第二十章『不倶戴天の関係』
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「え、と。なんだか・・・・・・電話の向こう、すごい賑やかなことになってたましたね」
電話を終えるとまた、先を歩き出した露木についていきながら、瑠璃は苦笑を浮かべつつ言った。
前半のやり取りは、露木がしゃべる声しか聴こえていなかったのだが。後半で弓景の叫び声が聴こえてきたあたりからは、ほぼ会話が丸聞こえの状態になっていたのだ。
すると御国が、くくっと意地の悪い笑みを浮かべながら、
「『闇夜トリオ』元気そうだねぇ」と漏らして。
「や、闇夜・・・?」
怪訝そうな面持ちになった真昼が、ダサッと思わず言いかけてしまったのだが。
「『闇夜を駆ける中二病トリオ』の略で。陰でそう呼ばれてんの」
御国は変わらぬ調子でその名の意味を教えてくれて。
「もちろんみんな、バカにして呼んでる」と注釈をしてきたのだが。
「最近じゃ、自称し始めましたよ、あの人達」
露木の口からそんな情報がもたらされて。
―――――闇夜トリオのカワイイ担当です♥
―――――お色気担当です♥
―――――はい、はい、はい、はい、闇夜トリオのイケメン担当がまとめてお持ち帰りだぞ―――――。
特に宴会の席で、その名を彼らは口にするのだという。
そして酒に酔った状態となった吊戯と弓景を盾一郎が回収をする。
その通例パターンが今日に至るまで変わっていないというのは、瑠璃と真昼も知るところとなってしまっている。
―――――車守さん、本当にお疲れ様です―――――
この場にはいない盾一郎に対してそんな同情の念を瑠璃が抱いた中。
〝彼ら〟に関して知るところになってしまった、もう一つの事柄を真昼が口にする。
「あの人達は・・・戦闘班だって言ってましたよね」
「えぇ」
真昼の言葉に露木が頷く。
「C3は・・・いつもああやって下位吸血鬼 を・・・?」
「今日の吊戯さんのことでしたらやりすぎですよ。捕縛でよかったんですから」
そうして真昼が何を知りたがっているのか察した露木からの返答によって。日常的にあのような出来事が繰り広げられているわけではないのかと、真昼とともに瑠璃も一瞬だけ安堵を覚えたものの。
「吊戯さん・・・壊しまくってるみたいだけどほっといていいの?」
しかし、御国が口にした言葉によってそれは否定されてしまう。
―――――え・・・・・・。
そこで呆然と目を見開きながら御国のほうを見遣ると、
「・・・やりすぎではありますが・・・違反者ですから」
それに気づいた露木は当たり障りのない返答を口にしたものの。
「あの人は何でも壊せばいいと思ってる。この吸血鬼騒動であとどれだけ壊すつもりなんだか・・・」
御国が吊戯に対する皮肉を漏らすのと同時に現在の吸血鬼達の情勢を告げてくる。
「数日前から傲慢と強欲の下位吸血鬼が各地で騒動を起こしてる。自分の真祖がやられたと知ったら黙っていられない奴だっているさ。憂鬱 の下位 をみつけてどうにかしてやるって意気込んでるんだよ」
「・・・・・・」
―――――下位吸血鬼の間でそんなことになっていたなんて・・・・・・。
四葉のブレスレットを着けている右腕を、瑠璃は無意識の内に左手で握りしめてしまう。
その時、瑠璃の意識の内に浮かんだのは唯一人だけC3に見つかる前に逃げ切った桜哉の姿だった。
その瑠璃の様を御国は一瞥すると、両手の親指と人差し指で人形の左右の手を持ちながら、「それにこの寒さ 」とブルブルと寒さに身を震わせる仕草をさせつつ、さらに警告するように話し続ける。
「大量に発生した灰塵 の影響で間違いない。灰塵の濃度が上がれば日の光はもっと届かなくなる・・・。早めに対処しないと昼間でも太陽が出ないのは吸血鬼にとって好都合。吸血鬼はより行動しやすいし騒動も増える」
そうして御国が目を眇めながら「これ が椿の目的なのか。と逡巡するように漏らした時、真昼もまた当惑の面持ちになってしまっていたのだが。
「ま、そういうわけなのでC3側もそろそろ本格的に動くでしょ」
そこで御国は重々しくなった雰囲気をぱっと切り替えるように、左手の平を掲げる仕草をしつつ、首を傾けながら笑みを浮かべて見せたものの。
「ある程度の計画はできてるはず。まずは今騒いでる吸血鬼を一旦黙らせるためにお得意 の大規模粛清」
「「・・・・・・っ」」
御国の口から紡ぎ出された聞き捨てならない言葉に瑠璃と真昼は強張った面持ちになってしまう。
「御国先輩、もう黙っ・・・」
そこでこれ以上御国に喋らせるわけにはいかないと、露木が苦言を呈しようとしたものの、それが聞き入れられる事は無く。
「そしてそのあとは至極シンプルな作戦が取れる。下位を人質に使うのが椿に対して有効ってことは真昼くんと瑠璃ちゃんが・・・いや御園が証明してくれたからな。下位吸血鬼を一体ずつ壊して椿をおびき出す。こっちが圧倒的に有利に戦える状況に椿を呼び込んで吊戯さんあたりを使って戦わせて消せば終わりだ」
「どうして・・・・・・そんな・・・・・・」
「君たちが下位を壊さずに捕まえたからこそできることだよ!」
