第二十章『不倶戴天の関係』
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不倶戴天の関係
―――――父親か・・・。
―――――26歳・・・10年後か・・・・・・。
―――――なんか大人だなあ・・・。
静けさが漂う車内で真昼がチラリと車を運転する盾一郎の横顔を伺いみる。
と―――――
「えーと城田・・・真昼っつったよな」
信号が赤になった処で車を一時停止した盾一郎が話しかけてきて。
「あ・・・はい。えと・・・すみません。俺、名前がまだ・・・」
しかし、真昼は盾一郎の名前を、たしか・・・くるま・・・と一部分しか覚えておらず。
「―――――車守盾一郎さんよ。真昼君」
後部席に黒猫を膝に乗せて座っていた瑠璃が代わりに名前を言うと。
「ああ、車守だ」
盾一郎は頷いて。
「車守さん」
その後、改めて真昼からも名前を呼ばれた後に、ふと苦笑を浮かべると。
「・・・吊戯が怖かったか?」
「えっ。いや・・・」
徐に、先程吊戯が口にしていた事柄を投げかけてきた盾一郎に対し、真昼は戸惑いの面持ちになってしまう。
「・・・・・・瑪瑙さんは、吊戯のことはどう思ってる?」
そこで盾一郎はバックミラー越しに、後部席の瑠璃にも目を向けると、改めてそう尋ねかけてきて。
「吊戯さんのことは怖いとは思っていません。ただ、あの時の吊戯さんは自分の〝意思〟とは別で・・・・・・まるで〝操られている〟ように見えました」
盾一郎からの問いに瑠璃は目を瞬かせると、淀みのない口調で答えたものの、後半部分で沈痛な色を滲ませてしまう。
すると盾一郎はトントンと左手の人差し指で車のハンドルを叩く仕草をしながら、
「あいつ・・・ちょっと特殊でな」そんなふうに物憂い口調で告げてきて。
その言葉によって真昼が思い出したのは盾一郎の手によって拘束された時の吊戯の様子だった。
「・・・俺も怖いというよりは〝わからない〟って思いました」
そこで真昼もまた、自分が吊戯に対して思った事を口にした上で。
「だから俺、まだ何も知らないから知っていきたいって思ってます」
その意志をはっきりと言葉にして紡ぎ出すと。
「・・・・・・そうか」
そのタイミングで信号を確認するように、真昼に向けていた視線を前に戻した盾一郎は苦渋を滲ませながら頷き返してきて。
信号が青に変わって車が走り出したその後は会話が繰り広げられる事は無く―――――。
「さ、着いた」
それから程なくして盾一郎がそう告げてくるのと同時に、車が停車した場所は見覚えのある駅のすぐ傍だった。そうして車から降りた処で盾一郎が向かった先は、以前C3に強引な手段で連行され、そこから帰る際に出口となった駅のエレベーターの前で。
「やっぱり駅から行くんだ・・・」
「駅直通のほうが通勤に便利だろ?」
緊張した面持ちで真昼が漏らした言葉に盾一郎は軽い調子で応じる。
「確かにそうですね」
黒猫を肩に乗せた瑠璃もクスッと笑みを浮かべながら頷くと。
「二人とも、修に一度つれていかれたことあるんだったよな。扉が開いたら降りてくれ。『受付』があるから。そこで修を・・・えーと露木修平わかるよな? あいつを呼んでくれ」
盾一郎は上着のポケットから社員証らしきICカードを取り出した後に、それをエレベーターのボタンに触れさせながらそう告げてきて。
「え・・・」
開かれたエレベーターの扉の中に、後ろから盾一郎に肩を掴まれながら乗せられた真昼が困惑の面持ちになった中。
真昼に続いて瑠璃も黒猫と共にエレベーターに乗り込んだ処で、
「あの、車守さんたちは・・・・・・」
「俺達は息子を家に置いてその後行くからな」
瑠璃からの確認に対して盾一郎が口にしたその言葉に「えっ、あのっ、ちょっと。俺達だけ?!」と真昼が慌てた声を上げたのだが。ゴゥン・・・とエレベーターの扉はそのまま閉ざされてしまったのだ。
「・・・完全にC3 のペースじゃねーか?」
やれやれ・・・と瑠璃の肩に乗っていた黒猫が呆れたようにそう呟くと、
「そうだけど・・・っ。虎穴に入らずんばってやつだろ!」
うっ、と痛いところを突かれたといった様子で真昼が言い返す。
「危険を冒さなければ、大きな成果は得られない―――――確かに真昼君の言うことも尤もね」
そこで真昼が最後まで言い切ることが出来なかった『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ということわざの意味を瑠璃が口にすると。
「まあ、めんどくせーけど。しょうがねぇか」
黒猫は頷いて―――――その後、どんどん下降していったエレベーターが辿り着いたそのフロアは『d6階』という処で。
ポ―――――ン・・・という音とともに扉が開かれたエレベーターから真昼と瑠璃が下りると、まず目に入ったのはフロアの中央に設置された巨大な木のオブジェだった。
「黒い・・・木・・・のオブジェ・・・?」
真昼が呆然と木を見上げながら呟く。
「これって・・・・・・」
そっと瑠璃が木に向かって手を伸ばすと、その刹那―――――ズズッと木の根元から、黒い線のようなモノが足元に向かって伸びてきて。
「瑠璃!! 真昼も足元注意しろ!!」
瑠璃の肩に乗っていた黒猫が叫ぶや否や、すぐさま人型に戻って瑠璃を抱きかかえたものの。
「えっ!? クロ!?」
「うわっ、何・・・!?」
そこから具現化した2つの漆黒のキャスター付き背凭れ椅子に、気づけば真昼とともにクロもまた腕の中に抱いていた瑠璃を膝の上に横向きで乗せた状態で、そのまま座る体制に変わってしまっていて。
「・・・・・どうなってんだ・・・・・・?」
眉を寄せつつ、クロが言う。
瑠璃もまた、突然の事態に驚愕しながらも、ふと、真昼が座っている椅子の背凭れの裏側に黒い鍵が刺さっているのに気づき。
―――――あれって月満さんが使っていた『鍵』と同じ?
