第十九章『C3の魔法使い』
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「はい。車守・・・」
支部からの電話だ、静かにしろよーと騒がしかった二人に釘を刺したうえで、スピーカーに切り替えて盾一郎が電話に出ると。
『違反対策本部です。近隣で下位吸血鬼の違反者を確認しました。コードバルドル・ヘズ・トールの緊急対処を要請します』
その通話によって、先程迄酔っ払い状態であったのがまるで嘘のように、吊戯の面差しもまた冷ややかなものに変わっていて。
「・・・?」
―――――・・・・・・下位吸血鬼の違反者に対する緊急対処?
真昼と瑠璃は、妙な胸騒ぎを覚え、緊張した面持ちで、吊戯の横顔を見つめる。
『三者ともに戦闘許可。バルドルの制限解除は戦況を見てヘズが判断願います。対象数5。捕縛優先。抹消も許可。周囲の隔離完了済みです。地図情報と対象者の画像を送信します』
「・・・三者了解」
そして盾一郎が、本部からの指示に対して了承の返答をすると。
「ええ~~~~~~待って待って~~~報酬の話は~~~? いくら出るんですか~~~? 頑張り方が違ってきますが~~~~~~?」
その直後、また吊戯はへらへらとした笑みを浮かべながら、そんな台詞を口にしていて。
そんな吊戯の発言に「お前・・・」と盾一郎が顔を顰めると、
『報酬は・・・え? あなたがどうして・・・・・・』
通話相手もまた、呆れた様子でそれに応えようとしたのだが、けれどその直後に聴こえてきたのは戸惑いに満ちた声で。
ザザッ、ザッという雑音がその後、数秒間流れ―――――
『・・・吊戯。いくら欲しいんだ? まったく・・・終わったら好きなだけやるから』
やがて聴こえてきたのは、独特の間合いと、重低音を感じさせる男の声で。
と―――――
「・・・塔間さん」
まるで催眠にでも掛かったかのような面持ちで、ぼんやりと吊戯は虚空を見つめていて。
―――――この声の人がさっき話に出てきた『トーマさん』なの?
瑠璃が眉を顰めながら、聴こえてくる声に意識を向けると。
『ここ数日、下位吸血鬼 どもが騒がしくて仕方ない。見せしめにするためにも今日は派手にやって来なさい』
電話の主が一方的に命令を伝えた終えた処で、ブツッと通話は打ち切られてしまい。
「・・・だそうだ。ほろ酔いタイムは終わりだぞ~」
その後、すぐに送られてきた地図情報を一瞥した盾一郎が、ハンドルを操作しながら、そう宣言をした処で。「弓、後ろから上着取って」と後部席に向かって呼び掛けると。
「だっりーな・・・真っ昼間じゃねーかよ」
弓景が悪態をつきながらも上着を盾一郎に手渡した後に、
「さっさと着ろ、吊戯」
ボスッと吊戯にも上着を投げ渡して。
「あ~~~ムリ・・・オレ酔っちゃってるし・・・」
視線を俯けていた吊戯は頭に被さってきたフードを外すことなく、顔だけを上に向けると、譫言を紡ぎ出すように応じてきたのだが。
「・・・とか言って塔間の奴隷のくせによ」
手早く下ろしていた髪を纏めなおすために、ゴムを口に銜えながら弓景が漏らした言葉に、吊戯は無言で右手を上げる仕草をすると、頭に被さったフードを掴んだのだが。
「・・・・・・吊戯さん・・・・・・」
その時、チラリと見えた金色の瞳は仄暗い闇を宿していて、それに気づいた瑠璃が眉根を寄せながら名前を呼ぶと。
バサとフードを背に流して、上着に袖を通した吊戯は「・・・はっは、社畜の悲しい性だな~」とへらりと笑みを浮かべて見せてきて。
「えっ? えっ、何が・・・」
しかし、事態が把握できていない真昼が困惑の面持ちで盾一郎を見遣ると、
「近くで下位吸血鬼 がもめてる んだと。ちょっと寄って・・・止めていく 」
そう告げられてくるのと同時に、ズズズと術が施された空間の中に車が入り込んで行って。
「!?」
―――――なんだ・・・!?
―――――車も・・・人も急に誰もいなくなった・・・!?
真昼が当惑の面持ちになった一方で。
―――――多分、ここには人除けの幻術の類が施されているんだわ。
瑠璃は眉を顰めながら、そっと右手で胸元の『鍵』を握りしめる。
「・・・入った 。ここだな」
キッと盾一郎が車を停車させると、上着を羽織った三人は車から降車して。
「は―――――寒いね! さてと・・・」
白い息を吐き出しながら吊戯が呟くと。
弓景が襟元からジャラと黒い鍵束をぶら下げた紐を引っ張りだした後に、
「テメエらはそこから動くなよ」
そう言いながら首からその鍵束の紐を取り外すと、そこから鍵を1本手に取った処で、すっ、と車に突き付けてきて。
―――――鍵・・・?
一体何をするつもりなのかと、真昼が呆然と目を瞬かせると。
ズッと漆黒の渦のようなものが鍵の先端で具象化して、そこで弓景が手にしていた鍵を左に向かって半回転させると、パキンと車体全体が黒いモノに覆われてしまったのだ。
「な・・・!?」
真昼が愕然とした面持ちで窓に張り付くと、
「出ようとしても無駄だからな。車内で暴れるのはやめてくれよ」
車の持ち主である盾一郎が、言い聞かせるようにそう告げてきて。
「―――――・・・・・・もしかして、魔術による結界なの・・・・・・?」
C3は古い魔術に始まり、いろんな研究をやっているのだと、ロウレスは言っていた。
少し前に聞いたばかりの話を思い出した瑠璃が、眉を顰めながら窓の外から突き刺さった状態の『黒い鍵』に目を向けると。
両手の親指と人差し指を掲げる仕草をした吊戯が笑みを浮かべながら、
「はっは! 急な中二病展開に驚いたかい? お兄さん達はね魔法使いなんだ」
瑠璃の考えを肯定するような発言をしたのだが。
「『エクソシスト』のほうが近いんじゃないのか?」
と呼び名の訂正を口にした盾一郎が、その後に中二病言うなと眉を顰めていて。
「あ―――――そっちのほうがかっこよかったかな?」
吊戯が相槌を打ちながら自身の両掌を前に向かって広げる仕草をすると。キィと甲高い音が鳴り響き、吊戯の両手首にあった黒い紐のようなものが、閃光を瞬かせながら揺らめいた刹那―――――両腕を組む仕草をした吊戯のその身体に黒い紐がバチンと勢いよく巻き付いて。さらに上着の上からもまた、厳重に上半身を拘束するように、黒いベルトがバシッと装着されたのだ。
そうして吊戯の戦闘準備が整ったところで―――――
「俺は行かねぇぞ。ガキどものお守りしてっからな」
「ああ」
弓景に対して「頼むわ」と盾一郎は頷いたのだが、
「・・・っつーかまっすぐ歩ける気がしねぇ」
蒼白な面持ちで車体に寄りかかるようにしながら、うえっと呻いた弓景の姿を目にして「飲み過ぎだバカ!」と顔を顰めると。
