第十二章『天使か悪魔か』
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「・・・!! やばいっ瑠璃姉! クロ! バレてた!!」
真昼は顔を蒼白にすると、ばっと反射的に青年から距離を取りながら叫んだ。
「えっ!?」
「まー素人の尾行なんてこんなもんだろ・・・」
その叫び声を聞いた瑠璃とクロがすぐに揃って真昼の後ろから顔を覗かせると―――――
ズアと青年とその周囲を取り巻く空気が重圧を含んだものに変わり、漆黒のグランドピアノが突如としてその場に具現化したのだ。
―――――この〝気配〟って・・・・・・!!
ふと伝わってきた〝気配〟に瑠璃は目を見開く。
―――――ポン
青年がゆっくりとピアノの鍵盤に指を滑らせると、重低音の音色が耳朶に響いてきて。
「ピアノ・・・!? どうなって・・・」
「・・・!?」
真昼が呆然とした面持ちでその光景を見つめる中、突如としてずんと体に襲ってきた負荷にクロは耐え切れず、がくっと地面に膝を突いて座り込んでしまったのだ。
「クロ!? 大丈夫!?」
すぐさま瑠璃が傍らに膝を折って、助け起こそうとするも、
「体が・・・重・・・」
ずずずずと上から下に押さえつけるかのように、襲い掛かってくる重圧から、クロは逃れることが出来ないようで、顔を顰めながら呻いていたのだが。
「そっちが悪魔か」
その直後、青年の淡々とした呟きとともにピアノが消失すると、それと入れ替わるように青年が履いていた黒いブーツに、漆黒の影のようなモノが纏わりついていて。
「―――――・・・・・・瑠璃っ!! オレから離れろ!!」
すぐ傍に迫ってきた青年の姿を目にしたクロはそう叫ぶと、自由にならない身体で咄嗟に力を振り絞って、伸ばした左腕で瑠璃を突き飛ばして距離を取らせる。
その刹那、掲げられていた青年の左脚が勢いよくクロの身体を蹴り飛ばしたのだ。
―――――ド、ゴガ
それは一瞬の出来事だった。
「「クロ!!」」
瑠璃と真昼の愕然とした叫び声が響き渡る。
向かい側のビルに叩きつけられたクロの足元には、運が良かったと言うべきか、窓の縁があり。ガラ・・・とコンクリートの破片が散らばる中、右足を立てて左膝を地に着きながら、いて・・・・と呻きつつ何とか立ち上がったクロは、
「何なんだ、向き合えねー・・・」
―――――・・・・・・瑠璃の『力』でも、もしかしたらこれは危なかったかもしれねーな。
チラリと下のほうに視線を遣りながら、真昼と共に居る瑠璃の無事な姿に安堵したのも束の間のことで。
まるで背中に本物の羽でも生えているかのように、トッと飛びながら後を追ってきた青年によって再び、ガッと上空に蹴り飛ばされてしまったのだ。
「とっ飛んでる・・・!?」
ガガッ、ガッ―――――とその後も容赦なく、壁伝いにクロの身体を幾度も蹴り上げながら上昇していく青年の姿に対して真昼が狼狽した一方で。
「・・・・・・違うわ。恐らくあれは脚力で跳んでるのよ」
―――――しかも相手からの攻撃が・・・・・・強いのに加えて速い。
―――――だからクロは防ぎきれないで一方的にやられてしまってるっ!!
瑠璃もまた、心中で焦燥感を抱きながら上空に視線を向ける。
そして―――――
「何とかしてクロに真昼君の血を飲ませないと・・・・・・っ。真昼君、手を出して!! 私の『鍵』でクロの処まで行くから!!」
鍵を握りしめた瑠璃が振り返りながらそう言うと。
「いや、瑠璃姉に頼るんじゃなくて、俺が自分の力で行かなきゃ駄目なんだっ・・・・・・!!」
―――――じゃなきゃ、いつまでたっても俺はクロにとって頼りない相棒のままだっ!!
眉間に力を入れながらそう真昼は宣言するのと同時に、ばっと主人の証である武器の痣がある右手を翻すと、漆黒の円を描きながら手の中に武器であるホウキが具現化する。
「飛べよ!! 何のためにこんな形してんだっ!!」
ホウキの柄に右手を伸ばし、跨りながら真昼は叫ぶ。
と―――――
「―――――真昼君!!」
その刹那、その強い〝意思〟に応えて、瑠璃の視界の前から真昼を乗せたホウキは勢いよく上空に飛んでいったのだ。
―――――傷の直りが遅ぇ・・・。
―――――こいつ・・・なんだ?
