第十三章『消せない罪』
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―――――PM21:07―――――
「スーツを破いたのは・・・まあいい! ホールを壊したのは・・・ちゃんと謝って弁償する! それができれば今回は非常事態だからギリギリ許す! 聞いているのかリヒト!!」
ロウレスが去った後、クジラの着ぐるみを連れて現れたあの外国人男性は、リヒトの手当てを行い、懇々と諭すように話をしていたのだが。
けれど、トレードマークともいえる天使の羽リュックを背負ったリヒトはムスッと顔を顰めたまま視線を逸らしていて。
「オレが何に怒ってるかわかってるのか!? ロウレスとのケンカだ!! お前のピアノを聴きたがってる人がたくさんいるんだぞ!? ケガでもしてそれに応えられなくなったらどうする!?」
「あのクズネズミが悪い。しかも女神『セレネ』のことを傷つけやがったんだぞ」
さらにプイとそっぽを向く仕草をしてしまったリヒトに、真昼に手の傷を消毒して貰っていた瑠璃は気まずい面持ちで言う。
「リヒト君、この手の傷は私が自分でやってしまったものだから、ロウレス君は・・・・・・」
「ロウレスはああいう奴なんだ、お前が大人になれって・・・」
だとしてもだと外国人男性は瑠璃の様子を確認するようにチラリと一瞥してから、またリヒトに言い聞かせるように言葉を紡ぎ出す。
けれど、リヒトは頑として態度を変えることはなく。
「俺があのクズのために何かを曲げる必要はねぇ」
さらに身体ごと背ける仕草をすると、きっぱりとした口調でそう言い切ったのだ。
「あ、あの・・・?」
そこで戸惑いの表情を浮かべつつ、声を漏らしたのが真昼だった。
「ああ。すまないね! 悪さをしたら直後に悪いと教えるようにしてるんだ!」
―――――子供の躾!?
ひとしきり、リヒトに話を終えた処でこちらに振り返ってきた外国人男性の口から出た言葉に、真昼は呆然と目を見開き、瑠璃は微苦笑を零してしまう。
それから―――――
「オレはリヒトのマネージャーをしているクランツ=ローゼン。吸血鬼じゃなくて人間だよ」
そう言いながら名刺を差し出してくれた外国人男性―――――クランツはフランス人だけど、英語、日本語、フランス語、ドイツ語。様々な国の言葉を話せるのだという。
そしてクジラの着ぐるみは、
「こいつはマスコットキャラのホエール! 中に入ってるのはロウレスの
中に入っている人物の愛称はクランツ曰く、ギルというらしい。
そしてクランツによる紹介の際、ギルは真昼と瑠璃に向かって気さくな態度を示すように右手を挙げると、その後は握手を求めて来て。
「城田真昼です・・・」
「瑪瑙瑠璃です。よろしくお願いします、ギルさん」
真昼が握手をした後に瑠璃も右手を差し出して、同様に握手をしようとしたのだが。
ギルはその手をかわす仕草をすると、瑠璃の頭の上に乗せてポンポンと頭を撫でる仕草をしたのだ。
「えと、ギルさん・・・・・・?」
きょとんと瑠璃は目を瞬かせると、ギルは瑠璃の手を左手で示してきて。
「あ、気遣って下さって有難う御座います。でも、そこまでひどいものじゃないので、すぐに治りますよ」
それによりギルの言わんとしている事を理解した瑠璃はふわと笑みを零す。
それから再び、真昼と共にクランツに向き直ると―――――
「君も
成程と納得した様子でクランツは頷き、それで・・・・と確認するように話を続ける。
「このホールの客も係員もすべて・・・椿とかいう
「そうだと思います。あの・・・椿を知らないんですか?」
「椿は今サーヴァンプの兄弟7人に戦争をしかけてて・・・」
クランツに尋ねかけた真昼に続き瑠璃も口を開く。
するとクランツは眉を顰めながら告げてくる。
「聞かないなあ・・・オレ達は普段日本には居ないし・・・」
その言葉に真昼と瑠璃は眉根を寄せると思案を巡らせる。
―――――・・・椿はこの辺りでだけ行動しているのか?
