第二十一章『千錯万綜』
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―――――早く大人になりたかった
―――――誰かを守れるような
―――――誰かに手を差し伸べられるような大人に―――――・・・。
幼い頃、母親を亡くし独りになってしまった真昼に唯一手を差し伸べた大人が叔父である徹だった。
それから真昼は叔父である徹のような大人になることを目標として成長を遂げてきた。
けれど―――――
「吊戯!! 先月の報告書をさっさと出せ!!」
「ああっ、ごめんなさい!!」
「みつけたぞ、吊戯!!」
「ごめんなさい」
「お前また健康診断すっぽかしやがったな!?」
「申し訳ございません」
「吊戯さん、この書類再提出です」
「無理です、ごめんなさい」
次から次へと、入れ替わり立ち代わりやって来た相手に対し、吊戯はひたすら頭を下げて謝罪を繰り返すばかりで。
「報告書を全部ひらがなで書くな!! 小学生の作文か!!」
「ごめんなさい、オレのかわりに直して出しといてください!! 靴でもなんでも舐めますので!!」
仁王立ちでやって来た相手に対して、遂には勢いよく土下座をしながらそんな台詞まで口にする始末で。
―――――俺の憧れてた大人とは大分違うな・・・。
すっかり落胆した面持ちで真昼が吊戯を見ていると。
「・・・・・・真昼君。この制服、私達にはちょっと大きめだったわね」
制服の袖丈を折り曲げて、調整を終えた瑠璃が微苦笑を浮かべながら声を掛けてきて。
「あ、うん。そうだな、針と糸を借りられれば、俺のも瑠璃姉のもサイズ調整が出来るんだけど」
―――――戦闘班って言っても戦ってばかりじゃないんだな。
瑠璃に答えた真昼はチラリとまた吊戯のほうに目を向ける。
「減給だけは!! どうかそれだけは!! 芸でも何でもしますので!!」
吊戯は、必死の形相で、目に涙を浮かべながら相手の足に縋りつきつつ、わんわん!! と犬の鳴きまねをしていて。
そんな吊戯の様子に相手はドン引きした様子を見せながら「芸はいいから仕事しろ」と言い放つと。お金ください!! と言った吊戯を振り解いて、立ち去っていってしまい。
「瑠璃姉・・・・・・俺、こういう大人にはなりたくないな」
幻滅したと言わんばかりの面持ちで、そう呟いた真昼に対し瑠璃は「う、ううん・・・・・・・」と苦笑いを浮かべるしか出来なかった中。
「ね? 誠意を持って謝れば大抵のことは許してもらえるんだよ? 瑠璃ちゃんも見ててくれた? オレの見事な泣き落とし」
得意気な面持ちで此方に振り返ってきた吊戯が、みんな優し―――――よね―――――と言ったのに対し。
えっと・・・・・・と瑠璃が眉を下げながら、曖昧な笑みを返すと。
「誠意ゼロじゃないですか」
代わりに真昼が容赦のない突っ込みを入れたのだった。
そうしてその後も真昼達は吊戯と共に行動をしていたのだが。
「吊・・・」
書類を手に此方にやって来た職員が吊戯に声を掛けようとした刹那。
「ごめんなさい!!」
まだ何も言われてないのにも関わらず、すぐさま超高速土下座を吊戯は繰り出して。
オフィスに戻ってからは程なくして、コーヒーが入ったマグカップを手にしながら、まるで電池切れにでもなってしまったかのように、ぼけ―――――と呆けた面持ちで椅子に座りこんでいて。
「仕事しろっ!」という怒号が弓景から飛んでくると。
「オレ、折り紙得意だよ! すっごい良く飛ぶ紙ヒコーキ作ってあげよう! 瑠璃ちゃんも一緒にろうかで飛ばそ!!」
笑みを浮かべた吊戯はそう言いながら、手元にあった書類で紙飛行機の作成を始めてしまい。
「えっ!? 吊戯さん、それはまずいんじゃないですか」
唖然とした面持ちになりながら瑠璃が注意をするも、吊戯はさっさと紙飛行機を完成させると。
「はっは、平気だって! ほらっ、行こ! 瑠璃ちゃん!」
瑠璃の右手を掴んで廊下まで連れ出してしまい。
「なっ、ちょっと吊戯さん!!」
その後を慌てて真昼が追いかけて行くと。
「ほ―――――ら見て! すごい飛ぶよ―――――」
楽し気な様子で、吊戯が紙飛行機を飛ばしていて。
「重要書類のほうがよくとぶ気がする―――――~」と言った吊戯に。
「・・・・・・吊戯さん、あとで、ちゃんとそれ回収しましょうね」
瑠璃は眉を下げつつ、困ったような笑みを浮かべながらそう吊戯に応じていて。
―――――吊戯さんはといえば、会う人会う人に怒られて土下座するか。
―――――オフィスでぼーっとするか。
―――――書類で遊ぶか・・・。
一方、真昼は完全に呆れかえった面持ちで吊戯を見遣りながらここまで目にして判明した事柄を整理していた。
―――――わかったのはこの26歳がろくな社会人ではないということ・・・だけ。
そうしてまるで子供のような行動をしている吊戯の傍にいる瑠璃は、いまや第二の保護者のような立ち位置になってしまっている気がする。
そんな答えに辿り着いた真昼が思わず溜息を漏らすと―――――
「オレもひとつわかったぞ」
瑠璃の肩に乗っていた黒猫がそこから地面に着地した処で。
ころんと地面に伏せるようにしながら身体を丸める仕草をすると。
「多少何かやらかしても可愛く謝れば許されるということ・・・」
お前のポテチ勝手に食ってごめん寝・・・と言った後、さらに愛らしさを際立たせるようににゃ―――――~んと鳴き声を上げたのだ。
「変なこと学ぶな!!」
そんな黒猫に対し、真昼が怒濤の勢いで突っ込みを入れると。
「そうね、クロ。可愛いのは否定しないけど、そういうのはダメよ」
クスッと笑みを零した瑠璃がそう言いながらそっと黒猫を腕の中に抱き上げたのだった。
ざわざわと幾人ものC3職員たちが行き交う、東京支部内の食堂にて、真昼と瑠璃は少し遅めの昼食を取っていた。吊戯たちに連れて行かれた高級レストランでは、真昼も瑠璃も緊張の余り食が進まず、飲み物程度しか口に出来ていなかったからなのだが。
二人分の定食を注文する際、自分達とは違ってしっかりと昼食を取ったはずのクロがラーメンを食べたいと言い出した為。一緒に注文をしたものの、しかし瑠璃の隣の席でラーメンをずず・・・と啜るクロの顔は微妙なものになっていた。
その理由は味がイマイチだったというものではなく―――――
「おっ、いいね―――――いい顔だね! 世界一ラーメンが似合うね! イケメンだね! ラーメン大使になれそうだね!」
それというのも向かい側の席に座っている吊戯が何故かデジカメを構えて、クロの食事の様子を撮影しているからだった。
「あと、瑠璃ちゃんとのツーショットも欲しいから。二人とも、ちょっと微笑んでみようか! にこっ♥」
「えっと、吊戯さん・・・・・・何で写真を?」
食いにくい・・・・と眉を顰めたクロの様子を気にすることなく、自分にまでもデジカメを向けてきた吊戯に対し、瑠璃が戸惑いの面持ちになりながらそう尋ねかけると。
「怠惰の真祖と行動するなんてレアだからさ。たくさん資料撮ってこいって言われて~~~~~~」
楽な仕事だな―――――~♥ と吊戯は笑みを浮かべながら、さらにカメラのシャッターを切る。
しかし、果たして揃って食事をしているだけの姿がどこまで資料として役に立つのだろうか。
何とも言えない笑みを瑠璃が浮かべると、真昼も「資料・・・?」と眉を顰めながら呟いたのだが。
「あの・・・御園達は捕まったままなんですか」
その後にまだ此方に来てから会えていなかった主人 達の様子を改めて真昼が尋ねかけると。
「心配しなくても快適に過ごしてると思うよ?」