「はっは! 弓ちゃんは休んでおいで! 盾ちゃんもあんまり前に出ないでおくれよ」
吊戯が笑いながら、そう言ったのだが。しかし、盾一郎はその吊戯の発言にもまた、眉を顰めてしまう。
「あのなあ・・・いつまでも俺をブランク明け扱いすんのやめろって」
しかし吊戯は盾一郎の言葉に耳を貸すことなく。
「今日はオレ一人でいいよ」
すっ、と身を翻してしまい。
「は? おい・・・」
「あの角の先だろう? すぐ済むよ。ここで見ててくれればいい」
納得がいかない様子の盾一郎に対してそう言い放つと、トッと一足飛びで下位吸血鬼達がいる角の路地まで跳躍していってしまったのだ。
「はっは! まいどどうも!」
へらりと笑みを浮かべた吊戯がトッと、路地に降り立つと、そこには5人の下位の姿が在り。その中の1人が胸倉を掴まれた状態となっていた。
「・・・!?」
しかし、吊戯の姿を目にした瞬間、ざわっと下位達は身の毛がよだつような感覚に苛まれることとなり。
「えーと1、2・・・おっ、揃ってるね」
吊戯が下位達の人数を確認し終えた刹那―――――
「こいつ! 狼谷吊戯だ!!!」
下位達は目の前に現れた相手の正体を覚り。逃げろ!! と一人が叫んだのを合図として、小競り合いを止めた下位達はババッと路地から一目散に飛び出して行ってしまったのだ。
「・・・ごめんよ。塔間さんが派手にやれって言うからね・・・」
けれど吊戯は焦る様子を見せることなく、淡々とした口調でそう呟いたのだが―――――逃げ出した下位達を見遣った形相は狂気そのもので。そんな吊戯の精神状態に呼応するかのように、足元の影もまた歪な変化を見せ始めて、さらにその影の中から、ズズズズズズと剣の形をしたものが幾本も現れたのだ。
『・・・!!』
車中に残された真昼達は、その光景を目にして絶句してしまう。
そして吊戯がトッと左脚を上げながら上半身を反らす動作をした後に、勢いよく前に向かってその身体を振り下ろした瞬間―――――放たれた漆黒の剣がドドと4人の下位の身体を貫いたのだ。
それは下位達の足止めではなく、命を奪う為の行為で。
ドパと灰塵を放出したのちに、吊戯の攻撃を受けた下位の身体はザラ・・・と砂に変わってしまい。
「ひ・・・っ。なんで・・・・・・」
そんな中でまだ攻撃を受けていなかった下位が死に物狂いで逃げていくその姿を、吊戯は無表情に見つめると。猟犬の名にふさわしく、獲物を追いやるかのように、トッと跳躍していって。
「ま、待って・・・!!」
車内から真昼がそれをやめさせようと必死に声を上げた時。
「―――――・・・・・・クロ、お願いっ!!」
瑠璃は腕の中に抱いていた黒猫に悲痛な声音で懇願の言葉を紡ぎ出していた。
「・・・・・・向き合えねー」
それに対して瑠璃の腕の中にいた黒猫は目を伏せながらそう呟いたものの。
しかし、次の瞬間には瑠璃の想いに応えて、左手の親指に噛み付いていた。
そうして右手の中に握りしめていた『鍵』に、左手の親指から流れ出した血の雫を落とすと。
―――――パアと紅い閃光が車内で発現し、弓景が施した術の媒介である『黒い鍵』が反発するようにバチバチッと漆黒の稲光を放電し始めて。
「なっ・・・・・・・・!?」
それに気づいた弓景が、唖然とした面持ちで車に目を向けた処で。
「瑠璃姉っ・・・・・・!? クロっ!?」
助手席に座っていた真昼もまた、後部座席から放たれた強い光に気づき、顔の前に右腕を掲げながら振り返った―――――その刹那、瑠璃の姿だけが車内から忽然と消えていて。
「―――――吊戯さんっ!! もうこれ以上下位の人に危害を加えるのは止めてください!!」
パアと紅い閃光が吊戯の行く手を塞ぐように瞬くと、『鍵』のロッドを手にした瑠璃が顕現したのだ。
「チッ、あいつッ!!」
そこで瑠璃の姿を認めた弓景が思い切り顔を顰めながら舌打ちをすると、
「吊戯!! やりすぎだボケッ!!」
二丁の漆黒の猟銃のようなモノ両手に具現化させて。パパン! とすぐさま吊戯目掛けて躊躇うことなく発砲したのだ。
弓景が放った銃弾は吊戯の動きを制限する為のものだったようで。それが吊戯に着弾した瞬間、背に靡いていた拘束ベルトの両端がビッと地面に縫い留められてしまい。
それによって跳ぶことが叶わなくなった吊戯の身体が、勢いよく空中から地面に向かって引き戻されかけた処で。
ドッと幾本もの漆黒の杭が交差するようにしながら具現化して、吊戯の身体が地面に叩き付けられてしまうのを防いだのだ。
それと同時に吊戯に追われていた、下位の身体もまた漆黒の杭によって地面に身体を拘束されていて。
2本の漆黒の棒を両手に握りしめながらその術を発動させた盾一郎が、
「・・・バカ・・・落ち着け・・・! 捕縛優先だ・・・!」
吊戯を睨みつけながら唸るような声音でそう言うと。
「・・・ごめんよ。だいじょうぶ。今日はけっこうおちついてるよ」
逆さの状態で言葉を発した吊戯は笑みを浮かべながら応じてきて。
けれど、盾一郎はすぐには吊戯に仕掛けた術を解除することはせず、
「目ェ見せろ!」
傍に向かったところで、瞳孔の状態を確認するべく、じっと顔を近づけて覗き込むようなしぐさをすると。
「大丈夫だって~。でも、瑠璃ちゃんもすごいね~。弓ちゃんの術を突破して出てきちゃうなんてさ」
吊戯はへらりと笑いながら、瑠璃のほうにも話しかけてきたのだが。
けれど、瑠璃は只只困惑の眼差しで吊戯を見つめ返すことしか出来なかった。
―――――・・・・・・さっきの吊戯さん、まるで・・・・・・。
そして、車内に一人残された真昼も―――――
「なんだ・・・!? あのひと、まるで・・・」
―――――クロみたいな―――――・・・。
吊戯が繰り出していった攻撃は、つい先日、ワールドツリーホテルでべルキア達と対峙した際にクロが発動させたモノと同じもので。
「人・・・間なのか・・・?」
真昼が掠れ声で漏らした言葉に、
「だからマホウツカイだっつの・・・」
スマホで支部に連絡を入れながら弓景が応じてきて。
「ヘズから対策部へ。対処完了。抹消数4、捕縛数1」
その後に弓景の口から紡ぎ出されたその言葉に、衝撃を覚えた真昼は身体を戦慄かせてしまう。
「〝抹消〟・・・」
「あ?」
「4人殺したんですか・・・・・・なんで・・・っ」
そうして真昼の口から紡ぎ出された当惑の言葉によって弓景は思い出したようで。
「・・・ああ、そういえばテメエらこの前、椿の下位消して なかったっけな。殺したくねーとかそういうのか?」
真昼に目を向けていた弓景はチラッと瑠璃のほうにも視線を投げかけてきて。
―――――殺したくない、それは当然のことだ。
―――――椿の下位である彼らは、瑠璃にとって大切な『家族』なのだから。
