第二十一章『千錯万綜』
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千錯万綜
「は―――――さっきの国ちゃんの顔、最高だった~。何番の監視カメラで撮れたかな~」
御国が立ち去った後、吊戯は左手を顔の前に掲げると、愉し気な笑みを浮かべながらキョロキョロと周囲を見回していて。
一方、真昼は先程、我を失った露木の口から紡ぎ出された言葉―――――
〝―――――違う種なんですよ。何を考えているかなんてわかりはしない―――――〟
それを思い返して視線を俯けていたのだが・・・・・・。
「真昼君」
「・・・・・・瑠璃姉」
そっと気遣うように瑠璃が呼びかけると、ハッと我に返った真昼は顔を上げて。
「あっ・・・あの吊戯さん。ほかの真祖 と主人 にあわせてもらえませんか」
「え?」
上着の裾を右手で掴みながら懇願してきた真昼に目を瞬かせた吊戯に対して、
「吊戯さん。私と真昼君でみんなにも協力を頼みます。私たちは誰もC3と戦うつもりはないんです・・・・・・」
瑠璃もまた嘆願の言葉を紡ぎ出したのだが―――――。
「・・・瑠璃ちゃん、まだわかんないかな?」
「何がですか・・・・・・?」
意地の悪い口調で応じてきた吊戯に、瑠璃が眉を顰めながら聞き返すと。
「キミさあダマされちゃったんだよ?」
吊戯は嘲笑するような笑みを浮かべながら、真昼とクロにも視線を滑らせて。
「保護とか護衛とか言ったけどさあ。キミ達、捕まっちゃったんだよ? 力を失った真祖達も、まだやられてない〝憤怒〟の真祖も、もうC3 が捕えてる。オレ達の介入でこれはもう内輪の兄弟ゲンカじゃ済まなくなった。ただの戦争になっちゃった。キミと真昼君だけでどうこうできることじゃない。だからここはお兄さん達に任せて―――――」
「でも、いつだって・・・『俺がどうしたいのか』は自分でちゃんと考えておかなきゃいけないって。俺はもう知ってるから」
そこで吊戯に対し、自分の〝意志〟を示すべく口を開いたのは真昼だった。
けれど「そうなの?」と吊戯は口端を吊り上げながら真昼を見返すと。
「何の実感のないままでも意味があるのかい?」
突きつけられたその言葉によって、真昼は眉根を寄せながら返答に窮してしまうも。
「あの・・・露木さんのお父さんのこと―――――・・・やっぱり・・・戦闘で・・・?」
自分がどうすべきなのか、その答えに辿り着くために。露木の父親がどうして椿の下位に命を奪われることになってしまったのか。その〝過去〟に真昼が触れると―――――。
「ああ、うん。露木さんはオレの目の前で死んだよ」
吊戯は平然とした口調で、笑みを浮かべながら衝撃の〝事実〟を告げてくる。
「オレ、その討伐作戦に同行してたからね。15歳のときだったかな」
「・・・!」
それによって知ることとなったもう一つの〝真実〟に真昼が顔を強張らせた時。
―――――今の真昼君とほとんど変わらない年齢の時に・・・・・・。
瑠璃もまた呆然と目を見開きながら吊戯を見つめていた。
「露木さんはすごく優しくて正義感のある・・・オレにとっても父親みたいな人だった。修ちゃんの気持ちも国ちゃんの気持ちもオレにはわかりはしないけど・・・。オレに大切な誰かを殺された人達は、オレにこんな気持ちを向けているのかな? とは思うかな」
真昼と瑠璃の様子を吊戯は一瞥すると目を伏せながら淡々とした声音で話し続ける。
「―――――だからってオレのすることが何か変わるわけでもないけどね。きっとオレはこのあとまた、たくさんの吸血鬼を殺すこと。そして最低でも椿との相打ちを求められる。まあ言われればやるだけだよ」
そして吊戯はあくまでも我関せずの姿勢を貫くのだと公言してきたのだ。
「・・・・・・吊戯さん。あなたは相手の痛みがわかるのに。どうして・・・・・・」
そんな吊戯に対し、ポツリと瑠璃がそう呟くと。
「痛みなんてわかりはしないよ」
吊戯は瑠璃のほうに目を向けることなく、皮肉めいた口調でそう言ったのだが。
―――――・・・・・・それならどうしてそんな〝痛み〟を孕んだ笑顔を浮かべるんですか?
その吊戯の様子を目にした瑠璃がそんな想いを心中で抱いた時。
自分の足元に視線を落としていた真昼は意識を集中させるように眉間に力を込めると―――――
「・・・それでもわかろうとしなきゃ始まらない。C3 に椿の〝痛み〟の元があるのなら、椿の動機と目的のヒントがあるのなら、俺達はC3とも向き合っていく!」
自分がどうしたいのか―――――その『答え』を―――――ハッキリと口にしたのだ。
その瞬間、吊戯は微かに目を見開くと、何とも言えない感情が浮かんだ瞳で真昼を見ていたのだが―――――
「―――――・・・たしかにキミ達が求めてるもの・・・〝憂鬱〟の彼の動機と目的はC3 にある」
やがておもむろに口を開いた吊戯が紡ぎ出した言葉にハッと真昼が顔を上げると。
「オレが 知っている。これから起こることもわかる」
吊戯は口の端を吊り上げて笑みを浮かべながら、右手の人差し指で自身のことを示して見せてきて。
「・・・!?」
瞠目した面持ちになった真昼に対し「同じことをしようとしてる人間は彼のほかにもいるからね・・・」と告げてきたのだ。
吊戯が口にしたその事柄はクロにとっても聞き捨てならない内容であることから、ピクッと肩を震わせると吊戯の顔を注視していた。
しかし、二対の視線を受けた吊戯は両手を広げながら肩をすくめる仕草をすると、
「・・・けど、キミ達には教えない」
「な・・・!?」
ここに至ってそんな切り返しをしてきた吊戯に対し真昼は唖然とした面持ちになってしまう。
「―――――吊戯さん、どうしてそんな意地悪を言うんですか?」
そこで瑠璃が眉根を寄せながら吊戯を見遣りつつそう言うと。
「言ったでしょ? 『オレは善人じゃない』って。でも、そうだね。瑠璃ちゃんにだけ内緒で教えてあげようか」
「―――――っ!!」
愉し気な面持ちで一気に距離を詰めてきた吊戯に対して、瑠璃が目を見開き、息を呑むと。
「瑠璃姉っ!?」
吊戯が何か良からぬことを企んでいるのではないかと感じた真昼が、拘束された状態で動けないクロに代わって、その魔の手から瑠璃を守るべくすぐさま傍に駆け寄ってきたのだが。
「はっは! なーんてね♥ キミ、見事に引っかかってくれたね!」
真昼のほうに目を向けた吊戯が右手の親指と人差し指を掲げながら、ていっ、と翻す仕草をした瞬間―――――
「うわっ!?」
クロの身体を拘束していた漆黒の楔の中の一本が真昼の右足首に絡みついてきて。
「真昼君!?」
足を掬われる状態に陥ったことによって、地面に尻餅をついてしまった真昼の傍に慌てて瑠璃が膝を突くと。
「それじゃあ、オレ忘れ物を取りに一度部屋に戻るから! 瑠璃ちゃんのことは拘束しないけど。ちゃんとおとなしく二人と一緒にそこで待っててね~~~」
「ちょ、ちょっと・・・!」