―――――もしそうだとしたらこれも『魔術』の類ってことになるんじゃ・・・・・・。
眉を顰めたその直後、黒い鍵がガキンと回転して。
「きゃっ!?」
「わわっわああ~~~~~~?!」
シャアアアアッ―――――と猛スピードで、2つのキャスター付き背凭れ椅子はフロアの奥にあったカウンターらしき場所の前まで勝手に進んで行って。
ガコン! とそこで停止すると―――――
『ご来訪ありがとうございます。ご用件の入力をお願いいたします』
ヴンという音とともに、真昼の目の前に受付表と書かれた画面とキーボードが具現化して、そんな音声案内が聴こえてきたのだ。
「受付表・・・? これ書けばいいのかな。名前・・・城田真昼・・・と」
そろっとキーボードに真昼が手を伸ばすと自分の名前の入力を行い。
「魔術団体に政府関係者!? なんか・・・思ったより大きい組織なのか・・・」
その次に所属の項目を確認した処で、ギョッとした様子で声を上げて。
「あっ、種族って吸血鬼だけじゃなくて・・・・・・狼男もいるのね」
順に受付表の内容を目で確認していた瑠璃もまた、種族の項目の部分で思わず驚嘆の言葉を漏らすと。
「もうかなり数は少ねーらしいけどな・・・・・・」
そんな返答がクロから返ってきて。
「そうなのね・・・・・・あの、ところでクロ? 特に危険はなさそうだから、そろそろ出来れば下に降ろしてほしいのだけど」
受付表を書き終えたら、おそらく露木が此方に来るのではないだろうか。
そうなった場合、この体制のままというのはかなり気恥ずかしいことになってしまう。
そんな想いを瑠璃は抱きながらチラリと上目遣いでクロを見上げると。
「あーそれなんだけどな、瑠璃。いやなんか・・・猫に戻れねーし・・・動けもしねーから・・・」
「え!? あれっ、ほんとだイスから立ち上がれない・・・」
困惑した様子でクロが口にした言葉に、真昼が反射的に椅子から腰を上げようとしたものの。同じく、椅子から動くことが出来ない状態のままで。
「もしかして露木さんが来てくれないと、これって解除出来ないものなのかしら・・・・・・?」
当惑の面持ちになりながら瑠璃が呟いたその直後―――――ぼたたっと茶色い雫がカウンターの上に落ちてきて。
そこで3人揃って視線を上に向けると、ワンフロア上の階にあるエレベーター前の通路の手すりの上。そこには右手に持ったティーカップを、逆さに傾けながら優雅に足を組んで座っている御国の姿が在ったのだ。
「やあ真昼くん! 瑠璃ちゃん! ずいぶん待たされたよ~~~」
「「御国さん!?」」
意地の悪い笑みを浮かべながら呼びかけてきた御国に対して、真昼と瑠璃は驚愕の面持ちで声を上げる。
「御国さんも連れてこられて・・・?」
そう言った真昼が眉を顰めつつ、なんでそんなとこに・・・と漏らしたのに続いて。
「他の主人 達も、もうここに来てるんですか?」
瑠璃もまた、確認するように御国に尋ねかけると。
「ああ来てるよ・・・あとは暴食くらいかな。ただC3は少し部外者に厳しくてね。自由に会ったりはもしかしたらすぐには難しいかもしれない」
会話に応じながら、持っていたティーカップを何処かに片付けてしまった御国の右手首には、具現化した武器である黒いロープが、しゅる・・・と這うように伸びてきていて。それが腕の辺りまでしっかりと巻き付いた状態になった処で、その先端を御国は右手で掴むと、常に連れ歩いている人形を左腕に抱えながら、しゅるるっと此側のフロアに向かって下りてきて。その後からジェジェもゆっくりと降下してきた処で。
「俺はC3については詳しいんだ。真昼くんと瑠璃ちゃんが困らないよう何か助言でもできればと思ってね。今度は俺も力になるよ」
つまるところ今回は味方として振舞うのだと御国は笑みを浮かべながら告げてきたのだが。
「でも、瑠璃ちゃんの傍には常に怠惰がいるみたいだから。二人の邪魔はしない程度にしておいたほうがいいかな?」
「あ、あのっ、御国さん・・・・・・いま私たちがこうしているのは、その、不可抗力で・・・・・・」
ニヤリと笑いながら揶揄うような視線を向けてきた御国に対し、はわわと瑠璃が顔を赤くしながら言い返すと。くくっと御国は笑いながら「うん、そうみたいだね」と頷いてきて。
そんな御国をクロが眉を顰めつつ見遣りながら「向き合えねー」と漏らした時。
―――――御国さんとジェジェも来た。
―――――これでサーヴァンプ全員揃うんじゃ・・・。
瑠璃とクロの事をいじる御国に対して真昼は苦笑いを浮かべながらそう逡巡していたのだが。
「真昼くん、それから瑠璃ちゃんも。C3について・・・まずいくつか忠告をしてあげたいんだけど」
改めて言葉を紡ぎ出した御国に対して真昼は目を瞬かせると、
「あ・・・御国さん、昔C3にいたんですよね・・・?」
少し前に聞き知った情報を口にしてみる。
「えー? やだなあ、そんな昔話・・・誰に聞いたの?」
すると、トンとキーボードの上に人形を座らせながら、御国が聞き返してきて。
「吊戯さんに聞いたんですけど・・・・・・」
真昼に続いて瑠璃が御国の顔色を見るようにしながら答えると。
御国は「吊戯さんに」と口にしながら首を傾けて、笑顔のままで数秒間固まったのちに。
「狼谷吊戯には近づかないほうがいい」凄然とした顔でそんなふうに言い放って。
「これがまずひとつめで最重要。あれはもうだめだ、ぶっ壊れてる・・・・・・いや、ぶっ壊されちゃってる 」
右手の親指と人差し指を掲げながら、左手をズボンのポケットに突っ込みつつ、警告するように告げてきた御国に瑠璃が硬い声で尋ねる。
「『トウマさん』・・・にですか?」
「・・・・・・塔間さんに会った?」
すると御国は此方に目を向けたまま、聞き返してきて。
「いえ。私も真昼君も名前を聞いただけです」
そこで瑠璃がゆっくりと頭を振って答えると。
「けど、その名前が出てから吊戯さんの様子が変だったから・・・・・・」