―――――もしロウレス君とリヒト君・・・・・・二人の事も椿が呼んだんだとしたら・・・・・・。
「でも君達がその危ない吸血鬼、椿を倒そうというのなら協力しよう!」
と―――――
耳朶に届いたクランツの言葉に、真昼が「えっ」と目を瞬かせ顔を向ける。
「このままだとリヒトも吸血鬼に狙われる可能性があるんだろう? それは困るしな」
舞台の端に足を組んで座っていたリヒトに視線を向けていた瑠璃もクランツのほうに振り返ると、
「リヒトのピアノは全人類の宝だ! それを世界に広めることはオレの義務! オレ達にできることなら協力しよう!」
クランツは自身の右手を握りしめながら、キラキラとした笑顔で高揚感を露わにしつつそう宣言したのだ。
「ぜ、全人類・・・」
「えと、すごい大規模ですね・・・・・・」
呆然となった真昼とともに、瑠璃も目を瞠りつつ、クランツに相槌を打つ。
一方、リヒト本人は―――――
「おいクランツ、何勝手なこと言ってやがる」
俺は何もする気はねぇぞと、クランツを睨んでいたのだが。
けれど、クランツは慣れているのだろう。不機嫌になったリヒトの態度を特に気にした様子もなく、はははと笑うと、
「あんなこと言ってるが説得しておくから」
「あ、ありがとうございます・・・!」
真昼はクランツと握手を交わし合い。瑠璃は「よろしくお願いします」と会釈を行ったのだ。
そうして話が一先ず纏まった処で、次にクランツが視線を向けたのは、すぐ近くで怯えた表情のまま、正座をしていたライラだった。
「さて。この子は・・・どうするんだい? 敵の
「そうだ! 俺達最近、椿の下位吸血鬼を捕まえようとしてて・・・」
クランツの言葉に、真昼が此方側の事情を口にすると、びくっとライラは身体を震わせなら、ひ、と悲鳴を漏らし。
「ひいっ、すみません。殺さないで・・・」
「いやっ、殺さないけど・・・」
ガタガタと震えながら両手で頭を抱えて、命乞いを始めてしまったライラの姿に、えっと・・・どうしよう―――――と当惑の表情を真昼は浮かべながら瑠璃に振り返る。
そこで瑠璃はライラの傍らに膝を突くと、
「落ち着いて、ライラ。私達は貴方の事を殺したりなんてしないから」
肩に手を置きながら言い聞かせるように言葉を紡ぎ出し。
「真昼君、御園君と鉄君たちに連絡を取って貰える? 椿の
「あ、うん・・・・・・わかった」
〝捕まえた〟ではなく、〝保護〟という言葉を選んだ瑠璃に対し、真昼はばつが悪そうな面持ちで目を瞬かせると、ジャージのポケットからスマホを取り出し。
あ、よかった。電波ギリギリ入る・・・と言いながら御園の番号を呼び出す。
その時、真昼の姿を不機嫌そうな面持ちのまま、観察していたリヒトがチッと舌打ちをして。
「・・・ダメだなお前は」
呆れたような声音で漏らしたリヒトの言葉を耳朶に拾った真昼は「え・・・」と当惑の面持ちで振り返る。
けれどリヒトは真昼にはそれ以上は何も言うことなく、背を向けてトッと舞台に上がると、
「クランツ。俺は帰る」
そう言い残して舞台の奥に向かって行きかけたリヒトの後姿に向かって真昼は慌てた面持ちで声を上げる。
「あっ。待っ・・・てください! リヒトさんの武器ってそのブーツですよね!? 俺・・・まだ全然武器使えなくて。どうしたらそんな強くなれるのか・・・」
するとリヒトは「あ?」と肩越しに真昼に振り返ってきたものの、
「女神『セレネ』の足元にも及ばない、てめえにはどうせ無理だ」
冷淡ともいえるリヒトの言葉に、え・・・と真昼は立ちすくんでしまう。
と―――――
『城田!! 貴様と瑠璃は2人だけでどこに行っている!?』
いつの間にか繋がっていた電話口の向こうから、御園の盛大な怒鳴り声が聴こえてきて。
「わっ」
驚きの声を漏らしながら、真昼は手にしていたスマホを思わず遠ざける仕草を取ってしまう。けれどその後、いま自分達がいる場所とライラの件を報告すると―――――
『・・・椿の下位吸血鬼を1人〝保護〟しただと!? 〝捕まえた〟ではないのか!?』
「いや、そのすごく気の弱そうな奴でさ・・・。瑠璃姉がいま、傍で様子を見てくれてるんだけど」
