第十八章『許すものと赦されざる存在』
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「クロっ!?」
瑠璃が声を上げると同時に、ザクと椿の刀は振り下ろされた。しかし、間一髪の処でクロが身を退いたことにより、フードのファーの部分を僅かに掠っただけで済んだのだが。
「もう君と話したいことはない」
冷然とした笑みを浮かべながら、クロにそう告げた椿の漆黒に染まった右掌から、具現化した3つの椿の花がゆっくりと落ちていく。
それを目にした瑠璃が『鍵』の力を発動させてロッドに変えると、クロの傍に走り寄ろうとしたのだが。
「瑠璃!! お前はそこに居ろ・・・・・・っ!!」
瑠璃に対してクロが制止の声を上げると。
「そうだよ、瑠璃。君のことを傷つけるつもりは僕にはないんだからさ」
椿もまた柔らかな口調で瑠璃にそう言った後に。
「あははっ、単体としての性能は僕のほうが上か」
「・・・ッ」
狂乱状態で容赦なくガガガッガと刀で斬りつけてきた椿に対して、クロは防戦一方に徹しながら。
「オレは話があるっつってんだよ!」
椿に向かって叫び。
「お前はオレがぶん殴ってでも止める」
右手を伸ばして椿の左腕をしっかりと掴んだ処で、真っ直ぐに瞳を見据えながらそう宣言したのだ。
「あはっ、その兄貴面はとっても面白くないなあ!」
すると、椿からは失笑が返ってきたのだが。
「オレのしたこととお前のしたことについて話をする必要があんだよ。もう・・・後悔したくねーんだ」
クロは椿と向き合うことを諦めず、懸命に自身の想いを言葉にして紡ぎ出した。
「・・・・・・椿」
そうしてそれまで二人の様子を静観している事しか出来なかった瑠璃が、そんなクロの想いを後押しするように椿の名前を呼ぶと。
「・・・・・・どうして・・・・・・」
椿の左手に握りしめられていた刀が、ふいにその手の中から滑り落ちていって。
それに気づいたクロが掴んでいた椿の左腕から右手を離すと。
「・・・先生は本当に僕のことを何も話していなかったのかい?」
ポツリと椿はクロにそう言った後に。
「・・・どうして先生は僕が存在しているってことを君に伝えてくれなかったのだろう・・・」
悲痛に満ちた面持ちで椿が口にしたその言葉にどう答えるべきなのか。
その答えをクロは見つけることが出来ず、困惑の面持ちで椿の顔を見つめ返していたのだが。
「・・・ねえ、僕は」
椿が何かを言い掛けたその時―――――
パン―――――という狙撃音が響いて、それが椿の左肩を撃ち抜いたのだ。
「椿・・・・・・っ!?」
刹那、愕然となったクロと共に瑠璃も椿の傍に駆け寄ろうとしたのだが。
さらに椿の背後に、突如としてドッドと漆黒の杭のようなモノが次々に現れて。
それに気づいた椿が咄嗟に、その場からもんどり打って逃げた後。
バキンとそれは一切の隙間がない、漆黒の囲いのようなモノに形を変えていって。
狙撃された自身の左腕が、ぶらんっと下がったままで回復しない事に、椿が困惑の表情を浮かべる中。
灰塵を放出し続けていたロウレスの目の前にもまた、ズアッと漆黒の杭のようなものが現れて。
「ロウレ―――――・・・」
それに気づいた真昼が声を上げかけるも、立ち続ける事が困難になってしまったのか、ロウレスはその場に蹲ってしまっていて。逃げることが出来ないまま、先に形成されていた囲いのようなモノと全ての杭がバキン!!と融合して作り出された、漆黒の箱の中に閉じ込められてしまったのだ。
そしてロウレスが閉じ込められた箱の上に、突如としてフード付きの白い服を身に纏った人物がトンと降り立って。
「はっは! お待たせだよ少年達! 安心して下がっておいで」
そう言いながら此方に振り返ってきた際にパサとフードが外れて、明らかになったその人物の相貌は、タレ目で金色の瞳をした男だった。
「えっ・・・!?」
その男の言葉に真昼が当惑の声を漏らすと。
「吊戯! 無駄口叩いてんじゃねぇぞ!」
どうやら、タレ目の男だけでなく、他にも誰かが居るようで。
ロウレスが箱の中に閉じ込められた後、サアアと周囲に渦巻いていた灰塵の残りが消失していって。
戸惑いの面持ちになった真昼が、もう一人の人物の声がした左側とは反対の、右側から様子を確認すべく、そちらに回り込んでみると。
左手側には、金髪ポニーテールでスラリとした長身の男の姿が在り。二丁の猟銃のようなモノを左右の手に所持していた。さらに右手側にももう一人、漆黒の長い棒のようなモノを一本ずつ両手に構えて立つ、眼鏡を掛けた男の姿が在ったのだ。
「『8番目』・・・抹殺対象に間違いねぇな。吊戯! 盾一郎!消すぞ !」
そして金髪ポニーテールの男が、右手で負傷した左肩を掴みながら地面に膝を突いていた椿の姿を確認した後に、タレ目の男と眼鏡を掛けた男。二人にそう呼びかけると。
眼鏡の男が「おう」と頷き。
「はいはい弓ちゃん!」
タレ目の男がバッと身に纏った服の裾を翻しながら、勢いよく椿の下に駆け出して行って。
身体を横に反転させると、パパン!と椿目掛けて蹴りを繰り出してきたのだ。
「ッ!」
―――――こいつ・・・!
