第十四章『“Life’s but a walking shadow”』
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「―――――・・・・・・リヒト君っ!?」
現実世界に意識が戻った処で、がばっと身体を起こした瑠璃の背中を冷たい汗が流れ落ちていく。
―――――ロウレス君の深層意識の中に入った後、リヒト君の意識とも少しの間だけ繋がっていた時に現れたあの赤い髪の男の人・・・・・・。
―――――もしかして・・・・・・あの人が〝ヒガン〟さん?
もし、そうだとしたら―――――・・・・・・
ドクリと胸の鼓動が大きな音を立てたのを感じた瑠璃は、反射的に胸元の『鍵』を握りしめる。
「・・・・・・っ、嫌な予感がする。リヒト君の処に行かないと・・・・・・」
それから寝間着として着ていた旅館の浴衣から手早くいつもの私服に着替えると部屋を出る為に仕切っていた襖をそっと開いた。
その刹那―――――
「―――――瑠璃姉っ!! 大変なんだ!!」
「真昼君!?」
がしっと、襖の向こう側に立っていた真昼に腕を掴まれた瑠璃は、ぎょっと目を見開いてしまう。
「すぐにクロも連れて、御園達を起こしに行かないと!! リヒトさんがっ!!」
「リヒト君に何かあったの・・・・・・!?」
「クランツさんから連絡があったんだ!! ・・・・・・って、クロの奴、てっきり瑠璃姉の処にいるのかと思ったのにいない!?」
蒼白な面持ちになった瑠璃に対し、端的に答えた真昼は黒猫の姿を探して、瑠璃の背後に視線を巡らせるも、姿を見つけることが出来ず。顔を顰めながら叫んだ真昼に瑠璃は言う。
「真昼君、とりあえず御園君達の部屋に行きましょう!」
クロの事だ。この旅館の中から一人で出るようなことはしていないだろう。
そう考えた瑠璃が急ぎ、出入り口に通じる側の襖を開けると―――――靴箱前の薄暗い通路―――――そこで丸まって眠っていた黒猫の姿を見つけたのだ。
「・・・・・・クロ。お前、こんな処に居たのか・・・・・・」
呆然とした面持ちで真昼が呟いた。けれど、黒猫の姿を捉えた瞳の奥には何とも言えない感情が浮んでいて。
「真昼君、クロは私が連れて行くから。先に御園君の部屋に行って貰える?」
その様子を目にした瑠璃は微かに眉を顰めると静かな声音でそう告げたのだ。
「御園!! 鉄!! 大変なんだ、起きろ!!」
ばたばたばたと廊下を勢いよく疾走してきた真昼が縁側に面した部屋の襖を開け放つ。
「なんだ早朝からやかましい・・・」
ベッドで眠っていた御園は、ばっと迫ってきた真昼に対し、右手で目元を擦りながら応じる。
と―――――
御園の傍にいた蝶がひらひらと翅を瞬かせながら、「どうかしましたか―――――?」と此方にやって来る。
「リリイ、鉄君は!?」
その蝶に対して問いを投げかけたのは黒猫を腕の中に抱いて真昼の後から御園達の部屋にやって来た瑠璃だった。
「鉄くんは地域のラジオ体操の手伝いだとかで出て行きましたけど。ライラさんと一緒に・・・」
「あ―――――もうこんな時に!!」
その返答に対し、真昼は顔を顰めながら声を上げてしまう。
けれど、その後―――――すぐさま御園と人型に戻ったリリイに対して強欲組の件に関する報告を行い。
「〝強欲〟の二人がいなくなっただと!? まさか椿達からの報復か・・・!?」
御園もまた、事態を把握した処で。
―――――鉄君がここに居ない以上、すぐにでも動けるのは〝私達〟だけ。
―――――だけど、いまの真昼君とクロの繋がりは恐らくとても〝不安定〟だわ。
―――――私の『鍵』の力で鉄君と合流をしてから、リヒト君がいる可能性がある場所にまたすぐに空間跳躍するほうが・・・・・・。
と―――――
焦燥感を滲ませながら瑠璃が逡巡していると―――――
「クロ!! 捜しに行こう!!」
瑠璃の腕の中に居た黒猫の首輪をガッと真昼は掴むとそう言い放ったのだ。
「真昼君!?」
「瑠璃姉は御園達と一緒に後から来てくれれば大丈夫だから!!」
驚愕の面持ちで目を見開いた瑠璃に真昼はそう告げるも、
「いやオレはちょっと・・・」
