第十九章『C3の魔法使い』
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朝食の席での、ちょっとした騒ぎが落ち着いた後―――――。
食事を終えてから、リヒトはラグマットの上にクッションを置いて、そこに腰を下ろしながらペット育成ゲームを始めて。
真昼と瑠璃はダイニングテーブルの上の食器を片付けた処で。再び席に着くと、クロとともに改めてロウレス自身の口から今の身体の状態についての話を聞くことにしたのだが。
「正直オレ・・・今、自分がどういう状態なのかよくわかんねーんスよ。確かに体がスカスカな感じして力は出ないんスけど。体から『灰塵が抜けた』? 何ソレ詰まってたってこと? とか思うし」
先程、醜態を晒してしまったせいか、少々気まずそうな面持ちで、右手を上げて肩をすくめる仕草をしつつ、ロウレスは告げてくる。
「でもリヒトとの契約が切れてるわけじゃない・・・と思うんスよね。弱まってるだけで」
そしてロウレスがリヒトを人差し指で指し示すと、ゲーム機を持ったリヒトが眉を顰めながら此方にやって来て。
「おい。バカハイド。ミカエルの機嫌が悪いんだが」
「あーもうリヒトはあっち行ってて!」
話の腰を折られる形になったロウレスは、嘆息交じりにそう言いつつも、
「教えたじゃないっスか。このタッチペンで猫さんの頭を撫でると・・・」
「喜んだ! かわいいなミカエル・・・」
育成ペットの猫に夢中のリヒトに対し「あとはおやつあげて、あそんであげたり」と育成方法を丁寧に説明していて。
―――――やっぱりケンカするほど仲がいいっていう言葉が、今の二人にはぴったり当てはまるわね。
そんな二人の様子を微笑ましい面持ちで瑠璃は見ていたのだが、真昼はロウレスの変わりようには、まだ慣れていない部分もあるようで。何とも言えない眼差しを向けていたのだった。
そうして育成ペットの猫だけでなく、リヒト自身の機嫌もまた良くなって、元の場所に戻ってゲームに集中し始めた処で。
「まあ、こうして名前も残ってる し」
此方に向き直ってきたロウレスが自分自身のことを右手で示しながら告げてきた言葉に対し「残る?」と真昼がその意味を聞き返すと。
「・・・・・・ハイド君。もしかして契約が切れてしまったら、主人から貰った名前は吸血鬼 の中から消えてしまうの・・・・・・?」
―――――〝名前〟と〝物〟。その二つが主人と吸血鬼の〝つながり〟だ―――――
リリイの中から灰塵が放出してしまった時、椿と電話越しにやり取りをした時の事を思い出した瑠璃が逡巡するようにしながらロウレスを見遣った。
するとロウレスは「ほんと、瑠璃ちゃんは察しが良いっスね」と目を瞠りながら見返してきて。
「契約が切れてるならリヒトにハイドって呼ばれても認識できないんスよ。自分のこと呼ばれてるってわからなくなる 。『過去の名前』はいつもそうっス。・・・・おかしい話っスけど。正直C3のほうが吸血鬼 の生態に詳しいんじゃないっスか?」
眉を顰めながらロウレスが漏らしたその発言に、そうなのか? と真昼が目を瞬かせると。
「オレはC3とは関り浅いほうだから一般的なイメージの話になるっスけど。古い魔術に始まり、いろんな研究をやってるんスよ。不老不死や・・・より強い吸血鬼の研究なんかしてても不思議じゃないっスね。それとあいつらは人間に危害を加えた人外を捕まえて裁く。でもそこに明確なラインや警告はない。一方的な制裁。吸血鬼 から見れば中立どころかマジ独裁っスよ」
不愉快そうな口ぶりでC3に対する思いを口にしたロウレスが、なんかウワサとか情報あったっスかね・・・とスマホで情報収集を行った結果。
東京支部の〝猟犬〟狼谷吊戯は日本にいる下位のあいだでは有名な存在で。強いだけでなく『金さえ積めば助けてもらえる』―――――実際それで逃がしてもらった下位もいるのだという情報を得たものの。地獄の沙汰も金次第・・・・・・吊戯のお金に対する執着心は本当に凄まじいものらしいと真昼と瑠璃が揃って何とも言えない面持ちになった後。『研究』に『吸血鬼を裁く』―――――そんな組織とどうやって協力体制を築いていけばいいのか。
―――――という、問題が残された中で。
「オレらはオレらで動いた方がいいと思うっスけどねー」
C3に対して懐疑的な心証を持っているロウレスは、やはり乗り気ではない様子だったのだが。
「椿についてオレは一度サーヴァンプ7人全員で話し合っておきてーな・・・」
ここに至って、初めてクロが自身の意見を口にしたのだ。
その刹那、三人の視線がクロに集まった。
「あっ。オレ、ワーくんの連絡先知ってるっスよ!」
そして嬉々とした面持ちで、そう言いながら手を挙げたのがロウレスで。
「ワーくん・・・?」
「ハイド君、それって・・・・・・」
仲良いんスよね! とロウレスが言ったその相手の顔が、しかし思い浮かばなかった真昼と瑠璃が揃って眉を顰めると。
「〝暴食〟の真祖ワールドエンドっス!」
改めて、ロウレスの口からその名を聞かされることとなったのだ。そしてロウレス曰く、ワールドエンドは普段はイタリアにいるらしいのだが。今東京に来ている事から、あのコンサートの夜、会って遊ぶ予定だったのだそうだ。しかし、会う直前に椿にロウレスは捕まってしまった為、それは反故になってしまった訳なのだが・・・・・・。
「憤怒の姐さんも日本なんスよね。アオモリ・・・とか言ってたかな」
そして記憶を辿るようにハイドがさらに続けて口にしたその言葉によって。
「ねぇ、クロ。ハイド君。もしかして、今・・・・・・全員 が日本に揃ってるんじゃない?」
ふと気づいたその事実を瑠璃が口にすると。
「・・・・・・!」
「そう! こんなの絶対妙っスよね!?」
クロがハッと目を見開き、ロウレスが動揺した面持ちで、勢いよく瑠璃に頷いて。
「全員が同じ場所に揃うなんて・・・あの人を殺す相談をしたあのとき以来で・・・なんか・・・」
その後、意識の内に過った過去の光景によって、ロウレスの語調は不安に満ちたものになっていたのだが―――――。
「・・・今度は間違えねぇよ」
それを払拭するように、低い声でそう言ったのはクロだった。
「オレ達は椿を殺さない。オレ達が求めるのは今度こそ対話だ」
「ああ!」
そしてクロの口から紡ぎ出された強い意志が籠ったその言葉に真昼が満面の笑みを浮かべて頷くと。
「めんどくせーけど・・・」と常の口癖をクロは漏らした為。
「その一言は余計だ!」といつも通りの流れで真昼が突っ込みを入れて。
そんな二人のやり取りに、フフッと瑠璃は笑みを零すと、
「対話をしねーのは後々もっとめんどくせーからな」
「えぇ。頑張りましょうね、クロ!」
此方に目を向けながらそう告げてきたクロに、瑠璃が両手を握りしめながら頷き返したのに続いて。
「オレも賛成っス。協力するっスよ。あんな思いをするのはもうごめんっスからね」
ロウレスもまた晴れ晴れとした面持ちで破顔一笑しながらそう言ったのだ。
そうして、今後の方針が一先ず纏まった処で―――――
「・・・おい・・・」とまたリヒトが此方に向かって呼び掛けてきて。
「も―――――今度はなんスか天使ちゃ・・・」
ロウレスがやや呆れたような面持ちでリヒトに振り返ろうとした処で。
「堕天使・・・」
リヒトの口から紡ぎ出されたその言葉に「は?」とロウレスが眉を顰めた刹那。
バサという羽音がベランダのほうから聴こえてきて、そちらを見遣った真昼と瑠璃は揃って唖然となってしまう。
そこには幾羽かのカラスともにベランダに降り立った狼谷吊戯の姿が在ったのだ。
吊戯の周囲にはカラスから抜け落ちた羽が舞っていて、確かにその様はリヒトの言う通りさながら堕天使のようにも見えたのだが。
「・・・・・・吊戯さん、なんでそんな処に?!」
瑠璃が当惑の眼差しを向けると、ふっと謎のドヤ顔が返ってきて。
「ええええええ意味わかんないんですが!!? 不穏!!!」
真昼が激しく動揺しながら、突っ込みを入れると。
〝サムイ〟と器用に鏡文字の逆バージョンを、吊戯は窓ガラスに息を吹きかけながら指で書いてきて。
「・・・・・・あ、寒いですよね・・・」
今開けます、と複雑な面持ちになりつつも真昼がベランダの窓の鍵を解錠すると。
「やあ入れてくれてありがとう! どうも昔からカラスに懐かれる体質でね!」