瑠璃が愕然とした面持ちで漏らした言葉に対し、御国は被っていた帽子を右手に持つと、笑みを浮かべながらそんな無慈悲な言葉を投げかけてきて。
「違いますっ!! 私達は・・・・・・っ」
「そんなつもりで殺さなかったわけじゃない!」
その言葉に対して悲痛な声音で反論をしようとした瑠璃に代わって、真昼が両掌を握りしめながら激昂すると。御国の余計な発言を制することが出来なかったために、もたらされたこの厄介な状況に露木は眉間を抑える仕草をしながら、は―――――・・・と深い溜息を吐き出したのだが。
「そんなやり方・・・どっちが〝悪〟かわからないじゃないですか!!」
しかし、その後に続いた真昼の叫びを聞いた刹那―――――
「―――――君はまだ〝正義〟なんてもの信じてるんですか?」
露木は心底呆れ果てたと言わんばかりの眼差しを真昼に向けてきて。
ここでしばらく立ち往生することになるかと思われた中で―――――。
「あれぇ~~~~~~? 山田ちゃん、髪切ったの? 似合ってるね~~~! かわいー♥ かわいー♥」
ぱたぱたぱたという軽快な足音と、軽い調子で女性職員に話しかける吊戯の声が聴こえてきて。
「はいはい。ありがとうございますー」
「吉野ちゃんのそのピアス。それも初めて見る! それもかわいーね♥ 可愛すぎるからこのままオレと付き合っちゃう? はっは!」
どうやら二人の女性職員に吊戯は誘いを掛けたようだった。
「出た~~~クズ~~~。吊戯さん、誰にでもそれ言うー」
けれど、なんでもかわい―――――かわい―――――だし、と先に声を掛けた女性職員からは失笑されてしまい。
「え~~~~~~? やだな~~~本心なのに♥ 今晩食事どう♥」
それでも吊戯はへこむことなく、もう一人の女性職員にも誘いの声をかけたものの。
「「オゴリませんよ貧乏人♥」」
結局、二人から軽くあしらわれてしまい。
「ハモらんでも♥」と笑って返した後に、吊戯は彼女たちと別れて此方へとやって来たのだが。
パタパタパタッ―――――と軽やかな足取りで姿を見せた吊戯と、吊戯の気配を察知して待ち構えるようにそちらを向いて立っていた御国。
二人が対面してから数秒間―――――奇妙な沈黙がその場を支配した。
その間、真昼と瑠璃は緊張と困惑の入り混じった眼差しを御国と吊戯に目を向けていたのだが。
「おやおや~~~~~~!? オレが出張で支部にいないときしか来ないと噂の~~~? 国ちゃんじゃないか~~~!! 久しぶり♥ 今日はオレに会いに来てくれたのかな~~~? 嬉しいな~~~♥」
先に口を開いたのは愛想のいい笑顔から一変して、悪辣な笑みを浮かべた吊戯だった。
そして「はい♥ 面会料♥」と右手を差し出しながら金銭を要求してきた吊戯に対し、御国はぺんとその手を叩く仕草をすると「早く死ね♥」と侮蔑の笑みを返していて。
「あれあれぇ~? 冷たいな~? オレとキミの輝かしい青春の日々を忘れちゃったの~?」
「はい~~~? あんたとの青春の日々なんて身に覚えないですけど~~~?」
その後も嫌味の応酬を繰り広げる二人の姿を見て。
―――――あ・・・この二人・・・―――――
―――――・・・仲が悪いのね・・・―――――
真昼と瑠璃が思わず揃って、憔悴した面持ちになりながら心中でそう呟くと。
「傷ついちゃうな~~~~~~。オレ国ちゃんのためになんでもしたのにな~?」
吊戯は御国に対して、今度は殊勝な面持ちで両手を組みながら訴えかける、という手立てに打って出たものの。
「借金地獄のクズに金を恵んでやろうと労働させてあげただけですけど~~~~~~?」
御国はそれに乗ることはせず、腕の中に人形を抱きながら、はっ、と嘲笑の笑みを浮かべたのみだった。
「あ♥ アベルちゃん、今日も可愛いね♥ 前よりも大人っぽくなった? ステキだね~~~♥ お兄さんといいことしよっか♥」
「オレのアベルを性的な目で見るな、早く死ね」
けれど、対象が自身の大切にしている人形に変わった瞬間、苛立ちに満ちた眼差しで吊戯を睨みつけながら怒鳴り声を上げたのだが。
「・・・うるさい・・・」
そこで人型に戻ったジェジェが、いい加減にしろと言わんばかりの雰囲気を漂わせながら、ガチャと左右の袖口から取り出した銃を二人の眉間に突きつけたのだ。
その結果、二人の睨み合いは一先ず幕を閉じることとなり。
「あっ、ジェジェちゃんも久しぶり♥」と吊戯が姿を見せたジェジェにも挨拶をした処で。
「煽るのやめてくださいよ、吊戯さん」子供ですか、と露木が吊戯を咎めたのだが。
「オレは国ちゃんに対しては常に全力で煽っていくスタイル!!」
ヘイヘイ!! と両手を頭上に掲げつつ、さらに右脚を上げながら、煽りのポーズを吊戯は取って見せてきて。
「似たもの同士もっと仲良くしたらどうですか?」
露木が吊戯の態度に眉を顰めながら、呆れ交じりの口調でそう言うと。
「似てねぇよ」
「国ちゃんがオレの真似をしたせいでとても似てると言われる~~~」
「してないし」
「モノマネ版権料いただきます♥」
「死んで♥」
今度はコントのごとき言い合いが始まってしまったのだが。ジェジェは人型から黒蛇の姿に戻って、付き合いきれないといった様子で御国のスカーフの中から顔を覗かせていて。