笑みを浮かべた吊戯に真昼が抗議の声を上げるも、吊戯は足を止めることはなく。
そのまま自室のほうに向かって行ってしまったのだ。
一方、吊戯とのやり取りに辟易し、その場を後にした御国は居住空間のフロア内に置いて弟である御園ではなく。平静さを保ちきれなくなってしまったことから、吊戯に真昼達のことを任せて、先に立ち去ってしまった後輩である露木の姿を見付け出していた。
しかし、フロアの壁に両手をついて俯きながら立ち止まっていた露木に向かって「修平」と呼び掛けたものの返答はなく。
「おーい修平くん」
傍に近づいて行って、ひょこと横から顔を覗き込むようにしながら、再度声を掛けてみた結果。
「むこうへ行ってください・・・」
漸く露木の口から紡ぎ出された返答はそんな釣れないもので。やれやれという面持ちで御国は露木から離れて一歩前に立つと―――――
「・・・なあ修平。お前ももう子供じゃないんだから、そろそろ自分のスタンスはハッキリさせないとな?」
そこで露木に対して背を向けたまま、御国は右手を掲げる仕草をすると、先輩という立場から後輩に対して、言い含めるかのような口調で言った。
「命令をただ遂行するのか? 復讐を成し遂げるのか。好きにしなよ。・・・たださ? オレはお前を気に入ってるからさ? もし復讐したいって言うのなら協力するよ?」
それは平常時の露木なら、決して聞き入れることはしないであろう申し出だった。
けれど未だ落ち着きを取り戻していない状態であれば、その言葉はとても耳触りが良いものとなってしまう。
そうして無言ではあったものの、睨むように目線だけ向けてきた露木の姿を肩越しに確認した御国はニヤリと笑みを浮かべると。
「オレのジェジェを貸してやる。下位吸血鬼 を殺すには真祖 ・・・手っ取り早いだろ?」
主人からの呼び掛けに反応し、スカーフの中から這い出てきて、鎌首をもたげた黒蛇を右手に纏わりつかせた状態で露木に振り返った。
果たして露木はそのまま復讐を遂げるために己が最も嫌悪している吸血鬼の力を借りることを選ぶのかと思われたのだが―――――。
〝―――――・・・・・・露木さん!! 絶対にそれはやめて下さい!! ・・・・・・そんなことをしたら今度こそ止まらなくなってしまう!!―――――〟
その刹那―――――露木の意識の片隅に蘇ったのは、必死な面持ちで涙を堪えながら訴えかけてきた瑠璃の姿で。
―――――・・・・・・俺は・・・・・・っ。
露木はギリッと血が滲むのではないだろうかというくらい強く奥歯を噛みしめると。
「・・・あれは椿対策の大事な人質です・・・から」
御国と黒蛇から完全に目を背ける仕草をした後に、押し殺した声音でそう言ったのだ。
「お前はいつも冷静で社会的で常識的だね」
甘言を突っぱねて見せた露木に対し、御国は呆れた面持ちで嘆息する。
―――――瑠璃ちゃんの存在が、ギリギリのところで、修平の理性を引き戻したっていうのもあるかもしれないけど。
そして先程の瑠璃の様子を御国もまた思い出したものの。
―――――だとしてもオレにはもう、関係ない・・・・・・。
スッとそれを掻き消すように、すぐさま冷たい表情を浮かべると―――――
「修平。理性で復讐はできないよ」
露木の左肩に御国は己の左手を乗せて、そう言い残してから立ち去っていったのだ。
「クロも、真昼君も、ごめんね・・・・・・。私が二人のそれを解除出来たら良かったんだけど」
膝を突かされた体制のまま拘束されているクロと、右足首をクロの身体を捕らえている漆黒の楔の一部に繋がれてしまった真昼。二人の前に膝を折って座った瑠璃は眉を下げながら、申し訳なさそうな面持ちで言った。
「いや・・・・・・瑠璃。この状態は確かに向き合えねーけど・・・・・・。お前までその枷を使われて、無理に拘束されなかったのは良かったとオレは思うぞ」
「そうだよ、瑠璃姉。俺もクロも、ここから動けないっていう以外は何ともないからさ」
そんな瑠璃に対しクロと共に、気にやむ必要はないのだと答えた真昼は、
―――――C3に何かあるのは間違いない。
―――――ここで椿のこと・・・吸血鬼のことちゃんと知ろう。
組んだ両腕を膝の上に置きながらこの先どうすべきなのかと思案を巡らせる。
と―――――
〝―――――お前はぼくの友達を殺したのに!―――――〟
〝―――――先生は君が・・・殺しちゃったんでしょ?―――――〟
真昼の意識の内には、ライラと椿―――――悲痛な言葉を口にした二人の吸血鬼の姿が浮かんできて。
―――――どちらかがいなくなればいいって問題じゃないんだ。
―――――攻撃して・・・誰かが悲しんで。やり返して・・・。
―――――ずっと連鎖して続いていく。
―――――理由や・・・気持ち。
―――――ちゃんと自分で理解して進まなきゃ・・・。
やがて真昼が自身の中で、そう心を決めた時。
―――――吊戯さんも、心の中に〝痛み〟を抱えている。
―――――だから私たちのことを、〝信用〟してくれないんだと思う。
―――――だけど、〝一緒〟に行動をして・・・・・・。
―――――私たちのことをちゃんと、〝知って〟貰うことができたなら・・・・・・。
瑠璃も胸元の『鍵』を両手で握りしめながらそんな想いを抱いていた。
そして〝主人〟と〝ミストレス〟―――――二人の胸中は『絆』で繋がった真祖 の中にも伝わっていた。
そこでクロもまた、今の己自身の『偽らざる思い』を言葉にして紡ぎ出すべく口を開いたのだ。
「なあ―――――・・・真昼、瑠璃。C3 じゃあ吸血鬼の言葉なんて誰もまともに取り合わねー・・・。でもオレは・・・C3の好きにはさせたくねー・・・。今度こそ間違えたくねーから。やっとロウレスが気付かせくれて。もう・・・後悔したくねーから・・・。だから椿とはオレ が・・・いやオレ達 が戦う」
「―――――!!」
真昼は呆然と目を見開きながらクロを見遣り。
「クロ・・・・・・」
瑠璃は緊張した面持ちでクロの真紅の瞳を見つめ返す。
と―――――
「真昼も、瑠璃も。サーヴァンプ7人も全員含めてだ」
クロは真昼と瑠璃を見据えながらそう明言した後に。
「あー・・・だからなんつーか真昼風にシンプルに言うとー・・・・・・手を貸してくれ」
口ごもりながらも、自分と一緒に戦ってほしいと、真昼と契約をしてから初めて、その言葉をクロは口にしたのだ。
以前、C3に真昼と瑠璃と共にクロは連れてこられた時―――――
〝―――――話してねーことはけっこうある・・・でも多分話さねー―――――〟
〝―――――めんどくせー・・・。オレとは関係ねー・・・―――――〟
そんなふうに、様々な事柄と向き合うことを拒絶する言葉を口にしていた。
それが―――――再び訪れることとなったC3において―――――クロの口からそんな言葉を聞けるとは。
自身の心の中に歓喜の感情が沸き上がるのを感じた真昼は―――――
「・・・当たり前だ。ここはシンプルに考えて・・・俺達だろ!!」
