第十二章『天使か悪魔か』
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天使か悪魔か
夜の街並みが一望できるビル街の一角―――――そこに首に巻いたマフラーをまるで悪魔の羽根の如く風に靡かせながら降り立った一人の吸血鬼の姿が在った。
「ジャパンは治安が良い所為か、夜になっても何処も彼処も人で賑わってるっスね」
つい先日まで、吸血鬼たる彼は主人である少年とオーストラリアに居たのだが、その主人が日本で仕事をすることになった事から共に此方へやって来たのだ。
「天使ちゃんがこの国にいる間、オレはまたバイトとかやって過ごすとして・・・・・・。そのついでに噂の〝ミストレス〟ちゃんがどんな子か、見てみるのも良いかもしれないスね」
この街の何処かにいるらしい。という情報だけはもうすでに掴んでいる。
けれど―――――
「―――――Expectation is the root of all heartache. ―――――」
ふと、愉しげだった顔から一変して、冷めた表情を彼は浮かべると呟いた。
〝ミストレス〟と『誓約』を結んだのは、あの〝兄〟なのだという。
つまり〝ミストレス〟の傍らには、〝兄〟の姿が在る可能性があるわけなのだが―――――
「ま、兄さんが如何いうつもりで、〝ミストレス〟と『誓約』を結んだのかなんて、オレには関係ないっスけどね・・・・・・」
そうしてその場から彼はまた跳躍すると、夜の街の中に姿を消したのだ。
―――――それから3日後。運命の舞台の幕が上がることとなる。
拠点を構えた白ノ湯温泉に、色欲組が合流してから程なくして。
その大部屋には、泊まり込みだからいうことで、御園専用のベッドが持ち込まれ。さらに温泉にはクロだけでなく、リリイまでもまた一緒に浸かりに行くようになり。
「旅行じゃないんだからな! 少しは危機感を・・・」
浴衣姿でほっこりと過ごす吸血鬼二人の姿を見て、真昼が耐え切れなくなった様子でそんな突っ込みを入れると。
「城田。貴様、危機感と言うが具体的にはどうするつもりなんだ?」
御園が眉を顰めながらその問いを投げかけてきたのだ。
しかし、それに対して真昼は即答することが出来ず、えっ・・・と思わず戸惑いの表情を浮かべると、
「貴様はいつもそうだ。やる気ばかりで計画に具体性がない」
「だっ・・・・だって・・・それはそのシンプルに考えて・・・」
「サーヴァンプ7人を集めることはもちろんだが、こちらからも椿達側にアクションを起こすべきだ。でないと・・・また僕とリリイのように後手にまわることになる」
真昼が立てた計画に足りない部分を、御園が厳しい顔つきで指摘する。
御園と再契約を結んだものの、リリイの状態はやはり完全に戻ることはなく、いまも話に加わることをせず、ぼ―――――っと開け放たれた窓の向こう側の景色を眺めていた。
「リリイ、そのままだと湯冷めしちゃうから、これ上に羽織ったほうが良いわよ」
そんなリリイの様子を目にした瑠璃が、眉を下げながら羽織を差し出すと、
「おや・・・・・・すみません、瑠璃さん」
ゆっくりと目を瞬かせたリリイは淡い笑みを浮かべると、それを受け取って上に羽織った。
その後、そのまま瑠璃がリリイの近くに膝を折って座ると、ぴょこんと膝の上に黒猫が乗ってきて。甘えるように転がった黒猫の仕草に瑠璃は微苦笑を零しながら、その身体を右手で撫でていたのだが―――――。
「まずは椿の下位吸血鬼 を一人捕まえる。あるいは・・・後をつける。そうして敵の目的や拠点を探る必要があるだろう」
「・・・・・・っ」
ふと、耳朶に届いた御園の言葉に思わず瑠璃は目を見開くと動きを止めてしまう。
けれど―――――
「・・・・・・瑠璃、貴様の『力』をその為に使って貰う必要が出てくるかもしれない」
次いで御園の口から紡ぎ出された言葉に、ギュッと瑠璃は胸元の『鍵』を握りしめると、
「―――――大丈夫よ、御園君。〝椿〟を〝止める〟為には〝みんな〟で〝協力〟をしなければ意味がないって分かってるから」
複雑な色を浮かべた御園の瞳を見つめ、やんわりとした口調で頷く。
と―――――
「それならちょうど良い情報があるのじゃ」
そこにタイミング良くと言うべきなのだろうか、窓の向こう側からバサと羽音を響かせながら話し合いの場に居なかった蝙蝠が姿を見せたのだ。
「ヒュー! どこ行ってたんだよ、一人で出たら危ないだろ?」
「情報収集に行ってきたのじゃぞ。感謝するのじゃ」
バサッと羽を翻した処で人型に戻ったヒューは、眉を顰めながら声を掛けてきた真昼に対し、右手に煙管を持ちながら不遜な口調で告げてくる。
「我が輩の下位吸血鬼 達に情報を集めてもらっていたのじゃ。古き良き手法、人海戦術じゃ」
土足のままだったヒューは鉄によって膝の上に抱え上げられ、靴を脱がされたのだが、その間も尊大な態度は変わることはなく。
そんなヒューの口から聞かされた言葉に、マジかよ・・・アナログだ・・・と呆然とした面持ちで真昼が呟く。
「ある場所で働いておる下位 から怪しい人物を見たとの情報が入っておるぞ」
そうしてもたらされた情報の真偽を確かめる為に、すぐさまその下位が働いている店に向かうことを決めたのだが―――――
ヒューの案内によってその店に到着した瞬間、真昼の顔が緊張した面持ちから一変して唖然としたものになったのは仕方が無い事なのかもしれない。
「・・・・・・噂に名高い〝ミストレス〟様にまで、まさか来て頂けるなんて。オレ、傲慢の下位吸血鬼 の相模と言います」