瑠璃に続いて真昼が緊張した面持ちで目撃した有り様を口にした処で、御国は「そっか」と頷くと。
「その二人には気をつけて。狼谷吊戯は倒すべき敵対者だ。あの妙な人懐っこさで勘違いしそうな瞬間がくるかもしれないけど。あれは俺達の邪魔をするだけだ。あれは俺達の味方じゃない。それに」
御国はより強い口調で戒めるように真昼と瑠璃に話しかけてきたのだが。
「何をしてるんですか、御国先輩」
それを中断させたのはこのフロアに通じる別のエレベーターから、カツと靴音を響かせながら降り立った露木だった。
「あっ、露木せんぱ ・・・露木・・・さん!」
そこで真昼は反射的に、露木のことを学校で顔を合わせていた時の癖で、〝先輩〟と呼びそうになってしまったものの。すぐさま言い直したのだが。
「や、修平」
露木に返答した御国が〝先輩〟と呼ばれていた事に気づき。
「え・・・あれ? 御国先輩 って・・・」
「もしかして、学生時代の?」
瑠璃もまた目を瞬かせながら御国のほうに目を向けると。
「ああ。修平とは学生時代の先輩後輩の間柄でね~」
はははと御国は笑いながら、俺がひとつ先輩♥と告げてきた後に、キーボードの上に座らせていた人形をまたさりげない仕草で手元に回収していて。
「どうして君達二人だけなんです・・・あの3バカはどうしました?」
「すみません、先に行くように言われて」
微かに苛立った様子で問いかけてきた露木に瑠璃が眉を下げつつ答えると。
「・・・・・・そのせいで瑪瑙さんはそんな状態になっているというわけですか」
クロに抱きかかえられた状態で膝の上に座っている瑠璃の姿を露木は眉を顰めながら見遣りつつ、首から下げていた社員証IDをPCに向けて掲げてきて。するとピッという音とともにセキュリティの解除が為されて。あっ、動けると真昼が椅子から立ち上がった処で。クロもまた自由の身になったのを確認した後に、瑠璃を膝の上から下ろすと。ぽふと人型から黒猫に変わって。ニャ―――――と鳴き声を上げた黒猫がピョンと瑠璃の右肩に乗る。
その時、何故か露木は此方に背を向けた状態で立っていて―――――
―――――・・・・・・露木さん、何かあったのかしら?
露木の雰囲気が以前会った時よりも、ピリピリしていると感じた瑠璃が眉を寄せながら露木の様子を見ていると。
「そういえば、ここに来る前に吊戯さん見たよ~~~。相変わらずへらへらとクズやってるね。修平ってば、まだあんなクズに庇われてんの ~~~? ま―――――ったくあの人達も修平も・・・ここはほーんと変わんないよな~~~」
「っ」
あっはっはと揶揄するように御国が口にした言葉に対して露木が微かに肩を震わせて。
皮肉めいた物言いを御国がするのはいつものことではあるが、これは話を途中で中断されたことに対する八つ当たりも入っているのではないだろうか。
「御国さん! その言い方は・・・・・・」
そう感じた瑠璃が眉を顰めながら御国を見遣ると、
「瑪瑙瑠璃さん。城田真昼くん。この際だから言っておきますが俺はこの人が大嫌いです。ついでに言えばあの3人も嫌いです。当然吸血鬼も嫌いです」
此方に顔を向けてきた露木が憤怒の形相で御国を睨みながらそう言い放ってきて。
そんな露木の姿に真昼がどうすればいいのか分からず困惑の面持ちになっていた一方で。瑠璃の右肩に乗っていた黒猫が『吸血鬼も嫌い』という言葉に反応して、チラリと露木を一瞥した時。
「露木さん・・・・・・」
瑠璃も気遣わしげに露木の様子を見ていたのだが。
「珍しいね、どうしたの感情的になって」
御国は激昂した露木に対して動じるどころか、蔑みの笑みを浮かべていて。
「だいたい嫌いですから、今後もし何か あったときには、それを念頭に置いてもらえると助かります」
露木が瑠璃と真昼に口にした主義主張に対して、
「そんなショボい予防線で『憂いあれど問題無し』になるのかなー? ね―――――アベル―――――?」
HA―――――? とより一層の嘲笑を御国はしながら、さらに片手で抱いていた人形をわざわざ両手に持ち替えて、もろ手を挙げるポーズを取らせて見せてきたのだが。
御国の言動をもはや露木は無視することに決めたのか。
「・・・瑠璃さん、真昼くん、こちらへ。ほかの真祖 たちについてと・・・この施設について案内します」
無言で此方に背を向けた後、敢えて瑠璃と真昼のことを名指しで呼んだうえで、そう告げてきたのだ。
「あの、ほかのサーヴァンプと主人 もこの建物の中にいるんですか?」
露木の後をついて移動を開始した中で、その質問を口にしたのは真昼だった。
〝暴食〟以外はここに来ているのだという話を御国から聞きはしたものの。
自分達より前に連れて行かれた強欲組は勿論のことなのだが、御園や鉄が今は何処にいるのか。出来る事ならば知っておきたい。
通路の壁に記された、フロアマップに瑠璃もまた目を向けながら、露木の返答に耳を傾ける。
「ええ、各ペアに部屋を用意してますよ。極秘事項が含まれますので簡単に説明しますが。基本この施設は地下になります。そのうち上層階は社宅・・・社員の居住区になっています」
露木の説明に真昼が「へぇ・・・」と呆然とした面持ちで目を瞬かせる。
「まあ、大半はここに住むというより帰る時間がないときのために契約しておく程度ですが」
地下にずっと住みたいという人はそうはいませんから―――――という注釈を露木はしてきたものの。
「案外、普通の・・・会社みたいなんですね」
瑠璃もまた、思わず感嘆の面持ちでそう呟いてしまう。
魔術などを研究する組織というのは、公の場とは一線を画したものなのだというイメージが頭の片隅にあったのだが。
「もしかして前に私が『身体データ』を取られた後に通されたあの部屋」
「えぇ、そうです。今回はその社宅の一部を〝ミストレス〟である貴女だけでなく、吸血鬼 と主人 のために用意しました」
瑠璃が口にした言葉に露木は頷いてそう告げてきた後に。
「・・・ところで、どこまでついてくるつもりですか御国先輩」
