外に出て確認をしてきたイズナが此方に戻って来て、この館は関係ありませーんと知らせてきたのだが。その直後、右手に握りしめていた銃を手放した吊戯が瑠璃のことを解放しないまま、今度は真昼の左腕をガッと掴んできて。
「・・・だいじょうぶ。誰もオレから離れないで」
ビ―――――ッ、ビ―――――ッと警報が鳴りやまない中、押し殺したような声音で吊戯はそう告げてきたのだが。ぎりっ、と強い力で真昼の腕を掴んだ吊戯の手は震えていて。
「吊戯・・・さん・・・?」
真昼が呆然となりながら吊戯の名前を呼ぶと、吊戯の腕の中に捕らわれたままの瑠璃も、震えだけでなく早鐘のように脈打つ吊戯の鼓動を感じ。
「・・・・・・吊戯さん、私達はちゃんと傍にいます。だから落ち着いて下さい」
眉根を寄せながら吊戯の顔を見上げると、静かな声音で言い聞かせるように言葉を紡ぎ出すも。
吊戯が平静を取り戻すことはなく―――――。
「・・・おい? どうした吊戯、お前なんか様子が・・・」
そこで吊戯の行動がいつもの悪ふざけではないと気付いた盾一郎がこちらにやって来て。吊戯の肩に手を置きながら宥めるように声を掛けると、真昼の腕を掴むのは止めたものの。瑠璃だけはまだ吊戯の腕の中に捕まったままで。その様に対して弓景が右手を首に据えながら盛大に顔を顰めつつ、チィッと舌打ちを漏らすと。
「おい、警報止めろ!」
事情が分からず呆然と目を瞠りながら吊戯のほうを見ていたイズナにそう言い放って。
「えっ? もう止まると思うけど」
驚いた様子で目を瞬かせたイズナに対し、「今すぐ!」と弓景はさらに怒鳴るように言い返した処で、大股で吊戯の傍に近づいて行くと。
「どけ、盾一郎!」
盾一郎と交代する形で吊戯の前に向かい、「吊戯! 瑪瑙のことも離せ!!」と左肩を強い力で掴んで。
「・・・・・・っ」
吊戯の手が僅かに緩んだ隙に、瑠璃を吊戯の腕の中から解放すると。
「瑪瑙。それから〝弟〟も。お前らは〝怠惰〟の傍にいろ」
瑠璃だけでなく、吊戯に掴まれた左手首を右手で抑えながら困惑した面持ちで立ち尽くしていた真昼にもそう言った後に。
「吊戯、俺を見ろ。この警報はミスだ。何も起きてねぇ!」
弓景は吊戯の胸倉を掴み上げながら、強い口調でそう言い放ち「吊戯!!」と名前を呼んだのだが。
「行かないと。警報が」
「俺の声が聞こえねぇのか!」
「あ、建物内だ。おれ・・・オレが」
焦点が合っていない吊戯の瞳が弓景を認識することはなく。
「何かあったのは強欲の真祖 のほうだ。俺達は関係ねぇよ」
蒼白な面持ちで怯えるように顔を俯けてしまった吊戯の姿を目にした弓景は、ぐっと苛立ちを堪えるようにしながら、こんこんと言い聞かせるようにそう言うと。
「〝強欲〟の・・・吸血鬼。あっちか、わかった。すぐ行くよ」
「吊戯。行かなくていい。今、殺すべき吸血鬼はいねぇ」
吸血鬼というワードに反応を示した吊戯に対し、弓景はさらに噛んで含めるように説得を試みた。
けれど―――――
「大丈夫。殺せるよ。行かないと」
吊戯が完全に正気に戻ることはなく。
「―――――・・・・・・吊戯さんっ、行く必要はないです!!」
弓景の言葉に従って意識を失った状態の黒猫の傍に行き、負傷しているその身体を腕の中に抱き上げた瑠璃が、吊戯の口から紡ぎ出されたその言葉を聞いて、愕然とした面持ちで叫び声を上げると。
「ダメなんだよ・・・・・・・オレが行かなきゃ誰か死ぬんだ・・・・・・」
耳朶に届いた瑠璃の声にピクッと反応して身体を震わせた吊戯は、混乱した意識の中でほんの少し前まで傍に在ったその姿を探すように虚ろな瞳を彷徨わせながら、悲哀に満ちた声音でそう呟いて。
「オオオおれ・・・が・・・あ」
その後、精神錯乱が酷くなってしまったのか、ガタガタと身体を激しく震わせ始めてしまい。
「吊戯!!・・・落ち着け、俺を見て、俺の話を聞け」
