第十三章『消せない罪』
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《―――――むかし、むかし・・・あるところに7人の吸血鬼兄弟がおりました》
《―――――7人はとっても仲良く・・・いや、それなり~~~に仲良く暮らしておりました》
《―――――そこへ届いた一通の手紙! 中立機関C3からの命令のお手紙でした》
《―――――その命令とは!》
ロウレスは舞台上で機敏に動き回りながら朗々と声を響かせる。
《―――――「ある人物を殺せ。」》
「―――――ある人物って・・・!?」
ふと、耳朶に届いた台詞に真昼は、はっと目を見開くと愕然とした面持ちになってしまう。
つい先日、C3から強引な説伏を受けることになる少し前―――――ファミレスにおいて、ヒューとリリイの口から、C3から受けた〝あやまち〟であったという『ある命令』について聞こうとした際。―――――それを大声で遮った時のクロの様子は、ただ事ではないものだった。
《―――――さあ吸血鬼達はもめました!》
―――――なぜ我々がそんなことを―――――
―――――でも―――――
―――――しかし我々以外、対抗できる者などいるだろうか―――――
―――――やるのか!?―――――
―――――誰がやる―――――
―――――しかし、あの人は・・・―――――
舞台上でロウレスはもめた時の場面を再現するかのように複数の台詞が書かれたプラカードを掲げていく。
そして―――――
《―――――吸血鬼達は多数決を取ることになります》
―――――殺すべきか殺さざるべきか、それが問題だ―――――
“To be or not to be,” “that is the question.”
《―――――強欲は反対しました。殺すべきではない!》
《―――――暴食は反対しました》
《―――――憤怒は反対しました》
《―――――傲慢は賛成しました。我々が殺すべきだ!》
《―――――嫉妬は賛成しました》
《―――――色欲は賛成しました》
さらにロウレスは兄弟達に扮装をして、×と○が書かれたプラカードを手に、多数決を行った時の場景を見せてくる。
一方、真昼とクロの傍に向かおうとしたものの、舞台上から聴こえてきた件のロウレスの台詞に、茫然とした面持ちで動きを止めてそちらを見つめていた瑠璃は―――――
「―――――・・・・・・・・・・・・っ」
ふいに、ドクリと自身の鼓動が大きな音を立てるのと同時に体が硬直するのを感じ、ヒュッと喉の奥で息を漏らしていた。
―――――・・・・・・これって、クロの・・・・・・!?
背後で膨れ上がっていく、凄まじい殺気――――――それは誰であろうとも、ほんの僅かにでも身動きをしようものなら、八つ裂きにしかねない程のもので。
クロの隣にいた真昼も、伝わってきたその気配に、足を震わせながらも、しかし瑠璃と同様に、身の危険を感じ、振り向くことが出来ずにいた。
《さてさてこれで3対3! こうして最後の一人長男の怠惰が出した結論は?》
舞台上で演じ続けるロウレスも、クロの殺気を感じ取っているはずだ。
にも拘らず、平然とした態度のまま、今度はクロに扮装をすると、ニヤリと笑みを浮かべて台詞を紡ぎ出す。
《彼は気だるげにこう言いました・・・》
―――――ダン
それを勢いよく足を踏み鳴らして遮ったのがクロだった。
前のめりの体勢で俯いたクロの周囲には激しい怒りの感情が迸っており、両手も牙状に変化しつつあるだけでなく、ジャケットの裾もまた鉤爪になっていて、すぐにでも臨戦態勢に突入しそうな状態となっていた。
「・・・そ―――――んな怒るほど、バラされたくない話だったっスかあ?」
しかし、ロウレスは一切動じることなく、左手で自身の髪をかきあげると、くははと笑い声を上げ、
《眠りはないぞ!》
―――――“Sleep no more!”―――――
《彼は眠りを殺した!》
―――――“He does murder sieep!”―――――
「二度と安らぐこともない哀れな
嘲笑するようにそう言いながら右手を掲げたロウレスの手の中に、スラとレイピアが具現化する。
「そうやって
―――――なんの疑いもなく『仲間』になれると思っていた―――――
―――――けれどここにあるのは紛れもない『敵意』―――――
真昼は血の気の引いた顔で、ただ茫然と立ち尽くしていた。
そして瑠璃も―――――