首元に巻いたスカーフの周囲に黒蛇を絡みつかせた状態で、当たり前のような顔でここまで一緒に来ていた御国を睨みつけたのだが。
「修平のお仕事拝見~」
あっはっはと挑発するように御国は笑い返してきて。
「・・・・・・御国さん」
そこで思わず瑠璃が眉を顰めながら御国に呼び掛けると。
「うん? 何かな、瑠璃ちゃん」
御国はにっこりと笑みを浮かべながら応じてきて。
露木はそんな御国の態度を目にした結果―――――怒りを通り越して呆れたのだろうか。
「あなたの部屋もほかの主人 同様用意したはずですよ。・・・まあ構いませんけど」
フイッと御国から視線を反らした後に淡々とした声音でそう言うと。程なくしてとある部屋の扉の前で足を止めて。
「こちらが真昼くん達に使っていただく部屋になります。キッチンや浴室なども完備してますので自由に使ってください」
露木の手によってガチャとドアが開かれた部屋の中にまず真昼が足を踏み入れる。
その後に続いて瑠璃も中に入ったものの、何となく自分達の後ろにいた御国のことが気にかかり、チラリと視線を向けると。御国は凍り付いたような表情で部屋の中を見つめていて。
―――――御国さん、何だか様子が・・・・・・。
そんな御国の姿を瑠璃が怪訝に思った時。
「ただ・・・寝室のほうが少し古めの二段ベッドなのですが」
部屋の中の説明をしていた露木がふと御国のほうを見遣ると、
「・・・懐かしいでしょう? 御国先輩」
皮肉を言うかのような声音でそう話しかけてきて。
「・・・修平ってこういう嫌がらせできたんだ?」
そこで御国もまた冷然とした笑みを浮かべながら露木に応じると。
「嫌がらせが得意な先輩がいましたので似たんですかね」
二人の間に寒々しい空気が漂い始めて。
「・・・え? 何・・・?」
部屋の中を見て回っていた真昼がその様に戸惑いの声を漏らすと。
「御国先輩がC3にいたときの話ですよ。この部屋を使っていたんです。吊戯さんと一緒に」
露木の口から思いがけない事実を聞かされて。
「―――――・・・・・・御国さんと吊戯さんが?」
瑠璃が呆然とした面持ちで目を瞬かせながらそう呟くと。
「なんでわざわざここ? 部屋なんかほかにいくらでもあるだろ」
御国は目を細めながら視界の端で瑠璃の様子を確認するように捉えた後、露木に向かって右掌を掲げる仕草をしながら言った。
しかし、露木は御国には目を向けることなく、そのまま部屋のドアの前に向かって行くと、
「吊戯さんの部屋が隣だからですよ。何かあったときに対処してもらいますので。それから瑠璃さんのお部屋ですが、今回は真昼くん達の部屋の向かい側に一応用意させて頂いています。基本的な部屋の作りは変わりませんが、寝室のベッドはお一人用のものです」
「あ・・・・・・そうだったんですね。気を遣っていただいてすみません、露木さん」
前回通された部屋はフロアが異なるものであったことから、てっきり今回は真昼達と一緒の部屋になるのだろうと無意識の内に思っていたのだが。
「いえ、〝ミストレス〟という立場である前に。貴女は女性なんですから当然のことです」
恐縮した面持ちになった瑠璃に対し、露木は瑠璃の肩に乗っていた黒猫だけを、鋭い眼差しで一瞥した後にそう言うと。
「あと真昼君の隣の吊戯さんの部屋は彼のご自宅ですから。何かあれば吊戯さんに声をかけてください」
「え、自宅 ・・・って」
部屋のドアを開いて通路に出た処で、右手でドアが閉まらないよう抑えつつ、左手で右隣の部屋を指し示しながら告げてきた露木の言葉に、瑠璃の後から部屋の外に顔を覗かせた真昼が目を瞬かせつつそちらを見遣ると。
「・・・吊戯さんは外に家を持ってませんから」
露木が口にしたその言葉に、御国が右手を口元に添えながら、くっくっと忍び笑いを漏らして。
「最悪だよね~。吊戯さんて生まれてから26年間ず―――――っと地下に住んでて。この地下以外で暮らしたこと一度もないんだよー?」
そう言いながら部屋の外に出てきた後はそのまま露木の傍らに自然な足取りで並ぶと。
「こーんなとこで育ってたらそりゃ人格も歪むよね―――――」
あっはっはっと笑いながら話しかけていて。
「特にここを出る気もないみたいですよ。住む場所なんて本人の自由じゃないですか」
人格の話をあなたがしますか・・・と露木も呆れを漏らしつつ、御国との会話に応じてきたのだが。
「・・・あの人の場合は自由 っていうかさあ・・・」
しかし、御国が続きを話そうとした処で、電話の呼び出し音が鳴り響いて。
「あ・・・失礼します。車守さんからです」
白衣のポケットから露木はスマホを取り出すと「はい、露木です」と電話に応答をする。
『あー修? 真昼くんと瑪瑙さんと一緒だよな? 俺達もうオフィスにいるぞ。まだか?』
「まだか、じゃないですよ・・・」
二人を迎えに行ったあなた達が、きちんと最後まで案内をせず、別行動を取った為に。そちらに辿り着くのに時間が掛かっているというのに。
盾一郎からの確認と催促に対し、露木は苦々しい声音で念の為にと聞き返す。
「そちらは3人そろってますか」
『いや、吊戯が忘れ物したって部屋に戻って・・・それっきりだな』
するとやはりというべきか、1人だけ居場所が分からない状態だという。
「あの人。すぐいなくなるんですから目を離さないでくださいよ」
そこで露木が思わずまた苛立たしさを滲ませながら盾一郎にそう言うと。
『どっかで油売ってんな。捕まえてきてくれ』
はははと笑い声を上げた盾一郎からそう頼み返されてしまい。
「・・・・・・」
―――――そう来ると思いましたが―――――
憮然とした面持ちになった露木が心の中でそう呟いた時。
『あ!? なんだこのハンドクリーム・・・これ糊じゃねぇか!?』
という弓景の叫び声が電話向こうから聴こえてきて。
『そういえばそれ、昨日、吊戯がいじってたぞ』
『早く言えよ、あのボケの犯行かよ』
『おい。俺になすりつけんなよ!!』
『テメェも道連れだ』
