第十一章『Alice in the Garden《スノーリリイ》』
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―――――憂鬱組から色欲組が襲撃を受けて3日。
有栖院の家は、ばたばたと忙しない状況が続いていた。
リリイと御園が倒れて、洞堂がケガをして。
さらに下位吸血鬼の子供達もばたばた倒れてしまい・・・・・・。
体調を崩してしまったり、眠り続けたり・・・容体は様々で。
「クロ!! こっちこっち!! 3階の部屋がタオル足りないって!」
頭の上に幾枚もの畳まれたタオルを乗せてぴゃっと疾走していた黒猫に真昼が呼び掛ける。
まさに猫の手も借りたいという状況であることから真昼達も有栖院に泊まり込みで手伝いをしているのだ。
「ありがとう、クロ」
そうして往復を繰り返していた黒猫から真昼とともに半分ずつタオルを受け取った瑠璃が礼を言うと、
「あと本館行ってお菓子とジュースもらってきて! 泣き止まない子がいるんだ」
「お前・・・こんないたいけな猫をこき使うなんて・・・」
次の用事を言い付けてきた真昼に対して、人型に戻ったクロはぜ―――は―――――と荒い息を吐き出しながら呻くように言う。
それからまた黒猫の姿に変わると、あおむけの状態になりながら「うっ・・・だめだもう筋肉痛が・・・」と動けないアピールをしてきたのだが。
「クロ、辛いかもしれないけど、クロが一番足は速いと思うから・・・・・・」
もう少しだけ頑張れないかしら? と眉を下げつつ瑠璃が言うと、
「そうだぞ! たまには働けニート吸血鬼!!」
主人である真昼もまた睨みながら叱責し、その迫力に黒猫はに゛ゃ―――――っと恐れをなした様子で本館に向かって全力で走っていき。
真昼が先に3階にタオルを半分持って行った処で、
「冬用の毛布もらってきたぞー」
寒がってる子がいるって? と入れ違いに右肩と左腕に、毛布を担いだ鉄が姿を見せたのだ。
「あ、ありがとう鉄君。3階の部屋にいる子なんだけど・・・・・・」
右肩に持っている毛布だけでも5枚ほどあり、重量は大分あるはずなのだが、平然とした面持ちで軽々とそれを担いでいる鉄の姿はやはり感服を抱かずにはいられないものだ。
目を瞬かせた瑠璃は、鉄とともに歩き出す。
と―――――
ふと、ジッと見つめてくる鉄の視線を感じ瑠璃は首を傾げる。
「鉄君、どうかした?」
「あんたが着てるそれ、この家のメイド服だよな?」
「えぇ、泊まり込みだと女性は着替えが必要でしょうって。やまねさんが貸してくれたんだけど・・・・・・」
東高校の文化祭でも真昼が制作したメイド服を着たことがあることから、あまり深く気にすることなく厚意を受け入れて着ていたのだが―――――。
「もしかして、何処か変だったかしら?」
「いや、似合ってるぜ。ただ、普段とは雰囲気が全然違うから、ついジッとみちまった」
さらっと事も無げな口調で告げてきた鉄に対し、瑠璃は思わず目を見開いてしまう。
クロや真昼もまた似合っていると照れを交えつつ言ってくれたのだが、鉄はそういう様子を一切見せることなく、面と向かって言えるのは、やはり器がでかいからこそ成せるものなのだろうか。
と―――――
「どうかしたのか?」
今度は鉄が不思議そうな眼差しで尋ねかけてくる。
「えと・・・・・・・ううん、高校生なのに発言が大人びてるなぁってちょっとびっくりしちゃって。褒めてくれてありがとう、鉄君」
そこで我に返った瑠璃は、気恥ずかしそうに笑みを浮かべつつ応じると。
「ん? オレ、まだ中学生だぞ?」
「え!? ・・・・・・中学生!?」
鉄の発言に瑠璃は瞠目の表情となってしまう。
てっきり高校生だろうと思っていたのに―――――まさか、真昼達よりも年下の少年だったとは。
そんな驚きの事実が発覚した後、流れで瑠璃も年齢を伝える事となったものの。
特に気にせずに普通に呼んで貰って構わないからと瑠璃が言った事から―――――鉄からの瑠璃に対する呼び名は〝アンタ〟という『二人称代名詞』でのものから〝瑠璃〟と名前呼びに変わることとなる。
その後―――――
眠り続けていた御園がようやく目を覚ましたのだが、
「大丈夫かっ、御園ぉぉおおお」
知らせを受けて部屋に駆け込んだ御門が号泣せんばかりの勢いで御園の肩を掴み。その様にメイド達が困り顔になってしまった一方で。
御園が目を覚ましたのとほぼ同時に目覚めたリリイの部屋には、リリイが凶暴なままだった場合にすぐさま対処できるよう警戒態勢となった真昼達の姿が在ったのだが―――――
「・・・おはようございます・・・?」
体を起こしたリリイは真昼達に気付くと、微かに首を傾げつつ、普通に挨拶をしてきたのだ。
「リリイ・・・大丈夫か?」
「何か変わったところとかはない・・・?」
武器を収めた真昼と共に瑠璃もリリイの傍に近づいていき尋ねかけてみると、
「いえ・・・特には・・・」
リリイはどうやら暴走したときのことは、ぼんやりとしか覚えていないようだった。
真昼の話によれば、前にクロが暴走したときもクロは覚えてるのかあやふやだったらしい。
「でも、大丈夫そうならとりあえず良かった・・・・・・。下位吸血鬼 の子達が大変なことになっていて。様子を見て貰うこと出来るかしら」