―――――けれど、それだけではなく・・・・・・
「どうして・・・・・・」
瑠璃がロッドを握りしめながら沈痛の面持ちで漏らした言葉に続いて、
「あの吸血鬼達が何をしたんですか!? 本当に・・・殺されなきゃいけない程のこと」
真昼が弓景に対して非難の言葉を口にしたのだが。
「ああ!? んなこと知らねーよ 」
しかし、苛立ちに満ちた面差しで怒鳴り返してきた弓景の言葉に、「えっ?」と真昼は戸惑いの声を漏らしてしまう。
「何をしたかなんてどうでもいんだよ。これが俺らの仕事だ」
それに対する弓景の返答は〝私情〟を一切挟まぬもので。
そして、真昼と弓景が言葉を交わしていた間に、盾一郎が術を解いて、ト・・・と地に足を付けた吊戯が此方に振り返ってきたのだが。
「吊戯ちゃんの魔法対戦―――――おしまい~~~~~」
へらっと笑う吊戯の表情に、うすら寒いものを覚えた真昼が反射的に顔を強張らせてしまったその時。
「いまの瑠璃ちゃんの〝力〟の発現状態を確認するきっかけを作ってくれたとはいえ・・・・・・あ―――――あ、みっともない。あいっかわらず節操のない犬だな、吊戯さんは」
一部始終を封鎖された空間内にあったビル街の上から、嫉妬の真祖とともに見ていた御国が吊戯に対して蔑むような眼差しを向けていたのだった。
そうしてC3に属する吊戯たちの仕事を、思ってもみなかった形で、真昼と瑠璃が目にすることになってしまった後。―――――今度は盾一郎の実家から電話がかかってきて。幼稚園に通っている息子が熱を出したため、お迎えが必要だという知らせを受けることとなり。『仕事中』ではあったものの、急遽、そちらにも寄ることになったのだが。
幼稚園の前に到着したその時、『仕事着』のままの盾一郎と共に、何故か吊戯と弓景の二人が『私服姿』で当たり前のようにお迎えメンバーに加わっていて。
「ゆみとちゅるぎがむかえにきてくれた―――――」
お迎えが来たということで姿を見せた盾一郎の息子が真っ先に駆け寄った相手もまた、何故か父親である盾一郎ではなく、弓景と吊戯の二人で。
「パパは―――――!?」
息子の素っ気ない態度に盾一郎はひどくショックを受けた様子ではあったものの。その後、息子にお気に入りらしい黒いライオンのぬいぐるみと白いライオンのぬいぐるみを渡した処で抱き上げると。
「くるまもりたくと、3さいです!」
開放された車内の窓から顔を覗かせていた真昼と瑠璃に対して、拓人はちゃんと挨拶をしてくれたものの。
先程の件がまだ尾が引いたままだった真昼と瑠璃は、思わず拓人に対して『え・・・と・・・』と戸惑いの目を向けてしまったのだが。
「可愛すぎる26歳児♥ 狼谷吊戯です♥」
すると突然、吊戯が左手の親指と人差し指で自身の頬をつきながら、ぺろっ♥ と舌を覗かせつつ、そんな口上を述べてきて。
「テメェは清々しいほどにウザいな」
かわいくねーよ、としかめ面で弓景が吊戯に突っ込みを入れると。
吊戯は弓景のことを右手の親指で指し示しながら、
「こっちは小学生すぎる26歳児、月満弓景くんです♥ 好きな子にほどイジワルしちゃう子です♥」
そんなふうに紹介をされた弓景が「マジ吊戯泣かす」と睨みつけるも。
しかし、吊戯は構うことなく、笑みを浮かべながらチラリと瑠璃のほうを見遣ると、その後に瑠璃と真昼の双方に人差し指を向けてきて。
―――――な・・・何かを要求されてる・・・?―――――
「えっと・・・・・・瑪瑙瑠璃、21歳です? それからこの黒猫さんは・・・・・・クロです?」
「し・・・しろたまひる、16歳・・・です?」
そこで瑠璃と真昼も困惑しつつも、とりあえず簡単な自己紹介をすると。
「瑠璃ちゃんとくろとしろたま!!」
拓人がはしゃいだ声を上げて。
「男前すぎる26歳児・・・車守盾一郎です」
最後に盾一郎がキリッと凛々しい顔で挨拶をしたのだが。
「おもしろい冗談だね!!!」
「おもしれぇ冗談だな!!!」
吊戯も弓景も何故か大爆笑していて。
「おい、どこが面白いんだ。言ってみろ!!」
盾一郎が二人を睨むと、
「ゆみかちゅるぎがいい! ちゅるぎにだっこするー!」
ぐい、と右手で盾一郎の顔を押し退ける仕草をしながら、急に拓人が駄々をこね始めて。
「いて! あーもう、お前どこが具合悪いんだよ! 元気じゃねぇか!」
「よしよし。ちゅるぎが抱っこしてあげよう!」
そこで吊戯が笑みを浮かべながら両腕を差し伸べると、ぐずっていた拓人はすぐさま吊戯の首にしっかりと両手を伸ばしながらしがみついて。
「くそ・・・こいつ、弓と吊戯のこと大好きすぎるだろ・・・パパをないがしろにしやがって・・・」
盾一郎の手の中に残されたのは通園帽子のみで、吊戯の腕の中に大人しく収まった拓人に恨めしいと言わんばかりの目を向けると。
「盾一人じゃパパとして力不足ってことだろ。いいんじゃねぇか? いっそ・・・パパが3人でも」
ニヤッと弓景が笑みを浮かべながら、そんな台詞を口にして。
「それ、他の人が聞いたらすごい誤解を生みそうな気が・・・・・・」
その台詞を聞いた瑠璃が思わず微苦笑を漏らすと。
「あぁ? 豪華でいいだろうが?」
弓景が睨むように目を向けてきたのだが。
と―――――
「瑠璃ちゃんにもだっこするー!」
吊戯に抱きかかえられていた拓人が、ふいに瑠璃のほうに目を向けると、瑠璃に向かってぐいっと両手を伸ばして。
「えっと、私も・・・・・・?」
戸惑いの面持ちで瑠璃が目を瞬かせると、
「はっは! 拓ちゃんもやっぱり男の子だね」
吊戯が笑みを浮かべながら此方にやって来て。
「というわけで、瑠璃ちゃん。拓ちゃんのこと少しの間だけ頼めるかな?」
「わかりました。・・・・・・クロはここでちょっと待っててね」
腕の中に抱いていた黒猫をそっと傍らの席に下ろすと、後部席の扉を瑠璃は開いて車外に出る。
そして―――――
「お待たせ、拓人君」
ふんわりと瑠璃が笑みを浮かべながら両手を広げると、
「わあい♪ 瑠璃ちゃん」
「わっ、と・・・・・・」
両手を伸ばしてきた拓人を落とさないようにしっかりと瑠璃が抱きかかえると、キュッとぬいぐるみを握りしめたまま拓人は抱き着いてきて。
―――――・・・・・・なんだろう、すごく気持ちが落ち着く気がする。
黒猫を抱いている時とはまた違う、子供特有の体温と重さに、瑠璃がフフッと柔らかな笑みを零すと。
―――――瑠璃姉、ほんと子供にも好かれやすいよな。
―――――御園の家の下位の子たちにも懐かれてたし。
そんな瑠璃の姿を真昼が助手席の窓から見つめながら想いを巡らせる。
瑠璃は『吸血鬼』も『人』もどちらも分け隔てなく、大切に想っている。
けれど、C3に属する〝あの人〟は・・・・・・?