―――――まさか・・・
正体不明の青年からの襲撃により、蹴り飛ばされ続けて、ビルの屋上にドンと転がったクロは、額から血を流しながら俯せの状態になっていた。
そして朦朧とした意識の中でクロが視線を上げると、すぐ手前に降り立った青年もまた黙然とした眼差しでクロを見下ろしてきていた。
そして―――――
徐にまた左脚を振り上げると、クロの身体を蹴り上げようとしたのだが。
「クロ!!」
そこにばっとホウキで飛翔してきた真昼が姿を現して。
「俺の相棒に何すんだっ!!」
青年の蹴りを箒で食い止めようとした刹那。
―――――まるで磁力が反発し合うかのように、バチンという衝撃が両者の間に発生したのだ。
「「!?」」
青年は眉間に皺を寄せ、真昼は呆然と目を見開く。
「―――――クロっ!! 真昼君!!」
そこにパァと白銀の光が瞬き、真昼の後を追って『鍵』の力で空間跳躍を行った瑠璃が、クロのすぐ傍に顕現すると。
「―――――・・・・・・!!」
青年は瑠璃の姿を、驚いた様子で凝視しながら動きを止めていて。
それによって生まれた、ほんの僅かな隙をクロは見逃すことなく黒猫の姿に変わると、真昼の右腕にガブッと噛みつき。血を得た処でまたすぐに人型に戻ると、シュルルルルとジャケットの裾を操って、青年の身体をドンと拘束したのだ。
「よしっ。ナイス、クロ!」
グッと真昼は右手を握り拳にしながらガッツポーズをすると。
「・・・・・・クロ、額の血を拭うからしゃがんで貰える?」
パンツのポケットからハンカチを取り出した瑠璃が、眉を下げながらそう言った言葉に応じて腰を落としたクロは、
「お前・・・ホウキで飛べたのか・・・」
瑠璃が傷の具合を確認しつつ血をハンカチで拭う中、真昼を見遣りながら言う。
それに対し、「おう!」と誇らしげな笑みを浮かべながら真昼は頷くと、
「月の女神の加護があるとはいえ、悪魔とつるんで・・・魂持ってかれちゃっても知らねーぞ・・・」
「は? ・・・・・・月の女神?」
呆れた面持ちで独創的な発言をした青年に対し、真昼は困惑の表情を浮かべてしまったのだが。
「お前のすぐ傍にいるだろうが。悪魔にまでも手を差し伸べる、心優しい月の女神―――――『セレネ』が」
真顔で言い切った青年の視線が自分に向けられているのに気づいた瑠璃が「え・・・・・・と・・・・・・『セレネ』?」と、戸惑いの表情で目を瞬かせると、
「・・・・・・いや、瑠璃姉が優しいのは否定しないけど、女神じゃなくて人間だぞ!? それと持っ・・・てかれるか知らねーけど、クロも悪魔じゃねーよ!!」
真昼は勢いよく青年に食って掛かっていく。
「お前っ、椿の下位吸血鬼 なのか!? その捕まえてるハリネズミ を放せ!!」
「あ? 欲しいならやるよ」
すると青年はすんなりとその要求を肯定する返答をしてきて。
「・・・・・・えっと、本当に構わないのかしら?」
思わず瑠璃が青年を見つめながら訊き返すと、
「あぁ。女神『セレネ』に天使である俺が偽りを口にすることはない」
きっぱりとした口調でそう青年は断言してきたのだが。
「―――――が、そいつが女神『セレネ』に触れるのは許せねーな。何故なら俺は天使だから」
キュィ! と歓喜するかのような声を上げたハリネズミを、青年はギロリと睨み付けると、クロが施した拘束をブツッと引きちぎって見せたのだ。
その刹那―――――千切れて舞い上がったその残骸は、まるで〝漆黒の羽〟のようにも見えて。
「こんなバイオレンスな天使がどこに・・・」
冷や汗を流しながら、真昼はまた青年に突っ込みを入れると―――――
「ピュイッ」
ひと際甲高い鳴き声を上げたハリネズミは、いつの間にか檻の中から自力で抜け出してきていて。
青年と真昼―――――両者の間に飛び込むかのようにハリネズミは跳躍した直後。
人型に変わってトンとその場に軽い足取りで降り立ったのは、ボーダー柄の靴下にスニーカーを履いた人物で―――――
「〝おお運命よ、運命よ〟〝みなが汝を浮気者だと言う〟!」
と、芝居がかった口調でその台詞を紡ぎ出すと。
ウィリアム・シェイクスピア―――――とその明言を生み出した存在の名を言い足し。
「兄さんと再会するこのタイミングはどんな運命っスかね? たまには騙されて別の主人 と戦ってみるのもいいっしょ? さらにそのおかげで、噂の〝ミストレス〟ちゃんにも会えたわけだし?」
「え!? え!? 騙され・・・!? って主人 !?」
目の前に唐突に姿を現した人物が続けざまに口にした上滑りな言葉に、真昼は驚愕の叫び声を上げる。
一方、瑠璃は―――――
「・・・・・・やっぱり、あの〝気配〟。そうだったのね・・・・・・」
青年が恐らくは武器だったのであろう、ピアノを具現化させた瞬間、『主人』ではないかと、無意識化で感じ取っていた事から、真昼のように驚くことはせず。
ポツリと静かな声音でそう呟くと、本性を現した吸血鬼 に視線を向ける。
と―――――
「オレが5番目! 〝強欲〟の真祖 〝唯一無二 〟!! ロウレスちゃんって気軽に呼んでねっ」
左手の親指と人差し指で、顔に掛けていたメガネのフレームを摘まみながら、ニヤッと笑みを浮かべつつ、さらにウィンクを飛ばしてきて。
「そしてこの! 壊滅的なセンスの持ち主な天使ちゃんが強欲 の主人 !」
青年の事を改めて自分の主人だと、ロウレスは紹介してきたのだが。
しかし、あまりにも急展開過ぎる状況に、真昼は未だ混乱した様子で。
ちょっ・・・どういうこと・・・と呻くように漏らすと。
「ちなみにあの、助けて~~~みたいのは演技っス! いっつもケージに入れられちゃうんスよねー」
あれで通常運転っス―――――と、ロウレスは事も無げな態度のまま言い添えてきたのだ。
「噂の〝ミストレス〟ちゃんと兄さん見かけたから、うちの主人とぶつけてみたら面白いかな? っと天使ちゃんには黙っておいて一芝居・・・」
そうして全てはロウレスが仕組んだ悪ふざけだったのだと云う事が明らかになったのだが。
その事に腹を立てた主人である青年は、したり顔で話をしていたロウレスの顔面に目掛けてゴと勢いよく蹴りを繰り出してきて。
「いて――――――――――!!」
左頬を強打されたロウレスは、ドゴ――――――――――ンとそのままビルの向こう側まで飛ばされてしまい、落下して行ってしまったのだ。
「え――――――――――!?」
落ちた!! と真昼は仰天し、瑠璃もまた唖然とした面持ちで目を見開くと。