ほっと胸を撫でおろすようにしながら笑みを浮かべた瑠璃は、リリイに現状においての最優先事項を伝える。
すると、それに続く形で―――――
「お・・・オレはもう働けないぞ・・・リリイ、オレのかわりにひと肌脱いでくれ・・・」
ふる・・・っとクロが身体を震わせながら、後は任せたと言わんばかりの様子で言葉を紡ぎ出し。
「働け!! 今いつもの調子で脱いでも突っ込む人手もないからなっ」
真昼もまた、びしっと人差し指をリリイに突き付けるようにしながら、据わった目で見据えてそう言った後に、脱ぐなよとさらに釘を刺したのだが―――――。
「・・・? 私・・・脱いだりなんてしませんよ・・・?」
当のリリイ本人は、真昼の言葉に目を瞬かせると、微かに眉を顰めながらそう言い返し。
「人前で肌を晒すなんて・・・それにいまこの場には瑠璃さんもいらっしゃるのにそんな失礼なことできません・・・・・・」
ねぇ・・・とチラリと瑠璃の方を見てから、きゅっと緩んでいた襟元のシャツをしっかりと締める仕草をしたのだ。
「え、と・・・・・・?」
瑠璃は呆然と目を見開いてしまう。
―――――いつもならば、この時点でリリイはもう脱いでいたはずだ。
真昼とクロも呆気に取られた表情を浮かべていた。
そして―――――
「「誰だお前は!?」」
真昼とクロが揃って愕然とした声を上げた後。
「クロっ、瑠璃姉っ、おかしい!! リリイが・・・脱がない!!」
「人前で脱がないのはフツーだぞ・・・」
混乱した様子になった真昼に対しクロが困惑した面持ちで尤もな答を返すと。
うっ、そうか・・・と真昼は言葉を詰まらせてしまう。
「そうなのよね・・・・・・確かに普通なんだけど・・・でも・・・」
瑠璃もまたクロの言葉が正論であると、頭では理解していた。
―――――が、どうしてか気持ちがしっくりとこないのだ・・・・・・。
初めて出逢った時にひと肌脱がれて以来―――――お願いだから服まで脱がないで・・・・・・と幾度か言ってはみたものの、それでもリリイが変わることはなかったというのに。
―――――いま目の前にいるリリイは、シャツのボタンをしっかりと止めたばかりか、さらにシーツまですっぽりと全身に被って肌を一切晒さないようにしている状態で。
・・・・・・深い・・・!!
フツーなのにフツーじゃない!!
―――――ひと肌脱ぎましょう―――――
何とも言えない複雑な面持ちになった真昼と瑠璃の意識の片隅に、その時に浮かんだのは微笑みながらひと肌脱いでいるリリイの姿だった。
「リリイ・・・なんだか気が抜けたみたいになっちゃったなぁ」
「そうね・・・・・・御園君が契約の時にあげた時計が壊されちゃったからなのよね。リリイ今、得意だった幻術も使えないって言ってたし」
夜―――――食堂に鉄と一緒にヒューも揃って集まった処で、真昼が溜め息交じりに洩らした言葉に、瑠璃もまた眉を下げながら応じる。
主人である御園を助けることが出来れば、リリイもまた元通りになると思っていた。
けれど主人から貰った〝物〟を失ってしまった分の代償が、椿の狙い通りリリイ自身に及ぶ結果となってしまった。
「椿はこうやってサーヴァンプみんなを弱らせるつもりなのか・・・」
眉根を寄せながら真昼が唸ると、
「このリリイの力の弱り方は尋常じゃないのう」
向かい側の席に腰を下ろしていた鉄の頭の上に乗っていたヒューが煙管を左手に持ちながら神妙な面持ちで独り言ちた。
真昼と瑠璃がどういうことなのかと眉を顰めながらヒューを見遣ると、
「じゃから下位吸血鬼 も安定せんのじゃ。リリイの力を戻す方法を探す必要も出てきたのう。我が輩達は皆、不死じゃからと油断しておったがこんな事態になるとはのう」
「お前ら全然危機感無かったもんな!」
淡々とヒューが紡ぎ出した言葉に真昼が呆れたような口調で突っ込みを入れた。
そして―――――
「でも・・・その〝物〟が狙われるなんてさ。吸血鬼 って案外もろいんだなぁ・・・。俺も鈴なんかじゃなくてもっと頑丈なものをあげればよかったよ」
―――――鈴なんてすぐに壊れそう・・・。
後の悔い先に立たず、といった表情に真昼はなったのだが―――――
「それは関係ないのう」
人型の状態でテーブルに突っ伏すようにしながら、もそもそとクッキーを齧っていたクロが首から下げていた紐の付いた鈴をひょいと煙管で引っ掛けてヒューは取り上げると、
「鉄、思いっきりじゃ」
隣の椅子の上に鈴を置いた処で鉄に対してそう呼び掛けるのと同時にトンと煙管でそれを叩く仕草を示してきたのだ。
「ん? それを?」
傍らに置いていた棺桶を左手で担ぎながらガタと席を立った鉄はヒューを見遣りながら訊き返すと―――――やるのじゃとヒューは鉄に肯定を返してきて。
「えっ!? ちょっ・・・何する気だよ!?」
「ヒューくん!? まさか・・・・・・っ!?」
ガタンと音を鳴らしながら、慌てて真昼と瑠璃が椅子から立ち上がると、鉄は左手に担ぎ上げた棺桶を上に向かって掲げていて。
「待っ・・・」
真昼が声を張り上げて制止をしようとしたものの間に合わず。
ぐあっと勢いよく振りかざされた棺桶が椅子に置かれた鈴目掛けて落とされたのだ。
―――――ドコォ・・・ン
激しい破壊音が有栖院の邸内に響き渡るのと同時に、ビリビリビリ・・・と振動が伝わっていく。