しかし、左腕が負傷したままの状態の椿には刀を使って対抗することが叶わず。
タレ目の男からの攻撃を、ギリギリの処で避けるしかない状態となってしまっていたのだが。
トと後ろに向かって仰け反った椿の右脚の傍に、ピピッと漆黒の筋道のようなモノが走ってきて。
「・・・・・・椿っ、危ない!!」
それに気づき叫び声を上げたのは、混乱した面持ちでクロと共に立ち尽くしていた瑠璃だった。
―――――突然現れた、白い服を着た三人の男たちが何者であるのか。それは分からないが、唯一つだけはっきりした事がある。彼らは椿を『抹殺』するつもりなのだ。
「・・・・・・!」
そして瑠璃が叫んだのと同時に椿自身も足元に迫っていた危険に気づき、ばっと左側に身を翻した刹那―――――
先程目にしたのと同じ、漆黒の杭が勢いよく具現化したのだ。
「っ・・・悪い吊戯。動かしながらだと座標がちょいずれる・・・っ」
どうやらアレは、眼鏡の男が操っている術らしく、手に握りしめられた漆黒の棒からはバチッと、術の力の残滓のようなモノが放出されていた。
そして眼鏡の男からの詫びの言葉に対してタレ目の男は、
「かまわないよ、盾ちゃん! ブランクあるんだしね! それに盾ちゃん、育児休暇中にちょっと太ったしね! 少し動きを制限してくれれば・・・十分だよ!」
気遣うような言葉を口にした後に、からかうような言葉を添えて返事をすると。
「太ってねぇし、今それ関係ねぇわ!」
眼鏡の男が怒りの反論をしながら、椿を包囲するべく、また術を発動させてきて。
トトッと迫ってくるタレ目の男からの攻撃を避けつつ、眼鏡の男が仕掛けてくる術を警戒して動き続けるのは、手負いの状態になってしまった今の椿にとっては負担が大きいもので。終には椿の頭部にパンッとタレ目の男の蹴りが直撃してしまい。
「く・・・」
呻き声を漏らした椿が、くら、と後ろに向かって倒れかけてしまったその時。
眼鏡の男が操っていた術に、椿は完全に追いつめられてしまい。そのまま磔にされてしまったのだ。
「終わりだ」
そして椿に止めを刺すべく、金髪ポニーテールの男が猟銃のようなモノを構えた。
「待っ」
その刹那、クロが金髪ポニーテールの男の傍に駆け寄って、左手で猟銃のようなモノの先端を弾いて照準を椿から咄嗟に反らしにいき。
「駄目!!! 止めて・・・・・・っ!!!!」
瑠璃もまた叫び声を上げるのと同時に『鍵』の力を発動させて、バッと椿の処に転移していった直後。
ドン―――――と発砲音が響き渡り。
クロに邪魔をされた事で、椿を仕留める事が出来なかった金髪ポニーテールの男が、
「何・・・しやが・・・ッ」
憤慨した様子で、バキッとクロの顔面を猟銃のようなモノで殴りつけたのだ。
「!?」
そうして目の前で起こった一連の出来事に、真昼が狼狽した面持ちになった一方で。
「―――――!!」
椿のすぐ傍に顕現した瑠璃の気配に気づいたタレ目の男が、ハッとした様子で振り返ってきた瞬間。
その刹那の隙を椿は逃すことなく、漆黒に染まった右掌から刀を具現化させると、タレ目の男の右上半身をザクッと斬りつけたのだ。
「吊戯!!」
眼鏡の男が愕然としながら、タレ目の男に向かって叫ぶ。
「・・・・・・っ!?」
ぼたぼたと傷口から決して少なくはない量の血を滴らせながら、ドッ・・・ズズッと、素早く後ろに向かって椿から距離を取ったタレ目の男の姿に、瑠璃もまた蒼白な面持ちになりかけたのだが。
「吊・・・」とまた、眼鏡の男が、タレ目の男の名前を叫ぼうとした際、耳朶に届いたその声にタレ目の男はぴくッと反応を示して。
「あ―――――大丈夫、大丈夫」
飄々とした声音で応答した後に、右額から流血をさせたまま―――――
に、と椿に向かって壮絶な笑みを浮かべて見せたのだ。
「・・・・・・瑠璃、君はそこにいてね。あいつの相手は、君には荷が重すぎる」
そこで椿は数瞬後、瑠璃にだけ聴こえる程度の声でそう言うと、磔の状態から掌の中の刀を駆使して、ばばっと脱出を行い。タレ目の男の動きを警戒しながら―――――
は・・・と苦痛を堪えるように息を吐き出したのだ。
―――――クロ・・・今、椿をかばった・・・!?
―――――瑠璃姉も、無事みたいだけど・・・・・・。
―――――誰なんだ、この人達!?
クロと瑠璃、二人の傍に駆け付けることが出来ないまま、見ている事しか出来ない状況下に置かれてしまった真昼が困惑する中。
「これは一旦、仕切り直しだな。弓ちゃん、盾ちゃん! オレは大丈夫」
タレ目の男は傷口から変わらず血を滴らせながらも、やはり平然とした態度のまま、トントントンと右脚だけ曲げた状態で、左足で全身のバランスを取るように跳ねながら背後に立つ二人に言った処で。
「・・・もっかい行こうか? ねっ、狐ちゃん」
椿のほうに視線を向けながらそう告げてきて。
その時、初めてタレ目の男の姿を正面から見ることになった瑠璃は、三人の中で一人だけ着ている服が、上半身を黒いベルトで固定された、まるで『拘束具』のような仕様になっていることに気づき、眉を顰めていた。
―――――どうして、あの人だけ・・・・・・?
「・・・C3の〝猟犬〟・・・!」
そしてタレ目の男をギリと睨み付けながらそう呼んだのは椿だった。
―――――C3!?
それにより白い服を着た三人の正体が明らかになり。
「君は僕らの間じゃ有名だよ」
「そう? 光栄だなあ」
「君に出会ったらすぐさま逃げろ・・・とみんな言うね。狼谷吊戯」
「いやいやいや! オレはそんな危険な存在じゃないよ? オレ、給料出ないところじゃ絶っっ対仕事しないし! 安い仕事は手ェ抜くし~」
タレ目の男―――――狼谷吊戯という名前らしい―――――は、殺気を放つ椿とは対照的に、はっは!と笑みを浮かべながら応対を返してきた後に。
「・・・でも今日は、君を消すと結構な金額が出るらしいんだよね」
じっと獲物を狙う狼のような眼差しで、椿を見据えながらそう言い。
「そんなわけで、今日のオレは君達の味方だよ! そこのお嬢さんも、巻き込むつもりはないから。むしろ頼ってくれてかまわない!」
キラキラとした満面の笑顔で、瑠璃を見遣った後。さらに真昼にも「今日は君達を守ってもお金が出るのでね!!」と宣言をしてきて。
「うさんくせえ・・・」
しかし、吊戯に対して真昼が抱いた印象はよろしくないもので。
瑠璃もまた、吊戯が椿を消すと口にしている事から、やはり良い心象を抱ける筈が無く。眉根を寄せながら、黙って吊戯達の事を見ていたのだが―――――。
「弓、これなら申請も通るだろ」
「ああ、さっさと済ませんぞ。行け、ボケデコ」
眼鏡の男の確認するような言葉に対し、金髪ポニーテールの男はいきり立ちながら頷き返すと、猟銃のようなモノの筒先を吊戯の背にぐいぐいと押し付けて。
「痛い! 弓ちゃんはほんとオレ使いが荒いんだからなあ」
金髪ポニーテールの男に、吊戯が文句の言葉を口にするも、本気で嫌がっているというよりも、そのやり取りはまるでじゃれ合いのようだった。
一体、何をするつもりなのか―――――真昼と瑠璃が眉を顰めながら様子を見る中。
「・・・コード〝ヘズ〟が認証する。薙げ〝バルドル〟」
金髪ポニーテールの男が紡ぎ出したその言葉によって、キィッという甲高い音が響き渡ると、バチンと勢いよく吊戯の上半身を拘束していたベルトが外れたのだ。
そして自由の身になった処で、拘束具の下で組んでいた両腕を解いた吊戯が口の端に笑みを浮かべながら左手を掲げると、
「さあ弓ちゃん! 今日も稼いじゃうよ!」
「体が鈍ってる盾は下がってな!」
金髪ポニーテールの男もまた、不敵な笑みを浮かべながらそれに応えて。