ガシッと左手でクロの右肩を力強く真昼は掴むと、ビシッと右手の親指を立てて二ッと笑みを浮かべて。
瑠璃もまたクロに向かってにっこりと微笑みながら、
「そうね! 勿論、私も一緒にやるわ!!」
グッと両手を握りしめつつ、気合の入ったガッツポーズをして見せると。
クロはらしくないことを口にしてしまったことに居心地の悪さを覚えたようで。真昼と瑠璃から視線を逸らすと「やっぱ向き合えね―――――~」とお決まりの台詞を漏らしたのだ。
「C3に来たのは前進のはずだ・・・前進に変えよう」
「そうね。クロと私が吊戯さんと離れられないっていうのも。逆に考えれば、吊戯さんの行動に注意を払うことができるってことだもの」
そんなクロに対して、真昼はさらに前向きな意思を伝えて。
瑠璃も自分たちの今の状態をプラスのモノとして活用ができると利点を口にしたものの―――――。
「なかなか・・・めんどくささがマックスになってきたぞ・・・」
「さっきの気合はどうした! がんばれよ、ようやく真相に近づいてるんだから」
話もややこしくなってきた・・・とぼやいたクロに対し、待ってろ、今から俺がシンプルにしてやるからっ―――――と真昼が宥めるように言った処で。
「そうよ、クロ。せっかく、さっきカッコいい台詞を言ったんだから」
瑠璃が微笑を浮かべながらクロを褒めると。
ニャ・・・・・・!? とクロは瞠目した面持ちで固まった後に。
「あ~、そ―――いや、ロウレスと天使ちゃん。ど―――したろ―――な・・・・・・。ロウレス、そろそろ泣いてんじゃね―――か・・・・・・」
俄かに落ち着かない様子で視線を彷徨わせると、話題転換を図るように強欲組の二人のことを口にして。
―――――なんか珍しい光景だな・・・・・・クロが瑠璃姉の言葉であんなふうにドギマギするなんて。
そんなクロの様子に、真昼は心中で驚嘆しながら、想いを巡らせる。
―――――なあ、クロ。人と吸血鬼だってみんながみんな憎みあってるわけじゃないよな。
―――――クロと瑠璃姉がお互いを本当に大切に想い合ってるっていうのは俺の目から見ても分かるんだ。
―――――だからこそ一緒に戦う〝俺達〟の中にC3の人達も含められれば・・・。
「や~~~遅くなってごめんよ~」
そこにぱたぱたという軽快な足音を響かせながら、自室から忘れ物を取ってきた吊戯が姿を見せて。
―――――まずはこの人・・・狼谷吊戯さん。
―――――この人が俺とクロのことを信用してくれたら。
―――――きっと椿を止める手がかりを得られる・・・。
真剣な面持ちで真昼が吊戯を見遣ると、吊戯は不思議そうに真昼を見返した後に。
「良かった、瑠璃ちゃん。ちゃんと大人しく二人と一緒にいてくれたんだね」
吊戯は笑みを浮かべながら瑠璃にそう声を掛けてきて。
―――――吊戯さん、瑠璃姉に対しては微妙に接し方が違うんだよな・・・・・・。
―――――・・・・・・御国さんもだけど。だからなのか?
そんな吊戯の様子に真昼が眉を顰めると。その場で立ち上がった瑠璃が吊戯に対し、
「あの、吊戯さん。クロと真昼君のこと、動けるようにしてあげて貰えませんか?」
「うん? そうだね。二人とも、お待たせだったね~~~今、動けるようにするよ」
すると吊戯は、すんなりと頷いた後に、パチンと右手の親指と人差し指を鳴らすと。魔法自体は解かないけどね―――――と言いながら、クロと真昼の拘束を解除したのだ。
「おー・・・?」
「あっ・・・いいんですか」
瑠璃が口添えしてくれたとはいえ、あまりにもあっさりと解放されたことに対し、クロと真昼が戸惑いの色を浮かべるも。
「ああ、うん」
吊戯は平然たる様子のままで応じてきて。その後に、ようやく動けるようになったと立ち上がったクロに対し、
「さっきはありがとね。ごめんよ」
礼と謝罪―――――この二つをきちんと、軽くではあるが会釈をしながら口にしたのだ。
吸血鬼であるクロに対して、人と対するのと変わらぬ接し方をしてきた吊戯を真昼は呆然と見つめる。
と―――――
「あ―――――いたいた。吊戯―――――、無事か―――――」
修から連絡あったぞ―――――とオフィスから社宅フロアまで、吊戯を探しに弓景と共にやってきた盾一郎が呼び掛けてきて。
「あっ、盾ちゃん、弓ちゃん。いや―――――ちょっと国ちゃんがねー」
此方にやって来た二人に御国との一件を吊戯は話したのだ。
「こんなとこで御国とやりあったのかよ」
そうして吊戯の口から事情を聞き終えた処で。盾一郎は呆れた面持ちで左手を後頭部に据えると、眉を顰めつつ吊戯を見遣りながら「・・・ケガは?」と敢えて確認の言葉を投げかけたものの。
「問題ないよ~。クロちゃんに制限もかけたし。あと、瑠璃ちゃんにもね」
喉元にくっきりと策条痕が残っているのにも拘らず、吊戯は平然とした態度のままでそう告げてきて。
「お前、瑪瑙さんにまで、制限かけたのか・・・・・・。まぁ、弓の魔法を突破された件があるから仕方がないのかもしれないが。―――――それじゃあ、大分強引になったが・・・予定通り進めるか」
そんな吊戯に対し盾一郎が、はぁ・・・と溜息を漏らしながら口にした言葉に。
―――――まだC3側には俺達の話を聞く気はない・・・。
―――――どうしたら・・・。
真昼が眉根を寄せながら口をへの字に曲げる。
瑠璃の肩に乗った黒猫も、ま―――た、むこ―――のペースに・・・と半眼で盾一郎を見遣る。
と―――――
「さ―――――て。お前ら、楽しい職場見学の時間は終わりだぜ?」
ニヤリと笑みを浮かべた弓景が首から下げていた一本の黒い鍵を右手の人差し指でチャリと掲げながらそう言ったのに続いて。
「大人しく監禁されてもらおっかな~~~?」
吊戯もまた、下衆な笑みを浮かべながらそんな台詞を口にすると。
「楽しそうだな、お前ら・・・」
悪ふざけをしている二人に盾一郎が呆れた様子になった中。
「・・・!!」
ギクッとなった真昼とともに瑠璃もまた、眉根を寄せてしまう。
―――――月満さんが手にしているあの『鍵』。あれはここに来る前に使われたモノと恐らく同じものだわ。
―――――私もクロも制限をかけられてしまっている中で、またあの魔術を行使されたりしたら・・・・・・。
「いやーサクッと済みそうで良かった―――――・・・・・・って。なんか弓ちゃんビミョーにテンション低くない?」
そんな中、吊戯は弓景の様子に微かな違和感を覚えたらしく、「どしたの? 便秘?」と尋ねかけた上で、野菜食べな? と言うと。
「あ―――――さっき俺が叱ったからショゲてんだ」と盾一郎が真顔でそう答えたのだが。
その刹那―――――ドスと勢いよく弓景が背後から左手で拳打を繰り出してきて。
「いてっ」と盾一郎が呻きながら弓景を睨むと。
「ショゲてねっつの」
叱られてもね―――――し!! といきり立った状態となった弓景は、
「なあ吊戯・・・肌乾燥してねーか?」
「いや? いつでもウルウルだけど?」
「すげーイイハンドクリームがあんだよ・・・塗ってやっからよ・・・」