『きゃ―――――!?』
『何!?』
その瞬間、屋敷内が軽くパニックになったのはいうまでもない。
そして―――――
鉄が棺桶を退かすと、椅子が大破しただけでなく、床もまた大きく陥没していたのだが、しかし鈴だけは全くの無傷で、チリンと転がりながら音色を響かせたのだ。
『・・・!!』
「・・・どうじゃ。吸血鬼 と主人 の信頼関係が正常であれば破壊はできんのじゃ」
呆然となった真昼達にヒューは平然とした口調で告げてくる。
「・・・・・・知ってたけど」
「嘘つけ!! お前すげぇ、ドキドキしてただろ!!」
そこで視線を逸らしながら嘯いたクロに真昼が突っ込みを入れる。
クロの身体は微かに震えていて、鼓動が激しいものになっているのは明らかで。
「・・・・・・でも、本当に良かったわ・・・・・・」
その二人のやり取りを目にしながら瑠璃もまた、胸に手を置いて早まった鼓動を落ち着ける為に息を吐き出すと、
「しかし・・・こんな事例など過去にあったかのう。主人 にもらった〝物〟が壊されて灰塵が放たれるなど・・・。敵側 のほうが知識が深いというのは癪じゃ」
ヒューが煙管を左手に構えながら憮然とした面持ちで洩らした言葉に、
「なんだ・・・クロやヒューにはよくわかんねぇの? 椿達は色々詳しそうだけど。自分達のことなのによく知らねえの?」
目を瞬かせた真昼が何気ない口調で訊き返すと、
「・・・知りたくもねぇよ」
チラリと横目で真昼を見たクロがぼそと呟き。
「・・・自分が化け物だって証拠、積み重ねて楽しいか?」
眉を顰めながら真昼から視線を逸らすと、暗い表情でそう言ったのだ。
まさかクロの口からそんな言葉が紡ぎ出されるとは思っていなかった真昼は困惑した面持ちになってしまう。
「クロ・・・・・・」
瑠璃もまたクロの言葉に、少なからず心中で衝撃を受けていた。
確かに吸血鬼は人とは異なる存在かもしれない―――――けれど、化け物だなんて・・・・・・。
クロの傍に瑠璃は向かうと、そっと右手を伸ばしてクロの右腕に触れた。
―――――そんな哀しい台詞、クロに言って欲しくない。
「・・・・・・っ」
クロは微かに身体を震わせるとゆっくりと視線を瑠璃に向ける。
自分の顔を映し出した真紅の瞳を瑠璃は、眉を下げながらじっと見つめ返す。
「・・・・・・瑠璃」
ポケットに入れていた両手をクロは出すと、唯一の温もりを欲するように、瑠璃の身体を背中から腕の中に収めるように抱きしめる。
その時、ヒューと鉄は何も言う事をせず、ただ黙ってその様子を見ていたのだが。
そこに―――――
「ああ・・・ここにいたのか」
ギイと食堂の扉を開いて御門が入室をしてきたのだ。
「御園の、おじさん」
真昼が御門に振り返る。
と―――――
それと同時にクロの腕が身体から離れた為、
「小父様、御園君は・・・・・・?」
瑠璃もまた御門に視線を向けてそう尋ねかけると、
「ああ・・・心配をかけたね。もう少し、部屋で休むと言っていたよ」
覇気のない口調で応じてきた御門は、手近にあった椅子の背に手を掛けると、ガタとそれを真昼達の向かい側に移動させて腰を下ろす。
「君達には色々と礼を言いたくてね」
「え?」
真昼が目を瞬かせると、御門は淡々と言葉を紡ぎ出す。
「私達は・・・過信していた。何がきてもリリイがいれば大丈夫だと。・・・君達が御園を訪ねてきたあの日、ちゃんと君達と協力しようとしていたらこんなことにはならなかったのか・・・」
「・・・・・・小父様」
呆然とした面持ちで瑠璃が御門を見返すと、
「・・・息子を助けてくれてありがとう」
ゆっくりと視線を俯けた御門は真昼達に向かって感謝の言葉を口にするのと同時に頭を下げてきたのだ。
「あっ・・・いや俺達はあまり大したことは・・・」
―――――できなかった・・・。
―――――御園が無事に帰って来れたのは瑠璃姉がリリイの中に入ったからだし・・・・・・。
御門のその行動に慌てた顔になった真昼が否定する言葉を口にしようとしたのだが、
「君達があそこでリリイと戦ってくれなかったら・・・リリイを食い止められる人間はこの家にはもう居なかった。君達のおかげで御園は戻ってこられたんだろう・・・」
御門はそれを打ち消すように重ねてそう言葉を紡ぎ出したのだ。
その時、椅子に座っていた鉄がふと窓の向こう側に視線を向けると―――――
ガタッと勢いよく椅子から立ち上がり。
「わ!?」
手前に立っていた真昼が驚愕の声を上げると、棺桶を背に担いだ鉄は、
「わりィ便所」
そう言うと耳朶に届いた音に呆然とした様子で顔を上げていた御門には、きちんと軽く会釈をした上で食堂の外に出るために扉に向かって行く。
「ちょっ・・・鉄? 場所わかるか?」
その背に向かって真昼が慌てて呼びかけると、チラリと振り返ってきた鉄は瑠璃を見遣り。
「あ、そうだな・・・・・・悪いけど、案内頼んでもいいか、瑠璃」
「え? えぇ、大丈夫よ・・・・・・」
唐突に鉄から名指しで呼ばれた瑠璃は思わず驚いた表情を浮かべてしまうも、けれど鉄の様子に何か引っかかるものを感じ、頷き返すと―――――
「すみません、小父様。ちょっと失礼します」
瑠璃もまた、途中退席する非礼を御門に詫びた上で鉄とともに食堂を後にする。
