第二十章『不倶戴天の関係』
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「「・・・・・・!?」」
「瑠璃姉っ!! クロっ!! 二人とも、平気か・・・・・・!?」
反射的に手で喉に触れた瑠璃とクロに、真昼が蒼白な面持ちで問いかける。
その間にトンと此方から少し距離を取った場所にまた着地した吊戯は、
「はっは! 知ってる? 国ちゃん! こういうのを『先手必勝』というんだよ!」
ぱっと笑みを浮かべると、左右の手の親指と人差し指を掲げながら、悠々とした態度で告げてきたものの。
「吊戯さん! どうしてこんなところで・・・っ。しかも、瑠璃さんにまでやるなんて!!」
ご立腹極まりない面持ちになった露木が吊戯を非難すると。
「えー? 大丈夫だって! 塔間さんが止めなかった んだから問題ないってこと・・・」
吊戯が羽織っていた上着をバサと翻しながら、小首を傾げつつ露木にそう言い返してきて。
「な・・・? 何ですか、今の魔法 ・・・!?」
そんな吊戯に対し、今度は真昼が色を失った面持ちで抗議をする。
吊戯は目を瞬かせながら「うん」と真昼を見遣った後にニヤッと笑みを浮かべると、
「これでもう、瑠璃ちゃんとキミはオレの管理下だ。これからオレと一定距離以上離れることはできないし。反抗すれば強制的に拘束もできる」
「な・・・っ」
吊戯から告げられた言葉に真昼が絶句した一方で。
「えっと・・・・・・」
「あ―――――・・・?」
瑠璃とクロが揃って、困惑の面持ちで眉を顰めると。
「あんまりやりたくないから、二人とも言うこと聞いてほしいな~。とはいえ、瑠璃ちゃんに変なことをするつもりはないから安心してくれて大丈夫だよ♥」
はっは! と笑い声を上げた吊戯から、
「まあ、三人オソロイってことで♥ 仲よくしよ♥」
自身の首につけている黒いチョーカーを右手の親指と人差し指で示しながら、左手の親指と人差し指を向けられて、そんなふうに言われたものの。
「それはオレも瑠璃もけっこーです・・・」
「そうね・・・・・・吊戯さん、これ解除するにはどうしたらいいんですか?」
眉を顰めながら両掌を胸の前に出したクロとともに、瑠璃もまた眉を寄せつつ吊戯を見返すと。
「ん? これはね、オレ自身が解除するか、オレが死ぬまで外せないから♥」
「はあ・・・・・―――――」
―――――吊戯さんを説得するのはかなり骨が折れそうな気がするわ。
吊戯の口から紡ぎ出されたその返答に、瑠璃は目を伏せながら思わず溜息を漏らしてしまう。
「めんどくせー・・・。オレは引きこもり推奨派だぞ・・・」
そしてクロもまたそんなふうにぼやいた後はポフと黒猫の姿に変わってしまい。
にゃ―――――と鳴きながら、瑠璃の右肩に飛び乗ると。
「おい、クロ・・・!」
あきらめ早いな!! と真昼が呆れた面持ちで顔を顰めたのだが。
「だいじょうぶだよ! オレもインドアっていうかアンダードアって感じだから!」
吊戯はこちらの反応を然程気にした様子もなく、飄々とした態度のまま話し続ける。
「いや―――――~国ちゃんがごちゃごちゃ言い出したせいでちょっと手順が強引になっちゃったけど・・・・・・」
そうして吊戯が御国のことを口にした時―――――上体を起こした御国は地に膝を突く羽目になってしまった際に、手放してしまっていた帽子を拾い上げると。
「・・・ジェジェ」
冷然とした声音で主人に名前を呼ばれた黒蛇がシュルッと素早く吊戯の右脚に絡みついていって。それに気づいた吊戯が脚に目を向けると、シャッと黒蛇の牙が左頬を掠めて。
「・・・・・・ジェジェさん!?」
それを目にした瑠璃が驚愕の声を漏らした瞬間―――――吊戯の頬から微かに流れ出した血を媒介として、ズズと黒い輪の付いたロープがそのまま吊戯の首を狙うように具現化したのだ。
「おっとぉ、これは・・・」
これにはさしもの吊戯も微かに引き攣ったような笑みを浮かべていて。
吊戯に対する怒りで我を忘れた面持ちとなった御国がパチンと指を鳴らすと、
―――――〝お気に召すまま 〟!!!―――――
左手に人形 をぶら下げた女性の姿が顕現し、右手側にいた吊戯の首にはロープの輪が掛かってしまっていて。一瞬の後に人形の重さが増して勢いよく下に向かって込んでいくと―――――その反動で吊戯の身体はガクンとぶら下がってしまい、そのまま首を締め上げられてしまう。
「ん、う」
何とかロープを取り外そうと吊戯は苦悶の面持ちになりながら両手を伸ばすも、ギッと喉元に食い込んできて。
「心配しなくていいよ? 瑠璃ちゃん。真昼くん。そんな邪魔な魔法・・・オレが今すぐ外してあげるよ」
「え・・・・・・!?」
「な・・・!?」
御国が紡ぎ出した言葉に瑠璃と真昼が絶句すると。
「ちょっ・・・御国先輩!!」
露木が御国を止めようと駆け寄ったのだが、聞き入れられる事は無く。
「知ってる? 吊戯さん。こういうのを『迅速果断』って言うんだよ」
「待って下さい!! 御国さん!!」
「そうですよっ!! これはやりすぎ・・・っ!!」
ギ、ギシッ、と縄の軋む音とともに「んっ・・・は、う・・・っ」と呻き声を漏らした吊戯に冷徹に語り掛けた御国に対し、瑠璃と真昼が必死に訴えかける。
けれど、御国はそれにも応えることはなく―――――
「ここで死ね」
壮絶な笑みを浮かべながら、吊戯に向かってそう言うと。
まだ意識があった吊戯もまた、死線をさまよう状況であるのにも拘らず、ニヤリと笑みを浮かべながら応じて。
その二人の様を目にした刹那―――――
―――――・・・・・・えっ!?