うん? と吊戯は首を傾げた後に、真昼のほうには目を向けることなく、手元のカメラに視線を落としたまま、撮影した画像をチェックしながら告げてくる。
「手荒なことはしてないはずだよ。こっちの計画が済むまで大人しくしててくれればいいんだから」
―――――・・・・・・でもC3の言うとおりにしてたら・・・・・・。
―――――吊戯さんが椿の下位達を殺してしま―――――・・・。
そうしてやはり他人事のような様子の吊戯に、瑠璃と真昼が眉根を寄せながら心中でその想いを巡らせた時。
「あ。吊戯、トマト食うか」
オレ苦手なんだわ、と近くを通りかかった男性職員が声を掛けてきて。
「もらう~」と吊戯がそれに笑顔で応じると。
「パン半分あげるよー」
ダイエット中だからと茶髪の女性職員も声を掛けてきて。
わ―――――い♥ と吊戯が嬉々とした様子で二人から受け取った処で。
「コラァ吊戯ィ」
怒りに満ちた弓景の声が聴こえてきて。
「あ、月満さん・・・・・・」
瑠璃が弓景の名前を呼ぶと。
「おぅ。瑪瑙も、それに〝弟〟も今度はちゃんと食えてるみてぇだな」
此方に近づいてきた弓景は、チラッと瑠璃と、それから真昼のほうにも目を向けながらそう言った後に。
「―――――吊戯、テメェ残飯漁るカラスみてーなマネやめろっつってんだろうが」
オラ食えっ、と左手に持っていた栄養ドリンクゼリーを、眉を顰めながら吊戯の前に突きだしてきて。
「あっ、弓ちゃん! オゴリ?」
叱られたのにも拘らず、へらりと笑みを浮かべたままそう尋ねかけてきた吊戯に「貸しだ、ボケ」と弓景が言うと。
「出た、月満の三男」
茶髪の女性職員と並んで一緒に席に着こうとしていた黒髪の女性職員が眉を顰めながら弓景を見ていて。
「気をつけて、胸ばっか見てくるよ!」
そんな彼女に同調するように、面白半分という口調で茶髪の女性職員がそう言うと。
その発言に「あ゛?」と弓景が憮然とした様子の声を漏らしながら二人を見遣った。
「弓ちゃんは黒髪ロングが好きだから狙われるよ~」
そこに吊戯が茶々を入れるように加わって。弓景から貰ったドリンクゼリーを口に銜えながら、逃げて―――――と女性職員二人にそう言うと。
二人は『イヤ~~~~~~』と言いながら此方から大分離れた席のほうに向かって行ってしまう。
その態度に弓景は青筋を立てながら、
「な―――――にがイヤ~~~~~だ。告るぞ、コラァ」
超ロマンチックに告っかんなと、言い放っていて。
―――――・・・・・・えっと、今の月満さんの状態って、羞恥心を誤魔化すために、怒りながら照れてるってことなのかしら。
呆気にとられた面持ちで、瑠璃が弓景を見ていた一方で。
―――――さっき月満さん、瑠璃姉のこと〝瑪瑙〟って名前で呼んでたよな・・・・・・。
―――――〝黒髪ロングが好き〟・・・・・・月満さんが瑠璃姉のこと〝気に入ってる〟って吊戯さんが言ってたのって、シンプルに考えてそういうことなのか・・・・・・?
真昼もまた眉根を寄せながら逡巡していると。
「ニャ~~~・・・・・・」
いつの間にかラーメンを完食し終えていたクロが、人型から黒猫の姿になって瑠璃の膝の上に来ていて。
「・・・・・・えと? クロ?」
早く食べ終えて自分を抱っこしろというように、テシテシと小さな前足で両腕を叩いてきた黒猫に瑠璃がきょとんと目を瞬かせると。
「あはは。クロちゃんってば、ほんと面白いねぇ」
水が入った紙コップを手に持ちながら、予め用意していた錠剤を飲み込んだ吊戯が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら此方を見ていて。
キミもそう思うでしょ? と吊戯から同意を求められた真昼は「はは、そうですね・・・・・・」と眉を下げながら苦笑いのようなモノを返しつつ。
―――――うん・・・・・・多分、吊戯さんはクロの反応を見て遊んでるんだろうな。
―――――とはいえ、こうしてると、そんなに悪い人たちには見えないんだけどな・・・。
心中でそう呟くと、黒猫からの可愛らしい我が儘に応じるべく、せっせと残りを食べるのを再開していた瑠璃に倣うように、真昼もまた箸を進めていったのだった。
「さーて、お昼も済んだし。仮眠室でお昼寝しよっかー」
「仕事は!?」
昼食を終えた処で、再び真昼達はオフィスに戻ってきたのだが―――――。
のほほんとした面持ちで吊戯が口にしたその台詞に、仕事らしいことをほとんどしていないのにそれで良いのかと思わず真昼が突っ込みを入れると。
「・・・・・・あの、吊戯さん。戦闘班って戦闘訓練とかはしないんですか?」
吊戯たちの役職に関連した〝仕事〟に繋がるモノとして思い付いたそれを瑠璃が口にしたのだが。吊戯は「え?」と目を瞬かせながら瑠璃を見返してきて。
「日々是戦闘! 瑠璃ちゃん、生きるということは毎日が戦いだよ!!」
「いえ・・・・・・そういうことじゃなくて」
はっ!! という掛け声とともに、右手と左脚を掲げながら、左手を前に向かって突きだすという、謎のポーズを取った吊戯に対し、どう言えばちゃんと此方の話に取り合ってくれるだろうかと瑠璃が眉根を寄せると。
「吊戯さん! 俺も・・・強くなりたいんです」
真昼が真剣な眼差しで吊戯を見据えながらそう言ったのだ。
すると吊戯はきょとんとした面持ちで真昼の顔を見返してきて。
「オレは強い?」
「え? 強いんじゃ・・・?」
薄っすらと笑みを浮かべた吊戯から投じられた問いに、真昼が戸惑いの面持ちになりながらそう答えると。
「キミは強い?」
まるで言葉遊びでもするかのように、また吊戯はその言葉を投げかけてきて。
「・・・真昼は強いぞ」
それに対して返答をしたのは、真昼本人ではなく、瑠璃の腕の中に抱かれていた相棒の黒猫だった。
そうして黒猫が口にしたその台詞に「え!?」と真昼が驚きの声を上げたその時。
「吊戯さん・・・・・・?」
吊戯の様子に微かな違和感を覚えた瑠璃が吊戯の名前を呼ぶと。
「何かな? 瑠璃ちゃん」
にっこりと吊戯は笑みを浮かべながら応じてきて。
そこで元通りの雰囲気となった吊戯に対し―――――
「あの・・・・・・次に椿と対峙したときには吊戯さんが戦うんですよね? その時は私達も一緒に戦い・・・・・・」
自分達の想いを瑠璃は伝えようとしたのだが―――――。
「え~~~? ダメダメあぶないよ~。そんなことより千羽鶴作る競争しよ! 安全に!」
たくさん紙もあることだし! とまたはぐらかすかのように吊戯が言いながら、手に取ったのは化学班から回されてきた書類の束で。
「少しくらい、まともに話をしてください!!」
眉を吊り上げながら真昼が勢いよく、吊戯に対して突っ込みを入れた後に。
「吊戯さん、それも大事な書類じゃないんですか? 私も手伝いますから折り紙に使うんじゃなくて、少し机の上を整理しましょう? 」
そう瑠璃がそう提案をすると。
「はっは。オレ、片付けとか得意じゃないからすぐ散らかしちゃうんだよね」
けらけらと吊戯は笑いつつも、瑠璃と一緒に形ばかりの〝書類整理〟を始めて。
―――――よく笑う人だな・・・。
そんな吊戯の様子に真昼は呆れたような面持ちになりながら心中で溜息を漏らすと。
―――――どうやってそんなに強くなったんですか?
―――――吸血鬼が嫌いなんですか?
―――――なんでそんなにお金が必要?
―――――どうしてずっと地下に住んでるんですか?
真昼の中には吊戯に対する様々な想いが浮かんできていた。
―――――・・・ひとりきりなんですか?
―――――いつから?