首を傾げた吊戯に右手でのりが詰まっているハンドクリームの入れ物を掲げて見せると。
「!」
吊戯は思い出した! という様子で右手の親指と人差し指を立てて。
「はっは!! あははははははは、それ入れ替えんの大変だったよ~!」
「逃げんなテメェ、こっち来い!」
だだだだだと脱兎の勢いで走り出した吊戯を弓景が「デコに塗りたくってやる!!」と追いかけていき。
「廊下は走るなよー」
盾一郎が呆れ顔で二人にそう言うもその声が届く事は無く。
「さっきコレのせいで盾とケンカになったんだぞ」
「はっは! 弓ちゃんと盾ちゃんの件かはいっつもくだらないな―――――」
「お前が言うな」
突発的に騒がしい追いかけっこが始まった中。
―――――この人達がC3で一番強い3人・・・。
小学生の子供のように走り回る二人の様子に、これでも・・・と真昼は眉を顰めつつ。
―――――瑠璃姉の部屋は俺達とは別で用意されてるし、それぞれで閉じ込められて動けなくなるのは避けないと・・・っ。
必死に思考をフル回転させる真昼に、どーする・・・オレも瑠璃も戦えねーぞ・・・と黒猫が目を向ける。
と―――――
「・・・あのっ俺達をこの班で働かせてもらえませんか!?」
真昼が彼らに対し、そう切り出したのだ。
そろそろ二人を大人しくさせるべきだろうと動こうとした盾一郎と、吊戯を捕まえて、額にノリを塗ろうとした弓景と、それを防ごうと弓景の腕を掴んでいた吊戯。
三人が「はあ?」と呆気にとられたような面持ちで此方に振り返ってくる。
真昼は瑠璃の肩に乗っていた黒猫に向かって両手を伸ばしてガシッと掴まえると。
「椿と対峙する戦力として最強なのはシンプルに考えて『オレだろ!!』ってクロも言ってます!!」
ばっと黒猫を三人に対し、突きだして見せたのだ。
黒猫は突然の主人の宣言にギョッとした様子で固まってしまう。
真昼はそんな黒猫の様子を気にすることなく、さらに三人に向かって言い募る。
「こいつ絶対役に立ちます。いい奴です。一緒に働かせてください」
「イヤ・・・オレ一応ニート吸血鬼って設定で・・・」
働いたら負け・・・と冷や汗を流しながら黒猫は助けを求めるように、に゛ゃ―――――・・・と瑠璃のほうに目を向ける。
しかし―――――
「そんなの信用できるわけねーだろうが。吸血鬼だぞ」
「月満さん、約束します。クロは絶対むやみに人を攻撃したりしません」
否と唱えた弓景に対し、瑠璃もまた胸元で右手を握りしめると、真摯な眼差しで訴えを口にして。
「真昼君も私も、人だとか吸血鬼だとかじゃなくて、クロ として見てもらいたいんです」
きっぱりとした口調でそう言い切ると。
―――――そーゆーの向き合えねーって・・・。
―――――瑠璃、お前、最近真昼の影響大分受けてねーか?
瑠璃の意識の内に何とも言えない面持ちとなったクロがそんなふうに語り掛けてきて。
「無理。まず俺はテメェらみたいなガキが嫌いだ」
顰め面になった弓景がそう言い返してきて。
「出ました~~~弓ちゃんのとりあえず全部嫌いって言っておくスタイル~~~」
それに合いの手を入れるように吊戯が、はっはと笑いながら言葉を続ける。
「でも、瑠璃ちゃんはオレ達より確かに年下だけど。ガキじゃないでしょ? それに弓ちゃん、瑠璃ちゃんのことは気に入ってるんじゃないの?」
そうして吊戯が笑みを浮かべながら揶揄うような口調でそう言うと。
「うっせー吊戯!! そういう余計なことは言わなくていいんだよ、ボケが!!」
ムギュ~ッと吊戯の頬を弓景は引っ張っていて。
「ほんひょのこといっひゃだけなのに~~~」
吊戯は痛みを堪えるように眉を下げながら弓景に言い返す。
そんな二人のやり取りに真昼は戸惑いの面持ちになりながらも、
「な・・・何がダメなんですか。俺達も何か手伝いますし・・・っ」
必死にまた訴えかけたのだが「イラネ」と弓景の反応はすげないままで。
そんな中、盾一郎が逡巡するように右手を自身の顎に据えると。
「まあ、いいんじゃねぇか」と賛成の言葉を口にしたのだ。
盾一郎の口から出たまさかの台詞に弓景が唖然とした様子で顔を引き攣らせるも。
「吊戯の監視があれば問題ないだろ。人手が大いに越したことはないし。戦力としては申し分ない」
笑みを浮かべながらそう盾一郎は言い切ってしまう。
そこですかさず真昼が「それにほらっ。俺達が一緒のほうが吊戯さんの仕事に影響も出ないと思います!」と言葉を紡ぎ出し。瑠璃もまた眉を下げながらひたむきな眼差しで吊戯を見遣ると。
「そうね。クロも私も吊戯さんとは距離の制限があるんですし・・・・・・!」
「え・・・いいよ・・・瑠璃ちゃん。オレのことは気にしないで。オレ仕事にやりがいとか求めないタイプだし。君達の近くでごろごろしてるだけで給料もらえるならそのほうが・・・」
吊戯は僅かにたじろいだような面持ちになりながら遠慮するというように右手を振って見せてきて。
その一方で弓景が眉を顰めながら盾一郎に話しかける。
「・・・なんだ? 妙にあのガキとアイツに肩入れするじゃねーか」
「べつにそういうわけじゃねぇよ。ただ・・・まぁ少し期待 はしてるかな」
盾一郎は弓景に応じながら、フッと視線を真昼と瑠璃のほうに向ける。
―――――あの二人なら、もしかしたら吊戯のことを・・・・・・。
その時、吊戯はいつの間にか真昼の手の中から抜け出して瑠璃の傍に戻っていた黒猫を、両手で抱え上げると「オレ達こそが真の怠惰コンビだったのかもしれない!」と笑っていて。
「やめてください。本当に最強のヒモコンビになりそうです」とギョッとなった真昼は突っ込みを入れて。
「そうね。そうなったら私も真昼君もお世話が二倍になっちゃうわね」と瑠璃はフフッと笑みを零していた。
「いや―――――こうなると修ちゃんの〝備え〟が当たったってことになるのかなぁ」
それから程なくして感慨深げな口調で吊戯が漏らした言葉に「あ?」と弓景が怪訝な目を向けると。
ピュッと吊戯から解放された黒猫が瑠璃の腕の中にやってきて。
「ほら。さっき言ってた〝忘れ物〟。修ちゃんに持ってくるよう頼まれてたんだけど」
吊戯は部屋から持ってきた手提げ袋を掲げて見せてきて。
「これ国ちゃんが昔着てた やつでさ」
「!」
真昼がハッと目を瞠りながら吊戯に目を向けて。
「御国さんが着ていたってことは・・・・・・」
瑠璃も呆然とした面持ちで吊戯を見返す。
と―――――
「出たぜ。修平の予知能力」
〝備え〟の範囲こえてんだろと弓景が呆れたように呟いて。
「ここ出てくときに置いてっちゃって・・・もったいないからオレが寝間着にしてたんだよね」
「あー・・・お前着てたな。寝るときたまに・・・」
思い出した様子で弓景が漏らした言葉に、
「あっ。クリーニング済みだから大丈夫だよ!」
はっはと吊戯は笑いながら手にしていた袋を真昼に差し出してきて。
「あと。実は修ちゃんからもう一枚、予備で預かった分も一緒に入ってるんだけど。―――――二人共それを着るなら・・・C3 のルールに従ってもらうからね?」