脱いだ靴を手に持ちながら家の中に入ってきた吊戯は、へらりと笑みを浮かべながら礼を言った後にそんなふうに告げてきて。
「・・・・・・あの、吊戯さん。ここ7階なんですけど。どこから来たんですか?」
そんな吊戯に対して、瑠璃が眉根を寄せながら問いかけると。
「しかし寒いね! もう12月だもんね!」
キラキラとした笑顔で吊戯は応じてきたのだが、その答えは噛み合わないもので。
「え、と、まだ8月ですけど」
「今年も終わるなあ~。瑠璃ちゃん、来年もよろしくね!」
訂正を瑠璃が返すも会話を成立させる気がないらしい吊戯に、「どんだけ適当に喋ってんだこの人!? 終わんねぇよ!!」と真昼がまた激しい突っ込みを入れると。
―――――ピンポン、ピンポン、ピンポン
今度は玄関扉の外からの来訪者を知らせるチャイムが家の中に響き渡って。
「コラァ吊戯!! 何度言ったらわかんだ、このボケデコ!!」
その後にバァンと勢いよく開け放たれた玄関の扉の向こう側から、怒声を響き渡らせたのちに、あがるぞ!! ときちんと断りを入れてから、入室してきたのは月満弓景だったのだが。
「ニット着てるときにカラスと遊ぶなっつってんだろ! ほつれんじゃねーか!!」
激怒しながら左手で吊戯の胸倉を掴んだ弓景が口にしたその発言を聞いて、
「保護者が来た」と呟いたのはクロで。
「それより窓から入ってきたことを注意してください。保護者の方!!」
それには最早、真昼も突っ込みを入れることなく、そのまま便乗して苦情だけを口にしていて。
そして怒られる立場に立たされた吊戯は「ごめんよ弓ちゃん。寄ってきちゃんだ」と変わらぬ態度で反省の言葉を口にしていて。
「次やったら変なワッペン付けて直すぞ、ボケッ」
ハートとかウサギとかつけっかんな!! と言い放った弓景に対して。はっは、いつもありがとうと吊戯が答えていることから、どうやら日常的に弓景が吊戯の世話を焼いているらしい。
「・・・・・・お母さん・・・?」
それに気づいた真昼が思わず、眉を顰めながらそう呟くと。
「お前に言われたくねーと思うぞ・・・」
〝主夫〟としみじみとした口調でクロが漏らした言葉に、えっと・・・・・・と瑠璃も微苦笑を浮かべてしまった後に。
「あの、お二人とも急にどうし・・・・・・」
気を取り直すように、二人が訪れた目的を尋ねようとした処。
「やっと準備が整ってな。迎えに来た。これからお前ら全員、C3東京支部に来てもらう」
弓景の口から思いもよらぬ事を告げられて、真昼達は戸惑いの表情を浮かべてしまう。
けれど、その中でただ一人リヒトだけが動じることなく。
「俺は自分の行きたいところにしか行かねぇ」
ゲーム機を手に持ったまま、弓景を睨みながらそう言い放ったリヒトの台詞に、
「ヒュ―――――! さすがリヒたん!」
つよいっス!と感嘆の声をロウレスが漏らすと。
「クソガキが・・・すぐにイキてぇって言わせてやるよ」
不穏な台詞を口にした弓景が「・・・吊戯」と名前を呼ぶと、すっと一歩前に出てきたC3の猟犬と呼ばれている彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいて。
「ちょっ・・・手荒なマネは・・・っ」
真昼がそれを止めようと声を上げかけたのだが―――――。
「いやあ実はメロンを大量に買っちゃってね! 捨てるのはもったいないし・・・よかったら食べに来ないかい?」
まさかの好物で釣るという作戦を、吊戯は繰り出してきて。
誤発注というやつだよ! ほら見てこんなに! とご丁寧に証拠写真まで用意するという周到さで。
「行く」
「リヒたんチョロすぎっス!!」
結果、リヒトは攻落されてしまい、あ―――――っ、とロウレスが頭を抱えて叫ぶも。
リヒトはそんなロウレスには構うことはせず、「そうと決まればさっさと行くぞ」とガチャと玄関扉を開いて外に出て行ってしまって。
しかし、弓景が訪れるまで中から開く事が出来なかった玄関扉が、すんなりと解錠されてしまったというのは明らかに怪しすぎると感じたロウレスが「ちょっと!! リヒたん!! 絶対罠っスよ!!」と慌てて後を追いかけて出て行くと。
「なんだてめぇら・・・っ!?」
「ぎゃー! ちょっと何す・・・あ―――――!!」
案の定というべきなのだろうか。ガッ、どたどたどたという大きな音とともに、リヒトの叫び声とロウレスの悲鳴が外から聞こえてきて。
「リヒト君!? ハイド君!?」
「拉致された!?」
唖然呆然となった真昼と瑠璃に「C3に連れてくだけだ」と弓景が平然とした口調で告げてきて。
吊戯も「はっは! いやあ穏便に済んでよかった!」と笑いながら言ったのだが。
「全然穏便に済んでないじゃねぇか」
二人の発言に呆れた面持ちで、そう言い返してきたのが、強制連行された強欲組と入れ替わりで姿を見せた車守盾一郎だった。
「盾ちゃん」
そして彼に気づいた吊戯が名前を呼ぶと。
「窓から投げ飛ばして下でキャッチするなんてことにならなくてよかっただろうが」
なんとも物騒極まりない台詞を弓景が口にしていて。
「窓からって・・・・・・」
「怖ッ」
瑠璃と真昼が思わず、揃って顔を引きつらせると。
盾一郎もまた、お前な・・・と弓景の発言に、さらに呆れた様子で顔を顰めていて。
「二人とも、下に車止めてある。行きながら話そう。あと、これお土産な」
その後に、盾一郎はそう言いながら可愛らしい巾着包みを差し出してきて。
それは椿の騒動の翌日に、盾一郎の子供を交えて彼らが遊園地に行った際に購入してきたもののようで。
「あ、わざわざすみません・・・・・・」
「ど、どうも・・・?」
そこで一応、瑠璃と共に真昼は礼を言った上でそれを受け取ったものの。
「じゃなくて! あのっC3に行くって・・・」
きちんとした説明もなく、行き成りのこの展開はどういうことなのか、再度それを真昼が問おうとした処で。
「さっさと来い。しばらくテメェらは安全な場所に・・・C3の施設内にいてもらう」
射るような眼差しで此方を見ながら弓景がそう告げてきて。
「月満さん、つまりそれは今起こっている異常気象は椿に関係があるってことですか」
そんな弓景の視線に動じることなく、瑠璃が真っすぐに見据えながら聞き返すと。
弓景は僅かに目を瞠った後、チッと小さく舌打ちを漏らしたのだが。
「この異常な寒さは大量の灰塵の影響だ。灰塵は濃度が高まると雲のように大気中に浮かび太陽の光を遮る。もうすでにこの近辺は太陽の光が届きにくくなってんだ。これ以上真祖がやられるようなことがあれば冗談じゃなく夜の世界になっちまうぞ」
口調が荒く、常に怒っているように見受けられるが、一応の問いに対する答えを弓景は返してくれた。さらにあの吊戯の保護者のような立ち位置にもあるようだし。きっと根は面倒見の良い人なのだろう。
―――――それが弓景に対して瑠璃が抱いた心証だった。
「中二的だな、弓ちゃんは! 中一のころ弓ちゃんがこっそり書いてたポエムを思い出・・・」
そして弓景とどうやら相当長い付き合いらしい吊戯が、なつかしー! と茶化すように口を挟むと「それ以上喋ると泣かす」と今度こそ弓景は本気で怒っている様子だったのだが。
やはり吊戯は動じることなく、はっは! と笑って受け流していて。
「〝暴食〟には連絡がついていて合流する予定だ。〝憤怒〟はすでに東京支部が保護している」
さらに盾一郎も二人のそんなやり取りに関しては特に気にした様子もなく、スマホの画面を確認しながら二人の真祖に関する情報を告げてきて。
真祖全員で一度話し合いをしたい―――――という此方側の考えをまるで見透かしたかのようなタイミングで明かされたC3の動向に対し「えっ・・・!」と真昼は驚きの声を上げると。
「あ・・・あの! C3は椿について何か知ってますよね・・・俺達にもそれを話してくれませんか。ちゃんと仲間として協力・・・」
さらなる情報の開示を求めたのだが―――――。
「あのな、俺達はテメェの『お友達』じゃねぇ。ただの『仕事』だ。協力だのなんだの・・・こっちは組織の決定に従ってるだけなんだよ」
それをバッサリと冷たく切り捨てる発言をしたのが弓景だった。
そしてそんな弓景に対して、真昼は眉を顰めつつも、反論する事が出来ず、言葉を詰まらせてしまったのだが。
「まあ、オレは札束に従うけどね」
