第十一章『Alice in the Garden《スノーリリイ》』
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Alice in the Garden《スノーリリイ》
いよいよ本格的に動き出してしまった椿達への対抗策として、真祖七人全員を集めようと決議したあの後。
真昼と!瑠璃とクロの三人は、傲慢の主人である鉄の実家の温泉旅館を訪れていた。
そこで―――――
この前、鉄とヒューが真昼の家に泊まったから、今度は真昼たちが鉄の家にという流れになり。
他の客の姿がない事から貸し切り状態のような露天風呂で、沸きあがる湯に一人浸かることになった瑠璃はぼんやりと空に浮かぶ朧月を見上げると、
「・・・・・・温泉に入るの、いつ振りかな」
ほっと息を吐き出すようにしながら呟いた。
両親や祖父母が健在だった頃は、一緒に温泉旅館に宿泊をしたこともあったが。
一人になってからは、やはりこういう場所にも縁遠くなっていた。
C3からの接触があった矢先、その組織が弱体化をしていることを知った中、椿達の動きもいよいよ本格的となった以上―――――これから先は、ますます気が抜けない状況となるだろう。
―――――・・・・・・〝力〟を使えば、〝椿〟にもう一度〝会う〟ことはできるかもしれない。
―――――・・・・・・だけど〝椿〟を〝止める〟為には〝みんな〟で〝協力〟をしなければ意味がないから。
ふいに切ない感情を胸の奥に覚えた瑠璃はそれを払拭させる為に手の中に湯を掬い上げてパシャリと顔に掛ける。
と―――――
「喧噪を離れて月を見上げ・・・ゆっくりと体を休める・・・。日本人はなかなかいいものを作るな・・・」
「―――――えっ? クロ?」
竹格子で仕切られた向こう側にある男湯から聴こえてきた声に、瞠目すると驚きの声を上げてしまう。
「おぉ・・・・・・。瑠璃、たまにはこう云う、広い風呂も良いよな」
すると温泉のおかげでクロもまた、すっかりリラックスモードに入っているようで、のほほんとした調子で応じてくる。
けれど、クロは真昼と一緒に借りる事になった部屋を利用するための準備をしていたのではなかっただろうか。
勿論、最初は瑠璃も一緒にそれに加わろうとしたのだが、俺達に任せてくれて大丈夫だからとりあえず瑠璃姉は温泉に行ってきなよと真昼に押し切られてしまい。
こうして、先に温泉を頂いていたのだが―――――。
「クロ!! どこ行った!? 温泉旅行に来たんじゃないんだからな!? クロ―――――!!」
「うるせー奴だな・・・」
頭の上に『ゆ』と書かれた手拭いを乗せながら、温泉気分を満喫していたクロはゆったりとしたものから一変して、げんなりとした気持ちに変わってしまった事により。
眉を下げながら湯の中に沈み込んでしまう。
―――――滅多にこういう場所には来ないのだから、入れるときに入っておかなければ損だと何故あの主人は思わないのか。
と―――――
一方、露天風呂の外側から聴こえてきたクロの名前を呼ぶ真昼の声から事情を察した瑠璃は、
「クロ、真昼君が捜してるみたいだし。私ももう上がるから入り口で合流しましょう」
眉を下げつつ小さく笑いを零すと、仕切りの向こう側に居るクロに向かってそう告げたのだ。
「クロ、お待たせ。あと、はい、これ。フルーツ牛乳」
「おぉ、ありがとな。瑠璃」
男湯と女湯の出入り口のちょうど真ん中に設置された、竹で出来た長椅子に座っていたクロの前に旅館の浴衣を着て下駄を履いた瑠璃は近づいていくと、出る前に購入した内の一本をクロに差し出した。
「―――――やっぱりフロ上がりはフルーツ牛乳にかぎるよな」
頭に手拭いを乗せたままだったクロはホカホカと温まった身体で嬉しそうにそれを受け取る。
そんなクロの様子に瑠璃もまた笑みを浮かべると、
「これを飲み終わったら、真昼君の処に戻りましょうね」