その際に、仲間外れの扱いをされてしまった、眼鏡の男は「ああ?!」と顔を顰めたのだが。
「その代わりに、盾ちゃんはそこのお嬢さんが〝力〟を使わないよう、しっかり見ててね!」と―――――吊戯が言い足してきて。
「行くぞ吊戯ィ!! 今日の獲物はキツネ一匹だ!!」
「ワン!!」
その後、すぐに号令を出した金髪ポニーテールの男に従って、犬の鳴き真似をした吊戯は左手を地面に着くと。右手に漆黒の『剣』を具現化させて、バサッと拘束服の上着をマントの如く背に翻しながら、椿に迫っていって。
「・・・・・・椿っ」
しかし、眼鏡の男が目を光らせている為に、身動きが取れない瑠璃はロッドを握りしめながら、痛切な面持ちでそれを見ている事しか出来ず。
「・・・ッ」
そして椿が追い込まれていったその時―――――
「炎・・・!」
突如として椿と吊戯の間に炎の壁が現れたのだ。
そこで吊戯が瞠目の面持ちになった一方で、
「ヒガン・・・!?」
ハッとなった椿が視線を向けると、完全に意識を喪失していたはずのヒガンが目を覚まして、自らの血を媒介に右手を地面に触れさせながら、炎を作り出したのだと理解したのだが。
「椿、ライラ だけ連れて逃げな」
「!?」
「猟犬相手じゃあまりに不利だ・・・ここは致し方ない」
起き上がる事はやはり無理なようで、俯せ状態のまま、顔だけを此方に向けながら、ヒガンが口にしてきたその言葉に椿は絶句してしまう。
「君らを置いていけるわけないだろう」
そして椿は声を震わせながらヒガンにそう言い返したのだが。
「行け・・・大丈夫。お前までここでやられてどうするんだ」
しかし、ヒガンは変わらず静かな声のトーンで告げてくる。
「・・・それに大丈夫・・・知ってるさ。お前は誰も裏切らない・・・だろ?」
そして悲痛な表情となった椿に対して、ヒガンが最後の後押しとばかりに、笑みを浮かべて見せると。
視線を俯けた椿はギリッと奥歯を噛みしめる仕草をした後に、ライラを右脇に抱えると。
ばっ、と天井の穴に向かって跳躍して行って。
「あっ・・・! まっ・・・待て!!」
「椿!! ライラ・・・!!」
撤退を選択した椿に対して真昼が咄嗟に声を上げると。
瑠璃もまた、二人の名前を叫んだのだが。
椿達がそれに反応を見せる事はなく。
その後に―――――
「行けるよ、オレが追おうか」
右手で額の血をごしと拭いながら、そう言ったのが吊戯で。
「チッ・・・追うか!? 修平!!」
金髪ポニーテールの男が、右手に持っていたほうの猟銃のようなモノを肩に担ぎながら、舌打ちを漏らしつつ、怒鳴るようにそう叫ぶと。
「追わなくて結構です。任務内容を移行します」
ザッと此方に新たな人物がやって来て。
「・・・あっ・・・!?」
それに気づき、先にそちらに目を向けた真昼が驚愕の声を漏らすと―――――
「中立機関C3東京支部、福祉部長第三補佐兼本日一日当班班長代理・・・露木です」
先に現れた三人と同じ、白い服を着た露木が右手で眼鏡のフレームを持ちながら、左手に黒いタブレットを携えて、今の自身の肩書を名乗ってきたのだ。
その背後では―――――
「はっは。えらそ―――――。修ちゃんでば―――――」
「チッ、修平のくせにえらそーに。俺らのほうが年上だぞ、4つも。つか肩書なげーよ、ボケッ」
「つーか偉いんだよ、今日は修平が班長なんだから・・・一応」
などと、班員である三名の彼らが好き勝手に喋っていた為。
「後ろの先輩方、うるさいですよ」と露木が叱責をした処で。
「つ・・・露木先輩・・・!?」
「・・・・・・どうして露木さんが、C3の人達がここにいるんですか?」
驚愕の声を上げた真昼の傍らに立った瑠璃が、露木を見据えながら固い声音で問いかけた刹那―――――
真昼と瑠璃の意識が、露木のほうに向けられていたほんの僅かな間に、眼鏡の男が狙いを定めて仕掛けてきていた術が、足元で一閃して発動し。
―――――ドドドッ
『!?』
地面にしゃがみ込んでしまっていたクロは、首を始めとして、自由に身動きが取れないようその周囲を杭で囲い込まれてしまい。
真昼と瑠璃―――――そして鉄と御園も一緒に、術によって作られた漆黒の檻の中に閉じ込められてしまったのだ。
「な・・・!?」
「動かないでください。ここからは我々に従ってもらいます」
愕然としながら格子を掴んだ真昼に対して露木が事務的な口調で告げてくる。
「そうそう。大人しくしてね~。オレらも余計な仕事したくないから~」
するとそれに同調するように、吊戯が意地の悪い笑みを浮かべながら露木の後ろから顔を覗かせてきて。
「・・・・・・っ!?」
―――――・・・・・・椿はあの人のことをC3の〝猟犬〟と呼んでいた・・・・・・。
―――――・・・・・・C3と一体どういう関係なの?
吊戯と視線が合った瑠璃が眉を顰めながら金色の双眸を見返すと。
「誰なんですか、あなた達は・・・!?」
真昼が吊戯に向かって緊張した面持ちで、その正体を尋ねかけたのだが。
すると突如として、吊戯は握り拳を作った右手を胸に左手をその下でクロスさせて親指と人差し指で地を指し示しながら、バサッと上着の裾を翻す動作をして。
「オレ達こそ! 闇夜を駆け回り、こっそり世界を守る秘密組織の・・・・・・」
キラキラとエフェクトを身に纏いつつ、その正体を名乗ろうとしてきたのだが。
それを遮るように露木が左手を伸ばすと、
「吸血鬼退治のスペシャリストとでも言いましょうか」
淡々とした口調でそう告げてきたのだ。
すると吊戯は「スルーされた!! スルーされたよ、盾ちゃん!!」と眼鏡の男にしがみつくようにしながら叫んだのだが。
「お前が悪い」と呆れた様子の眼差しを吊戯に眼鏡の男は向けていて。
「このうるさい人の話は聞かなくていいです」
背後から聞こえてきた吊戯の抗議の言葉に、露木が微かに苛立ちを滲ませた様子を見せながらそう言い切ったのだ。
「・・・・・・吸血鬼退治のスペシャリスト・・・・・・」
―――――どうして、C3はそこまでして椿のことを・・・・・・。
そんな中で、瑠璃は露木が先程口にした言葉を呟き、眉根を寄せると。
露木の背後で繰り広げられていた、騒がしいやり取りに参加していなかった金髪ポニーテールの男が「チッ・・・・・・」と舌打ちを漏らし、ジロッと瑠璃のほうを一瞥した後。
「チッ・・・邪魔しやがって。一気に片がついたってのに」
「・・・・・・邪魔をしたのはそっちじゃねーか・・・」
再び舌打ちをしながら睨み付けてきた金髪ポニーテールの男を、クロも敵愾心を込めた瞳で睨み返す。
すると金髪ポニーテールの男が「あ?」とドスの利いた声を上げて。
「はっは! ・・・・・・やるかい?」
さらにそこに参戦する構えを示すように、トッと吊戯が一歩前に出て来て。
「吊戯さん」
何を・・・と露木が眉を顰めながら、吊戯を見遣るも。
「オレはかまわないよ? そちらさんは無事な真祖は一人だけ。しかも人質も大特価で取り放題♥ すでに〝強欲〟はこっちの手の内だし? 何が起きれば負けるのか聞きたいくらいだな」
吊戯は悠然とした態度を崩すことなく、クロはさらに苛立ちを募らせていったのだが。
「クロ」
耳朶に聴こえた声にクロは目を見開くと、自分の名前を呼んだ真昼のほうに視線を向ける。
真昼はクロに対して『落ち着け』と左手でジェスチャーをしてきていて。
クロはゆっくりと目を瞬かせると、こくりと頷き返した。
「瑠璃姉」
それを確認した処で、真昼は思考に囚われていた瑠璃の様子を気遣うように呼び掛けてきて。
―――――その答えを見つける為だとしても。
―――――今、私達がC3と戦闘を繰り広げるのは得策ではないわ。