チラリと此方に振り返ってきた真昼に、「真昼君、私も御園君と話したいからスピーカーモードにして貰える?」と瑠璃は言う。
と―――――
『バカか貴様!? 瑠璃だけに任せてないで、さっさとつれてこい!! 椿について聞きたいことは山程あるんだ!!』
すぐさま真昼が電話をスピーカーに切り替えた事により、よりハッキリと御園の叫び声が聞こえてきて、ライラはまたびくっと身体を震わせてしまう。
「大丈夫よ、御園君。ライラは悪い子じゃないから」
けれど、瑠璃がやんわりとした口調で電話向こうの御園に向かってそう告げると、ライラは呆然とした面持ちで瑠璃の事を見上げていて。
『―――――・・・・・・瑠璃、貴様という奴は』
電話向こうの御園は、苦々しい口調で息を吐き出し。
『待っていろ、僕たちも向かう! おい千駄ヶ谷! 行くぞ! 城田と瑠璃達の居場所がわかった!』
程なくしてそう御園は言い放つと通話は終了となったのだ。
そして―――――
「・・・ってわけでさ。俺達と一緒に来て貰えるかな」
スマホをジャージのポケットにしまった真昼はライラの傍に歩み寄ると、
「俺、城田真昼」
悪意は無いというのを示す為に、よろしくなと右手を差し出した。
するとライラも恐る恐るといった様子ではあったものの、真昼の手をそっと握り返し、
「ぼくは・・・ライラック。あの〝強欲〟から守ってくれてありがとう・・・」
名前を名乗ると同時に感謝の言葉を返した。
けれど、敵対している側の存在を、味方側の存在と決別してまで庇うようなことをする人間なんて滅多にはいないだろう。
「きみ・・・ちょっと変わってるね・・・」と思わずライラが漏らすと、
「え? 俺?」と真昼は不思議そうに目を瞬かせていた。
―――――その後。
「ここの後始末は任せてくれ。オレ達は明後日までは日本にいるから。何かあれば連絡して!」
「有難うございます、クランツさん。ギルさん。宜しくお願いします」
右手を胸に添えながら笑顔でそう言ってくれたクランツと左手を挙げて応じてきたギルに対し、瑠璃は会釈をすると。
「・・・・・・クロ。行きましょう」
ホールの片隅で顔を俯けたまま、ポケットに両手を入れて立っていたクロの傍に近づき、そっと右腕に左手を触れさせながら声を掛けた。
そしてライラを連れた真昼の後に続き、ホールの外に扉を通って出たのだが。
「瑠璃姉、クランツさんてすごく話しやすい人で良かったな! ロウレス達は全然協調性ないからどうなるかと思ったけど・・・」
「えぇ、そうね・・・・・・」
真昼に頷いた瑠璃はクロにそっと視線を向ける。
けれど、クロの表情はやはり昏く、窺い知ることは出来ない状態のままで。
「これで〝強欲〟の2人とも連絡が取れるし・・・椿の下位も見つけたし、結構順調・・・」
と―――――
そこまで思いを口にした処で、真昼もクロの様子が重苦しいままなのに気付き。
「・・・クロ?」と呼びかける。
けれどクロからの返事は「・・・ん」という言葉のみで。
「大丈夫か? クロ、なんか・・・変だぞ」
真昼は眉を顰めながらクロに尋ねかける。
「ん・・・」
けれど、やはりクロは小さく相槌を返すのみで、それ以上は何も云うことはせず。
二人の会話は続くことなく、地上に向かう為のエレベーターに乗り込むこととなる。
―――――PM23:45―――――
「こんばんは5番目の兄さん。今夜のコンサートは面白かったかい?」
主人であるリヒトと別行動を取っていた強欲の吸血鬼であるロウレスが、滞在先のホテルから約束を交わした相手との待ち合わせ場所に向かおうとした処。
コンという下駄の音を響かせながら―――――八番目『憂鬱』の真祖である椿が幽鬼の如く昏い影を纏った状態でロウレスの背後に現れたのだ。
「は・・・? 嘘・・・」
襲撃をしてきた憂鬱の下位達を尽く返り討ちにしたその日のうちに、あろうことか真祖である椿までもが自分の前に姿を見せるとは思ってもいなかったロウレスはぎょっとした面持ちで振り返る。
椿がロウレスの処に赴いた理由は―――――
―――――認識が甘かった・・・・僕の失態だね。
―――――〝ヒガン〟が戻るまで待つべきだった・・・。