そこで場の雰囲気を一変させるかのように、吊戯がまた会話に加わってきて。
「テメェ黙ってろ。口に千円札 詰めっぞ」
「素敵~~~♥ 入るだけ詰めて~~~♥ でもできれば野口より諭吉に蹂躙されたいな♥」
弓景と吊戯のショートコントのようなやり取りが行われた後に。
「どうだい少年、オレを買わないかい? もしくは、瑠璃ちゃんでも大歓迎だよ? 狼谷吊戯26歳! 社畜歴13年!」
「え、買うって・・・・・・?!」
「社畜歴長ッ、13歳から!?」
突然の吊戯からの申し出に、瑠璃と真昼は揃って戸惑いと困惑の表情を浮かべたのだが。
「お賃金いっぱい欲しいのでなんでも言うこと聞いちゃいます! 特技は土下座です!」
吊戯はキラキラとした笑みを浮かべながら、両手首に巻かれた黒い紐のようなものを指先に巻き付かせつつ、交差させる仕草をしながら、さらに売り込み体制に入って来て。
「プライドというものはないんですか!」
そんな吊戯に対して、真昼が勢いよく突っ込みを入れるも。
「ない!! オレは金さえ積まれれば靴でもなんでも舐める男だよ! もうぺろっぺろだよ!」
吊戯は一切怯んだ様子もなく、むしろ誇らしげな口調で、そんなふうに言い返してきて。
「お前本当にやっちゃうんだよな・・・」
やめろっつってんのに・・・と、盾一郎が吊戯の発言に呆れた様子で溜息を漏らすと。
「でも一番なめてきたのは辛酸、かな・・・」
吊戯は歪んだ笑みを浮かべながら、右手の人差し指を口元まで持っていくと、ぺろっとそれを舐める仕草を見せてきて。
―――――うざい・・・。
そんな吊戯に対して、真昼が心の中で抱いた感情がそれだった。
そして瑠璃も、吊戯に対して言うべき言葉が見つからず、何とも言えない面持ちで、弓景と盾一郎のほうに目を向けると。
「はいはい社畜社畜」
弓景が吊戯に対して相槌を打った後に。
「はいはいはい。吊戯、どうどう」
吊戯の背後に回り込んだ盾一郎が、後ろから吊戯の身体を抱え込むと。
「んんっん~~~~~~!」
盾一郎の右手で口元を抑えられてしまった吊戯は、しばらくの間、子供のようにジタバタと暴れる仕草をしていて。
「この前、久々に外で丸一日遊べたからハイなんだよな」
吊戯が落ち着いてきた処で、口から手を離した盾一郎がそう言うと。
「ガキか」
続いて弓景が口にした言葉がそれだったのだが。
吊戯は気にした様子もなく「うん」と満面の笑顔で二人に頷いていて。
―――――相当強い人だって聞いたけど本当なのかな・・・。
意味不明・・・と真昼が、当惑の表情で吊戯を見遣った一方で。
―――――吊戯さんのあの雰囲気・・・・・・誰かに似ている気が・・・・・・。
瑠璃もまた、逡巡するように眉根を寄せながら吊戯を見ていた中で。
やがて、ふと、思い出したのは―――――
決して、本心を相手に覚らせる事なく、常に己のペースで会話を繰り広げる〝嫉妬〟の真祖の主人の姿で。
「・・・・・・そっか、御国さんに似ているんだわ」
「ん? 瑠璃ちゃん、何か言ったかな?」
ぽそっと瑠璃が呟くと、首を傾げながら、笑みを浮かべつつ此方に吊戯が目を向けてきて。
「吊戯さんって御国さんと知り合いみたいですけど・・・・・・」
そこで瑠璃が吊戯に対して、そう切り出すと。
「ああ。国ちゃんとは・・・元チームメイトとでも言うのかな。オレと組んでた。ジェジェちゃんも入れて3人でね」
ニヤリと口端を吊り上げながら吊戯は答えてくれたのだが。
その時、瑠璃と吊戯の会話を聞いて、真昼もまたハッとした面持ちになると。
「御国さんがC3に!? どうして・・・」
吊戯にさらに問いを投げかけようとしたのだが。
「お金」
それを制するように、吊戯がその一言を口にするのと同時に、右掌を差し出してきて。
「え?」
「・・・・・・吊戯さん?」
それに対して真昼が呆然と目を瞬かせ、瑠璃が思わず眉根を寄せると。
「くれないならこれ以上君達に与える情報はないな~~~~~~? だってオレには何か君達に手を貸す理由もないし。何よりオレは善人じゃないからね」
吊戯は右掌を自身に向けながら、底意地の悪い冷たい笑みを浮かべて、そんなふうに明言してきたのだ。
そうして吊戯のその態度は、やはり御国と似ていると思わせるもので。
瑠璃と真昼が何とも言えない複雑な面持ちで吊戯を見返すと。
「まーたお前はそういうこと言って・・・」
盾一郎が眉を顰めながら窘めるように、吊戯に向かってそう言ったのだが。
「言わせとけ盾」
ほっとけと、弓景は言っただけで、叱るつもりはないようで。
吊戯もそれが分かっていたのか「はっは!」と弓景に笑い返すと。
その時、まるで頃合いを見計らったかのように、ヴ―――――と盾一郎の携帯が振動したのだ。
「ん・・・? 修からメールだ」
「え? 修ちゃん?」
吊戯が露木からのメールの内容を確認しようと、盾一郎の傍に近づいて行く。
『会議が長引きそうなのでお昼を食べてから来てください』・・・・・・。
そして盾一郎がそのメールの文面を読み上げた瞬間―――――
「これは昼食代全額経費で落ちる流れだね!?」
ハイテンションな面持ちになった吊戯が、 客人をつれてのご飯だもんね!! と両手の親指と人差し指を立てて。
「喜べ吊戯!! タダ飯だ!!」
なんでも食え!! と盾一郎が上機嫌な面持ちで吊戯の頭を左手で撫でると、
「やったー!!」
吊戯の歓喜に満ちた声が響き渡った。
そして盾一郎の右手側に立って腕の下から顔を覗かせていた弓景が、
「おい美味いもん食いに行こうぜ!! 経費で!!」
悪乗りするかのような発言にもまた、盾一郎が「おう!!」と賛同した処で。
『っしゃあ!』と三人は仲良く円陣を組んで、パアン! と互いの掌を打ち鳴らしたのだ。
そうして―――――
「超~~~高い店連れてってやるよ! 経費で!」
「はっは! 何食べたい!? お兄さん達のおごりだよ!」
真昼と瑠璃は弓景と吊戯の二人からそう告げられたものの。
「あ、あの」
「えっと、それは・・・・・・」
つい先程、痛烈な台詞を聞かされたばかりだというのに、一変して友好的な態度で迫られているこの状況に、すぐさま馴染むことが出来ず、返答に窮してしまったのだが。
「ははは。俺達のじゃなくて会社のおごりだけどな!」
特に気にされることなく。さらに、様子を見るようにしていたクロまでも、盾一郎が陽気に笑いながら右腕を肩に回してきたことによって、そこに組み込まれることとなり。
「久々に・・・向き合えねー・・・」
に゛ゃ―――――・・・とクロは呻いた後にそう呟いたのだ。
しかし、そうして連れて行かれた高級レストランで、普段目にするよりも0が1個多いと、メニューを開いた瞬間、真昼と瑠璃が気後れしたのに対し。ちゃっかりとクロはお腹がはち切れんばかりの状態になるまで、高級料理を堪能していたのだった。
そしてその際に、吊戯と弓景は羽目を外すかのように、ワインを始めとして大量のアルコールまでも摂取していて。
「はっは! あはははは! 弓ちゃん、昼間っから飲みすぎだよ!」
「あんだと吊戯ィ。そのデコ撫でまわすぞ? あ?」
結果、食事を終えた後の二人は完全に出来上がった状態になってしまい。
「お前らほんと酔い過ぎだぞ!」
運転席に乗り込んだ盾一郎が、仕事中だぞ―――――と引き攣った笑みを浮かべながら、後部座席に乗り込んだ吊戯と弓景に声をかけるも、二人がそれを聞いている様子はなく。
助手席に乗車した真昼が、ずいぶん陽気に・・・と乾いた笑みを浮かべた中で。
「もう食えねー・・・うまかったにゃー・・・」
賑やかな二人と同じ後部座席に座っていた瑠璃の膝の上では、黒猫がポッコリと膨れたお腹を満足げな様子で抱えていて。
「クロ・・・お団子みたいになっちゃってるわね」
そんな黒猫の姿に瑠璃が微苦笑を浮かべると、
「クロ、動物姿はライオンになるわけじゃないんだな。これからずっとあんな大きいのかと心配したけど」
此方に顔を向けてきた真昼が思い出した様子で口にした言葉に、
「あれは疲れるからな・・・やはりひざ乗りサイズで可愛くないと・・・。癒し系吸血鬼だからなオレは・・・」
にゃ―――――んと尾を揺らしながら、可愛らしさアピールをするように黒猫が鳴いて。
―――――ただのデブ猫じゃ・・・。
―――――でも、あのサイズのほうが瑠璃姉の傍に、常にいられるっていう、理に適った状況に持ち込めるから良いのか!?