しかめっ面になった弓景と笑みを浮かべた盾一郎の間に立った吊戯が肩越しに此方に振り返りながらそう告げてきた時。
真昼と瑠璃の二人は―――――袋から取り出したC3の制服の上着に、緊張した面持ちで袖を通してバサと身に纏うと。自分たちの覚悟を示すように、バチンとC3の紋章を象ったもので襟元を留めて見せたのだ。
【本館/21・5/15/別館/21・5/15掲載】
★千錯万綜(せんさくばんそう)⇒様々なことが複雑に入り混じっていること。
「は―――――さっきの国ちゃんの顔、最高だった~。何番の監視カメラで撮れたかな~」
御国が立ち去った後、吊戯は左手を顔の前に掲げると、愉し気な笑みを浮かべながらキョロキョロと周囲を見回していて。
一方、真昼は先程、我を失った露木の口から紡ぎ出された言葉―――――
〝―――――違う種なんですよ。何を考えているかなんてわかりはしない―――――〟
それを思い返して視線を俯けていたのだが・・・・・・。
「真昼君」
「・・・・・・瑠璃姉」
そっと気遣うように瑠璃が呼びかけると、ハッと我に返った真昼は顔を上げて。
「あっ・・・あの吊戯さん。ほかの
「え?」
上着の裾を右手で掴みながら懇願してきた真昼に目を瞬かせた吊戯に対して、
「吊戯さん。私と真昼君でみんなにも協力を頼みます。私たちは誰もC3と戦うつもりはないんです・・・・・・」
瑠璃もまた嘆願の言葉を紡ぎ出したのだが―――――。
「・・・瑠璃ちゃん、まだわかんないかな?」
「何がですか・・・・・・?」
意地の悪い口調で応じてきた吊戯に、瑠璃が眉を顰めながら聞き返すと。
「キミさあダマされちゃったんだよ?」
吊戯は嘲笑するような笑みを浮かべながら、真昼とクロにも視線を滑らせて。
「保護とか護衛とか言ったけどさあ。キミ達、捕まっちゃったんだよ? 力を失った真祖達も、まだやられてない〝憤怒〟の真祖も、もう
「でも、いつだって・・・『俺がどうしたいのか』は自分でちゃんと考えておかなきゃいけないって。俺はもう知ってるから」
そこで吊戯に対し、自分の〝意志〟を示すべく口を開いたのは真昼だった。
けれど「そうなの?」と吊戯は口端を吊り上げながら真昼を見返すと。
「何の実感のないままでも意味があるのかい?」
突きつけられたその言葉によって、真昼は眉根を寄せながら返答に窮してしまうも。
「あの・・・露木さんのお父さんのこと―――――・・・やっぱり・・・戦闘で・・・?」
自分がどうすべきなのか、その答えに辿り着くために。露木の父親がどうして椿の下位に命を奪われることになってしまったのか。その〝過去〟に真昼が触れると―――――。
「ああ、うん。露木さんはオレの目の前で死んだよ」
吊戯は平然とした口調で、笑みを浮かべながら衝撃の〝事実〟を告げてくる。
「オレ、その討伐作戦に同行してたからね。15歳のときだったかな」
「・・・!」
それによって知ることとなったもう一つの〝真実〟に真昼が顔を強張らせた時。
―――――今の真昼君とほとんど変わらない年齢の時に・・・・・・。
瑠璃もまた呆然と目を見開きながら吊戯を見つめていた。
「露木さんはすごく優しくて正義感のある・・・オレにとっても父親みたいな人だった。修ちゃんの気持ちも国ちゃんの気持ちもオレにはわかりはしないけど・・・。オレに大切な誰かを殺された人達は、オレにこんな気持ちを向けているのかな? とは思うかな」
真昼と瑠璃の様子を吊戯は一瞥すると目を伏せながら淡々とした声音で話し続ける。
「―――――だからってオレのすることが何か変わるわけでもないけどね。きっとオレはこのあとまた、たくさんの吸血鬼を殺すこと。そして最低でも椿との相打ちを求められる。まあ言われればやるだけだよ」
そして吊戯はあくまでも我関せずの姿勢を貫くのだと公言してきたのだ。
「・・・・・・吊戯さん。あなたは相手の痛みがわかるのに。どうして・・・・・・」
そんな吊戯に対し、ポツリと瑠璃がそう呟くと。
「痛みなんてわかりはしないよ」
吊戯は瑠璃のほうに目を向けることなく、皮肉めいた口調でそう言ったのだが。
―――――・・・・・・それならどうしてそんな〝痛み〟を孕んだ笑顔を浮かべるんですか?
その吊戯の様子を目にした瑠璃がそんな想いを心中で抱いた時。
自分の足元に視線を落としていた真昼は意識を集中させるように眉間に力を込めると―――――
「・・・それでもわかろうとしなきゃ始まらない。
自分がどうしたいのか―――――その『答え』を―――――ハッキリと口にしたのだ。
その瞬間、吊戯は微かに目を見開くと、何とも言えない感情が浮かんだ瞳で真昼を見ていたのだが―――――
「―――――・・・たしかにキミ達が求めてるもの・・・〝憂鬱〟の彼の動機と目的は
やがておもむろに口を開いた吊戯が紡ぎ出した言葉にハッと真昼が顔を上げると。
「
吊戯は口の端を吊り上げて笑みを浮かべながら、右手の人差し指で自身のことを示して見せてきて。
「・・・!?」
瞠目した面持ちになった真昼に対し「同じことをしようとしてる人間は彼のほかにもいるからね・・・」と告げてきたのだ。
吊戯が口にしたその事柄はクロにとっても聞き捨てならない内容であることから、ピクッと肩を震わせると吊戯の顔を注視していた。
しかし、二対の視線を受けた吊戯は両手を広げながら肩をすくめる仕草をすると、
「・・・けど、キミ達には教えない」
「な・・・!?」
ここに至ってそんな切り返しをしてきた吊戯に対し真昼は唖然とした面持ちになってしまう。
「―――――吊戯さん、どうしてそんな意地悪を言うんですか?」
そこで瑠璃が眉根を寄せながら吊戯を見遣りつつそう言うと。
「言ったでしょ? 『オレは善人じゃない』って。でも、そうだね。瑠璃ちゃんにだけ内緒で教えてあげようか」
「―――――っ!!」
愉し気な面持ちで一気に距離を詰めてきた吊戯に対して、瑠璃が目を見開き、息を呑むと。
「瑠璃姉っ!?」
吊戯が何か良からぬことを企んでいるのではないかと感じた真昼が、拘束された状態で動けないクロに代わって、その魔の手から瑠璃を守るべくすぐさま傍に駆け寄ってきたのだが。
「はっは! なーんてね♥ キミ、見事に引っかかってくれたね!」
真昼のほうに目を向けた吊戯が右手の親指と人差し指を掲げながら、ていっ、と翻す仕草をした瞬間―――――
「うわっ!?」
クロの身体を拘束していた漆黒の楔の中の一本が真昼の右足首に絡みついてきて。
「真昼君!?」
足を掬われる状態に陥ったことによって、地面に尻餅をついてしまった真昼の傍に慌てて瑠璃が膝を突くと。
「それじゃあ、オレ忘れ物を取りに一度部屋に戻るから! 瑠璃ちゃんのことは拘束しないけど。ちゃんとおとなしく二人と一緒にそこで待っててね~~~」
「ちょ、ちょっと・・・!」
笑みを浮かべた吊戯に真昼が抗議の声を上げるも、吊戯は足を止めることはなく。
