第十一章『Alice in the Garden《スノーリリイ》』
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真昼たちが有栖院家で〝王様〟と鉢合わせをした時―――――
『ちょーっと面倒なことになっちゃったよ。真昼くんと瑠璃ちゃんやら、何やらがウチに侵入しちゃってさ。親父と接触してるみたいなんだよね。修平どうにかしてくんない?』
C3で仕事に追われていた露木の下には、真昼たちが連絡を取ることが叶わなかった御国から一本の電話がかかってきていた。
けれど、電話向こうの御国は〝面倒なこと〟と口では言いながらも、その雰囲気は常と全く変わっておらず。部屋の外に出て来て、通路の壁に背を凭れかけさせながら電話に応じた露木は眉を顰めると、
「・・・漠然とした依頼は止めて下さい」
苛立ちの感情を滲ませつつ「あと俺、御国先輩に番号教えた記憶ないんですが」と苦言を洩らすも。
あっはっはっ。オレをなめんなよ―――――? と御国からは軽く受け流されてしまい。
そこで露木は電話のやり取りをさっさと終わらせるために、
「城田真昼も瑪瑙瑠璃も、今のところ要観察対象で接触の予定はありませんし」
一度接触して失敗してますしね、と御国も解っている事柄を口にしたうえで。
「それに・・・もとより無理ですよ。〝有栖院〟は治外法権・・・あなたもよく知ってるでしょう。というか、ご自分で行ったらどうですか。実家でしょう」
自分の携帯の番号を知っていた御国に対して、露木はささやかな意趣返しをすべくそう言うと。電話向こうの御国は暫しの間、沈黙をしていたのだが―――――。
『一応、瑠璃ちゃんには、親父には気をつけるよう〝忠告〟するメールは送ったけどさ。自分で行けないから修平を使おうとしてるんじゃーん。ねぇアベル~~~~~? 修平は物分かりが悪いね~~~~~?』
や―――――ね―――――~~~? とまた、挑発めいた口調でそう言い返されてしまい。
イラァ・・・と、一層の苛立ちがまた込み上げてくるのを露木は感じたのだが。
「まぁ・・・あなたがあの家の門をくぐることは二度とないんでしょうね・・・」
御国が実家に立ち入ろうとしない理由を把握している露木は、ふと何とも言えない面持ちで眉根を寄せると、ふぅ・・・と目を伏せながら息を吐き出し、そう呟いたのだ。
「ほらっ。これが小学校入学式の時の写真でね! かわいいだろ!? ランドセルが大きすぎてねぇ。少し小さめのを特注したんだよ。懐かしいなぁ~~~~~~」
テーブルの上に広げられたアルバム写真、そこに映っているのは、幼少期の御園であり。
いまとは違い、子供らしく愛らしい笑みを浮かべたものばかりで。
でれ―――――~~~~~~と相好を崩しながら、その写真を指差しつつ語るのは、御園の父親である有栖院御門だった。
お茶会に姿を現した王様と呼ばれる御門が席に着いてから暫くの間。
真昼とクロと瑠璃の表情もまた強張ったものだったのだが―――――その席で御門が愛息である御園の写真披露を始めたことにより。
その場の空気は緩やかなものに変わり、その中で二人は最初こそ、アルバムに関心を向けていたのだが。
山のように積み上げられたアルバムを何冊も披露され、親バカとしか言いようがない話を延々と聞かされる中で、徐々に真昼はゲンナリとした表情を隠すことが出来なくなり。
瑠璃は何とか笑みを浮かべてはいたが、その表情はもはや愛想笑いに近いもので。
端の席に座っているクロに至っては、あきた・・・と言わんばかりに、人型でテーブルに伸びながら居眠りをしている始末だった。
けれど、アルバムの写真を見せることに夢中になっている御門はその様子が目に入っていないのか。
「こっちが父の日に御園が描いた絵でね。パパへの愛情たっぷりでよく描けてる!」
ひたすら話し続ける御門に「はぁ・・・」と真昼は仕方なく相槌を打っていたのだが。
アルバムに関心を示すことはなく、瑠璃と交代する形で下位の子供たちの遊び相手をしていた鉄が、子供の中の一人を抱き上げた刹那。
きゃ―――――という、子供のはしゃぎ声が聴こえてくるのと同時に「こっちは・・・はっ!!」と御門もまた唐突に声を上げると、ガタと椅子から立ち上がり、
「い・・・いくら幼少期の御園がかわいいからって」
声を震わせながら言葉を紡ぎ出した御門を真昼もまた「は?」と眉を顰めながら見返すと。
「貴様たち!! 私の息子を性的な目で見るな!!」
眉を吊り上げながらそう叫んだ御門の眼鏡のレンズがパァンと砕け散ったのだ。
メガネが!! と真昼が唖然となるのと同時に、見ねーしっと冷や汗をかきながらも思わず突っ込みを入れると―――――
「す・・・すまない。興奮してついメガネを割ってしまった・・・」
「えと・・・・・・メガネって気合いとかで割れるものだったかしら!?」
瑠璃もまた、眉を下げつつ、当惑の面持ちで思わずそう呟いてしまったのだが。
その後にチラリと此方に視線を向けてきた真昼と目が合うと、
―――――瑠璃姉・・・・・・この人・・・・・・確かにあの二人の父親だな・・・・・・。
そう視線で語り掛けてきた真昼に瑠璃もまた―――――
―――――そうね・・・・・・似てるわね・・・・・・。
目で頷き返すと、何とも言えない面持ちで二人は御門を見ていたのだが。
「御門様。スペアのメガネを」