―――――今度こそちゃんと『話』を聞いて貰うことが出来れば―――――
その思想は間違っていたのだろうか―――――そう思わざるを得ない、情景を目にする事となる。
《〝大海原の水すべてを使えば》
―――――Will all great Neptune’s ocen―――――
《その手についた血を落とせるのか?〝》
―――――Wash this blood clean from your hand?―――――
舞台上において変わらずロウレスが台詞のような言葉を紡ぎ出す中、弟と対峙する事を選んだクロもまたその舞台に上がると、スポットライトに照らされて、さらに鋭く伸びた牙状の左手を振り上げた様を投影した影が壁に映し出される。
《いいや》
―――――No,―――――
その直後に繰り出されたロウレスのレイピアの一突きが、ガキンとクロの攻撃を制してそのまま左手を貫いてしまう。
《〝それどころか
―――――this your hand will rather―――――
《広大な海を血の色で染め〝》
―――――The multitudinous seas incarndine,―――――
《〝海の緑を赤一色にするだろう〝》
―――――Making the green one red,―――――
けれど憎悪に囚われてしまったクロは痛みを感じていないようで、ギギギギギギと骨が軋む音が鳴り響こうとも、真紅の瞳をぎらつかせたままロウレスを睨み付けていて。
「あは、兄さん目が怖いっスよお!」
そんな兄に対し、煽るかのようにロウレスは口端を吊り上げながら笑みを浮かべる。
―――――ガキン! ガキッ、ガガッ
そうしてクロとロウレスが激しい衝突を繰り広げる最中、クロの殺気に中てられて足が震えたままとなっていた真昼は―――――
―――――俺が止めなきゃ
―――――瑠璃姉にばっかり、負担をかける訳にはいかない
―――――俺しかいないんだ
―――――俺が・・・
必死に己自身に言い聞かせるようにしながら、ざっと前に向かって一歩踏み出すと、右手に武器を具現化させたのだが。
―――――そんな本気で殴り合いのケンカに発展するなんて
―――――その多数決って一体何なんだよ!?
―――――〝ある人物〟って一体・・・
けれどその思考とせめぎ合うように、真昼の心の内には戸惑いの感情が溢れてきていて。
そして瑠璃もまた、愕然とした面持ちで二人を見つめながら思っていた。
―――――C3に連れて行かれた時、私は一度〝間違った選択〟をしてしまった
―――――だから今度は〝間違えない為〟に、きちんとロウレス君とリヒト君と話をする事が出来ればと思っていた
―――――だけどそれよりも前にクロの〝想い〟をちゃんと聞くべきだった
―――――ロウレス君と最初に顔を会わせた時にクロの様子が変だったのは気付いていたのに
両手の平に爪が食い込むほど、瑠璃はきつく握りしめると、
「・・・・・・止めなきゃ・・・・・・」
―――――このまま、ただ見ているだけで、何もしないままじゃ私は絶対に後悔する
―――――だって私はクロの〝ミストレス〟なんだから
瑠璃の想いに呼応した『鍵』が発動し、紅い閃光がその身を包み込んだのだ。
ロウレスのレイピアによる攻撃動作は左足の踵からつま先に体重を掛けつつ、右足を前に踏み出していくものだ。左、右、左、右とまるでステップを踏む様に。そうして時に、勢いよく踏み込んで仕掛けてくる。
そんなロウレスの一撃がまた、クロの左腕を強打したものの、そこでクロは後ろに飛び退くと―――――ジャケットの鉤爪でロウレスの左足を狙って痛撃を与えた。
結果、形勢は逆転し、足元を掬われることになったロウレスはバランスを崩し、倒れこみそうになるも、咄嗟に右足を前に出して踏みとどまったことにより、左足だけ膝を折って座り込むという体勢になっていた。
そこでクロは右脚でロウレスの身体を踏みつけながら、右手の牙を振り翳し、対するロウレスは左手でクロの事を押し返そうとしながらレイピアを突き出そうとした。
その刹那―――――
「クロ!! ロウレス君!! 2人とも、これ以上争うのは止めて!!」
紅い閃光が瞬き、懇願の叫び声とともにガキンと両者の攻撃を阻む音が響き渡る。
と―――――
吸血鬼達の鼻孔をふわりと、えも言えぬ血の匂いが掠めて。
「・・・・・・・・・・・・っ」
「え・・・・・・な、〝ミストレス〟ちゃん・・・・・・!?」