黒猫の発言に対して、真昼が心中でそんな突っ込みを入れていた時。
「あー・・・つるぎ・・・そろそろタクシー呼べ・・・」
盾一郎が運転する車に乗ってC3東京支部に向かう途中だというのに、弓景がそんなことを言い始めて。
「おい弓・・・ほんとに酔ってんな・・・」
盾一郎は呆れた面持ちでバックミラー越しに弓景を見遣ったのだが。
「はいはい『盾ちゃんタクシー』だね?」
「!?」
その後に吊戯が口にした台詞に、さらに盾一郎は唖然となってしまう。
けれど完全にお酒が回っている状態の吊戯はそんな盾一郎の反応など気にした様子もなく。
「盾ちゃんタクシーは最高だよね~。家の前どころかベッドまで運んでくれるし」
タダだし♥ 泥酔時も電話1本! と続けて言ったのに続いて、
「コートもちゃんと脱がせてかけといてくれるんだぜ」
完全に悪酔いしてしまっている弓景もそれに同意する言葉を口にしていて。
―――――月満さんが、吊戯さんの保護者のような立場にあると思ったのだけど。
―――――総合的に考えると、実は車守さんがそのポジションに当てはまっちゃうのね。
―――――と、心の中で思った瑠璃が「・・・・・・車守さん、色々と大変なんですね」と思わず漏らすと。
・・・・・・ああ、そうだな、と盾一郎は眉根を寄せながらしみじみとした様子で頷いた後に。
「お前らが俺のことをそんなふうに言ってたなんてな!? もう二度とむかえになんかいってやらんぞ」
そう言い放ったのだが、酔っ払い二人の耳には、盾一郎が口にしたその台詞は恐らくは届いていないのだろう。
「これで盾が巨乳の美女だったら文句なかった・・・」
その証拠に弓景が、は―――――・・・と溜息を洩らしながらさらに、そんなとんでもないことを口走っていて。
それに対して盾一郎が怒りを滲ませながら、
「美女は弓をベッドまでなんか運べねぇよ!!」
俺でも重いっつ―――――の苦言を呈すると。あはははははと吊戯が大爆笑をして。
「弓ちゃんのその巨乳好きすぎるのどーにかなんないのかい!? だからモテないんだよ!!」
「ああ!?」と語調を荒げた弓景に対して吊戯が「さっきも店員さんを見すぎだったよ!!」と言うと。
「うるせ! みんな大好きだろうが!!」
「いやいやオレはいくら好みでも弓ちゃんみたいにガン見しないよ~。事故を装って触るよ~」
明け透けな会話が繰り広げられ始めて。その時、吊戯の隣に座っていた瑠璃が何となく嫌な予感がすると、咄嗟に膝の上にいた黒猫を背中から抱き上げた。
その刹那―――――
「うん。瑠璃ちゃんって意外と・・・・・・ってアレ?」
「向き合えねー。お前がいま触ってるのは癒し系キュート猫なオレのお腹だぞ」
伸びてきた吊戯の左手にお腹を掴まれた黒猫がジト目でそう言うと。
「最低ですね・・・・・・」
真昼もまた、完全に据わった目でそう呟いて。
―――――・・・・・・間に合ってよかったわ。
瑠璃が黒猫をしっかりと腕の中に抱きながら安堵の息を吐き出すと。
「あ・・・あのな! 酔っ払いのしたことだから、許してやってくれ・・・な・・・。瑪瑙さんもホントごめんな!! そいつら普段はもう少しマトモだから・・・・・・!!」
蒼白な面持ちになった盾一郎が二人の弁護と謝罪を述べるのと同時に、
「コラ弓!! 吊戯!! 瑪瑙さんに迷惑をかけるな!! それと子供にドン引きされてるぞ!!」と叱責をするも。
「え―――――? 育ちの悪いお兄さん達でごめんよ~~~?」
「一緒にすんな! 俺ァ悪くねーよボケッ」
二人のテンションは変わらぬままで。
「狼谷吊戯26歳♥ お賃金大好き、靴ぺろぺろ系クズです♥ 靴も床もアレもソレも言われるがままぺろっぺろです♥」
「サイッテーだな!!」
「誉め言葉です♥」
その後にはコントのようなやり取りまで繰り広げられて。
「・・・どうしようもない大人だ・・・」
そんな二人に対して、もはや真昼は突っ込むことはせず。
そのまま、思った通りの言葉を口にすると。
「まーしょーがねーんだわ。こいつガキん頃に悪いオジサン(笑)に買われちまってよ」
「いやいや弓ちゃん! なんて人聞きの悪い! オレは悪いオジサンに買われてなんかいないよ~。あの頃はまだ悪いお兄さん だったよ~~~」
果たして酔っ払いの戯言と聞き流してもよいものなのか。
判断に迷う話が二人の口から飛び出した処で、
「やめろー笑えねーぞー」
盾一郎が思い切り顔を顰めながら唸るようにそう言うと。
「はっは! いや~オレ、ずーっと塔間さんの奴隷だからな~」
ヘラと笑みを吊戯は浮かべながら応じてきて。
―――――トーマさん・・・?―――――
一体、吊戯にとってどんな存在の人なのだろうか。
真昼と瑠璃が眉を顰めながら、吊戯のほうに目を向けると。
「お前いつまであの人の言いなりなんだよ・・・」
盾一郎が苦い口調で漏らした呟きに、
「だって塔間さんめちゃくちゃお金くれるから~~~」
吊戯は変わらぬ調子でそう答えていて。
「えと・・・三人は仲がいいんですね」
それに居心地の悪さを感じた真昼が、さりげない口調でそう切り出すと。
盾一郎は目を瞬かせながら真昼を見遣った後、
「ん? ああ・・・俺達三人同級生でな。小1んときからの付き合いだから・・・もう20年か。うわ、そう考えるとぞっとするな」
幾分か、落ち着いた様子の声音で自分たちの関係を話してくれて。
「盾テメー聞こえてっぞ」
その会話に弓景が口を挟んできて。
「聞こえたか? お前らのお守りももう20年だぞ」
そこで盾一郎が改めて、しみじみとした口調でそう言うと。
「パパー」と吊戯が裏声で盾一郎に呼び掛けてきて。
それに対して盾一郎は「殴るぞ」と言い返した後に、三人の過去の思い出話が再開されたのだが。
「つっても最初は弓と吊戯がすっげぇ仲悪くてなあ」
「え? そうだったんですか?」
いまの二人の姿を見ていると、昔からとても仲が良かったのだろうというイメージしか浮かばないのだが。
瑠璃が目を瞠りながら吊戯と弓景のほうを見ると。
「ああ。今じゃ嘘みたいだけどな。それにこいつ昔は全然喋らないし笑わないしで・・・」
「盾ちゃん!! オレのクソガキ時代の話はやめて!!」
突如、勢いよく座席から立ち上がった吊戯が、がばっと隙間から身を乗り出して車を運転している真っ最中の盾一郎に抱き着いて。
「うおっ、あぶねっ。お前ちゃんと座ってろ!!」
「はっは! あはははは!」
車内に盾一郎の叫び声と吊戯の賑やかな笑い声が響き渡った直後。
ヴ―――――ッ、ヴ―――――・・・。
C3の支部から電話がかかってきて。それによって、明るかった車内の雰囲気がまた、一変することとなる。
【本館/21・1/26/別館/21・1/27掲載】
食事を終えてから、リヒトはラグマットの上にクッションを置いて、そこに腰を下ろしながらペット育成ゲームを始めて。
真昼と瑠璃はダイニングテーブルの上の食器を片付けた処で。再び席に着くと、クロとともに改めてロウレス自身の口から今の身体の状態についての話を聞くことにしたのだが。
「正直オレ・・・今、自分がどういう状態なのかよくわかんねーんスよ。確かに体がスカスカな感じして力は出ないんスけど。体から『灰塵が抜けた』? 何ソレ詰まってたってこと? とか思うし」
先程、醜態を晒してしまったせいか、少々気まずそうな面持ちで、右手を上げて肩をすくめる仕草をしつつ、ロウレスは告げてくる。
「でもリヒトとの契約が切れてるわけじゃない・・・と思うんスよね。弱まってるだけで」
そしてロウレスがリヒトを人差し指で指し示すと、ゲーム機を持ったリヒトが眉を顰めながら此方にやって来て。
「おい。バカハイド。ミカエルの機嫌が悪いんだが」
「あーもうリヒトはあっち行ってて!」
話の腰を折られる形になったロウレスは、嘆息交じりにそう言いつつも、