「まあ根本的にはほんと全然似てないんだけどね。国ちゃんがオレの愛想のよさをパクっただけで」
「パクってないです。似てないってところは全面的に同意だけど」
はっはと笑いながらそう言った吊戯に対し、御国は刺々しい口調で応じたものの。
「ていうか修ちゃんは」「ていうか修平は」
「オレと国ちゃんが」「オレとこの人が」
「似てると思ってる時点で人を見る目がないってことなんだよねぇ」「似てると思ってる時点で人を見る目がないってことなんだよなあ」
二人は阿吽の呼吸で言葉を紡ぎ出していて。
「えっと・・・・・・二人とも息ぴったりですね」
「似てない・・・ですかね・・・」
瑠璃が苦笑を浮かべながら呟いた言葉に続き、露木もまた何とも言い難い面持ちでそう漏らした後。
「それより吊戯さん、先日の報告書、早く出してください」
あと、あなただけですよ、と話の矛先をすり替えると。
「えっ、盾ちゃんか弓ちゃんがオレのも出してくれてないの? おっかしいな~? じゃあ紙ある? 今、書くから」
吊戯は首を傾げながら露木の傍にやって来て。
「はいはい~~~。吊戯ちゃんの活躍により何となく善戦したものの急な豪雨により逃げられちゃいました―――――と」
露木が所持していたバインダーの紙に、吊戯はそう言いながら記入をしたのだが。
―――――・・・・・・報告書、なのよね? ・・・・・・そんな簡単な文章でいいのかしら。
瑠璃が眉を寄せつつ、吊戯と露木を見ていると。
「はい。あとサインね。カミヤツルギっと」
「適当にも程がありますよ。あと相変わらず汚い字ですね」
露木が顔を顰めながら、読めませんよと吊戯に文句を言っていて。
けれど、そんな二人の様子は何となく気が和むもので。クスッと思わず瑠璃は笑みを零したのだが。
その瑠璃の笑顔を目にした御国はスッと目を細めると、
「吊戯さん、次に吸血鬼の大量虐殺に赴くのはいつなんですかぁ?」
「・・・・・・!」
左手で三つ編みのエクステ部分を触りながら、敢えて軽薄な態度を見せつけるかのようにしつつ、そんな問いを吊戯に投げかけた御国を真昼が唖然とした面持ちで見遣る。
「うん? さあ・・・時期を決めるのはオレじゃないから」
しかし、吊戯は平然とした態度のまま、そんなふうに言い返してきて。
「・・・・・・」
その時、瑠璃の顔が強張っているのに気づいた露木が「まあ、そんな遠くないと思・・・」そう言いかけた吊戯の肩を「吊戯さん!」と制するように掴むと。
「え? なに?」と吊戯が首を傾げて。そこで真昼もまた、グッと眉を寄せながら吊戯のほうに向き直ると―――――
「下位吸血鬼を殺すのはやめてください」そう言い放ったのだが。
「・・・・・・うん?」
すると吊戯は右手を首元に添える仕草をしながら怪訝そうな面持ちで此方に振り返ってきて。
「粛清だとか椿の下位を殺しておびきだすとかそんなのやりすぎだ・・・! ほかにも絶対方法がある! だって」
そんな吊戯に対して、より強い口調で真昼が訴えかけたその時―――――真昼の言葉に込められた強い〝意思〟と〝想い〟は相棒であるクロにもしっかりと伝わっていた。
―――――椿たちは瑠璃姉のことをとても大切に想っていて!!
―――――瑠璃姉も椿たちのことを『大切な家族』だって想ってる!!
―――――だからちゃんと話をすることが出来れば分かり合えるはずなんだ!!
そこでクロは瑠璃の肩から降りて人型に戻ると―――――
「・・・椿とはオレが話をする」
真昼の元に向かい、その〝意思〟を口にした。
「クロ・・・」
真昼が呆然と目を瞠りながらクロを見る。
「椿はオレに何か話そうとしていた・・・」
「残念ですがC3 では吸血鬼の発言・意見に価値はないですよ」
けれど決断をしたクロに対して、冷然とした声音で露木がそう断言をしてきて。
嫌悪の眼差しで睨みつけてくる露木をクロもまた眉を顰めながら見返すと。
「・・・・・・露木さん。それはつまり、クロの〝ミストレス〟である私の発言。もしくはクロの主人である真昼君の意見だったら受け入れてもらえるということですか?」
口を閉ざしていた瑠璃がクロの傍らに立つと胸元の『鍵』を握りしめながら、ジッと露木を見据えてそう尋ねかけたのだ。
「・・・・・・瑠璃さん、それは・・・・・・」
すると露木は微かに当惑の色を瞳の中に覗かせながら黙り込んでしまったのだが。
「椿の下位吸血鬼を壊す順番とか方法は決めたの? 吊戯さん」
その時、御国が吊戯にそんな問いを投げかけて。
「え―――――? だからぁ~~~~~~オレは言われたことをするだけで。オレが決めるんじゃないんだって―――――」
その問いに対して吊戯は話半分と言った調子で応じてきたのだが。
「はは、何それ。やらされてるとでも言いたいの?」
けれど御国はそれに構うことなく、また吊戯に訊き返して。
「・・・捕まえた下位の中には可愛い女の子もいたね。胸が痛むよ」
わざとらしく辛そうに眉根を寄せた吊戯に対し、
「白々しい」
御国もまた嘲るような笑みを返すと。
「真昼くん。それから瑠璃ちゃんも。自分の意見を通したいならそれには力が必要なんだ」
「・・・・・・御国さん?」