『やめろバカ弓』
弓景と盾一郎―――――二人の騒がしいやり取りが始まってしまった為。
そこで露木は盾一郎との通話を終了してしまったのだった。
【本館/21・4/12/別館/21・4/15掲載】
★不倶戴天(ふぐたいてん)は【犬猿】の類語です。
―――――父親か・・・。
―――――26歳・・・10年後か・・・・・・。
―――――なんか大人だなあ・・・。
静けさが漂う車内で真昼がチラリと車を運転する盾一郎の横顔を伺いみる。
と―――――
「えーと城田・・・真昼っつったよな」
信号が赤になった処で車を一時停止した盾一郎が話しかけてきて。
「あ・・・はい。えと・・・すみません。俺、名前がまだ・・・」
しかし、真昼は盾一郎の名前を、たしか・・・くるま・・・と一部分しか覚えておらず。
「―――――車守盾一郎さんよ。真昼君」
後部席に黒猫を膝に乗せて座っていた瑠璃が代わりに名前を言うと。
「ああ、車守だ」
盾一郎は頷いて。
「車守さん」
その後、改めて真昼からも名前を呼ばれた後に、ふと苦笑を浮かべると。
「・・・吊戯が怖かったか?」
「えっ。いや・・・」
徐に、先程吊戯が口にしていた事柄を投げかけてきた盾一郎に対し、真昼は戸惑いの面持ちになってしまう。
「・・・・・・瑪瑙さんは、吊戯のことはどう思ってる?」
そこで盾一郎はバックミラー越しに、後部席の瑠璃にも目を向けると、改めてそう尋ねかけてきて。
「吊戯さんのことは怖いとは思っていません。ただ、あの時の吊戯さんは自分の〝意思〟とは別で・・・・・・まるで〝操られている〟ように見えました」
盾一郎からの問いに瑠璃は目を瞬かせると、淀みのない口調で答えたものの、後半部分で沈痛な色を滲ませてしまう。
すると盾一郎はトントンと左手の人差し指で車のハンドルを叩く仕草をしながら、
「あいつ・・・ちょっと特殊でな」そんなふうに物憂い口調で告げてきて。
その言葉によって真昼が思い出したのは盾一郎の手によって拘束された時の吊戯の様子だった。
「・・・俺も怖いというよりは〝わからない〟って思いました」
そこで真昼もまた、自分が吊戯に対して思った事を口にした上で。
「だから俺、まだ何も知らないから知っていきたいって思ってます」
その意志をはっきりと言葉にして紡ぎ出すと。
「・・・・・・そうか」
そのタイミングで信号を確認するように、真昼に向けていた視線を前に戻した盾一郎は苦渋を滲ませながら頷き返してきて。
信号が青に変わって車が走り出したその後は会話が繰り広げられる事は無く―――――。
「さ、着いた」
それから程なくして盾一郎がそう告げてくるのと同時に、車が停車した場所は見覚えのある駅のすぐ傍だった。そうして車から降りた処で盾一郎が向かった先は、以前C3に強引な手段で連行され、そこから帰る際に出口となった駅のエレベーターの前で。
「やっぱり駅から行くんだ・・・」
「駅直通のほうが通勤に便利だろ?」
緊張した面持ちで真昼が漏らした言葉に盾一郎は軽い調子で応じる。
「確かにそうですね」
黒猫を肩に乗せた瑠璃もクスッと笑みを浮かべながら頷くと。
「二人とも、修に一度つれていかれたことあるんだったよな。扉が開いたら降りてくれ。『受付』があるから。そこで修を・・・えーと露木修平わかるよな? あいつを呼んでくれ」
盾一郎は上着のポケットから社員証らしきICカードを取り出した後に、それをエレベーターのボタンに触れさせながらそう告げてきて。
「え・・・」
開かれたエレベーターの扉の中に、後ろから盾一郎に肩を掴まれながら乗せられた真昼が困惑の面持ちになった中。
真昼に続いて瑠璃も黒猫と共にエレベーターに乗り込んだ処で、
「あの、車守さんたちは・・・・・・」
「俺達は息子を家に置いてその後行くからな」
瑠璃からの確認に対して盾一郎が口にしたその言葉に「えっ、あのっ、ちょっと。俺達だけ?!」と真昼が慌てた声を上げたのだが。ゴゥン・・・とエレベーターの扉はそのまま閉ざされてしまったのだ。
「・・・完全に
やれやれ・・・と瑠璃の肩に乗っていた黒猫が呆れたようにそう呟くと、
「そうだけど・・・っ。虎穴に入らずんばってやつだろ!」
うっ、と痛いところを突かれたといった様子で真昼が言い返す。
「危険を冒さなければ、大きな成果は得られない―――――確かに真昼君の言うことも尤もね」
そこで真昼が最後まで言い切ることが出来なかった『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ということわざの意味を瑠璃が口にすると。
「まあ、めんどくせーけど。しょうがねぇか」
黒猫は頷いて―――――その後、どんどん下降していったエレベーターが辿り着いたそのフロアは『d6階』という処で。
ポ―――――ン・・・という音とともに扉が開かれたエレベーターから真昼と瑠璃が下りると、まず目に入ったのはフロアの中央に設置された巨大な木のオブジェだった。
「黒い・・・木・・・のオブジェ・・・?」
真昼が呆然と木を見上げながら呟く。
「これって・・・・・・」
そっと瑠璃が木に向かって手を伸ばすと、その刹那―――――ズズッと木の根元から、黒い線のようなモノが足元に向かって伸びてきて。
「瑠璃!! 真昼も足元注意しろ!!」
瑠璃の肩に乗っていた黒猫が叫ぶや否や、すぐさま人型に戻って瑠璃を抱きかかえたものの。
「えっ!? クロ!?」
「うわっ、何・・・!?」
そこから具現化した2つの漆黒のキャスター付き背凭れ椅子に、気づけば真昼とともにクロもまた腕の中に抱いていた瑠璃を膝の上に横向きで乗せた状態で、そのまま座る体制に変わってしまっていて。
「・・・・・どうなってんだ・・・・・・?」
眉を寄せつつ、クロが言う。
瑠璃もまた、突然の事態に驚愕しながらも、ふと、真昼が座っている椅子の背凭れの裏側に黒い鍵が刺さっているのに気づき。
―――――あれって月満さんが使っていた『鍵』と同じ?