そうしてふと、真昼の中に過ったのは―――――
幼い頃、母親を失って叔父である徹に引き取られたばかりの頃、一人で部屋の隅で蹲っていた自分の姿で。
―――――聞きたいこと色々あるな。
―――――聞きたいっていうか・・・。
〝錯綜〟し始めた〝心中〟に引きずられるかのように、真昼が無意識の内に視線を俯けたその時。
「そうだ! 戦闘訓練とはちょっと違うかもだけど。今日は体を動かす仕事があるよ」
思い出したという様子で吊戯が紡ぎ出したその言葉に、「えっ」と真昼が反応し、顔を上げると。
「オレ達は戦闘班だもん。デスクワークばっかりじゃね~」と笑みを浮かべながらそう言った吊戯に。
「デスクワークはまともにやってなかったじゃないですか・・・」
真昼は呆れた面持ちで思わずそう漏らしてしまったのだが。
「はっは! 瑠璃ちゃんが手伝ってくれたおかげで、ちゃんと机の上の書類は片付いたから問題ないよ」
吊戯は親指と人差し指を掲げつつ、キメ顔で応じてきて。
「・・・・・・ほとんど、瑠璃が片付けたようなもんだけどな」と瑠璃が書類を片付けていた間、机の端に大人しく座っていた黒猫が半眼で呟いたのだが。
しかし、それは吊戯の笑いにかき消されてしまい、微苦笑を浮かべた瑠璃が黒猫をまた宥めるように腕の中に抱き上げると。
吊戯の後に付いて真昼とともに、目的の場所へと移動を開始したのだった。
そうしてやって来たその場所は広々とした真っ白い空間で、出入り口は一か所のみという部屋だった。
そこでまずは身体を動かす前に、軽いストレッチを行うことになったのだが―――――。
「クロ、頑張って!」
真昼と瑠璃が先に終えた後。人型に戻ったクロにも念の為にストレッチをやらせることにしたものの。
開脚ストレッチをしようとしたクロの口からは「に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ~~~」と苦悶の声が漏れ出していて。
「これストレッチになってるか!? クロ、お前猫のくせに体硬いな!」
瑠璃と並んで真昼もクロの背中を押そうとしたものの、二人がかりでも、ギギ・・・と軋む音がするのみで、びくともせず。
「猫への偏見だ―――――・・・」
に゛ゃ―――――とクロがまた呻き声を漏らすと。
「はっは! 体硬いとケガしやすいよー? ってケガとか吸血鬼には関係ないのかな?」
すぐ傍でストレッチ体操をやっていた吊戯が笑みを浮かべながらそう言った後に。
「その点オレは・・・こう!!」
「うわっ、吊戯さんめちゃくちゃ柔らかい!!」
べたぁっと両脚を大きく開脚した状態で身体を前に倒した吊戯のその姿に真昼が呆然となり。
「ほんと、凄いですね!」
瑠璃もまた、パチパチと思わず拍手を送ると。
「はい♥ 見物料♥ ねぇ、瑠璃ちゃん。次は拍手じゃなくて、たくさん払ってくれたら、もっとスゴイの見せたげるよ♥」
吊戯は口元から舌を覗かせながら、右手の親指と人差し指でお金を要望するという、下衆の極みともいえる合図を送って見せてきて。
「・・・・・・いえ、今のだけで十分です」
「この人はすぐこれだ・・・」
瑠璃が苦笑いを浮かべると、真昼が最低の大人だと言わんばかりの目で、吊戯を見返したのだった。
一方、此方で合流した盾一郎と弓景もまた少し離れた処で、互いに背中合わせで実施するストレッチ運動を行っていたのだが。
弓景の背中に体重を預けながら、ぐぐ・・・と盾一郎が身体を逸らすと、
「重ッ・・・盾テメェまた太ったんじゃねぇか!?」
両脚で踏ん張って、何とかバランスを取った弓景の口から、運動しろ! 痩せろ!という文句が飛び出したのだが。
「弓がひ弱なんだろ」
太ってねぇよと盾一郎が言い返した処に、吊戯が近寄っていき。「止まらない盾ちゃんの成長期」と茶々を入れると。「横にな」と弓景もまた文句を言い。このデブとトドメの一撃のように口にすると。
「やかましいわ」という盾一郎の叫び声とともに、はっはと吊戯の笑い声もまた広い空間の中に響き渡ったのだ。
そうしてこの場に揃った全員が準備運動を終えたものの、どうやら他にも誰か来るようで。
「こっちは準備できたが・・・来ないな」
盾一郎が右手を上着のポケットに入れながら、左手首の腕時計に視線を落とすと。
「ティンクだろ? あいつ何やってんだ?」と弓景が暇を潰す様に、右腕と左腕を交差させて肩のストレッチをやりつつ、応じてきて。吊戯もまた、弓景の行動を真似るかのように、膝のストレッチをやっていて。
「あの・・・ここで何をするんですか?」
体を動かす仕事とは何なのか―――――瑠璃が改めて三人に対して尋ねかけると。
「今日は開発班が作った試作品のテスト」と吊戯から返答があり。
「試作品?」と真昼が眉を顰めると。
「吸血鬼を狩るための道具♥」
「「!?」」
右手の親指と人差し指を掲げながら、ニヤリと笑みを浮かべつつ、そう告げてきた吊戯の言葉に真昼と瑠璃はギョッとなってしまう。
「いやはや、お待たせしました~。調整に時間かかっちゃって」
その時、頭部に溶接面を付けた金髪の少女が、ガチャガチャガチャと音を響かせながら、腕の中に複数の漆黒の武器らしきモノを抱えた状態で入室してきて。
「―――――イズナちゃん!」
一度、C3に連れてこられた際に仲良くなった彼女だと気づいた瑠璃がその名を呼ぶと。
「OH瑠璃ちゃん! それに城田真昼くん! 二人とも、お久しぶり!」
此方に気づいたイズナもまた挨拶を返してきてくれて。
「開発班期待の新エース! C3の鋳掛屋 と言えば私のことだよ! 二人とも、改めてよろしくねー」
と―――――C3に置いて自身が所属している場所と立場をイズナが口にすると。
「自分 で言うな」と弓景がイズナに言ったのだが。イズナは特に気にした様子はなく。
「二人とも、壊れた時計とかメガネとかはないかな!? 何でも直しちゃうよ!」
右手に工具を持ちながら、 溶接面を顔の前に下ろすと、嬉々とした雰囲気を纏いながら、真昼と瑠璃に向かってそう尋ねかけてきて。
「えと、イズナちゃん。せっかくの申し出だけど・・・・・・」
けれど、現状に置いて修理を必要としているモノは特にないことから、丁重に瑠璃が断ろうとした処で。
「おいテメェがぶっ壊した俺の時計。早く弁償しろ」
弓景がまたイズナに絡むように、今度は苦情を述べたのだが。
「理系女子 に生まれたからには、やっぱりいつかは巨大ロボを作りたいよね! 私の夢です!」
壮大な望みを抱いている彼女には、その言葉もまた聞き流されてしまい。
「無視してんな、クソ女。抱きしめっぞ」
終いには、そんな口説き文句のような言葉を弓景は口にしたのだが。結局、それにもイズナは反応することなく。
―――――自分が興味のあることに夢中になってると、つい周りが見えなくなることもあるわよね・・・・・・。
瑠璃が苦笑いを浮かべると、弓景も恐らくは同じように思ったのだろう。
ムスッとした顔をしながらも、仕方がないといった様子で、口を閉じて。
「これが・・・魔法の道具?」
イズナが持ってきてくれた道具を、各々確認する作業に移ることになったのだが―――――。
真昼も戸惑いの面持ちになりながら、試しに長棒の形をした道具を一つ手に取ってみたものの、特に何も変わることはなく。
箒や杖ではなく―――――長銃や短銃。そして長棒に短棒など。『魔法の道具』というよりも、これは『武器』という言葉のほうがしっくりくるのではないだろうか。
瑠璃はストレッチだけでへばってしまったクロの様子を気にしつつ、イズナに聞いてみる。
「これ全部イズナちゃん達が作ったの?」
「そう! 私達、開発班が作ってるの」
そしてイズナが楽しげな様子で瑠璃に頷くと。
「ね―――――これはどう使うんだい?」
短棒を手にした吊戯がイズナに使用方法を聞こうとした瞬間―――――パキパキパキと音を立てながら道具の形状が変化し始めて。
「お?」と目を瞬かせた吊戯の手の中で、短銃に変わった武器に気づいたイズナが「あっ、それは・・・」と道具の説明をしようとしたものの。
その直後、短銃の先端からバシュと光線が照射されて。
「クロっ!?」
思わぬ出来事に、ハッと瑠璃がなった時には、間に合わず。
「に゛ゃ―――――?!」
「クロ―――――っ!?」
クロの悲鳴に次いで真昼もまた、愕然と声を上げたものの。
クロの身体に一切の外傷はなく―――――しかし、人型から黒猫の姿にどうやら強制的に変身させられてしまったようで。
「にゃ・・・」
ころ―――――んと仰向けの態勢になった黒猫が放心状態で床に転がっていたのだ。
呆然と目を瞠りながら瑠璃がイズナに尋ねる。
「イズナちゃん、吊戯さんが持っていたアレって・・・・・・」
「疑似太陽光を発射するレーザー銃!」
成功です! とキラキラと誇らしげな雰囲気を纏いながら、イズナは両手で黒猫を掲げる。
―――――そーか、吸血鬼相手だもんな・・・。
その様に真昼は苦笑いを浮かべてしまう。そして瑠璃はイズナから黒猫を受け取ると、
「びっくりしたけど、いきなりケガをするようなことにならなくて良かったわね」
ポンポンと労わるように背中を撫でると「に゛ゃ・・・」と黒猫が答えて。
その後に瑠璃の腕の中から地面に下りた処で人型に戻ると。
「人間はこえ―――――な・・・。向き合えね―――――」
クロは疲弊した面持ちのまま、床に座り込みながらそんなふうに漏らしたのだが。
あくまでもそれは比喩的なものだと真昼も瑠璃も分かっているので。その言葉に対しては何も言うことはしなかったものの。
―――――C3の人達はあの『道具』で魔法を使うって感じなのか・・・?