ヒューの下位吸血鬼 ―――――相模は吸血鬼らしさを誇るヒューとは対照的に、イマドキの若者らしく茶色の髪の毛に緩くパーマをかけている青年だった。
そして左手を頭に据えた相模は声を僅かに上擦らせつつ、そんなふうに挨拶をすると。早速、目撃情報を語り始めたのだが―――――
「とにかく強いんですよ! 見たんですもん、そいつが下位をぼこぼこにしたのを! 普通の人の域じゃないですよ! 空飛びましたもん!!」
「空・・・ねぇ・・・それでそいつが・・・」
カウンター越しに話を聞いていた真昼が顔を引きつらせながら聞き返す。
「このカラオケに最近よく来るんですよ!!」
オレ、いつ吸血鬼だって気付かれて殺られるかと・・・!! と、思い出した様子で怯えた表情になった相模に対し、しかし真昼は我慢の限界だと言わんばかりに左手を握り拳にすると、
「吸血鬼関係の人はどいつもこいつもこう平和ボケなの!!?」
カウンター越しに身を乗り出すようにしながら、呆れと苛立ちが混ざった眼差しでそんな突っ込みを入れたのだ。
その時、『作戦参謀』という立場になった御園はというと、初めて訪れたカラオケ店の中を、緊張した面持ちで見回していて。黒猫を腕に抱いた瑠璃は、真昼の隣で苦笑を零すしかなかったのだった。
その後、一同は空いていた一室に身を潜めて目的の相手が来るのを待つことにしたのだが、せっかく来たのだから歌わない手はないじゃろうというヒューの発言により、吸血鬼達のカラオケ大会が始まってしまった為。一旦、その場を発案者の主人である鉄に任せて真昼達はドリンクバーに飲み物を取りに来たのだが―――――
「・・・はぁ、ほんとに来るのかなー。てか怪しい人ってそれ本当に敵の吸血鬼なのか・・・。瑠璃姉はどっちだと思う?」
「どちらとも、言い切れないわね・・・・・・」
げんなりとした様子で真昼が漏らした言葉に瑠璃は眉を下げながら応じる。
ハッキリと言い切れない理由は、椿ならたとえ戦争中であろうと、カラオケに下位のメンバーと連れ立って来ていたとしても可笑しくはないという可能性があるかもしれないからだった・・・・・・。
と―――――
「・・・なんだ・・・? この機械は・・・一体・・・・・・」
真昼と瑠璃が会話をしていた間に、御園はカップを手に持ちながらドリンクバーの機械に近づいていったのだが。使い方が解らずに困惑した面持ちで硬直してしまっていて。
『押す』・・・? どうなるんだ・・・? と、じり・・・と指を伸ばそうとしながらも躊躇っている御園に対して真昼が苦笑いを浮かべると、
「ボタン押せばジュース出るよ、御園」
その一言により、御園が無事にドリンクバーを攻略した処で。
真昼と瑠璃もまた、部屋に残っている他のメンバーの分の飲み物も持っていく為に、お盆を二枚とカップを6個用意してから飲み物を順に注ぎつつ。
改めて御園の口から、現在のリリイの容態を聞いたのだが―――――
「・・・リリイと僕が戦うのはしばらくムリだ。武器 が長時間出せないんだ。簡単な幻術は短時間ならできるようだが・・・。血を飲ませて何度か試したが前に見せたような威力のある技は出せないみたいだ」
「攻撃はできないってことか。・・・灰塵 が抜けちゃったから・・・だよな?」
「おそらくな。なくなった力が戻るのか・・・もっと吸血鬼 について知る必要があるな」
眉を寄せながら真昼が口にした言葉に御園が応じる。
―――――話してねーことはけっこーある・・・―――――
―――――でも、たぶん話さなねぇ―――――
そこで、ふと真昼の意識の内に過ったのは先日、C3に連れて行かれた際にクロが口にした言葉だった。
「・・・吸血鬼 って昔に何かあったみたいだよ・・・な・・・?」
視線を落とした真昼が呟いた言葉に、瑠璃もまた眉を下げながら心中で呟く。
―――――・・・・・・クロが〝何か〟を心の中に抱えていて。その事を私と真昼君に話すのを〝怖がっている〟というのは確かだわ。
と―――――
「僕も・・・そう思う。何か僕らに話したくないことなのか・・・」
御園が口を開いた。
その時、御園が思い出していたのは、リリイの中に飲み込まれた時に目にした、吸血鬼 も〝もとは人間だった かもしれない〟という過去の記憶だった。
「御国さんに連絡がつけばいいんだけどな。吸血鬼には詳しいって自分で言ってたし。でも電話に出てくれないんだよな・・・」
ふと、真昼が顔を上げると漏らした言葉に瑠璃も続いて口を開く。
「そうなのよね、私のほうからはメールを御国さんにしてみたのだけど、そっちも返信はこないのよ・・・・・・。でも、御園君も御国さんと話がしたいわよね・・・・・・」
「・・・!」
すると御園は肩を震わせ、動揺した面持ちで此方を見返してきたのだが、
「別に・・・僕のことは後でいいんだ。とにかくこの吸血鬼の問題が先だ」
すぐさま眉を吊り上げてそう言い切ると、部屋に向かって行ってしまう。
けれど―――――
お盆の上に3個ずつ、飲み物が入ったカップを乗せた真昼と瑠璃が、御園の背中を追いかけて歩き出しながらその時に抱いた思いは同じもので。
―――――御園は本心では兄である御国と早く会いたいと思っているだろうというものだった。
それから部屋に戻った後も、吸血鬼達によるカラオケ大会は続き―――――
「・・・そろそろ10時になるわね」
「今日は来ないのかもな・・・来る可能性のほうが低いと思ってたけど」
万が一、件の相手が来た際にはフロントからすぐに連絡が来る手はずになっていたもののそれはなく。スマホで時刻を確認してみると、気づけば9時56分が表示されていて。