「おい・・・・・・そんなんじゃ首元が冷えんだろ」
しかめっ面をした弓景が自身の首に巻いていたマフラーに手を掛けながら拓人を抱いた瑠璃の傍に近付いて来る。
「あ。そうですね、このままだと拓人君が・・・・・・」
そこで弓景の視線が拓人に向けられているのに気づいた瑠璃が弓景に頷くと、耳朶に届いた二人のやり取りによって拓人が弓景のほうに顔を向けて。弓景の手によって拓人の首にマフラーが巻かれたのだが。
「・・・・・・」
「あの・・・・・・月満さん?」
ふと、ジッと憮然としたような面持ちで見据えてきた弓景を、瑠璃は戸惑いの面持ちになりながら見上げると。
「・・・・・・テメェは身体のほうは問題ねぇだろうな?」
「え、と。はい、大丈夫です」
唐突に投げかけられてきた問いに瑠璃は呆然と目を瞬かせながら頷くと。
「―――――そうかよっ、なら良かったな」
口調は相変わらず、つんけんしたものではあったものの、頭をくしゃりと弓景に撫でられて。
「――――――え、と、あの、月満さん!?」
瑠璃が驚きのあまり、目を白黒させると。「ゆみと瑠璃ちゃん、なかよし?」と拓人が首を傾げていて。
「はっは! 弓ちゃんてば、意地悪な態度をやめて行き成り優しくなったから。瑠璃ちゃんがびっくりしてるよ」
そこに面白がっている様子の吊戯が笑みを浮かべながら此方にやって来て。
「あ゛ぁ!? 吊戯、テメェ何言ってやがるんだ!? 俺は別に元から意地悪なんてしてねぇだろうが」
弓景が吊戯を睨みながら威嚇するように声を上げるも、吊戯は異に介することなく。
キラキラとした笑顔で拓人に向かって「お出で、拓ちゃん」と言いながら手を伸ばしてきて。
きょとんと拓人は目を瞬かせたものの、素直に瑠璃の腕の中から抜け出してまた吊戯に抱っこされる状態に戻ると。
「にゃ~」
後部席の空いていた窓から飛び出してきた黒猫が、拓人と入れ替わるようなタイミングで瑠璃の肩に着地してきて。
「クロ?」
目を瞬かせた瑠璃が黒猫の名前を呼ぶと、スリと黒猫は瑠璃の首筋に顔を寄せてきたのだが、若干面白くないといった様子の雰囲を纏わりつかせていて。
「くろ、瑠璃ちゃんのことだいすきなんだね」
「うん、そうだね。黒猫さんは瑠璃ちゃんのこと大好きみたいだね」
拓人が口にした言葉に吊戯は頷くと、はっは!! あはははははは!と笑っていて。
―――――・・・・・・普通。
―――――普通の光景だ。
―――――子供を抱いて笑ってる。
―――――これがさっき・・・吸血鬼を殺した人の顔なのか?
〝吊戯〟の様子を見ていた真昼は困惑の面持ちになってしまう。
―――――・・・この人たちにとってはあれが日常なんだ・・・。
「ところで盾ちゃん。車どうするんだい?」
それから少しして、思い出した様子で吊戯が盾一郎にその問いを投げかけると。
「ああ大丈夫。チャイルドシート積んでるから」
それに答えた盾一郎はすぐさまごそごそと車のトランクから目当てのモノを用意しようとしたのだが。
「じゃなくてこの車5人乗り」
「あっ! ・・・・・・そうだった。今日は二人(と一匹)多いんだった・・・」
いつものノリでつい、用意をしようとしてしまったと盾一郎はぼやくと。
「相変わらず盾ちゃんは抜けてるな!」
はっは! と吊戯が笑い声を上げて。
「うるせえよ。じゃあ、しょうがねぇ・・・。とりあえず俺が怠惰の二人と瑪瑙さんを支部に置いてくるか」
眉を顰めつつ、そろそろ時間もやばいと、車内の時計を一瞥した盾一郎が呟くと。
「あーそれがいいかもね~。時間もだし・・・それに彼、オレのこと怖がっちゃってるし」
盾一郎の言葉に頷いた吊戯が、ふと目を向けた相手は真昼で。
「・・・・・・っ」
吊戯と目が合った真昼がギクッと顔を強張らせると、べろ―――――~っと、吊戯は舌を見せながら意地の悪い笑みを浮かべていて。
「じゃ。その辺の店で拓にオヤツでも食わせとくわ」
そんな吊戯を制するように、さりげなく傍らに並んだ弓景が盾一郎にそう告げると。
「ああ頼む。二人 から絶対目ェを離すなよ弓」
「特にデカいほう」と盾一郎が念を押すように言い返してきて。
「わーってるよ」
心得ているとばかりに「特にデカいほうな」と弓景もまたそれに頷き返すと。
二人から『要注意人物』扱いされた吊戯がニヤッと笑みを浮かべて。
「そう言われると全力で逃げたくなりますな~」
逃走を仄めかす発言をした吊戯を「ヒモでつなぐぞテメェ」と弓景が睨んだ中。
「瑠璃ちゃんは一緒に来ないの?」
拓人がしゅんとした様子で尋ねかけてきて。
「うん、今日は大事な御用があって、残念だけど一緒にはいけないの。その代わり、この次に会えたらその時は一緒に遊んでくれるかな?」
眉を下げながら瑠璃がそう言って、右手の小指を拓人に差し出すと。
「いいよ! じゃあ、その時はくろもいっしょね!!」
拓人は右手に持っていたぬいぐるみを左の腕の中に移動させて、瑠璃の小指と自分の小指を絡ませた後に。瑠璃の肩に乗っていた黒猫の頭も撫でていて。
抵抗することなく、幼子によしよしと触られた黒猫が「ニャ、ニャ~・・・・・・」と鳴き声を漏らすと。
「ぱぱー、ばいばーい!」
その後に父親である盾一郎にも拓人は挨拶をしてきたのだが。瑠璃と別れる際に見せた残念そうな態度とは打って変わって、超笑顔を浮かべながら手を振っていた息子に。
「少しは寂しがってくれ!!」
この薄情者!!と盾一郎が涙目になっていたのはいうまでもない。
【本館/21・2/28/別館/21・2/28掲載】
支部からの電話だ、静かにしろよーと騒がしかった二人に釘を刺したうえで、スピーカーに切り替えて盾一郎が電話に出ると。
『違反対策本部です。近隣で下位吸血鬼の違反者を確認しました。コードバルドル・ヘズ・トールの緊急対処を要請します』
その通話によって、先程迄酔っ払い状態であったのがまるで嘘のように、吊戯の面差しもまた冷ややかなものに変わっていて。
「・・・?」
―――――・・・・・・下位吸血鬼の違反者に対する緊急対処?