コツと靴音を響かせながらこちらに向かってきた御国に目を向けた瑠璃は何となく不穏な予感を覚え眉根を寄せる。すると御国は口の端を上げながら瑠璃に笑みを向けた後、真昼の側に近づいて行って。
「・・・・・・真昼くん。君が力尽くで、この悪魔のような計画を止めてみるかい?」
「・・・・・・えっ?」
自分の背後に来た御国が両肩に手を乗せてきたのと同時に紡ぎ出したその言葉に、真昼もまた胸騒ぎを感じて、微かに身体を強張らせながら当惑の声を漏らしてしまう。
しかし、御国はそれには構うことはせず、真昼の耳元にゆっくりと顔を近づけると、
「狼谷吊戯を殺してしまおうよ。吊戯さんはC3東京支部の最大戦力。最大の捨て駒 。この人が戦えなくなれば椿との戦闘は行われなくなるさ。それに―――――そうすれば、瑠璃ちゃんが大切に想っている椿の下位達も助かるよ」
冷酷な笑みを浮かべながらそう告げてきたのだ。
「―――――・・・・・・っ」
真昼は蒼白な面持ちで固まってしまう。
『悪魔のような計画』を止める手段として御国が口にした『策』はまさに〝悪魔の囁き〟といえるものだった。
けれど御国がそれを真昼に伝えた時―――――別段声を抑えてはいなかった為。
瑠璃には勿論のこと、当事者である吊戯にもその言葉は聞こえていた。
「―――――御国さん、それは間違ってます!! そんな方法じゃ、結局何も・・・・・・っ」
そうして瑠璃が御国に向かって声を上げかけた処で。
「・・・確かにオレみたいに軽率に捨て身になれる 奴がいないと強硬策に出るのは難しいからね。この組織が取れる作戦はかなり限られてくる。はっは! 相変わらず国ちゃんは賢いなあ!」
瑠璃の言葉に被せるようにして、吊戯が笑みを浮かべながら、変わらぬ調子で御国に対して話しかけたのだ。
「・・・弓ちゃんは、今この東京支部内でたぶんオレの次に強いんだけどさ」
それから吊戯はトトン、トン、トン、トンと身体のリズムを整えるかのように、左右の足を動かしながら話し続ける。
「たとえばの話。弓ちゃんが〝怠惰〟の主人 だったならオレ一人じゃあおそらく到底敵わない」
けれど、作戦に関わる話から一転して、何でまたクロの主人が弓景だったらという例え話を始めたのか。
瑠璃が眉を顰めながら吊戯に目を向けると―――――
「だけど、〝ミストレス〟である瑠璃ちゃんが傍にいるとしても。怠惰のクロちゃんの主人は普通の高校生―――――それでも足手まとい が一人いるだけでとーっても戦闘は楽になるんだよね」
吊戯はニヤリと笑みを浮かべた口元に、右手の人差し指を添えながらそんなふうに告げてきて。
「・・・〝枕元で絵本を読んで欲しい〟」
それから喉元の黒いチョーカーに、吊戯が右手で触れながら、そんな言葉を口にすると、ズ・・・と吊戯の周囲にその文字が浮かび上がってきて。
「吊戯さん、ここで・・・!?」
それを目にした露木がギョッとした様子で声を上げるも吊戯は口を閉ざすことはせず。
「〝いい子いい子と頭を撫でて欲しい〟・・・」
両手を組んだ吊戯が続けて紡ぎ出したその言葉に対し、
「・・・相変わらずセンス悪い〝呪文〟使ってんなぁ!!」
御国が不愉快極まりないといった面持ちで吐き捨てるように言いながら突きだした右手にはスカーフの中から這い出してきた黒蛇が纏わりついていて。
「ジェジェ」
主人に名を呼ばれた黒蛇が蛇行するかのようにしながら本性である人型に戻ると。ドガガガガと袖口から出した銃で威嚇射撃をして呪文を唱えるのを止めさせようとしたものの、トトッとすべて躱されてしまったのだが。それを目にした御国が脱いだ帽子を右手で翻しながら「遠慮するなよジェジェ。殺したっていいんだ」
そう言い放ったその刹那―――――
身体を反転させて此方に跳躍してきた吊戯が、そのままその勢いを利用して両脚をジェジェの首にガッと絡めると、床にドゴと転倒させて打ちのめしてしまったのだ。
「えぇ・・・・・・っ!?」
その結果に瑠璃が驚愕の声をあげると。
昏倒してしまったジェジェの近くに、トトンと着地した吊戯がにっこりと得意満面の笑みを浮かべて見せてきたのだが。ジェジェの主人である御国からしてみれば、それは逆鱗に触れるもので。
「死・・・」
吊戯に対して自ら手を下そうとしたものの。御国もまた一足飛びで向かってきた吊戯からスパンと足元を狙って仕掛けられた足技によって、がく・・・とバランスを崩してしまい。
「な・・・っ」
御国が愕然となりながら地面に膝を突くこととなったその隙を吊戯は逃すことなく。
くるんと回転をしながら、また両手を組むと―――――
「〝そして優しく抱きしめて愛しているよと言って〟」
呪文を唱えることを再開した吊戯の手の中に黒い本が具現化して。
「〝私はあなたの宝物〟」
吊戯がそこまで呪文を唱え終えたその瞬間―――――
トプリと周囲が結界に飲み込まれるのと同時に発現した巨大な星が瞬いている舞台の上。
そこでスポットライトに照らされた吊戯がくるりと一回転をすると、大人の姿から幼い子供の姿に変わっていて。
「えっ・・・」
その事象に真昼が呆然と目を見開くと、幼子となった吊戯もまた真昼に目を向けてくるのと同時に両手を広げながら跳躍してきたのだが。
「―――――真昼君!!」
「瑠璃! 真昼! 下がっ・・・」