「・・・・・・ヒューついていかねーの? あと、いつから鉄は瑠璃姉のこと名前で呼ぶようになったんだ?」
そこで唖然とした表情になった真昼がヒューの方を見遣り問いかけた。
「そこまでヤボじゃないのじゃ。それと別に鉄が〝ミストレス〟である瑪瑙瑠璃のことを名前で呼ぶようになったからといって何の問題があるというのかの?」
そんな真昼に対してヒューは軽く眉を顰めつつ言い返す。
「彼・・・千駄ヶ谷くんと言ったか。彼にもひどいことをした・・・」
そんなやり取りを間に挟んだ処で、ポツリと鉄の事を口にした御門に真昼はまた視線を向けると、躊躇うようにしながらも気になっていた事柄を尋ねかけてみる。
「・・・あの・・・この家はずっとリリイが守ってきたんですか? あと・・・嫉妬の真祖 もこの家に・・・?」
「・・・リリイは私の先祖にあたる女性と契約をしたんだ。リリイがこの家に望むのはひとつ。『自分と自分の下位 を匿うこと』かわりに自分がこの家を守る・・・と。・・・嫉妬の吸血鬼は何十年か前にリリイがこの家につれてきた。ただ〝嫉妬〟は誰との契約も望まなかったんだ。長い間その吸血鬼は地下の部屋で一人、大人しくしていて・・・」
「・・・えっ? でもジェジェは今・・・」
御門の口から語られた有栖院家と吸血鬼の関係―――――漸く知ることが出来たその真実に―――――しかし、嫉妬の吸血鬼の現状を知っている真昼は、引っ掛かるものを覚えて思わず眉を顰めてしまう。
そして―――――
「あの・・・御国さんと何があったのか教えてもらえませんか?」
意を決した面持ちで御門を見据えるとそう言ったのだ。
ざぁ・・・・と風が庭を吹き抜ける。
その風に背を押されるように、部屋から抜け出した御園がざっと庭を駆けていく。
―――――なんだか妙にあたまがすっきりとしている。
―――――きっとリリイの幻術が解けたんだ。
―――――リリイには悪いが・・・行かないと。
―――――この東館へリリイが僕に隠そうとしているものを確かめるために。
は、はぁ、と息を切らしながら辿り着いた処で、御園は東館の扉を開こうと取っ手に手を伸ばしたものの、ガチャガチャッという音が鳴り響くのみで、施錠されているのか、扉が解放される事はなく。
―――――他にどこかから入れないか・・・。
そう考えた御園が、建物の周辺に視線を巡らせようとした処で、
「おい」
突如として掛けられた何者かからの呼びかけに御園が、びくっと身体を震わせると、声を上げるより前に、左手で御園の口を塞ぎながら顔を覗かせたのが鉄だったのだ。
「部屋で休んでたんじゃなかったのか?」
何してんだと鉄が尋ねかけると、仰天した表情になった御園の口がもごっと動く。
そこで鉄が御園の口から手を離すと、
「貴様こそどうしてここに・・・」
「窓からあんたの背中見えたから。あと、オレだけじゃなくて瑠璃も一緒に連れて来た」
答えるより前に訊き返してきた御園に対し、鉄がそう告げると、
「な!? 〝瑠璃〟も一緒だと!? ・・・・・・というか、千駄ヶ谷、貴様何時から瑠璃の事を呼び捨てにするように!?」
「御園君、私がそう呼んで貰って構わないって言ったのよ」
棺桶の影になる位置に立っていた瑠璃が、顔を覗かせながら柔らかな口調で告げる。
「―――――瑠璃!? その恰好はっ!?」
「えっと、泊まり込みでお手伝いをしていたから、やまねさんが貸してくれたのよ」
今度は目を見開くと顔を真っ赤にした御園に、瑠璃はどうしたのだろうかと目を瞬かせると。叫んだり赤くなったり忙しい奴だなと、鉄もまた首を捻りながら呟き。
「それより、何? 鍵かかってんのか?」
御園が開けようとしていた、東館の扉を一瞥し―――――
「手ぇ貸すか?」
よし下がれチビというのと同時に、ぐいっと背負っていた棺桶のベルトに手をかけた鉄に対し、
「しっ・・・静かにだ! 静かに!!」
鉄が何をするつもりなのか察しが付いてしまった御園が、顔を蒼白にしつつ、両手を握りしめながら言い募った一方で。
「そ、そうね。鉄君。あんまり派手にやるのは・・・・・・」
瑠璃もまた、眉を下げながら御園に同意を示すようにそう言葉を紡ぎ出すと、
「あ? 大丈夫だって。さっきも派手にイス壊しちまったし。みんな『またか』って思うだけだろ」
鉄は平然とした表情でそう言い返し、そのまま棺桶を東館の扉目掛けて振り下ろしたのだ。
―――――ドコォ・・・ン
―――――と破壊音が響き渡った後に、ビリビリ・・・と邸内に振動が伝わり。
『わ―――――?!』
『また?!』
鉄の言う通り、屋敷内からはそんな叫び声が聞こえてきたことから、こちらに誰かがすぐに駆けつけてくるという事は無さそうだった。
「よし開いたな。ここに入んねーとなのか?」
ガラガラガラと扉が瓦礫の山に、鉄の力によって変わり果てた処で、
「なんて無茶な・・・」
渦巻く粉塵を極力吸わないように口元を押さえつつ、ごほっと咳をした御園は顔を顰めながら呻くように呟くと。
「でも・・・その一応、礼を・・・」
瓦礫やその欠片を踏まないようにしつつ、中に進もうとした処で、御園は鉄に振り返りながらそう言い掛けたのだが―――――。
「気にすんな、オレ達最初からこのために来たんだしよ。友達じゃねーか」
棺桶を右手で背に担いだ鉄は御園に向かってそう宣言すると。