「教えたじゃないっスか。このタッチペンで猫さんの頭を撫でると・・・」
「喜んだ! かわいいなミカエル・・・」
育成ペットの猫に夢中のリヒトに対し「あとはおやつあげて、あそんであげたり」と育成方法を丁寧に説明していて。
―――――やっぱりケンカするほど仲がいいっていう言葉が、今の二人にはぴったり当てはまるわね。
そんな二人の様子を微笑ましい面持ちで瑠璃は見ていたのだが、真昼はロウレスの変わりようには、まだ慣れていない部分もあるようで。何とも言えない眼差しを向けていたのだった。
そうして育成ペットの猫だけでなく、リヒト自身の機嫌もまた良くなって、元の場所に戻ってゲームに集中し始めた処で。
「まあ、こうして名前も
此方に向き直ってきたロウレスが自分自身のことを右手で示しながら告げてきた言葉に対し「残る?」と真昼がその意味を聞き返すと。
「・・・・・・ハイド君。もしかして契約が切れてしまったら、主人から貰った名前は
―――――〝名前〟と〝物〟。その二つが主人と吸血鬼の〝つながり〟だ―――――
リリイの中から灰塵が放出してしまった時、椿と電話越しにやり取りをした時の事を思い出した瑠璃が逡巡するようにしながらロウレスを見遣った。
するとロウレスは「ほんと、瑠璃ちゃんは察しが良いっスね」と目を瞠りながら見返してきて。
「契約が切れてるならリヒトにハイドって呼ばれても認識できないんスよ。自分のこと呼ばれてるって
眉を顰めながらロウレスが漏らしたその発言に、そうなのか? と真昼が目を瞬かせると。
「オレはC3とは関り浅いほうだから一般的なイメージの話になるっスけど。古い魔術に始まり、いろんな研究をやってるんスよ。不老不死や・・・より強い吸血鬼の研究なんかしてても不思議じゃないっスね。それとあいつらは人間に危害を加えた人外を捕まえて裁く。でもそこに明確なラインや警告はない。一方的な制裁。
不愉快そうな口ぶりでC3に対する思いを口にしたロウレスが、なんかウワサとか情報あったっスかね・・・とスマホで情報収集を行った結果。
東京支部の〝猟犬〟狼谷吊戯は日本にいる下位のあいだでは有名な存在で。強いだけでなく『金さえ積めば助けてもらえる』―――――実際それで逃がしてもらった下位もいるのだという情報を得たものの。地獄の沙汰も金次第・・・・・・吊戯のお金に対する執着心は本当に凄まじいものらしいと真昼と瑠璃が揃って何とも言えない面持ちになった後。『研究』に『吸血鬼を裁く』―――――そんな組織とどうやって協力体制を築いていけばいいのか。
―――――という、問題が残された中で。
「オレらはオレらで動いた方がいいと思うっスけどねー」
C3に対して懐疑的な心証を持っているロウレスは、やはり乗り気ではない様子だったのだが。
「椿についてオレは一度サーヴァンプ7人全員で話し合っておきてーな・・・」
ここに至って、初めてクロが自身の意見を口にしたのだ。
その刹那、三人の視線がクロに集まった。
「あっ。オレ、ワーくんの連絡先知ってるっスよ!」
そして嬉々とした面持ちで、そう言いながら手を挙げたのがロウレスで。
「ワーくん・・・?」
「ハイド君、それって・・・・・・」
仲良いんスよね! とロウレスが言ったその相手の顔が、しかし思い浮かばなかった真昼と瑠璃が揃って眉を顰めると。
「〝暴食〟の真祖ワールドエンドっス!」
改めて、ロウレスの口からその名を聞かされることとなったのだ。そしてロウレス曰く、ワールドエンドは普段はイタリアにいるらしいのだが。今東京に来ている事から、あのコンサートの夜、会って遊ぶ予定だったのだそうだ。しかし、会う直前に椿にロウレスは捕まってしまった為、それは反故になってしまった訳なのだが・・・・・・。
「憤怒の姐さんも日本なんスよね。アオモリ・・・とか言ってたかな」
そして記憶を辿るようにハイドがさらに続けて口にしたその言葉によって。
「ねぇ、クロ。ハイド君。もしかして、今・・・・・・
ふと気づいたその事実を瑠璃が口にすると。
「・・・・・・!」
「そう! こんなの絶対妙っスよね!?」
クロがハッと目を見開き、ロウレスが動揺した面持ちで、勢いよく瑠璃に頷いて。
「全員が同じ場所に揃うなんて・・・あの人を殺す相談をしたあのとき以来で・・・なんか・・・」
その後、意識の内に過った過去の光景によって、ロウレスの語調は不安に満ちたものになっていたのだが―――――。
「・・・今度は間違えねぇよ」
それを払拭するように、低い声でそう言ったのはクロだった。
「オレ達は椿を殺さない。オレ達が求めるのは今度こそ対話だ」
「ああ!」
そしてクロの口から紡ぎ出された強い意志が籠ったその言葉に真昼が満面の笑みを浮かべて頷くと。
「めんどくせーけど・・・」と常の口癖をクロは漏らした為。
「その一言は余計だ!」といつも通りの流れで真昼が突っ込みを入れて。
そんな二人のやり取りに、フフッと瑠璃は笑みを零すと、
「対話をしねーのは後々もっとめんどくせーからな」
「えぇ。頑張りましょうね、クロ!」
此方に目を向けながらそう告げてきたクロに、瑠璃が両手を握りしめながら頷き返したのに続いて。
「オレも賛成っス。協力するっスよ。あんな思いをするのはもうごめんっスからね」
ロウレスもまた晴れ晴れとした面持ちで破顔一笑しながらそう言ったのだ。
そうして、今後の方針が一先ず纏まった処で―――――
「・・・おい・・・」とまたリヒトが此方に向かって呼び掛けてきて。
「も―――――今度はなんスか天使ちゃ・・・」
ロウレスがやや呆れたような面持ちでリヒトに振り返ろうとした処で。
「堕天使・・・」
リヒトの口から紡ぎ出されたその言葉に「は?」とロウレスが眉を顰めた刹那。
バサという羽音がベランダのほうから聴こえてきて、そちらを見遣った真昼と瑠璃は揃って唖然となってしまう。
そこには幾羽かのカラスともにベランダに降り立った狼谷吊戯の姿が在ったのだ。
吊戯の周囲にはカラスから抜け落ちた羽が舞っていて、確かにその様はリヒトの言う通りさながら堕天使のようにも見えたのだが。
「・・・・・・吊戯さん、なんでそんな処に?!」
瑠璃が当惑の眼差しを向けると、ふっと謎のドヤ顔が返ってきて。
「ええええええ意味わかんないんですが!!? 不穏!!!」
真昼が激しく動揺しながら、突っ込みを入れると。
〝サムイ〟と器用に鏡文字の逆バージョンを、吊戯は窓ガラスに息を吹きかけながら指で書いてきて。
「・・・・・・あ、寒いですよね・・・」
今開けます、と複雑な面持ちになりつつも真昼がベランダの窓の鍵を解錠すると。
「やあ入れてくれてありがとう! どうも昔からカラスに懐かれる体質でね!」
脱いだ靴を手に持ちながら家の中に入ってきた吊戯は、へらりと笑みを浮かべながら礼を言った後にそんなふうに告げてきて。
「・・・・・・あの、吊戯さん。ここ7階なんですけど。どこから来たんですか?」
そんな吊戯に対して、瑠璃が眉根を寄せながら問いかけると。
「しかし寒いね! もう12月だもんね!」
キラキラとした笑顔で吊戯は応じてきたのだが、その答えは噛み合わないもので。
「え、と、まだ8月ですけど」
「今年も終わるなあ~。瑠璃ちゃん、来年もよろしくね!」
訂正を瑠璃が返すも会話を成立させる気がないらしい吊戯に、「どんだけ適当に喋ってんだこの人!? 終わんねぇよ!!」と真昼がまた激しい突っ込みを入れると。
―――――ピンポン、ピンポン、ピンポン
今度は玄関扉の外からの来訪者を知らせるチャイムが家の中に響き渡って。
「コラァ吊戯!! 何度言ったらわかんだ、このボケデコ!!」
その後にバァンと勢いよく開け放たれた玄関の扉の向こう側から、怒声を響き渡らせたのちに、あがるぞ!! ときちんと断りを入れてから、入室してきたのは月満弓景だったのだが。