その時、御門の背後に姿を見せた人物が、すっと代わりの眼鏡が入ったケースを差し出してきたのだ。
真昼と瑠璃が目を瞬かせ、現れた人物に視線を向けると、御門はおおすまない・・・と言って受け取ったケースから眼鏡を取り出して掛け直し、
「彼女は私の秘書でね」
「宇佐美三月です。・・・初めまして」
黒のベストに白ワイシャツ、そして襟元には主人である御門のループタイに付いているモノと同じ、有栖院の紋章が付いたブローチに黒のネクタイを締めて黒のタイトスカートを履いた、黒髪を腰まで伸ばした女性は、此方を一瞥すると表情を変えることなく、淡々と事務的な挨拶を行い。
「御門様。そろそろ時間です。次のご予定が」
主人に話を切り上げるようにと促す言葉を口にした。
けれど、御門は席から立ち上がることをせず、
「いや・・・これから御園の小学校時代じゃないか。もう少しだけ・・・」
「許可できません」
そんな主人に対しても、秘書としての態度を一切変えることはなく、明言した三月だったのだが。しかし、真昼たちに挨拶をした時とは違い、ズ・・・と重圧を感じさせる空気が彼女からは漂ってきていた。
それを背中に感じた御門は引き攣った笑みを浮かべつつも、
「だ・・・大丈夫。大丈夫。三月はああ見えて優しい子だからもう少しだけ・・・」
「あの・・・・・・小父 様。お気持ちは嬉しいのですけど、秘書の方がお迎えにいらっしゃったんですし・・・・・・」
美月からのプレッシャーに耐えつつも、アルバムを手に迫ってきた御門に、ひぃっと真昼が内心で呻いた一方で、瑠璃が眉を下げつつもやんわりとした口調でそう言うと。
「・・・・・・お嬢さんにまで、そう言われてしまったら仕方が無いね」
〝小父 様〟と瑠璃が呼んだ瞬間、微かに戸惑ったように目を瞬かせた御門は、やがて小さく苦笑を零すと、瑠璃を見遣りながらそう言って、アルバムを手放すと席から立ち上がったのだ。
すると、今度は下位の子供たちが「だんなさま遊べないのー?」と御門の周囲に集まって来て。
「うん・・・すまないね、仕事だ」
自分を慕ってくれている下位の子供たちに、笑みを浮かべながらそう告げる御門の姿を、改めて観察するように見つめた真昼と瑠璃が抱いた想いは同様のモノだった。
―――――やはり顔も雰囲気も御国さんとよく似ている気がする。
―――――それなのに何故、御国さんはいないみたいに扱われているのか。
と―――――
「城田真昼くん・・・と言ったね。吸血鬼と人の共存は可能だと思うかい?」
ふいに御門から投げかけられてきた問いかけに、きょとんと真昼は目を瞬かせる。
「え・・・っと・・・? 思う・・・というかできたらいいのにって思ってました」
C3で話をした露木は、抑止力がなければ人外との共存は叶わないのだと言っていた。
けれど―――――
「・・・でもこの家のみんなを見て・・・できるんだって思いました」
有栖院邸には、色欲の真祖であるリリイだけではなく、たくさんの下位吸血鬼の子供たちも共に暮らしており。子供たちは家人の手伝いを行う事で、その対価として血の提供を受けているのだと、真昼は下位吸血鬼の一人であるユリーから聞いたのだ。
「うん・・・そうだね」
真昼が出した答に御門は僅かに口角を上げる。
それから瑠璃にもまた視線を向けると、
「お嬢さんは、真祖の花嫁に為り得る唯一の存在―――――〝ミストレス〟だそうだね。君は吸血鬼と人が共存をする上で何の〝制約〟も無しにそれが成り立つと思うかい?」
「それは・・・・・・」
御門の口から紡ぎ出された〝制約〟という言葉に、瑠璃は引っ掛かるものを覚え、眉を顰める。
すると御門はゆっくりと部屋の中央に向かって足を向けると、
「他者との共存を果たすにはルールが必要だ。〝何者も我々に干渉しない〟。その上で我々は共存を可能にしてきた」
―――――瑠璃ちゃん、〝王様〟には気をつけてね―――――
瑠璃の意識の内に、御国から送られてきたメッセージが浮んできて、警鐘を響かせる。
その刹那、部屋の照明が薄暗くなり、〝王様〟とその場に集った〝臣下〟たちの姿が、窓から差し込んだ月明かりの逆光の中に顕現する。
そこで真昼もまた不穏な気配を感じたのだろう。眉を顰めると、さり気なく武器が宿った右手をテーブルに据えながら椅子から立ち上がる。
「外から別の価値観を持ち込まれると我々の〝ルール〟が脅かされる。不穏分子は排除したい」
―――――〝王様〟である御門が言う不穏分子というのは、いない存在として扱っている御国のことなのか。
だから―――――
「君たち、御園のためを思うならどうか干渉しないでくれないか」
―――――御国の事を知っている真昼たちの事もこの場所から排斥しようとするのか。
けれど―――――
「御園本人がそう言うなら俺達は帰ります! だから御園に会わせて下さい」
―――――御園の望みはそうではないはずだ。
―――――いまこの場には居ない幼い少女が、たった一人で御園のために危険を冒してまで、真昼に助けを求めてきたのだから。
御門の威圧的な空気に臆することなく、強い瞳で見据えながら言い放った真昼に続き、瑠璃もまた口を開く。
「私たちと御園君は友達だからこそ、会って話す権利があるはずです。御園君が本当に王様と同じ考えなのか。確かめさせて下さい」
そうして瑠璃もまたきっぱりとした口調でそう言い切ると、挨拶をした際には一切表情を変える事が無かった三月の顔には微かに狼狽したような色が浮んでいて。洞堂に至っては完全に蒼白な顔色で引き攣った表情を浮かべていた。