しかし、真昼の手によってぶら下げられる状態になった黒猫は無抵抗ではあったものの、気乗りしないという面持ちでチラリと瑠璃のほうに、助けを求める様に視線を向けてくる。
「待て城田! 千駄ヶ谷を呼んでから行け! 貴様と猫だけでは戦闘になった時・・・」
そして御園も、昨日の件を踏まえて、真昼に対し制止の言葉を口にしかけたのだが。
「行くぞ!!」
という掛け声とともに、だっと真昼は部屋から走り出して行ってしまったのだ。
「・・・無鉄砲なやつめ!!」
はぁっ、と御園は呆れた面持ちで溜息を吐き出しながら、右手で頭を押さえる仕草をする。
それから瑠璃を振り返ると―――――
「瑠璃、すぐに千駄ヶ谷に連絡を取るからそこで待っていろ」
その後、リリイから受け取ったスマホで御園は鉄に電話をし始めたのだが。
―――――・・・・・・クロ・・・・・・。
「瑠璃さん、大丈夫ですか?」
眉根を寄せながら呆然と立ち尽くしていた瑠璃は、気遣うように尋ねかけてきたリリイの顔を見上げると、
「―――――・・・・・・リリイ、ごめんなさい。やっぱり、私も真昼君の後を追いかけるわ」
リヒトの件だけでなく、先程のクロの様子から、胸のざわめきは収まることなく、さらに大きくなっている。
真昼に先に御園達の部屋に行って貰った時。
瑠璃が黒猫を腕の中に抱き上げた時、伝わってきたのは〝物悲しさ〟のような感情だった。
だからこそ―――――
やはり今の真昼とクロが二人だけで行動するのは、とても〝危うい〟気がしてならない。
「瑠璃さん!?」
そうして瑠璃も鉄との合流を待たずして、真昼達の後を追い掛けて部屋を飛び出して行ってしまったのだ。
ぼたたっ―――――と公園の地面に鮮血が滴り落ちる。
それは椿の下位吸血鬼である赤髪の男との戦闘において、満身創痍に陥ってしまったリヒトの身体から流れ出したもので。もはや持ち上げることは困難になってしまった右腕を、左手で押さえながら立つリヒトの口からは荒い息が吐き出されていた。
けれど、目の前の吸血鬼を見据える瞳の鋭さだけは変わっておらず。
「さて・・・リヒト君。このあたりで大人しく・・・オジサンに
赤髪の男が余裕の面持ちでシガレットケースをエプロンのポケットから左手で取り出すと。右手の親指と人差し指で煙草を一本持ちながら、暗に降参するよう持ち掛けてきた話に対しても。
「ざけんな。なんなんだ、てめぇ・・・」と、リヒトは噛み付く勢いで言い返したのだが。
「いやあー、オジサンは・・・ううん? ライター、ライター・・・あれえ無いな。また落としたのかな~」
赤髪の男は然程気にした様子もなく、煙草を口に銜えると一服しながら応じようとしてきたものの。シャツやズボンのポケットを含め、ぱたぱたと全身を隈なく探しても、肝心なモノが見つからなかったようで。
「リヒト君、ライター持ってる?」と軽い口調で尋ねかけてきたのだ。
しかし、その言動はリヒトからしてみれば、おちょくられているという感覚以外のなにものでもなく。
「気安く呼んでんじゃねえ」
赤髪の男にリヒトは吠えるのと同時にブンッと勢いよく左足の蹴り技を繰り出した。
―――――が、不意打ちの攻撃に対して赤髪の男は「おわっとうっ」と驚きの叫び声を上げたものの、上半身を仰け反らせて避けてしまい。
「最近の若人は短気でいけないなー」
そんなふうにぼやいた処で。
「仕方ない。じゃあ・・・ちょっと
体勢を戻した赤髪の男はニヤリと笑みを浮かべながらそう言うと、リヒトに向かって右手を突き出し、その言葉通りリヒトの右腕をヂュッと抉ったのだ。
そして黒い手袋に包まれた親指と人差し指に付着したリヒトの血を擦り合わせると―――――
チリッという摩擦音とともに、赤髪の男に抉られたリヒトの腕の傷口から流れ出してきていた血液がヂッと引火したのだ。
「う、あ、あ、あぐ・・・っ」
ボウッと勢いよく噴き出した炎にリヒトは苦悶の声を漏らす。
―――――これだ。このオッサンの能力か何か・・・。
―――――抉られたところから炎が・・・っ。
けれど意識の片隅では、幾度も己が身に受けた攻撃を思い出して勝機を掴むための手立てを見つけ出そうとしていた。
―――――摩擦なのか・・・?