「ニット着てるときにカラスと遊ぶなっつってんだろ! ほつれんじゃねーか!!」
激怒しながら左手で吊戯の胸倉を掴んだ弓景が口にしたその発言を聞いて、
「保護者が来た」と呟いたのはクロで。
「それより窓から入ってきたことを注意してください。保護者の方!!」
それには最早、真昼も突っ込みを入れることなく、そのまま便乗して苦情だけを口にしていて。
そして怒られる立場に立たされた吊戯は「ごめんよ弓ちゃん。寄ってきちゃんだ」と変わらぬ態度で反省の言葉を口にしていて。
「次やったら変なワッペン付けて直すぞ、ボケッ」
ハートとかウサギとかつけっかんな!! と言い放った弓景に対して。はっは、いつもありがとうと吊戯が答えていることから、どうやら日常的に弓景が吊戯の世話を焼いているらしい。
「・・・・・・お母さん・・・?」
それに気づいた真昼が思わず、眉を顰めながらそう呟くと。
「お前に言われたくねーと思うぞ・・・」
〝主夫〟としみじみとした口調でクロが漏らした言葉に、えっと・・・・・・と瑠璃も微苦笑を浮かべてしまった後に。
「あの、お二人とも急にどうし・・・・・・」
気を取り直すように、二人が訪れた目的を尋ねようとした処。
「やっと準備が整ってな。迎えに来た。これからお前ら全員、C3東京支部に来てもらう」
弓景の口から思いもよらぬ事を告げられて、真昼達は戸惑いの表情を浮かべてしまう。
けれど、その中でただ一人リヒトだけが動じることなく。
「俺は自分の行きたいところにしか行かねぇ」
ゲーム機を手に持ったまま、弓景を睨みながらそう言い放ったリヒトの台詞に、
「ヒュ―――――! さすがリヒたん!」
つよいっス!と感嘆の声をロウレスが漏らすと。
「クソガキが・・・すぐにイキてぇって言わせてやるよ」
不穏な台詞を口にした弓景が「・・・吊戯」と名前を呼ぶと、すっと一歩前に出てきたC3の猟犬と呼ばれている彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいて。
「ちょっ・・・手荒なマネは・・・っ」
真昼がそれを止めようと声を上げかけたのだが―――――。
「いやあ実はメロンを大量に買っちゃってね! 捨てるのはもったいないし・・・よかったら食べに来ないかい?」
まさかの好物で釣るという作戦を、吊戯は繰り出してきて。
誤発注というやつだよ! ほら見てこんなに! とご丁寧に証拠写真まで用意するという周到さで。
「行く」
「リヒたんチョロすぎっス!!」
結果、リヒトは攻落されてしまい、あ―――――っ、とロウレスが頭を抱えて叫ぶも。
リヒトはそんなロウレスには構うことはせず、「そうと決まればさっさと行くぞ」とガチャと玄関扉を開いて外に出て行ってしまって。
しかし、弓景が訪れるまで中から開く事が出来なかった玄関扉が、すんなりと解錠されてしまったというのは明らかに怪しすぎると感じたロウレスが「ちょっと!! リヒたん!! 絶対罠っスよ!!」と慌てて後を追いかけて出て行くと。
「なんだてめぇら・・・っ!?」
「ぎゃー! ちょっと何す・・・あ―――――!!」
案の定というべきなのだろうか。ガッ、どたどたどたという大きな音とともに、リヒトの叫び声とロウレスの悲鳴が外から聞こえてきて。
「リヒト君!? ハイド君!?」
「拉致された!?」
唖然呆然となった真昼と瑠璃に「C3に連れてくだけだ」と弓景が平然とした口調で告げてきて。
吊戯も「はっは! いやあ穏便に済んでよかった!」と笑いながら言ったのだが。
「全然穏便に済んでないじゃねぇか」
二人の発言に呆れた面持ちで、そう言い返してきたのが、強制連行された強欲組と入れ替わりで姿を見せた車守盾一郎だった。
「盾ちゃん」
そして彼に気づいた吊戯が名前を呼ぶと。
「窓から投げ飛ばして下でキャッチするなんてことにならなくてよかっただろうが」
なんとも物騒極まりない台詞を弓景が口にしていて。
「窓からって・・・・・・」
「怖ッ」
瑠璃と真昼が思わず、揃って顔を引きつらせると。
盾一郎もまた、お前な・・・と弓景の発言に、さらに呆れた様子で顔を顰めていて。
「二人とも、下に車止めてある。行きながら話そう。あと、これお土産な」
その後に、盾一郎はそう言いながら可愛らしい巾着包みを差し出してきて。
それは椿の騒動の翌日に、盾一郎の子供を交えて彼らが遊園地に行った際に購入してきたもののようで。
「あ、わざわざすみません・・・・・・」
「ど、どうも・・・?」
そこで一応、瑠璃と共に真昼は礼を言った上でそれを受け取ったものの。
「じゃなくて! あのっC3に行くって・・・」
きちんとした説明もなく、行き成りのこの展開はどういうことなのか、再度それを真昼が問おうとした処で。
「さっさと来い。しばらくテメェらは安全な場所に・・・C3の施設内にいてもらう」
射るような眼差しで此方を見ながら弓景がそう告げてきて。
「月満さん、つまりそれは今起こっている異常気象は椿に関係があるってことですか」
そんな弓景の視線に動じることなく、瑠璃が真っすぐに見据えながら聞き返すと。
弓景は僅かに目を瞠った後、チッと小さく舌打ちを漏らしたのだが。
「この異常な寒さは大量の灰塵の影響だ。灰塵は濃度が高まると雲のように大気中に浮かび太陽の光を遮る。もうすでにこの近辺は太陽の光が届きにくくなってんだ。これ以上真祖がやられるようなことがあれば冗談じゃなく夜の世界になっちまうぞ」
口調が荒く、常に怒っているように見受けられるが、一応の問いに対する答えを弓景は返してくれた。さらにあの吊戯の保護者のような立ち位置にもあるようだし。きっと根は面倒見の良い人なのだろう。
―――――それが弓景に対して瑠璃が抱いた心証だった。
「中二的だな、弓ちゃんは! 中一のころ弓ちゃんがこっそり書いてたポエムを思い出・・・」
そして弓景とどうやら相当長い付き合いらしい吊戯が、なつかしー! と茶化すように口を挟むと「それ以上喋ると泣かす」と今度こそ弓景は本気で怒っている様子だったのだが。
やはり吊戯は動じることなく、はっは! と笑って受け流していて。
「〝暴食〟には連絡がついていて合流する予定だ。〝憤怒〟はすでに東京支部が保護している」
さらに盾一郎も二人のそんなやり取りに関しては特に気にした様子もなく、スマホの画面を確認しながら二人の真祖に関する情報を告げてきて。
真祖全員で一度話し合いをしたい―――――という此方側の考えをまるで見透かしたかのようなタイミングで明かされたC3の動向に対し「えっ・・・!」と真昼は驚きの声を上げると。
「あ・・・あの! C3は椿について何か知ってますよね・・・俺達にもそれを話してくれませんか。ちゃんと仲間として協力・・・」
さらなる情報の開示を求めたのだが―――――。
「あのな、俺達はテメェの『お友達』じゃねぇ。ただの『仕事』だ。協力だのなんだの・・・こっちは組織の決定に従ってるだけなんだよ」
それをバッサリと冷たく切り捨てる発言をしたのが弓景だった。
そしてそんな弓景に対して、真昼は眉を顰めつつも、反論する事が出来ず、言葉を詰まらせてしまったのだが。
「まあ、オレは札束に従うけどね」
そこで場の雰囲気を一変させるかのように、吊戯がまた会話に加わってきて。
「テメェ黙ってろ。口に
「素敵~~~♥ 入るだけ詰めて~~~♥ でもできれば野口より諭吉に蹂躙されたいな♥」
弓景と吊戯のショートコントのようなやり取りが行われた後に。
「どうだい少年、オレを買わないかい? もしくは、瑠璃ちゃんでも大歓迎だよ? 狼谷吊戯26歳! 社畜歴13年!」
「え、買うって・・・・・・?!」
「社畜歴長ッ、13歳から!?」
突然の吊戯からの申し出に、瑠璃と真昼は揃って戸惑いと困惑の表情を浮かべたのだが。