王様である御門は暫しの間、眉根を寄せなら真昼と瑠璃の顔を黙って見ていたのだが―――――
「・・・御園に何かあってからでは遅い。私の〝最後の家族〟だ」
「最後の家族ってどういうこと・・・」
どうしてそこまで徹底して御国の存在を否定するのか。
理解出来ない御門の言動に、真昼は当惑の表情となってしまう。
瑠璃もまた、これ以上どう追及すれば良いのか。
思い浮かばず、口を噤むしかなく。
その様を目にした御門は口元に弧を描くと、
「さあお茶会はお開きだ。帰るなら送ろう」
王様の宣言により、壁際に控えていた洞堂が右手の親指と合わせて突き出した人差し指の先に車のキーをぶら下げながら、ザッと前に進み出てくる。
―――――が、
「帰らないと言うなら・・・二度とここへは来たくないという思いをしてもらうことになる」
「・・・おいおっさん」
脅しと捉えることができる言葉を続けた王様に対して、ずいっと近づくと不遜な口調でそう呼び掛けたのは部屋の脇に置いていた棺桶をまた背中に背負った鉄だった。
「親が子供を縛りてぇみてぇにガキは結託して大人に反抗したがるもんなんだぜ」
眉を顰めながら、睨むような眼差しで王様の顔を見ながら鉄は言う。
しかしそれに対して王様は顔色を一切変えることなく、
「・・・一理あるね」
にこと笑顔で応えると。
「―――――洞堂」
右側に控えていた運転手たる彼は王様に呼ばれたその刹那―――――
ドッと素早く鉄の間合いに入り込み、背中の棺桶を左手で掴むと、そのまま遠心力を利用する形で奪い取ることにより、鉄の身体をギャンと勢いよく背後に向かって投げ飛ばしたのだ。
「洞堂さん!? なんで・・・・・っ」
「だから・・・言ったんすわ。謁見はとびきり慎重にって・・・」
一瞬の間に起こった出来事に、茫然とした面持ちで言葉を洩らした瑠璃に視線を向けることなく、ゴッと床に勢いよく倒れこんだ鉄のほうを見遣りながら、洞堂は気まずそうな様子で、はぁ・・・と溜息を洩らしつつ言う。
それから次に襲撃を仕掛けてきたのは真昼たちにお茶を淹れてくれたやまねだった。
やまねの頭にはメイドキャップが落ちないよう、まるで巨大な待ち針のようなデザインの有栖院家の紋章が入ったモノが二本挿してあったのだが、それを右手で、す、と一本抜き取るとそれを武器として、真昼と瑠璃を狙って攻撃を繰り出してきたのだ。
「―――――っ!!」
バチッ!! と白銀の閃光が瞬き、さらにその後にガキン!! という激しい金属音が響き渡る。
瑠璃の『鍵』の力が発動し、やまねからの一度目の攻撃をまず防いだ処で、その後にすぐさま別の角度から展開された、二度目の攻撃はその時に真昼と瑠璃の傍らに素早く移動をしてきたクロが、左手に持ったフォークで食い止めたのだ。
「オイ・・・ばーちゃん・・・向き合えねーなぁ・・・」
眉を顰めながら、諫めるようにそう洩らしたクロに対し、
「人様のお家ではお行儀良くするものですよ?」
穏和な笑みを浮かべたまま、やまねは言い返してくる。
それからすぐさまテコの原理を利用するように、素早くフォークの間に挟まっていた武器を上に向かって跳ね上げるようにしながら、三度目の攻撃を仕掛けてきて―――――結果、手にした武器のリーチの差もあり。
「に゛ゃ―――――!!」
押し負けてしまう形になったクロは、黒猫の姿に変わってしまった処で、逃げる隙を与えられることなく、首輪の内側を通った針によって、ドッとそのまま壁にぶら下げられてしまう。
「クロ!」
真昼が叫ぶ。
と―――――
「吸血鬼の戦争なんて私の息子の知ったことではない。御園の意志を聞くまでもない・・・御園には戦わせたりなどしないよ」
戦況を見ていた御門が抑揚のない口調で宣言する。
その傍らに控える御門の秘書である三月は、お茶会が終了した時点から、眉一つ動かすことなく。王様である御門からの命が無い限り、一切の行動を起こすことは無さそうだった。
「何の覚悟もなく吸血鬼 を使えば逆にのまれてしまう。まるごと、何もかも」
ふと、窓辺に視線を向けた処で御門が呟いた言葉に、真昼が目を瞬かせる。
―――――・・・あれ? この話、前にも・・・。
それはつい先日、クロが暴走した時。
その場に姿を見せた御国が真昼に対して口にした内容と同じ。
けれど―――――
「御園はまだ子供だ。そんな覚悟はないよ」
その後に続いた御門の言葉は、御国とは違って否定的なもので。
「そんなことない」
真昼はそれを打ち消す為に、ハッキリとした声音で言い放つ。
刹那、鋭い眼光が向けられるも、真昼は臆することなく睨み返すと、
「あいつはおじさんが思ってるほど弱くないよ。友達のために戦ってくれる強い奴だ」
―――――・・・おじさん、御園のことちゃんと見てる?
さらに詰問を口にした真昼に続いて、瑠璃もまた言葉を紡ぎ出す。
「そうね。小父様も自身の中の〝先入観〟を一度手放して、きちんと御園君の言葉に耳を傾けてみればそれが解るはずよ」
だから―――――
「・・・俺達は御園と話をするまで帰らない!!」
そう真昼は宣言すると、右手首に宿った武器がキュンと音を響かせ、発動したのだ。
―――――僕はここにいていいのだろうか?
―――――・・・いつまでもこの安全な庭の中で
―――――僕は・・・みんなを守りたいと言いながら
―――――実際はただ守られているままじゃないのか?