「あの・・・・・・ロウレス君って、貴方の吸血鬼 なんじゃ・・・・・・」
「あいつ嫌いだから」
イラっとした様子で顔を歪めながら青年は簡潔にそう答えたのだ。
〝嫉妬組〟―――――御国とジェジェもまた仲が良くない。
けれど〝強欲組〟の間に漂う空気は、あの二人のモノとは明らかに異なるもので。
―――――強欲の吸血鬼の主人である青年は本気でロウレスの事を嫌っているように見える。
「で・・・でも、相棒なのに嫌いなんてなんで・・・」
困惑の表情を浮かべながら、今度は真昼が強欲の吸血鬼の主人である青年に尋ねかけてみる。
すると―――――
「なぜなら俺は・・・天使だから。」
背中にある鞄の『羽』を強調するように、頭上に向かって真っ直ぐに伸ばした左腕を右手で掴みながら、強欲の吸血鬼の主人である青年はポーズを決めて、その台詞を口にしたのだ。
するとそこにいつの間にか戻って来ていたロウレスが加わり―――――
「そう! 最高!! 天使ちゃん! 超クール!! カッコイイ!! ジャパニーズKAKKOII!! この世に舞い降りちゃった最後の天使ちゃん!! 天上天下唯一無二!」
主人の傍らに腰を落としたロウレスもまた、右手を高く掲げて左腕と左脚を伸ばしつつ、きちんとポーズを取りながら茶々を入れてきたのだ。
しかし、その行動もまた主人の気に障ったようで―――――
「うるせえ、俺の視界に入るな。てめえの知り合いならさっさと言え。死ね。死ぬまで死ね」
「あいた―――――っ」
殺気だった主人によって、ドカ―――――ンと再びロウレスは勢いよく蹴り飛ばされてしまい。
―――――電波キャラ入ります・・・。
真昼はその光景を虚ろな目で見ながら心の中で呟く。
―――――バイオレンス天使・・・向き合えね―――――。
すると真昼のその気持ちを感じ取ったクロも同様に引いた面持ちでそんなふうに漏らしていて。
瑠璃もまた、えっと・・・・・・と戸惑いの表情を浮かべたものの、
「でも・・・・・・良かったわ! これでまた仲間が増え・・・・・・」
一歩前に出ると、強欲組に向かって朗らかな口調で、安堵の言葉を紡ぎ出そうとしたのだが。
「いやいや~。〝ミストレス〟ちゃん。オレ、全然協力する気ないっス! ぶっちゃけ、冷やかし気分だったんで!」
ロウレスはそれを遮って、否定の言葉を投じてきたのだ。
その言葉を聞いて「え!?」と驚愕の声を上げたのは真昼だった。
するとロウレスは瑠璃に向けていた視線をチラリと真昼に向けたものの、すぐさま瑠璃の傍らで顔を顰めながら黙り込んでいたクロに滑らせていき―――――
「っつーか仲間とか必要ないっしょ? だ―――――って〝決断〟さえできれば兄さんなら一瞬で終わるじゃないスか!」
―――――To be or not to be, that is the question. ―――――
「椿を殺すのか? 放置するのか? 今回もさっさと〝多数決〟しましょうよ!昔みたいに 。ねぇ?」
左手の親指と人差し指と中指―――――〝3本の指〟を立てたロウレスは、それを口元に持っていくと、にぃとクロに向かって嘲るような笑みを浮かべて言った。
「ほ―――――んと怠惰の兄さんは変わってない っスね! ・・・悪い意味 で」
刹那、クロの表情は憮然としたものに変わっていて、ロウレスを睥睨した眼差しで見つめていた。
「クロ・・・・・・? ロウレス君・・・・・・?」
両者の間に漂う、不穏な空気に瑠璃が困惑の表情を浮かべると、
「おい・・・? 二人って何かあった・・・って」
真昼もまた、眉を顰めながら、その理由をクロ達に問おうとしたのだが―――――
足に纏うブーツの武器を発動させた処で、ひらりと身を翻してこの場から立ち去ろうとする、強欲の主人の姿が視界の隅に入ってきて。
「ちょっと待って、待って!! 何一人だけ帰ろうとしてんですか!」
跳び下りる前に、その左脚にしがみ付いた真昼が必死の形相で訴えかけると、
「悪魔の仲間がなんの用だ・・・」
顔を顰めながら視線を落としてきた強欲の主人である青年が口にした言葉に、「何ですかそれ!?」と思わず真昼は突っ込みを入れてしまう。
けれど、そのすぐ後―――――
「椿に対抗するために協力したいんですっ・・・」
そう真昼は告げると、強欲の主人である青年は眉を顰め、
「ツバキ? 何だ・・・花?」
「えっ、知らない・・・?!」
身体を起こした真昼は、返ってきた答えに呆然と目を見開いてしまう。
「俺達に攻撃をしてきたのも椿の下位とまちがえたんじゃ・・・」
「俺が吸血鬼を攻撃するのに理由なんかねーよ」
強欲の主人である青年は真昼に対して否定をした処で、瑠璃のほうに視線を向けると、
「そして女神『セレネ』に俺が危害を加えることはありえない。なぜなら俺は天使だから・・・」
先に天使宣言をした時と同様の決めポーズを取りながらそう告げてきたのだ。
その時、その足元にはハリネズミの姿も在り「そう・・・天使・・・」とちょっかいを出そうとしていたのだが。てめーは黙れと右脚で踏みつけられてしまっていて。ムギュと呻き声を漏らしていたのだった。
「あの、私は女神じゃなくて人間なんですけど・・・・・・」
「そのネタ、もういいんで・・・」
そして瑠璃と真昼は強欲の主人である青年の言動に、やはり戸惑いを覚えつつ、順に口を開くと。
「・・・・・・」
ビキ・・・と怒りの形相になった強欲の主人である青年から睨み付けられたのは真昼で。
「うわあ、すみません、すみません」
―――――俺、この人苦手だ・・・・。
―――――わけ、わからん・・・。
その迫力に恐れをなしてしまった真昼はすかさず謝罪を行うと、
「椿に対抗するために協力したいんです。あなたのサーヴァンプだってこれから狙われると思うし・・・っ」
「吸血鬼を殺す方法があんのか?」
此方側の事情を説明した真昼に対し、青年が訊き返してきたのは不穏とも言える事柄だったのだが。
「えっ・・・と、契約のときに名前と物をあげたと思うんですけど。それを壊されると吸血鬼の力は・・・」
しかし、伝えなければ〝色欲組〟の二の舞にも為りかねないという可能性もある事から、真昼はそれを話したものの。
「そうすればあのクズネズミを殺せんのか・・・」
凍てついた眼差しで、ロウレスを見遣りながら主人である青年が漏らした言葉に。
―――――瑠璃姉、これって教えちゃいけないことだった・・・・・・!?