そこで弓景が吊戯の胸倉を掴むのを止めて、両手で肩を掴む体制に変えると、語気を強めながら吊戯に向かって呼び掛けた。
刹那―――――吊戯が両手を弓景の顔に向かって伸ばしてきたのだが。
「あ・・・あ。か、顔が、顔がない・・・」
「・・・!」
瞳孔が開いた状態で、そんな言葉を口にした吊戯の顔を、弓景が強張った面持ちで見返す。
すると吊戯は弓景の顔ではなく、自身の顔を両手で掴みながら「顔がない人達がおれを」と悲鳴をあげて。
「吊戯。しっかりしろ、俺を見ろ。吊戯」
そんな吊戯に対し、弓景が必死に呼びかける。
と―――――
「あ、金・・・色・・・月が・・・」
弓景の顔を認識出来てはいないものの―――――高い位置で三日月の如く、弧を描く様に結われた弓景のポニーテールを目にして。
「ゆみちゃ・・・」
今度は救いを求めるように、両手を弓景に向かって伸ばしてきた吊戯が、混濁した意識の中で彼の名を口にした。
その時、我慢の限界だと言わんばかりの様子で、盾一郎が弓景の右肩を掴んできて。
「・・・ッ、こんなに悪くなってるなんて聞いてないぞ」
噛みつかんばかりの勢いで盾一郎は弓景にそう言ったのだが。
「そりゃそうだ。吊戯が盾には言うなって言うからな」
弓景は動じることなく、ただその『事実』だけを口にすると。
「・・・・・・また俺にだけ内緒にして」
盾一郎は憮然とした面持ちで吐き捨てるようにそう言い返してきて。
「ガキみてーなこと言ってんじゃねーよボケッ。それより早く耶節のジジイを呼ん・・・」
そんな盾一郎を弓景は一喝をした上で、自分達だけでは手に負えない吊戯のことを、一刻も早く診てもらうべきだと判断し、その人物を呼んでくるようにと言おうとしたのだが。
その直後、がくんと吊戯が膝から崩れ落ちていって―――――
「あ、あぁ・・・っあああああ」
悲鳴を上げた吊戯の脚からは、じわ・・・と血が滲みだしてきていて。
「・・・・・・吊戯さんっ!?」
「ケガ・・・!?」
吊戯の身に一体何が起こっているのだろうか。
ただ成す術もなく、見ていることしか出来なかった瑠璃と真昼が、色を失った面持ちで声を上げると。
「ん゛ぐ・・・っん゛う゛」
「盾! 救護室から耶節のジジイを呼んで来い! 早く!!」
右脚を抑えながら床に倒れ込んで苦悶の表情を浮かべる吊戯が舌を噛まないよう、弓景は上着の襟を口に銜えさせつつ、盾一郎に向かってそう叫んだのだ。
【本館/21・6/29/別館/21・6/30掲載】
床にずっと座ったままで静観するようにしていたクロは、この弓景の言葉を合図として、自身に向けられた闇夜トリオ二人からの視線に気づき、ぎくりと顔を強張らせてしまう。
「おや? おやおや~~~? 今日はとってもいい〝的〟がある予感♥」
「働くっつー話だもんなぁ? さ―――――働いてもらおうかァ?」
吊戯は舌を出しながら、弓景は口端を吊り上げながら、揃ってにたぁと笑顔でクロを見遣っていて。
「動く的で実戦形式だ―――♥ 今日の的は一発当てても消えないぞ♥」
両手に二対の長銃を構えた吊戯が楽し気ともいえる口調でそう言ったのを合図として、意地の悪い笑みを浮かべた弓景もまた右手で一丁の長銃を肩に構えたその瞬間―――――本能的に我が身に迫った危険を回避すべく。だっ、とクロはその場から駆け出したのだが。
―――――ドン
その刹那、弓景から狙撃されることとなり。
「に゛ゃ」
クロは咄嗟に両手を前に着いて、猫の姿の時と同じ要領で、飛び上がって回避したものの、着弾した場所の床は抉れており。威力は中々のモノのようだったのだが―――――。
「おい、これ左にズレっぞ」
どうやら、再調整が必要なようだった。
そして弓景に続いて吊戯が笑みを浮かべながら、
「次、オレ―――――♥」
―――――ドカ
銃弾を撃ち込むと、またもや激しい爆発が巻き起こるのと同時に、に゛ゃあああ―――――~というクロの悲鳴が轟いて。