庭園にある噴水の端に腰掛けて、屋敷を見上げながら御園は心の中で自問する。
するとそれに応えるように、幼少時の御園の姿が心の中から傍らに現れる。
幼少の御園は本を読みながら、指先に止まった蝶に無邪気な笑みを向けている。
―――――僕は・・・
茫然と御園は目を見開くと、噴水の端から立ち上がる。
けれど心の中に在るもどかしい感情の答は、見出すことが出来ないままで。
―――――その時だった。
・・・園!!
聞き覚えのある声に名前を呼ばれたのを感じ取った御園が、呆然とした面持ちで俯けてしまっていた顔を上げたその直後。
「御園!!」
「御園君!!」
白銀の閃光が瞬くと、ガシャァと勢いよく割れた屋敷の窓の向こう側から―――――武器であるホウキを右手で握りしめた真昼を筆頭に、額から血を流しながらも武器である棺桶を手放すことなくしっかりと背負って、右手に蝙蝠を止まらせながら、左腕を真昼の身体に回してしがみ付いた鉄と。黒猫を左腕で抱きしめながら右手で真昼のホウキの柄の先をしっかりと握りしめた状態で『鍵』の力を発動させて周囲にシールドを展開させた瑠璃が姿を見せたのだ。
「な・・・」
唖然とした表情になった御園の目の前に、真昼たちはそのまま勢いよく落下してきて。
ザパ―――――ンと盛大に噴水の中に着地したことにより、立ち上った水飛沫は御園に向かって降り注ぐこととなるのだった。
「・・・なんで貴様らが僕の家にいるんだ!?」
鉄から受け取った予備の手ぬぐいで御園は濡れた髪を拭きながら、右手の人差し指を真昼たちに向かって突き付けつつ、そしてなんで窓を破って振ってくる?! と混乱した面持ちで問いかけてくる。
御園の傍には様子を見守る蝶の姿も在った。
「ユリーに御園が困ってるって聞いてさ! でもお前のお父さんに会わせないって言われて・・・」
まず、真昼が家にいた理由を御園に伝えると、瑠璃もまた眉を下げながら窓ガラスを破壊するに至ってしまった理由を話し出す。
「お家の窓の件は、本当にごめんなさい。その後に、バトルに突入する事になってしまって。私の『鍵』の力であの場から、すぐにみんなで脱出するのはちょっと難しい状況になってしまったものだから・・・・・・」
そこで暴走を得意とする真昼の武器の出番となり、そのどさくさに紛れて負傷してしまった鉄とバトルに敗れてしまった黒猫を連れて離脱しようとした処―――――。
窓の向こう側に広がる庭園の噴水の端に座る御園の姿を真昼が見つけて―――――その瞬間、ホウキは主人の意志を汲み取ったかのように一気に加速して窓を突き破ることになり、しかし咄嗟に瑠璃が『鍵』の力を使ってシールドを張った事でそれ以上の怪我を負わずに済んだのだが。
「なー血ィ止まんねんだけど」
どくどくと額の傷から血を流しつつそう言った鉄に慌てた表情で瑠璃は振り返ると、
「鉄君っ、とりあえずもう一枚手ぬぐい貸して!! そこの噴水のところに座って、止血しましょう」
「おぅ、じゃあこれで頼めるか?」
新たに一枚取り出した手ぬぐいを鉄は瑠璃に差し出してくる。
そうして瑠璃が鉄の額に巻いていくと、
「父に・・・会ったのなら相当強く止められただろう。ケガまでして・・・どうして・・・そんな僕に」
事情を把握した御園はショックを受けた様子で視線を俯けながら呻くような口調で言った。
―――――それに対する答は唯一つ。
「友達が困ってたら協力するに決まってるだろ!」
真昼が当然のことだと云った顔で御園に向かって言う。
そして瑠璃もまた一先ず止血を終えた鉄とともに真昼の傍らに並ぶと、
「行きましょう御園君! 貴方がここを出たいって思うなら。私たちはその為にここに来たのよ!」
ふわりと微笑を浮かべながら御園に向かって右手を差し出す。
と―――――
迷う御園の代わりに、その手を取ろうと立ち上がったのは、心の中から姿を現した幼い御園だった。
けれど―――――
―――――御園『お前は父さんのたった一人の家族じゃないか』―――――
ゆっくりと『アリスの庭』の中から伸びてきた蔓が、それを阻むようにして御園の身体に絡みつきながら囁くように告げてくる。
「―――――・・・い・・・行け・・・ない」
そうして前に進む事が出来なくなってしまった御園は悲痛な表情を浮かべると、両手を握りしめながら絞り出すような声で言った。
その答に真昼と瑠璃が呆然と目を見開くと―――――
「父さんは・・・僕までいなくなるんじゃないかって不安なんだ。僕は父さんの最後の家族だから・・・」
「最後の家族ってどういうことだよ!?」
御園が紡ぎ出した言葉に、真昼が当惑の表情で聞き返す。
「その・・・お母さんは!? 御国さんは・・・!? この家のみんな・・・御国さんのこと初めからいなかったみたいに言うし。なんかおかしいよ・・・」
そう言った真昼の言葉に、御園は顔を強張らせると、暗い表情で視線を俯ける。
「そう・・・何か・・・おかしいんだ・・・」
御園もまた心の中では、本当はそう思っていた。
けれど、父親の心情を想うと、それをハッキリと言葉にする事がずっと出来ずにいた。
「―――――御園君」
そっと瑠璃が名前を呼ぶと、そこに救急箱を手にした洞堂が「あ――――いたっ」と、ばたばたと勢いよく走ってきて。
どうやら鉄の傷の手当てをする為に、探してくれていたようだった。
そうして真昼たちから少し離れた場所で、鉄の治療を洞堂が始めた処で、
「・・・城田、瑠璃。今は・・・行けないが。明日の夜、みつからないように脱け出してそっちに合流するから少し待って欲しい」