―――――もしそうだとしたらこれも『魔術』の類ってことになるんじゃ・・・・・・。
眉を顰めたその直後、黒い鍵がガキンと回転して。
「きゃっ!?」
「わわっわああ~~~~~~?!」
シャアアアアッ―――――と猛スピードで、2つのキャスター付き背凭れ椅子はフロアの奥にあったカウンターらしき場所の前まで勝手に進んで行って。
ガコン! とそこで停止すると―――――
『ご来訪ありがとうございます。ご用件の入力をお願いいたします』
ヴンという音とともに、真昼の目の前に受付表と書かれた画面とキーボードが具現化して、そんな音声案内が聴こえてきたのだ。
「受付表・・・? これ書けばいいのかな。名前・・・城田真昼・・・と」
そろっとキーボードに真昼が手を伸ばすと自分の名前の入力を行い。
「魔術団体に政府関係者!? なんか・・・思ったより大きい組織なのか・・・」
その次に所属の項目を確認した処で、ギョッとした様子で声を上げて。
「あっ、種族って吸血鬼だけじゃなくて・・・・・・狼男もいるのね」
順に受付表の内容を目で確認していた瑠璃もまた、種族の項目の部分で思わず驚嘆の言葉を漏らすと。
「もうかなり数は少ねーらしいけどな・・・・・・」
そんな返答がクロから返ってきて。
「そうなのね・・・・・・あの、ところでクロ? 特に危険はなさそうだから、そろそろ出来れば下に降ろしてほしいのだけど」
受付表を書き終えたら、おそらく露木が此方に来るのではないだろうか。
そうなった場合、この体制のままというのはかなり気恥ずかしいことになってしまう。
そんな想いを瑠璃は抱きながらチラリと上目遣いでクロを見上げると。
「あーそれなんだけどな、瑠璃。いやなんか・・・猫に戻れねーし・・・動けもしねーから・・・」
「え!? あれっ、ほんとだイスから立ち上がれない・・・」
困惑した様子でクロが口にした言葉に、真昼が反射的に椅子から腰を上げようとしたものの。同じく、椅子から動くことが出来ない状態のままで。
「もしかして露木さんが来てくれないと、これって解除出来ないものなのかしら・・・・・・?」
当惑の面持ちになりながら瑠璃が呟いたその直後―――――ぼたたっと茶色い雫がカウンターの上に落ちてきて。
そこで3人揃って視線を上に向けると、ワンフロア上の階にあるエレベーター前の通路の手すりの上。そこには右手に持ったティーカップを、逆さに傾けながら優雅に足を組んで座っている御国の姿が在ったのだ。
「やあ真昼くん! 瑠璃ちゃん! ずいぶん待たされたよ~~~」
「「御国さん!?」」
意地の悪い笑みを浮かべながら呼びかけてきた御国に対して、真昼と瑠璃は驚愕の面持ちで声を上げる。
「御国さんも連れてこられて・・・?」
そう言った真昼が眉を顰めつつ、なんでそんなとこに・・・と漏らしたのに続いて。
「他の
瑠璃もまた、確認するように御国に尋ねかけると。
「ああ来てるよ・・・あとは暴食くらいかな。ただC3は少し部外者に厳しくてね。自由に会ったりはもしかしたらすぐには難しいかもしれない」
会話に応じながら、持っていたティーカップを何処かに片付けてしまった御国の右手首には、具現化した武器である黒いロープが、しゅる・・・と這うように伸びてきていて。それが腕の辺りまでしっかりと巻き付いた状態になった処で、その先端を御国は右手で掴むと、常に連れ歩いている人形を左腕に抱えながら、しゅるるっと此側のフロアに向かって下りてきて。その後からジェジェもゆっくりと降下してきた処で。
「俺はC3については詳しいんだ。真昼くんと瑠璃ちゃんが困らないよう何か助言でもできればと思ってね。今度は俺も力になるよ」
つまるところ今回は味方として振舞うのだと御国は笑みを浮かべながら告げてきたのだが。
「でも、瑠璃ちゃんの傍には常に怠惰がいるみたいだから。二人の邪魔はしない程度にしておいたほうがいいかな?」
「あ、あのっ、御国さん・・・・・・いま私たちがこうしているのは、その、不可抗力で・・・・・・」
ニヤリと笑いながら揶揄うような視線を向けてきた御国に対し、はわわと瑠璃が顔を赤くしながら言い返すと。くくっと御国は笑いながら「うん、そうみたいだね」と頷いてきて。
そんな御国をクロが眉を顰めつつ見遣りながら「向き合えねー」と漏らした時。
―――――御国さんとジェジェも来た。
―――――これでサーヴァンプ全員揃うんじゃ・・・。
瑠璃とクロの事をいじる御国に対して真昼は苦笑いを浮かべながらそう逡巡していたのだが。
「真昼くん、それから瑠璃ちゃんも。C3について・・・まずいくつか忠告をしてあげたいんだけど」
改めて言葉を紡ぎ出した御国に対して真昼は目を瞬かせると、
「あ・・・御国さん、昔C3にいたんですよね・・・?」
少し前に聞き知った情報を口にしてみる。
「えー? やだなあ、そんな昔話・・・誰に聞いたの?」
すると、トンとキーボードの上に人形を座らせながら、御国が聞き返してきて。
「吊戯さんに聞いたんですけど・・・・・・」
真昼に続いて瑠璃が御国の顔色を見るようにしながら答えると。
御国は「吊戯さんに」と口にしながら首を傾けて、笑顔のままで数秒間固まったのちに。
「狼谷吊戯には近づかないほうがいい」凄然とした顔でそんなふうに言い放って。
「これがまずひとつめで最重要。あれはもうだめだ、ぶっ壊れてる・・・・・・いや、
右手の親指と人差し指を掲げながら、左手をズボンのポケットに突っ込みつつ、警告するように告げてきた御国に瑠璃が硬い声で尋ねる。
「『トウマさん』・・・にですか?」
「・・・・・・塔間さんに会った?」
すると御国は此方に目を向けたまま、聞き返してきて。
「いえ。私も真昼君も名前を聞いただけです」
そこで瑠璃がゆっくりと頭を振って答えると。
「けど、その名前が出てから吊戯さんの様子が変だったから・・・・・・」