見た目に惑わされてはならない。吊戯は真昼に何らかの術を施すつもりなのだ。
ハッとした面持ちになった瑠璃が胸元の『鍵』を右手で握りしめながら、衝撃のあまり立ち尽くしてしまっていた真昼を吊戯から庇うように立つのと同時に、クロもまた瑠璃だけに無茶をさせない為に、すぐさまバッと傍らに来たのだが。
「〝一人にしないで 〟!!!」
まるで最初からそれを狙っていたかのように―――――最後の呪文を口にした時、元の姿に戻った吊戯がバン!とクロと瑠璃の首の付け根に向かって両手を突き出してきて。パチッと漆黒の首輪を二人の首に付けてしまったのだ。
【本館/21・4/25/別館/21・4/25掲載】
電話を終えるとまた、先を歩き出した露木についていきながら、瑠璃は苦笑を浮かべつつ言った。
前半のやり取りは、露木がしゃべる声しか聴こえていなかったのだが。後半で弓景の叫び声が聴こえてきたあたりからは、ほぼ会話が丸聞こえの状態になっていたのだ。
すると御国が、くくっと意地の悪い笑みを浮かべながら、
「『闇夜トリオ』元気そうだねぇ」と漏らして。
「や、闇夜・・・?」
怪訝そうな面持ちになった真昼が、ダサッと思わず言いかけてしまったのだが。
「『闇夜を駆ける中二病トリオ』の略で。陰でそう呼ばれてんの」
御国は変わらぬ調子でその名の意味を教えてくれて。
「もちろんみんな、バカにして呼んでる」と注釈をしてきたのだが。
「最近じゃ、自称し始めましたよ、あの人達」
露木の口からそんな情報がもたらされて。
―――――闇夜トリオのカワイイ担当です♥
―――――お色気担当です♥
―――――はい、はい、はい、はい、闇夜トリオのイケメン担当がまとめてお持ち帰りだぞ―――――。
特に宴会の席で、その名を彼らは口にするのだという。
そして酒に酔った状態となった吊戯と弓景を盾一郎が回収をする。
その通例パターンが今日に至るまで変わっていないというのは、瑠璃と真昼も知るところとなってしまっている。
―――――車守さん、本当にお疲れ様です―――――
この場にはいない盾一郎に対してそんな同情の念を瑠璃が抱いた中。
〝彼ら〟に関して知るところになってしまった、もう一つの事柄を真昼が口にする。
「あの人達は・・・戦闘班だって言ってましたよね」
「えぇ」
真昼の言葉に露木が頷く。
「C3は・・・いつもああやって
「今日の吊戯さんのことでしたらやりすぎですよ。捕縛でよかったんですから」
そうして真昼が何を知りたがっているのか察した露木からの返答によって。日常的にあのような出来事が繰り広げられているわけではないのかと、真昼とともに瑠璃も一瞬だけ安堵を覚えたものの。
「吊戯さん・・・壊しまくってるみたいだけどほっといていいの?」
しかし、御国が口にした言葉によってそれは否定されてしまう。
―――――え・・・・・・。
そこで呆然と目を見開きながら御国のほうを見遣ると、
「・・・やりすぎではありますが・・・違反者ですから」
それに気づいた露木は当たり障りのない返答を口にしたものの。
「あの人は何でも壊せばいいと思ってる。この吸血鬼騒動であとどれだけ壊すつもりなんだか・・・」
御国が吊戯に対する皮肉を漏らすのと同時に現在の吸血鬼達の情勢を告げてくる。
「数日前から傲慢と強欲の下位吸血鬼が各地で騒動を起こしてる。自分の真祖がやられたと知ったら黙っていられない奴だっているさ。
「・・・・・・」
―――――下位吸血鬼の間でそんなことになっていたなんて・・・・・・。
四葉のブレスレットを着けている右腕を、瑠璃は無意識の内に左手で握りしめてしまう。
その時、瑠璃の意識の内に浮かんだのは唯一人だけC3に見つかる前に逃げ切った桜哉の姿だった。
その瑠璃の様を御国は一瞥すると、両手の親指と人差し指で人形の左右の手を持ちながら、「それにこの
「大量に発生した
そうして御国が目を眇めながら「
「ま、そういうわけなのでC3側もそろそろ本格的に動くでしょ」
そこで御国は重々しくなった雰囲気をぱっと切り替えるように、左手の平を掲げる仕草をしつつ、首を傾けながら笑みを浮かべて見せたものの。
「ある程度の計画はできてるはず。まずは今騒いでる吸血鬼を一旦黙らせるために
「「・・・・・・っ」」
御国の口から紡ぎ出された聞き捨てならない言葉に瑠璃と真昼は強張った面持ちになってしまう。
「御国先輩、もう黙っ・・・」
そこでこれ以上御国に喋らせるわけにはいかないと、露木が苦言を呈しようとしたものの、それが聞き入れられる事は無く。
「そしてそのあとは至極シンプルな作戦が取れる。下位を人質に使うのが椿に対して有効ってことは真昼くんと瑠璃ちゃんが・・・いや御園が証明してくれたからな。下位吸血鬼を一体ずつ壊して椿をおびき出す。こっちが圧倒的に有利に戦える状況に椿を呼び込んで吊戯さんあたりを使って戦わせて消せば終わりだ」
「どうして・・・・・・そんな・・・・・・」
「君たちが下位を壊さずに捕まえたからこそできることだよ!」
瑠璃が愕然とした面持ちで漏らした言葉に対し、御国は被っていた帽子を右手に持つと、笑みを浮かべながらそんな無慈悲な言葉を投げかけてきて。
「違いますっ!! 私達は・・・・・・っ」