―――――・・・・・・う、うん、きっと大丈夫よ、真昼君。ほらっ、ケンカする程仲が良いって言うじゃない?
絶句した面持ちになった真昼と思わず当惑の表情になってしまった瑠璃は目で語り合う。
と―――――
「くはは。協力なんてムリムリっスよ! どーせ意見が割れてめんどいんスから!」
人型に戻っていたロウレスは右手を下げながら左腕を上げつつ、馬鹿にするかのように笑い声を上げながら話しかけてきて。
「ねぇ兄さん?」とクロに対し、同意を求めるように呼び掛けると、
「今、兄さんとこには傲慢と色欲と・・・あと嫉妬かな? いるらしーじゃないっスか。そっち側 で固まっちゃってやだやだ」
「・・・前回の定例会議には暴食と憤怒も来たぞ・・・」
厭味を含んだ口調で話しかけてきたロウレスに対し、クロは低い声で淡々と応じる。
「あーそうらしいっスね! あの二人はなー、頭回るタイプじゃないっスからねー。噂になっていた〝ミストレス〟ちゃんと兄さんが『誓約』を結んだりしたから、来たんじゃないっスか?」
ニヤッと笑みを浮かべながらロウレスは瑠璃を見遣ると、クロの方に向かって近づいていき。
「あの2人だって忘れた わけじゃないと思うっスけど?」
―――――と、嘲笑するかのような笑みを浮かべながら、視線を合わせようとしないクロの顔を覗き込むようにしつつ、挑発するかのようにそう言ったのだ。
―――――なんだ?
―――――このロウレスってクロと仲悪い・・・?
両者の間に漂う、険悪な雰囲気に真昼は眉を顰める。
「おいっ・・・〝ロウレス〟! 何の話をしてんだよ!?」
一触即発に為りかねない状況にばっと真昼は割って入ると、瑠璃はクロの傍らに並んで手を取る。
ぴくっと肩を震わせると目を見開いたクロの右手が瑠璃の左手を握り返す。
その様子を視界の隅で確認した真昼は小さく息を吐き出すと、ロウレスを見据えながら言葉を紡ぎ出す。
「俺がクロの主人 の城田真昼! それからクロの隣にいるのが」
「クロの〝ミストレス〟の瑪瑙瑠璃です」
真昼に続き、瑠璃も名前を名乗ると―――――
「〝ロウレス〟君・・・・・・貴方のその名前って、通り名よね? 今の名前はなんていう・・・・・・」
ロウレスを見つめながら、主人である青年から付けられた名前を聞こうとしたのだが。
「〝ああロミオ! あなたはどうしてロミオなの?〟 〝名前ってなぁに?〟 〝バラと呼んでいる花を別の名前にしてみても美しい香りはそのまま〟」
右手を掲げるようにしながらバサと首に巻いたマフラーを翻すと、左腕で首元にある裾を抱き寄せるようにしながら演劇の一説を口にする。
それはシェイクスピア作『ロミオとジュリエット』より引き出されたものだったのだが。
いきなり目の前で繰り広げられた芝居に瑠璃は「え・・・・・・?」と目を瞬かせ、真昼は「は・・・・・・?」と眉根を寄せてしまう。
「〝ミストレス〟ちゃん。名前なんていちいち覚えなくていいっスよ!どうせすぐに変わるから 」
するとロウレスはさり気なく右手でマフラーの襟を整える仕草をしつつ、嘲笑うかのような笑みを浮かべた口元を隠しながら告げてくる。
―――――変わる・・・・・・?
そんなロウレスに対し瑠璃と真昼は揃って困惑の表情を浮かべてしまう。
「・・・・・・ロウレス君、それってどういう」
そして瑠璃がロウレスに向かって、再度その真意を尋ねようとしたのだが―――――
「あ―――――っ! バイトの時間っス! 店長に怒られる!」
ふと、右手をズボンのポケットに入れると取り出したスマホで時間を確認したロウレスは、やっべぇと左手で頭を抱える仕草をすると。まだ入って3日目なのに―――――と喚き始めてしまい。
「は!? バイト!?」
真昼がその言葉に瞠目の表情を浮かべると、
「そんじゃっ」
右手を挙げながらこの場からロウレスは立ち去ろうとしていて。
「ちょっ・・・って天使の人はすでにいないし!!」
ロウレスに気を取られていた間に主人である青年のほうはあの後、さっさとこの場から姿を消してしまっていたようで。
「待てよ! 俺達・・・お前にも協力してほしくて・・・っ」
咄嗟に真昼は左手を伸ばすとロウレスの右手首をガと掴んで引き留めながら懸命に訴えかけたのだが―――――。
「・・・あーあ。これが兄さんの主人 ・・・こんなフツーな・・・あーあ・・・」
そんな真昼の顔をロウレスは落胆したかのような面持ちで見返しながらそう呟くと。
「・・・・・・〝ミストレス〟ちゃんも噂に聞いていた通り、その〝血〟だけは良いモノみたいっスけど・・・・・・。それ以外は、平均的な感じだし。兄さんは本当にどういうつもりで〝ミストレス〟ちゃんと『誓約』を結んだりしたんスかね・・・・・・」
瑠璃とクロに視線を滑らせていき、それから顔を顰めながら二人の繋がれたままだった手を一瞥すると、
「はいはい、離してっ! 遅れちゃうじゃないっスか!」
鬱陶しいと言わんばかりの態度で、ロウレスは真昼に掴まれたままだった自身の右手を翻す。
そこでぱっと反射的に真昼はロウレスの手を離してしまった事により、引き留めることが出来なくなってしまい。
「―――――待ってっ! ロウレス君・・・・・・っ」
ビルから飛び去ってしまったロウレスの背に向かって瑠璃が叫ぶも、ロウレスは振り返ってくることなく。
右の端が僅かに欠けてしまった下弦の月の向こう側に、そのまま姿を消してしまったのだ。
【本館/20・2/14掲載/別館/20・2/15転記】
真昼は顔を蒼白にすると、ばっと反射的に青年から距離を取りながら叫んだ。
「えっ!?」
「まー素人の尾行なんてこんなもんだろ・・・」
その叫び声を聞いた瑠璃とクロがすぐに揃って真昼の後ろから顔を覗かせると―――――
ズアと青年とその周囲を取り巻く空気が重圧を含んだものに変わり、漆黒のグランドピアノが突如としてその場に具現化したのだ。
―――――この〝気配〟って・・・・・・!!