2人のすぐ傍に顕現した瑠璃が、バッと両手を広げて間に立っていて。顔の一部が黒く染まっていた状態になっていたクロは、顔を歪めながらビクッと身体を震わせ、ロウレスは目を見開き驚愕の面持ちで瑠璃を見つめる。
そして―――――
「瑠璃姉!! クロ!!」
先に行動を起こした瑠璃と、動きを止めたクロに対し、一歩出遅れてしまうことになった真昼が舞台に向かって声を張り上げると。
「おい。うるせえっつってんだろ、
動けるようになったらしいリヒトが、此方に向かって跳躍してきていて。
ガンとロウレスとクロの二人を左右の足で蹴り飛ばしたのだ。
クロは反射的に両腕をクロスしてそれを防御したものの、舞台の上から客席の前列の端の壁まで飛ばされてしまい。
「げっ、天使ちゃ・・・」
顔を引きつらせたロウレスは、リヒトの攻撃を防ぐことが出来ず、舞台から下に落下した処で、そのままリヒトのブーツで後頭部を踏みつけられてしまう。
「あまつさえ、女神『セレネ』を巻き込むような真似をしやがって。俺の視界に入るな、クズネズミ」
ギロリと足元のロウレスをリヒトは睨み付けながら、右手の甲で顔に垂れていた自身の血を拭う。
舞台上に一人残されていた瑠璃は呆然とした面持ちでリヒトを見つめながら口を開く。
「・・・・・・リヒト君、怪我は大丈夫なの・・・・・?」
「ああ。この程度、天使の俺には問題ない。だが、女神『セレネ』のその気遣いには感謝する」
それに対してリヒトはこくりと首を縦に振って頷き返しながらそう言うと。
武器を手にしたまま、舞台の手前で立ち尽くしていた真昼のほうにジロッと睨むように振り返り。
その鋭い眼力と纏う雰囲気に気圧された真昼は「ひっ・・・」と思わず怯えた声を漏らしてしまう。
しかしリヒトはそんな真昼の反応に構うことはせず、「貸せ」と一言だけ言い放つと―――――。反射的にそれに従った真昼の手の中から、パシッと武器であったホウキを取り上げたリヒトは、その柄の部分の両端を左右の手で握ると、ぐにゃっと曲げてしまい。
「ちょっ・・・えええええ!?」
その行動に愕然となった真昼の目の前で、ブンとまるでブーメランを投げるかの如く、それをクロ目掛けて放つと、ガシャン!とクロの上半身が拘束されてしまったのだ。
「そ・・・そんな使い方・・・」
唖然とした面持ちで真昼は呟く。
と―――――
「うるせえっつってんだろ。てめえらに今、許されてんのはただ黙って俺のピアノを聴くことだけだ」
そう言い放ったリヒトの足元からズズッと黒い影が立ち昇ると、彼のもう一つの武器であるピアノがその場に具現化したのだ。
「涙しろ」
そしてリヒトがそう言いながら鍵盤に指を滑らせてポーンと鳴らすと―――――その音に真昼の意識は取りこまれていき。
「な・・・何だこれ!?」
確かな存在感を感じさせる音色の渦が周囲に飛び始めて。
「あっ・・・・・・?」
混乱した様子で眉を顰めた真昼の瞳には気づけば涙が浮んでいて。
ぽろとそれが流れ落ちた刹那―――――
真昼の意識の中に浮かび上がったのは幼い頃の自身の姿と亡くなった母親の姿で。
微笑みを浮かべた母親が差し伸べてくれた左手に頭を撫でられると、次々と懐かしい思い出が蘇ってきて。
「あ・・・っ? 母・・・さん・・・・・・? なんで・・・こんな・・・」
胸の内に溢れてきた亡き母親に対する思慕の情に、真昼は呆然と涙しながら呟く。
一方、瑠璃も―――――
「・・・・・・お祖父ちゃん、お祖母ちゃん・・・・・・お父さん、お母さん・・・・・・」
今は亡き、祖父母と両親の姿を、意識の内で幼い少女の姿となって思い出していた。
以前、椿に話した祖父母との思い出や、クロに話した両親に夏祭りに連れて行って貰った時のことだけでなく。
祖父母と両親―――――『家族』みんなで食事をした時のこと。
他人からみれば当たり前の事かもしれないが、けれど両親が多忙であったことからその時間もまた瑠璃にとっては大切な『思い出』だった。
けれど何故、いまこの場において自分たちの中に在った幼い頃の記憶が呼び覚まされたのか。
思考を正常な状態に戻そうと、無意識において自身の頭を右手で押さえる仕草をした真昼と瑠璃は、ふと、左手で額を押さえる仕草をしながら、視線を俯けているロウレスの姿を目にし―――――
「オフィーリア・・・、・・・くそ・・・これはオレの・・・
―――――過去の記憶。それを見せられてる・・・!?