真昼と瑠璃は、妙な胸騒ぎを覚え、緊張した面持ちで、吊戯の横顔を見つめる。
『三者ともに戦闘許可。バルドルの制限解除は戦況を見てヘズが判断願います。対象数5。捕縛優先。抹消も許可。周囲の隔離完了済みです。地図情報と対象者の画像を送信します』
「・・・三者了解」
そして盾一郎が、本部からの指示に対して了承の返答をすると。
「ええ~~~~~~待って待って~~~報酬の話は~~~? いくら出るんですか~~~? 頑張り方が違ってきますが~~~~~~?」
その直後、また吊戯はへらへらとした笑みを浮かべながら、そんな台詞を口にしていて。
そんな吊戯の発言に「お前・・・」と盾一郎が顔を顰めると、
『報酬は・・・え? あなたがどうして・・・・・・』
通話相手もまた、呆れた様子でそれに応えようとしたのだが、けれどその直後に聴こえてきたのは戸惑いに満ちた声で。
ザザッ、ザッという雑音がその後、数秒間流れ―――――
『・・・吊戯。いくら欲しいんだ? まったく・・・終わったら好きなだけやるから』
やがて聴こえてきたのは、独特の間合いと、重低音を感じさせる男の声で。
と―――――
「・・・塔間さん」
まるで催眠にでも掛かったかのような面持ちで、ぼんやりと吊戯は虚空を見つめていて。
―――――この声の人がさっき話に出てきた『トーマさん』なの?
瑠璃が眉を顰めながら、聴こえてくる声に意識を向けると。
『ここ数日、
電話の主が一方的に命令を伝えた終えた処で、ブツッと通話は打ち切られてしまい。
「・・・だそうだ。ほろ酔いタイムは終わりだぞ~」
その後、すぐに送られてきた地図情報を一瞥した盾一郎が、ハンドルを操作しながら、そう宣言をした処で。「弓、後ろから上着取って」と後部席に向かって呼び掛けると。
「だっりーな・・・真っ昼間じゃねーかよ」
弓景が悪態をつきながらも上着を盾一郎に手渡した後に、
「さっさと着ろ、吊戯」
ボスッと吊戯にも上着を投げ渡して。
「あ~~~ムリ・・・オレ酔っちゃってるし・・・」
視線を俯けていた吊戯は頭に被さってきたフードを外すことなく、顔だけを上に向けると、譫言を紡ぎ出すように応じてきたのだが。
「・・・とか言って塔間の奴隷のくせによ」
手早く下ろしていた髪を纏めなおすために、ゴムを口に銜えながら弓景が漏らした言葉に、吊戯は無言で右手を上げる仕草をすると、頭に被さったフードを掴んだのだが。
「・・・・・・吊戯さん・・・・・・」
その時、チラリと見えた金色の瞳は仄暗い闇を宿していて、それに気づいた瑠璃が眉根を寄せながら名前を呼ぶと。
バサとフードを背に流して、上着に袖を通した吊戯は「・・・はっは、社畜の悲しい性だな~」とへらりと笑みを浮かべて見せてきて。
「えっ? えっ、何が・・・」
しかし、事態が把握できていない真昼が困惑の面持ちで盾一郎を見遣ると、
「近くで
そう告げられてくるのと同時に、ズズズと術が施された空間の中に車が入り込んで行って。
「!?」
―――――なんだ・・・!?
―――――車も・・・人も急に誰もいなくなった・・・!?
真昼が当惑の面持ちになった一方で。
―――――多分、ここには人除けの幻術の類が施されているんだわ。
瑠璃は眉を顰めながら、そっと右手で胸元の『鍵』を握りしめる。
「・・・
キッと盾一郎が車を停車させると、上着を羽織った三人は車から降車して。
「は―――――寒いね! さてと・・・」
白い息を吐き出しながら吊戯が呟くと。
弓景が襟元からジャラと黒い鍵束をぶら下げた紐を引っ張りだした後に、
「テメエらはそこから動くなよ」
そう言いながら首からその鍵束の紐を取り外すと、そこから鍵を1本手に取った処で、すっ、と車に突き付けてきて。
―――――鍵・・・?
一体何をするつもりなのかと、真昼が呆然と目を瞬かせると。
ズッと漆黒の渦のようなものが鍵の先端で具象化して、そこで弓景が手にしていた鍵を左に向かって半回転させると、パキンと車体全体が黒いモノに覆われてしまったのだ。
「な・・・!?」
真昼が愕然とした面持ちで窓に張り付くと、
「出ようとしても無駄だからな。車内で暴れるのはやめてくれよ」
車の持ち主である盾一郎が、言い聞かせるようにそう告げてきて。
「―――――・・・・・・もしかして、魔術による結界なの・・・・・・?」
C3は古い魔術に始まり、いろんな研究をやっているのだと、ロウレスは言っていた。
少し前に聞いたばかりの話を思い出した瑠璃が、眉を顰めながら窓の外から突き刺さった状態の『黒い鍵』に目を向けると。
両手の親指と人差し指を掲げる仕草をした吊戯が笑みを浮かべながら、
「はっは! 急な中二病展開に驚いたかい? お兄さん達はね魔法使いなんだ」
瑠璃の考えを肯定するような発言をしたのだが。
「『エクソシスト』のほうが近いんじゃないのか?」
と呼び名の訂正を口にした盾一郎が、その後に中二病言うなと眉を顰めていて。
「あ―――――そっちのほうがかっこよかったかな?」
吊戯が相槌を打ちながら自身の両掌を前に向かって広げる仕草をすると。キィと甲高い音が鳴り響き、吊戯の両手首にあった黒い紐のようなものが、閃光を瞬かせながら揺らめいた刹那―――――両腕を組む仕草をした吊戯のその身体に黒い紐がバチンと勢いよく巻き付いて。さらに上着の上からもまた、厳重に上半身を拘束するように、黒いベルトがバシッと装着されたのだ。
そうして吊戯の戦闘準備が整ったところで―――――
「俺は行かねぇぞ。ガキどものお守りしてっからな」
「ああ」
弓景に対して「頼むわ」と盾一郎は頷いたのだが、
「・・・っつーかまっすぐ歩ける気がしねぇ」
蒼白な面持ちで車体に寄りかかるようにしながら、うえっと呻いた弓景の姿を目にして「飲み過ぎだバカ!」と顔を顰めると。
「はっは! 弓ちゃんは休んでおいで! 盾ちゃんもあんまり前に出ないでおくれよ」
吊戯が笑いながら、そう言ったのだが。しかし、盾一郎はその吊戯の発言にもまた、眉を顰めてしまう。
「あのなあ・・・いつまでも俺をブランク明け扱いすんのやめろって」
しかし吊戯は盾一郎の言葉に耳を貸すことなく。
「今日はオレ一人でいいよ」
すっ、と身を翻してしまい。
「は? おい・・・」
「あの角の先だろう? すぐ済むよ。ここで見ててくれればいい」
納得がいかない様子の盾一郎に対してそう言い放つと、トッと一足飛びで下位吸血鬼達がいる角の路地まで跳躍していってしまったのだ。