そして赤髪の男が口に銜えていた煙草にリヒトの腕の炎を利用して火を付けると、リヒトの口から嫌悪の舌打ちが漏れた後に、程なくして炎は鎮火したのだが―――――。
「リヒト君。君1人じゃあオジサンには勝てないよ。光だけじゃだめだ。影と一緒じゃないと。それが
リヒトの思考を読んだかのように、赤髪の男が煙草の紫煙を燻らせながら、謎掛けのような言葉を紡ぎ出してきて。
「あ? 何言ってやがる・・・」
リヒトが抉られた右腕の傷を左手で押さえながら、眉を顰めつつ赤髪の男を睨み付けると。
「君の吸血鬼も今頃・・・椿の下駄の下で君と同じように沈んでいるよ」
既にロウレスが憂鬱の真祖に敗れて捕まっているのだと言外に告げてきた下位吸血鬼は、
「確か椿が写真を送ってくれて・・・」
その証拠を提示しようとしたのだが。
「ううん? ケータイがない・・・どこかで落としたのかな~」
ばたばたと身を捩りながら慌てた様子で探すも、携帯が見つかることはなく。
圧倒的な力を見せつけながらも、変な処で抜けているとしか言いようがない憂鬱の下位に対し、リヒトはまた苛立ちを募らせる。
と―――――
「クズネズミなんかどうでもいいんだよ。ただ俺は・・・てめぇには負けねぇ。てめぇに勝つ自分が
鋭い眼差しで吸血鬼を見据えたリヒトは揺ぎ無い自身の想いを口にした。
すると赤髪の男も不敵な笑みを浮かべながらリヒトを見返し―――――
「・・・強い目だな。それだけに残念だが・・・抵抗するなら致し方なし」
〝―――――
この言葉を紡ぎ出すと同時に掲げられた吸血鬼の両手には炎が作り出されていた。
ゴア、と巨大な火柱がとある方向から立ち昇ったのを目撃したのは、敵より先にリヒトを見つけ出すべく、白ノ湯温泉を飛び出して、この前訪れたカラオケ店がある場所の近くまで来ていた真昼だった。
「なんだ・・・!? 火柱!? すぐ近くだ・・・」
―――――リヒトさんが来てたカラオケ店もこの近く・・・。
―――――まさかもう・・・吸血鬼と戦闘になってる!?
蒼白な面持ちになった真昼は、グッと下唇を噛みしめると、
「クロ! 行ってみよう! もしかしたらリヒトさんかも・・・」
「あ―――――・・・真昼。その・・・まあ、なんだ。温泉男とそれから瑠璃を呼んでからのほうがいいんじゃねーか・・・」
炎が見えた方向に向かって真昼は走り出そうとしたのだが、黒猫は消極的な態度のままで。
「は!? そんなヒマないって・・・」
温泉男・・・って鉄のことか?! と黒猫が口にした特徴を捉えた呼び名から、すぐに誰の事を言っているのか真昼は察したものの、瑠璃には敢えて、御園達と後から来てくれれば構わないと言ってここまで来たのだ。
―――――今度こそ、瑠璃姉にばかり頼らないで。俺とクロで・・・・・・っ!
グッと右手を真昼は握りしめながら黒猫を見遣ったのだが。
「あ―――――・・・でもよ・・・」
そう言いながら、やはりこの場から黒猫は離れようとせず。
「まためんどくさがってんのかよ!? お前は!!」
「違うって。なんつーか・・・」
顔を顰めながら声を上げるも、変わらず黒猫は煮え切らないままで。
「クロがいれば大丈夫だって! 急がないと!」
真昼は焦りを滲ませながら、より一層強い口調で黒猫に言い募った。
そして―――――
「行こう! クロ!!」
その真昼の言葉に、黒猫が観念するかのように目を伏せると、後に続いて走り出して行った時。
「―――――・・・・・・お願い、間に合ってっ!!」
時を同じくして、白ノ湯温泉から真昼達の後を追いかけて飛び出した瑠璃もまた、然程遠くない場所であの火柱を目撃し―――――『鍵』の力を発動させると空間跳躍を行なっていた。
―――――・・・・・・もしもクロが過去に〝間違ったこと〟を何かしてしまったのだとしても、クロの〝ミストレス〟として傍にいたい―――――
―――――椿と戦うことは避けられないのだとしても、〝大切な人たち〟を失わない為に『立ち向かう側』でありたい・・・・・・―――――
そんな自身の中の〝切なる想い〟を、〝己が意志〟として貫き通す為に。
「その人から離れろ!!」
地面を勢いよく蹴って走ってきた真昼が火柱の打ち上がった公園に辿り着くと―――――
そこには赤髪で銜え煙草の男に瀕死状態で胸倉を掴まれているリヒトの姿が在った。
しかし、まだ意識はあるようで耳朶に届いた真昼の声にリヒトが「あ・・・?」と反応を示すと、赤髪の男も「うん?」と真昼の方を見遣り。
「あれぇ、君は〝怠惰〟の・・・」
「誰だ、お前ッ。リヒトさんを離せっ・・・」
軽く目を瞠った赤髪の男を真昼が睨み付ける。
と―――――
「まあ、そんなカッカしないで。ちょっと一緒にシャルウィーダンスなだけなんだから」
赤髪の男は眉を下げながら、たは―――――~と笑みを浮かべると、リヒトの身体を捕らえたまま、軽くリズムを取る仕草をした。
―――――が、その際にギシと骨が軋むような音がリヒトの身体から聴こえてきて「殺ス・・・ッ」という怒気の籠った言葉が口からは紡ぎ出されていた。
その様子に真昼は眉を顰めると、先程、赤髪の男が〝怠惰〟という言葉を口にした事を踏まえ、
「お前っ・・・誰なんだ!? 椿の
再度、赤髪の男に対し正体を問いただすのと同時に今度は思い当たる可能性も口にした。
その刹那―――――
「うん? オジサンは・・・〝ヒガン〟。椿の楽しい仲間達だよ」
赤髪の男はのらりくらりとした態度から一変して、シニカルな笑みを浮かべると、名前を名乗るのと同時に椿の身内であると肯定してきたのだ。
―――――〝ヒガン〟!!