瑠璃と真昼が眉を顰めながら、溜息交じりに言葉を交わし合うと、瑠璃の斜め前の席に座っていた鉄が、
「こんな時間までカラオケにいてオレ平気かな」
「世界を守るためじゃぞ! 店員の相模にも言ってあるし平気じゃろう」
右手を後頭部に据えながら、視線を落としつつ鉄が洩らした言葉に蝙蝠が返答する。
そこで鉄の実年齢をつい先日知った瑠璃は、その会話から鉄が何を言わんとしているのか察したのだが―――――。
「え? 何で? 高校生でもまだ平気な時間じゃ・・・」
その事実を知らない真昼が不思議そうな顔で鉄を見遣ると、
「いやオレ、まだ14になったばっかだけど」
「・・・・・・ん!?」
「中2だけど・・・」
呆然とした表情になった真昼に、鉄もまた不思議そうな表情を浮かべながら、学年もまたさらに口にする。
「「中学生!?」」
その直後、真昼と共に愕然とした表情となりながら声を上げたのは御園だった。
「嘘だろ・・・高校生だと思ってた・・・」
「ぼ・・・僕だって来年か再来年には奴くらい大きくなると信じていたのに・・・」
それから二人揃って、実は鉄が自分達よりも年下だったという事実に精神的ダメージを負った様子で、ぐ・・・っと項垂れてしまう。
「えと・・・・・・二人とも大丈夫?」
瑠璃が眉を下げつつ微苦笑を零すと、隣に座っていたクロがテーブルの上に伸びつつ、上目遣いに視線を向けながら尋ねかけてくる。
「瑠璃は驚かねぇんだな、もしかして知ってたのか?」
「えぇ。この前、鉄君から教えて貰ったから」
瑠璃自身も聞いた時に驚きはしたものの、まさか真昼達がここまでショックを受けるとは想定していなかったのだが。
それからはたと、瑠璃は思い出した事柄を口にする。
「そういえば御園君・・・・・・9時過ぎてるけど、寝なくても平気なの?」
「何を言ってるんだ、瑠璃。9時に眠ってしまうなんてどこの子供だ?」
と、いつもの調子に戻ったらしい御園が、腕組みをしながらはんっと呆れた様子で応じてくる。
それに対して気を取り直した真昼が「この前までのお前だよ」と突っ込みを入れると。
「僕も成長したんだ。9時きっかりに寝るようなことはもう・・・」
得意げな表情で御園はそう宣言しようとしたのだが、最後まで言い終えることなく、ぱたりっとテーブルの上に突っ伏してしまったのだ。
「わあ!?」
「大丈夫、御園君!?」
仰天した真昼に続いて、瑠璃もまた御園の様子を見る為にソファーから立ち上がると、
<おやいけません。もう10時ですね>
慌てた様子で御園の頭上を旋回した蝶の台詞に対し、
「1時間しか延長してねーじゃん!!」
再び真昼の突っ込みが入ったのは言うまでもない。
そして―――――
「よし、じゃあ今日は帰るか」
カラオケ大会の終了を宣言したのは、歌い疲れてしまった為にぐで~~~んと伸びてしまった蝙蝠を頭に乗せて、常に持ち歩いている自身の武器である棺桶に付けていた皮ベルトの長さを調節し直して腰にぶら下げた上で、さらに眠ってしまった御園までも背中に背負った鉄だった。
ちなみに、本来ならば御園の保護者代わりであった筈のリリイもまた、カラオケ大会で体力を消耗してしまったようで、蝶の姿で御園のアホ毛の先に止まって眠ってしまっている状態で。
事情を知らない人間が見れば、間違いなく鉄のほうが年長者に見えてしまうであろう。
「色々任せちゃって悪いな鉄・・・」
そんな光景に真昼は複雑な面持ちで鉄を見遣りつつも労いの言葉を口にする。
一方、黒猫を肩に乗せた瑠璃は最後に退室をする前に忘れ物が無いかの確認をしていたのだが―――――
その時、部屋に設置されたフロントとの連絡用の電話が鳴り響いたのだ。
「はい。すみません、今、出ます・・・」
そこで受話器を取った瑠璃が返答をすると、
『いやっ・・・来ました!! 来ましたよ!!』
連絡をしてきた相模は、裏返った声音でそう告げてきたのだ。
けれど希望する大部屋が空いていなかった為に今日は帰るのだという。
「真昼君!! 相模さんから連絡が!! 目撃した人物が来たって!!」
「ホントか、瑠璃姉!!」
今なら、未だ追いかけることが出来る。
「鉄!! 来た!! 俺と瑠璃姉とクロの三人で追う!!」
そこで先に階段を降り始めていた鉄に真昼はそう宣言をすると、その後は瑠璃と共に階段を全速力で降りて行ったのだが。
「来たって・・・何が?」
すでに鉄は此処を訪れていた目的をすっかり忘れてしまっていて。
首を傾げながら真昼達を見送ったのだった。
「瑠璃姉、特徴は・・・・・・!?」
「黒い暑そうな服を着ていて、あと・・・・・・羽が―――――・・・・・・」
キョロッと周囲に視線を巡らせながら問いかけてきた真昼に瑠璃は相模から聞いた特徴を上げる。
すると真昼から「羽!?」と困惑の声が上がったのだが―――――
その数秒後、ふと前方を歩いていた青年に視線を留めた真昼の表情が引き攣ったものになる。
「・・・羽だ・・・」
青年の背中には、『羽』が生えた可愛らしい鞄が在ったのだ。
わかりやすっ・・・と冷や汗をかきながら、その後ろ姿を真昼が凝視する一方で、
「おい、あいつあぶねーぞ。関わらないほうがいい雰囲気・・・」
天使かもしれね―――――と瑠璃の肩の上に乗っていた黒猫が身体を微かに震わせながら小声で言う。
それに対して「お前が言うな吸血鬼!!」と真昼が小声で突っ込みを返す。
そんな二人のやり取りに苦笑を浮かべつつ、瑠璃もまた青年の事を注視していたのだが。
「・・・・・・あれ? 左手にあの人、何か持って・・・・・・」
―――――鉄の檻に・・・・・・ハリネズミ?