―――――何より、私達が望んでいるのは〝対話〟なのだから。
そこでそう結論を出した瑠璃も、真昼に頷き返すと―――――
「露木先輩。今、俺達はC3と戦うつもりはありません。だから俺達の話も聞いてほし・・・」
真昼が露木に向かって、その意思を伝えるべく、言葉を紡ぎ出していった。
すると、最後まで言い終える前にパシュと牢獄が消失していき。
「・・・こっちもここで戦うつもりはない。目的は一緒だ。できれば協力していきたいからな」
バチッと術の残滓を纏った2本の漆黒の棒を、両手で地面から引き抜いた眼鏡の男が、真昼に対して頷き返してきて。
「な、弓」
承服を金髪のポニーテールの男にも求めたのだが。
しかし、つ―――――んと、そっぽを向いたまま金髪ポニーテールの男は応じてくることなく。
「ゆーみ」と聞き分けの無い小さな子供に接する父親のような口調で、眼鏡の男がもう一度呼びかけると。
「うっせーな!! わーったよボケ!!」
まるで反抗期の子供のような応答をまた金髪ポニーテールの男が返してきて。
「えっと・・・・・・」
そのやり取りに思わず、呆然と目を瞬かせた瑠璃が戸惑いの声を漏らすと。
「ま、オレもお金にならないケンカはしない主義だしね~」
はっは! と吊戯が眉を下げながら笑いかけてきて。
その表情は先程までとは打って変わって、完全に悪意がないものだった。
「このホテルや一般人への対応はC3 に任せてもらって大丈夫です。そして椿の下位吸血鬼 は我々で捕縛させてもらいます」
そうして、この場が収束した処で露木がそう告げてきたのだが―――――。
「待て! 戦ったのは僕達だぞ? 僕らはその下位 達に椿について聞きたいことが・・・」
それに対して、反論の意を主張したのが御園だった。
「情報はもちろん共有しますよ」
けれど、すぐさまそう返答してきた露木に、御園もそれ以上は何も言えず、押し黙るしかなく。
「今、救護班が来ますのでケガ人は治療を・・・」
「おい・・・こいつ は」
キビキビとした態度で話を続ける露木に、次いで話しかけたのはロウレスが閉じ込められてしまった漆黒の箱の傍に居たリヒトだった。
「ああ、〝強欲〟の」
満身創痍である事から、真昼達の近くにリヒトはいなかった為。声を掛けられたことで、リヒトの存在に気づいた露木が、リヒトが左手で触れながら示してきたロウレスが閉じ込められた漆黒の箱を一瞥すると。
「もう出しても平気でしょう」
術の解除を許可した処で、眼鏡の男の手によってロウレスが閉じ込められていた箱もバシュと消されたその後に―――――椿の手によって真っ二つにされてしまったドッグタグのチェーンの先をしっかりと、小さな前足で掴んで蹲っているハリネズミの姿が現れたのだ。
「・・・バカネズミ・・・」
その姿を見た後、リヒトがまた地面に立っている状態を保つことに限界を迎えて地面に座り込んでしまった処で。救護班が到着し、さらに1階からC3の職員に誘導されてようやく此方に来ることが出来たクランツもリヒトの下に駆け付けて来た時。
「クロ!!」
「クロ! 大丈夫か!」
瑠璃と真昼が、ロウレスと共に術を解除されて自由の身となったクロの傍に駆け寄ると。
「なんつーか・・・悪い・・・」
右手を首に添えながらクロは気まずそうな面持ちで詫びてきて。
「いや。椿と・・・何を話したんだ?」
それに対して、気にするなという表情で応じた真昼が、傍で聞くことが出来なかったその内容を尋ねると。
「あいつ・・・何か関係ある。C3 と・・・」
そう真昼に言ったクロが、その後に椿とのやり取りの中で分かったその事柄を伝えた処で。
「―――――だから、C3が椿の目的と関係あるかもしれないの・・・・・・」
瑠璃が眉根を寄せながら漏らしたその言葉に、
「C3が絡んでるとなるとめんどくせー話になるな・・・」
クロもまたぼやくようにそう呟いたのだった。
―――――なんだか違和感があるな・・・。
―――――泳がされたような・・・。
―――――僕達に戦わせた とでもいうのか・・・・・・。
着々とC3の職員たちによって、後始末が進められていく中。
右手の人差し指を口元に添えながら、眉を顰めて逡巡していた御園は、
「・・・ヒュー・・・」
ぼそと耳朶に届いた鉄の声にハッとした面持ちで顔を上げる。
「はやく行ってやんねーと・・・」
―――――と、窓の向こう側に目を向けながら沈痛の声音で、そう漏らした鉄の背を気まずそうな面持ちで見上げた御園は、そっと鉄の右側に移動すると。
「・・・千駄ヶ谷すまなかった」
御園が口にした謝罪の言葉に、「え?」と鉄が驚いた様子で振り返ってくる。
「ヒューがやられたのは僕の考えが甘かったせい・・・僕の失態だ」
そこで御園は鉄から責められることを覚悟したうえで、その言葉を紡ぎ出したのだが。
「あんたのせいじゃねえ。違うんだ。あんたはオレ達に期待をしてくれたのに」
非難する処か、逆に悲痛な面持ちで、鉄は御園にそう告げてきて。
そうしてすっかり重々しい雰囲気に二人はなってしまったのだが―――――。
クロと話を終えた真昼が二人の傍に向かおうとした処でそれに気づき。
「鉄、御園、リリイ」
明るい声で呼びかけながらトッと近づいて行くと、
「ありがとな。みんなのおかげでリヒトさんは無事だ。シンプルにそれは喜べるだろ?」
ポンッと鉄と御園の背中を両手で叩いた真昼はニッと笑みを浮かべてそう言ったのだ。
その真昼の笑顔のおかげで御園と鉄の間に漂っていた気まずい空気が払拭されていって。
「そう・・・だな。本当に・・・最低限の成果になってしまったが・・・。ロウレスとヒューもやられてしまった。だが、椿側の戦力も大幅に減らせたことは事実だろう。僕達 側も椿側も状況は変わった。一旦、仕切り直しだ」
御園は小さく笑みを浮かべると、そう真昼に向かって言ったのだ。
こうして八番目〝憂鬱〟の真祖である椿が引き起こした『兄弟戦争』が一旦幕引きとなったその時―――――
「・・・大変な目に遭わせてしまって悪かったね。友達も亡くして・・・辛かっただろう」
「椿・・・さんっ。ぼくっ・・・何もできないですけど。ぼくは・・・」
ライラを連れて逃亡をした椿は、とあるビルの屋上の上に立っていた。
そしてそこで追手の気配に注意しながら話をしていた椿の背に向かって、ライラが涙を浮かべながら何処までもついて行くという自身の意思を伝えようとしたのだが。
「ライラ。最後に僕の頼みごとをひとつ聞いてくれるかい?」
椿はそれを静かな声音で遮り。
「僕の下位吸血鬼 みんなに真祖 の事は忘れて・・・自由に生きるようにと伝えて。僕の下位 は日光にも強い。人間に紛れることも簡単だろう」
えっ・・・? と愕然とした面持ちになったライラに椿は微笑みながら告げた。
「あとは僕の問題だ」
そしてそう宣言した後に、ライラの目の前から椿は姿を消してしまったのだ。
―――――シャラーン―――――
哀し気な鈴の音色が闇の中に鳴り響く。
―――――瑠璃・・・・・・
―――――君も『僕』のことはもう・・・・・・
―――――『家族』だと思わないで欲しい・・・・・・
―――――もしも次に君に逢う事があったとしたら『僕』は・・・・・・
それからその後、C3に包囲されてしまった建物の中から、唯一人だけ脱出をすることが出来た桜哉がライラの口から椿からの最後の頼みごとの話を聞いた後。その行方を捜して走り回りながら椿の携帯に連絡を試みたのだが。方を捜して走り回りながら椿の携帯に連絡を試みたのだが。
「チッ」
―――――あのアホギツネ、一体どこに行きやがったんだ!?