「オレの役目はここまでだ。瑠璃、チビと一緒に行ってやってくれるか?」
「わかったわ。御園君、私も一緒に行っても良いかしら?」
鉄が自分を連れて来た理由を理解した瑠璃は御園に向かって尋ねかける。
御園は鉄の言葉に驚いた様子で目を瞠っていたのだが、
「―――――・・・・・・っ、あぁ。瑠璃にはこの先に在るモノを一緒に見届けてほしい」
瑠璃に視線を向けると、ゆっくりと首を縦に振って頷いたのだ。
【本館/19・12/13掲載/別館/19・12/14転記】
有栖院の家は、ばたばたと忙しない状況が続いていた。
リリイと御園が倒れて、洞堂がケガをして。
さらに下位吸血鬼の子供達もばたばた倒れてしまい・・・・・・。
体調を崩してしまったり、眠り続けたり・・・容体は様々で。
「クロ!! こっちこっち!! 3階の部屋がタオル足りないって!」
頭の上に幾枚もの畳まれたタオルを乗せてぴゃっと疾走していた黒猫に真昼が呼び掛ける。
まさに猫の手も借りたいという状況であることから真昼達も有栖院に泊まり込みで手伝いをしているのだ。
「ありがとう、クロ」
そうして往復を繰り返していた黒猫から真昼とともに半分ずつタオルを受け取った瑠璃が礼を言うと、
「あと本館行ってお菓子とジュースもらってきて! 泣き止まない子がいるんだ」
「お前・・・こんないたいけな猫をこき使うなんて・・・」
次の用事を言い付けてきた真昼に対して、人型に戻ったクロはぜ―――は―――――と荒い息を吐き出しながら呻くように言う。
それからまた黒猫の姿に変わると、あおむけの状態になりながら「うっ・・・だめだもう筋肉痛が・・・」と動けないアピールをしてきたのだが。
「クロ、辛いかもしれないけど、クロが一番足は速いと思うから・・・・・・」
もう少しだけ頑張れないかしら? と眉を下げつつ瑠璃が言うと、
「そうだぞ! たまには働けニート吸血鬼!!」
主人である真昼もまた睨みながら叱責し、その迫力に黒猫はに゛ゃ―――――っと恐れをなした様子で本館に向かって全力で走っていき。
真昼が先に3階にタオルを半分持って行った処で、
「冬用の毛布もらってきたぞー」
寒がってる子がいるって? と入れ違いに右肩と左腕に、毛布を担いだ鉄が姿を見せたのだ。
「あ、ありがとう鉄君。3階の部屋にいる子なんだけど・・・・・・」
右肩に持っている毛布だけでも5枚ほどあり、重量は大分あるはずなのだが、平然とした面持ちで軽々とそれを担いでいる鉄の姿はやはり感服を抱かずにはいられないものだ。
目を瞬かせた瑠璃は、鉄とともに歩き出す。
と―――――
ふと、ジッと見つめてくる鉄の視線を感じ瑠璃は首を傾げる。
「鉄君、どうかした?」
「あんたが着てるそれ、この家のメイド服だよな?」
「えぇ、泊まり込みだと女性は着替えが必要でしょうって。やまねさんが貸してくれたんだけど・・・・・・」
東高校の文化祭でも真昼が制作したメイド服を着たことがあることから、あまり深く気にすることなく厚意を受け入れて着ていたのだが―――――。
「もしかして、何処か変だったかしら?」
「いや、似合ってるぜ。ただ、普段とは雰囲気が全然違うから、ついジッとみちまった」
さらっと事も無げな口調で告げてきた鉄に対し、瑠璃は思わず目を見開いてしまう。
クロや真昼もまた似合っていると照れを交えつつ言ってくれたのだが、鉄はそういう様子を一切見せることなく、面と向かって言えるのは、やはり器がでかいからこそ成せるものなのだろうか。
と―――――
「どうかしたのか?」
今度は鉄が不思議そうな眼差しで尋ねかけてくる。
「えと・・・・・・・ううん、高校生なのに発言が大人びてるなぁってちょっとびっくりしちゃって。褒めてくれてありがとう、鉄君」
そこで我に返った瑠璃は、気恥ずかしそうに笑みを浮かべつつ応じると。
「ん? オレ、まだ中学生だぞ?」
「え!? ・・・・・・中学生!?」
鉄の発言に瑠璃は瞠目の表情となってしまう。
てっきり高校生だろうと思っていたのに―――――まさか、真昼達よりも年下の少年だったとは。
そんな驚きの事実が発覚した後、流れで瑠璃も年齢を伝える事となったものの。
特に気にせずに普通に呼んで貰って構わないからと瑠璃が言った事から―――――鉄からの瑠璃に対する呼び名は〝アンタ〟という『二人称代名詞』でのものから〝瑠璃〟と名前呼びに変わることとなる。
その後―――――
眠り続けていた御園がようやく目を覚ましたのだが、
「大丈夫かっ、御園ぉぉおおお」
知らせを受けて部屋に駆け込んだ御門が号泣せんばかりの勢いで御園の肩を掴み。その様にメイド達が困り顔になってしまった一方で。
御園が目を覚ましたのとほぼ同時に目覚めたリリイの部屋には、リリイが凶暴なままだった場合にすぐさま対処できるよう警戒態勢となった真昼達の姿が在ったのだが―――――
「・・・おはようございます・・・?」
体を起こしたリリイは真昼達に気付くと、微かに首を傾げつつ、普通に挨拶をしてきたのだ。
「リリイ・・・大丈夫か?」
「何か変わったところとかはない・・・?」
武器を収めた真昼と共に瑠璃もリリイの傍に近づいていき尋ねかけてみると、
「いえ・・・特には・・・」