「くっ、クロ・・・!!」
真昼が顔を引き攣らせながら絶句した中で。
「・・・・・・車守さん。これって『道具の動作チェック』なんですよね・・・・・・」
瑠璃もまた、唖然とした面持ちになりながらそう言うと。
「さすがに一人じゃキツイんじゃないか?」
一先ず様子見という姿勢を取っていた盾一郎は、はは・・・と苦笑いを浮かべながら応じてきて。
「・・・・・・ッ、瑠璃姉!!」
「・・・・・・真昼君!!」
そこで真昼とは同じタイミングで互いに名前を呼び合うと。
「待ってろっ、クロ!!」
「今、真昼君と私も加勢するからっ!!」
タッと二人揃ってクロの元に駆け出して行ったのだ。
「やば―――――い。主人の武器のデータも取れる!」
そうしてその展開に対して、外でモニターをしていたイズナが歓声を上げると。
「それだけじゃなく、〝ミストレス〟が所持している『鍵』のデータまでも取れるなんて。貴重だね―――――」
同じ化学班のメンバーである眼鏡を重ねて掛けていた男もまた興味深そうな口調でそう呟いたのだ。そしてその時、そこには三人目のメンバーである露木の姿もあったのだが。しかし露木は最後まで見届けることをせず、無言でその場から立ち去ってしまったのだ。
それから真昼と瑠璃も参戦してから程なくして、吊戯と弓景の側に盾一郎が加わり。
そこからは三対三で模擬戦闘のようなモノを繰り広げることとなった。
そして『武器』を所持している真昼がクロとともに前衛にて立ち回り、『鍵』を所持している瑠璃は後衛から仕掛けることにしたものの。模擬戦闘のようなモノが終わったその時点で、真昼は両膝と両手を地面に突いた状態で、ぜ―――――っ、は―――――っ、ぜ―――――っ、は―――――、と激しい息切れ状態に陥ってしまっていて。
一番の標的にされていたクロはといえば、人型から黒猫の姿になっただけでなく、完全に魂が抜けかけた状態で、真昼の背中の上に横たわっていた。そして瑠璃も、真昼程ではないにせよ、苦しくなってしまった呼吸を整えるために、右手を胸に添えながら深呼吸を繰り返していたのだが―――――。
片や、戦闘のプロである弓景達にとっては肩慣らし程度にしかならなかったようで。
モニターを終えてテスト結果を聞きに来たイズナに対し平然とした態度で、
「これは照準にブレがありすぎ」
あと重い、と最初に手にした武器の問題点を弓景が報告をしたのに続き、
「こっちはいいと思うけど」
盾一郎が使った武器の感想を述べていて。
―――――・・・全然ダメだ俺。動きについていけてないし。
―――――ただの足手まとい・・・・・・。
耳朶に聴こえてきた二人の声に反応して、真昼が歯を食いしばるようにしながら上半身を起こすと、背中にいた黒猫がごろんと下に向かって転がり落ちてしまう。
しかし、黒猫が落ちたことに気づくことなく、弓景たちのほうを見遣った真昼が何を考えているのか察した瑠璃もまた眉根を寄せると。
―――――防御シールドを展開しつつ、空間転移で隙をついて攻撃をしようとしたものの、吊戯さん達の動きを追うのに精一杯で、クロと真昼君と連携を取る事すらできなかった・・・・・・。
―――――この3人相手に力尽くで・・・・・・っていうのは、今の私達では絶対に無理だと思うわ。
落下によって頭を地面にぶつけた衝撃で目覚めて、にゃ―――――と悲鳴をあげた黒猫をそっと瑠璃は腕の中に抱き上げると、よしよしと頭を撫でながら、溜息を吐いてしまう。
と―――――
「あ・・・あの、俺まず何から始めたら強くなれるでしょうか・・・」
真昼が彼らに教えを乞うべく、そう言葉を切り出して。
「技に名前をつけるといいよ!! キマるよ!!」
それに応じてきたのは吊戯だったのだが。
は―――――!! と左手を突きだす仕草をしながら、上着を翻した吊戯に「そういうのじゃなくて」と真昼は突っ込みを入れた後に。カッコだけじゃないですかっ、と眉を顰めると。