その電話もまた『椿』に繋がる事は決してなかったのだ。
【本館/20・11/28/別館/20・11/28掲載】
瑠璃が声を上げると同時に、ザクと椿の刀は振り下ろされた。しかし、間一髪の処でクロが身を退いたことにより、フードのファーの部分を僅かに掠っただけで済んだのだが。
「もう君と話したいことはない」
冷然とした笑みを浮かべながら、クロにそう告げた椿の漆黒に染まった右掌から、具現化した3つの椿の花がゆっくりと落ちていく。
それを目にした瑠璃が『鍵』の力を発動させてロッドに変えると、クロの傍に走り寄ろうとしたのだが。
「瑠璃!! お前はそこに居ろ・・・・・・っ!!」
瑠璃に対してクロが制止の声を上げると。
「そうだよ、瑠璃。君のことを傷つけるつもりは僕にはないんだからさ」
椿もまた柔らかな口調で瑠璃にそう言った後に。
「あははっ、単体としての性能は僕のほうが上か」
「・・・ッ」
狂乱状態で容赦なくガガガッガと刀で斬りつけてきた椿に対して、クロは防戦一方に徹しながら。
「オレは話があるっつってんだよ!」
椿に向かって叫び。
「お前はオレがぶん殴ってでも止める」
右手を伸ばして椿の左腕をしっかりと掴んだ処で、真っ直ぐに瞳を見据えながらそう宣言したのだ。
「あはっ、その兄貴面はとっても面白くないなあ!」
すると、椿からは失笑が返ってきたのだが。
「オレのしたこととお前のしたことについて話をする必要があんだよ。もう・・・後悔したくねーんだ」
クロは椿と向き合うことを諦めず、懸命に自身の想いを言葉にして紡ぎ出した。
「・・・・・・椿」
そうしてそれまで二人の様子を静観している事しか出来なかった瑠璃が、そんなクロの想いを後押しするように椿の名前を呼ぶと。
「・・・・・・どうして・・・・・・」
椿の左手に握りしめられていた刀が、ふいにその手の中から滑り落ちていって。
それに気づいたクロが掴んでいた椿の左腕から右手を離すと。
「・・・先生は本当に僕のことを何も話していなかったのかい?」
ポツリと椿はクロにそう言った後に。
「・・・どうして先生は僕が存在しているってことを君に伝えてくれなかったのだろう・・・」
悲痛に満ちた面持ちで椿が口にしたその言葉にどう答えるべきなのか。
その答えをクロは見つけることが出来ず、困惑の面持ちで椿の顔を見つめ返していたのだが。
「・・・ねえ、僕は」
椿が何かを言い掛けたその時―――――
パン―――――という狙撃音が響いて、それが椿の左肩を撃ち抜いたのだ。
「椿・・・・・・っ!?」
刹那、愕然となったクロと共に瑠璃も椿の傍に駆け寄ろうとしたのだが。
さらに椿の背後に、突如としてドッドと漆黒の杭のようなモノが次々に現れて。
それに気づいた椿が咄嗟に、その場からもんどり打って逃げた後。
バキンとそれは一切の隙間がない、漆黒の囲いのようなモノに形を変えていって。
狙撃された自身の左腕が、ぶらんっと下がったままで回復しない事に、椿が困惑の表情を浮かべる中。
灰塵を放出し続けていたロウレスの目の前にもまた、ズアッと漆黒の杭のようなものが現れて。
「ロウレ―――――・・・」
それに気づいた真昼が声を上げかけるも、立ち続ける事が困難になってしまったのか、ロウレスはその場に蹲ってしまっていて。逃げることが出来ないまま、先に形成されていた囲いのようなモノと全ての杭がバキン!!と融合して作り出された、漆黒の箱の中に閉じ込められてしまったのだ。
そしてロウレスが閉じ込められた箱の上に、突如としてフード付きの白い服を身に纏った人物がトンと降り立って。
「はっは! お待たせだよ少年達! 安心して下がっておいで」
そう言いながら此方に振り返ってきた際にパサとフードが外れて、明らかになったその人物の相貌は、タレ目で金色の瞳をした男だった。
「えっ・・・!?」
その男の言葉に真昼が当惑の声を漏らすと。
「吊戯! 無駄口叩いてんじゃねぇぞ!」
どうやら、タレ目の男だけでなく、他にも誰かが居るようで。
ロウレスが箱の中に閉じ込められた後、サアアと周囲に渦巻いていた灰塵の残りが消失していって。
戸惑いの面持ちになった真昼が、もう一人の人物の声がした左側とは反対の、右側から様子を確認すべく、そちらに回り込んでみると。
左手側には、金髪ポニーテールでスラリとした長身の男の姿が在り。二丁の猟銃のようなモノを左右の手に所持していた。さらに右手側にももう一人、漆黒の長い棒のようなモノを一本ずつ両手に構えて立つ、眼鏡を掛けた男の姿が在ったのだ。
「『8番目』・・・抹殺対象に間違いねぇな。吊戯! 盾一郎!
そして金髪ポニーテールの男が、右手で負傷した左肩を掴みながら地面に膝を突いていた椿の姿を確認した後に、タレ目の男と眼鏡を掛けた男。二人にそう呼びかけると。
眼鏡の男が「おう」と頷き。
「はいはい弓ちゃん!」
タレ目の男がバッと身に纏った服の裾を翻しながら、勢いよく椿の下に駆け出して行って。
身体を横に反転させると、パパン!と椿目掛けて蹴りを繰り出してきたのだ。
「ッ!」
―――――こいつ・・・!