リリイはどうやら暴走したときのことは、ぼんやりとしか覚えていないようだった。
真昼の話によれば、前にクロが暴走したときもクロは覚えてるのかあやふやだったらしい。
「でも、大丈夫そうならとりあえず良かった・・・・・・。
ほっと胸を撫でおろすようにしながら笑みを浮かべた瑠璃は、リリイに現状においての最優先事項を伝える。
すると、それに続く形で―――――
「お・・・オレはもう働けないぞ・・・リリイ、オレのかわりにひと肌脱いでくれ・・・」
ふる・・・っとクロが身体を震わせながら、後は任せたと言わんばかりの様子で言葉を紡ぎ出し。
「働け!! 今いつもの調子で脱いでも突っ込む人手もないからなっ」
真昼もまた、びしっと人差し指をリリイに突き付けるようにしながら、据わった目で見据えてそう言った後に、脱ぐなよとさらに釘を刺したのだが―――――。
「・・・? 私・・・脱いだりなんてしませんよ・・・?」
当のリリイ本人は、真昼の言葉に目を瞬かせると、微かに眉を顰めながらそう言い返し。
「人前で肌を晒すなんて・・・それにいまこの場には瑠璃さんもいらっしゃるのにそんな失礼なことできません・・・・・・」
ねぇ・・・とチラリと瑠璃の方を見てから、きゅっと緩んでいた襟元のシャツをしっかりと締める仕草をしたのだ。
「え、と・・・・・・?」
瑠璃は呆然と目を見開いてしまう。
―――――いつもならば、この時点でリリイはもう脱いでいたはずだ。
真昼とクロも呆気に取られた表情を浮かべていた。
そして―――――
「「誰だお前は!?」」
真昼とクロが揃って愕然とした声を上げた後。
「クロっ、瑠璃姉っ、おかしい!! リリイが・・・脱がない!!」
「人前で脱がないのはフツーだぞ・・・」
混乱した様子になった真昼に対しクロが困惑した面持ちで尤もな答を返すと。
うっ、そうか・・・と真昼は言葉を詰まらせてしまう。
「そうなのよね・・・・・・確かに普通なんだけど・・・でも・・・」
瑠璃もまたクロの言葉が正論であると、頭では理解していた。
―――――が、どうしてか気持ちがしっくりとこないのだ・・・・・・。
初めて出逢った時にひと肌脱がれて以来―――――お願いだから服まで脱がないで・・・・・・と幾度か言ってはみたものの、それでもリリイが変わることはなかったというのに。
―――――いま目の前にいるリリイは、シャツのボタンをしっかりと止めたばかりか、さらにシーツまですっぽりと全身に被って肌を一切晒さないようにしている状態で。
・・・・・・深い・・・!!
フツーなのにフツーじゃない!!
―――――ひと肌脱ぎましょう―――――
何とも言えない複雑な面持ちになった真昼と瑠璃の意識の片隅に、その時に浮かんだのは微笑みながらひと肌脱いでいるリリイの姿だった。
「リリイ・・・なんだか気が抜けたみたいになっちゃったなぁ」
「そうね・・・・・・御園君が契約の時にあげた時計が壊されちゃったからなのよね。リリイ今、得意だった幻術も使えないって言ってたし」
夜―――――食堂に鉄と一緒にヒューも揃って集まった処で、真昼が溜め息交じりに洩らした言葉に、瑠璃もまた眉を下げながら応じる。
主人である御園を助けることが出来れば、リリイもまた元通りになると思っていた。
けれど主人から貰った〝物〟を失ってしまった分の代償が、椿の狙い通りリリイ自身に及ぶ結果となってしまった。
「椿はこうやってサーヴァンプみんなを弱らせるつもりなのか・・・」
眉根を寄せながら真昼が唸ると、
「このリリイの力の弱り方は尋常じゃないのう」
向かい側の席に腰を下ろしていた鉄の頭の上に乗っていたヒューが煙管を左手に持ちながら神妙な面持ちで独り言ちた。
真昼と瑠璃がどういうことなのかと眉を顰めながらヒューを見遣ると、
「じゃから
「お前ら全然危機感無かったもんな!」
淡々とヒューが紡ぎ出した言葉に真昼が呆れたような口調で突っ込みを入れた。
そして―――――
「でも・・・その〝物〟が狙われるなんてさ。
―――――鈴なんてすぐに壊れそう・・・。
後の悔い先に立たず、といった表情に真昼はなったのだが―――――
「それは関係ないのう」
人型の状態でテーブルに突っ伏すようにしながら、もそもそとクッキーを齧っていたクロが首から下げていた紐の付いた鈴をひょいと煙管で引っ掛けてヒューは取り上げると、
「鉄、思いっきりじゃ」
隣の椅子の上に鈴を置いた処で鉄に対してそう呼び掛けるのと同時にトンと煙管でそれを叩く仕草を示してきたのだ。
「ん? それを?」
傍らに置いていた棺桶を左手で担ぎながらガタと席を立った鉄はヒューを見遣りながら訊き返すと―――――やるのじゃとヒューは鉄に肯定を返してきて。
「えっ!? ちょっ・・・何する気だよ!?」
「ヒューくん!? まさか・・・・・・っ!?」
ガタンと音を鳴らしながら、慌てて真昼と瑠璃が椅子から立ち上がると、鉄は左手に担ぎ上げた棺桶を上に向かって掲げていて。
「待っ・・・」
真昼が声を張り上げて制止をしようとしたものの間に合わず。
ぐあっと勢いよく振りかざされた棺桶が椅子に置かれた鈴目掛けて落とされたのだ。
―――――ドコォ・・・ン
激しい破壊音が有栖院の邸内に響き渡るのと同時に、ビリビリビリ・・・と振動が伝わっていく。
『きゃ―――――!?』
『何!?』