あの青年のペットだろうか、という考えが瑠璃の頭に浮かんだのだが。
「ねぇ、クロ、真昼君。あのハリネズミさん・・・・・・何かジェスチャーしてる気がするんだけど・・・・・・?」
こちらの存在に気付いたらしいハリネズミもまた、「キュイッ」と短い鳴き声を上げると、前足をじたじたと必死に振り上げて何かの合図を送ってきたのだ。
「あれ・・・あいつ・・・」
「もしかしてサーヴァンプ!?」
瑠璃の言葉により、ハリネズミの存在に気付いたクロと真昼もまた、その姿をじっと建物の陰から見つめる中―――――導き出された『答』があのハリネズミもまた『吸血鬼 』ではないかというもので。あのジェスチャーは、此方に対して助けを求めてきているのだとしたら。今の自分たちがすべきことは決まっている!
「行きましょう、クロ! 真昼君!」
「そうだな、瑠璃姉! 後を尾けて隙を見て助ける!」
しかし、やはりというべきか瑠璃の言葉に力強く頷いたのは真昼だけで、クロは「え―――――」と乗り気でない返事しかしなかったのだった。
「ヒューの下位 の情報は正しかったんだ。やっぱ仲間は大事だなー」
尾行中、木の陰から少しだけ顔を覗かせつつ、真昼は感慨じみた口調で言った。
「クロは下位吸血鬼 いねーの?」
そしてふと浮かんだ疑問を続けて口にしたのだが―――――
「・・・いねーよ、めんどくせー」
瑠璃の肩に乗っていた黒猫が半眼で真昼を見遣りながら応じると、
「えっ、1人も?」
「オレはリリイみてぇに〝イイ吸血鬼〟でもねーし」
瑠璃の肩から下りて人型に戻ったクロが漏らした言葉に、真昼は「イイ吸血鬼って・・・なんだよそれ・・・」と眉を顰めてしまう。
するとクロは淡々とした口調で告げてくる。
「・・・知ってんだろ。下位吸血鬼 は死にかけた人間や、死んだ直後の人間に真祖の血を飲ませると作れるって。・・・その人間がもっと生きたいと思ってるかなんて誰にわかんだよ? オレにはわからねぇよ。考えるのもめんどくせぇ。向き合えねぇよ」
―――――下位 にするということは、その延命をした相手に対しての〝責任〟を請け負うことになる。
―――――〝怠惰〟の真祖であるクロにとって、そんな相手の〝命〟と〝想い〟を背負うことこそ、もしかしたら最も荷が重いことなのかもしれない。
クロが紡ぎ出した言葉に、真昼が困惑の表情を浮かべてしまった一方で、瑠璃はそんな想いを心中で巡らせながら、眉を下げつつクロを見つめる。
と―――――
「・・・・・・瑠璃、そこの自販機でジュース買うの付き合ってくれるか・・・・・・」
瑠璃の視線に気づいたクロは瑠璃の左手を右手で握りながらそう告げてきて。
「え? えぇ・・・・・・・」
唐突なクロからの申し出に、瑠璃は目を瞬かせつつも頷き返すと。
「真昼、小銭もらうぞ」とクロは自販機があるほうに踵を返す前に、真昼が羽織っていたジャージの上着のポケットの中を左手で探りながらそう言い。
「ちょっ・・・クロ!! 尾行の途中でジュース買う奴がいるか!」
その行動に対して真昼は、驚きながらすぐさま突っ込みを入れたものの、耳を貸す様子が無いクロに代わって「ごめんね、真昼君」と瑠璃が詫びを口にすると。
「―――――瑠璃姉が謝る必要は無いよ。ただ、クロはすぐそうやってはぐらかすから・・・・・・」
真昼は嘆息交じりにそう言いながら、クロがジュースを買いに行く事を許したのだが。
―――――・・・・・・そっか・・・下位 はいないのか。
―――――クロってめったに自分の話しないな・・・。
―――――瑠璃姉に対しては、もうちょっとちゃんと話したりしてるのか?
瑠璃を連れてジュースを買いに行ったクロの背中を見ながら真昼は逡巡する。
「っとに・・・瑠璃が一緒とはいえ、こんな下手な尾行なんかして大丈夫かよ・・・」
それから程なくして此方に戻ってきた処で、めんどくせ・・・とジュースを飲みながら不満を漏らしたクロに対して真昼は―――――
「御園とリリイは今戦えないし、それに鉄が年下って聞いちゃったら・・・瑠璃姉と俺が行動するしかないだろ! それに・・・瑠璃姉だけじゃない。俺とお前の3人だろ! クロにとって俺はまだ頼りないかもしんねーけど・・・俺もクロとちゃんと向き合っていきたいって思ってっからな!」
真っ直ぐにクロを見据えて真昼はそう宣言すると、尾行を再開して目線をまた前方に向けていく。
「そーゆーの・・・ほんと向き合えねー・・・」
その為、苦い表情でクロがそう呟いた姿を目にしたのは瑠璃だけだった。
「・・・・・・―――――クロ」
静かな声音で瑠璃はクロの名前を呼ぶと、今度は自分から左手を伸ばしてクロの右手を握りしめる。
―――――少しでもクロの気持ちが楽になるように。
「・・・・・・ありがとな、瑠璃・・・・・・」
そうして繋がれた手から感じた温もりに、クロはゆっくりと目を伏せると小さく息を吐き出す。
それから木の陰から様子を窺う真昼の傍にまた瑠璃と共に近づいていく。
その時、真昼の視線は尾行対象に向けられたままではあったのだが―――――
―――――C3に行った時も思ったけど、俺まだ吸血鬼のこと全然知らないんだ。
―――――きっと・・・日本生まれじゃないよな?