「そんなつもりで殺さなかったわけじゃない!」
その言葉に対して悲痛な声音で反論をしようとした瑠璃に代わって、真昼が両掌を握りしめながら激昂すると。御国の余計な発言を制することが出来なかったために、もたらされたこの厄介な状況に露木は眉間を抑える仕草をしながら、は―――――・・・と深い溜息を吐き出したのだが。
「そんなやり方・・・どっちが〝悪〟かわからないじゃないですか!!」
しかし、その後に続いた真昼の叫びを聞いた刹那―――――
「―――――君はまだ〝正義〟なんてもの信じてるんですか?」
露木は心底呆れ果てたと言わんばかりの眼差しを真昼に向けてきて。
ここでしばらく立ち往生することになるかと思われた中で―――――。
「あれぇ~~~~~~? 山田ちゃん、髪切ったの? 似合ってるね~~~! かわいー♥ かわいー♥」
ぱたぱたぱたという軽快な足音と、軽い調子で女性職員に話しかける吊戯の声が聴こえてきて。
「はいはい。ありがとうございますー」
「吉野ちゃんのそのピアス。それも初めて見る! それもかわいーね♥ 可愛すぎるからこのままオレと付き合っちゃう? はっは!」
どうやら二人の女性職員に吊戯は誘いを掛けたようだった。
「出た~~~クズ~~~。吊戯さん、誰にでもそれ言うー」
けれど、なんでもかわい―――――かわい―――――だし、と先に声を掛けた女性職員からは失笑されてしまい。
「え~~~~~~? やだな~~~本心なのに♥ 今晩食事どう♥」
それでも吊戯はへこむことなく、もう一人の女性職員にも誘いの声をかけたものの。
「「オゴリませんよ貧乏人♥」」
結局、二人から軽くあしらわれてしまい。
「ハモらんでも♥」と笑って返した後に、吊戯は彼女たちと別れて此方へとやって来たのだが。
パタパタパタッ―――――と軽やかな足取りで姿を見せた吊戯と、吊戯の気配を察知して待ち構えるようにそちらを向いて立っていた御国。
二人が対面してから数秒間―――――奇妙な沈黙がその場を支配した。
その間、真昼と瑠璃は緊張と困惑の入り混じった眼差しを御国と吊戯に目を向けていたのだが。
「おやおや~~~~~~!? オレが出張で支部にいないときしか来ないと噂の~~~? 国ちゃんじゃないか~~~!! 久しぶり♥ 今日はオレに会いに来てくれたのかな~~~? 嬉しいな~~~♥」
先に口を開いたのは愛想のいい笑顔から一変して、悪辣な笑みを浮かべた吊戯だった。
そして「はい♥ 面会料♥」と右手を差し出しながら金銭を要求してきた吊戯に対し、御国はぺんとその手を叩く仕草をすると「早く死ね♥」と侮蔑の笑みを返していて。
「あれあれぇ~? 冷たいな~? オレとキミの輝かしい青春の日々を忘れちゃったの~?」
「はい~~~? あんたとの青春の日々なんて身に覚えないですけど~~~?」
その後も嫌味の応酬を繰り広げる二人の姿を見て。
―――――あ・・・この二人・・・―――――
―――――・・・仲が悪いのね・・・―――――
真昼と瑠璃が思わず揃って、憔悴した面持ちになりながら心中でそう呟くと。
「傷ついちゃうな~~~~~~。オレ国ちゃんのためになんでもしたのにな~?」
吊戯は御国に対して、今度は殊勝な面持ちで両手を組みながら訴えかける、という手立てに打って出たものの。
「借金地獄のクズに金を恵んでやろうと労働させてあげただけですけど~~~~~~?」
御国はそれに乗ることはせず、腕の中に人形を抱きながら、はっ、と嘲笑の笑みを浮かべたのみだった。
「あ♥ アベルちゃん、今日も可愛いね♥ 前よりも大人っぽくなった? ステキだね~~~♥ お兄さんといいことしよっか♥」
「オレのアベルを性的な目で見るな、早く死ね」
けれど、対象が自身の大切にしている人形に変わった瞬間、苛立ちに満ちた眼差しで吊戯を睨みつけながら怒鳴り声を上げたのだが。
「・・・うるさい・・・」
そこで人型に戻ったジェジェが、いい加減にしろと言わんばかりの雰囲気を漂わせながら、ガチャと左右の袖口から取り出した銃を二人の眉間に突きつけたのだ。
その結果、二人の睨み合いは一先ず幕を閉じることとなり。
「あっ、ジェジェちゃんも久しぶり♥」と吊戯が姿を見せたジェジェにも挨拶をした処で。
「煽るのやめてくださいよ、吊戯さん」子供ですか、と露木が吊戯を咎めたのだが。
「オレは国ちゃんに対しては常に全力で煽っていくスタイル!!」
ヘイヘイ!! と両手を頭上に掲げつつ、さらに右脚を上げながら、煽りのポーズを吊戯は取って見せてきて。
「似たもの同士もっと仲良くしたらどうですか?」
露木が吊戯の態度に眉を顰めながら、呆れ交じりの口調でそう言うと。
「似てねぇよ」
「国ちゃんがオレの真似をしたせいでとても似てると言われる~~~」
「してないし」
「モノマネ版権料いただきます♥」
「死んで♥」
今度はコントのごとき言い合いが始まってしまったのだが。ジェジェは人型から黒蛇の姿に戻って、付き合いきれないといった様子で御国のスカーフの中から顔を覗かせていて。
「まあ根本的にはほんと全然似てないんだけどね。国ちゃんがオレの愛想のよさをパクっただけで」
「パクってないです。似てないってところは全面的に同意だけど」