瑠璃に続いて真昼が緊張した面持ちで目撃した有り様を口にした処で、御国は「そっか」と頷くと。
「その二人には気をつけて。狼谷吊戯は倒すべき敵対者だ。あの妙な人懐っこさで勘違いしそうな瞬間がくるかもしれないけど。あれは俺達の邪魔をするだけだ。あれは俺達の味方じゃない。それに」
御国はより強い口調で戒めるように真昼と瑠璃に話しかけてきたのだが。
「何をしてるんですか、御国先輩」
それを中断させたのはこのフロアに通じる別のエレベーターから、カツと靴音を響かせながら降り立った露木だった。
「あっ、露木
そこで真昼は反射的に、露木のことを学校で顔を合わせていた時の癖で、〝先輩〟と呼びそうになってしまったものの。すぐさま言い直したのだが。
「や、修平」
露木に返答した御国が〝先輩〟と呼ばれていた事に気づき。
「え・・・あれ? 御国
「もしかして、学生時代の?」
瑠璃もまた目を瞬かせながら御国のほうに目を向けると。
「ああ。修平とは学生時代の先輩後輩の間柄でね~」
はははと御国は笑いながら、俺がひとつ先輩♥と告げてきた後に、キーボードの上に座らせていた人形をまたさりげない仕草で手元に回収していて。
「どうして君達二人だけなんです・・・あの3バカはどうしました?」
「すみません、先に行くように言われて」
微かに苛立った様子で問いかけてきた露木に瑠璃が眉を下げつつ答えると。
「・・・・・・そのせいで瑪瑙さんはそんな状態になっているというわけですか」
クロに抱きかかえられた状態で膝の上に座っている瑠璃の姿を露木は眉を顰めながら見遣りつつ、首から下げていた社員証IDをPCに向けて掲げてきて。するとピッという音とともにセキュリティの解除が為されて。あっ、動けると真昼が椅子から立ち上がった処で。クロもまた自由の身になったのを確認した後に、瑠璃を膝の上から下ろすと。ぽふと人型から黒猫に変わって。ニャ―――――と鳴き声を上げた黒猫がピョンと瑠璃の右肩に乗る。
その時、何故か露木は此方に背を向けた状態で立っていて―――――
―――――・・・・・・露木さん、何かあったのかしら?
露木の雰囲気が以前会った時よりも、ピリピリしていると感じた瑠璃が眉を寄せながら露木の様子を見ていると。
「そういえば、ここに来る前に吊戯さん見たよ~~~。相変わらずへらへらとクズやってるね。修平ってば、まだあんなクズに
「っ」
あっはっはと揶揄するように御国が口にした言葉に対して露木が微かに肩を震わせて。
皮肉めいた物言いを御国がするのはいつものことではあるが、これは話を途中で中断されたことに対する八つ当たりも入っているのではないだろうか。
「御国さん! その言い方は・・・・・・」
そう感じた瑠璃が眉を顰めながら御国を見遣ると、
「瑪瑙瑠璃さん。城田真昼くん。この際だから言っておきますが俺はこの人が大嫌いです。ついでに言えばあの3人も嫌いです。当然吸血鬼も嫌いです」
此方に顔を向けてきた露木が憤怒の形相で御国を睨みながらそう言い放ってきて。
そんな露木の姿に真昼がどうすればいいのか分からず困惑の面持ちになっていた一方で。瑠璃の右肩に乗っていた黒猫が『吸血鬼も嫌い』という言葉に反応して、チラリと露木を一瞥した時。
「露木さん・・・・・・」
瑠璃も気遣わしげに露木の様子を見ていたのだが。
「珍しいね、どうしたの感情的になって」
御国は激昂した露木に対して動じるどころか、蔑みの笑みを浮かべていて。
「だいたい嫌いですから、今後もし
露木が瑠璃と真昼に口にした主義主張に対して、
「そんなショボい予防線で『憂いあれど問題無し』になるのかなー? ね―――――アベル―――――?」
HA―――――? とより一層の嘲笑を御国はしながら、さらに片手で抱いていた人形をわざわざ両手に持ち替えて、もろ手を挙げるポーズを取らせて見せてきたのだが。
御国の言動をもはや露木は無視することに決めたのか。
「・・・瑠璃さん、真昼くん、こちらへ。ほかの
無言で此方に背を向けた後、敢えて瑠璃と真昼のことを名指しで呼んだうえで、そう告げてきたのだ。
「あの、ほかのサーヴァンプと
露木の後をついて移動を開始した中で、その質問を口にしたのは真昼だった。
〝暴食〟以外はここに来ているのだという話を御国から聞きはしたものの。
自分達より前に連れて行かれた強欲組は勿論のことなのだが、御園や鉄が今は何処にいるのか。出来る事ならば知っておきたい。
通路の壁に記された、フロアマップに瑠璃もまた目を向けながら、露木の返答に耳を傾ける。
「ええ、各ペアに部屋を用意してますよ。極秘事項が含まれますので簡単に説明しますが。基本この施設は地下になります。そのうち上層階は社宅・・・社員の居住区になっています」
露木の説明に真昼が「へぇ・・・」と呆然とした面持ちで目を瞬かせる。
「まあ、大半はここに住むというより帰る時間がないときのために契約しておく程度ですが」
地下にずっと住みたいという人はそうはいませんから―――――という注釈を露木はしてきたものの。
「案外、普通の・・・会社みたいなんですね」
瑠璃もまた、思わず感嘆の面持ちでそう呟いてしまう。
魔術などを研究する組織というのは、公の場とは一線を画したものなのだというイメージが頭の片隅にあったのだが。
「もしかして前に私が『身体データ』を取られた後に通されたあの部屋」
「えぇ、そうです。今回はその社宅の一部を〝ミストレス〟である貴女だけでなく、
瑠璃が口にした言葉に露木は頷いてそう告げてきた後に。
「・・・ところで、どこまでついてくるつもりですか御国先輩」
首元に巻いたスカーフの周囲に黒蛇を絡みつかせた状態で、当たり前のような顔でここまで一緒に来ていた御国を睨みつけたのだが。
「修平のお仕事拝見~」
あっはっはと挑発するように御国は笑い返してきて。
「・・・・・・御国さん」