淡々とした声音で御園の口から紡ぎ出された申し出に真昼と瑠璃が目を瞬かせると、
「・・・相談したいことがあるんだ。父さんのこと・・・。・・・御国のこと」
思いつめた表情で二人を見据えながら御園はそう言ったのだ。
19/9/07掲載
『ちょーっと面倒なことになっちゃったよ。真昼くんと瑠璃ちゃんやら、何やらがウチに侵入しちゃってさ。親父と接触してるみたいなんだよね。修平どうにかしてくんない?』
C3で仕事に追われていた露木の下には、真昼たちが連絡を取ることが叶わなかった御国から一本の電話がかかってきていた。
けれど、電話向こうの御国は〝面倒なこと〟と口では言いながらも、その雰囲気は常と全く変わっておらず。部屋の外に出て来て、通路の壁に背を凭れかけさせながら電話に応じた露木は眉を顰めると、
「・・・漠然とした依頼は止めて下さい」
苛立ちの感情を滲ませつつ「あと俺、御国先輩に番号教えた記憶ないんですが」と苦言を洩らすも。
あっはっはっ。オレをなめんなよ―――――? と御国からは軽く受け流されてしまい。
そこで露木は電話のやり取りをさっさと終わらせるために、
「城田真昼も瑪瑙瑠璃も、今のところ要観察対象で接触の予定はありませんし」
一度接触して失敗してますしね、と御国も解っている事柄を口にしたうえで。
「それに・・・もとより無理ですよ。〝有栖院〟は治外法権・・・あなたもよく知ってるでしょう。というか、ご自分で行ったらどうですか。実家でしょう」
自分の携帯の番号を知っていた御国に対して、露木はささやかな意趣返しをすべくそう言うと。電話向こうの御国は暫しの間、沈黙をしていたのだが―――――。
『一応、瑠璃ちゃんには、親父には気をつけるよう〝忠告〟するメールは送ったけどさ。自分で行けないから修平を使おうとしてるんじゃーん。ねぇアベル~~~~~? 修平は物分かりが悪いね~~~~~?』
や―――――ね―――――~~~? とまた、挑発めいた口調でそう言い返されてしまい。
イラァ・・・と、一層の苛立ちがまた込み上げてくるのを露木は感じたのだが。
「まぁ・・・あなたがあの家の門をくぐることは二度とないんでしょうね・・・」
御国が実家に立ち入ろうとしない理由を把握している露木は、ふと何とも言えない面持ちで眉根を寄せると、ふぅ・・・と目を伏せながら息を吐き出し、そう呟いたのだ。
「ほらっ。これが小学校入学式の時の写真でね! かわいいだろ!? ランドセルが大きすぎてねぇ。少し小さめのを特注したんだよ。懐かしいなぁ~~~~~~」
テーブルの上に広げられたアルバム写真、そこに映っているのは、幼少期の御園であり。
いまとは違い、子供らしく愛らしい笑みを浮かべたものばかりで。
でれ―――――~~~~~~と相好を崩しながら、その写真を指差しつつ語るのは、御園の父親である有栖院御門だった。
お茶会に姿を現した王様と呼ばれる御門が席に着いてから暫くの間。
真昼とクロと瑠璃の表情もまた強張ったものだったのだが―――――その席で御門が愛息である御園の写真披露を始めたことにより。
その場の空気は緩やかなものに変わり、その中で二人は最初こそ、アルバムに関心を向けていたのだが。
山のように積み上げられたアルバムを何冊も披露され、親バカとしか言いようがない話を延々と聞かされる中で、徐々に真昼はゲンナリとした表情を隠すことが出来なくなり。
瑠璃は何とか笑みを浮かべてはいたが、その表情はもはや愛想笑いに近いもので。
端の席に座っているクロに至っては、あきた・・・と言わんばかりに、人型でテーブルに伸びながら居眠りをしている始末だった。
けれど、アルバムの写真を見せることに夢中になっている御門はその様子が目に入っていないのか。
「こっちが父の日に御園が描いた絵でね。パパへの愛情たっぷりでよく描けてる!」
ひたすら話し続ける御門に「はぁ・・・」と真昼は仕方なく相槌を打っていたのだが。
アルバムに関心を示すことはなく、瑠璃と交代する形で下位の子供たちの遊び相手をしていた鉄が、子供の中の一人を抱き上げた刹那。
きゃ―――――という、子供のはしゃぎ声が聴こえてくるのと同時に「こっちは・・・はっ!!」と御門もまた唐突に声を上げると、ガタと椅子から立ち上がり、
「い・・・いくら幼少期の御園がかわいいからって」
声を震わせながら言葉を紡ぎ出した御門を真昼もまた「は?」と眉を顰めながら見返すと。
「貴様たち!! 私の息子を性的な目で見るな!!」
眉を吊り上げながらそう叫んだ御門の眼鏡のレンズがパァンと砕け散ったのだ。
メガネが!! と真昼が唖然となるのと同時に、見ねーしっと冷や汗をかきながらも思わず突っ込みを入れると―――――
「す・・・すまない。興奮してついメガネを割ってしまった・・・」
「えと・・・・・・メガネって気合いとかで割れるものだったかしら!?」
瑠璃もまた、眉を下げつつ、当惑の面持ちで思わずそう呟いてしまったのだが。
その後にチラリと此方に視線を向けてきた真昼と目が合うと、
―――――瑠璃姉・・・・・・この人・・・・・・確かにあの二人の父親だな・・・・・・。
そう視線で語り掛けてきた真昼に瑠璃もまた―――――
―――――そうね・・・・・・似てるわね・・・・・・。
目で頷き返すと、何とも言えない面持ちで二人は御門を見ていたのだが。
「御門様。スペアのメガネを」