その瞬間、屋敷内が軽くパニックになったのはいうまでもない。
そして―――――
鉄が棺桶を退かすと、椅子が大破しただけでなく、床もまた大きく陥没していたのだが、しかし鈴だけは全くの無傷で、チリンと転がりながら音色を響かせたのだ。
『・・・!!』
「・・・どうじゃ。
呆然となった真昼達にヒューは平然とした口調で告げてくる。
「・・・・・・知ってたけど」
「嘘つけ!! お前すげぇ、ドキドキしてただろ!!」
そこで視線を逸らしながら嘯いたクロに真昼が突っ込みを入れる。
クロの身体は微かに震えていて、鼓動が激しいものになっているのは明らかで。
「・・・・・・でも、本当に良かったわ・・・・・・」
その二人のやり取りを目にしながら瑠璃もまた、胸に手を置いて早まった鼓動を落ち着ける為に息を吐き出すと、
「しかし・・・こんな事例など過去にあったかのう。
ヒューが煙管を左手に構えながら憮然とした面持ちで洩らした言葉に、
「なんだ・・・クロやヒューにはよくわかんねぇの? 椿達は色々詳しそうだけど。自分達のことなのによく知らねえの?」
目を瞬かせた真昼が何気ない口調で訊き返すと、
「・・・知りたくもねぇよ」
チラリと横目で真昼を見たクロがぼそと呟き。
「・・・自分が化け物だって証拠、積み重ねて楽しいか?」
眉を顰めながら真昼から視線を逸らすと、暗い表情でそう言ったのだ。
まさかクロの口からそんな言葉が紡ぎ出されるとは思っていなかった真昼は困惑した面持ちになってしまう。
「クロ・・・・・・」
瑠璃もまたクロの言葉に、少なからず心中で衝撃を受けていた。
確かに吸血鬼は人とは異なる存在かもしれない―――――けれど、化け物だなんて・・・・・・。
クロの傍に瑠璃は向かうと、そっと右手を伸ばしてクロの右腕に触れた。
―――――そんな哀しい台詞、クロに言って欲しくない。
「・・・・・・っ」
クロは微かに身体を震わせるとゆっくりと視線を瑠璃に向ける。
自分の顔を映し出した真紅の瞳を瑠璃は、眉を下げながらじっと見つめ返す。
「・・・・・・瑠璃」
ポケットに入れていた両手をクロは出すと、唯一の温もりを欲するように、瑠璃の身体を背中から腕の中に収めるように抱きしめる。
その時、ヒューと鉄は何も言う事をせず、ただ黙ってその様子を見ていたのだが。
そこに―――――
「ああ・・・ここにいたのか」
ギイと食堂の扉を開いて御門が入室をしてきたのだ。
「御園の、おじさん」
真昼が御門に振り返る。
と―――――
それと同時にクロの腕が身体から離れた為、
「小父様、御園君は・・・・・・?」
瑠璃もまた御門に視線を向けてそう尋ねかけると、
「ああ・・・心配をかけたね。もう少し、部屋で休むと言っていたよ」
覇気のない口調で応じてきた御門は、手近にあった椅子の背に手を掛けると、ガタとそれを真昼達の向かい側に移動させて腰を下ろす。
「君達には色々と礼を言いたくてね」
「え?」
真昼が目を瞬かせると、御門は淡々と言葉を紡ぎ出す。
「私達は・・・過信していた。何がきてもリリイがいれば大丈夫だと。・・・君達が御園を訪ねてきたあの日、ちゃんと君達と協力しようとしていたらこんなことにはならなかったのか・・・」
「・・・・・・小父様」
呆然とした面持ちで瑠璃が御門を見返すと、
「・・・息子を助けてくれてありがとう」
ゆっくりと視線を俯けた御門は真昼達に向かって感謝の言葉を口にするのと同時に頭を下げてきたのだ。
「あっ・・・いや俺達はあまり大したことは・・・」
―――――できなかった・・・。
―――――御園が無事に帰って来れたのは瑠璃姉がリリイの中に入ったからだし・・・・・・。
御門のその行動に慌てた顔になった真昼が否定する言葉を口にしようとしたのだが、
「君達があそこでリリイと戦ってくれなかったら・・・リリイを食い止められる人間はこの家にはもう居なかった。君達のおかげで御園は戻ってこられたんだろう・・・」
御門はそれを打ち消すように重ねてそう言葉を紡ぎ出したのだ。
その時、椅子に座っていた鉄がふと窓の向こう側に視線を向けると―――――
ガタッと勢いよく椅子から立ち上がり。
「わ!?」
手前に立っていた真昼が驚愕の声を上げると、棺桶を背に担いだ鉄は、
「わりィ便所」
そう言うと耳朶に届いた音に呆然とした様子で顔を上げていた御門には、きちんと軽く会釈をした上で食堂の外に出るために扉に向かって行く。
「ちょっ・・・鉄? 場所わかるか?」
その背に向かって真昼が慌てて呼びかけると、チラリと振り返ってきた鉄は瑠璃を見遣り。
「あ、そうだな・・・・・・悪いけど、案内頼んでもいいか、瑠璃」
「え? えぇ、大丈夫よ・・・・・・」
唐突に鉄から名指しで呼ばれた瑠璃は思わず驚いた表情を浮かべてしまうも、けれど鉄の様子に何か引っかかるものを感じ、頷き返すと―――――
「すみません、小父様。ちょっと失礼します」
瑠璃もまた、途中退席する非礼を御門に詫びた上で鉄とともに食堂を後にする。
「・・・・・・ヒューついていかねーの? あと、いつから鉄は瑠璃姉のこと名前で呼ぶようになったんだ?」
そこで唖然とした表情になった真昼がヒューの方を見遣り問いかけた。