しかし、左腕が負傷したままの状態の椿には刀を使って対抗することが叶わず。
タレ目の男からの攻撃を、ギリギリの処で避けるしかない状態となってしまっていたのだが。
トと後ろに向かって仰け反った椿の右脚の傍に、ピピッと漆黒の筋道のようなモノが走ってきて。
「・・・・・・椿っ、危ない!!」
それに気づき叫び声を上げたのは、混乱した面持ちでクロと共に立ち尽くしていた瑠璃だった。
―――――突然現れた、白い服を着た三人の男たちが何者であるのか。それは分からないが、唯一つだけはっきりした事がある。彼らは椿を『抹殺』するつもりなのだ。
「・・・・・・!」
そして瑠璃が叫んだのと同時に椿自身も足元に迫っていた危険に気づき、ばっと左側に身を翻した刹那―――――
先程目にしたのと同じ、漆黒の杭が勢いよく具現化したのだ。
「っ・・・悪い吊戯。動かしながらだと座標がちょいずれる・・・っ」
どうやらアレは、眼鏡の男が操っている術らしく、手に握りしめられた漆黒の棒からはバチッと、術の力の残滓のようなモノが放出されていた。
そして眼鏡の男からの詫びの言葉に対してタレ目の男は、
「かまわないよ、盾ちゃん! ブランクあるんだしね! それに盾ちゃん、育児休暇中にちょっと太ったしね! 少し動きを制限してくれれば・・・十分だよ!」
気遣うような言葉を口にした後に、からかうような言葉を添えて返事をすると。
「太ってねぇし、今それ関係ねぇわ!」
眼鏡の男が怒りの反論をしながら、椿を包囲するべく、また術を発動させてきて。
トトッと迫ってくるタレ目の男からの攻撃を避けつつ、眼鏡の男が仕掛けてくる術を警戒して動き続けるのは、手負いの状態になってしまった今の椿にとっては負担が大きいもので。終には椿の頭部にパンッとタレ目の男の蹴りが直撃してしまい。
「く・・・」
呻き声を漏らした椿が、くら、と後ろに向かって倒れかけてしまったその時。
眼鏡の男が操っていた術に、椿は完全に追いつめられてしまい。そのまま磔にされてしまったのだ。
「終わりだ」
そして椿に止めを刺すべく、金髪ポニーテールの男が猟銃のようなモノを構えた。
「待っ」
その刹那、クロが金髪ポニーテールの男の傍に駆け寄って、左手で猟銃のようなモノの先端を弾いて照準を椿から咄嗟に反らしにいき。
「駄目!!! 止めて・・・・・・っ!!!!」
瑠璃もまた叫び声を上げるのと同時に『鍵』の力を発動させて、バッと椿の処に転移していった直後。
ドン―――――と発砲音が響き渡り。
クロに邪魔をされた事で、椿を仕留める事が出来なかった金髪ポニーテールの男が、
「何・・・しやが・・・ッ」
憤慨した様子で、バキッとクロの顔面を猟銃のようなモノで殴りつけたのだ。
「!?」
そうして目の前で起こった一連の出来事に、真昼が狼狽した面持ちになった一方で。
「―――――!!」
椿のすぐ傍に顕現した瑠璃の気配に気づいたタレ目の男が、ハッとした様子で振り返ってきた瞬間。
その刹那の隙を椿は逃すことなく、漆黒に染まった右掌から刀を具現化させると、タレ目の男の右上半身をザクッと斬りつけたのだ。
「吊戯!!」
眼鏡の男が愕然としながら、タレ目の男に向かって叫ぶ。
「・・・・・・っ!?」
ぼたぼたと傷口から決して少なくはない量の血を滴らせながら、ドッ・・・ズズッと、素早く後ろに向かって椿から距離を取ったタレ目の男の姿に、瑠璃もまた蒼白な面持ちになりかけたのだが。
「吊・・・」とまた、眼鏡の男が、タレ目の男の名前を叫ぼうとした際、耳朶に届いたその声にタレ目の男はぴくッと反応を示して。
「あ―――――大丈夫、大丈夫」
飄々とした声音で応答した後に、右額から流血をさせたまま―――――
に、と椿に向かって壮絶な笑みを浮かべて見せたのだ。
「・・・・・・瑠璃、君はそこにいてね。あいつの相手は、君には荷が重すぎる」
そこで椿は数瞬後、瑠璃にだけ聴こえる程度の声でそう言うと、磔の状態から掌の中の刀を駆使して、ばばっと脱出を行い。タレ目の男の動きを警戒しながら―――――
は・・・と苦痛を堪えるように息を吐き出したのだ。
―――――クロ・・・今、椿をかばった・・・!?
―――――瑠璃姉も、無事みたいだけど・・・・・・。
―――――誰なんだ、この人達!?
クロと瑠璃、二人の傍に駆け付けることが出来ないまま、見ている事しか出来ない状況下に置かれてしまった真昼が困惑する中。
「これは一旦、仕切り直しだな。弓ちゃん、盾ちゃん! オレは大丈夫」
タレ目の男は傷口から変わらず血を滴らせながらも、やはり平然とした態度のまま、トントントンと右脚だけ曲げた状態で、左足で全身のバランスを取るように跳ねながら背後に立つ二人に言った処で。
「・・・もっかい行こうか? ねっ、狐ちゃん」
椿のほうに視線を向けながらそう告げてきて。
その時、初めてタレ目の男の姿を正面から見ることになった瑠璃は、三人の中で一人だけ着ている服が、上半身を黒いベルトで固定された、まるで『拘束具』のような仕様になっていることに気づき、眉を顰めていた。
―――――どうして、あの人だけ・・・・・・?
「・・・C3の〝猟犬〟・・・!」
そしてタレ目の男をギリと睨み付けながらそう呼んだのは椿だった。
―――――C3!?
それにより白い服を着た三人の正体が明らかになり。
「君は僕らの間じゃ有名だよ」
「そう? 光栄だなあ」
「君に出会ったらすぐさま逃げろ・・・とみんな言うね。狼谷吊戯」
「いやいやいや! オレはそんな危険な存在じゃないよ? オレ、給料出ないところじゃ絶っっ対仕事しないし! 安い仕事は手ェ抜くし~」
タレ目の男―――――狼谷吊戯という名前らしい―――――は、殺気を放つ椿とは対照的に、はっは!と笑みを浮かべながら応対を返してきた後に。
「・・・でも今日は、君を消すと結構な金額が出るらしいんだよね」
じっと獲物を狙う狼のような眼差しで、椿を見据えながらそう言い。
「そんなわけで、今日のオレは君達の味方だよ! そこのお嬢さんも、巻き込むつもりはないから。むしろ頼ってくれてかまわない!」
キラキラとした満面の笑顔で、瑠璃を見遣った後。さらに真昼にも「今日は君達を守ってもお金が出るのでね!!」と宣言をしてきて。
「うさんくせえ・・・」
しかし、吊戯に対して真昼が抱いた印象はよろしくないもので。
瑠璃もまた、吊戯が椿を消すと口にしている事から、やはり良い心象を抱ける筈が無く。眉根を寄せながら、黙って吊戯達の事を見ていたのだが―――――。
「弓、これなら申請も通るだろ」
「ああ、さっさと済ませんぞ。行け、ボケデコ」
眼鏡の男の確認するような言葉に対し、金髪ポニーテールの男はいきり立ちながら頷き返すと、猟銃のようなモノの筒先を吊戯の背にぐいぐいと押し付けて。
「痛い! 弓ちゃんはほんとオレ使いが荒いんだからなあ」
金髪ポニーテールの男に、吊戯が文句の言葉を口にするも、本気で嫌がっているというよりも、そのやり取りはまるでじゃれ合いのようだった。
一体、何をするつもりなのか―――――真昼と瑠璃が眉を顰めながら様子を見る中。
「・・・コード〝ヘズ〟が認証する。薙げ〝バルドル〟」
金髪ポニーテールの男が紡ぎ出したその言葉によって、キィッという甲高い音が響き渡ると、バチンと勢いよく吊戯の上半身を拘束していたベルトが外れたのだ。
そして自由の身になった処で、拘束具の下で組んでいた両腕を解いた吊戯が口の端に笑みを浮かべながら左手を掲げると、
「さあ弓ちゃん! 今日も稼いじゃうよ!」