「めんどくせー・・・・・・」
フルーツ牛乳を飲みつつお決まりの言葉を零したクロの隣にも座ると、自分の分に口を付けながら何となく視線を向けてみる。
―――――クロの浴衣姿を見るのはそういえば初めてだわ。
その為、だろうか。普段、家で見ていたお風呂上がりの姿とは違い、何処となく色気が漂っているように見える。
さらに浴衣の胸元が少しだけはだけていて、引き締まった胸板が覗いていて。
「―――――・・・・・・っ」
クロの姿を眺めていた中でつい意識してしまったその事柄に、瑠璃は顔に熱が集まるのと同時にドキドキと鼓動が早まるのを感じてバッとクロから視線を逸らしてしまう。
「瑠璃・・・・・・? 大丈夫か、顔が赤いみたいだけど。・・・・・・もしかして逆上せたのか?」
その時、フルーツ牛乳を飲み終えたクロが眉を顰めながら口を開いた。
「・・・・・・う、ううん。大丈夫よ・・・・・・」
―――――いまは遊びに来ている訳じゃないのだから、ちゃんと気を引き締めないと・・・・・・。
何よりつい先程、一人で温泉に入っていた時は、椿を〝止める〟為には〝みんな〟で〝協力〟をしなければと考えていたのに―――――どうして唐突に思考が脱線してしまったのか。
クロから視線を逸らしたまま瑠璃は首を振ると、飲み掛けで手を止めてしまっていたフルーツ牛乳を勢いよく飲み干す。
と―――――空になった瓶が瑠璃の手の中から先に腰を上げたクロによって回収され、近くに置かれていた空き瓶回収ボックスに二本纏めて片付けられる。
そこで瑠璃も立ち上がると、
「ありがとう、クロ・・・・・・」
「・・・・・・まぁ、あんまり無理はするなよ」
振り返ってきたクロはそう言いながら右手を持ち上げると、そっと瑠璃の頭を撫でる仕草をした。
そのクロの行動により、平常心を取り戻そうとしていた瑠璃の鼓動は再び大きな音を立てたのだが―――――。
「お前まで真昼と同じ熱血キャラになったりしたら、オレの立場がなくなるからな」
その後にクロが洩らした言葉に瑠璃は目を瞠ると、頬を赤らめながらも思わずフフッと笑いを零してしまう。
「―――――多分、大丈夫よ。それじゃあ、行きましょうか、クロ」
―――――カコッ カコッ カコ―――――ンッ
露天風呂から部屋に戻る通路の途中には遊戯室がある。
そこから聴こえてきた卓球の打ち合いの音に何気なく中を覗いてみると、そこで白熱した卓球勝負を繰り広げていたのは、雲隠れしたクロのことを捜し回っていた真昼だった。
制服のままだと動きにくかったのだろう、真昼もまた黒のタンクトップシャツの上から浴衣を羽織った状態に着替えていて。
「あの・・・なっ、俺達今っ、遊んでる場合じゃ・・・っ」
一方、真昼の対戦相手は傲慢の真祖たるヒューだったのだが、外見が5歳児程度のヒューの小さな身長では、テーブルテニスをやるのはかなり不利ではないのかと思いきや。
「甘いのじゃ!!」
カコン! と真昼が勢いをつけて繰り出したサーブを、身軽さを駆使してテーブルの上に乗ると―――――
―――――カコォォォン
と、それを上回る強さのレシーブを返してきたのだ。
「チビだからって台に乗るのは反則じゃねぇ!?」
結果、真昼はそれを打ち返す事は出来ず、ぎゃ―――――と前のめりに倒れこみそうになってしまったのだった。
「ヒューくん、すごいのね。真昼君との身長差をモノともせず、勝利するなんて」
目を瞠りながら、瑠璃が感嘆の声を洩らすと、
「うむ。吸血鬼たるもの、己が特性を活かすことこそ戦術の鍵なのじゃ」
「あ、瑠璃姉、お帰り。・・・・・・それとクロ!! お前、やっぱり温泉に入りに行ってたのかよ!!」
誇らしげな表情でヒューは頷き、少しだけ疲れたような面持ちになった真昼もまた、溜息を洩らしながら此方に振り返ってきた処で、クロに対して苦言を洩らした後。