瑠璃の意識の中に〝とある記憶〟が流れ込んできたのだ。
『この術を人間相手に使うのはあんたが二人目』
そう言ったのはいまの御国の年齢よりも若い―――――フード付きのC3の制服に身を包んだ10代半ばくらいの少年時代の御国で。
『へ―――――そのロープが武器 ? 実演して見せてくれるんだね~~~。オレ死んじゃう?』
御国が話していた相手はいまとあまり容姿が変わっていない様子の吊戯だった。
『死ぬような術ならこんな気軽に見せるわけないだろ』
そして部屋の二段ベッドの下の段に腰かけた状態で、冗談半分といった調子で尋ねてきた吊戯をバカなの?と御国は睨みつけると。
『吸血鬼を裁くために考えた術だから普通の人間相手じゃ威力はない』
『本当ならこれまで殺した人間 の分だけ、人形 が重くなるんだよ』
―――――〝お気に召すまま 〟!!!―――――
攻撃技の説明を終えた少年がパチンと指を鳴らした。
「―――――っ!! 御国さん!! このままじゃ、本当に吊戯さんが死んじゃいます!! やめて下さい!!」
そこで我に返った瑠璃がより一層強い口調で御国に向かってそう叫ぶと。
は、と浅く息を吐き出した御国は吊戯を睥睨するように見遣りながら不敵な笑みを浮かべて。
「・・・・・・瑠璃ちゃんもこう言ってることだし。さあ・・・吊戯さん。あんたの意識がトブのが早いか。観念して魔法を解くのが早いか・・・。好きなほうを選びなよ」
『本当ならこれまで殺した人間 の分だけ、人形 が重くなるんだよ』
―――――〝お気に召すまま 〟!!!―――――
あの時はジェジェが御国のことを止めたことによって吊戯は一命を取り留めた。
けれどいまの御国はあの頃とは違う。
他者の制止の言葉を決して受け入れることはしない。
それでは果たして誰がいまの御国を止めることが出来るのだろうか。
「御国先輩! 何を考えて・・・っ」
露木が声を荒げて叫ぶ。が、御国は露木には目もくれることなく。
「・・・それにしても昔よりさらに重くなったんじゃない? このままあんたが死ねば、喜ぶ人も多いんだろうな?」
ギチギチと軋む人形と、いよいよ限界に近付いてきた吊戯を見据えたまま言葉を紡ぎ出す。
「―――――吊戯さんっ!?」
そうして吊戯の両手がぶらっ垂れ下がった状態になってしまったその時―――――
悲鳴に近い叫び声を上げた瑠璃が胸元の『鍵』を発動させて力を使おうとした処で。
人型に戻ったクロがジャケットの裾を鉤爪に変えて、吊戯の首を吊り上げていたロープの先端をブツッと切断したのだ。
そうして御国の武器がその場から消失したことにより、ドサッと吊戯の身体が落ちた処で。
「ごほっ、げほっ、ごほ・・・・・・かはっ」
「吊戯さん!! 大丈夫ですか!?」
喉元を抑えて咽返りながら必死に酸素を取り込む吊戯の傍らに瑠璃が膝を突くと、背中を擦りながら尋ねかけて。
「クロ・・・!」
そしてクロの元にたっと真昼が走り寄ると。
クロは左手を首元に添えながら居心地が悪そうな眼差しを御国に向けていて。
「・・・何かな? せっかく瑠璃ちゃんと君に付けられた、その枷を外してあげようとしたのに」
そんなクロに対して御国がせせ笑うような笑みを返すと。
「別に・・・頼んでねーし。なんつーか・・・C3側が吸血鬼 を自由にさせたくねーのはわかるし・・・。瑠璃はオレの〝ミストレス〟だから、念の為にってことなんだろうしな・・・・・・」
クロは淡々と自身の考えを口にした後にゆっくりと目を伏せると。
「でも今回はそれに力で対抗する気はねーんだ・・・・・・それじゃ今までと変わんねーから・・・な」
「・・・クロ」
クロが漏らしたその言葉に真昼が呆然と目を見開いて。
「えぇ、そうね・・・・・・」
瑠璃がクロに頷き返すと。
「・・・・・・ありがとう、瑠璃ちゃん。オレはもう平気だから。クロちゃんの傍に戻りなよ」
けほっ、と咳いた吊戯がそう告げてきたものの。
「・・・吊戯さん!! 何してるんですか!! 瑠璃さんが傍に行くよりも前に、〝怠惰〟の吸血鬼を拘束してください!!」
その刹那、憤懣遣る方無いといった口調となった露木がそんな叱責を放ってきて。
「!?」
「露木さん!?」
「えっ!? なんで―――――・・・」
ギョッとクロが目を見開き、瑠璃と真昼が当惑の面持ちで露木を見遣るも。
「早く!」
露木がまた、憤りに満ちた声音でそう叫んだ為。
「??」
吊戯は困惑の顔を覗かせながらも、右手をクロに向かって突きだすと。
パチンと術が発動して吊戯のチョーカーから伸びた漆黒の楔がバチッとクロに施された枷と繋がって。