―――――『道具』と『呪文』・・・・・・。
しかし、二人揃って吊戯たちが魔法を使っていた時の光景を思い出し、その件に関して考え込むような面持ちになっていた。
「じゃあ私達の班が外でモニターするのでお願いしまーす」
その一方で道具のテスト内容の説明を一通り吊戯たちに終えたイズナが部屋の外に出た処で。
―――――その道具の力で人間は吸血鬼と戦ってるのか。
―――――鍵・・・みたいな物も使ってたわよね。
ふと、瑠璃が胸元にある自身の『鍵』に視線を向けると。
「あの『鍵』も魔法の道具のひとつ・・・なんですか?」
月満さんが首に下げてた・・・という質問を真昼が弓景の元に行ってしていて。
これか? と弓景が首元にぶら下がっている黒い鍵の付いた紐を右手の人差し指にひっかけながら取り出した処で。それに気づいた瑠璃も真昼と一緒に話を聞くべく、傍に近づいて行くと。
「あー、この鍵は一番簡単な形。瑪瑙が持ってる『鍵』とは違って。何ができるってのが、それぞれひとつ決まってて。応用は利かねぇ。空間を遮断したり、防護壁を出したり」
弓景は己が所持している道具の使い処を説明してくれたのだが―――――。
「でも、その鍵って・・・・・・ただ適当に回すだけじゃないですよね?」
その上でさらに気になった事を瑠璃は口にする。
瑠璃が所持している『鍵』の〝力〟は瑠璃自身の〝意思〟によって発動する。
そうしてより〝強い力〟を使う場合は瑠璃自身の〝血〟も媒介として必要となる。
けれど瑠璃が自らそれをやることに関してクロも真昼も。二人とも揃って余り良い顔をしない為。あくまでも『緊急時』のみ―――――クロが瑠璃の手に牙を立てることによって流れる少量の血を使うという約束に今の処はなっていたりするのだが。
「そうだなぁ・・・イメージとしてはこう・・・見えない鍵穴に差し込んで」
するとその会話に吊戯も加わって、弓景から受け取った一本の鍵を右手に持ちながら、言葉通りの仕草をすると。
「自身に秘められた闇の力をこの鍵で解き放つ!」
カッと右目だけ見開きつつ、左目を細めながら、キメ顔でそう吊戯は言い放ったのだ。
「そういう中二病的なのいいですから普通に説明してください」
そんな吊戯に対し、またこの人はと言わんばかりのジト目を真昼が向けて。
瑠璃もまた微苦笑を浮かべつつ「月満さんお願いします」と弓景に声を掛けると。
「ったくしょうがねーな・・・・」と弓景は眉を顰めながら自身もまた鍵を手に持って。
「イメージとしては見えない鍵穴に差し込んで、自身に秘められた闇の力をこの鍵で解き放つ!」
説明をしてくれたものの、けれどその内容は吊戯と変わらないもので。
「えと・・・・・・」と思わず瑠璃が眉根を寄せると。
「もういいですから!! 車守さん!!」
真昼がキッと弓景を見遣った後に、ツーコンビの保護者的立場に在る盾一郎にも説明を求めて。
「まったくお前ら・・・まともに答えてやれって」
呆れた面持ちで吊戯たちを見遣った盾一郎の口から、今度こそちゃんとした説明が聞けるかと思われたのだが。
「イメージとしては見えない鍵穴に差し込んで。自身に秘められた闇の力をこの鍵で解き放つ!」
その期待は残念ながらハズレてしまうこととなり。
「あ―――――もうこの3バカは!!」
キメ顔で一語一句全く変わらぬ説明を口にした盾一郎に対し、真昼は頭を抱えこんでしまう。
―――――・・・・・・華麗なる三弾オチ。
そして瑠璃もまた乾いた笑みを浮かべつつ、心中でそう呟くと。
「それで、車守さん・・・・・・その道具って誰でも使えるんですか?」
使い方の説明を聞くのを諦めて、使用者の制限があるのかどうかに関して尋ねてみた結果。
「いや魔術師の家系の奴だけだな。C3にいるのはほとんどが魔術師だ」
今度はちゃんとまともな返答が返ってきて。瑠璃も真昼も胸を撫で下ろしながら、盾一郎の説明に耳を傾ける。
そうしてその説明に際して、手にした長銃を盾一郎は掲げて見せてきて。
「あとは道具との相性なんかもある。俺はこういう撃つ系は苦手で出力が弱くてろくに使えない。でも弓はこういうのが得意だし。・・・吊戯は万能だ。扱いにくい武器もあいつはほとんど使いこなせる」
各々の武器に対する特性を盾一郎は述べた処で。
「・・・あいつがC3のエース。塔間がそう仕込んだ」
ふと、盾一郎は眉を顰めると、道具が手に馴染むかどうかを確認するように、触っている吊戯の後姿を見遣りながら、苦々しい口調でそう言ったのだ。
―――――・・・また、『塔間』さん・・・―――――
その名前を聞いた刹那、真昼と瑠璃は揃って眉根を寄せてしまう。
いったいどういう人物なのだろうか。
「まあ、体質だの慣れだの色々あるからな」
けれど、そのことに真昼と瑠璃が触れるよりも前に、弓景がこの話はもう終わりだと示すかの様に、床に置かれていた武器に手を伸ばしていって。
「・・・・・・って、重てっ。こんなもん実戦で使えるわけねーぞ」
細身の長銃という見た目に反して意外と重量がある武器だったようで。顰め面で文句を言いながらも、それを右肩に担いだのだ。
それを目にして真昼も武器である槍をバチッと具現化させると。瑠璃も手の中に握りしめた『鍵』を閃光とともに、その形状をロッドに変えた処で。
―――――C3の人達が使う道具・・・・・・―――――
―――――やっぱり・・・似てる―――――
真昼と瑠璃はまた、互いに複雑な面持ちで視線を交わし合うと。
吸血鬼の主人 だけが持つ『武器』に目を向けていた。
―――――〝貯蔵。これはとっても使えるからね・・・〟
意識の内に、最後に椿と相対した時に、灰塵 に関して聞かされた台詞が蘇る。
吸血鬼、灰塵、魔術師・・・・・・これらはどういう関係なのか?