次はビリヤードの勝負をしようとヒューは真昼に持ち掛けてきたのだが、これ以上遊んでいる訳にはいかないということで。
『サーヴァンプ御一行様。集会所』
真昼がヒューの相手をしていた間も、黙々と準備を整えていた鉄の手により暖簾の設置も完了し、用意も万端となった部屋に一同は場所を移すこととなったのだ。
「ここにサーヴァンプ7人に集まってもらおう!」
拠点があればわかりやすいというメリットと、誰か一人でもやられたら状況が悪くなるというデメリットを避ける為―――――その提案を掲げたのは浴衣姿からまた制服に着替えを終えた真昼であり。
そして現在、拠点と定めて一同が集まった〝大部屋〟は、利用する客がほとんどいないという厳しい経営事情から、自分たちで掃除をするのなら良いと、鉄が実家の許可を得て借りることとなった場所だった。
けれど―――――
「椿達の動きもかなり大きくなってきてるし、こっちも早く人数集めて対峙できる状態にしなきゃなのに」
「御国さんも御園君も電話が繋がらないのに加えて・・・・・・他のサーヴァンプにも連絡手段がないのよね?」
眉を顰めた真昼が洩らした言葉に瑠璃が当惑の面持ちで応じる。
その瑠璃の膝の上には、頭に蝙蝠を乗せた状態で寛ぐ黒猫の姿が在り。
「SNS落ちてっしなー・・ネット依存が進む脆弱な現代社会・・・」
ごろにゃんと尾を揺らしながら呟く。
「何言ってんだ、お前」
黒猫の発言に対して、真昼は思わずそんな突っ込みを入れはしたものの―――――
―――――吸血鬼達のSNS・・・まだ復旧しないのか。
―――――C3は・・・露木先輩はどうしたかな・・・。
その最中、胸中で考えていたのはそれらの事柄だった。
「あ。やべ・・・パトロールの時間だ」
それから程なくして、そう言いながら立ち上がったのは鉄だった。
武器である棺桶を背負った鉄に「パトロール?」と瑠璃が目を瞬かせると、
「えっ! もしかして吸血鬼から街の人を守ったり・・・!?」
真昼がハッとした様子で鉄を見遣る。
「いや、フツーに町内会のオッサンに頼まれて・・・コンビニに屯する学生を排除したり・・・」
「・・・お前も学生だよな・・・?」
首を傾げた鉄からの返答に、真昼は思わず困惑の面持ちになってしまったのだが。
「俺も行く! 椿や他の仲間の手がかりとか探したいし・・・行くぞクロ!」
「お・・・オレはここを瑠璃と一緒に警備してっから・・・」
浴衣姿のままだった瑠璃の傍らで人型に戻って、ゲームの続きを再開しようとしていたクロは真昼の言葉にギクッと顔を引きつらせるとそう言い返すも、
「私も着替えを済ませたら『鍵』を使って追いかけるから、クロは真昼君と先に行ってもらえるかしら」
瑠璃もまた真昼と同じ想いであったことから、結局クロは真昼に引きずられる形で外に連れ出される事となるのだった。
街の中の周囲一帯には大量の灰塵が舞っていて、真夏なのにも拘らずまるで雪景色を目にしているかのような錯覚を受けてしまう。
灰塵の存在は吸血鬼と主人、そして〝ミストレス〟にしか基本的には見えないものであり。灰塵につかれた人間も、それ以外の者からは夢遊病か何かのように見えているのだという。
一方、人外の存在を認知しているC3は灰塵を見える機械を作ったらしい。
―――――だとすると心当たりある・・・まさかあのメガネ・・・・・・。
道すがら、ヒューからそんな話を聞いていた真昼の脳裏にその時浮かんだのは、C3の面々が着用していたメガネの存在だった。
しかし、いまこの場に彼らの姿はないので事実の確認はしようがないのだが―――――。
その直後、人に取り付いた灰塵が何かに群がっているのを見つけた真昼は武器であるホウキを具現化させると、ホウキは円を描くようにしなりながら灰塵を払い。
「おお真昼・・・なかなか武器が使えるように・・・」
ゲームをしつつ同行していたクロがそれを目にして感嘆の声を洩らしたのだが。