「体が鈍ってる盾は下がってな!」
金髪ポニーテールの男もまた、不敵な笑みを浮かべながらそれに応えて。
その際に、仲間外れの扱いをされてしまった、眼鏡の男は「ああ?!」と顔を顰めたのだが。
「その代わりに、盾ちゃんはそこのお嬢さんが〝力〟を使わないよう、しっかり見ててね!」と―――――吊戯が言い足してきて。
「行くぞ吊戯ィ!! 今日の獲物はキツネ一匹だ!!」
「ワン!!」
その後、すぐに号令を出した金髪ポニーテールの男に従って、犬の鳴き真似をした吊戯は左手を地面に着くと。右手に漆黒の『剣』を具現化させて、バサッと拘束服の上着をマントの如く背に翻しながら、椿に迫っていって。
「・・・・・・椿っ」
しかし、眼鏡の男が目を光らせている為に、身動きが取れない瑠璃はロッドを握りしめながら、痛切な面持ちでそれを見ている事しか出来ず。
「・・・ッ」
そして椿が追い込まれていったその時―――――
「炎・・・!」
突如として椿と吊戯の間に炎の壁が現れたのだ。
そこで吊戯が瞠目の面持ちになった一方で、
「ヒガン・・・!?」
ハッとなった椿が視線を向けると、完全に意識を喪失していたはずのヒガンが目を覚まして、自らの血を媒介に右手を地面に触れさせながら、炎を作り出したのだと理解したのだが。
「椿、
「!?」
「猟犬相手じゃあまりに不利だ・・・ここは致し方ない」
起き上がる事はやはり無理なようで、俯せ状態のまま、顔だけを此方に向けながら、ヒガンが口にしてきたその言葉に椿は絶句してしまう。
「君らを置いていけるわけないだろう」
そして椿は声を震わせながらヒガンにそう言い返したのだが。
「行け・・・大丈夫。お前までここでやられてどうするんだ」
しかし、ヒガンは変わらず静かな声のトーンで告げてくる。
「・・・それに大丈夫・・・知ってるさ。お前は誰も裏切らない・・・だろ?」
そして悲痛な表情となった椿に対して、ヒガンが最後の後押しとばかりに、笑みを浮かべて見せると。
視線を俯けた椿はギリッと奥歯を噛みしめる仕草をした後に、ライラを右脇に抱えると。
ばっ、と天井の穴に向かって跳躍して行って。
「あっ・・・! まっ・・・待て!!」
「椿!! ライラ・・・!!」
撤退を選択した椿に対して真昼が咄嗟に声を上げると。
瑠璃もまた、二人の名前を叫んだのだが。
椿達がそれに反応を見せる事はなく。
その後に―――――
「行けるよ、オレが追おうか」
右手で額の血をごしと拭いながら、そう言ったのが吊戯で。
「チッ・・・追うか!? 修平!!」
金髪ポニーテールの男が、右手に持っていたほうの猟銃のようなモノを肩に担ぎながら、舌打ちを漏らしつつ、怒鳴るようにそう叫ぶと。
「追わなくて結構です。任務内容を移行します」
ザッと此方に新たな人物がやって来て。
「・・・あっ・・・!?」
それに気づき、先にそちらに目を向けた真昼が驚愕の声を漏らすと―――――
「中立機関C3東京支部、福祉部長第三補佐兼本日一日当班班長代理・・・露木です」
先に現れた三人と同じ、白い服を着た露木が右手で眼鏡のフレームを持ちながら、左手に黒いタブレットを携えて、今の自身の肩書を名乗ってきたのだ。
その背後では―――――
「はっは。えらそ―――――。修ちゃんでば―――――」
「チッ、修平のくせにえらそーに。俺らのほうが年上だぞ、4つも。つか肩書なげーよ、ボケッ」
「つーか偉いんだよ、今日は修平が班長なんだから・・・一応」
などと、班員である三名の彼らが好き勝手に喋っていた為。
「後ろの先輩方、うるさいですよ」と露木が叱責をした処で。
「つ・・・露木先輩・・・!?」
「・・・・・・どうして露木さんが、C3の人達がここにいるんですか?」
驚愕の声を上げた真昼の傍らに立った瑠璃が、露木を見据えながら固い声音で問いかけた刹那―――――
真昼と瑠璃の意識が、露木のほうに向けられていたほんの僅かな間に、眼鏡の男が狙いを定めて仕掛けてきていた術が、足元で一閃して発動し。
―――――ドドドッ
『!?』
地面にしゃがみ込んでしまっていたクロは、首を始めとして、自由に身動きが取れないようその周囲を杭で囲い込まれてしまい。
真昼と瑠璃―――――そして鉄と御園も一緒に、術によって作られた漆黒の檻の中に閉じ込められてしまったのだ。
「な・・・!?」
「動かないでください。ここからは我々に従ってもらいます」
愕然としながら格子を掴んだ真昼に対して露木が事務的な口調で告げてくる。
「そうそう。大人しくしてね~。オレらも余計な仕事したくないから~」
するとそれに同調するように、吊戯が意地の悪い笑みを浮かべながら露木の後ろから顔を覗かせてきて。
「・・・・・・っ!?」
―――――・・・・・・椿はあの人のことをC3の〝猟犬〟と呼んでいた・・・・・・。
―――――・・・・・・C3と一体どういう関係なの?
吊戯と視線が合った瑠璃が眉を顰めながら金色の双眸を見返すと。
「誰なんですか、あなた達は・・・!?」
真昼が吊戯に向かって緊張した面持ちで、その正体を尋ねかけたのだが。
すると突如として、吊戯は握り拳を作った右手を胸に左手をその下でクロスさせて親指と人差し指で地を指し示しながら、バサッと上着の裾を翻す動作をして。
「オレ達こそ! 闇夜を駆け回り、こっそり世界を守る秘密組織の・・・・・・」
キラキラとエフェクトを身に纏いつつ、その正体を名乗ろうとしてきたのだが。
それを遮るように露木が左手を伸ばすと、
「吸血鬼退治のスペシャリストとでも言いましょうか」
淡々とした口調でそう告げてきたのだ。
すると吊戯は「スルーされた!! スルーされたよ、盾ちゃん!!」と眼鏡の男にしがみつくようにしながら叫んだのだが。
「お前が悪い」と呆れた様子の眼差しを吊戯に眼鏡の男は向けていて。
「このうるさい人の話は聞かなくていいです」
背後から聞こえてきた吊戯の抗議の言葉に、露木が微かに苛立ちを滲ませた様子を見せながらそう言い切ったのだ。
「・・・・・・吸血鬼退治のスペシャリスト・・・・・・」
―――――どうして、C3はそこまでして椿のことを・・・・・・。
そんな中で、瑠璃は露木が先程口にした言葉を呟き、眉根を寄せると。
露木の背後で繰り広げられていた、騒がしいやり取りに参加していなかった金髪ポニーテールの男が「チッ・・・・・・」と舌打ちを漏らし、ジロッと瑠璃のほうを一瞥した後。
「チッ・・・邪魔しやがって。一気に片がついたってのに」
「・・・・・・邪魔をしたのはそっちじゃねーか・・・」
再び舌打ちをしながら睨み付けてきた金髪ポニーテールの男を、クロも敵愾心を込めた瞳で睨み返す。
すると金髪ポニーテールの男が「あ?」とドスの利いた声を上げて。
「はっは! ・・・・・・やるかい?」
さらにそこに参戦する構えを示すように、トッと吊戯が一歩前に出て来て。
「吊戯さん」
何を・・・と露木が眉を顰めながら、吊戯を見遣るも。
「オレはかまわないよ? そちらさんは無事な真祖は一人だけ。しかも人質も大特価で取り放題♥ すでに〝強欲〟はこっちの手の内だし? 何が起きれば負けるのか聞きたいくらいだな」
吊戯は悠然とした態度を崩すことなく、クロはさらに苛立ちを募らせていったのだが。
「クロ」
耳朶に聴こえた声にクロは目を見開くと、自分の名前を呼んだ真昼のほうに視線を向ける。
真昼はクロに対して『落ち着け』と左手でジェスチャーをしてきていて。
クロはゆっくりと目を瞬かせると、こくりと頷き返した。
「瑠璃姉」