「いやいや~~~名前って大事だよ―――――?」
はっは、と吊戯は笑いながら真昼に応じた後に「ね? 瑠璃ちゃん」と瑠璃のほうにも視線を向けてきて。
「・・・・・・確かに何事も〝まずは形から入ってみる〟っていうのも方法の一つだっていう話は聞いたことがありますね」
それに対し瑠璃が微苦笑を浮かべつつ応じると。
「やったね。瑠璃ちゃんに褒められちゃったよ」
得意気な面持ちになった吊戯のほうに、イズナとの話を終えた処で目を向けてきた盾一郎は、眉を下げながら苦笑を浮かべたのみだったものの。
「いや。瑪瑙は別にテメェのこと褒めたわけじゃねーだろ」
弓景が眉を顰めながら吊戯を見遣ると。瑠璃の腕の中から下りて人型に戻ったクロもまた「自分にいい様に解釈するとか、向き合えねー」と漏らしたものの。
「さて、じゃあ、この二つを
吊戯は別段気にした様子もなく、イズナの元に近づいて行って。
「うん、お願いしまーす」
イズナが二つの武器を吊戯に対して預けようとした処で。
「おい、吊戯・・・それ俺も行く」
弓景が会話に口を挟むようにそう言ったものの。
「え―――――弓ちゃんはいいよ。気分いい仕事じゃないよ?」
しかし、それもまた吊戯に軽く受け流されてしまい。
「お前その仕事やめろって言っただろ」
今度は苦言を弓景は呈したのだが。
「だってさあ、誰かはやんないとだし。人が嫌がる仕事は給料高いよ?」
それでも吊戯は譲歩するつもりはないようで。
〝―――――疑似太陽光の発射―――――〟
〝―――――今日の的は一発当てても消えない―――――〟
そんな二人のやり取りを呆然とした面持ちで見ていた真昼は、ふと意識の内に過った〝二つの言葉〟を思い出して顔を強張らせてしまう。
「あ・・・の、このテストって。普段はどうやって・・・・・・」
そうして恐々と絞り出すような声音で吊戯にそう問いかけると。
「そりゃあ、捕まえた下位吸血鬼を使うけど?」
真昼のほうに振り返ってきた吊戯は平然とした面持ちでそう告げてきて。
「・・・・・・っ!!」
その瞬間、真昼は目を見開くと、激昂しようとした。
「―――――吊戯さん、その仕事に行くのはやめて下さい!!」
しかし、瑠璃のほうが先に吊戯に向かって非難の声を上げたのだ。
「・・・・・・瑠璃ちゃん?」
耳朶に届いた瑠璃の叫び声にイズナが呆然と目を瞬かせる。
と―――――
「あのね、瑠璃ちゃん。それから真昼くんもね」
目を細めながら此方に振り返ってきた吊戯がゆっくりと近付いてきて。
「その服を着てる〝キミ達〟に怒る権利ないよ?」
スッと徐に伸ばした左手で真昼の制服の襟首を掴むとそう告げてきたのだ。
さらに吊戯に続いて、イズナの近くで調書を作成していたもう一人の化学班メンバーである眼鏡を重ねて掛けていた男が部屋から立ち去る前に「新しい技術ですし・・・役に立ちますよ。色々試してみないと―――――もったいないでしょ―――――・・・?」そんな台詞を付け足すように口にしたものの。
吊戯から受けた〝指摘〟によって、真昼と瑠璃はグッと押し黙るしかなく、その様を目にしたイズナが気まずそうに視線を俯けたその直後のことだった。
ビ―――――ッ、ビ―――――ッとけたたましい音が鳴り響いて。
「わっ?」
「何が起こったの?」
真昼と瑠璃が驚きの声を漏らしながら顔を上げると、地面にしゃがみこんでいたクロは「うるせ」と顔を顰めながら両手で耳を塞ぎ。
「警報・・・!?」
その一方で突如として響き渡った甲高い音に、顔色を変えて反応したのは吊戯だった。
御国と壮絶なケンカを繰り広げた時でさえも、どこ吹く風といった態度だったというのに。一体全体如何したというのだろうか。
―――――吊戯さん、何だか様子が・・・・・・。
視線を周囲に巡らせた中で、吊戯の雰囲気がなんとなく変だと感じた瑠璃が眉を顰めると。
『あ―――――すみません。この警報は』