ふと伝わってきた〝気配〟に瑠璃は目を見開く。
―――――ポン
青年がゆっくりとピアノの鍵盤に指を滑らせると、重低音の音色が耳朶に響いてきて。
「ピアノ・・・!? どうなって・・・」
「・・・!?」
真昼が呆然とした面持ちでその光景を見つめる中、突如としてずんと体に襲ってきた負荷にクロは耐え切れず、がくっと地面に膝を突いて座り込んでしまったのだ。
「クロ!? 大丈夫!?」
すぐさま瑠璃が傍らに膝を折って、助け起こそうとするも、
「体が・・・重・・・」
ずずずずと上から下に押さえつけるかのように、襲い掛かってくる重圧から、クロは逃れることが出来ないようで、顔を顰めながら呻いていたのだが。
「そっちが悪魔か」
その直後、青年の淡々とした呟きとともにピアノが消失すると、それと入れ替わるように青年が履いていた黒いブーツに、漆黒の影のようなモノが纏わりついていて。
「―――――・・・・・・瑠璃っ!! オレから離れろ!!」
すぐ傍に迫ってきた青年の姿を目にしたクロはそう叫ぶと、自由にならない身体で咄嗟に力を振り絞って、伸ばした左腕で瑠璃を突き飛ばして距離を取らせる。
その刹那、掲げられていた青年の左脚が勢いよくクロの身体を蹴り飛ばしたのだ。
―――――ド、ゴガ
それは一瞬の出来事だった。
「「クロ!!」」
瑠璃と真昼の愕然とした叫び声が響き渡る。
向かい側のビルに叩きつけられたクロの足元には、運が良かったと言うべきか、窓の縁があり。ガラ・・・とコンクリートの破片が散らばる中、右足を立てて左膝を地に着きながら、いて・・・・と呻きつつ何とか立ち上がったクロは、
「何なんだ、向き合えねー・・・」
―――――・・・・・・瑠璃の『力』でも、もしかしたらこれは危なかったかもしれねーな。
チラリと下のほうに視線を遣りながら、真昼と共に居る瑠璃の無事な姿に安堵したのも束の間のことで。
まるで背中に本物の羽でも生えているかのように、トッと飛びながら後を追ってきた青年によって再び、ガッと上空に蹴り飛ばされてしまったのだ。
「とっ飛んでる・・・!?」
ガガッ、ガッ―――――とその後も容赦なく、壁伝いにクロの身体を幾度も蹴り上げながら上昇していく青年の姿に対して真昼が狼狽した一方で。
「・・・・・・違うわ。恐らくあれは脚力で跳んでるのよ」
―――――しかも相手からの攻撃が・・・・・・強いのに加えて速い。
―――――だからクロは防ぎきれないで一方的にやられてしまってるっ!!
瑠璃もまた、心中で焦燥感を抱きながら上空に視線を向ける。
そして―――――
「何とかしてクロに真昼君の血を飲ませないと・・・・・・っ。真昼君、手を出して!! 私の『鍵』でクロの処まで行くから!!」
鍵を握りしめた瑠璃が振り返りながらそう言うと。
「いや、瑠璃姉に頼るんじゃなくて、俺が自分の力で行かなきゃ駄目なんだっ・・・・・・!!」
―――――じゃなきゃ、いつまでたっても俺はクロにとって頼りない相棒のままだっ!!
眉間に力を入れながらそう真昼は宣言するのと同時に、ばっと主人の証である武器の痣がある右手を翻すと、漆黒の円を描きながら手の中に武器であるホウキが具現化する。
「飛べよ!! 何のためにこんな形してんだっ!!」
ホウキの柄に右手を伸ばし、跨りながら真昼は叫ぶ。
と―――――
「―――――真昼君!!」
その刹那、その強い〝意思〟に応えて、瑠璃の視界の前から真昼を乗せたホウキは勢いよく上空に飛んでいったのだ。
―――――傷の直りが遅ぇ・・・。
―――――こいつ・・・なんだ?