その『答』を今はまだ、真昼と瑠璃には見つけることが出来ない。
そんな中でC3の魔術師達が使う『武器』の〝試作テスト〟が、いよいよ始まることとなる。
【本館/21・6/05/別館/21・6/05掲載】
―――――誰かを守れるような
―――――誰かに手を差し伸べられるような大人に―――――・・・。
幼い頃、母親を亡くし独りになってしまった真昼に唯一手を差し伸べた大人が叔父である徹だった。
それから真昼は叔父である徹のような大人になることを目標として成長を遂げてきた。
けれど―――――
「吊戯!! 先月の報告書をさっさと出せ!!」
「ああっ、ごめんなさい!!」
「みつけたぞ、吊戯!!」
「ごめんなさい」
「お前また健康診断すっぽかしやがったな!?」
「申し訳ございません」
「吊戯さん、この書類再提出です」
「無理です、ごめんなさい」
次から次へと、入れ替わり立ち代わりやって来た相手に対し、吊戯はひたすら頭を下げて謝罪を繰り返すばかりで。
「報告書を全部ひらがなで書くな!! 小学生の作文か!!」
「ごめんなさい、オレのかわりに直して出しといてください!! 靴でもなんでも舐めますので!!」
仁王立ちでやって来た相手に対して、遂には勢いよく土下座をしながらそんな台詞まで口にする始末で。
―――――俺の憧れてた大人とは大分違うな・・・。
すっかり落胆した面持ちで真昼が吊戯を見ていると。
「・・・・・・真昼君。この制服、私達にはちょっと大きめだったわね」
制服の袖丈を折り曲げて、調整を終えた瑠璃が微苦笑を浮かべながら声を掛けてきて。
「あ、うん。そうだな、針と糸を借りられれば、俺のも瑠璃姉のもサイズ調整が出来るんだけど」
―――――戦闘班って言っても戦ってばかりじゃないんだな。
瑠璃に答えた真昼はチラリとまた吊戯のほうに目を向ける。
「減給だけは!! どうかそれだけは!! 芸でも何でもしますので!!」
吊戯は、必死の形相で、目に涙を浮かべながら相手の足に縋りつきつつ、わんわん!! と犬の鳴きまねをしていて。
そんな吊戯の様子に相手はドン引きした様子を見せながら「芸はいいから仕事しろ」と言い放つと。お金ください!! と言った吊戯を振り解いて、立ち去っていってしまい。
「瑠璃姉・・・・・・俺、こういう大人にはなりたくないな」
幻滅したと言わんばかりの面持ちで、そう呟いた真昼に対し瑠璃は「う、ううん・・・・・・・」と苦笑いを浮かべるしか出来なかった中。
「ね? 誠意を持って謝れば大抵のことは許してもらえるんだよ? 瑠璃ちゃんも見ててくれた? オレの見事な泣き落とし」
得意気な面持ちで此方に振り返ってきた吊戯が、みんな優し―――――よね―――――と言ったのに対し。
えっと・・・・・・と瑠璃が眉を下げながら、曖昧な笑みを返すと。
「誠意ゼロじゃないですか」
代わりに真昼が容赦のない突っ込みを入れたのだった。
そうしてその後も真昼達は吊戯と共に行動をしていたのだが。
「吊・・・」
書類を手に此方にやって来た職員が吊戯に声を掛けようとした刹那。
「ごめんなさい!!」
まだ何も言われてないのにも関わらず、すぐさま超高速土下座を吊戯は繰り出して。
オフィスに戻ってからは程なくして、コーヒーが入ったマグカップを手にしながら、まるで電池切れにでもなってしまったかのように、ぼけ―――――と呆けた面持ちで椅子に座りこんでいて。
「仕事しろっ!」という怒号が弓景から飛んでくると。
「オレ、折り紙得意だよ! すっごい良く飛ぶ紙ヒコーキ作ってあげよう! 瑠璃ちゃんも一緒にろうかで飛ばそ!!」
笑みを浮かべた吊戯はそう言いながら、手元にあった書類で紙飛行機の作成を始めてしまい。
「えっ!? 吊戯さん、それはまずいんじゃないですか」
唖然とした面持ちになりながら瑠璃が注意をするも、吊戯はさっさと紙飛行機を完成させると。
「はっは、平気だって! ほらっ、行こ! 瑠璃ちゃん!」
瑠璃の右手を掴んで廊下まで連れ出してしまい。
「なっ、ちょっと吊戯さん!!」
その後を慌てて真昼が追いかけて行くと。
「ほ―――――ら見て! すごい飛ぶよ―――――」
楽し気な様子で、吊戯が紙飛行機を飛ばしていて。
「重要書類のほうがよくとぶ気がする―――――~」と言った吊戯に。
「・・・・・・吊戯さん、あとで、ちゃんとそれ回収しましょうね」
瑠璃は眉を下げつつ、困ったような笑みを浮かべながらそう吊戯に応じていて。
―――――吊戯さんはといえば、会う人会う人に怒られて土下座するか。
―――――オフィスでぼーっとするか。
―――――書類で遊ぶか・・・。
一方、真昼は完全に呆れかえった面持ちで吊戯を見遣りながらここまで目にして判明した事柄を整理していた。
―――――わかったのはこの26歳がろくな社会人ではないということ・・・だけ。
そうしてまるで子供のような行動をしている吊戯の傍にいる瑠璃は、いまや第二の保護者のような立ち位置になってしまっている気がする。
そんな答えに辿り着いた真昼が思わず溜息を漏らすと―――――
「オレもひとつわかったぞ」
瑠璃の肩に乗っていた黒猫がそこから地面に着地した処で。
ころんと地面に伏せるようにしながら身体を丸める仕草をすると。
「多少何かやらかしても可愛く謝れば許されるということ・・・」
お前のポテチ勝手に食ってごめん寝・・・と言った後、さらに愛らしさを際立たせるようににゃ―――――~んと鳴き声を上げたのだ。
「変なこと学ぶな!!」
そんな黒猫に対し、真昼が怒濤の勢いで突っ込みを入れると。
「そうね、クロ。可愛いのは否定しないけど、そういうのはダメよ」
クスッと笑みを零した瑠璃がそう言いながらそっと黒猫を腕の中に抱き上げたのだった。
ざわざわと幾人ものC3職員たちが行き交う、東京支部内の食堂にて、真昼と瑠璃は少し遅めの昼食を取っていた。吊戯たちに連れて行かれた高級レストランでは、真昼も瑠璃も緊張の余り食が進まず、飲み物程度しか口に出来ていなかったからなのだが。
二人分の定食を注文する際、自分達とは違ってしっかりと昼食を取ったはずのクロがラーメンを食べたいと言い出した為。一緒に注文をしたものの、しかし瑠璃の隣の席でラーメンをずず・・・と啜るクロの顔は微妙なものになっていた。
その理由は味がイマイチだったというものではなく―――――
「おっ、いいね―――――いい顔だね! 世界一ラーメンが似合うね! イケメンだね! ラーメン大使になれそうだね!」
それというのも向かい側の席に座っている吊戯が何故かデジカメを構えて、クロの食事の様子を撮影しているからだった。
「あと、瑠璃ちゃんとのツーショットも欲しいから。二人とも、ちょっと微笑んでみようか! にこっ♥」
「えっと、吊戯さん・・・・・・何で写真を?」
食いにくい・・・・と眉を顰めたクロの様子を気にすることなく、自分にまでもデジカメを向けてきた吊戯に対し、瑠璃が戸惑いの面持ちになりながらそう尋ねかけると。
「怠惰の真祖と行動するなんてレアだからさ。たくさん資料撮ってこいって言われて~~~~~~」
楽な仕事だな―――――~♥ と吊戯は笑みを浮かべながら、さらにカメラのシャッターを切る。
しかし、果たして揃って食事をしているだけの姿がどこまで資料として役に立つのだろうか。
何とも言えない笑みを瑠璃が浮かべると、真昼も「資料・・・?」と眉を顰めながら呟いたのだが。
「あの・・・御園達は捕まったままなんですか」
その後にまだ此方に来てから会えていなかった
「心配しなくても快適に過ごしてると思うよ?」