「―――――ッ」
ギュル、ギュルルルルッと、クロの全身にさらに絡みついてきて、地面に膝を突かされる状態となってしまったのだ。
「あ―――――・・・?」
「クロッ―――――!?」
訳が分からないといった様子で呻いたクロの傍に、瑠璃が慌てて走り寄ると。
「露木さん!? どうして・・・」
真昼が露木に向かって声を上げるも。
「理由はどうあれC3 で吸血鬼が力を使うことは許されません。御国先輩も」
露木はソレをバッサリと切り捨てた上で、さらに御国にも釘を刺してきて。
「だけど、クロは吊戯さんを助けただけなのに。こんなこと・・・・・・」
そんな露木に対し、瑠璃が眉を寄せながら繰り言を漏らすと。
「そだね~~~えと・・・瑠璃ちゃん、ごめんよ~?」
まだ状態が落ち着いていない中で、咄嗟に魔法を使った吊戯が蒼白な面持ちで、身体をよろめかせながら謝罪を述べてきたものの。
「助けただけ ? 首を切ろうとして失敗したのかもしれない」
「な!?」
露木の台詞に瑠璃は唖然となってしまう。
「そんなわけ・・・」
そこで真昼が露木に反論をしようとしたものの。
「違う種なんですよ。何を考えているかなんてわかりはしない」
激情に駆られた露木は一方的にそう決めつけてきて。此方の話を聞く様子は見られず。
「・・・修平」
「修ちゃん・・・」
常の理性を失ってしまっている露木に対し、御国と吊戯が揃って冷めたような目を向けるも。露木が自分を取り戻す様子は見られず―――――。
「C3 では絶対吸血鬼を自由になんてさせない。下位を壊して、椿も壊して、壊されて当然だ!! 存在の価値もない!!」
「・・・・・・!!」
握りしめた左手の拳でドンと壁を殴りつけながら露木が口にした言葉によって、瑠璃の顔色はさらに蒼白なものになってしまう。
―――――本当にあんな作戦を・・・。
「露木さん・・・前にC3の理念は『共存』だって・・・っ」
そして瑠璃と同様にショックを受けた面持ちになった真昼が、以前露木の口から聞かされたその言葉を呟くと。
「共存!? 俺の知ったことじゃない!! 俺は吸血鬼 が嫌いだ。消えてなくなるべきなんだ!!」
露木の絶叫がフロアの中に響き渡って―――――しん・・・と場が静まり返った処で。
「〝吸血鬼〟・・・つってもオレ達は、今回は被害者で・・・真祖 も下位吸血鬼 も椿にやられて困ってんだ・・・。だから協力して椿を止めたいと思って―――――・・・」
はぁ、はぁ、と肩で息を吐き出した露木に向かってクロが再び自身の想いを口にしたのだが。
「はっは! 戦争において被害者も加害者もないでしょ。始まっちゃえば何が正しいとかもう関係ない。どちらかを殺しきるまで終わらないよ」
右手の親指と人差し指を掲げた吊戯が、冷ややかな目でクロを見遣りながらそう告げてきて。その言葉に対し、クロはグッと気まずそうに眉を寄せるも―――――
「―――――・・・オレは・・・オレ達はあいつを殺せば終わると思った。これ以上、争いの種が生まれることはないだろうと。・・・でも椿が現れた」
〝―――――先生は君が・・・殺しちゃったんでしょ?―――――〟
クロの意識の内に椿から向けられた台詞が蘇る。
「椿を殺したところでまた別の誰かが出てくるぞ。繰り返すだけだ」
そうして自身の〝思念〟をクロは述べたのだが―――――。
「じゃあ吸血鬼そのものが消えればいいのでは?」
しかし、それを耳にした露木がまた、いまにも射殺さんばかりの眼でクロを睨みつけながら残酷な言葉をぶつけてくる。
「手始めにこの地域のすべての吸血鬼を消して。今、東京支部に捕らえている下位もすべて処分する。こちらは本気ですよ。これはもう戦争だ。何百年も先送りにしてきたこの問題に終止符を打つときなんだ」
「ちょ・・・っ」
そんな露木の言葉に真昼が愕然とした面持ちになった中で。
クロの傍らに膝を突いていた瑠璃が立ち上がると、露木の元に足早に近づいて行って。
「・・・・・・露木さん!! 絶対にそれはやめて下さい!! ・・・・・・そんなことをしたら今度こそ止まらなくなってしまう!!」
露木の右腕を両手でギュッと掴むと、完全に己を失っている露木の目を見据えながら、必死の口調で訴えかけた。
と―――――
「・・・・・・瑠璃さん、どうして貴女は・・・・・・」
瑠璃の瞳が微かに濡れていることに気づいた露木の、吸血鬼に対する怨嗟の感情を宿していた瞳にもまた、ほんの微かに揺らぎのようなものが現れて。
「まあ吸血鬼達もずいぶん人間を殺してきたからね。C3が処理してきたから知られてないだけで。最近は減ったけど組織が把握してるだけでもざっと・・・」