―――――まさか・・・
正体不明の青年からの襲撃により、蹴り飛ばされ続けて、ビルの屋上にドンと転がったクロは、額から血を流しながら俯せの状態になっていた。
そして朦朧とした意識の中でクロが視線を上げると、すぐ手前に降り立った青年もまた黙然とした眼差しでクロを見下ろしてきていた。
そして―――――
徐にまた左脚を振り上げると、クロの身体を蹴り上げようとしたのだが。
「クロ!!」
そこにばっとホウキで飛翔してきた真昼が姿を現して。
「俺の相棒に何すんだっ!!」
青年の蹴りを箒で食い止めようとした刹那。
―――――まるで磁力が反発し合うかのように、バチンという衝撃が両者の間に発生したのだ。
「「!?」」
青年は眉間に皺を寄せ、真昼は呆然と目を見開く。
「―――――クロっ!! 真昼君!!」
そこにパァと白銀の光が瞬き、真昼の後を追って『鍵』の力で空間跳躍を行った瑠璃が、クロのすぐ傍に顕現すると。
「―――――・・・・・・!!」
青年は瑠璃の姿を、驚いた様子で凝視しながら動きを止めていて。
それによって生まれた、ほんの僅かな隙をクロは見逃すことなく黒猫の姿に変わると、真昼の右腕にガブッと噛みつき。血を得た処でまたすぐに人型に戻ると、シュルルルルとジャケットの裾を操って、青年の身体をドンと拘束したのだ。
「よしっ。ナイス、クロ!」
グッと真昼は右手を握り拳にしながらガッツポーズをすると。
「・・・・・・クロ、額の血を拭うからしゃがんで貰える?」
パンツのポケットからハンカチを取り出した瑠璃が、眉を下げながらそう言った言葉に応じて腰を落としたクロは、
「お前・・・ホウキで飛べたのか・・・」
瑠璃が傷の具合を確認しつつ血をハンカチで拭う中、真昼を見遣りながら言う。
それに対し、「おう!」と誇らしげな笑みを浮かべながら真昼は頷くと、
「月の女神の加護があるとはいえ、悪魔とつるんで・・・魂持ってかれちゃっても知らねーぞ・・・」
「は? ・・・・・・月の女神?」
呆れた面持ちで独創的な発言をした青年に対し、真昼は困惑の表情を浮かべてしまったのだが。
「お前のすぐ傍にいるだろうが。悪魔にまでも手を差し伸べる、心優しい月の女神―――――『セレネ』が」
真顔で言い切った青年の視線が自分に向けられているのに気づいた瑠璃が「え・・・・・・と・・・・・・『セレネ』?」と、戸惑いの表情で目を瞬かせると、
「・・・・・・いや、瑠璃姉が優しいのは否定しないけど、女神じゃなくて人間だぞ!? それと持っ・・・てかれるか知らねーけど、クロも悪魔じゃねーよ!!」
真昼は勢いよく青年に食って掛かっていく。
「お前っ、椿の
「あ? 欲しいならやるよ」
すると青年はすんなりとその要求を肯定する返答をしてきて。
「・・・・・・えっと、本当に構わないのかしら?」
思わず瑠璃が青年を見つめながら訊き返すと、
「あぁ。女神『セレネ』に天使である俺が偽りを口にすることはない」
きっぱりとした口調でそう青年は断言してきたのだが。
「―――――が、そいつが女神『セレネ』に触れるのは許せねーな。何故なら俺は天使だから」
キュィ! と歓喜するかのような声を上げたハリネズミを、青年はギロリと睨み付けると、クロが施した拘束をブツッと引きちぎって見せたのだ。
その刹那―――――千切れて舞い上がったその残骸は、まるで〝漆黒の羽〟のようにも見えて。
「こんなバイオレンスな天使がどこに・・・」
冷や汗を流しながら、真昼はまた青年に突っ込みを入れると―――――
「ピュイッ」
ひと際甲高い鳴き声を上げたハリネズミは、いつの間にか檻の中から自力で抜け出してきていて。
青年と真昼―――――両者の間に飛び込むかのようにハリネズミは跳躍した直後。
人型に変わってトンとその場に軽い足取りで降り立ったのは、ボーダー柄の靴下にスニーカーを履いた人物で―――――
「〝おお運命よ、運命よ〟〝みなが汝を浮気者だと言う〟!」
と、芝居がかった口調でその台詞を紡ぎ出すと。
ウィリアム・シェイクスピア―――――とその明言を生み出した存在の名を言い足し。
「兄さんと再会するこのタイミングはどんな運命っスかね? たまには騙されて別の
「え!? え!? 騙され・・・!? って
目の前に唐突に姿を現した人物が続けざまに口にした上滑りな言葉に、真昼は驚愕の叫び声を上げる。
一方、瑠璃は―――――
「・・・・・・やっぱり、あの〝気配〟。そうだったのね・・・・・・」
青年が恐らくは武器だったのであろう、ピアノを具現化させた瞬間、『主人』ではないかと、無意識化で感じ取っていた事から、真昼のように驚くことはせず。
ポツリと静かな声音でそう呟くと、本性を現した
と―――――
「オレが5番目! 〝強欲〟の
左手の親指と人差し指で、顔に掛けていたメガネのフレームを摘まみながら、ニヤッと笑みを浮かべつつ、さらにウィンクを飛ばしてきて。
「そしてこの! 壊滅的なセンスの持ち主な天使ちゃんが
青年の事を改めて自分の主人だと、ロウレスは紹介してきたのだが。
しかし、あまりにも急展開過ぎる状況に、真昼は未だ混乱した様子で。
ちょっ・・・どういうこと・・・と呻くように漏らすと。
「ちなみにあの、助けて~~~みたいのは演技っス! いっつもケージに入れられちゃうんスよねー」
あれで通常運転っス―――――と、ロウレスは事も無げな態度のまま言い添えてきたのだ。
「噂の〝ミストレス〟ちゃんと兄さん見かけたから、うちの主人とぶつけてみたら面白いかな? っと天使ちゃんには黙っておいて一芝居・・・」
そうして全てはロウレスが仕組んだ悪ふざけだったのだと云う事が明らかになったのだが。
その事に腹を立てた主人である青年は、したり顔で話をしていたロウレスの顔面に目掛けてゴと勢いよく蹴りを繰り出してきて。
「いて――――――――――!!」
左頬を強打されたロウレスは、ドゴ――――――――――ンとそのままビルの向こう側まで飛ばされてしまい、落下して行ってしまったのだ。
「え――――――――――!?」
落ちた!! と真昼は仰天し、瑠璃もまた唖然とした面持ちで目を見開くと。
「あの・・・・・・ロウレス君って、貴方の