その名前は、昨夜、ライラから聞かされた、憂鬱組のNo.2の下位のものだ。
ぞ、と身体の血の気が一気に下がるのを感じた真昼は、すぐさま戦闘態勢に入る為に、ばっ、と右腕を突き出すと相棒の名前を叫んだ。
「・・・クロ! 戦うぞ!!」
「え―――――・・・。っとに、猫使いの荒い奴・・・」
それに応えて、しがみ付いていた真昼の左肩から黒猫は右腕に向かって跳躍すると、文句を漏らしつつ、がぷっと噛み付き。
「めんどくせ・・・」
というお決まりの言葉とともに人型に戻ると、両手の鉤爪を伸ばした状態で地に降り立ったのだが。
―――――ドクン
その直後、クロ自身の鼓動が大きく脈打つと、真昼の右手首とクロの首の付け根から伸びた、主従の証の鎖も含めて―――――
どろ、とクロの足元に具現化した〝深淵の闇〟に溶け始めたのだ。
「えっ・・・!?」
真昼は愕然とした面持ちになる。
と―――――
「―――――真昼君っ!! クロっ!!」
公園内に白銀の閃光が瞬き、『鍵』の力で空間跳躍をして真昼達に追い付いた瑠璃が姿を現したのだ。
「・・・・・・瑠璃姉っ!! クロが・・・・・・っ!!」
耳朶に届いた瑠璃の声に、バッと真昼は振り返ると叫んだ。
「・・・・・・っ!?」
そこで瑠璃は目に飛び込んできた衝撃的としか言いようがない光景に、蒼白な面持ちになってしまう。
―――――敵と戦闘を繰り広げたらしいリヒトはボロボロな姿になってしまっていて。
―――――真昼とともに応戦しようとしたクロは人型すら保てなくなり、身体は〝深淵の闇〟の中に飲まれ始めていて。
「ま、ひる・・・」
「なっ・・・どうし・・・クロ・・・ッ」
途切れ途切れに言葉を紡ぎ出したクロに視線を戻した真昼が必死に名前を呼ぶ。
すると真紅の瞳を揺らめかせながら、此方に向かってクロが左手を伸ばしてきて。
「・・・・・・瑠璃・・・・・・」
「クロ・・・・・・っ!!」
その手を取る為に瑠璃はクロの傍に駆け出して行く。
けれど瑠璃の手がクロに届く寸前の処で―――――クロを飲み込もうとしていた〝深淵の闇〟はさらに深いものに変わり。
「・・・・・・向き合えねー・・・・・・」
悲嘆に満ちた表情になったクロは瑠璃の手を掴む代わりに、そっと左手で瑠璃の右頬を撫でると―――――
―――――・・・・・・ごめんな、瑠璃。お前はオレの傍にいるって約束してくれたのに。
―――――・・・・・・だけど、お前を〝コッチ〟に連れてく訳には行かねーから・・・・・・。
「・・・・・・クロ・・・・・・ッ」
流れ込んできたクロの哀傷の想いに、瑠璃は悲痛に顔を歪めてしまう。
それとほぼ同時にクロの身体は完全に〝深淵の闇〟の中に飲み込まれてしまい。
ころん、と黒い球に変わってしまったのだ。
【本館/別館/20・6/12掲載】