はっはと笑いながらそう言った吊戯に対し、御国は刺々しい口調で応じたものの。
「ていうか修ちゃんは」「ていうか修平は」
「オレと国ちゃんが」「オレとこの人が」
「似てると思ってる時点で人を見る目がないってことなんだよねぇ」「似てると思ってる時点で人を見る目がないってことなんだよなあ」
二人は阿吽の呼吸で言葉を紡ぎ出していて。
「えっと・・・・・・二人とも息ぴったりですね」
「似てない・・・ですかね・・・」
瑠璃が苦笑を浮かべながら呟いた言葉に続き、露木もまた何とも言い難い面持ちでそう漏らした後。
「それより吊戯さん、先日の報告書、早く出してください」
あと、あなただけですよ、と話の矛先をすり替えると。
「えっ、盾ちゃんか弓ちゃんがオレのも出してくれてないの? おっかしいな~? じゃあ紙ある? 今、書くから」
吊戯は首を傾げながら露木の傍にやって来て。
「はいはい~~~。吊戯ちゃんの活躍により何となく善戦したものの急な豪雨により逃げられちゃいました―――――と」
露木が所持していたバインダーの紙に、吊戯はそう言いながら記入をしたのだが。
―――――・・・・・・報告書、なのよね? ・・・・・・そんな簡単な文章でいいのかしら。
瑠璃が眉を寄せつつ、吊戯と露木を見ていると。
「はい。あとサインね。カミヤツルギっと」
「適当にも程がありますよ。あと相変わらず汚い字ですね」
露木が顔を顰めながら、読めませんよと吊戯に文句を言っていて。
けれど、そんな二人の様子は何となく気が和むもので。クスッと思わず瑠璃は笑みを零したのだが。
その瑠璃の笑顔を目にした御国はスッと目を細めると、
「吊戯さん、次に吸血鬼の大量虐殺に赴くのはいつなんですかぁ?」
「・・・・・・!」
左手で三つ編みのエクステ部分を触りながら、敢えて軽薄な態度を見せつけるかのようにしつつ、そんな問いを吊戯に投げかけた御国を真昼が唖然とした面持ちで見遣る。
「うん? さあ・・・時期を決めるのはオレじゃないから」
しかし、吊戯は平然とした態度のまま、そんなふうに言い返してきて。
「・・・・・・」
その時、瑠璃の顔が強張っているのに気づいた露木が「まあ、そんな遠くないと思・・・」そう言いかけた吊戯の肩を「吊戯さん!」と制するように掴むと。
「え? なに?」と吊戯が首を傾げて。そこで真昼もまた、グッと眉を寄せながら吊戯のほうに向き直ると―――――
「下位吸血鬼を殺すのはやめてください」そう言い放ったのだが。
「・・・・・・うん?」
すると吊戯は右手を首元に添える仕草をしながら怪訝そうな面持ちで此方に振り返ってきて。
「粛清だとか椿の下位を殺しておびきだすとかそんなのやりすぎだ・・・! ほかにも絶対方法がある! だって」
そんな吊戯に対して、より強い口調で真昼が訴えかけたその時―――――真昼の言葉に込められた強い〝意思〟と〝想い〟は相棒であるクロにもしっかりと伝わっていた。
―――――椿たちは瑠璃姉のことをとても大切に想っていて!!
―――――瑠璃姉も椿たちのことを『大切な家族』だって想ってる!!
―――――だからちゃんと話をすることが出来れば分かり合えるはずなんだ!!
そこでクロは瑠璃の肩から降りて人型に戻ると―――――
「・・・椿とはオレが話をする」
真昼の元に向かい、その〝意思〟を口にした。
「クロ・・・」
真昼が呆然と目を瞠りながらクロを見る。
「椿はオレに何か話そうとしていた・・・」
「残念ですが
けれど決断をしたクロに対して、冷然とした声音で露木がそう断言をしてきて。
嫌悪の眼差しで睨みつけてくる露木をクロもまた眉を顰めながら見返すと。
「・・・・・・露木さん。それはつまり、クロの〝ミストレス〟である私の発言。もしくはクロの主人である真昼君の意見だったら受け入れてもらえるということですか?」
口を閉ざしていた瑠璃がクロの傍らに立つと胸元の『鍵』を握りしめながら、ジッと露木を見据えてそう尋ねかけたのだ。
「・・・・・・瑠璃さん、それは・・・・・・」
すると露木は微かに当惑の色を瞳の中に覗かせながら黙り込んでしまったのだが。
「椿の下位吸血鬼を壊す順番とか方法は決めたの? 吊戯さん」
その時、御国が吊戯にそんな問いを投げかけて。
「え―――――? だからぁ~~~~~~オレは言われたことをするだけで。オレが決めるんじゃないんだって―――――」
その問いに対して吊戯は話半分と言った調子で応じてきたのだが。
「はは、何それ。やらされてるとでも言いたいの?」
けれど御国はそれに構うことなく、また吊戯に訊き返して。
「・・・捕まえた下位の中には可愛い女の子もいたね。胸が痛むよ」
わざとらしく辛そうに眉根を寄せた吊戯に対し、
「白々しい」
御国もまた嘲るような笑みを返すと。
「真昼くん。それから瑠璃ちゃんも。自分の意見を通したいならそれには力が必要なんだ」
「・・・・・・御国さん?」
コツと靴音を響かせながらこちらに向かってきた御国に目を向けた瑠璃は何となく不穏な予感を覚え眉根を寄せる。すると御国は口の端を上げながら瑠璃に笑みを向けた後、真昼の側に近づいて行って。