その時、御門の背後に姿を見せた人物が、すっと代わりの眼鏡が入ったケースを差し出してきたのだ。
真昼と瑠璃が目を瞬かせ、現れた人物に視線を向けると、御門はおおすまない・・・と言って受け取ったケースから眼鏡を取り出して掛け直し、
「彼女は私の秘書でね」
「宇佐美三月です。・・・初めまして」
黒のベストに白ワイシャツ、そして襟元には主人である御門のループタイに付いているモノと同じ、有栖院の紋章が付いたブローチに黒のネクタイを締めて黒のタイトスカートを履いた、黒髪を腰まで伸ばした女性は、此方を一瞥すると表情を変えることなく、淡々と事務的な挨拶を行い。
「御門様。そろそろ時間です。次のご予定が」
主人に話を切り上げるようにと促す言葉を口にした。
けれど、御門は席から立ち上がることをせず、
「いや・・・これから御園の小学校時代じゃないか。もう少しだけ・・・」
「許可できません」
そんな主人に対しても、秘書としての態度を一切変えることはなく、明言した三月だったのだが。しかし、真昼たちに挨拶をした時とは違い、ズ・・・と重圧を感じさせる空気が彼女からは漂ってきていた。
それを背中に感じた御門は引き攣った笑みを浮かべつつも、
「だ・・・大丈夫。大丈夫。三月はああ見えて優しい子だからもう少しだけ・・・」
「あの・・・・・・
美月からのプレッシャーに耐えつつも、アルバムを手に迫ってきた御門に、ひぃっと真昼が内心で呻いた一方で、瑠璃が眉を下げつつもやんわりとした口調でそう言うと。
「・・・・・・お嬢さんにまで、そう言われてしまったら仕方が無いね」
〝
すると、今度は下位の子供たちが「だんなさま遊べないのー?」と御門の周囲に集まって来て。
「うん・・・すまないね、仕事だ」
自分を慕ってくれている下位の子供たちに、笑みを浮かべながらそう告げる御門の姿を、改めて観察するように見つめた真昼と瑠璃が抱いた想いは同様のモノだった。
―――――やはり顔も雰囲気も御国さんとよく似ている気がする。
―――――それなのに何故、御国さんはいないみたいに扱われているのか。
と―――――
「城田真昼くん・・・と言ったね。吸血鬼と人の共存は可能だと思うかい?」
ふいに御門から投げかけられてきた問いかけに、きょとんと真昼は目を瞬かせる。
「え・・・っと・・・? 思う・・・というかできたらいいのにって思ってました」
C3で話をした露木は、抑止力がなければ人外との共存は叶わないのだと言っていた。
けれど―――――
「・・・でもこの家のみんなを見て・・・できるんだって思いました」
有栖院邸には、色欲の真祖であるリリイだけではなく、たくさんの下位吸血鬼の子供たちも共に暮らしており。子供たちは家人の手伝いを行う事で、その対価として血の提供を受けているのだと、真昼は下位吸血鬼の一人であるユリーから聞いたのだ。
「うん・・・そうだね」
真昼が出した答に御門は僅かに口角を上げる。
それから瑠璃にもまた視線を向けると、
「お嬢さんは、真祖の花嫁に為り得る唯一の存在―――――〝ミストレス〟だそうだね。君は吸血鬼と人が共存をする上で何の〝制約〟も無しにそれが成り立つと思うかい?」
「それは・・・・・・」
御門の口から紡ぎ出された〝制約〟という言葉に、瑠璃は引っ掛かるものを覚え、眉を顰める。
すると御門はゆっくりと部屋の中央に向かって足を向けると、
「他者との共存を果たすにはルールが必要だ。〝何者も我々に干渉しない〟。その上で我々は共存を可能にしてきた」
―――――瑠璃ちゃん、〝王様〟には気をつけてね―――――
瑠璃の意識の内に、御国から送られてきたメッセージが浮んできて、警鐘を響かせる。
その刹那、部屋の照明が薄暗くなり、〝王様〟とその場に集った〝臣下〟たちの姿が、窓から差し込んだ月明かりの逆光の中に顕現する。
そこで真昼もまた不穏な気配を感じたのだろう。眉を顰めると、さり気なく武器が宿った右手をテーブルに据えながら椅子から立ち上がる。
「外から別の価値観を持ち込まれると我々の〝ルール〟が脅かされる。不穏分子は排除したい」
―――――〝王様〟である御門が言う不穏分子というのは、いない存在として扱っている御国のことなのか。
だから―――――
「君たち、御園のためを思うならどうか干渉しないでくれないか」
―――――御国の事を知っている真昼たちの事もこの場所から排斥しようとするのか。
けれど―――――
「御園本人がそう言うなら俺達は帰ります! だから御園に会わせて下さい」
―――――御園の望みはそうではないはずだ。
―――――いまこの場には居ない幼い少女が、たった一人で御園のために危険を冒してまで、真昼に助けを求めてきたのだから。
御門の威圧的な空気に臆することなく、強い瞳で見据えながら言い放った真昼に続き、瑠璃もまた口を開く。
「私たちと御園君は友達だからこそ、会って話す権利があるはずです。御園君が本当に王様と同じ考えなのか。確かめさせて下さい」
そうして瑠璃もまたきっぱりとした口調でそう言い切ると、挨拶をした際には一切表情を変える事が無かった三月の顔には微かに狼狽したような色が浮んでいて。洞堂に至っては完全に蒼白な顔色で引き攣った表情を浮かべていた。
王様である御門は暫しの間、眉根を寄せなら真昼と瑠璃の顔を黙って見ていたのだが―――――
「・・・御園に何かあってからでは遅い。私の〝最後の家族〟だ」
「最後の家族ってどういうこと・・・」
どうしてそこまで徹底して御国の存在を否定するのか。