―――――・・・とそう思うと、この辺に吸血鬼やその主人や椿。
―――――〝ミストレス〟である瑠璃姉も含めて。
―――――・・・みんなが集まってるみたいでなんか妙な感じ・・・。
真昼の心中にもまた、もやもやとした感情が渦巻いていた。
その時、ふいに尾行対象が路地の角を右折してその姿が見えなくなってしまい。
咄嗟に、たっと駆け足で真昼もまたその路地を曲がると―――――
「なんだお前。天使か? 悪魔か?」
尾行対象だった青年がそこで待ち構えていて。
―――――鋭い目つきで真昼を睨み付けると、そんな問いを投げかけてきたのだ。
【本館/20・2/5掲載/別館/20・2/5転記】
夜の街並みが一望できるビル街の一角―――――そこに首に巻いたマフラーをまるで悪魔の羽根の如く風に靡かせながら降り立った一人の吸血鬼の姿が在った。
「ジャパンは治安が良い所為か、夜になっても何処も彼処も人で賑わってるっスね」
つい先日まで、吸血鬼たる彼は主人である少年とオーストラリアに居たのだが、その主人が日本で仕事をすることになった事から共に此方へやって来たのだ。
「天使ちゃんがこの国にいる間、オレはまたバイトとかやって過ごすとして・・・・・・。そのついでに噂の〝ミストレス〟ちゃんがどんな子か、見てみるのも良いかもしれないスね」
この街の何処かにいるらしい。という情報だけはもうすでに掴んでいる。
けれど―――――
「―――――
ふと、愉しげだった顔から一変して、冷めた表情を彼は浮かべると呟いた。
〝ミストレス〟と『誓約』を結んだのは、あの〝兄〟なのだという。
つまり〝ミストレス〟の傍らには、〝兄〟の姿が在る可能性があるわけなのだが―――――
「ま、兄さんが如何いうつもりで、〝ミストレス〟と『誓約』を結んだのかなんて、オレには関係ないっスけどね・・・・・・」
そうしてその場から彼はまた跳躍すると、夜の街の中に姿を消したのだ。
―――――それから3日後。運命の舞台の幕が上がることとなる。
拠点を構えた白ノ湯温泉に、色欲組が合流してから程なくして。
その大部屋には、泊まり込みだからいうことで、御園専用のベッドが持ち込まれ。さらに温泉にはクロだけでなく、リリイまでもまた一緒に浸かりに行くようになり。
「旅行じゃないんだからな! 少しは危機感を・・・」
浴衣姿でほっこりと過ごす吸血鬼二人の姿を見て、真昼が耐え切れなくなった様子でそんな突っ込みを入れると。
「城田。貴様、危機感と言うが具体的にはどうするつもりなんだ?」
御園が眉を顰めながらその問いを投げかけてきたのだ。
しかし、それに対して真昼は即答することが出来ず、えっ・・・と思わず戸惑いの表情を浮かべると、
「貴様はいつもそうだ。やる気ばかりで計画に具体性がない」
「だっ・・・・だって・・・それはそのシンプルに考えて・・・」
「サーヴァンプ7人を集めることはもちろんだが、こちらからも椿達側にアクションを起こすべきだ。でないと・・・また僕とリリイのように後手にまわることになる」
真昼が立てた計画に足りない部分を、御園が厳しい顔つきで指摘する。
御園と再契約を結んだものの、リリイの状態はやはり完全に戻ることはなく、いまも話に加わることをせず、ぼ―――――っと開け放たれた窓の向こう側の景色を眺めていた。
「リリイ、そのままだと湯冷めしちゃうから、これ上に羽織ったほうが良いわよ」
そんなリリイの様子を目にした瑠璃が、眉を下げながら羽織を差し出すと、
「おや・・・・・・すみません、瑠璃さん」
ゆっくりと目を瞬かせたリリイは淡い笑みを浮かべると、それを受け取って上に羽織った。
その後、そのまま瑠璃がリリイの近くに膝を折って座ると、ぴょこんと膝の上に黒猫が乗ってきて。甘えるように転がった黒猫の仕草に瑠璃は微苦笑を零しながら、その身体を右手で撫でていたのだが―――――。
「まずは椿の
「・・・・・・っ」
ふと、耳朶に届いた御園の言葉に思わず瑠璃は目を見開くと動きを止めてしまう。
けれど―――――
「・・・・・・瑠璃、貴様の『力』をその為に使って貰う必要が出てくるかもしれない」
次いで御園の口から紡ぎ出された言葉に、ギュッと瑠璃は胸元の『鍵』を握りしめると、
「―――――大丈夫よ、御園君。〝椿〟を〝止める〟為には〝みんな〟で〝協力〟をしなければ意味がないって分かってるから」
複雑な色を浮かべた御園の瞳を見つめ、やんわりとした口調で頷く。
と―――――
「それならちょうど良い情報があるのじゃ」
そこにタイミング良くと言うべきなのだろうか、窓の向こう側からバサと羽音を響かせながら話し合いの場に居なかった蝙蝠が姿を見せたのだ。
「ヒュー! どこ行ってたんだよ、一人で出たら危ないだろ?」
「情報収集に行ってきたのじゃぞ。感謝するのじゃ」
バサッと羽を翻した処で人型に戻ったヒューは、眉を顰めながら声を掛けてきた真昼に対し、右手に煙管を持ちながら不遜な口調で告げてくる。
「我が輩の
土足のままだったヒューは鉄によって膝の上に抱え上げられ、靴を脱がされたのだが、その間も尊大な態度は変わることはなく。
そんなヒューの口から聞かされた言葉に、マジかよ・・・アナログだ・・・と呆然とした面持ちで真昼が呟く。
「ある場所で働いておる
そうしてもたらされた情報の真偽を確かめる為に、すぐさまその下位が働いている店に向かうことを決めたのだが―――――