ザザッというノイズ音とともに、館内放送が聞こえてきて。
その放送に瑠璃は耳を澄ませようとしたものの、すぐ傍で聞こえたバチッという放電音に、バッとそちらに目を向けると。吊戯がイズナから受け取った武器である銃に魔力を勢いよく流し込んでいる姿が視界に飛び込んできて。
「―――――っ!?」
警報を警戒しての備えなのだろうか。しかし、仄暗い影を宿した金色の瞳は明らかに冷静さを欠いているように見える。
「吊戯さん・・・・・・?」
小さく瑠璃は息を呑むと、緊張した声音で吊戯に向かって呼び掛ける。
と―――――
「・・・・・・」
吊戯は無言のまま左手を瑠璃に向かって伸ばしてきて。
「えっ!?」
「―――――瑠璃ッ!!」
グイッと吊戯に腕を掴まれて、抱き寄せられた瑠璃が驚きの声を上げると、それに気づいたクロがすぐさま瑠璃を吊戯から奪還すべく動こうとしたのだが。
その刹那―――――
「―――――・・・・・なっ!?」
―――――ドン
吊戯が右手に構えた銃をクロ目掛けて勢いよく打ち放ったのだ。
そして硝煙が立ち込めた中には、吊戯からの攻撃を避けることが出来ず、きゅう・・・・・・と負傷した状態で意識を失ってしまった黒猫の姿が在り。
「クロ・・・・・・!?」
「クロ!! 吊戯さんっ、なんで・・・!」
瑠璃が愕然となった中で、真昼も戸惑いの面持ちになりながら叫び声を上げると。
「OH! 警報はミスだそうでーす。〝強欲〟の
外に出て確認をしてきたイズナが此方に戻って来て、この館は関係ありませーんと知らせてきたのだが。その直後、右手に握りしめていた銃を手放した吊戯が瑠璃のことを解放しないまま、今度は真昼の左腕をガッと掴んできて。
「・・・だいじょうぶ。誰もオレから離れないで」
ビ―――――ッ、ビ―――――ッと警報が鳴りやまない中、押し殺したような声音で吊戯はそう告げてきたのだが。ぎりっ、と強い力で真昼の腕を掴んだ吊戯の手は震えていて。
「吊戯・・・さん・・・?」
真昼が呆然となりながら吊戯の名前を呼ぶと、吊戯の腕の中に捕らわれたままの瑠璃も、震えだけでなく早鐘のように脈打つ吊戯の鼓動を感じ。
「・・・・・・吊戯さん、私達はちゃんと傍にいます。だから落ち着いて下さい」
眉根を寄せながら吊戯の顔を見上げると、静かな声音で言い聞かせるように言葉を紡ぎ出すも。
吊戯が平静を取り戻すことはなく―――――。
「・・・おい? どうした吊戯、お前なんか様子が・・・」
そこで吊戯の行動がいつもの悪ふざけではないと気付いた盾一郎がこちらにやって来て。吊戯の肩に手を置きながら宥めるように声を掛けると、真昼の腕を掴むのは止めたものの。瑠璃だけはまだ吊戯の腕の中に捕まったままで。その様に対して弓景が右手を首に据えながら盛大に顔を顰めつつ、チィッと舌打ちを漏らすと。
「おい、警報止めろ!」
事情が分からず呆然と目を瞠りながら吊戯のほうを見ていたイズナにそう言い放って。
「えっ? もう止まると思うけど」
驚いた様子で目を瞬かせたイズナに対し、「今すぐ!」と弓景はさらに怒鳴るように言い返した処で、大股で吊戯の傍に近づいて行くと。
「どけ、盾一郎!」
盾一郎と交代する形で吊戯の前に向かい、「吊戯! 瑪瑙のことも離せ!!」と左肩を強い力で掴んで。
「・・・・・・っ」
吊戯の手が僅かに緩んだ隙に、瑠璃を吊戯の腕の中から解放すると。
「瑪瑙。それから〝弟〟も。お前らは〝怠惰〟の傍にいろ」
瑠璃だけでなく、吊戯に掴まれた左手首を右手で抑えながら困惑した面持ちで立ち尽くしていた真昼にもそう言った後に。
「吊戯、俺を見ろ。この警報はミスだ。何も起きてねぇ!」
弓景は吊戯の胸倉を掴み上げながら、強い口調でそう言い放ち「吊戯!!」と名前を呼んだのだが。
「行かないと。警報が」
「俺の声が聞こえねぇのか!」
「あ、建物内だ。おれ・・・オレが」