「だろ!? 俺、結構・・・わ―――――!!!」
まだまだ完全制御は難しいようで、真昼はクロに振り返って答えようとした直後、ホウキは暴走をして、べしゃ―――――と勢いよく転倒をしてしまったのだ。
「・・・がんばれ」
そこでクロが一言、励ましの言葉を口にすると、いて・・・と呻きつつ、地面に打ち付けてしまった後頭部を右手で押さえながら起き上がった真昼は、見覚えのある存在を見つけて目を瞬かせた。
「・・・あれっ? 御園んちの双子の・・・!」
「あっ! 城田真昼!」
真昼が声を上げると、蹲っていた双子の片割れである髪の長い少女もまた真昼に気が付き、すぐさま立ち上がって走り寄ってくる。
それから少女はきょろきょろと周囲に視線を巡らせると、
「・・・・・・瑠璃は一緒じゃないの?」
「えと、瑠璃姉は後から合流するんだけど・・・・・・ごめん、ユリーかマリーどっち?」
双子に懐かれている瑠璃ならば、すぐに見分けることが出来たのだろうが、あいにく真昼にはそれが出来ず。眉を下げつつ、尋ねかけると「ユリー」と少女は自身を指さしながら言った。そしていまこの場には居ない、髪が短いほうが「マリー」だと少女の口から聞いた処で。
「ガキが一人で夜、出歩いたらあぶねーぞ。この辺、吸血鬼が出るからな」
鉄がユリーの頭に右手を乗せながらそう声を掛けたのだ。
そしていつの間にか、真昼の頭の上には黒猫が乗っていたのだが、もはやいつものことなのでそれには構うことはせず。しかし、鉄の発言に対しては「その子も吸血鬼だよ」と思わず引きつった笑みを浮かべながら真昼は突っ込みを入れると、ユリーもまたきょとんとした様子で鉄を見上げていたのだが。
「一人で出てきたんだけど灰塵に囲まれて動けなくなっちゃったの・・・。おうち以外では血は飲んじゃだめってリリイに言われてるから・・・」
ポツリと洩らされたユリーの言葉に真昼は目を瞬かせると、
「・・・あ・・・のさ、ユリー達って普段・・・食事 はどうしてんの・・・?」
少女の発言から気になった事柄を、言葉を濁しつつ尋ねかける。
「血 のこと? 有栖院の家のメイドさんたちにもらうよ」
するとユリーは小首を傾げた後、真昼を見上げながら言った。
「お腹が空いちゃったら家のこととかお手伝いして、そのお礼にって少し血を飲ませてもらえるんだよ」
主な手伝いは窓拭きなどで、それを行った後に指先から血を貰うのだという。
―――――そっか・・・そうやってうまく共存してるんだ・・・。
ユリーの話を聞いて放心した面持ちになりながら、誰のアイディアなのだろうかと真昼が思考を巡らせていると。
「・・・城田真昼、今日は助けてほしくて会いに来たの。・・・御園が困ってるの・・・」
ふと、沈んだ面持ちになったユリーは視線を俯けると、スカートを握りしめながらそう切り出してきたのだ。
そうしてユリーから話を聞いたことにより―――――
「・・・そっか・・・お父さんに家を出るなって言われてんのか・・・」
御園に電話が繋がらなかった理由が明らかになり。
「でも御園はこっちに来たいと思ってるんだな? 御園がそう思ってるんならシンプルに考えて手を貸しに行かなきゃだよな!」
そう結論を出した真昼に「当然」と鉄も同意を示したことにより、ユリーを有栖院邸に送り届けに行き、そこで御園と話をという流れに決まったのだが―――――。
「・・・・・・ってこれは無理あるだろ!!」
歩いて向かうには距離が在る事から自転車を利用して向かうことにしたものの、調達できたのは一台だけで、それにまさかの5人乗り?! という展開となり。
前カゴに黒猫が、自転車の運転を真昼が、ユリーは真昼の肩に乗って、その後ろには頭に蝙蝠を乗せて棺桶を抱えた鉄が背中合わせで跨っている状態で。
必死に真昼が踏ん張ってはいるものの、気を抜けばすぐにでも倒れてしまうだろう。