理解出来ない御門の言動に、真昼は当惑の表情となってしまう。
瑠璃もまた、これ以上どう追及すれば良いのか。
思い浮かばず、口を噤むしかなく。
その様を目にした御門は口元に弧を描くと、
「さあお茶会はお開きだ。帰るなら送ろう」
王様の宣言により、壁際に控えていた洞堂が右手の親指と合わせて突き出した人差し指の先に車のキーをぶら下げながら、ザッと前に進み出てくる。
―――――が、
「帰らないと言うなら・・・二度とここへは来たくないという思いをしてもらうことになる」
「・・・おいおっさん」
脅しと捉えることができる言葉を続けた王様に対して、ずいっと近づくと不遜な口調でそう呼び掛けたのは部屋の脇に置いていた棺桶をまた背中に背負った鉄だった。
「親が子供を縛りてぇみてぇにガキは結託して大人に反抗したがるもんなんだぜ」
眉を顰めながら、睨むような眼差しで王様の顔を見ながら鉄は言う。
しかしそれに対して王様は顔色を一切変えることなく、
「・・・一理あるね」
にこと笑顔で応えると。
「―――――洞堂」
右側に控えていた運転手たる彼は王様に呼ばれたその刹那―――――
ドッと素早く鉄の間合いに入り込み、背中の棺桶を左手で掴むと、そのまま遠心力を利用する形で奪い取ることにより、鉄の身体をギャンと勢いよく背後に向かって投げ飛ばしたのだ。
「洞堂さん!? なんで・・・・・っ」
「だから・・・言ったんすわ。謁見はとびきり慎重にって・・・」
一瞬の間に起こった出来事に、茫然とした面持ちで言葉を洩らした瑠璃に視線を向けることなく、ゴッと床に勢いよく倒れこんだ鉄のほうを見遣りながら、洞堂は気まずそうな様子で、はぁ・・・と溜息を洩らしつつ言う。
それから次に襲撃を仕掛けてきたのは真昼たちにお茶を淹れてくれたやまねだった。
やまねの頭にはメイドキャップが落ちないよう、まるで巨大な待ち針のようなデザインの有栖院家の紋章が入ったモノが二本挿してあったのだが、それを右手で、す、と一本抜き取るとそれを武器として、真昼と瑠璃を狙って攻撃を繰り出してきたのだ。
「―――――っ!!」
バチッ!! と白銀の閃光が瞬き、さらにその後にガキン!! という激しい金属音が響き渡る。
瑠璃の『鍵』の力が発動し、やまねからの一度目の攻撃をまず防いだ処で、その後にすぐさま別の角度から展開された、二度目の攻撃はその時に真昼と瑠璃の傍らに素早く移動をしてきたクロが、左手に持ったフォークで食い止めたのだ。
「オイ・・・ばーちゃん・・・向き合えねーなぁ・・・」
眉を顰めながら、諫めるようにそう洩らしたクロに対し、
「人様のお家ではお行儀良くするものですよ?」
穏和な笑みを浮かべたまま、やまねは言い返してくる。
それからすぐさまテコの原理を利用するように、素早くフォークの間に挟まっていた武器を上に向かって跳ね上げるようにしながら、三度目の攻撃を仕掛けてきて―――――結果、手にした武器のリーチの差もあり。
「に゛ゃ―――――!!」
押し負けてしまう形になったクロは、黒猫の姿に変わってしまった処で、逃げる隙を与えられることなく、首輪の内側を通った針によって、ドッとそのまま壁にぶら下げられてしまう。
「クロ!」
真昼が叫ぶ。
と―――――
「吸血鬼の戦争なんて私の息子の知ったことではない。御園の意志を聞くまでもない・・・御園には戦わせたりなどしないよ」
戦況を見ていた御門が抑揚のない口調で宣言する。
その傍らに控える御門の秘書である三月は、お茶会が終了した時点から、眉一つ動かすことなく。王様である御門からの命が無い限り、一切の行動を起こすことは無さそうだった。
「何の覚悟もなく
ふと、窓辺に視線を向けた処で御門が呟いた言葉に、真昼が目を瞬かせる。
―――――・・・あれ? この話、前にも・・・。
それはつい先日、クロが暴走した時。
その場に姿を見せた御国が真昼に対して口にした内容と同じ。
けれど―――――
「御園はまだ子供だ。そんな覚悟はないよ」
その後に続いた御門の言葉は、御国とは違って否定的なもので。
「そんなことない」
真昼はそれを打ち消す為に、ハッキリとした声音で言い放つ。
刹那、鋭い眼光が向けられるも、真昼は臆することなく睨み返すと、
「あいつはおじさんが思ってるほど弱くないよ。友達のために戦ってくれる強い奴だ」
―――――・・・おじさん、御園のことちゃんと見てる?
さらに詰問を口にした真昼に続いて、瑠璃もまた言葉を紡ぎ出す。
「そうね。小父様も自身の中の〝先入観〟を一度手放して、きちんと御園君の言葉に耳を傾けてみればそれが解るはずよ」
だから―――――
「・・・俺達は御園と話をするまで帰らない!!」
そう真昼は宣言すると、右手首に宿った武器がキュンと音を響かせ、発動したのだ。
―――――僕はここにいていいのだろうか?
―――――・・・いつまでもこの安全な庭の中で
―――――僕は・・・みんなを守りたいと言いながら
―――――実際はただ守られているままじゃないのか?
庭園にある噴水の端に腰掛けて、屋敷を見上げながら御園は心の中で自問する。
するとそれに応えるように、幼少時の御園の姿が心の中から傍らに現れる。
幼少の御園は本を読みながら、指先に止まった蝶に無邪気な笑みを向けている。
―――――僕は・・・
茫然と御園は目を見開くと、噴水の端から立ち上がる。
けれど心の中に在るもどかしい感情の答は、見出すことが出来ないままで。
―――――その時だった。
・・・園!!