ヒューの案内によってその店に到着した瞬間、真昼の顔が緊張した面持ちから一変して唖然としたものになったのは仕方が無い事なのかもしれない。
「・・・・・・噂に名高い〝ミストレス〟様にまで、まさか来て頂けるなんて。オレ、傲慢の
ヒューの
そして左手を頭に据えた相模は声を僅かに上擦らせつつ、そんなふうに挨拶をすると。早速、目撃情報を語り始めたのだが―――――
「とにかく強いんですよ! 見たんですもん、そいつが下位をぼこぼこにしたのを! 普通の人の域じゃないですよ! 空飛びましたもん!!」
「空・・・ねぇ・・・それでそいつが・・・」
カウンター越しに話を聞いていた真昼が顔を引きつらせながら聞き返す。
「このカラオケに最近よく来るんですよ!!」
オレ、いつ吸血鬼だって気付かれて殺られるかと・・・!! と、思い出した様子で怯えた表情になった相模に対し、しかし真昼は我慢の限界だと言わんばかりに左手を握り拳にすると、
「吸血鬼関係の人はどいつもこいつもこう平和ボケなの!!?」
カウンター越しに身を乗り出すようにしながら、呆れと苛立ちが混ざった眼差しでそんな突っ込みを入れたのだ。
その時、『作戦参謀』という立場になった御園はというと、初めて訪れたカラオケ店の中を、緊張した面持ちで見回していて。黒猫を腕に抱いた瑠璃は、真昼の隣で苦笑を零すしかなかったのだった。
その後、一同は空いていた一室に身を潜めて目的の相手が来るのを待つことにしたのだが、せっかく来たのだから歌わない手はないじゃろうというヒューの発言により、吸血鬼達のカラオケ大会が始まってしまった為。一旦、その場を発案者の主人である鉄に任せて真昼達はドリンクバーに飲み物を取りに来たのだが―――――
「・・・はぁ、ほんとに来るのかなー。てか怪しい人ってそれ本当に敵の吸血鬼なのか・・・。瑠璃姉はどっちだと思う?」
「どちらとも、言い切れないわね・・・・・・」
げんなりとした様子で真昼が漏らした言葉に瑠璃は眉を下げながら応じる。
ハッキリと言い切れない理由は、椿ならたとえ戦争中であろうと、カラオケに下位のメンバーと連れ立って来ていたとしても可笑しくはないという可能性があるかもしれないからだった・・・・・・。
と―――――
「・・・なんだ・・・? この機械は・・・一体・・・・・・」
真昼と瑠璃が会話をしていた間に、御園はカップを手に持ちながらドリンクバーの機械に近づいていったのだが。使い方が解らずに困惑した面持ちで硬直してしまっていて。
『押す』・・・? どうなるんだ・・・? と、じり・・・と指を伸ばそうとしながらも躊躇っている御園に対して真昼が苦笑いを浮かべると、
「ボタン押せばジュース出るよ、御園」
その一言により、御園が無事にドリンクバーを攻略した処で。
真昼と瑠璃もまた、部屋に残っている他のメンバーの分の飲み物も持っていく為に、お盆を二枚とカップを6個用意してから飲み物を順に注ぎつつ。
改めて御園の口から、現在のリリイの容態を聞いたのだが―――――
「・・・リリイと僕が戦うのはしばらくムリだ。
「攻撃はできないってことか。・・・
「おそらくな。なくなった力が戻るのか・・・もっと
眉を寄せながら真昼が口にした言葉に御園が応じる。
―――――話してねーことはけっこーある・・・―――――
―――――でも、たぶん話さなねぇ―――――
そこで、ふと真昼の意識の内に過ったのは先日、C3に連れて行かれた際にクロが口にした言葉だった。
「・・・
視線を落とした真昼が呟いた言葉に、瑠璃もまた眉を下げながら心中で呟く。
―――――・・・・・・クロが〝何か〟を心の中に抱えていて。その事を私と真昼君に話すのを〝怖がっている〟というのは確かだわ。
と―――――
「僕も・・・そう思う。何か僕らに話したくないことなのか・・・」
御園が口を開いた。
その時、御園が思い出していたのは、リリイの中に飲み込まれた時に目にした、
「御国さんに連絡がつけばいいんだけどな。吸血鬼には詳しいって自分で言ってたし。でも電話に出てくれないんだよな・・・」
ふと、真昼が顔を上げると漏らした言葉に瑠璃も続いて口を開く。
「そうなのよね、私のほうからはメールを御国さんにしてみたのだけど、そっちも返信はこないのよ・・・・・・。でも、御園君も御国さんと話がしたいわよね・・・・・・」
「・・・!」
すると御園は肩を震わせ、動揺した面持ちで此方を見返してきたのだが、
「別に・・・僕のことは後でいいんだ。とにかくこの吸血鬼の問題が先だ」
すぐさま眉を吊り上げてそう言い切ると、部屋に向かって行ってしまう。
けれど―――――
お盆の上に3個ずつ、飲み物が入ったカップを乗せた真昼と瑠璃が、御園の背中を追いかけて歩き出しながらその時に抱いた思いは同じもので。
―――――御園は本心では兄である御国と早く会いたいと思っているだろうというものだった。
それから部屋に戻った後も、吸血鬼達によるカラオケ大会は続き―――――
「・・・そろそろ10時になるわね」
「今日は来ないのかもな・・・来る可能性のほうが低いと思ってたけど」
万が一、件の相手が来た際にはフロントからすぐに連絡が来る手はずになっていたもののそれはなく。スマホで時刻を確認してみると、気づけば9時56分が表示されていて。
瑠璃と真昼が眉を顰めながら、溜息交じりに言葉を交わし合うと、瑠璃の斜め前の席に座っていた鉄が、
「こんな時間までカラオケにいてオレ平気かな」