「はっは! まいどどうも!」
へらりと笑みを浮かべた吊戯がトッと、路地に降り立つと、そこには5人の下位の姿が在り。その中の1人が胸倉を掴まれた状態となっていた。
「・・・!?」
しかし、吊戯の姿を目にした瞬間、ざわっと下位達は身の毛がよだつような感覚に苛まれることとなり。
「えーと1、2・・・おっ、揃ってるね」
吊戯が下位達の人数を確認し終えた刹那―――――
「こいつ! 狼谷吊戯だ!!!」
下位達は目の前に現れた相手の正体を覚り。逃げろ!! と一人が叫んだのを合図として、小競り合いを止めた下位達はババッと路地から一目散に飛び出して行ってしまったのだ。
「・・・ごめんよ。塔間さんが派手にやれって言うからね・・・」
けれど吊戯は焦る様子を見せることなく、淡々とした口調でそう呟いたのだが―――――逃げ出した下位達を見遣った形相は狂気そのもので。そんな吊戯の精神状態に呼応するかのように、足元の影もまた歪な変化を見せ始めて、さらにその影の中から、ズズズズズズと剣の形をしたものが幾本も現れたのだ。
『・・・!!』
車中に残された真昼達は、その光景を目にして絶句してしまう。
そして吊戯がトッと左脚を上げながら上半身を反らす動作をした後に、勢いよく前に向かってその身体を振り下ろした瞬間―――――放たれた漆黒の剣がドドと4人の下位の身体を貫いたのだ。
それは下位達の足止めではなく、命を奪う為の行為で。
ドパと灰塵を放出したのちに、吊戯の攻撃を受けた下位の身体はザラ・・・と砂に変わってしまい。
「ひ・・・っ。なんで・・・・・・」
そんな中でまだ攻撃を受けていなかった下位が死に物狂いで逃げていくその姿を、吊戯は無表情に見つめると。猟犬の名にふさわしく、獲物を追いやるかのように、トッと跳躍していって。
「ま、待って・・・!!」
車内から真昼がそれをやめさせようと必死に声を上げた時。
「―――――・・・・・・クロ、お願いっ!!」
瑠璃は腕の中に抱いていた黒猫に悲痛な声音で懇願の言葉を紡ぎ出していた。
「・・・・・・向き合えねー」
それに対して瑠璃の腕の中にいた黒猫は目を伏せながらそう呟いたものの。
しかし、次の瞬間には瑠璃の想いに応えて、左手の親指に噛み付いていた。
そうして右手の中に握りしめていた『鍵』に、左手の親指から流れ出した血の雫を落とすと。
―――――パアと紅い閃光が車内で発現し、弓景が施した術の媒介である『黒い鍵』が反発するようにバチバチッと漆黒の稲光を放電し始めて。
「なっ・・・・・・・・!?」
それに気づいた弓景が、唖然とした面持ちで車に目を向けた処で。
「瑠璃姉っ・・・・・・!? クロっ!?」
助手席に座っていた真昼もまた、後部座席から放たれた強い光に気づき、顔の前に右腕を掲げながら振り返った―――――その刹那、瑠璃の姿だけが車内から忽然と消えていて。
「―――――吊戯さんっ!! もうこれ以上下位の人に危害を加えるのは止めてください!!」
パアと紅い閃光が吊戯の行く手を塞ぐように瞬くと、『鍵』のロッドを手にした瑠璃が顕現したのだ。
「チッ、あいつッ!!」
そこで瑠璃の姿を認めた弓景が思い切り顔を顰めながら舌打ちをすると、
「吊戯!! やりすぎだボケッ!!」
二丁の漆黒の猟銃のようなモノ両手に具現化させて。パパン! とすぐさま吊戯目掛けて躊躇うことなく発砲したのだ。
弓景が放った銃弾は吊戯の動きを制限する為のものだったようで。それが吊戯に着弾した瞬間、背に靡いていた拘束ベルトの両端がビッと地面に縫い留められてしまい。
それによって跳ぶことが叶わなくなった吊戯の身体が、勢いよく空中から地面に向かって引き戻されかけた処で。
ドッと幾本もの漆黒の杭が交差するようにしながら具現化して、吊戯の身体が地面に叩き付けられてしまうのを防いだのだ。
それと同時に吊戯に追われていた、下位の身体もまた漆黒の杭によって地面に身体を拘束されていて。
2本の漆黒の棒を両手に握りしめながらその術を発動させた盾一郎が、
「・・・バカ・・・落ち着け・・・! 捕縛優先だ・・・!」
吊戯を睨みつけながら唸るような声音でそう言うと。
「・・・ごめんよ。だいじょうぶ。今日はけっこうおちついてるよ」
逆さの状態で言葉を発した吊戯は笑みを浮かべながら応じてきて。
けれど、盾一郎はすぐには吊戯に仕掛けた術を解除することはせず、
「目ェ見せろ!」
傍に向かったところで、瞳孔の状態を確認するべく、じっと顔を近づけて覗き込むようなしぐさをすると。
「大丈夫だって~。でも、瑠璃ちゃんもすごいね~。弓ちゃんの術を突破して出てきちゃうなんてさ」
吊戯はへらりと笑いながら、瑠璃のほうにも話しかけてきたのだが。
けれど、瑠璃は只只困惑の眼差しで吊戯を見つめ返すことしか出来なかった。
―――――・・・・・・さっきの吊戯さん、まるで・・・・・・。
そして、車内に一人残された真昼も―――――
「なんだ・・・!? あのひと、まるで・・・」
―――――クロみたいな―――――・・・。
吊戯が繰り出していった攻撃は、つい先日、ワールドツリーホテルでべルキア達と対峙した際にクロが発動させたモノと同じもので。
「人・・・間なのか・・・?」
真昼が掠れ声で漏らした言葉に、
「だからマホウツカイだっつの・・・」
スマホで支部に連絡を入れながら弓景が応じてきて。
「ヘズから対策部へ。対処完了。抹消数4、捕縛数1」
その後に弓景の口から紡ぎ出されたその言葉に、衝撃を覚えた真昼は身体を戦慄かせてしまう。
「〝抹消〟・・・」
「あ?」
「4人殺したんですか・・・・・・なんで・・・っ」
そうして真昼の口から紡ぎ出された当惑の言葉によって弓景は思い出したようで。
「・・・ああ、そういえばテメエらこの前、椿の下位
真昼に目を向けていた弓景はチラッと瑠璃のほうにも視線を投げかけてきて。
―――――殺したくない、それは当然のことだ。
―――――椿の下位である彼らは、瑠璃にとって大切な『家族』なのだから。
―――――けれど、それだけではなく・・・・・・
「どうして・・・・・・」
瑠璃がロッドを握りしめながら沈痛の面持ちで漏らした言葉に続いて、
「あの吸血鬼達が何をしたんですか!? 本当に・・・殺されなきゃいけない程のこと」
真昼が弓景に対して非難の言葉を口にしたのだが。