聞き覚えのある声に名前を呼ばれたのを感じ取った御園が、呆然とした面持ちで俯けてしまっていた顔を上げたその直後。
「御園!!」
「御園君!!」
白銀の閃光が瞬くと、ガシャァと勢いよく割れた屋敷の窓の向こう側から―――――武器であるホウキを右手で握りしめた真昼を筆頭に、額から血を流しながらも武器である棺桶を手放すことなくしっかりと背負って、右手に蝙蝠を止まらせながら、左腕を真昼の身体に回してしがみ付いた鉄と。黒猫を左腕で抱きしめながら右手で真昼のホウキの柄の先をしっかりと握りしめた状態で『鍵』の力を発動させて周囲にシールドを展開させた瑠璃が姿を見せたのだ。
「な・・・」
唖然とした表情になった御園の目の前に、真昼たちはそのまま勢いよく落下してきて。
ザパ―――――ンと盛大に噴水の中に着地したことにより、立ち上った水飛沫は御園に向かって降り注ぐこととなるのだった。
「・・・なんで貴様らが僕の家にいるんだ!?」
鉄から受け取った予備の手ぬぐいで御園は濡れた髪を拭きながら、右手の人差し指を真昼たちに向かって突き付けつつ、そしてなんで窓を破って振ってくる?! と混乱した面持ちで問いかけてくる。
御園の傍には様子を見守る蝶の姿も在った。
「ユリーに御園が困ってるって聞いてさ! でもお前のお父さんに会わせないって言われて・・・」
まず、真昼が家にいた理由を御園に伝えると、瑠璃もまた眉を下げながら窓ガラスを破壊するに至ってしまった理由を話し出す。
「お家の窓の件は、本当にごめんなさい。その後に、バトルに突入する事になってしまって。私の『鍵』の力であの場から、すぐにみんなで脱出するのはちょっと難しい状況になってしまったものだから・・・・・・」
そこで暴走を得意とする真昼の武器の出番となり、そのどさくさに紛れて負傷してしまった鉄とバトルに敗れてしまった黒猫を連れて離脱しようとした処―――――。
窓の向こう側に広がる庭園の噴水の端に座る御園の姿を真昼が見つけて―――――その瞬間、ホウキは主人の意志を汲み取ったかのように一気に加速して窓を突き破ることになり、しかし咄嗟に瑠璃が『鍵』の力を使ってシールドを張った事でそれ以上の怪我を負わずに済んだのだが。
「なー血ィ止まんねんだけど」
どくどくと額の傷から血を流しつつそう言った鉄に慌てた表情で瑠璃は振り返ると、
「鉄君っ、とりあえずもう一枚手ぬぐい貸して!! そこの噴水のところに座って、止血しましょう」
「おぅ、じゃあこれで頼めるか?」
新たに一枚取り出した手ぬぐいを鉄は瑠璃に差し出してくる。
そうして瑠璃が鉄の額に巻いていくと、
「父に・・・会ったのなら相当強く止められただろう。ケガまでして・・・どうして・・・そんな僕に」
事情を把握した御園はショックを受けた様子で視線を俯けながら呻くような口調で言った。
―――――それに対する答は唯一つ。
「友達が困ってたら協力するに決まってるだろ!」
真昼が当然のことだと云った顔で御園に向かって言う。
そして瑠璃もまた一先ず止血を終えた鉄とともに真昼の傍らに並ぶと、
「行きましょう御園君! 貴方がここを出たいって思うなら。私たちはその為にここに来たのよ!」
ふわりと微笑を浮かべながら御園に向かって右手を差し出す。
と―――――
迷う御園の代わりに、その手を取ろうと立ち上がったのは、心の中から姿を現した幼い御園だった。
けれど―――――
―――――御園『お前は父さんのたった一人の家族じゃないか』―――――
ゆっくりと『アリスの庭』の中から伸びてきた蔓が、それを阻むようにして御園の身体に絡みつきながら囁くように告げてくる。
「―――――・・・い・・・行け・・・ない」
そうして前に進む事が出来なくなってしまった御園は悲痛な表情を浮かべると、両手を握りしめながら絞り出すような声で言った。
その答に真昼と瑠璃が呆然と目を見開くと―――――
「父さんは・・・僕までいなくなるんじゃないかって不安なんだ。僕は父さんの最後の家族だから・・・」
「最後の家族ってどういうことだよ!?」
御園が紡ぎ出した言葉に、真昼が当惑の表情で聞き返す。
「その・・・お母さんは!? 御国さんは・・・!? この家のみんな・・・御国さんのこと初めからいなかったみたいに言うし。なんかおかしいよ・・・」
そう言った真昼の言葉に、御園は顔を強張らせると、暗い表情で視線を俯ける。
「そう・・・何か・・・おかしいんだ・・・」
御園もまた心の中では、本当はそう思っていた。
けれど、父親の心情を想うと、それをハッキリと言葉にする事がずっと出来ずにいた。
「―――――御園君」
そっと瑠璃が名前を呼ぶと、そこに救急箱を手にした洞堂が「あ――――いたっ」と、ばたばたと勢いよく走ってきて。
どうやら鉄の傷の手当てをする為に、探してくれていたようだった。
そうして真昼たちから少し離れた場所で、鉄の治療を洞堂が始めた処で、
「・・・城田、瑠璃。今は・・・行けないが。明日の夜、みつからないように脱け出してそっちに合流するから少し待って欲しい」
淡々とした声音で御園の口から紡ぎ出された申し出に真昼と瑠璃が目を瞬かせると、
「・・・相談したいことがあるんだ。父さんのこと・・・。・・・御国のこと」
思いつめた表情で二人を見据えながら御園はそう言ったのだ。
19/9/07掲載