するとそのタイミングを狙っていたかのように、今度は御国が吸血鬼の過去の蛮行について触れてきたものの。
「そんな昔話されたところで実感持てるわけないでしょ~~~。自分は今、平和に生きてるんだからさあ。それにそのおかげでクロちゃんと瑠璃ちゃんは、こうして一緒にいることが出来ているんだから」
はっは!と笑い声を上げた吊戯が御国に最後まで話をさせることをせず、軽快な口調で敢えてクロと瑠璃の繋がりに関して触れると―――――ピクッと露木が肩を震わせて。
「・・・・・・」
それに気づいた瑠璃が露木の腕からそっと手を離すと。視線を俯けた露木はゆっくりと身を屈めて、いつの間にか床に放りだしてしまっていたバインダーを回収した処で。
「・・・吊戯さん。車守さん達と合流してください。あとはお任せします」
床に座り込んでいた吊戯にそう言うと、踵を返してこの場から去って行ってしまう。
「あっ・・・露木さ―――――・・・」
しかし、真昼が露木を呼び止めようとしたのだが。
「まあまあ、真昼くん。ちょっと、そっとしといてやってよ」
御国が真昼の右肩に手を置きながら、そんなふうに声を掛けてきて。
「えっ?」
眉を顰めた真昼に御国は皮肉めいた笑みを浮かべながら斜に構えた口ぶりで告げてくる。
「修平は普段はもっと冷静で社会規範に則った行動をする奴なんだけど。今ちょっと気が立ってるんだよね」
「御国さん、今 ・・・・・・って。何があったんですか・・・・・・?」
その言葉の真意を御国に対して尋ねかけたのは、沈痛な面持ちで露木が去っていった側に目を向けていた瑠璃だった。
すると御国は目を細めながら瑠璃を見返した後に、
「捕まえた椿の下位吸血鬼の中に父親の仇がいたもんだから」
その情報を告示してきたのだが。
―――――父親の仇―――――・・・。
その事柄は瑠璃と真昼に衝撃を与えるには十分すぎるものだった。
椿の下位である面々が人を襲ったことがある、というのは解っていた事だった。
けれど―――――・・・・・・
茫然自失状態に瑠璃と真昼が陥った中。
「はっは! ・・・・・・っと」
壁に手を突きながら、僅かに身体をよろめかせつつ、立ち上がった吊戯が。
「ど―――――したの、国ちゃん? キミこそな~んかイライラしてるね~~~? あっ♥ 二日目かな~~~?」
ぱっと笑みを浮かべると、御国に絡んできて。
「あんた今カンケーないからそこで死んでて♥」
そんな吊戯に対して御国もまた厭味の応酬を返していて。
―――――また、この二人は・・・・・・―――――
瑠璃が思わず小さく溜息を漏らすと、真昼もまた半眼で二人を見遣ったのだが。
「・・・あの、御国さんが吸血鬼を殺すのもお母さんの仇だから・・・ですか」
そんな中で、気づけば真昼はそんな問いかけの言葉を、御国に向かって投げかけていて。
刹那―――――吊戯と言い合いをしていた御国の顔が凍り付いたモノになっていて。
―――――・・・・・・真昼君、それは多分、御国さんの地雷よ・・・・・・。
瑠璃が眉を下げつつ、真昼を見遣った後に、御国のほうにまた目を向けると。
「はっは!! あははははははははは、墓穴!! 完全に墓穴!! 墓穴を掘らせたら世界一だな国ちゃんは!!」
吊戯がお腹を抱えながら大笑いをし始めて。
「よっ、墓穴王!!」
「うるさいんだよ、あんたは!!」
怒り心頭と言った面持ちで、御国が怒鳴ったものの、吊戯は大爆笑をし続けていて。
「墓穴王ご乱心!!」
「ジェジェ!! ほんと殺せ!!」
御国が吊戯を黙らせる為に、黒蛇にそう命じるも。
「・・・・・・子供か・・・・・・」
それに黒蛇は従うことをせず。呆れた様子で、は―――――と深い溜息を吐き出していて。
「あの、吊戯さん。もうその辺で、御国さんをからかうのはやめませんか?」
そろそろやめさせるべきだろうと判断した瑠璃が吊戯にそう言うと。
「ひ―――――~、ひ―――――~、おっかし―――――~、おなかいたいよ―――――~、瑠璃ちゃん」
お腹を抑えながら吊戯がようやく笑い終えたその時には。
すでに御国は此方に背を向けて、さっさと歩き出し始めてしまっていて。
「あっれ~~~~~~国ちゃん行っちゃうの?」
それに気づいた吊戯が御国に呼び掛けるも。
「あんたといると精神汚染が止まらないんで」
左手で帽子を被り直しながら、此方には最早目もくれることなく御国はそんなふうに吊戯に言い返してきて。
「はっは、ひっどい♥」
それに吊戯がまた、笑って応じた後に。
―――――あ、そうだ!!