―――――ごめんね、僕の家族達。
大切な『家族』達の命を奪ったロウレスの身柄を自らの手で捕らえて報復を果たす為。
「君は・・・
そして椿は悲哀に満ちた面持ちでロウレスを見据えながら、怨嗟の言葉を紡ぎ出すとドッと漆黒の刀を振り下ろしたのだ。
―――――椿。それでも貴方は、兄弟戦争を続けるの?―――――
その時、椿の中にはもう一人の『家族』であり、愛おしい存在である瑠璃の声が聴こえていた。
けれど、椿がその声にその時は応えることは無かった。
―――――PM21:43―――――
コンサートホールのすぐ傍に在る公園で、真昼達は御園と鉄達と合流をした処で、ライラを〝保護〟するに至った経緯を話すと。
「・・・大体話はわかった・・・。昨日会った強欲の真祖をどうにか説得できないかと三人だけでコンサートホールに行った、と・・・」
腕組みをしながら聞いていた御園は、はあ―――――と呆れた様子で深い溜め息を吐き出した処で。
「貴様はどうしてそうやって勝手に行動する!? ロウレスが強かったから良いものの・・・こうしたらどうなるかという想像をなぜ働かせない!?」
「いやっ、だから悪かったって!!」
憤慨した様子で詰め寄ってきた御園に対し、真昼は参ったと言わんばかりの面持ちで、両手を上げながら反省の言葉を口にする。
「御園君、ごめんなさい。戦闘になってしまう可能性もあったかもしれない、ってきちんと考えて動くべきだったわ」
そこで真昼の助力になるべく、瑠璃は御園が真に言わんとするところを、謝罪の言葉とともに口にする。
すると蝙蝠から人型に変わったヒューが、
「まったくじゃ・・・鉄をつれてゆけば良いものを。そうすれば、そのような傷を自身で負うようなこともなかったじゃろうに」
眉を顰めつつ煙管を鉄に向かって掲げる仕草をしながら言った。
それに対し、鉄は話の状況が把握しきれていなかったのか、首を傾げると瑠璃のほうを見遣り―――――。
「瑠璃、手は痛むのか?」
「ううん、大丈夫。そんなひどいものじゃないから」
尋ねかけてきた鉄に対し、瑠璃は眉を下げつつ、頭を振る。
「まあ・・・こうして敵の
その瑠璃と鉄のやり取りに御園は眉根を寄せると、また腕組みをしながらライラのほうを顰め面で一瞥する。
瑠璃は〝保護〟を主張したが、しかし相手は敵側の憂鬱の下位なのだ。
―――――〝捕らえた〟というのが、やはり妥当な言い方だろう。
そう結論を出した御園に睨まれたライラは、怯えた様子で身を縮こませていたのだが。
「さすが瑠璃と真昼のアニキだな」
そんなギスギスとした空気の中で、ふと鉄が感心した様子で呟いた。
その刹那―――――
「あ、アニキ?」と聞き捨てならない言葉を聞いたとばかりに御園は眉を顰めながら鉄のほうを見遣り。
真昼と瑠璃が呆然とした面持ちで鉄の顔を見上げると、
「チビが温泉ですべって頭打って休んでる間にそんなことを・・・」
鉄がしみじみとした口調で漏らした言葉に、人型に戻ったリリイが「コブは平気ですか?」と苦笑を浮かべながら御園に尋ねかけた。
「やめろバカ千駄ヶ谷!! 言うな!!! 事故だ!!! それに誰がチビだ!! 城田がアニキなら僕もアニキだろうが!!」
そこで自身の失態を知られてしまった御園は、顔を赤らめながら羞恥の表情を浮かべると、両手を拳にしながら叫び声をあげて。
同じ歳だぞ!! と主張し、もしくは僕のことも瑠璃と同様に名前で呼ぶのが正解だろうと食ってかかったのだが。その後に体力の限界を迎えてしまった御園は、はあ・・・と息を吐き出し。
「ただ・・・この下位を無防備に近くにおいておくことに僕は反対だ」
改めて御園が口にしたライラに対する処遇に「えっ?」と困惑の表情を浮かべたのは真昼だった。すると「ある程度の拘束は必要だと言ってるんだ」と言い足されたのだが。
やはり、その考えを真昼はすんなりと受け入れることは出来ず。
「え、でも・・・待てよ御園。ライラは攻撃とかしないって・・・」
「貴様・・・リリイがどうしてやられたのか忘れたわけじゃないだろう。椿の下位に潜入されたからだ」
しかし、自身の
けれど、納得が出来ないのは真昼も同じで。だけど・・・と返答に窮した様子を見せながら漏らす。