そこで思わず瑠璃が眉を顰めながら御国に呼び掛けると。
「うん? 何かな、瑠璃ちゃん」
御国はにっこりと笑みを浮かべながら応じてきて。
露木はそんな御国の態度を目にした結果―――――怒りを通り越して呆れたのだろうか。
「あなたの部屋もほかの
フイッと御国から視線を反らした後に淡々とした声音でそう言うと。程なくしてとある部屋の扉の前で足を止めて。
「こちらが真昼くん達に使っていただく部屋になります。キッチンや浴室なども完備してますので自由に使ってください」
露木の手によってガチャとドアが開かれた部屋の中にまず真昼が足を踏み入れる。
その後に続いて瑠璃も中に入ったものの、何となく自分達の後ろにいた御国のことが気にかかり、チラリと視線を向けると。御国は凍り付いたような表情で部屋の中を見つめていて。
―――――御国さん、何だか様子が・・・・・・。
そんな御国の姿を瑠璃が怪訝に思った時。
「ただ・・・寝室のほうが少し古めの二段ベッドなのですが」
部屋の中の説明をしていた露木がふと御国のほうを見遣ると、
「・・・懐かしいでしょう? 御国先輩」
皮肉を言うかのような声音でそう話しかけてきて。
「・・・修平ってこういう嫌がらせできたんだ?」
そこで御国もまた冷然とした笑みを浮かべながら露木に応じると。
「嫌がらせが得意な先輩がいましたので似たんですかね」
二人の間に寒々しい空気が漂い始めて。
「・・・え? 何・・・?」
部屋の中を見て回っていた真昼がその様に戸惑いの声を漏らすと。
「御国先輩がC3にいたときの話ですよ。この部屋を使っていたんです。吊戯さんと一緒に」
露木の口から思いがけない事実を聞かされて。
「―――――・・・・・・御国さんと吊戯さんが?」
瑠璃が呆然とした面持ちで目を瞬かせながらそう呟くと。
「なんでわざわざここ? 部屋なんかほかにいくらでもあるだろ」
御国は目を細めながら視界の端で瑠璃の様子を確認するように捉えた後、露木に向かって右掌を掲げる仕草をしながら言った。
しかし、露木は御国には目を向けることなく、そのまま部屋のドアの前に向かって行くと、
「吊戯さんの部屋が隣だからですよ。何かあったときに対処してもらいますので。それから瑠璃さんのお部屋ですが、今回は真昼くん達の部屋の向かい側に一応用意させて頂いています。基本的な部屋の作りは変わりませんが、寝室のベッドはお一人用のものです」
「あ・・・・・・そうだったんですね。気を遣っていただいてすみません、露木さん」
前回通された部屋はフロアが異なるものであったことから、てっきり今回は真昼達と一緒の部屋になるのだろうと無意識の内に思っていたのだが。
「いえ、〝ミストレス〟という立場である前に。貴女は女性なんですから当然のことです」
恐縮した面持ちになった瑠璃に対し、露木は瑠璃の肩に乗っていた黒猫だけを、鋭い眼差しで一瞥した後にそう言うと。
「あと真昼君の隣の吊戯さんの部屋は彼のご自宅ですから。何かあれば吊戯さんに声をかけてください」
「え、
部屋のドアを開いて通路に出た処で、右手でドアが閉まらないよう抑えつつ、左手で右隣の部屋を指し示しながら告げてきた露木の言葉に、瑠璃の後から部屋の外に顔を覗かせた真昼が目を瞬かせつつそちらを見遣ると。
「・・・吊戯さんは外に家を持ってませんから」
露木が口にしたその言葉に、御国が右手を口元に添えながら、くっくっと忍び笑いを漏らして。
「最悪だよね~。吊戯さんて生まれてから26年間ず―――――っと地下に住んでて。この地下以外で暮らしたこと一度もないんだよー?」
そう言いながら部屋の外に出てきた後はそのまま露木の傍らに自然な足取りで並ぶと。
「こーんなとこで育ってたらそりゃ人格も歪むよね―――――」
あっはっはっと笑いながら話しかけていて。
「特にここを出る気もないみたいですよ。住む場所なんて本人の自由じゃないですか」
人格の話をあなたがしますか・・・と露木も呆れを漏らしつつ、御国との会話に応じてきたのだが。
「・・・あの人の場合は
しかし、御国が続きを話そうとした処で、電話の呼び出し音が鳴り響いて。
「あ・・・失礼します。車守さんからです」
白衣のポケットから露木はスマホを取り出すと「はい、露木です」と電話に応答をする。
『あー修? 真昼くんと瑪瑙さんと一緒だよな? 俺達もうオフィスにいるぞ。まだか?』
「まだか、じゃないですよ・・・」
二人を迎えに行ったあなた達が、きちんと最後まで案内をせず、別行動を取った為に。そちらに辿り着くのに時間が掛かっているというのに。
盾一郎からの確認と催促に対し、露木は苦々しい声音で念の為にと聞き返す。
「そちらは3人そろってますか」
『いや、吊戯が忘れ物したって部屋に戻って・・・それっきりだな』
するとやはりというべきか、1人だけ居場所が分からない状態だという。
「あの人。すぐいなくなるんですから目を離さないでくださいよ」
そこで露木が思わずまた苛立たしさを滲ませながら盾一郎にそう言うと。
『どっかで油売ってんな。捕まえてきてくれ』
はははと笑い声を上げた盾一郎からそう頼み返されてしまい。
「・・・・・・」
―――――そう来ると思いましたが―――――
憮然とした面持ちになった露木が心の中でそう呟いた時。
『あ!? なんだこのハンドクリーム・・・これ糊じゃねぇか!?』
という弓景の叫び声が電話向こうから聴こえてきて。
『そういえばそれ、昨日、吊戯がいじってたぞ』
『早く言えよ、あのボケの犯行かよ』
『おい。俺になすりつけんなよ!!』
『テメェも道連れだ』
『やめろバカ弓』
弓景と盾一郎―――――二人の騒がしいやり取りが始まってしまった為。
そこで露木は盾一郎との通話を終了してしまったのだった。
【本館/21・4/12/別館/21・4/15掲載】
★不倶戴天(ふぐたいてん)は【犬猿】の類語です。