ハッと瑠璃は目を瞬かせると。
「あの、御国さん。御園君と・・・・・・会ってあげてくださいね」
足を止めてチラリと此方に振り返ってきた御国は微かに眉を顰めていたものの。
「んー、そうだね。・・・・・・他ならぬ瑠璃ちゃんからのお願いだしね。うん、考えとくよ」
その後に左手を上げると、笑みを浮かべながらそんな返事を瑠璃にしてきたのだった。
【本館/21・4/25/別館/21・4/25掲載】
「瑠璃姉っ!! クロっ!! 二人とも、平気か・・・・・・!?」
反射的に手で喉に触れた瑠璃とクロに、真昼が蒼白な面持ちで問いかける。
その間にトンと此方から少し距離を取った場所にまた着地した吊戯は、
「はっは! 知ってる? 国ちゃん! こういうのを『先手必勝』というんだよ!」
ぱっと笑みを浮かべると、左右の手の親指と人差し指を掲げながら、悠々とした態度で告げてきたものの。
「吊戯さん! どうしてこんなところで・・・っ。しかも、瑠璃さんにまでやるなんて!!」
ご立腹極まりない面持ちになった露木が吊戯を非難すると。
「えー? 大丈夫だって! 塔間さんが
吊戯が羽織っていた上着をバサと翻しながら、小首を傾げつつ露木にそう言い返してきて。
「な・・・? 何ですか、今の
そんな吊戯に対し、今度は真昼が色を失った面持ちで抗議をする。
吊戯は目を瞬かせながら「うん」と真昼を見遣った後にニヤッと笑みを浮かべると、
「これでもう、瑠璃ちゃんとキミはオレの管理下だ。これからオレと一定距離以上離れることはできないし。反抗すれば強制的に拘束もできる」
「な・・・っ」
吊戯から告げられた言葉に真昼が絶句した一方で。
「えっと・・・・・・」
「あ―――――・・・?」
瑠璃とクロが揃って、困惑の面持ちで眉を顰めると。
「あんまりやりたくないから、二人とも言うこと聞いてほしいな~。とはいえ、瑠璃ちゃんに変なことをするつもりはないから安心してくれて大丈夫だよ♥」
はっは! と笑い声を上げた吊戯から、
「まあ、三人オソロイってことで♥ 仲よくしよ♥」
自身の首につけている黒いチョーカーを右手の親指と人差し指で示しながら、左手の親指と人差し指を向けられて、そんなふうに言われたものの。
「それはオレも瑠璃もけっこーです・・・」
「そうね・・・・・・吊戯さん、これ解除するにはどうしたらいいんですか?」
眉を顰めながら両掌を胸の前に出したクロとともに、瑠璃もまた眉を寄せつつ吊戯を見返すと。
「ん? これはね、オレ自身が解除するか、オレが死ぬまで外せないから♥」
「はあ・・・・・―――――」
―――――吊戯さんを説得するのはかなり骨が折れそうな気がするわ。
吊戯の口から紡ぎ出されたその返答に、瑠璃は目を伏せながら思わず溜息を漏らしてしまう。
「めんどくせー・・・。オレは引きこもり推奨派だぞ・・・」
そしてクロもまたそんなふうにぼやいた後はポフと黒猫の姿に変わってしまい。
にゃ―――――と鳴きながら、瑠璃の右肩に飛び乗ると。
「おい、クロ・・・!」
あきらめ早いな!! と真昼が呆れた面持ちで顔を顰めたのだが。
「だいじょうぶだよ! オレもインドアっていうかアンダードアって感じだから!」
吊戯はこちらの反応を然程気にした様子もなく、飄々とした態度のまま話し続ける。
「いや―――――~国ちゃんがごちゃごちゃ言い出したせいでちょっと手順が強引になっちゃったけど・・・・・・」
そうして吊戯が御国のことを口にした時―――――上体を起こした御国は地に膝を突く羽目になってしまった際に、手放してしまっていた帽子を拾い上げると。
「・・・ジェジェ」
冷然とした声音で主人に名前を呼ばれた黒蛇がシュルッと素早く吊戯の右脚に絡みついていって。それに気づいた吊戯が脚に目を向けると、シャッと黒蛇の牙が左頬を掠めて。
「・・・・・・ジェジェさん!?」
それを目にした瑠璃が驚愕の声を漏らした瞬間―――――吊戯の頬から微かに流れ出した血を媒介として、ズズと黒い輪の付いたロープがそのまま吊戯の首を狙うように具現化したのだ。
「おっとぉ、これは・・・」
これにはさしもの吊戯も微かに引き攣ったような笑みを浮かべていて。
吊戯に対する怒りで我を忘れた面持ちとなった御国がパチンと指を鳴らすと、
―――――〝
左手に
「ん、う」
何とかロープを取り外そうと吊戯は苦悶の面持ちになりながら両手を伸ばすも、ギッと喉元に食い込んできて。
「心配しなくていいよ? 瑠璃ちゃん。真昼くん。そんな邪魔な魔法・・・オレが今すぐ外してあげるよ」
「え・・・・・・!?」
「な・・・!?」
御国が紡ぎ出した言葉に瑠璃と真昼が絶句すると。
「ちょっ・・・御国先輩!!」
露木が御国を止めようと駆け寄ったのだが、聞き入れられる事は無く。
「知ってる? 吊戯さん。こういうのを『迅速果断』って言うんだよ」
「待って下さい!! 御国さん!!」
「そうですよっ!! これはやりすぎ・・・っ!!」
ギ、ギシッ、と縄の軋む音とともに「んっ・・・は、う・・・っ」と呻き声を漏らした吊戯に冷徹に語り掛けた御国に対し、瑠璃と真昼が必死に訴えかける。
けれど、御国はそれにも応えることはなく―――――
「ここで死ね」
壮絶な笑みを浮かべながら、吊戯に向かってそう言うと。
まだ意識があった吊戯もまた、死線をさまよう状況であるのにも拘らず、ニヤリと笑みを浮かべながら応じて。
その二人の様を目にした刹那―――――
―――――・・・・・・えっ!?