「こいつが弱い
それにより御園は我慢の限界が来てしまったようで、ばっとライラに向かって左手を振りかざしながら激昂したのだが。
「疑うのは苦手だ・・・」
真昼は右手を首に据えると、ばつが悪そうな様子で視線を俯けながらぽつりと言った。
そこで真昼と御園のやり取りを、静観するように見ていた瑠璃も口を開いた。
「・・・・・・御園君。確かに貴方が言うことは正論なのかもしれない。でも、私もライラが〝悪い子じゃない〟って信じてるわ」
今の『椿』は敵対している存在だ―――――けれど、瑠璃にとって『大切な家族』だというのは変わらない。
だからその『下位』であるライラもまた、瑠璃にとっては変わらないものなのだ。
静かな眼差しを向けてきた瑠璃に対し、その想いを否定することは出来なかった御園は苦い表情を浮かべると、気まずそうに視線を逸らし、チ・・・と小さく舌打ちを漏らした。
「疑えと言っているわけじゃない・・・ただ可能性を想像しろと言っている・・・」
そして御園が紡ぎ出した言葉に対し―――――
「とにかくまずは情報を聞き出すことからじゃろう。椿達の所在くらいは教えてくれるんじゃろうな?」
相応しい対応を見せるように、すいっと蝙蝠がライラに近づいていき。
「まあ、黙秘権はないんじゃがのう・・・」
不敵な雰囲気を漂わせた蝙蝠の背後にはその主人である鉄が、ずおと立ちはだかるようにしながらライラを見下ろしていて。
ひ、でかい。とライラは怯えた様子を見せたものの、鉄に他意は無いので、軽く眉を顰めただけだったのだが。
「そうだな・・・こちらものんびりはしていられない」
話を進める為に、鉄の背後から御園もまた蝙蝠の言葉に同意を示すと。
「待てって御園! 俺思うんだけど・・・」
真昼が御園の左腕を懇願するように掴んだのだ。
「さっきからなんなんだ貴様は!! 『でも』だの『待て』だの!! こっちはリリイがやられてるんだ! ぬるい対応では・・・」
「御園君、真昼君の話も聞いてあげて」
苛立った様子で真昼を睨み付けた御園に瑠璃が静かな声音で言う。
そして瑠璃の言葉に後押しを受けた真昼がライラに視線を向けながら自身の思いを紡ぎ出す。
「今・・・思ったんだけど。ライラがここにいるってわかったら椿が助けにこっちへ来るかもって・・・」
「・・・は? 下位一人のためにか?」
「前にベルキアっていう下位を倒したとき・・・椿は直接俺たちの前に来たんだ。クロと瑠璃姉に用があったんだとあの時は思ってたんだけど。あれはベルキアを助けるほうが目的だったのかもって・・・」
まさかという表情になった御園に、椿と最初に遭遇した時の出来事を語った処で、それに・・・と視線を落とした真昼の意識の内に蘇ったのは―――――
―――――オレはあの人を裏切れない・・・―――――
―――――椿さんだけが私達のすべてだもの・・・―――――
一度は決別してしまったものの、文化祭で再会を果たした時、涙を流しながらそう言った椿の下位である桜哉と。
有栖院邸にメイドに扮して潜入し、襲撃を果たしたもう一人の椿の下位であるオトギリが『どうしてそこまで従うんだ・・・』と問いかけた際に返してきたあの言葉。
下位達にとって真祖である椿が絶対的な存在であるように、おそらく椿もまた自身の下位を同様に大切に想っている。
「椿は・・・来る気がするんだ。御園だって下位の子供が捕まったら助けに行くだろ」
真昼が出した答えに対して御園は「それはそうだが・・・奴らにそんなまともな感情があるとは思えない」と眉を顰めてしまう。
けれど―――――
「そうね。椿は『家族』が捕まってるって知ったら絶対に助けに来るわ」
―――――椿とたった二日間とはいえ、共に過ごした中で瑠璃は彼の『残忍な一面』だけではなく。『家族』に対してだけ見せる『特別な一面』を知った。
―――――ごめんね、僕の家族達―――――
ふと、瑠璃の心の奥に哀しげな椿の声が響いた。
ロウレスに対する奇襲に失敗し、たくさんの『
そのことに椿は自身の事を責めて、悲しみの涙を流したのだろう。
―――――椿。それでも貴方は、兄弟戦争を続けるの?