うん? と吊戯は首を傾げた後に、真昼のほうには目を向けることなく、手元のカメラに視線を落としたまま、撮影した画像をチェックしながら告げてくる。
「手荒なことはしてないはずだよ。こっちの計画が済むまで大人しくしててくれればいいんだから」
―――――・・・・・・でもC3の言うとおりにしてたら・・・・・・。
―――――吊戯さんが椿の下位達を殺してしま―――――・・・。
そうしてやはり他人事のような様子の吊戯に、瑠璃と真昼が眉根を寄せながら心中でその想いを巡らせた時。
「あ。吊戯、トマト食うか」
オレ苦手なんだわ、と近くを通りかかった男性職員が声を掛けてきて。
「もらう~」と吊戯がそれに笑顔で応じると。
「パン半分あげるよー」
ダイエット中だからと茶髪の女性職員も声を掛けてきて。
わ―――――い♥ と吊戯が嬉々とした様子で二人から受け取った処で。
「コラァ吊戯ィ」
怒りに満ちた弓景の声が聴こえてきて。
「あ、月満さん・・・・・・」
瑠璃が弓景の名前を呼ぶと。
「おぅ。瑪瑙も、それに〝弟〟も今度はちゃんと食えてるみてぇだな」
此方に近づいてきた弓景は、チラッと瑠璃と、それから真昼のほうにも目を向けながらそう言った後に。
「―――――吊戯、テメェ残飯漁るカラスみてーなマネやめろっつってんだろうが」
オラ食えっ、と左手に持っていた栄養ドリンクゼリーを、眉を顰めながら吊戯の前に突きだしてきて。
「あっ、弓ちゃん! オゴリ?」
叱られたのにも拘らず、へらりと笑みを浮かべたままそう尋ねかけてきた吊戯に「貸しだ、ボケ」と弓景が言うと。
「出た、月満の三男」
茶髪の女性職員と並んで一緒に席に着こうとしていた黒髪の女性職員が眉を顰めながら弓景を見ていて。
「気をつけて、胸ばっか見てくるよ!」
そんな彼女に同調するように、面白半分という口調で茶髪の女性職員がそう言うと。
その発言に「あ゛?」と弓景が憮然とした様子の声を漏らしながら二人を見遣った。
「弓ちゃんは黒髪ロングが好きだから狙われるよ~」
そこに吊戯が茶々を入れるように加わって。弓景から貰ったドリンクゼリーを口に銜えながら、逃げて―――――と女性職員二人にそう言うと。
二人は『イヤ~~~~~~』と言いながら此方から大分離れた席のほうに向かって行ってしまう。
その態度に弓景は青筋を立てながら、
「な―――――にがイヤ~~~~~だ。告るぞ、コラァ」
超ロマンチックに告っかんなと、言い放っていて。
―――――・・・・・・えっと、今の月満さんの状態って、羞恥心を誤魔化すために、怒りながら照れてるってことなのかしら。
呆気にとられた面持ちで、瑠璃が弓景を見ていた一方で。
―――――さっき月満さん、瑠璃姉のこと〝瑪瑙〟って名前で呼んでたよな・・・・・・。
―――――〝黒髪ロングが好き〟・・・・・・月満さんが瑠璃姉のこと〝気に入ってる〟って吊戯さんが言ってたのって、シンプルに考えてそういうことなのか・・・・・・?
真昼もまた眉根を寄せながら逡巡していると。
「ニャ~~~・・・・・・」
いつの間にかラーメンを完食し終えていたクロが、人型から黒猫の姿になって瑠璃の膝の上に来ていて。
「・・・・・・えと? クロ?」
早く食べ終えて自分を抱っこしろというように、テシテシと小さな前足で両腕を叩いてきた黒猫に瑠璃がきょとんと目を瞬かせると。
「あはは。クロちゃんってば、ほんと面白いねぇ」
水が入った紙コップを手に持ちながら、予め用意していた錠剤を飲み込んだ吊戯が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら此方を見ていて。
キミもそう思うでしょ? と吊戯から同意を求められた真昼は「はは、そうですね・・・・・・」と眉を下げながら苦笑いのようなモノを返しつつ。
―――――うん・・・・・・多分、吊戯さんはクロの反応を見て遊んでるんだろうな。
―――――とはいえ、こうしてると、そんなに悪い人たちには見えないんだけどな・・・。
心中でそう呟くと、黒猫からの可愛らしい我が儘に応じるべく、せっせと残りを食べるのを再開していた瑠璃に倣うように、真昼もまた箸を進めていったのだった。
「さーて、お昼も済んだし。仮眠室でお昼寝しよっかー」
「仕事は!?」
昼食を終えた処で、再び真昼達はオフィスに戻ってきたのだが―――――。
のほほんとした面持ちで吊戯が口にしたその台詞に、仕事らしいことをほとんどしていないのにそれで良いのかと思わず真昼が突っ込みを入れると。
「・・・・・・あの、吊戯さん。戦闘班って戦闘訓練とかはしないんですか?」
吊戯たちの役職に関連した〝仕事〟に繋がるモノとして思い付いたそれを瑠璃が口にしたのだが。吊戯は「え?」と目を瞬かせながら瑠璃を見返してきて。
「日々是戦闘! 瑠璃ちゃん、生きるということは毎日が戦いだよ!!」
「いえ・・・・・・そういうことじゃなくて」
はっ!! という掛け声とともに、右手と左脚を掲げながら、左手を前に向かって突きだすという、謎のポーズを取った吊戯に対し、どう言えばちゃんと此方の話に取り合ってくれるだろうかと瑠璃が眉根を寄せると。
「吊戯さん! 俺も・・・強くなりたいんです」
真昼が真剣な眼差しで吊戯を見据えながらそう言ったのだ。
すると吊戯はきょとんとした面持ちで真昼の顔を見返してきて。
「オレは強い?」
「え? 強いんじゃ・・・?」
薄っすらと笑みを浮かべた吊戯から投じられた問いに、真昼が戸惑いの面持ちになりながらそう答えると。
「キミは強い?」
まるで言葉遊びでもするかのように、また吊戯はその言葉を投げかけてきて。
「・・・真昼は強いぞ」
それに対して返答をしたのは、真昼本人ではなく、瑠璃の腕の中に抱かれていた相棒の黒猫だった。
そうして黒猫が口にしたその台詞に「え!?」と真昼が驚きの声を上げたその時。
「吊戯さん・・・・・・?」
吊戯の様子に微かな違和感を覚えた瑠璃が吊戯の名前を呼ぶと。
「何かな? 瑠璃ちゃん」
にっこりと吊戯は笑みを浮かべながら応じてきて。
そこで元通りの雰囲気となった吊戯に対し―――――
「あの・・・・・・次に椿と対峙したときには吊戯さんが戦うんですよね? その時は私達も一緒に戦い・・・・・・」
自分達の想いを瑠璃は伝えようとしたのだが―――――。
「え~~~? ダメダメあぶないよ~。そんなことより千羽鶴作る競争しよ! 安全に!」
たくさん紙もあることだし! とまたはぐらかすかのように吊戯が言いながら、手に取ったのは化学班から回されてきた書類の束で。
「少しくらい、まともに話をしてください!!」
眉を吊り上げながら真昼が勢いよく、吊戯に対して突っ込みを入れた後に。
「吊戯さん、それも大事な書類じゃないんですか? 私も手伝いますから折り紙に使うんじゃなくて、少し机の上を整理しましょう? 」
そう瑠璃がそう提案をすると。
「はっは。オレ、片付けとか得意じゃないからすぐ散らかしちゃうんだよね」
けらけらと吊戯は笑いつつも、瑠璃と一緒に形ばかりの〝書類整理〟を始めて。
―――――よく笑う人だな・・・。
そんな吊戯の様子に真昼は呆れたような面持ちになりながら心中で溜息を漏らすと。
―――――どうやってそんなに強くなったんですか?
―――――吸血鬼が嫌いなんですか?
―――――なんでそんなにお金が必要?
―――――どうしてずっと地下に住んでるんですか?
真昼の中には吊戯に対する様々な想いが浮かんできていた。
―――――・・・ひとりきりなんですか?