「あんたのホウキとか乗れねーの?」
飛べねーの? と微かに眉を顰めながら鉄が真昼に尋ねかけてくる。
真昼は、うっ・・・と言葉を詰まらせると、
「あれはまだ一人乗りもまともにできないから・・・!!」
そう答えた真昼の中に自転車を利用する前に浮かんだもう一つの移動手段は、瑠璃の『鍵』の力で、有栖院邸に空間転移するというものだった。
けれどC3での件から日を置かずして、椿達の動きが本格的なモノに変わり。
きちんと休めていないのではないだろうかと、内心では気がかりに想う処もあり。
合流する場所は『有栖院邸の前』と自転車に乗る前に瑠璃には連絡をしたのだ。
「しょーがねぇ、行くぞ!!」
そうして腹を括った真昼は気合いを込めてそう叫ぶと、できるだけ人通りが少ないところを選んで、ふらふら・・・と自転車を漕ぎだしたのだった。
19/8/18掲載
いよいよ本格的に動き出してしまった椿達への対抗策として、真祖七人全員を集めようと決議したあの後。
真昼と!瑠璃とクロの三人は、傲慢の主人である鉄の実家の温泉旅館を訪れていた。
そこで―――――
この前、鉄とヒューが真昼の家に泊まったから、今度は真昼たちが鉄の家にという流れになり。
他の客の姿がない事から貸し切り状態のような露天風呂で、沸きあがる湯に一人浸かることになった瑠璃はぼんやりと空に浮かぶ朧月を見上げると、
「・・・・・・温泉に入るの、いつ振りかな」
ほっと息を吐き出すようにしながら呟いた。
両親や祖父母が健在だった頃は、一緒に温泉旅館に宿泊をしたこともあったが。
一人になってからは、やはりこういう場所にも縁遠くなっていた。
C3からの接触があった矢先、その組織が弱体化をしていることを知った中、椿達の動きもいよいよ本格的となった以上―――――これから先は、ますます気が抜けない状況となるだろう。
―――――・・・・・・〝力〟を使えば、〝椿〟にもう一度〝会う〟ことはできるかもしれない。
―――――・・・・・・だけど〝椿〟を〝止める〟為には〝みんな〟で〝協力〟をしなければ意味がないから。
ふいに切ない感情を胸の奥に覚えた瑠璃はそれを払拭させる為に手の中に湯を掬い上げてパシャリと顔に掛ける。
と―――――
「喧噪を離れて月を見上げ・・・ゆっくりと体を休める・・・。日本人はなかなかいいものを作るな・・・」
「―――――えっ? クロ?」
竹格子で仕切られた向こう側にある男湯から聴こえてきた声に、瞠目すると驚きの声を上げてしまう。
「おぉ・・・・・・。瑠璃、たまにはこう云う、広い風呂も良いよな」
すると温泉のおかげでクロもまた、すっかりリラックスモードに入っているようで、のほほんとした調子で応じてくる。
けれど、クロは真昼と一緒に借りる事になった部屋を利用するための準備をしていたのではなかっただろうか。
勿論、最初は瑠璃も一緒にそれに加わろうとしたのだが、俺達に任せてくれて大丈夫だからとりあえず瑠璃姉は温泉に行ってきなよと真昼に押し切られてしまい。
こうして、先に温泉を頂いていたのだが―――――。
「クロ!! どこ行った!? 温泉旅行に来たんじゃないんだからな!? クロ―――――!!」
「うるせー奴だな・・・」
頭の上に『ゆ』と書かれた手拭いを乗せながら、温泉気分を満喫していたクロはゆったりとしたものから一変して、げんなりとした気持ちに変わってしまった事により。
眉を下げながら湯の中に沈み込んでしまう。
―――――滅多にこういう場所には来ないのだから、入れるときに入っておかなければ損だと何故あの主人は思わないのか。
と―――――
一方、露天風呂の外側から聴こえてきたクロの名前を呼ぶ真昼の声から事情を察した瑠璃は、
「クロ、真昼君が捜してるみたいだし。私ももう上がるから入り口で合流しましょう」
眉を下げつつ小さく笑いを零すと、仕切りの向こう側に居るクロに向かってそう告げたのだ。