ロウレスが漏らした言葉により、自分たちはリヒトのピアノ演奏によって、深層意識の内に在った記憶を蘇らされたのだと理解したのだが―――――。
―――――クロは大丈夫なのだろうか。
先程、リヒトの手によって、壁に拘束されてしまったクロの様子を確認する為に、真昼はゆっくりと視線を向けていく。
「ク・・・・・・」
と―――――
ギチッ、ギッ・・・と体を拘束している、真昼の武器をいまにも引きちぎりそうなほどの殺気を迸らせるクロの瞳は暗く濁ったモノに変貌していて。
ぞっ、と真昼は恐怖を感じてしまう。
―――――・・・・・・クロ・・・・・・っ
そして瑠璃もクロの殺気に対し、体が委縮するのを感じていた―――――
それでも何とか立ち上がり、クロの傍に向かおうと舞台から下りた処で。
「あ―――――もう・・・リヒたんのピアノの
は、は、と苦痛の吐息を漏らしながら、リヒトのほうを見遣ったロウレスが、そんな風に叫び声を上げるのと同時に右手にレイピアを構えるとダッと駆け出して行って。
ロウレスが向かって来るのに気づいたリヒトも、すぐさま椅子から立ち上がると、攻撃態勢に入ろうとしたのだが。
その時、バンとホールの扉が開いて、
「ギル!! 2人を止めろ!!」
姿を見せたのはあの外国人男性で。
「あっ!? さっきの・・・」
振り返った真昼が目を瞠りながら声を漏らすと、ビュと何者が真昼の背後を駆け抜けて行き。
―――――あの2人を止められるなんてどんな・・・。
クランツの言葉を耳朶に拾った瑠璃も、真昼に続いてロウレスたちのほうに視線を向けると―――――
ロウレスとリヒトの元に駆けて行ったその人物は、パンとロウレスが持っていたレイピアを片手で叩き落とすと同時に反対の手で素早く臨戦態勢に入ろうとしていたリヒトの左脚を叩いて、両者の攻撃手段を封じた処で。2人の身体を両腕に抱えると、互いの頭をゴッと激突させて昏倒させてしまったのだ。
「よ―――――しっ、ナイスだ!! ギルデンスターン!!」
右手を握り拳にして掲げながら、外国人男性が称賛の言葉を口にする。
しかし、ドォ・・ンと迫力あるギルデンスターンの姿を目にした処で真昼と瑠璃は思わず呆気に取られた表情となってしまう。
ロウレスとリヒトの諍いを止めたのは、巨大なクジラの着ぐるみだったのだ。
「
そして此方側にやって来た外国人男性とクジラの着ぐるみがパンとハイタッチを交わし合うと、
「いってーっス、も―――――っ!! オレの下位のくせに何するんスかあっ、ギルデンスターン!!」
右手で頭を押さえながらロウレスが喚き声をあげ、リヒトも同様に右手で頭を押さえて、痛みを堪える様子を見せながら、ころす・・・と漏らしたのだが。
「お前らそこまでだ! それ以上騒ぐと・・・泊まるホテル2人で一部屋にするぞ!!」
外国人男性が口にしたこの鶴の一声により、絶対嫌だ・・・と2人は大人しくなったのだ。
「扱いに慣れてるなあ・・・」
その様子に対し真昼は感嘆の言葉を漏らす。
そして瑠璃もロウレスとリヒトの件がひとまずは収まったのを見届けた処で。
「クロ!!」
クロの傍に向かって駆け出して行くと、すぐに真昼も此方に走り寄ってきて。
「・・・・・瑠璃姉、さっきはごめん!! 俺、動けなくて・・・・・っ」
「私は大丈夫よ、真昼君・・・・・・それより、クロのほうを」
ギュッと眉を寄せながら頭を下げてきた真昼に瑠璃は首を振ると、
「クロ! お前どうしたんだよっ、そんなに暴れるなんて・・・」
顔を上げた真昼は右手をクロに向かって伸ばすと、キュンと武器を自分の中に戻した処でクロにそう尋ねかけたのだが。
「・・・クロ・・・?」
クロは俯いたまま反応を示すことはなく。
しかし、その時、ガタッと客席側から物音がして、そちらに振り返るとそこには膝を抱えて蹲っていた一人の下位吸血鬼の少年の姿が在り。
ロウレスが憂鬱の下位を次々と消滅させていった時、その少年だけは客席の隙間に咄嗟に屈んで、息を殺すようにしながら身を潜めていたおかげで助かったのだ。
「ひえっ、ひっ、ごめんなさ・・・」
目に涙を浮かべながら蒼白な顔で許しを乞おうとする下位の少年の顔は瑠璃にとっては見覚えがあるもので。