「そこまでヤボじゃないのじゃ。それと別に鉄が〝ミストレス〟である瑪瑙瑠璃のことを名前で呼ぶようになったからといって何の問題があるというのかの?」
そんな真昼に対してヒューは軽く眉を顰めつつ言い返す。
「彼・・・千駄ヶ谷くんと言ったか。彼にもひどいことをした・・・」
そんなやり取りを間に挟んだ処で、ポツリと鉄の事を口にした御門に真昼はまた視線を向けると、躊躇うようにしながらも気になっていた事柄を尋ねかけてみる。
「・・・あの・・・この家はずっとリリイが守ってきたんですか? あと・・・嫉妬の
「・・・リリイは私の先祖にあたる女性と契約をしたんだ。リリイがこの家に望むのはひとつ。『自分と自分の
「・・・えっ? でもジェジェは今・・・」
御門の口から語られた有栖院家と吸血鬼の関係―――――漸く知ることが出来たその真実に―――――しかし、嫉妬の吸血鬼の現状を知っている真昼は、引っ掛かるものを覚えて思わず眉を顰めてしまう。
そして―――――
「あの・・・御国さんと何があったのか教えてもらえませんか?」
意を決した面持ちで御門を見据えるとそう言ったのだ。
ざぁ・・・・と風が庭を吹き抜ける。
その風に背を押されるように、部屋から抜け出した御園がざっと庭を駆けていく。
―――――なんだか妙にあたまがすっきりとしている。
―――――きっとリリイの幻術が解けたんだ。
―――――リリイには悪いが・・・行かないと。
―――――この東館へリリイが僕に隠そうとしているものを確かめるために。
は、はぁ、と息を切らしながら辿り着いた処で、御園は東館の扉を開こうと取っ手に手を伸ばしたものの、ガチャガチャッという音が鳴り響くのみで、施錠されているのか、扉が解放される事はなく。
―――――他にどこかから入れないか・・・。
そう考えた御園が、建物の周辺に視線を巡らせようとした処で、
「おい」
突如として掛けられた何者かからの呼びかけに御園が、びくっと身体を震わせると、声を上げるより前に、左手で御園の口を塞ぎながら顔を覗かせたのが鉄だったのだ。
「部屋で休んでたんじゃなかったのか?」
何してんだと鉄が尋ねかけると、仰天した表情になった御園の口がもごっと動く。
そこで鉄が御園の口から手を離すと、
「貴様こそどうしてここに・・・」
「窓からあんたの背中見えたから。あと、オレだけじゃなくて瑠璃も一緒に連れて来た」
答えるより前に訊き返してきた御園に対し、鉄がそう告げると、
「な!? 〝瑠璃〟も一緒だと!? ・・・・・・というか、千駄ヶ谷、貴様何時から瑠璃の事を呼び捨てにするように!?」
「御園君、私がそう呼んで貰って構わないって言ったのよ」
棺桶の影になる位置に立っていた瑠璃が、顔を覗かせながら柔らかな口調で告げる。
「―――――瑠璃!? その恰好はっ!?」
「えっと、泊まり込みでお手伝いをしていたから、やまねさんが貸してくれたのよ」
今度は目を見開くと顔を真っ赤にした御園に、瑠璃はどうしたのだろうかと目を瞬かせると。叫んだり赤くなったり忙しい奴だなと、鉄もまた首を捻りながら呟き。
「それより、何? 鍵かかってんのか?」
御園が開けようとしていた、東館の扉を一瞥し―――――
「手ぇ貸すか?」
よし下がれチビというのと同時に、ぐいっと背負っていた棺桶のベルトに手をかけた鉄に対し、
「しっ・・・静かにだ! 静かに!!」
鉄が何をするつもりなのか察しが付いてしまった御園が、顔を蒼白にしつつ、両手を握りしめながら言い募った一方で。
「そ、そうね。鉄君。あんまり派手にやるのは・・・・・・」
瑠璃もまた、眉を下げながら御園に同意を示すようにそう言葉を紡ぎ出すと、
「あ? 大丈夫だって。さっきも派手にイス壊しちまったし。みんな『またか』って思うだけだろ」
鉄は平然とした表情でそう言い返し、そのまま棺桶を東館の扉目掛けて振り下ろしたのだ。
―――――ドコォ・・・ン
―――――と破壊音が響き渡った後に、ビリビリ・・・と邸内に振動が伝わり。
『わ―――――?!』
『また?!』
鉄の言う通り、屋敷内からはそんな叫び声が聞こえてきたことから、こちらに誰かがすぐに駆けつけてくるという事は無さそうだった。
「よし開いたな。ここに入んねーとなのか?」
ガラガラガラと扉が瓦礫の山に、鉄の力によって変わり果てた処で、
「なんて無茶な・・・」
渦巻く粉塵を極力吸わないように口元を押さえつつ、ごほっと咳をした御園は顔を顰めながら呻くように呟くと。
「でも・・・その一応、礼を・・・」
瓦礫やその欠片を踏まないようにしつつ、中に進もうとした処で、御園は鉄に振り返りながらそう言い掛けたのだが―――――。
「気にすんな、オレ達最初からこのために来たんだしよ。友達じゃねーか」
棺桶を右手で背に担いだ鉄は御園に向かってそう宣言すると。
「オレの役目はここまでだ。瑠璃、チビと一緒に行ってやってくれるか?」
「わかったわ。御園君、私も一緒に行っても良いかしら?」
鉄が自分を連れて来た理由を理解した瑠璃は御園に向かって尋ねかける。
御園は鉄の言葉に驚いた様子で目を瞠っていたのだが、
「―――――・・・・・・っ、あぁ。瑠璃にはこの先に在るモノを一緒に見届けてほしい」
瑠璃に視線を向けると、ゆっくりと首を縦に振って頷いたのだ。
【本館/19・12/13掲載/別館/19・12/14転記】