―――――いつから?
そうしてふと、真昼の中に過ったのは―――――
幼い頃、母親を失って叔父である徹に引き取られたばかりの頃、一人で部屋の隅で蹲っていた自分の姿で。
―――――聞きたいこと色々あるな。
―――――聞きたいっていうか・・・。
〝錯綜〟し始めた〝心中〟に引きずられるかのように、真昼が無意識の内に視線を俯けたその時。
「そうだ! 戦闘訓練とはちょっと違うかもだけど。今日は体を動かす仕事があるよ」
思い出したという様子で吊戯が紡ぎ出したその言葉に、「えっ」と真昼が反応し、顔を上げると。
「オレ達は戦闘班だもん。デスクワークばっかりじゃね~」と笑みを浮かべながらそう言った吊戯に。
「デスクワークはまともにやってなかったじゃないですか・・・」
真昼は呆れた面持ちで思わずそう漏らしてしまったのだが。
「はっは! 瑠璃ちゃんが手伝ってくれたおかげで、ちゃんと机の上の書類は片付いたから問題ないよ」
吊戯は親指と人差し指を掲げつつ、キメ顔で応じてきて。
「・・・・・・ほとんど、瑠璃が片付けたようなもんだけどな」と瑠璃が書類を片付けていた間、机の端に大人しく座っていた黒猫が半眼で呟いたのだが。
しかし、それは吊戯の笑いにかき消されてしまい、微苦笑を浮かべた瑠璃が黒猫をまた宥めるように腕の中に抱き上げると。
吊戯の後に付いて真昼とともに、目的の場所へと移動を開始したのだった。
そうしてやって来たその場所は広々とした真っ白い空間で、出入り口は一か所のみという部屋だった。
そこでまずは身体を動かす前に、軽いストレッチを行うことになったのだが―――――。
「クロ、頑張って!」
真昼と瑠璃が先に終えた後。人型に戻ったクロにも念の為にストレッチをやらせることにしたものの。
開脚ストレッチをしようとしたクロの口からは「に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ~~~」と苦悶の声が漏れ出していて。
「これストレッチになってるか!? クロ、お前猫のくせに体硬いな!」
瑠璃と並んで真昼もクロの背中を押そうとしたものの、二人がかりでも、ギギ・・・と軋む音がするのみで、びくともせず。
「猫への偏見だ―――――・・・」
に゛ゃ―――――とクロがまた呻き声を漏らすと。
「はっは! 体硬いとケガしやすいよー? ってケガとか吸血鬼には関係ないのかな?」
すぐ傍でストレッチ体操をやっていた吊戯が笑みを浮かべながらそう言った後に。
「その点オレは・・・こう!!」
「うわっ、吊戯さんめちゃくちゃ柔らかい!!」
べたぁっと両脚を大きく開脚した状態で身体を前に倒した吊戯のその姿に真昼が呆然となり。
「ほんと、凄いですね!」
瑠璃もまた、パチパチと思わず拍手を送ると。
「はい♥ 見物料♥ ねぇ、瑠璃ちゃん。次は拍手じゃなくて、たくさん払ってくれたら、もっとスゴイの見せたげるよ♥」
吊戯は口元から舌を覗かせながら、右手の親指と人差し指でお金を要望するという、下衆の極みともいえる合図を送って見せてきて。
「・・・・・・いえ、今のだけで十分です」
「この人はすぐこれだ・・・」
瑠璃が苦笑いを浮かべると、真昼が最低の大人だと言わんばかりの目で、吊戯を見返したのだった。
一方、此方で合流した盾一郎と弓景もまた少し離れた処で、互いに背中合わせで実施するストレッチ運動を行っていたのだが。
弓景の背中に体重を預けながら、ぐぐ・・・と盾一郎が身体を逸らすと、
「重ッ・・・盾テメェまた太ったんじゃねぇか!?」
両脚で踏ん張って、何とかバランスを取った弓景の口から、運動しろ! 痩せろ!という文句が飛び出したのだが。
「弓がひ弱なんだろ」
太ってねぇよと盾一郎が言い返した処に、吊戯が近寄っていき。「止まらない盾ちゃんの成長期」と茶々を入れると。「横にな」と弓景もまた文句を言い。このデブとトドメの一撃のように口にすると。
「やかましいわ」という盾一郎の叫び声とともに、はっはと吊戯の笑い声もまた広い空間の中に響き渡ったのだ。
そうしてこの場に揃った全員が準備運動を終えたものの、どうやら他にも誰か来るようで。
「こっちは準備できたが・・・来ないな」
盾一郎が右手を上着のポケットに入れながら、左手首の腕時計に視線を落とすと。
「ティンクだろ? あいつ何やってんだ?」と弓景が暇を潰す様に、右腕と左腕を交差させて肩のストレッチをやりつつ、応じてきて。吊戯もまた、弓景の行動を真似るかのように、膝のストレッチをやっていて。
「あの・・・ここで何をするんですか?」
体を動かす仕事とは何なのか―――――瑠璃が改めて三人に対して尋ねかけると。
「今日は開発班が作った試作品のテスト」と吊戯から返答があり。
「試作品?」と真昼が眉を顰めると。
「吸血鬼を狩るための道具♥」
「「!?」」
右手の親指と人差し指を掲げながら、ニヤリと笑みを浮かべつつ、そう告げてきた吊戯の言葉に真昼と瑠璃はギョッとなってしまう。
「いやはや、お待たせしました~。調整に時間かかっちゃって」
その時、頭部に溶接面を付けた金髪の少女が、ガチャガチャガチャと音を響かせながら、腕の中に複数の漆黒の武器らしきモノを抱えた状態で入室してきて。
「―――――イズナちゃん!」
一度、C3に連れてこられた際に仲良くなった彼女だと気づいた瑠璃がその名を呼ぶと。
「OH瑠璃ちゃん! それに城田真昼くん! 二人とも、お久しぶり!」
此方に気づいたイズナもまた挨拶を返してきてくれて。
「開発班期待の新エース! C3の
と―――――C3に置いて自身が所属している場所と立場をイズナが口にすると。
「
「二人とも、壊れた時計とかメガネとかはないかな!? 何でも直しちゃうよ!」
右手に工具を持ちながら、 溶接面を顔の前に下ろすと、嬉々とした雰囲気を纏いながら、真昼と瑠璃に向かってそう尋ねかけてきて。
「えと、イズナちゃん。せっかくの申し出だけど・・・・・・」
けれど、現状に置いて修理を必要としているモノは特にないことから、丁重に瑠璃が断ろうとした処で。
「おいテメェがぶっ壊した俺の時計。早く弁償しろ」
弓景がまたイズナに絡むように、今度は苦情を述べたのだが。
「
壮大な望みを抱いている彼女には、その言葉もまた聞き流されてしまい。
「無視してんな、クソ女。抱きしめっぞ」
終いには、そんな口説き文句のような言葉を弓景は口にしたのだが。結局、それにもイズナは反応することなく。
―――――自分が興味のあることに夢中になってると、つい周りが見えなくなることもあるわよね・・・・・・。
瑠璃が苦笑いを浮かべると、弓景も恐らくは同じように思ったのだろう。
ムスッとした顔をしながらも、仕方がないといった様子で、口を閉じて。
「これが・・・魔法の道具?」
イズナが持ってきてくれた道具を、各々確認する作業に移ることになったのだが―――――。
真昼も戸惑いの面持ちになりながら、試しに長棒の形をした道具を一つ手に取ってみたものの、特に何も変わることはなく。
箒や杖ではなく―――――長銃や短銃。そして長棒に短棒など。『魔法の道具』というよりも、これは『武器』という言葉のほうがしっくりくるのではないだろうか。
瑠璃はストレッチだけでへばってしまったクロの様子を気にしつつ、イズナに聞いてみる。
「これ全部イズナちゃん達が作ったの?」
「そう! 私達、開発班が作ってるの」
そしてイズナが楽しげな様子で瑠璃に頷くと。
「ね―――――これはどう使うんだい?」
短棒を手にした吊戯がイズナに使用方法を聞こうとした瞬間―――――パキパキパキと音を立てながら道具の形状が変化し始めて。
「お?」と目を瞬かせた吊戯の手の中で、短銃に変わった武器に気づいたイズナが「あっ、それは・・・」と道具の説明をしようとしたものの。
その直後、短銃の先端からバシュと光線が照射されて。
「クロっ!?」
思わぬ出来事に、ハッと瑠璃がなった時には、間に合わず。
「に゛ゃ―――――?!」
「クロ―――――っ!?」
クロの悲鳴に次いで真昼もまた、愕然と声を上げたものの。
クロの身体に一切の外傷はなく―――――しかし、人型から黒猫の姿にどうやら強制的に変身させられてしまったようで。
「にゃ・・・」
ころ―――――んと仰向けの態勢になった黒猫が放心状態で床に転がっていたのだ。
呆然と目を瞠りながら瑠璃がイズナに尋ねる。
「イズナちゃん、吊戯さんが持っていたアレって・・・・・・」
「疑似太陽光を発射するレーザー銃!」
成功です! とキラキラと誇らしげな雰囲気を纏いながら、イズナは両手で黒猫を掲げる。
―――――そーか、吸血鬼相手だもんな・・・。
その様に真昼は苦笑いを浮かべてしまう。そして瑠璃はイズナから黒猫を受け取ると、
「びっくりしたけど、いきなりケガをするようなことにならなくて良かったわね」
ポンポンと労わるように背中を撫でると「に゛ゃ・・・」と黒猫が答えて。
その後に瑠璃の腕の中から地面に下りた処で人型に戻ると。
「人間はこえ―――――な・・・。向き合えね―――――」
クロは疲弊した面持ちのまま、床に座り込みながらそんなふうに漏らしたのだが。
あくまでもそれは比喩的なものだと真昼も瑠璃も分かっているので。その言葉に対しては何も言うことはしなかったものの。
―――――C3の人達はあの『道具』で魔法を使うって感じなのか・・・?