「世界を守るためじゃぞ! 店員の相模にも言ってあるし平気じゃろう」
右手を後頭部に据えながら、視線を落としつつ鉄が洩らした言葉に蝙蝠が返答する。
そこで鉄の実年齢をつい先日知った瑠璃は、その会話から鉄が何を言わんとしているのか察したのだが―――――。
「え? 何で? 高校生でもまだ平気な時間じゃ・・・」
その事実を知らない真昼が不思議そうな顔で鉄を見遣ると、
「いやオレ、まだ14になったばっかだけど」
「・・・・・・ん!?」
「中2だけど・・・」
呆然とした表情になった真昼に、鉄もまた不思議そうな表情を浮かべながら、学年もまたさらに口にする。
「「中学生!?」」
その直後、真昼と共に愕然とした表情となりながら声を上げたのは御園だった。
「嘘だろ・・・高校生だと思ってた・・・」
「ぼ・・・僕だって来年か再来年には奴くらい大きくなると信じていたのに・・・」
それから二人揃って、実は鉄が自分達よりも年下だったという事実に精神的ダメージを負った様子で、ぐ・・・っと項垂れてしまう。
「えと・・・・・・二人とも大丈夫?」
瑠璃が眉を下げつつ微苦笑を零すと、隣に座っていたクロがテーブルの上に伸びつつ、上目遣いに視線を向けながら尋ねかけてくる。
「瑠璃は驚かねぇんだな、もしかして知ってたのか?」
「えぇ。この前、鉄君から教えて貰ったから」
瑠璃自身も聞いた時に驚きはしたものの、まさか真昼達がここまでショックを受けるとは想定していなかったのだが。
それからはたと、瑠璃は思い出した事柄を口にする。
「そういえば御園君・・・・・・9時過ぎてるけど、寝なくても平気なの?」
「何を言ってるんだ、瑠璃。9時に眠ってしまうなんてどこの子供だ?」
と、いつもの調子に戻ったらしい御園が、腕組みをしながらはんっと呆れた様子で応じてくる。
それに対して気を取り直した真昼が「この前までのお前だよ」と突っ込みを入れると。
「僕も成長したんだ。9時きっかりに寝るようなことはもう・・・」
得意げな表情で御園はそう宣言しようとしたのだが、最後まで言い終えることなく、ぱたりっとテーブルの上に突っ伏してしまったのだ。
「わあ!?」
「大丈夫、御園君!?」
仰天した真昼に続いて、瑠璃もまた御園の様子を見る為にソファーから立ち上がると、
<おやいけません。もう10時ですね>
慌てた様子で御園の頭上を旋回した蝶の台詞に対し、
「1時間しか延長してねーじゃん!!」
再び真昼の突っ込みが入ったのは言うまでもない。
そして―――――
「よし、じゃあ今日は帰るか」
カラオケ大会の終了を宣言したのは、歌い疲れてしまった為にぐで~~~んと伸びてしまった蝙蝠を頭に乗せて、常に持ち歩いている自身の武器である棺桶に付けていた皮ベルトの長さを調節し直して腰にぶら下げた上で、さらに眠ってしまった御園までも背中に背負った鉄だった。
ちなみに、本来ならば御園の保護者代わりであった筈のリリイもまた、カラオケ大会で体力を消耗してしまったようで、蝶の姿で御園のアホ毛の先に止まって眠ってしまっている状態で。
事情を知らない人間が見れば、間違いなく鉄のほうが年長者に見えてしまうであろう。
「色々任せちゃって悪いな鉄・・・」
そんな光景に真昼は複雑な面持ちで鉄を見遣りつつも労いの言葉を口にする。
一方、黒猫を肩に乗せた瑠璃は最後に退室をする前に忘れ物が無いかの確認をしていたのだが―――――
その時、部屋に設置されたフロントとの連絡用の電話が鳴り響いたのだ。
「はい。すみません、今、出ます・・・」
そこで受話器を取った瑠璃が返答をすると、
『いやっ・・・来ました!! 来ましたよ!!』
連絡をしてきた相模は、裏返った声音でそう告げてきたのだ。
けれど希望する大部屋が空いていなかった為に今日は帰るのだという。
「真昼君!! 相模さんから連絡が!! 目撃した人物が来たって!!」
「ホントか、瑠璃姉!!」
今なら、未だ追いかけることが出来る。
「鉄!! 来た!! 俺と瑠璃姉とクロの三人で追う!!」
そこで先に階段を降り始めていた鉄に真昼はそう宣言をすると、その後は瑠璃と共に階段を全速力で降りて行ったのだが。
「来たって・・・何が?」
すでに鉄は此処を訪れていた目的をすっかり忘れてしまっていて。
首を傾げながら真昼達を見送ったのだった。
「瑠璃姉、特徴は・・・・・・!?」
「黒い暑そうな服を着ていて、あと・・・・・・羽が―――――・・・・・・」
キョロッと周囲に視線を巡らせながら問いかけてきた真昼に瑠璃は相模から聞いた特徴を上げる。
すると真昼から「羽!?」と困惑の声が上がったのだが―――――
その数秒後、ふと前方を歩いていた青年に視線を留めた真昼の表情が引き攣ったものになる。
「・・・羽だ・・・」
青年の背中には、『羽』が生えた可愛らしい鞄が在ったのだ。
わかりやすっ・・・と冷や汗をかきながら、その後ろ姿を真昼が凝視する一方で、
「おい、あいつあぶねーぞ。関わらないほうがいい雰囲気・・・」
天使かもしれね―――――と瑠璃の肩の上に乗っていた黒猫が身体を微かに震わせながら小声で言う。
それに対して「お前が言うな吸血鬼!!」と真昼が小声で突っ込みを返す。
そんな二人のやり取りに苦笑を浮かべつつ、瑠璃もまた青年の事を注視していたのだが。
「・・・・・・あれ? 左手にあの人、何か持って・・・・・・」
―――――鉄の檻に・・・・・・ハリネズミ?