「あいつ嫌いだから」
イラっとした様子で顔を歪めながら青年は簡潔にそう答えたのだ。
〝嫉妬組〟―――――御国とジェジェもまた仲が良くない。
けれど〝強欲組〟の間に漂う空気は、あの二人のモノとは明らかに異なるもので。
―――――強欲の吸血鬼の主人である青年は本気でロウレスの事を嫌っているように見える。
「で・・・でも、相棒なのに嫌いなんてなんで・・・」
困惑の表情を浮かべながら、今度は真昼が強欲の吸血鬼の主人である青年に尋ねかけてみる。
すると―――――
「なぜなら俺は・・・天使だから。」
背中にある鞄の『羽』を強調するように、頭上に向かって真っ直ぐに伸ばした左腕を右手で掴みながら、強欲の吸血鬼の主人である青年はポーズを決めて、その台詞を口にしたのだ。
するとそこにいつの間にか戻って来ていたロウレスが加わり―――――
「そう! 最高!! 天使ちゃん! 超クール!! カッコイイ!! ジャパニーズKAKKOII!! この世に舞い降りちゃった最後の天使ちゃん!! 天上天下唯一無二!」
主人の傍らに腰を落としたロウレスもまた、右手を高く掲げて左腕と左脚を伸ばしつつ、きちんとポーズを取りながら茶々を入れてきたのだ。
しかし、その行動もまた主人の気に障ったようで―――――
「うるせえ、俺の視界に入るな。てめえの知り合いならさっさと言え。死ね。死ぬまで死ね」
「あいた―――――っ」
殺気だった主人によって、ドカ―――――ンと再びロウレスは勢いよく蹴り飛ばされてしまい。
―――――電波キャラ入ります・・・。
真昼はその光景を虚ろな目で見ながら心の中で呟く。
―――――バイオレンス天使・・・向き合えね―――――。
すると真昼のその気持ちを感じ取ったクロも同様に引いた面持ちでそんなふうに漏らしていて。
瑠璃もまた、えっと・・・・・・と戸惑いの表情を浮かべたものの、
「でも・・・・・・良かったわ! これでまた仲間が増え・・・・・・」
一歩前に出ると、強欲組に向かって朗らかな口調で、安堵の言葉を紡ぎ出そうとしたのだが。
「いやいや~。〝ミストレス〟ちゃん。オレ、全然協力する気ないっス! ぶっちゃけ、冷やかし気分だったんで!」
ロウレスはそれを遮って、否定の言葉を投じてきたのだ。
その言葉を聞いて「え!?」と驚愕の声を上げたのは真昼だった。
するとロウレスは瑠璃に向けていた視線をチラリと真昼に向けたものの、すぐさま瑠璃の傍らで顔を顰めながら黙り込んでいたクロに滑らせていき―――――
「っつーか仲間とか必要ないっしょ? だ―――――って〝決断〟さえできれば兄さんなら一瞬で終わるじゃないスか!」
―――――
「椿を殺すのか? 放置するのか? 今回もさっさと〝多数決〟しましょうよ!
左手の親指と人差し指と中指―――――〝3本の指〟を立てたロウレスは、それを口元に持っていくと、にぃとクロに向かって嘲るような笑みを浮かべて言った。
「ほ―――――んと怠惰の兄さんは
刹那、クロの表情は憮然としたものに変わっていて、ロウレスを睥睨した眼差しで見つめていた。
「クロ・・・・・・? ロウレス君・・・・・・?」
両者の間に漂う、不穏な空気に瑠璃が困惑の表情を浮かべると、
「おい・・・? 二人って何かあった・・・って」
真昼もまた、眉を顰めながら、その理由をクロ達に問おうとしたのだが―――――
足に纏うブーツの武器を発動させた処で、ひらりと身を翻してこの場から立ち去ろうとする、強欲の主人の姿が視界の隅に入ってきて。
「ちょっと待って、待って!! 何一人だけ帰ろうとしてんですか!」
跳び下りる前に、その左脚にしがみ付いた真昼が必死の形相で訴えかけると、
「悪魔の仲間がなんの用だ・・・」
顔を顰めながら視線を落としてきた強欲の主人である青年が口にした言葉に、「何ですかそれ!?」と思わず真昼は突っ込みを入れてしまう。
けれど、そのすぐ後―――――
「椿に対抗するために協力したいんですっ・・・」
そう真昼は告げると、強欲の主人である青年は眉を顰め、
「ツバキ? 何だ・・・花?」
「えっ、知らない・・・?!」
身体を起こした真昼は、返ってきた答えに呆然と目を見開いてしまう。
「俺達に攻撃をしてきたのも椿の下位とまちがえたんじゃ・・・」
「俺が吸血鬼を攻撃するのに理由なんかねーよ」
強欲の主人である青年は真昼に対して否定をした処で、瑠璃のほうに視線を向けると、
「そして女神『セレネ』に俺が危害を加えることはありえない。なぜなら俺は天使だから・・・」
先に天使宣言をした時と同様の決めポーズを取りながらそう告げてきたのだ。
その時、その足元にはハリネズミの姿も在り「そう・・・天使・・・」とちょっかいを出そうとしていたのだが。てめーは黙れと右脚で踏みつけられてしまっていて。ムギュと呻き声を漏らしていたのだった。
「あの、私は女神じゃなくて人間なんですけど・・・・・・」
「そのネタ、もういいんで・・・」
そして瑠璃と真昼は強欲の主人である青年の言動に、やはり戸惑いを覚えつつ、順に口を開くと。
「・・・・・・」
ビキ・・・と怒りの形相になった強欲の主人である青年から睨み付けられたのは真昼で。
「うわあ、すみません、すみません」
―――――俺、この人苦手だ・・・・。
―――――わけ、わからん・・・。
その迫力に恐れをなしてしまった真昼はすかさず謝罪を行うと、
「椿に対抗するために協力したいんです。あなたのサーヴァンプだってこれから狙われると思うし・・・っ」
「吸血鬼を殺す方法があんのか?」
此方側の事情を説明した真昼に対し、青年が訊き返してきたのは不穏とも言える事柄だったのだが。
「えっ・・・と、契約のときに名前と物をあげたと思うんですけど。それを壊されると吸血鬼の力は・・・」
しかし、伝えなければ〝色欲組〟の二の舞にも為りかねないという可能性もある事から、真昼はそれを話したものの。
「そうすればあのクズネズミを殺せんのか・・・」
凍てついた眼差しで、ロウレスを見遣りながら主人である青年が漏らした言葉に。
―――――瑠璃姉、これって教えちゃいけないことだった・・・・・・!?