「クロ、お待たせ。あと、はい、これ。フルーツ牛乳」
「おぉ、ありがとな。瑠璃」
男湯と女湯の出入り口のちょうど真ん中に設置された、竹で出来た長椅子に座っていたクロの前に旅館の浴衣を着て下駄を履いた瑠璃は近づいていくと、出る前に購入した内の一本をクロに差し出した。
「―――――やっぱりフロ上がりはフルーツ牛乳にかぎるよな」
頭に手拭いを乗せたままだったクロはホカホカと温まった身体で嬉しそうにそれを受け取る。
そんなクロの様子に瑠璃もまた笑みを浮かべると、
「これを飲み終わったら、真昼君の処に戻りましょうね」
「めんどくせー・・・・・・」
フルーツ牛乳を飲みつつお決まりの言葉を零したクロの隣にも座ると、自分の分に口を付けながら何となく視線を向けてみる。
―――――クロの浴衣姿を見るのはそういえば初めてだわ。
その為、だろうか。普段、家で見ていたお風呂上がりの姿とは違い、何処となく色気が漂っているように見える。
さらに浴衣の胸元が少しだけはだけていて、引き締まった胸板が覗いていて。
「―――――・・・・・・っ」
クロの姿を眺めていた中でつい意識してしまったその事柄に、瑠璃は顔に熱が集まるのと同時にドキドキと鼓動が早まるのを感じてバッとクロから視線を逸らしてしまう。
「瑠璃・・・・・・? 大丈夫か、顔が赤いみたいだけど。・・・・・・もしかして逆上せたのか?」
その時、フルーツ牛乳を飲み終えたクロが眉を顰めながら口を開いた。
「・・・・・・う、ううん。大丈夫よ・・・・・・」
―――――いまは遊びに来ている訳じゃないのだから、ちゃんと気を引き締めないと・・・・・・。
何よりつい先程、一人で温泉に入っていた時は、椿を〝止める〟為には〝みんな〟で〝協力〟をしなければと考えていたのに―――――どうして唐突に思考が脱線してしまったのか。
クロから視線を逸らしたまま瑠璃は首を振ると、飲み掛けで手を止めてしまっていたフルーツ牛乳を勢いよく飲み干す。
と―――――空になった瓶が瑠璃の手の中から先に腰を上げたクロによって回収され、近くに置かれていた空き瓶回収ボックスに二本纏めて片付けられる。
そこで瑠璃も立ち上がると、
「ありがとう、クロ・・・・・・」
「・・・・・・まぁ、あんまり無理はするなよ」
振り返ってきたクロはそう言いながら右手を持ち上げると、そっと瑠璃の頭を撫でる仕草をした。
そのクロの行動により、平常心を取り戻そうとしていた瑠璃の鼓動は再び大きな音を立てたのだが―――――。
「お前まで真昼と同じ熱血キャラになったりしたら、オレの立場がなくなるからな」
その後にクロが洩らした言葉に瑠璃は目を瞠ると、頬を赤らめながらも思わずフフッと笑いを零してしまう。
「―――――多分、大丈夫よ。それじゃあ、行きましょうか、クロ」
―――――カコッ カコッ カコ―――――ンッ
露天風呂から部屋に戻る通路の途中には遊戯室がある。
そこから聴こえてきた卓球の打ち合いの音に何気なく中を覗いてみると、そこで白熱した卓球勝負を繰り広げていたのは、雲隠れしたクロのことを捜し回っていた真昼だった。
制服のままだと動きにくかったのだろう、真昼もまた黒のタンクトップシャツの上から浴衣を羽織った状態に着替えていて。
「あの・・・なっ、俺達今っ、遊んでる場合じゃ・・・っ」
一方、真昼の対戦相手は傲慢の真祖たるヒューだったのだが、外見が5歳児程度のヒューの小さな身長では、テーブルテニスをやるのはかなり不利ではないのかと思いきや。
「甘いのじゃ!!」
カコン! と真昼が勢いをつけて繰り出したサーブを、身軽さを駆使してテーブルの上に乗ると―――――
―――――カコォォォン
と、それを上回る強さのレシーブを返してきたのだ。
「チビだからって台に乗るのは反則じゃねぇ!?」
結果、真昼はそれを打ち返す事は出来ず、ぎゃ―――――と前のめりに倒れこみそうになってしまったのだった。