それを確認した処で、真昼は思考に囚われていた瑠璃の様子を気遣うように呼び掛けてきて。
―――――その答えを見つける為だとしても。
―――――今、私達がC3と戦闘を繰り広げるのは得策ではないわ。
―――――何より、私達が望んでいるのは〝対話〟なのだから。
そこでそう結論を出した瑠璃も、真昼に頷き返すと―――――
「露木先輩。今、俺達はC3と戦うつもりはありません。だから俺達の話も聞いてほし・・・」
真昼が露木に向かって、その意思を伝えるべく、言葉を紡ぎ出していった。
すると、最後まで言い終える前にパシュと牢獄が消失していき。
「・・・こっちもここで戦うつもりはない。目的は一緒だ。できれば協力していきたいからな」
バチッと術の残滓を纏った2本の漆黒の棒を、両手で地面から引き抜いた眼鏡の男が、真昼に対して頷き返してきて。
「な、弓」
承服を金髪のポニーテールの男にも求めたのだが。
しかし、つ―――――んと、そっぽを向いたまま金髪ポニーテールの男は応じてくることなく。
「ゆーみ」と聞き分けの無い小さな子供に接する父親のような口調で、眼鏡の男がもう一度呼びかけると。
「うっせーな!! わーったよボケ!!」
まるで反抗期の子供のような応答をまた金髪ポニーテールの男が返してきて。
「えっと・・・・・・」
そのやり取りに思わず、呆然と目を瞬かせた瑠璃が戸惑いの声を漏らすと。
「ま、オレもお金にならないケンカはしない主義だしね~」
はっは! と吊戯が眉を下げながら笑いかけてきて。
その表情は先程までとは打って変わって、完全に悪意がないものだった。
「このホテルや一般人への対応は
そうして、この場が収束した処で露木がそう告げてきたのだが―――――。
「待て! 戦ったのは僕達だぞ? 僕らはその
それに対して、反論の意を主張したのが御園だった。
「情報はもちろん共有しますよ」
けれど、すぐさまそう返答してきた露木に、御園もそれ以上は何も言えず、押し黙るしかなく。
「今、救護班が来ますのでケガ人は治療を・・・」
「おい・・・
キビキビとした態度で話を続ける露木に、次いで話しかけたのはロウレスが閉じ込められてしまった漆黒の箱の傍に居たリヒトだった。
「ああ、〝強欲〟の」
満身創痍である事から、真昼達の近くにリヒトはいなかった為。声を掛けられたことで、リヒトの存在に気づいた露木が、リヒトが左手で触れながら示してきたロウレスが閉じ込められた漆黒の箱を一瞥すると。
「もう出しても平気でしょう」
術の解除を許可した処で、眼鏡の男の手によってロウレスが閉じ込められていた箱もバシュと消されたその後に―――――椿の手によって真っ二つにされてしまったドッグタグのチェーンの先をしっかりと、小さな前足で掴んで蹲っているハリネズミの姿が現れたのだ。
「・・・バカネズミ・・・」
その姿を見た後、リヒトがまた地面に立っている状態を保つことに限界を迎えて地面に座り込んでしまった処で。救護班が到着し、さらに1階からC3の職員に誘導されてようやく此方に来ることが出来たクランツもリヒトの下に駆け付けて来た時。
「クロ!!」
「クロ! 大丈夫か!」
瑠璃と真昼が、ロウレスと共に術を解除されて自由の身となったクロの傍に駆け寄ると。
「なんつーか・・・悪い・・・」
右手を首に添えながらクロは気まずそうな面持ちで詫びてきて。
「いや。椿と・・・何を話したんだ?」
それに対して、気にするなという表情で応じた真昼が、傍で聞くことが出来なかったその内容を尋ねると。
「あいつ・・・何か関係ある。
そう真昼に言ったクロが、その後に椿とのやり取りの中で分かったその事柄を伝えた処で。
「―――――だから、C3が椿の目的と関係あるかもしれないの・・・・・・」
瑠璃が眉根を寄せながら漏らしたその言葉に、
「C3が絡んでるとなるとめんどくせー話になるな・・・」
クロもまたぼやくようにそう呟いたのだった。
―――――なんだか違和感があるな・・・。
―――――泳がされたような・・・。
―――――僕達に
着々とC3の職員たちによって、後始末が進められていく中。
右手の人差し指を口元に添えながら、眉を顰めて逡巡していた御園は、
「・・・ヒュー・・・」
ぼそと耳朶に届いた鉄の声にハッとした面持ちで顔を上げる。
「はやく行ってやんねーと・・・」
―――――と、窓の向こう側に目を向けながら沈痛の声音で、そう漏らした鉄の背を気まずそうな面持ちで見上げた御園は、そっと鉄の右側に移動すると。
「・・・千駄ヶ谷すまなかった」
御園が口にした謝罪の言葉に、「え?」と鉄が驚いた様子で振り返ってくる。
「ヒューがやられたのは僕の考えが甘かったせい・・・僕の失態だ」
そこで御園は鉄から責められることを覚悟したうえで、その言葉を紡ぎ出したのだが。
「あんたのせいじゃねえ。違うんだ。あんたはオレ達に期待をしてくれたのに」
非難する処か、逆に悲痛な面持ちで、鉄は御園にそう告げてきて。
そうしてすっかり重々しい雰囲気に二人はなってしまったのだが―――――。
クロと話を終えた真昼が二人の傍に向かおうとした処でそれに気づき。
「鉄、御園、リリイ」
明るい声で呼びかけながらトッと近づいて行くと、
「ありがとな。みんなのおかげでリヒトさんは無事だ。シンプルにそれは喜べるだろ?」
ポンッと鉄と御園の背中を両手で叩いた真昼はニッと笑みを浮かべてそう言ったのだ。
その真昼の笑顔のおかげで御園と鉄の間に漂っていた気まずい空気が払拭されていって。
「そう・・・だな。本当に・・・最低限の成果になってしまったが・・・。ロウレスとヒューもやられてしまった。だが、椿側の戦力も大幅に減らせたことは事実だろう。
御園は小さく笑みを浮かべると、そう真昼に向かって言ったのだ。
こうして八番目〝憂鬱〟の真祖である椿が引き起こした『兄弟戦争』が一旦幕引きとなったその時―――――
「・・・大変な目に遭わせてしまって悪かったね。友達も亡くして・・・辛かっただろう」
「椿・・・さんっ。ぼくっ・・・何もできないですけど。ぼくは・・・」
ライラを連れて逃亡をした椿は、とあるビルの屋上の上に立っていた。
そしてそこで追手の気配に注意しながら話をしていた椿の背に向かって、ライラが涙を浮かべながら何処までもついて行くという自身の意思を伝えようとしたのだが。
「ライラ。最後に僕の頼みごとをひとつ聞いてくれるかい?」
椿はそれを静かな声音で遮り。
「僕の
えっ・・・? と愕然とした面持ちになったライラに椿は微笑みながら告げた。
「あとは僕の問題だ」
そしてそう宣言した後に、ライラの目の前から椿は姿を消してしまったのだ。
―――――シャラーン―――――
哀し気な鈴の音色が闇の中に鳴り響く。
―――――瑠璃・・・・・・
―――――君も『僕』のことはもう・・・・・・
―――――『家族』だと思わないで欲しい・・・・・・
―――――もしも次に君に逢う事があったとしたら『僕』は・・・・・・
それからその後、C3に包囲されてしまった建物の中から、唯一人だけ脱出をすることが出来た桜哉がライラの口から椿からの最後の頼みごとの話を聞いた後。その行方を捜して走り回りながら椿の携帯に連絡を試みたのだが。方を捜して走り回りながら椿の携帯に連絡を試みたのだが。
「チッ」
―――――あのアホギツネ、一体どこに行きやがったんだ!?
その電話もまた『椿』に繋がる事は決してなかったのだ。
【本館/20・11/28/別館/20・11/28掲載】