瑠璃の意識の中に〝とある記憶〟が流れ込んできたのだ。
『この術を人間相手に使うのはあんたが二人目』
そう言ったのはいまの御国の年齢よりも若い―――――フード付きのC3の制服に身を包んだ10代半ばくらいの少年時代の御国で。
『へ―――――そのロープが
御国が話していた相手はいまとあまり容姿が変わっていない様子の吊戯だった。
『死ぬような術ならこんな気軽に見せるわけないだろ』
そして部屋の二段ベッドの下の段に腰かけた状態で、冗談半分といった調子で尋ねてきた吊戯をバカなの?と御国は睨みつけると。
『吸血鬼を裁くために考えた術だから普通の人間相手じゃ威力はない』
『本当ならこれまで殺した
―――――〝
攻撃技の説明を終えた少年がパチンと指を鳴らした。
「―――――っ!! 御国さん!! このままじゃ、本当に吊戯さんが死んじゃいます!! やめて下さい!!」
そこで我に返った瑠璃がより一層強い口調で御国に向かってそう叫ぶと。
は、と浅く息を吐き出した御国は吊戯を睥睨するように見遣りながら不敵な笑みを浮かべて。
「・・・・・・瑠璃ちゃんもこう言ってることだし。さあ・・・吊戯さん。あんたの意識がトブのが早いか。観念して魔法を解くのが早いか・・・。好きなほうを選びなよ」
『本当ならこれまで殺した
―――――〝
あの時はジェジェが御国のことを止めたことによって吊戯は一命を取り留めた。
けれどいまの御国はあの頃とは違う。
他者の制止の言葉を決して受け入れることはしない。
それでは果たして誰がいまの御国を止めることが出来るのだろうか。
「御国先輩! 何を考えて・・・っ」
露木が声を荒げて叫ぶ。が、御国は露木には目もくれることなく。
「・・・それにしても昔よりさらに重くなったんじゃない? このままあんたが死ねば、喜ぶ人も多いんだろうな?」
ギチギチと軋む人形と、いよいよ限界に近付いてきた吊戯を見据えたまま言葉を紡ぎ出す。
「―――――吊戯さんっ!?」
そうして吊戯の両手がぶらっ垂れ下がった状態になってしまったその時―――――
悲鳴に近い叫び声を上げた瑠璃が胸元の『鍵』を発動させて力を使おうとした処で。
人型に戻ったクロがジャケットの裾を鉤爪に変えて、吊戯の首を吊り上げていたロープの先端をブツッと切断したのだ。
そうして御国の武器がその場から消失したことにより、ドサッと吊戯の身体が落ちた処で。
「ごほっ、げほっ、ごほ・・・・・・かはっ」
「吊戯さん!! 大丈夫ですか!?」
喉元を抑えて咽返りながら必死に酸素を取り込む吊戯の傍らに瑠璃が膝を突くと、背中を擦りながら尋ねかけて。
「クロ・・・!」
そしてクロの元にたっと真昼が走り寄ると。
クロは左手を首元に添えながら居心地が悪そうな眼差しを御国に向けていて。
「・・・何かな? せっかく瑠璃ちゃんと君に付けられた、その枷を外してあげようとしたのに」
そんなクロに対して御国がせせ笑うような笑みを返すと。
「別に・・・頼んでねーし。なんつーか・・・C3側が
クロは淡々と自身の考えを口にした後にゆっくりと目を伏せると。
「でも今回はそれに力で対抗する気はねーんだ・・・・・・それじゃ今までと変わんねーから・・・な」
「・・・クロ」
クロが漏らしたその言葉に真昼が呆然と目を見開いて。
「えぇ、そうね・・・・・・」
瑠璃がクロに頷き返すと。
「・・・・・・ありがとう、瑠璃ちゃん。オレはもう平気だから。クロちゃんの傍に戻りなよ」
けほっ、と咳いた吊戯がそう告げてきたものの。
「・・・吊戯さん!! 何してるんですか!! 瑠璃さんが傍に行くよりも前に、〝怠惰〟の吸血鬼を拘束してください!!」
その刹那、憤懣遣る方無いといった口調となった露木がそんな叱責を放ってきて。
「!?」
「露木さん!?」
「えっ!? なんで―――――・・・」
ギョッとクロが目を見開き、瑠璃と真昼が当惑の面持ちで露木を見遣るも。
「早く!」
露木がまた、憤りに満ちた声音でそう叫んだ為。
「??」
吊戯は困惑の顔を覗かせながらも、右手をクロに向かって突きだすと。
パチンと術が発動して吊戯のチョーカーから伸びた漆黒の楔がバチッとクロに施された枷と繋がって。
「―――――ッ」
ギュル、ギュルルルルッと、クロの全身にさらに絡みついてきて、地面に膝を突かされる状態となってしまったのだ。
「あ―――――・・・?」
「クロッ―――――!?」