瑠璃は目を伏せながら胸元の『鍵』をそっと握りしめると心の中で問いかける。
と―――――
ふいに感じた、不安定な気配に、はっと瑠璃は顔を上げる。
「・・・・・・クロ?」
いつの間にか、クロは一人でこの場から離れて歩き出していて。
「―――――待って、クロ!!」
傍に駆け寄った瑠璃がクロの右手を握りしめても足を止めることはせず。
「瑠璃姉!? ちょっ・・・待てよクロ! どこ行くんだよ、クロ!」
それに気づいた真昼もまた、後を追いかけて走り出す。
「・・・なんだか嫌な感じがしますね。〝
「ふむ・・・面倒なやつと接触してしまったのう・・・」
そうして遠ざかって行ってしまった三人の後姿に、リリイが不安げな面持ちで漏らした言葉に人型に戻ったヒューが眉を顰めながら頷いたのだ。
「・・・・・・ねえ、クロ。何処に行くつもりなの?」
歩き続けるクロの右手は、いつの間にか瑠璃の左手をしっかりと掴んでいた。
けれど瑠璃の問いに一切答えることはせず、そのままトンネルがある方向に向かって行く。
「クロ! おい・・・どうしたんだよ、ク・・・」
そして薄暗いトンネルの中に瑠璃を連れたまま、歩いて行こうとしたクロの背中に向かって真昼が再び大きな声で呼びかける。
と―――――
クロは虚ろな瞳で、無表情なまま、真昼に振り返ってきたのだが。
―――――クロ・・・変だ。
―――――ロウレスが昔の話を持ち出してからずっと変だ。
ドッドッドッと真昼の鼓動が激しく脈を打った。
「クロ・・・」
強張った表情で真昼はまたクロの名前を呼ぶ。
―――――お前昔何があったんだ?
―――――一体誰を殺したんだ?
―――――それとも殺さなかった?
―――――その多数決でお前は賛成したのか?
―――――それとも反対したのか?
―――――To Be or NOT To Be―――――
(訊くべきか? 訊かざるべきか?)
その時、真昼の心の中に渦巻いていた〝迷いの感情〟は瑠璃にも伝わってきていた。
けれど繋がれたままのクロの右手からは、いまは何も感じ取ることが出来ないままで。
―――――この問題を解決しなければ、きっとロウレスとは協力できない・・・・・・。
「クロ。クロ達って昔―――――・・・」
そして意を決した面持ちで、真昼がクロに尋ねようとした。
その刹那―――――
クロの纏っていた気配は、威圧感が溢れたものに変わり膨張したのだ。
それはクロの傍らにいた瑠璃の姿までも覆い隠してしまう程のもので。
「―――――・・・・・っ、瑠璃姉・・・・・・」
愕然とした面持ちで真昼は立ち竦んでしまう。
「駄目よ、クロっ!!」
けれど、クロの凄まじい気配に身体を飲まれそうになった瑠璃が制止の叫び声を上げると。
クロの身体から溢れ出していた殺気はゆっくりと消え去って行ったのだが―――――。
その直後、クロの身体はどろと崩れかけていて。
「・・・・・・っ」
その様を目にした真昼はぎょっと目を見開いてしまう。
けれど次の瞬間、クロの姿はいつもの見慣れた黒猫に変わっていて。
ニャーと小さく鳴き声を上げた黒猫を瑠璃がそっと腕の中に抱き上げると、
「・・・・・・戻りましょうか、真昼君」
「うん・・・・・・そうだな、瑠璃姉。みんな待ってる・・・・・・」
ほ、と無意識の内に安堵の息を漏らした真昼は、ゆっくりと瑠璃に頷き返すと、共に来た道を戻るべく踵を返して歩き出したのだ。
―――――〝覚悟〟について
―――――ずっと考えている
―――――本当に良かったのかな?
―――――でも、待つってクロに言ったから
―――――そうだ俺はクロから話してくれるのを瑠璃姉と一緒に待つんだ
―――――だからこれは正しい
―――――俺は間違ってない
―――――この時は知らなかった〝覚悟〟の意味を―――――
そして真昼は自身の中に渦巻いていた〝覚悟〟に対する想いに対して、そんな答えを出すことで。―――――意識の奥底にこびりついた、クロが怖いという感情からは目を逸らすことを選択してしまったのだ。
【本館/20・4/4掲載/別館/20・4/5転記】