そのまま自室のほうに向かって行ってしまったのだ。
一方、吊戯とのやり取りに辟易し、その場を後にした御国は居住空間のフロア内に置いて弟である御園ではなく。平静さを保ちきれなくなってしまったことから、吊戯に真昼達のことを任せて、先に立ち去ってしまった後輩である露木の姿を見付け出していた。
しかし、フロアの壁に両手をついて俯きながら立ち止まっていた露木に向かって「修平」と呼び掛けたものの返答はなく。
「おーい修平くん」
傍に近づいて行って、ひょこと横から顔を覗き込むようにしながら、再度声を掛けてみた結果。
「むこうへ行ってください・・・」
漸く露木の口から紡ぎ出された返答はそんな釣れないもので。やれやれという面持ちで御国は露木から離れて一歩前に立つと―――――
「・・・なあ修平。お前ももう子供じゃないんだから、そろそろ自分のスタンスはハッキリさせないとな?」
そこで露木に対して背を向けたまま、御国は右手を掲げる仕草をすると、先輩という立場から後輩に対して、言い含めるかのような口調で言った。
「命令をただ遂行するのか? 復讐を成し遂げるのか。好きにしなよ。・・・たださ? オレはお前を気に入ってるからさ? もし復讐したいって言うのなら協力するよ?」
それは平常時の露木なら、決して聞き入れることはしないであろう申し出だった。
けれど未だ落ち着きを取り戻していない状態であれば、その言葉はとても耳触りが良いものとなってしまう。
そうして無言ではあったものの、睨むように目線だけ向けてきた露木の姿を肩越しに確認した御国はニヤリと笑みを浮かべると。
「オレのジェジェを貸してやる。
主人からの呼び掛けに反応し、スカーフの中から這い出てきて、鎌首をもたげた黒蛇を右手に纏わりつかせた状態で露木に振り返った。
果たして露木はそのまま復讐を遂げるために己が最も嫌悪している吸血鬼の力を借りることを選ぶのかと思われたのだが―――――。
〝―――――・・・・・・露木さん!! 絶対にそれはやめて下さい!! ・・・・・・そんなことをしたら今度こそ止まらなくなってしまう!!―――――〟
その刹那―――――露木の意識の片隅に蘇ったのは、必死な面持ちで涙を堪えながら訴えかけてきた瑠璃の姿で。
―――――・・・・・・俺は・・・・・・っ。
露木はギリッと血が滲むのではないだろうかというくらい強く奥歯を噛みしめると。
「・・・あれは椿対策の大事な人質です・・・から」
御国と黒蛇から完全に目を背ける仕草をした後に、押し殺した声音でそう言ったのだ。
「お前はいつも冷静で社会的で常識的だね」
甘言を突っぱねて見せた露木に対し、御国は呆れた面持ちで嘆息する。
―――――瑠璃ちゃんの存在が、ギリギリのところで、修平の理性を引き戻したっていうのもあるかもしれないけど。
そして先程の瑠璃の様子を御国もまた思い出したものの。
―――――だとしてもオレにはもう、関係ない・・・・・・。
スッとそれを掻き消すように、すぐさま冷たい表情を浮かべると―――――
「修平。理性で復讐はできないよ」
露木の左肩に御国は己の左手を乗せて、そう言い残してから立ち去っていったのだ。
「クロも、真昼君も、ごめんね・・・・・・。私が二人のそれを解除出来たら良かったんだけど」
膝を突かされた体制のまま拘束されているクロと、右足首をクロの身体を捕らえている漆黒の楔の一部に繋がれてしまった真昼。二人の前に膝を折って座った瑠璃は眉を下げながら、申し訳なさそうな面持ちで言った。
「いや・・・・・・瑠璃。この状態は確かに向き合えねーけど・・・・・・。お前までその枷を使われて、無理に拘束されなかったのは良かったとオレは思うぞ」
「そうだよ、瑠璃姉。俺もクロも、ここから動けないっていう以外は何ともないからさ」
そんな瑠璃に対しクロと共に、気にやむ必要はないのだと答えた真昼は、
―――――C3に何かあるのは間違いない。
―――――ここで椿のこと・・・吸血鬼のことちゃんと知ろう。
組んだ両腕を膝の上に置きながらこの先どうすべきなのかと思案を巡らせる。
と―――――
〝―――――お前はぼくの友達を殺したのに!―――――〟
〝―――――先生は君が・・・殺しちゃったんでしょ?―――――〟
真昼の意識の内には、ライラと椿―――――悲痛な言葉を口にした二人の吸血鬼の姿が浮かんできて。
―――――どちらかがいなくなればいいって問題じゃないんだ。
―――――攻撃して・・・誰かが悲しんで。やり返して・・・。
―――――ずっと連鎖して続いていく。
―――――理由や・・・気持ち。
―――――ちゃんと自分で理解して進まなきゃ・・・。
やがて真昼が自身の中で、そう心を決めた時。
―――――吊戯さんも、心の中に〝痛み〟を抱えている。
―――――だから私たちのことを、〝信用〟してくれないんだと思う。
―――――だけど、〝一緒〟に行動をして・・・・・・。
―――――私たちのことをちゃんと、〝知って〟貰うことができたなら・・・・・・。
瑠璃も胸元の『鍵』を両手で握りしめながらそんな想いを抱いていた。
そして〝主人〟と〝ミストレス〟―――――二人の胸中は『絆』で繋がった
そこでクロもまた、今の己自身の『偽らざる思い』を言葉にして紡ぎ出すべく口を開いたのだ。
「なあ―――――・・・真昼、瑠璃。
「―――――!!」
真昼は呆然と目を見開きながらクロを見遣り。
「クロ・・・・・・」
瑠璃は緊張した面持ちでクロの真紅の瞳を見つめ返す。
と―――――
「真昼も、瑠璃も。サーヴァンプ7人も全員含めてだ」
クロは真昼と瑠璃を見据えながらそう明言した後に。
「あー・・・だからなんつーか真昼風にシンプルに言うとー・・・・・・手を貸してくれ」
口ごもりながらも、自分と一緒に戦ってほしいと、真昼と契約をしてから初めて、その言葉をクロは口にしたのだ。
以前、C3に真昼と瑠璃と共にクロは連れてこられた時―――――
〝―――――話してねーことはけっこうある・・・でも多分話さねー―――――〟
〝―――――めんどくせー・・・。オレとは関係ねー・・・―――――〟
そんなふうに、様々な事柄と向き合うことを拒絶する言葉を口にしていた。
それが―――――再び訪れることとなったC3において―――――クロの口からそんな言葉を聞けるとは。
自身の心の中に歓喜の感情が沸き上がるのを感じた真昼は―――――
「・・・当たり前だ。ここはシンプルに考えて・・・俺達だろ!!」
ガシッと左手でクロの右肩を力強く真昼は掴むと、ビシッと右手の親指を立てて二ッと笑みを浮かべて。
瑠璃もまたクロに向かってにっこりと微笑みながら、
「そうね! 勿論、私も一緒にやるわ!!」
グッと両手を握りしめつつ、気合の入ったガッツポーズをして見せると。
クロはらしくないことを口にしてしまったことに居心地の悪さを覚えたようで。真昼と瑠璃から視線を逸らすと「やっぱ向き合えね―――――~」とお決まりの台詞を漏らしたのだ。