「ああ!? んなこと
しかし、苛立ちに満ちた面差しで怒鳴り返してきた弓景の言葉に、「えっ?」と真昼は戸惑いの声を漏らしてしまう。
「何をしたかなんてどうでもいんだよ。これが俺らの仕事だ」
それに対する弓景の返答は〝私情〟を一切挟まぬもので。
そして、真昼と弓景が言葉を交わしていた間に、盾一郎が術を解いて、ト・・・と地に足を付けた吊戯が此方に振り返ってきたのだが。
「吊戯ちゃんの魔法対戦―――――おしまい~~~~~」
へらっと笑う吊戯の表情に、うすら寒いものを覚えた真昼が反射的に顔を強張らせてしまったその時。
「いまの瑠璃ちゃんの〝力〟の発現状態を確認するきっかけを作ってくれたとはいえ・・・・・・あ―――――あ、みっともない。あいっかわらず節操のない犬だな、吊戯さんは」
一部始終を封鎖された空間内にあったビル街の上から、嫉妬の真祖とともに見ていた御国が吊戯に対して蔑むような眼差しを向けていたのだった。
そうしてC3に属する吊戯たちの仕事を、思ってもみなかった形で、真昼と瑠璃が目にすることになってしまった後。―――――今度は盾一郎の実家から電話がかかってきて。幼稚園に通っている息子が熱を出したため、お迎えが必要だという知らせを受けることとなり。『仕事中』ではあったものの、急遽、そちらにも寄ることになったのだが。
幼稚園の前に到着したその時、『仕事着』のままの盾一郎と共に、何故か吊戯と弓景の二人が『私服姿』で当たり前のようにお迎えメンバーに加わっていて。
「ゆみとちゅるぎがむかえにきてくれた―――――」
お迎えが来たということで姿を見せた盾一郎の息子が真っ先に駆け寄った相手もまた、何故か父親である盾一郎ではなく、弓景と吊戯の二人で。
「パパは―――――!?」
息子の素っ気ない態度に盾一郎はひどくショックを受けた様子ではあったものの。その後、息子にお気に入りらしい黒いライオンのぬいぐるみと白いライオンのぬいぐるみを渡した処で抱き上げると。
「くるまもりたくと、3さいです!」
開放された車内の窓から顔を覗かせていた真昼と瑠璃に対して、拓人はちゃんと挨拶をしてくれたものの。
先程の件がまだ尾が引いたままだった真昼と瑠璃は、思わず拓人に対して『え・・・と・・・』と戸惑いの目を向けてしまったのだが。
「可愛すぎる26歳児♥ 狼谷吊戯です♥」
すると突然、吊戯が左手の親指と人差し指で自身の頬をつきながら、ぺろっ♥ と舌を覗かせつつ、そんな口上を述べてきて。
「テメェは清々しいほどにウザいな」
かわいくねーよ、としかめ面で弓景が吊戯に突っ込みを入れると。
吊戯は弓景のことを右手の親指で指し示しながら、
「こっちは小学生すぎる26歳児、月満弓景くんです♥ 好きな子にほどイジワルしちゃう子です♥」
そんなふうに紹介をされた弓景が「マジ吊戯泣かす」と睨みつけるも。
しかし、吊戯は構うことなく、笑みを浮かべながらチラリと瑠璃のほうを見遣ると、その後に瑠璃と真昼の双方に人差し指を向けてきて。
―――――な・・・何かを要求されてる・・・?―――――
「えっと・・・・・・瑪瑙瑠璃、21歳です? それからこの黒猫さんは・・・・・・クロです?」
「し・・・しろたまひる、16歳・・・です?」
そこで瑠璃と真昼も困惑しつつも、とりあえず簡単な自己紹介をすると。
「瑠璃ちゃんとくろとしろたま!!」
拓人がはしゃいだ声を上げて。
「男前すぎる26歳児・・・車守盾一郎です」
最後に盾一郎がキリッと凛々しい顔で挨拶をしたのだが。
「おもしろい冗談だね!!!」
「おもしれぇ冗談だな!!!」
吊戯も弓景も何故か大爆笑していて。
「おい、どこが面白いんだ。言ってみろ!!」
盾一郎が二人を睨むと、
「ゆみかちゅるぎがいい! ちゅるぎにだっこするー!」
ぐい、と右手で盾一郎の顔を押し退ける仕草をしながら、急に拓人が駄々をこね始めて。
「いて! あーもう、お前どこが具合悪いんだよ! 元気じゃねぇか!」
「よしよし。ちゅるぎが抱っこしてあげよう!」
そこで吊戯が笑みを浮かべながら両腕を差し伸べると、ぐずっていた拓人はすぐさま吊戯の首にしっかりと両手を伸ばしながらしがみついて。
「くそ・・・こいつ、弓と吊戯のこと大好きすぎるだろ・・・パパをないがしろにしやがって・・・」
盾一郎の手の中に残されたのは通園帽子のみで、吊戯の腕の中に大人しく収まった拓人に恨めしいと言わんばかりの目を向けると。
「盾一人じゃパパとして力不足ってことだろ。いいんじゃねぇか? いっそ・・・パパが3人でも」
ニヤッと弓景が笑みを浮かべながら、そんな台詞を口にして。
「それ、他の人が聞いたらすごい誤解を生みそうな気が・・・・・・」
その台詞を聞いた瑠璃が思わず微苦笑を漏らすと。
「あぁ? 豪華でいいだろうが?」
弓景が睨むように目を向けてきたのだが。
と―――――
「瑠璃ちゃんにもだっこするー!」
吊戯に抱きかかえられていた拓人が、ふいに瑠璃のほうに目を向けると、瑠璃に向かってぐいっと両手を伸ばして。
「えっと、私も・・・・・・?」
戸惑いの面持ちで瑠璃が目を瞬かせると、
「はっは! 拓ちゃんもやっぱり男の子だね」
吊戯が笑みを浮かべながら此方にやって来て。
「というわけで、瑠璃ちゃん。拓ちゃんのこと少しの間だけ頼めるかな?」
「わかりました。・・・・・・クロはここでちょっと待っててね」
腕の中に抱いていた黒猫をそっと傍らの席に下ろすと、後部席の扉を瑠璃は開いて車外に出る。
そして―――――
「お待たせ、拓人君」
ふんわりと瑠璃が笑みを浮かべながら両手を広げると、
「わあい♪ 瑠璃ちゃん」
「わっ、と・・・・・・」
両手を伸ばしてきた拓人を落とさないようにしっかりと瑠璃が抱きかかえると、キュッとぬいぐるみを握りしめたまま拓人は抱き着いてきて。
―――――・・・・・・なんだろう、すごく気持ちが落ち着く気がする。
黒猫を抱いている時とはまた違う、子供特有の体温と重さに、瑠璃がフフッと柔らかな笑みを零すと。
―――――瑠璃姉、ほんと子供にも好かれやすいよな。
―――――御園の家の下位の子たちにも懐かれてたし。
そんな瑠璃の姿を真昼が助手席の窓から見つめながら想いを巡らせる。
瑠璃は『吸血鬼』も『人』もどちらも分け隔てなく、大切に想っている。
けれど、C3に属する〝あの人〟は・・・・・・?