あの青年のペットだろうか、という考えが瑠璃の頭に浮かんだのだが。
「ねぇ、クロ、真昼君。あのハリネズミさん・・・・・・何かジェスチャーしてる気がするんだけど・・・・・・?」
こちらの存在に気付いたらしいハリネズミもまた、「キュイッ」と短い鳴き声を上げると、前足をじたじたと必死に振り上げて何かの合図を送ってきたのだ。
「あれ・・・あいつ・・・」
「もしかしてサーヴァンプ!?」
瑠璃の言葉により、ハリネズミの存在に気付いたクロと真昼もまた、その姿をじっと建物の陰から見つめる中―――――導き出された『答』があのハリネズミもまた『
「行きましょう、クロ! 真昼君!」
「そうだな、瑠璃姉! 後を尾けて隙を見て助ける!」
しかし、やはりというべきか瑠璃の言葉に力強く頷いたのは真昼だけで、クロは「え―――――」と乗り気でない返事しかしなかったのだった。
「ヒューの
尾行中、木の陰から少しだけ顔を覗かせつつ、真昼は感慨じみた口調で言った。
「クロは
そしてふと浮かんだ疑問を続けて口にしたのだが―――――
「・・・いねーよ、めんどくせー」
瑠璃の肩に乗っていた黒猫が半眼で真昼を見遣りながら応じると、
「えっ、1人も?」
「オレはリリイみてぇに〝イイ吸血鬼〟でもねーし」
瑠璃の肩から下りて人型に戻ったクロが漏らした言葉に、真昼は「イイ吸血鬼って・・・なんだよそれ・・・」と眉を顰めてしまう。
するとクロは淡々とした口調で告げてくる。
「・・・知ってんだろ。
―――――
―――――〝怠惰〟の真祖であるクロにとって、そんな相手の〝命〟と〝想い〟を背負うことこそ、もしかしたら最も荷が重いことなのかもしれない。
クロが紡ぎ出した言葉に、真昼が困惑の表情を浮かべてしまった一方で、瑠璃はそんな想いを心中で巡らせながら、眉を下げつつクロを見つめる。
と―――――
「・・・・・・瑠璃、そこの自販機でジュース買うの付き合ってくれるか・・・・・・」
瑠璃の視線に気づいたクロは瑠璃の左手を右手で握りながらそう告げてきて。
「え? えぇ・・・・・・・」
唐突なクロからの申し出に、瑠璃は目を瞬かせつつも頷き返すと。
「真昼、小銭もらうぞ」とクロは自販機があるほうに踵を返す前に、真昼が羽織っていたジャージの上着のポケットの中を左手で探りながらそう言い。
「ちょっ・・・クロ!! 尾行の途中でジュース買う奴がいるか!」
その行動に対して真昼は、驚きながらすぐさま突っ込みを入れたものの、耳を貸す様子が無いクロに代わって「ごめんね、真昼君」と瑠璃が詫びを口にすると。
「―――――瑠璃姉が謝る必要は無いよ。ただ、クロはすぐそうやってはぐらかすから・・・・・・」
真昼は嘆息交じりにそう言いながら、クロがジュースを買いに行く事を許したのだが。
―――――・・・・・・そっか・・・
―――――クロってめったに自分の話しないな・・・。
―――――瑠璃姉に対しては、もうちょっとちゃんと話したりしてるのか?
瑠璃を連れてジュースを買いに行ったクロの背中を見ながら真昼は逡巡する。
「っとに・・・瑠璃が一緒とはいえ、こんな下手な尾行なんかして大丈夫かよ・・・」
それから程なくして此方に戻ってきた処で、めんどくせ・・・とジュースを飲みながら不満を漏らしたクロに対して真昼は―――――
「御園とリリイは今戦えないし、それに鉄が年下って聞いちゃったら・・・瑠璃姉と俺が行動するしかないだろ! それに・・・瑠璃姉だけじゃない。俺とお前の3人だろ! クロにとって俺はまだ頼りないかもしんねーけど・・・俺もクロとちゃんと向き合っていきたいって思ってっからな!」
真っ直ぐにクロを見据えて真昼はそう宣言すると、尾行を再開して目線をまた前方に向けていく。
「そーゆーの・・・ほんと向き合えねー・・・」
その為、苦い表情でクロがそう呟いた姿を目にしたのは瑠璃だけだった。
「・・・・・・―――――クロ」
静かな声音で瑠璃はクロの名前を呼ぶと、今度は自分から左手を伸ばしてクロの右手を握りしめる。
―――――少しでもクロの気持ちが楽になるように。
「・・・・・・ありがとな、瑠璃・・・・・・」
そうして繋がれた手から感じた温もりに、クロはゆっくりと目を伏せると小さく息を吐き出す。
それから木の陰から様子を窺う真昼の傍にまた瑠璃と共に近づいていく。
その時、真昼の視線は尾行対象に向けられたままではあったのだが―――――
―――――C3に行った時も思ったけど、俺まだ吸血鬼のこと全然知らないんだ。
―――――きっと・・・日本生まれじゃないよな?
―――――・・・とそう思うと、この辺に吸血鬼やその主人や椿。
―――――〝ミストレス〟である瑠璃姉も含めて。
―――――・・・みんなが集まってるみたいでなんか妙な感じ・・・。
真昼の心中にもまた、もやもやとした感情が渦巻いていた。
その時、ふいに尾行対象が路地の角を右折してその姿が見えなくなってしまい。
咄嗟に、たっと駆け足で真昼もまたその路地を曲がると―――――
「なんだお前。天使か? 悪魔か?」
尾行対象だった青年がそこで待ち構えていて。
―――――鋭い目つきで真昼を睨み付けると、そんな問いを投げかけてきたのだ。
【本館/20・2/5掲載/別館/20・2/5転記】