訳が分からないといった様子で呻いたクロの傍に、瑠璃が慌てて走り寄ると。
「露木さん!? どうして・・・」
真昼が露木に向かって声を上げるも。
「理由はどうあれ
露木はソレをバッサリと切り捨てた上で、さらに御国にも釘を刺してきて。
「だけど、クロは吊戯さんを助けただけなのに。こんなこと・・・・・・」
そんな露木に対し、瑠璃が眉を寄せながら繰り言を漏らすと。
「そだね~~~えと・・・瑠璃ちゃん、ごめんよ~?」
まだ状態が落ち着いていない中で、咄嗟に魔法を使った吊戯が蒼白な面持ちで、身体をよろめかせながら謝罪を述べてきたものの。
「
「な!?」
露木の台詞に瑠璃は唖然となってしまう。
「そんなわけ・・・」
そこで真昼が露木に反論をしようとしたものの。
「違う種なんですよ。何を考えているかなんてわかりはしない」
激情に駆られた露木は一方的にそう決めつけてきて。此方の話を聞く様子は見られず。
「・・・修平」
「修ちゃん・・・」
常の理性を失ってしまっている露木に対し、御国と吊戯が揃って冷めたような目を向けるも。露木が自分を取り戻す様子は見られず―――――。
「
「・・・・・・!!」
握りしめた左手の拳でドンと壁を殴りつけながら露木が口にした言葉によって、瑠璃の顔色はさらに蒼白なものになってしまう。
―――――本当にあんな作戦を・・・。
「露木さん・・・前にC3の理念は『共存』だって・・・っ」
そして瑠璃と同様にショックを受けた面持ちになった真昼が、以前露木の口から聞かされたその言葉を呟くと。
「共存!? 俺の知ったことじゃない!! 俺は
露木の絶叫がフロアの中に響き渡って―――――しん・・・と場が静まり返った処で。
「〝吸血鬼〟・・・つってもオレ達は、今回は被害者で・・・
はぁ、はぁ、と肩で息を吐き出した露木に向かってクロが再び自身の想いを口にしたのだが。
「はっは! 戦争において被害者も加害者もないでしょ。始まっちゃえば何が正しいとかもう関係ない。どちらかを殺しきるまで終わらないよ」
右手の親指と人差し指を掲げた吊戯が、冷ややかな目でクロを見遣りながらそう告げてきて。その言葉に対し、クロはグッと気まずそうに眉を寄せるも―――――
「―――――・・・オレは・・・オレ達はあいつを殺せば終わると思った。これ以上、争いの種が生まれることはないだろうと。・・・でも椿が現れた」
〝―――――先生は君が・・・殺しちゃったんでしょ?―――――〟
クロの意識の内に椿から向けられた台詞が蘇る。
「椿を殺したところでまた別の誰かが出てくるぞ。繰り返すだけだ」
そうして自身の〝思念〟をクロは述べたのだが―――――。
「じゃあ吸血鬼そのものが消えればいいのでは?」
しかし、それを耳にした露木がまた、いまにも射殺さんばかりの眼でクロを睨みつけながら残酷な言葉をぶつけてくる。
「手始めにこの地域のすべての吸血鬼を消して。今、東京支部に捕らえている下位もすべて処分する。こちらは本気ですよ。これはもう戦争だ。何百年も先送りにしてきたこの問題に終止符を打つときなんだ」
「ちょ・・・っ」
そんな露木の言葉に真昼が愕然とした面持ちになった中で。
クロの傍らに膝を突いていた瑠璃が立ち上がると、露木の元に足早に近づいて行って。
「・・・・・・露木さん!! 絶対にそれはやめて下さい!! ・・・・・・そんなことをしたら今度こそ止まらなくなってしまう!!」
露木の右腕を両手でギュッと掴むと、完全に己を失っている露木の目を見据えながら、必死の口調で訴えかけた。
と―――――
「・・・・・・瑠璃さん、どうして貴女は・・・・・・」
瑠璃の瞳が微かに濡れていることに気づいた露木の、吸血鬼に対する怨嗟の感情を宿していた瞳にもまた、ほんの微かに揺らぎのようなものが現れて。
「まあ吸血鬼達もずいぶん人間を殺してきたからね。C3が処理してきたから知られてないだけで。最近は減ったけど組織が把握してるだけでもざっと・・・」
するとそのタイミングを狙っていたかのように、今度は御国が吸血鬼の過去の蛮行について触れてきたものの。
「そんな昔話されたところで実感持てるわけないでしょ~~~。自分は今、平和に生きてるんだからさあ。それにそのおかげでクロちゃんと瑠璃ちゃんは、こうして一緒にいることが出来ているんだから」
はっは!と笑い声を上げた吊戯が御国に最後まで話をさせることをせず、軽快な口調で敢えてクロと瑠璃の繋がりに関して触れると―――――ピクッと露木が肩を震わせて。