―――――『道具』と『呪文』・・・・・・。
しかし、二人揃って吊戯たちが魔法を使っていた時の光景を思い出し、その件に関して考え込むような面持ちになっていた。
「じゃあ私達の班が外でモニターするのでお願いしまーす」
その一方で道具のテスト内容の説明を一通り吊戯たちに終えたイズナが部屋の外に出た処で。
―――――その道具の力で人間は吸血鬼と戦ってるのか。
―――――鍵・・・みたいな物も使ってたわよね。
ふと、瑠璃が胸元にある自身の『鍵』に視線を向けると。
「あの『鍵』も魔法の道具のひとつ・・・なんですか?」
月満さんが首に下げてた・・・という質問を真昼が弓景の元に行ってしていて。
これか? と弓景が首元にぶら下がっている黒い鍵の付いた紐を右手の人差し指にひっかけながら取り出した処で。それに気づいた瑠璃も真昼と一緒に話を聞くべく、傍に近づいて行くと。
「あー、この鍵は一番簡単な形。瑪瑙が持ってる『鍵』とは違って。何ができるってのが、それぞれひとつ決まってて。応用は利かねぇ。空間を遮断したり、防護壁を出したり」
弓景は己が所持している道具の使い処を説明してくれたのだが―――――。
「でも、その鍵って・・・・・・ただ適当に回すだけじゃないですよね?」
その上でさらに気になった事を瑠璃は口にする。
瑠璃が所持している『鍵』の〝力〟は瑠璃自身の〝意思〟によって発動する。
そうしてより〝強い力〟を使う場合は瑠璃自身の〝血〟も媒介として必要となる。
けれど瑠璃が自らそれをやることに関してクロも真昼も。二人とも揃って余り良い顔をしない為。あくまでも『緊急時』のみ―――――クロが瑠璃の手に牙を立てることによって流れる少量の血を使うという約束に今の処はなっていたりするのだが。
「そうだなぁ・・・イメージとしてはこう・・・見えない鍵穴に差し込んで」
するとその会話に吊戯も加わって、弓景から受け取った一本の鍵を右手に持ちながら、言葉通りの仕草をすると。
「自身に秘められた闇の力をこの鍵で解き放つ!」
カッと右目だけ見開きつつ、左目を細めながら、キメ顔でそう吊戯は言い放ったのだ。
「そういう中二病的なのいいですから普通に説明してください」
そんな吊戯に対し、またこの人はと言わんばかりのジト目を真昼が向けて。
瑠璃もまた微苦笑を浮かべつつ「月満さんお願いします」と弓景に声を掛けると。
「ったくしょうがねーな・・・・」と弓景は眉を顰めながら自身もまた鍵を手に持って。
「イメージとしては見えない鍵穴に差し込んで、自身に秘められた闇の力をこの鍵で解き放つ!」
説明をしてくれたものの、けれどその内容は吊戯と変わらないもので。
「えと・・・・・・」と思わず瑠璃が眉根を寄せると。
「もういいですから!! 車守さん!!」
真昼がキッと弓景を見遣った後に、ツーコンビの保護者的立場に在る盾一郎にも説明を求めて。
「まったくお前ら・・・まともに答えてやれって」
呆れた面持ちで吊戯たちを見遣った盾一郎の口から、今度こそちゃんとした説明が聞けるかと思われたのだが。
「イメージとしては見えない鍵穴に差し込んで。自身に秘められた闇の力をこの鍵で解き放つ!」
その期待は残念ながらハズレてしまうこととなり。
「あ―――――もうこの3バカは!!」
キメ顔で一語一句全く変わらぬ説明を口にした盾一郎に対し、真昼は頭を抱えこんでしまう。
―――――・・・・・・華麗なる三弾オチ。
そして瑠璃もまた乾いた笑みを浮かべつつ、心中でそう呟くと。
「それで、車守さん・・・・・・その道具って誰でも使えるんですか?」
使い方の説明を聞くのを諦めて、使用者の制限があるのかどうかに関して尋ねてみた結果。
「いや魔術師の家系の奴だけだな。C3にいるのはほとんどが魔術師だ」
今度はちゃんとまともな返答が返ってきて。瑠璃も真昼も胸を撫で下ろしながら、盾一郎の説明に耳を傾ける。
そうしてその説明に際して、手にした長銃を盾一郎は掲げて見せてきて。
「あとは道具との相性なんかもある。俺はこういう撃つ系は苦手で出力が弱くてろくに使えない。でも弓はこういうのが得意だし。・・・吊戯は万能だ。扱いにくい武器もあいつはほとんど使いこなせる」
各々の武器に対する特性を盾一郎は述べた処で。
「・・・あいつがC3のエース。塔間がそう仕込んだ」
ふと、盾一郎は眉を顰めると、道具が手に馴染むかどうかを確認するように、触っている吊戯の後姿を見遣りながら、苦々しい口調でそう言ったのだ。
―――――・・・また、『塔間』さん・・・―――――
その名前を聞いた刹那、真昼と瑠璃は揃って眉根を寄せてしまう。
いったいどういう人物なのだろうか。
「まあ、体質だの慣れだの色々あるからな」
けれど、そのことに真昼と瑠璃が触れるよりも前に、弓景がこの話はもう終わりだと示すかの様に、床に置かれていた武器に手を伸ばしていって。
「・・・・・・って、重てっ。こんなもん実戦で使えるわけねーぞ」
細身の長銃という見た目に反して意外と重量がある武器だったようで。顰め面で文句を言いながらも、それを右肩に担いだのだ。
それを目にして真昼も武器である槍をバチッと具現化させると。瑠璃も手の中に握りしめた『鍵』を閃光とともに、その形状をロッドに変えた処で。
―――――C3の人達が使う道具・・・・・・―――――
―――――やっぱり・・・似てる―――――
真昼と瑠璃はまた、互いに複雑な面持ちで視線を交わし合うと。
吸血鬼の
―――――〝貯蔵。これはとっても使えるからね・・・〟
意識の内に、最後に椿と相対した時に、
吸血鬼、灰塵、魔術師・・・・・・これらはどういう関係なのか?
その『答』を今はまだ、真昼と瑠璃には見つけることが出来ない。
そんな中でC3の魔術師達が使う『武器』の〝試作テスト〟が、いよいよ始まることとなる。
【本館/21・6/05/別館/21・6/05掲載】