「・・・・・・真昼くん。君が力尽くで、この悪魔のような計画を止めてみるかい?」
「・・・・・・えっ?」
自分の背後に来た御国が両肩に手を乗せてきたのと同時に紡ぎ出したその言葉に、真昼もまた胸騒ぎを感じて、微かに身体を強張らせながら当惑の声を漏らしてしまう。
しかし、御国はそれには構うことはせず、真昼の耳元にゆっくりと顔を近づけると、
「狼谷吊戯を殺してしまおうよ。吊戯さんはC3東京支部の最大戦力。最大の
冷酷な笑みを浮かべながらそう告げてきたのだ。
「―――――・・・・・・っ」
真昼は蒼白な面持ちで固まってしまう。
『悪魔のような計画』を止める手段として御国が口にした『策』はまさに〝悪魔の囁き〟といえるものだった。
けれど御国がそれを真昼に伝えた時―――――別段声を抑えてはいなかった為。
瑠璃には勿論のこと、当事者である吊戯にもその言葉は聞こえていた。
「―――――御国さん、それは間違ってます!! そんな方法じゃ、結局何も・・・・・・っ」
そうして瑠璃が御国に向かって声を上げかけた処で。
「・・・確かにオレみたいに軽率に
瑠璃の言葉に被せるようにして、吊戯が笑みを浮かべながら、変わらぬ調子で御国に対して話しかけたのだ。
「・・・弓ちゃんは、今この東京支部内でたぶんオレの次に強いんだけどさ」
それから吊戯はトトン、トン、トン、トンと身体のリズムを整えるかのように、左右の足を動かしながら話し続ける。
「たとえばの話。弓ちゃんが〝怠惰〟の
けれど、作戦に関わる話から一転して、何でまたクロの主人が弓景だったらという例え話を始めたのか。
瑠璃が眉を顰めながら吊戯に目を向けると―――――
「だけど、〝ミストレス〟である瑠璃ちゃんが傍にいるとしても。怠惰のクロちゃんの主人は普通の高校生―――――それでも
吊戯はニヤリと笑みを浮かべた口元に、右手の人差し指を添えながらそんなふうに告げてきて。
「・・・〝枕元で絵本を読んで欲しい〟」
それから喉元の黒いチョーカーに、吊戯が右手で触れながら、そんな言葉を口にすると、ズ・・・と吊戯の周囲にその文字が浮かび上がってきて。
「吊戯さん、ここで・・・!?」
それを目にした露木がギョッとした様子で声を上げるも吊戯は口を閉ざすことはせず。
「〝いい子いい子と頭を撫でて欲しい〟・・・」
両手を組んだ吊戯が続けて紡ぎ出したその言葉に対し、
「・・・相変わらずセンス悪い〝呪文〟使ってんなぁ!!」
御国が不愉快極まりないといった面持ちで吐き捨てるように言いながら突きだした右手にはスカーフの中から這い出してきた黒蛇が纏わりついていて。
「ジェジェ」
主人に名を呼ばれた黒蛇が蛇行するかのようにしながら本性である人型に戻ると。ドガガガガと袖口から出した銃で威嚇射撃をして呪文を唱えるのを止めさせようとしたものの、トトッとすべて躱されてしまったのだが。それを目にした御国が脱いだ帽子を右手で翻しながら「遠慮するなよジェジェ。殺したっていいんだ」
そう言い放ったその刹那―――――
身体を反転させて此方に跳躍してきた吊戯が、そのままその勢いを利用して両脚をジェジェの首にガッと絡めると、床にドゴと転倒させて打ちのめしてしまったのだ。
「えぇ・・・・・・っ!?」
その結果に瑠璃が驚愕の声をあげると。
昏倒してしまったジェジェの近くに、トトンと着地した吊戯がにっこりと得意満面の笑みを浮かべて見せてきたのだが。ジェジェの主人である御国からしてみれば、それは逆鱗に触れるもので。
「死・・・」
吊戯に対して自ら手を下そうとしたものの。御国もまた一足飛びで向かってきた吊戯からスパンと足元を狙って仕掛けられた足技によって、がく・・・とバランスを崩してしまい。
「な・・・っ」
御国が愕然となりながら地面に膝を突くこととなったその隙を吊戯は逃すことなく。
くるんと回転をしながら、また両手を組むと―――――
「〝そして優しく抱きしめて愛しているよと言って〟」
呪文を唱えることを再開した吊戯の手の中に黒い本が具現化して。
「〝私はあなたの宝物〟」
吊戯がそこまで呪文を唱え終えたその瞬間―――――
トプリと周囲が結界に飲み込まれるのと同時に発現した巨大な星が瞬いている舞台の上。
そこでスポットライトに照らされた吊戯がくるりと一回転をすると、大人の姿から幼い子供の姿に変わっていて。
「えっ・・・」
その事象に真昼が呆然と目を見開くと、幼子となった吊戯もまた真昼に目を向けてくるのと同時に両手を広げながら跳躍してきたのだが。
「―――――真昼君!!」
「瑠璃! 真昼! 下がっ・・・」
見た目に惑わされてはならない。吊戯は真昼に何らかの術を施すつもりなのだ。
ハッとした面持ちになった瑠璃が胸元の『鍵』を右手で握りしめながら、衝撃のあまり立ち尽くしてしまっていた真昼を吊戯から庇うように立つのと同時に、クロもまた瑠璃だけに無茶をさせない為に、すぐさまバッと傍らに来たのだが。
「〝
まるで最初からそれを狙っていたかのように―――――最後の呪文を口にした時、元の姿に戻った吊戯がバン!とクロと瑠璃の首の付け根に向かって両手を突き出してきて。パチッと漆黒の首輪を二人の首に付けてしまったのだ。
【本館/21・4/25/別館/21・4/25掲載】