「C3に来たのは前進のはずだ・・・前進に変えよう」
「そうね。クロと私が吊戯さんと離れられないっていうのも。逆に考えれば、吊戯さんの行動に注意を払うことができるってことだもの」
そんなクロに対して、真昼はさらに前向きな意思を伝えて。
瑠璃も自分たちの今の状態をプラスのモノとして活用ができると利点を口にしたものの―――――。
「なかなか・・・めんどくささがマックスになってきたぞ・・・」
「さっきの気合はどうした! がんばれよ、ようやく真相に近づいてるんだから」
話もややこしくなってきた・・・とぼやいたクロに対し、待ってろ、今から俺がシンプルにしてやるからっ―――――と真昼が宥めるように言った処で。
「そうよ、クロ。せっかく、さっきカッコいい台詞を言ったんだから」
瑠璃が微笑を浮かべながらクロを褒めると。
ニャ・・・・・・!? とクロは瞠目した面持ちで固まった後に。
「あ~、そ―――いや、ロウレスと天使ちゃん。ど―――したろ―――な・・・・・・。ロウレス、そろそろ泣いてんじゃね―――か・・・・・・」
俄かに落ち着かない様子で視線を彷徨わせると、話題転換を図るように強欲組の二人のことを口にして。
―――――なんか珍しい光景だな・・・・・・クロが瑠璃姉の言葉であんなふうにドギマギするなんて。
そんなクロの様子に、真昼は心中で驚嘆しながら、想いを巡らせる。
―――――なあ、クロ。人と吸血鬼だってみんながみんな憎みあってるわけじゃないよな。
―――――クロと瑠璃姉がお互いを本当に大切に想い合ってるっていうのは俺の目から見ても分かるんだ。
―――――だからこそ一緒に戦う〝俺達〟の中にC3の人達も含められれば・・・。
「や~~~遅くなってごめんよ~」
そこにぱたぱたという軽快な足音を響かせながら、自室から忘れ物を取ってきた吊戯が姿を見せて。
―――――まずはこの人・・・狼谷吊戯さん。
―――――この人が俺とクロのことを信用してくれたら。
―――――きっと椿を止める手がかりを得られる・・・。
真剣な面持ちで真昼が吊戯を見遣ると、吊戯は不思議そうに真昼を見返した後に。
「良かった、瑠璃ちゃん。ちゃんと大人しく二人と一緒にいてくれたんだね」
吊戯は笑みを浮かべながら瑠璃にそう声を掛けてきて。
―――――吊戯さん、瑠璃姉に対しては微妙に接し方が違うんだよな・・・・・・。
―――――・・・・・・御国さんもだけど。だからなのか?
そんな吊戯の様子に真昼が眉を顰めると。その場で立ち上がった瑠璃が吊戯に対し、
「あの、吊戯さん。クロと真昼君のこと、動けるようにしてあげて貰えませんか?」
「うん? そうだね。二人とも、お待たせだったね~~~今、動けるようにするよ」
すると吊戯は、すんなりと頷いた後に、パチンと右手の親指と人差し指を鳴らすと。魔法自体は解かないけどね―――――と言いながら、クロと真昼の拘束を解除したのだ。
「おー・・・?」
「あっ・・・いいんですか」
瑠璃が口添えしてくれたとはいえ、あまりにもあっさりと解放されたことに対し、クロと真昼が戸惑いの色を浮かべるも。
「ああ、うん」
吊戯は平然たる様子のままで応じてきて。その後に、ようやく動けるようになったと立ち上がったクロに対し、
「さっきはありがとね。ごめんよ」
礼と謝罪―――――この二つをきちんと、軽くではあるが会釈をしながら口にしたのだ。
吸血鬼であるクロに対して、人と対するのと変わらぬ接し方をしてきた吊戯を真昼は呆然と見つめる。
と―――――
「あ―――――いたいた。吊戯―――――、無事か―――――」
修から連絡あったぞ―――――とオフィスから社宅フロアまで、吊戯を探しに弓景と共にやってきた盾一郎が呼び掛けてきて。
「あっ、盾ちゃん、弓ちゃん。いや―――――ちょっと国ちゃんがねー」
此方にやって来た二人に御国との一件を吊戯は話したのだ。
「こんなとこで御国とやりあったのかよ」
そうして吊戯の口から事情を聞き終えた処で。盾一郎は呆れた面持ちで左手を後頭部に据えると、眉を顰めつつ吊戯を見遣りながら「・・・ケガは?」と敢えて確認の言葉を投げかけたものの。
「問題ないよ~。クロちゃんに制限もかけたし。あと、瑠璃ちゃんにもね」
喉元にくっきりと策条痕が残っているのにも拘らず、吊戯は平然とした態度のままでそう告げてきて。
「お前、瑪瑙さんにまで、制限かけたのか・・・・・・。まぁ、弓の魔法を突破された件があるから仕方がないのかもしれないが。―――――それじゃあ、大分強引になったが・・・予定通り進めるか」
そんな吊戯に対し盾一郎が、はぁ・・・と溜息を漏らしながら口にした言葉に。
―――――まだC3側には俺達の話を聞く気はない・・・。
―――――どうしたら・・・。
真昼が眉根を寄せながら口をへの字に曲げる。
瑠璃の肩に乗った黒猫も、ま―――た、むこ―――のペースに・・・と半眼で盾一郎を見遣る。
と―――――
「さ―――――て。お前ら、楽しい職場見学の時間は終わりだぜ?」
ニヤリと笑みを浮かべた弓景が首から下げていた一本の黒い鍵を右手の人差し指でチャリと掲げながらそう言ったのに続いて。
「大人しく監禁されてもらおっかな~~~?」
吊戯もまた、下衆な笑みを浮かべながらそんな台詞を口にすると。
「楽しそうだな、お前ら・・・」
悪ふざけをしている二人に盾一郎が呆れた様子になった中。
「・・・!!」
ギクッとなった真昼とともに瑠璃もまた、眉根を寄せてしまう。
―――――月満さんが手にしているあの『鍵』。あれはここに来る前に使われたモノと恐らく同じものだわ。
―――――私もクロも制限をかけられてしまっている中で、またあの魔術を行使されたりしたら・・・・・・。
「いやーサクッと済みそうで良かった―――――・・・・・・って。なんか弓ちゃんビミョーにテンション低くない?」
そんな中、吊戯は弓景の様子に微かな違和感を覚えたらしく、「どしたの? 便秘?」と尋ねかけた上で、野菜食べな? と言うと。
「あ―――――さっき俺が叱ったからショゲてんだ」と盾一郎が真顔でそう答えたのだが。
その刹那―――――ドスと勢いよく弓景が背後から左手で拳打を繰り出してきて。
「いてっ」と盾一郎が呻きながら弓景を睨むと。
「ショゲてねっつの」
叱られてもね―――――し!! といきり立った状態となった弓景は、
「なあ吊戯・・・肌乾燥してねーか?」
「いや? いつでもウルウルだけど?」
「すげーイイハンドクリームがあんだよ・・・塗ってやっからよ・・・」
首を傾げた吊戯に右手でのりが詰まっているハンドクリームの入れ物を掲げて見せると。
「!」
吊戯は思い出した! という様子で右手の親指と人差し指を立てて。
「はっは!! あははははははは、それ入れ替えんの大変だったよ~!」
「逃げんなテメェ、こっち来い!」
だだだだだと脱兎の勢いで走り出した吊戯を弓景が「デコに塗りたくってやる!!」と追いかけていき。
「廊下は走るなよー」