焦点が合っていない吊戯の瞳が弓景を認識することはなく。
「何かあったのは強欲の
蒼白な面持ちで怯えるように顔を俯けてしまった吊戯の姿を目にした弓景は、ぐっと苛立ちを堪えるようにしながら、こんこんと言い聞かせるようにそう言うと。
「〝強欲〟の・・・吸血鬼。あっちか、わかった。すぐ行くよ」
「吊戯。行かなくていい。今、殺すべき吸血鬼はいねぇ」
吸血鬼というワードに反応を示した吊戯に対し、弓景はさらに噛んで含めるように説得を試みた。
けれど―――――
「大丈夫。殺せるよ。行かないと」
吊戯が完全に正気に戻ることはなく。
「―――――・・・・・・吊戯さんっ、行く必要はないです!!」
弓景の言葉に従って意識を失った状態の黒猫の傍に行き、負傷しているその身体を腕の中に抱き上げた瑠璃が、吊戯の口から紡ぎ出されたその言葉を聞いて、愕然とした面持ちで叫び声を上げると。
「ダメなんだよ・・・・・・・オレが行かなきゃ誰か死ぬんだ・・・・・・」
耳朶に届いた瑠璃の声にピクッと反応して身体を震わせた吊戯は、混乱した意識の中でほんの少し前まで傍に在ったその姿を探すように虚ろな瞳を彷徨わせながら、悲哀に満ちた声音でそう呟いて。
「オオオおれ・・・が・・・あ」
その後、精神錯乱が酷くなってしまったのか、ガタガタと身体を激しく震わせ始めてしまい。
「吊戯!!・・・落ち着け、俺を見て、俺の話を聞け」
そこで弓景が吊戯の胸倉を掴むのを止めて、両手で肩を掴む体制に変えると、語気を強めながら吊戯に向かって呼び掛けた。
刹那―――――吊戯が両手を弓景の顔に向かって伸ばしてきたのだが。
「あ・・・あ。か、顔が、顔がない・・・」
「・・・!」
瞳孔が開いた状態で、そんな言葉を口にした吊戯の顔を、弓景が強張った面持ちで見返す。
すると吊戯は弓景の顔ではなく、自身の顔を両手で掴みながら「顔がない人達がおれを」と悲鳴をあげて。
「吊戯。しっかりしろ、俺を見ろ。吊戯」
そんな吊戯に対し、弓景が必死に呼びかける。
と―――――
「あ、金・・・色・・・月が・・・」
弓景の顔を認識出来てはいないものの―――――高い位置で三日月の如く、弧を描く様に結われた弓景のポニーテールを目にして。
「ゆみちゃ・・・」
今度は救いを求めるように、両手を弓景に向かって伸ばしてきた吊戯が、混濁した意識の中で彼の名を口にした。
その時、我慢の限界だと言わんばかりの様子で、盾一郎が弓景の右肩を掴んできて。
「・・・ッ、こんなに悪くなってるなんて聞いてないぞ」
噛みつかんばかりの勢いで盾一郎は弓景にそう言ったのだが。
「そりゃそうだ。吊戯が盾には言うなって言うからな」
弓景は動じることなく、ただその『事実』だけを口にすると。
「・・・・・・また俺にだけ内緒にして」
盾一郎は憮然とした面持ちで吐き捨てるようにそう言い返してきて。
「ガキみてーなこと言ってんじゃねーよボケッ。それより早く耶節のジジイを呼ん・・・」
そんな盾一郎を弓景は一喝をした上で、自分達だけでは手に負えない吊戯のことを、一刻も早く診てもらうべきだと判断し、その人物を呼んでくるようにと言おうとしたのだが。
その直後、がくんと吊戯が膝から崩れ落ちていって―――――
「あ、あぁ・・・っあああああ」
悲鳴を上げた吊戯の脚からは、じわ・・・と血が滲みだしてきていて。
「・・・・・・吊戯さんっ!?」
「ケガ・・・!?」
吊戯の身に一体何が起こっているのだろうか。
ただ成す術もなく、見ていることしか出来なかった瑠璃と真昼が、色を失った面持ちで声を上げると。
「ん゛ぐ・・・っん゛う゛」
「盾! 救護室から耶節のジジイを呼んで来い! 早く!!」
右脚を抑えながら床に倒れ込んで苦悶の表情を浮かべる吊戯が舌を噛まないよう、弓景は上着の襟を口に銜えさせつつ、盾一郎に向かってそう叫んだのだ。
【本館/21・6/29/別館/21・6/30掲載】