「・・・・・・」
それに気づいた瑠璃が露木の腕からそっと手を離すと。視線を俯けた露木はゆっくりと身を屈めて、いつの間にか床に放りだしてしまっていたバインダーを回収した処で。
「・・・吊戯さん。車守さん達と合流してください。あとはお任せします」
床に座り込んでいた吊戯にそう言うと、踵を返してこの場から去って行ってしまう。
「あっ・・・露木さ―――――・・・」
しかし、真昼が露木を呼び止めようとしたのだが。
「まあまあ、真昼くん。ちょっと、そっとしといてやってよ」
御国が真昼の右肩に手を置きながら、そんなふうに声を掛けてきて。
「えっ?」
眉を顰めた真昼に御国は皮肉めいた笑みを浮かべながら斜に構えた口ぶりで告げてくる。
「修平は普段はもっと冷静で社会規範に則った行動をする奴なんだけど。今ちょっと気が立ってるんだよね」
「御国さん、
その言葉の真意を御国に対して尋ねかけたのは、沈痛な面持ちで露木が去っていった側に目を向けていた瑠璃だった。
すると御国は目を細めながら瑠璃を見返した後に、
「捕まえた椿の下位吸血鬼の中に父親の仇がいたもんだから」
その情報を告示してきたのだが。
―――――父親の仇―――――・・・。
その事柄は瑠璃と真昼に衝撃を与えるには十分すぎるものだった。
椿の下位である面々が人を襲ったことがある、というのは解っていた事だった。
けれど―――――・・・・・・
茫然自失状態に瑠璃と真昼が陥った中。
「はっは! ・・・・・・っと」
壁に手を突きながら、僅かに身体をよろめかせつつ、立ち上がった吊戯が。
「ど―――――したの、国ちゃん? キミこそな~んかイライラしてるね~~~? あっ♥ 二日目かな~~~?」
ぱっと笑みを浮かべると、御国に絡んできて。
「あんた今カンケーないからそこで死んでて♥」
そんな吊戯に対して御国もまた厭味の応酬を返していて。
―――――また、この二人は・・・・・・―――――
瑠璃が思わず小さく溜息を漏らすと、真昼もまた半眼で二人を見遣ったのだが。
「・・・あの、御国さんが吸血鬼を殺すのもお母さんの仇だから・・・ですか」
そんな中で、気づけば真昼はそんな問いかけの言葉を、御国に向かって投げかけていて。
刹那―――――吊戯と言い合いをしていた御国の顔が凍り付いたモノになっていて。
―――――・・・・・・真昼君、それは多分、御国さんの地雷よ・・・・・・。
瑠璃が眉を下げつつ、真昼を見遣った後に、御国のほうにまた目を向けると。
「はっは!! あははははははははは、墓穴!! 完全に墓穴!! 墓穴を掘らせたら世界一だな国ちゃんは!!」
吊戯がお腹を抱えながら大笑いをし始めて。
「よっ、墓穴王!!」
「うるさいんだよ、あんたは!!」
怒り心頭と言った面持ちで、御国が怒鳴ったものの、吊戯は大爆笑をし続けていて。
「墓穴王ご乱心!!」
「ジェジェ!! ほんと殺せ!!」
御国が吊戯を黙らせる為に、黒蛇にそう命じるも。
「・・・・・・子供か・・・・・・」
それに黒蛇は従うことをせず。呆れた様子で、は―――――と深い溜息を吐き出していて。
「あの、吊戯さん。もうその辺で、御国さんをからかうのはやめませんか?」
そろそろやめさせるべきだろうと判断した瑠璃が吊戯にそう言うと。
「ひ―――――~、ひ―――――~、おっかし―――――~、おなかいたいよ―――――~、瑠璃ちゃん」
お腹を抑えながら吊戯がようやく笑い終えたその時には。
すでに御国は此方に背を向けて、さっさと歩き出し始めてしまっていて。
「あっれ~~~~~~国ちゃん行っちゃうの?」
それに気づいた吊戯が御国に呼び掛けるも。
「あんたといると精神汚染が止まらないんで」
左手で帽子を被り直しながら、此方には最早目もくれることなく御国はそんなふうに吊戯に言い返してきて。
「はっは、ひっどい♥」
それに吊戯がまた、笑って応じた後に。
―――――あ、そうだ!!
ハッと瑠璃は目を瞬かせると。
「あの、御国さん。御園君と・・・・・・会ってあげてくださいね」
足を止めてチラリと此方に振り返ってきた御国は微かに眉を顰めていたものの。
「んー、そうだね。・・・・・・他ならぬ瑠璃ちゃんからのお願いだしね。うん、考えとくよ」
その後に左手を上げると、笑みを浮かべながらそんな返事を瑠璃にしてきたのだった。
【本館/21・4/25/別館/21・4/25掲載】