盾一郎が呆れ顔で二人にそう言うもその声が届く事は無く。
「さっきコレのせいで盾とケンカになったんだぞ」
「はっは! 弓ちゃんと盾ちゃんの件かはいっつもくだらないな―――――」
「お前が言うな」
突発的に騒がしい追いかけっこが始まった中。
―――――この人達がC3で一番強い3人・・・。
小学生の子供のように走り回る二人の様子に、これでも・・・と真昼は眉を顰めつつ。
―――――瑠璃姉の部屋は俺達とは別で用意されてるし、それぞれで閉じ込められて動けなくなるのは避けないと・・・っ。
必死に思考をフル回転させる真昼に、どーする・・・オレも瑠璃も戦えねーぞ・・・と黒猫が目を向ける。
と―――――
「・・・あのっ俺達をこの班で働かせてもらえませんか!?」
真昼が彼らに対し、そう切り出したのだ。
そろそろ二人を大人しくさせるべきだろうと動こうとした盾一郎と、吊戯を捕まえて、額にノリを塗ろうとした弓景と、それを防ごうと弓景の腕を掴んでいた吊戯。
三人が「はあ?」と呆気にとられたような面持ちで此方に振り返ってくる。
真昼は瑠璃の肩に乗っていた黒猫に向かって両手を伸ばしてガシッと掴まえると。
「椿と対峙する戦力として最強なのはシンプルに考えて『オレだろ!!』ってクロも言ってます!!」
ばっと黒猫を三人に対し、突きだして見せたのだ。
黒猫は突然の主人の宣言にギョッとした様子で固まってしまう。
真昼はそんな黒猫の様子を気にすることなく、さらに三人に向かって言い募る。
「こいつ絶対役に立ちます。いい奴です。一緒に働かせてください」
「イヤ・・・オレ一応ニート吸血鬼って設定で・・・」
働いたら負け・・・と冷や汗を流しながら黒猫は助けを求めるように、に゛ゃ―――――・・・と瑠璃のほうに目を向ける。
しかし―――――
「そんなの信用できるわけねーだろうが。吸血鬼だぞ」
「月満さん、約束します。クロは絶対むやみに人を攻撃したりしません」
否と唱えた弓景に対し、瑠璃もまた胸元で右手を握りしめると、真摯な眼差しで訴えを口にして。
「真昼君も私も、人だとか吸血鬼だとかじゃなくて、
きっぱりとした口調でそう言い切ると。
―――――そーゆーの向き合えねーって・・・。
―――――瑠璃、お前、最近真昼の影響大分受けてねーか?
瑠璃の意識の内に何とも言えない面持ちとなったクロがそんなふうに語り掛けてきて。
「無理。まず俺はテメェらみたいなガキが嫌いだ」
顰め面になった弓景がそう言い返してきて。
「出ました~~~弓ちゃんのとりあえず全部嫌いって言っておくスタイル~~~」
それに合いの手を入れるように吊戯が、はっはと笑いながら言葉を続ける。
「でも、瑠璃ちゃんはオレ達より確かに年下だけど。ガキじゃないでしょ? それに弓ちゃん、瑠璃ちゃんのことは気に入ってるんじゃないの?」
そうして吊戯が笑みを浮かべながら揶揄うような口調でそう言うと。
「うっせー吊戯!! そういう余計なことは言わなくていいんだよ、ボケが!!」
ムギュ~ッと吊戯の頬を弓景は引っ張っていて。
「ほんひょのこといっひゃだけなのに~~~」
吊戯は痛みを堪えるように眉を下げながら弓景に言い返す。
そんな二人のやり取りに真昼は戸惑いの面持ちになりながらも、
「な・・・何がダメなんですか。俺達も何か手伝いますし・・・っ」
必死にまた訴えかけたのだが「イラネ」と弓景の反応はすげないままで。
そんな中、盾一郎が逡巡するように右手を自身の顎に据えると。
「まあ、いいんじゃねぇか」と賛成の言葉を口にしたのだ。
盾一郎の口から出たまさかの台詞に弓景が唖然とした様子で顔を引き攣らせるも。
「吊戯の監視があれば問題ないだろ。人手が大いに越したことはないし。戦力としては申し分ない」
笑みを浮かべながらそう盾一郎は言い切ってしまう。
そこですかさず真昼が「それにほらっ。俺達が一緒のほうが吊戯さんの仕事に影響も出ないと思います!」と言葉を紡ぎ出し。瑠璃もまた眉を下げながらひたむきな眼差しで吊戯を見遣ると。
「そうね。クロも私も吊戯さんとは距離の制限があるんですし・・・・・・!」
「え・・・いいよ・・・瑠璃ちゃん。オレのことは気にしないで。オレ仕事にやりがいとか求めないタイプだし。君達の近くでごろごろしてるだけで給料もらえるならそのほうが・・・」
吊戯は僅かにたじろいだような面持ちになりながら遠慮するというように右手を振って見せてきて。
その一方で弓景が眉を顰めながら盾一郎に話しかける。
「・・・なんだ? 妙にあのガキとアイツに肩入れするじゃねーか」
「べつにそういうわけじゃねぇよ。ただ・・・まぁ少し
盾一郎は弓景に応じながら、フッと視線を真昼と瑠璃のほうに向ける。
―――――あの二人なら、もしかしたら吊戯のことを・・・・・・。
その時、吊戯はいつの間にか真昼の手の中から抜け出して瑠璃の傍に戻っていた黒猫を、両手で抱え上げると「オレ達こそが真の怠惰コンビだったのかもしれない!」と笑っていて。
「やめてください。本当に最強のヒモコンビになりそうです」とギョッとなった真昼は突っ込みを入れて。
「そうね。そうなったら私も真昼君もお世話が二倍になっちゃうわね」と瑠璃はフフッと笑みを零していた。
「いや―――――こうなると修ちゃんの〝備え〟が当たったってことになるのかなぁ」
それから程なくして感慨深げな口調で吊戯が漏らした言葉に「あ?」と弓景が怪訝な目を向けると。
ピュッと吊戯から解放された黒猫が瑠璃の腕の中にやってきて。
「ほら。さっき言ってた〝忘れ物〟。修ちゃんに持ってくるよう頼まれてたんだけど」
吊戯は部屋から持ってきた手提げ袋を掲げて見せてきて。
「これ国ちゃんが昔
「!」
真昼がハッと目を瞠りながら吊戯に目を向けて。
「御国さんが着ていたってことは・・・・・・」
瑠璃も呆然とした面持ちで吊戯を見返す。
と―――――
「出たぜ。修平の予知能力」
〝備え〟の範囲こえてんだろと弓景が呆れたように呟いて。
「ここ出てくときに置いてっちゃって・・・もったいないからオレが寝間着にしてたんだよね」
「あー・・・お前着てたな。寝るときたまに・・・」
思い出した様子で弓景が漏らした言葉に、
「あっ。クリーニング済みだから大丈夫だよ!」
はっはと吊戯は笑いながら手にしていた袋を真昼に差し出してきて。
「あと。実は修ちゃんからもう一枚、予備で預かった分も一緒に入ってるんだけど。―――――二人共それを着るなら・・・
しかめっ面になった弓景と笑みを浮かべた盾一郎の間に立った吊戯が肩越しに此方に振り返りながらそう告げてきた時。
真昼と瑠璃の二人は―――――袋から取り出したC3の制服の上着に、緊張した面持ちで袖を通してバサと身に纏うと。自分たちの覚悟を示すように、バチンとC3の紋章を象ったもので襟元を留めて見せたのだ。
【本館/21・5/15/別館/21・5/15掲載】
★千錯万綜(せんさくばんそう)⇒様々なことが複雑に入り混じっていること。