「おい・・・・・・そんなんじゃ首元が冷えんだろ」
しかめっ面をした弓景が自身の首に巻いていたマフラーに手を掛けながら拓人を抱いた瑠璃の傍に近付いて来る。
「あ。そうですね、このままだと拓人君が・・・・・・」
そこで弓景の視線が拓人に向けられているのに気づいた瑠璃が弓景に頷くと、耳朶に届いた二人のやり取りによって拓人が弓景のほうに顔を向けて。弓景の手によって拓人の首にマフラーが巻かれたのだが。
「・・・・・・」
「あの・・・・・・月満さん?」
ふと、ジッと憮然としたような面持ちで見据えてきた弓景を、瑠璃は戸惑いの面持ちになりながら見上げると。
「・・・・・・テメェは身体のほうは問題ねぇだろうな?」
「え、と。はい、大丈夫です」
唐突に投げかけられてきた問いに瑠璃は呆然と目を瞬かせながら頷くと。
「―――――そうかよっ、なら良かったな」
口調は相変わらず、つんけんしたものではあったものの、頭をくしゃりと弓景に撫でられて。
「――――――え、と、あの、月満さん!?」
瑠璃が驚きのあまり、目を白黒させると。「ゆみと瑠璃ちゃん、なかよし?」と拓人が首を傾げていて。
「はっは! 弓ちゃんてば、意地悪な態度をやめて行き成り優しくなったから。瑠璃ちゃんがびっくりしてるよ」
そこに面白がっている様子の吊戯が笑みを浮かべながら此方にやって来て。
「あ゛ぁ!? 吊戯、テメェ何言ってやがるんだ!? 俺は別に元から意地悪なんてしてねぇだろうが」
弓景が吊戯を睨みながら威嚇するように声を上げるも、吊戯は異に介することなく。
キラキラとした笑顔で拓人に向かって「お出で、拓ちゃん」と言いながら手を伸ばしてきて。
きょとんと拓人は目を瞬かせたものの、素直に瑠璃の腕の中から抜け出してまた吊戯に抱っこされる状態に戻ると。
「にゃ~」
後部席の空いていた窓から飛び出してきた黒猫が、拓人と入れ替わるようなタイミングで瑠璃の肩に着地してきて。
「クロ?」
目を瞬かせた瑠璃が黒猫の名前を呼ぶと、スリと黒猫は瑠璃の首筋に顔を寄せてきたのだが、若干面白くないといった様子の雰囲を纏わりつかせていて。
「くろ、瑠璃ちゃんのことだいすきなんだね」
「うん、そうだね。黒猫さんは瑠璃ちゃんのこと大好きみたいだね」
拓人が口にした言葉に吊戯は頷くと、はっは!! あはははははは!と笑っていて。
―――――・・・・・・普通。
―――――普通の光景だ。
―――――子供を抱いて笑ってる。
―――――これがさっき・・・吸血鬼を殺した人の顔なのか?
〝吊戯〟の様子を見ていた真昼は困惑の面持ちになってしまう。
―――――・・・この人たちにとってはあれが日常なんだ・・・。
「ところで盾ちゃん。車どうするんだい?」
それから少しして、思い出した様子で吊戯が盾一郎にその問いを投げかけると。
「ああ大丈夫。チャイルドシート積んでるから」
それに答えた盾一郎はすぐさまごそごそと車のトランクから目当てのモノを用意しようとしたのだが。
「じゃなくてこの車5人乗り」
「あっ! ・・・・・・そうだった。今日は二人(と一匹)多いんだった・・・」
いつものノリでつい、用意をしようとしてしまったと盾一郎はぼやくと。
「相変わらず盾ちゃんは抜けてるな!」
はっは! と吊戯が笑い声を上げて。
「うるせえよ。じゃあ、しょうがねぇ・・・。とりあえず俺が怠惰の二人と瑪瑙さんを支部に置いてくるか」
眉を顰めつつ、そろそろ時間もやばいと、車内の時計を一瞥した盾一郎が呟くと。
「あーそれがいいかもね~。時間もだし・・・それに彼、オレのこと怖がっちゃってるし」
盾一郎の言葉に頷いた吊戯が、ふと目を向けた相手は真昼で。
「・・・・・・っ」
吊戯と目が合った真昼がギクッと顔を強張らせると、べろ―――――~っと、吊戯は舌を見せながら意地の悪い笑みを浮かべていて。
「じゃ。その辺の店で拓にオヤツでも食わせとくわ」
そんな吊戯を制するように、さりげなく傍らに並んだ弓景が盾一郎にそう告げると。
「ああ頼む。
「特にデカいほう」と盾一郎が念を押すように言い返してきて。
「わーってるよ」
心得ているとばかりに「特にデカいほうな」と弓景もまたそれに頷き返すと。
二人から『要注意人物』扱いされた吊戯がニヤッと笑みを浮かべて。
「そう言われると全力で逃げたくなりますな~」
逃走を仄めかす発言をした吊戯を「ヒモでつなぐぞテメェ」と弓景が睨んだ中。
「瑠璃ちゃんは一緒に来ないの?」
拓人がしゅんとした様子で尋ねかけてきて。
「うん、今日は大事な御用があって、残念だけど一緒にはいけないの。その代わり、この次に会えたらその時は一緒に遊んでくれるかな?」
眉を下げながら瑠璃がそう言って、右手の小指を拓人に差し出すと。
「いいよ! じゃあ、その時はくろもいっしょね!!」
拓人は右手に持っていたぬいぐるみを左の腕の中に移動させて、瑠璃の小指と自分の小指を絡ませた後に。瑠璃の肩に乗っていた黒猫の頭も撫でていて。
抵抗することなく、幼子によしよしと触られた黒猫が「ニャ、ニャ~・・・・・・」と鳴き声を漏らすと。
「ぱぱー、ばいばーい!」
その後に父親である盾一郎にも拓人は挨拶をしてきたのだが。瑠璃と別れる際に見せた残念そうな態度とは打って変わって、超笑顔を浮かべながら手を振っていた息子に。
「少しは寂しがってくれ!!」
この薄情者!!と盾一郎が涙目になっていたのはいうまでもない。
【本館/21・2/28/別館/21・2/28掲載】