―――――・・・・・・う、うん、きっと大丈夫よ、真昼君。ほらっ、ケンカする程仲が良いって言うじゃない?
絶句した面持ちになった真昼と思わず当惑の表情になってしまった瑠璃は目で語り合う。
と―――――
「くはは。協力なんてムリムリっスよ! どーせ意見が割れてめんどいんスから!」
人型に戻っていたロウレスは右手を下げながら左腕を上げつつ、馬鹿にするかのように笑い声を上げながら話しかけてきて。
「ねぇ兄さん?」とクロに対し、同意を求めるように呼び掛けると、
「今、兄さんとこには傲慢と色欲と・・・あと嫉妬かな? いるらしーじゃないっスか。
「・・・前回の定例会議には暴食と憤怒も来たぞ・・・」
厭味を含んだ口調で話しかけてきたロウレスに対し、クロは低い声で淡々と応じる。
「あーそうらしいっスね! あの二人はなー、頭回るタイプじゃないっスからねー。噂になっていた〝ミストレス〟ちゃんと兄さんが『誓約』を結んだりしたから、来たんじゃないっスか?」
ニヤッと笑みを浮かべながらロウレスは瑠璃を見遣ると、クロの方に向かって近づいていき。
「あの2人だって
―――――と、嘲笑するかのような笑みを浮かべながら、視線を合わせようとしないクロの顔を覗き込むようにしつつ、挑発するかのようにそう言ったのだ。
―――――なんだ?
―――――このロウレスってクロと仲悪い・・・?
両者の間に漂う、険悪な雰囲気に真昼は眉を顰める。
「おいっ・・・〝ロウレス〟! 何の話をしてんだよ!?」
一触即発に為りかねない状況にばっと真昼は割って入ると、瑠璃はクロの傍らに並んで手を取る。
ぴくっと肩を震わせると目を見開いたクロの右手が瑠璃の左手を握り返す。
その様子を視界の隅で確認した真昼は小さく息を吐き出すと、ロウレスを見据えながら言葉を紡ぎ出す。
「俺がクロの
「クロの〝ミストレス〟の瑪瑙瑠璃です」
真昼に続き、瑠璃も名前を名乗ると―――――
「〝ロウレス〟君・・・・・・貴方のその名前って、通り名よね? 今の名前はなんていう・・・・・・」
ロウレスを見つめながら、主人である青年から付けられた名前を聞こうとしたのだが。
「〝ああロミオ! あなたはどうしてロミオなの?〟 〝名前ってなぁに?〟 〝バラと呼んでいる花を別の名前にしてみても美しい香りはそのまま〟」
右手を掲げるようにしながらバサと首に巻いたマフラーを翻すと、左腕で首元にある裾を抱き寄せるようにしながら演劇の一説を口にする。
それはシェイクスピア作『ロミオとジュリエット』より引き出されたものだったのだが。
いきなり目の前で繰り広げられた芝居に瑠璃は「え・・・・・・?」と目を瞬かせ、真昼は「は・・・・・・?」と眉根を寄せてしまう。
「〝ミストレス〟ちゃん。名前なんていちいち覚えなくていいっスよ!
するとロウレスはさり気なく右手でマフラーの襟を整える仕草をしつつ、嘲笑うかのような笑みを浮かべた口元を隠しながら告げてくる。
―――――変わる・・・・・・?
そんなロウレスに対し瑠璃と真昼は揃って困惑の表情を浮かべてしまう。
「・・・・・・ロウレス君、それってどういう」
そして瑠璃がロウレスに向かって、再度その真意を尋ねようとしたのだが―――――
「あ―――――っ! バイトの時間っス! 店長に怒られる!」
ふと、右手をズボンのポケットに入れると取り出したスマホで時間を確認したロウレスは、やっべぇと左手で頭を抱える仕草をすると。まだ入って3日目なのに―――――と喚き始めてしまい。
「は!? バイト!?」
真昼がその言葉に瞠目の表情を浮かべると、
「そんじゃっ」
右手を挙げながらこの場からロウレスは立ち去ろうとしていて。
「ちょっ・・・って天使の人はすでにいないし!!」
ロウレスに気を取られていた間に主人である青年のほうはあの後、さっさとこの場から姿を消してしまっていたようで。
「待てよ! 俺達・・・お前にも協力してほしくて・・・っ」
咄嗟に真昼は左手を伸ばすとロウレスの右手首をガと掴んで引き留めながら懸命に訴えかけたのだが―――――。
「・・・あーあ。これが兄さんの
そんな真昼の顔をロウレスは落胆したかのような面持ちで見返しながらそう呟くと。
「・・・・・・〝ミストレス〟ちゃんも噂に聞いていた通り、その〝血〟だけは良いモノみたいっスけど・・・・・・。それ以外は、平均的な感じだし。兄さんは本当にどういうつもりで〝ミストレス〟ちゃんと『誓約』を結んだりしたんスかね・・・・・・」
瑠璃とクロに視線を滑らせていき、それから顔を顰めながら二人の繋がれたままだった手を一瞥すると、
「はいはい、離してっ! 遅れちゃうじゃないっスか!」
鬱陶しいと言わんばかりの態度で、ロウレスは真昼に掴まれたままだった自身の右手を翻す。
そこでぱっと反射的に真昼はロウレスの手を離してしまった事により、引き留めることが出来なくなってしまい。
「―――――待ってっ! ロウレス君・・・・・・っ」
ビルから飛び去ってしまったロウレスの背に向かって瑠璃が叫ぶも、ロウレスは振り返ってくることなく。
右の端が僅かに欠けてしまった下弦の月の向こう側に、そのまま姿を消してしまったのだ。
【本館/20・2/14掲載/別館/20・2/15転記】