「貴方・・・・・・」
目を見開いた瑠璃が少年の名を口にしようとした時、
「あれえ食べ残しがあったっスかね? 椿の下位の残りっしょ?」
他の下位の気配に気付いたロウレスが此方にトッと降り立ってきて、ニヤリと笑みを浮かべながらレイピアを少年に向かって突き付けたのだ。
「あ・・あ、ひえっ・・・助けて、椿さ・・・」
それによって齎されたさらなる恐怖に、少年は悲鳴を漏らしながら尻餅を着くと後ろに向かって後ずさる。
「やめろっ、ロウレス!!」
そこでレイピアを手にしたロウレスの右腕を掴んで制したのは真昼だった。
「なんでっスか? これをこのまま生かす理由もオレがあんたの言うこと聞く理由もないっスけど?」
するとロウレスは眉を顰めながら、不愉快そうな面持ちでそう言ったのだが。
耳朶に届いたその言葉に瑠璃は目を見開くと、
「ロウレス君、ライラには敵意はないわ! だから殺す必要はないでしょう!!」
ロウレスの傍に歩み寄り、パンッと右手でロウレスの頬を叩いてそう叫んだのだ。
「なっ・・・・・・」
「瑠璃姉・・・・・・っ!?」
頬を叩かれたロウレスは呆然となり、真昼は瞠目の表情で瑠璃を見遣る。
その時、座り込んだままのライラは、怯えた表情のまま、縋るように瑠璃の事を見上げていた。
そして―――――
「・・・・・・何なんスか、〝ミストレス〟ちゃん」
暫しの後に我に返ったロウレスは苛立った様子で瑠璃を睨み付けると、
「・・・・・・さっきはいきなり、兄さんとオレが遣り合ってる中に飛び込んできたかと思えば、今度はオレに直接手を上げるとか・・・・・・。オレが『無力な女の子』だって言ったのを根に持っての行動っスか?」
「―――――違うわ、ただ〝私〟は『守られる側』じゃなくて、〝大切な人たち〟を失わない為に『立ち向かう側』でありたいだけよ」
瑠璃はロウレスの瞳を真摯な眼差しで見据えながら、静かな声音で言い返す。
と―――――
「・・・・・・なんスか、それ・・・・・・」
ロウレスは唖然とした面持ちでそう呟いたのだが。
その瞳の奥には困惑の色が浮んでいるように見えた。
けれど、それは僅かな間のことで―――――
これ以上は付き合いきれないと言いたげにロウレスはフイッと瑠璃から視線を逸らすと、
「・・・まっ、どーでもいーっスけど! こんな
吐き捨てるようにそう言って右手を掲げると、持っていたレイピアを捨て去ったのだ。
そのロウレスの言葉に対し、ライラはロウレスに殺されてしまった友人たちの最後の姿を思い出し、哀しみの涙をまた瞳から溢れさせたのだが―――――。
ロウレスは、目もくれることはせず、扉に向かって行ってしまい。
「んじゃね―――――、天使ちゃーん。オレ、用あるんで先にホテル戻るっス!」
すちゃと右手を挙げると、リヒトに向かって笑顔でそう告げたのだが。
「知るか、そのまま消えろ」
背を向けた瞬間、苛立ったままのリヒトからは後頭部目掛けて、ゴスと瓦礫を投げつけられてしまい。
あいて―――――っ、とロウレスは悲鳴を上げると扉の向こう側に姿を消したのだ。
「・・・気分悪っ」
扉の外に出た処で、ロウレスは笑みを消し去ると、不愉快極まりないといった様子で思いきり顔を顰めていた。
主人であるリヒトとの諍いによって齎された苛立ちだけでなく―――――
〝―――――ただ〝私〟は『守られる側』じゃなくて、〝大切な人たち〟を失わない為に『立ち向かう側』でありたいだけよ―――――〟
―――――〝ミストレス〟が口にしたあの言葉。
―――――そして目を逸らす際に視界の端に見えた傷付いた両手の平。
それにより『
それを払拭する為に、ロウレスはポケットから取り出したスマホの通話ボタンを押すと、耳に中てて歩き出す。
電話向こうの相手は、此方に何があったのか知らないのだから、いつも通りの調子で話せば自分は〝元通り〟になれるはずだ。
「あ。もしもーし、オレオレっス! 今日、予定通りの時間に行けるっスよー」
そしてロウレスは首元のマフラーを勢いよく翻すと、そのまま足早にホールを後にしたのだ。
【本館/20・3/15掲載/別館/20・3/15転記】