「お賃金いっぱい欲しいのでなんでも言うこと聞いちゃいます! 特技は土下座です!」
吊戯はキラキラとした笑みを浮かべながら、両手首に巻かれた黒い紐のようなものを指先に巻き付かせつつ、交差させる仕草をしながら、さらに売り込み体制に入って来て。
「プライドというものはないんですか!」
そんな吊戯に対して、真昼が勢いよく突っ込みを入れるも。
「ない!! オレは金さえ積まれれば靴でもなんでも舐める男だよ! もうぺろっぺろだよ!」
吊戯は一切怯んだ様子もなく、むしろ誇らしげな口調で、そんなふうに言い返してきて。
「お前本当にやっちゃうんだよな・・・」
やめろっつってんのに・・・と、盾一郎が吊戯の発言に呆れた様子で溜息を漏らすと。
「でも一番なめてきたのは辛酸、かな・・・」
吊戯は歪んだ笑みを浮かべながら、右手の人差し指を口元まで持っていくと、ぺろっとそれを舐める仕草を見せてきて。
―――――うざい・・・。
そんな吊戯に対して、真昼が心の中で抱いた感情がそれだった。
そして瑠璃も、吊戯に対して言うべき言葉が見つからず、何とも言えない面持ちで、弓景と盾一郎のほうに目を向けると。
「はいはい社畜社畜」
弓景が吊戯に対して相槌を打った後に。
「はいはいはい。吊戯、どうどう」
吊戯の背後に回り込んだ盾一郎が、後ろから吊戯の身体を抱え込むと。
「んんっん~~~~~~!」
盾一郎の右手で口元を抑えられてしまった吊戯は、しばらくの間、子供のようにジタバタと暴れる仕草をしていて。
「この前、久々に外で丸一日遊べたからハイなんだよな」
吊戯が落ち着いてきた処で、口から手を離した盾一郎がそう言うと。
「ガキか」
続いて弓景が口にした言葉がそれだったのだが。
吊戯は気にした様子もなく「うん」と満面の笑顔で二人に頷いていて。
―――――相当強い人だって聞いたけど本当なのかな・・・。
意味不明・・・と真昼が、当惑の表情で吊戯を見遣った一方で。
―――――吊戯さんのあの雰囲気・・・・・・誰かに似ている気が・・・・・・。
瑠璃もまた、逡巡するように眉根を寄せながら吊戯を見ていた中で。
やがて、ふと、思い出したのは―――――
決して、本心を相手に覚らせる事なく、常に己のペースで会話を繰り広げる〝嫉妬〟の真祖の主人の姿で。
「・・・・・・そっか、御国さんに似ているんだわ」
「ん? 瑠璃ちゃん、何か言ったかな?」
ぽそっと瑠璃が呟くと、首を傾げながら、笑みを浮かべつつ此方に吊戯が目を向けてきて。
「吊戯さんって御国さんと知り合いみたいですけど・・・・・・」
そこで瑠璃が吊戯に対して、そう切り出すと。
「ああ。国ちゃんとは・・・元チームメイトとでも言うのかな。オレと組んでた。ジェジェちゃんも入れて3人でね」
ニヤリと口端を吊り上げながら吊戯は答えてくれたのだが。
その時、瑠璃と吊戯の会話を聞いて、真昼もまたハッとした面持ちになると。
「御国さんがC3に!? どうして・・・」
吊戯にさらに問いを投げかけようとしたのだが。
「お金」
それを制するように、吊戯がその一言を口にするのと同時に、右掌を差し出してきて。
「え?」
「・・・・・・吊戯さん?」
それに対して真昼が呆然と目を瞬かせ、瑠璃が思わず眉根を寄せると。
「くれないならこれ以上君達に与える情報はないな~~~~~~? だってオレには何か君達に手を貸す理由もないし。何よりオレは善人じゃないからね」
吊戯は右掌を自身に向けながら、底意地の悪い冷たい笑みを浮かべて、そんなふうに明言してきたのだ。
そうして吊戯のその態度は、やはり御国と似ていると思わせるもので。
瑠璃と真昼が何とも言えない複雑な面持ちで吊戯を見返すと。
「まーたお前はそういうこと言って・・・」
盾一郎が眉を顰めながら窘めるように、吊戯に向かってそう言ったのだが。
「言わせとけ盾」
ほっとけと、弓景は言っただけで、叱るつもりはないようで。
吊戯もそれが分かっていたのか「はっは!」と弓景に笑い返すと。
その時、まるで頃合いを見計らったかのように、ヴ―――――と盾一郎の携帯が振動したのだ。
「ん・・・? 修からメールだ」
「え? 修ちゃん?」
吊戯が露木からのメールの内容を確認しようと、盾一郎の傍に近づいて行く。
『会議が長引きそうなのでお昼を食べてから来てください』・・・・・・。
そして盾一郎がそのメールの文面を読み上げた瞬間―――――
「これは昼食代全額経費で落ちる流れだね!?」
ハイテンションな面持ちになった吊戯が、 客人をつれてのご飯だもんね!! と両手の親指と人差し指を立てて。
「喜べ吊戯!! タダ飯だ!!」
なんでも食え!! と盾一郎が上機嫌な面持ちで吊戯の頭を左手で撫でると、
「やったー!!」
吊戯の歓喜に満ちた声が響き渡った。
そして盾一郎の右手側に立って腕の下から顔を覗かせていた弓景が、
「おい美味いもん食いに行こうぜ!! 経費で!!」
悪乗りするかのような発言にもまた、盾一郎が「おう!!」と賛同した処で。
『っしゃあ!』と三人は仲良く円陣を組んで、パアン! と互いの掌を打ち鳴らしたのだ。
そうして―――――
「超~~~高い店連れてってやるよ! 経費で!」
「はっは! 何食べたい!? お兄さん達のおごりだよ!」
真昼と瑠璃は弓景と吊戯の二人からそう告げられたものの。
「あ、あの」
「えっと、それは・・・・・・」
つい先程、痛烈な台詞を聞かされたばかりだというのに、一変して友好的な態度で迫られているこの状況に、すぐさま馴染むことが出来ず、返答に窮してしまったのだが。
「ははは。俺達のじゃなくて会社のおごりだけどな!」
特に気にされることなく。さらに、様子を見るようにしていたクロまでも、盾一郎が陽気に笑いながら右腕を肩に回してきたことによって、そこに組み込まれることとなり。
「久々に・・・向き合えねー・・・」
に゛ゃ―――――・・・とクロは呻いた後にそう呟いたのだ。
しかし、そうして連れて行かれた高級レストランで、普段目にするよりも0が1個多いと、メニューを開いた瞬間、真昼と瑠璃が気後れしたのに対し。ちゃっかりとクロはお腹がはち切れんばかりの状態になるまで、高級料理を堪能していたのだった。
そしてその際に、吊戯と弓景は羽目を外すかのように、ワインを始めとして大量のアルコールまでも摂取していて。
「はっは! あはははは! 弓ちゃん、昼間っから飲みすぎだよ!」
「あんだと吊戯ィ。そのデコ撫でまわすぞ? あ?」
結果、食事を終えた後の二人は完全に出来上がった状態になってしまい。
「お前らほんと酔い過ぎだぞ!」
運転席に乗り込んだ盾一郎が、仕事中だぞ―――――と引き攣った笑みを浮かべながら、後部座席に乗り込んだ吊戯と弓景に声をかけるも、二人がそれを聞いている様子はなく。
助手席に乗車した真昼が、ずいぶん陽気に・・・と乾いた笑みを浮かべた中で。
「もう食えねー・・・うまかったにゃー・・・」
賑やかな二人と同じ後部座席に座っていた瑠璃の膝の上では、黒猫がポッコリと膨れたお腹を満足げな様子で抱えていて。
「クロ・・・お団子みたいになっちゃってるわね」
そんな黒猫の姿に瑠璃が微苦笑を浮かべると、
「クロ、動物姿はライオンになるわけじゃないんだな。これからずっとあんな大きいのかと心配したけど」
此方に顔を向けてきた真昼が思い出した様子で口にした言葉に、
「あれは疲れるからな・・・やはりひざ乗りサイズで可愛くないと・・・。癒し系吸血鬼だからなオレは・・・」
にゃ―――――んと尾を揺らしながら、可愛らしさアピールをするように黒猫が鳴いて。
―――――ただのデブ猫じゃ・・・。
―――――でも、あのサイズのほうが瑠璃姉の傍に、常にいられるっていう、理に適った状況に持ち込めるから良いのか!?
黒猫の発言に対して、真昼が心中でそんな突っ込みを入れていた時。
「あー・・・つるぎ・・・そろそろタクシー呼べ・・・」
盾一郎が運転する車に乗ってC3東京支部に向かう途中だというのに、弓景がそんなことを言い始めて。
「おい弓・・・ほんとに酔ってんな・・・」
盾一郎は呆れた面持ちでバックミラー越しに弓景を見遣ったのだが。
「はいはい『盾ちゃんタクシー』だね?」
「!?」
その後に吊戯が口にした台詞に、さらに盾一郎は唖然となってしまう。
けれど完全にお酒が回っている状態の吊戯はそんな盾一郎の反応など気にした様子もなく。
「盾ちゃんタクシーは最高だよね~。家の前どころかベッドまで運んでくれるし」
タダだし♥ 泥酔時も電話1本! と続けて言ったのに続いて、
「コートもちゃんと脱がせてかけといてくれるんだぜ」
完全に悪酔いしてしまっている弓景もそれに同意する言葉を口にしていて。
―――――月満さんが、吊戯さんの保護者のような立場にあると思ったのだけど。
―――――総合的に考えると、実は車守さんがそのポジションに当てはまっちゃうのね。
―――――と、心の中で思った瑠璃が「・・・・・・車守さん、色々と大変なんですね」と思わず漏らすと。
・・・・・・ああ、そうだな、と盾一郎は眉根を寄せながらしみじみとした様子で頷いた後に。
「お前らが俺のことをそんなふうに言ってたなんてな!? もう二度とむかえになんかいってやらんぞ」
そう言い放ったのだが、酔っ払い二人の耳には、盾一郎が口にしたその台詞は恐らくは届いていないのだろう。
「これで盾が巨乳の美女だったら文句なかった・・・」
その証拠に弓景が、は―――――・・・と溜息を洩らしながらさらに、そんなとんでもないことを口走っていて。
それに対して盾一郎が怒りを滲ませながら、
「美女は弓をベッドまでなんか運べねぇよ!!」
俺でも重いっつ―――――の苦言を呈すると。あはははははと吊戯が大爆笑をして。
「弓ちゃんのその巨乳好きすぎるのどーにかなんないのかい!? だからモテないんだよ!!」
「ああ!?」と語調を荒げた弓景に対して吊戯が「さっきも店員さんを見すぎだったよ!!」と言うと。
「うるせ! みんな大好きだろうが!!」
「いやいやオレはいくら好みでも弓ちゃんみたいにガン見しないよ~。事故を装って触るよ~」
明け透けな会話が繰り広げられ始めて。その時、吊戯の隣に座っていた瑠璃が何となく嫌な予感がすると、咄嗟に膝の上にいた黒猫を背中から抱き上げた。
その刹那―――――
「うん。瑠璃ちゃんって意外と・・・・・・ってアレ?」
「向き合えねー。お前がいま触ってるのは癒し系キュート猫なオレのお腹だぞ」
伸びてきた吊戯の左手にお腹を掴まれた黒猫がジト目でそう言うと。
「最低ですね・・・・・・」
真昼もまた、完全に据わった目でそう呟いて。
―――――・・・・・・間に合ってよかったわ。
瑠璃が黒猫をしっかりと腕の中に抱きながら安堵の息を吐き出すと。
「あ・・・あのな! 酔っ払いのしたことだから、許してやってくれ・・・な・・・。瑪瑙さんもホントごめんな!! そいつら普段はもう少しマトモだから・・・・・・!!」
蒼白な面持ちになった盾一郎が二人の弁護と謝罪を述べるのと同時に、
「コラ弓!! 吊戯!! 瑪瑙さんに迷惑をかけるな!! それと子供にドン引きされてるぞ!!」と叱責をするも。
「え―――――? 育ちの悪いお兄さん達でごめんよ~~~?」
「一緒にすんな! 俺ァ悪くねーよボケッ」
二人のテンションは変わらぬままで。
「狼谷吊戯26歳♥ お賃金大好き、靴ぺろぺろ系クズです♥ 靴も床もアレもソレも言われるがままぺろっぺろです♥」
「サイッテーだな!!」
「誉め言葉です♥」
その後にはコントのようなやり取りまで繰り広げられて。
「・・・どうしようもない大人だ・・・」
そんな二人に対して、もはや真昼は突っ込むことはせず。
そのまま、思った通りの言葉を口にすると。
「まーしょーがねーんだわ。こいつガキん頃に悪いオジサン(笑)に買われちまってよ」
「いやいや弓ちゃん! なんて人聞きの悪い! オレは悪いオジサンに買われてなんかいないよ~。あの頃はまだ悪い
果たして酔っ払いの戯言と聞き流してもよいものなのか。
判断に迷う話が二人の口から飛び出した処で、
「やめろー笑えねーぞー」
盾一郎が思い切り顔を顰めながら唸るようにそう言うと。
「はっは! いや~オレ、ずーっと塔間さんの奴隷だからな~」
ヘラと笑みを吊戯は浮かべながら応じてきて。
―――――トーマさん・・・?―――――
一体、吊戯にとってどんな存在の人なのだろうか。
真昼と瑠璃が眉を顰めながら、吊戯のほうに目を向けると。
「お前いつまであの人の言いなりなんだよ・・・」
盾一郎が苦い口調で漏らした呟きに、
「だって塔間さんめちゃくちゃお金くれるから~~~」
吊戯は変わらぬ調子でそう答えていて。
「えと・・・三人は仲がいいんですね」
それに居心地の悪さを感じた真昼が、さりげない口調でそう切り出すと。
盾一郎は目を瞬かせながら真昼を見遣った後、
「ん? ああ・・・俺達三人同級生でな。小1んときからの付き合いだから・・・もう20年か。うわ、そう考えるとぞっとするな」
幾分か、落ち着いた様子の声音で自分たちの関係を話してくれて。
「盾テメー聞こえてっぞ」
その会話に弓景が口を挟んできて。
「聞こえたか? お前らのお守りももう20年だぞ」
そこで盾一郎が改めて、しみじみとした口調でそう言うと。
「パパー」と吊戯が裏声で盾一郎に呼び掛けてきて。
それに対して盾一郎は「殴るぞ」と言い返した後に、三人の過去の思い出話が再開されたのだが。
「つっても最初は弓と吊戯がすっげぇ仲悪くてなあ」
「え? そうだったんですか?」
いまの二人の姿を見ていると、昔からとても仲が良かったのだろうというイメージしか浮かばないのだが。
瑠璃が目を瞠りながら吊戯と弓景のほうを見ると。
「ああ。今じゃ嘘みたいだけどな。それにこいつ昔は全然喋らないし笑わないしで・・・」
「盾ちゃん!! オレのクソガキ時代の話はやめて!!」
突如、勢いよく座席から立ち上がった吊戯が、がばっと隙間から身を乗り出して車を運転している真っ最中の盾一郎に抱き着いて。
「うおっ、あぶねっ。お前ちゃんと座ってろ!!」
「はっは! あはははは!」
車内に盾一郎の叫び声と吊戯の賑やかな笑い声が響き渡った直後。
ヴ―――――ッ、ヴ―――――・・・。
C3の支部から電話がかかってきて。それによって、明るかった車内の雰囲気がまた、一変することとなる。
【本館/21・1/26/別館/21・1/27掲載】