「ヒューくん、すごいのね。真昼君との身長差をモノともせず、勝利するなんて」
目を瞠りながら、瑠璃が感嘆の声を洩らすと、
「うむ。吸血鬼たるもの、己が特性を活かすことこそ戦術の鍵なのじゃ」
「あ、瑠璃姉、お帰り。・・・・・・それとクロ!! お前、やっぱり温泉に入りに行ってたのかよ!!」
誇らしげな表情でヒューは頷き、少しだけ疲れたような面持ちになった真昼もまた、溜息を洩らしながら此方に振り返ってきた処で、クロに対して苦言を洩らした後。
次はビリヤードの勝負をしようとヒューは真昼に持ち掛けてきたのだが、これ以上遊んでいる訳にはいかないということで。
『サーヴァンプ御一行様。集会所』
真昼がヒューの相手をしていた間も、黙々と準備を整えていた鉄の手により暖簾の設置も完了し、用意も万端となった部屋に一同は場所を移すこととなったのだ。
「ここにサーヴァンプ7人に集まってもらおう!」
拠点があればわかりやすいというメリットと、誰か一人でもやられたら状況が悪くなるというデメリットを避ける為―――――その提案を掲げたのは浴衣姿からまた制服に着替えを終えた真昼であり。
そして現在、拠点と定めて一同が集まった〝大部屋〟は、利用する客がほとんどいないという厳しい経営事情から、自分たちで掃除をするのなら良いと、鉄が実家の許可を得て借りることとなった場所だった。
けれど―――――
「椿達の動きもかなり大きくなってきてるし、こっちも早く人数集めて対峙できる状態にしなきゃなのに」
「御国さんも御園君も電話が繋がらないのに加えて・・・・・・他のサーヴァンプにも連絡手段がないのよね?」
眉を顰めた真昼が洩らした言葉に瑠璃が当惑の面持ちで応じる。
その瑠璃の膝の上には、頭に蝙蝠を乗せた状態で寛ぐ黒猫の姿が在り。
「SNS落ちてっしなー・・ネット依存が進む脆弱な現代社会・・・」
ごろにゃんと尾を揺らしながら呟く。
「何言ってんだ、お前」
黒猫の発言に対して、真昼は思わずそんな突っ込みを入れはしたものの―――――
―――――吸血鬼達のSNS・・・まだ復旧しないのか。
―――――C3は・・・露木先輩はどうしたかな・・・。
その最中、胸中で考えていたのはそれらの事柄だった。
「あ。やべ・・・パトロールの時間だ」
それから程なくして、そう言いながら立ち上がったのは鉄だった。
武器である棺桶を背負った鉄に「パトロール?」と瑠璃が目を瞬かせると、
「えっ! もしかして吸血鬼から街の人を守ったり・・・!?」
真昼がハッとした様子で鉄を見遣る。
「いや、フツーに町内会のオッサンに頼まれて・・・コンビニに屯する学生を排除したり・・・」
「・・・お前も学生だよな・・・?」
首を傾げた鉄からの返答に、真昼は思わず困惑の面持ちになってしまったのだが。
「俺も行く! 椿や他の仲間の手がかりとか探したいし・・・行くぞクロ!」
「お・・・オレはここを瑠璃と一緒に警備してっから・・・」
浴衣姿のままだった瑠璃の傍らで人型に戻って、ゲームの続きを再開しようとしていたクロは真昼の言葉にギクッと顔を引きつらせるとそう言い返すも、
「私も着替えを済ませたら『鍵』を使って追いかけるから、クロは真昼君と先に行ってもらえるかしら」
瑠璃もまた真昼と同じ想いであったことから、結局クロは真昼に引きずられる形で外に連れ出される事となるのだった。
街の中の周囲一帯には大量の灰塵が舞っていて、真夏なのにも拘らずまるで雪景色を目にしているかのような錯覚を受けてしまう。
灰塵の存在は吸血鬼と主人、そして〝ミストレス〟にしか基本的には見えないものであり。灰塵につかれた人間も、それ以外の者からは夢遊病か何かのように見えているのだという。
一方、人外の存在を認知しているC3は灰塵を見える機械を作ったらしい。
―――――だとすると心当たりある・・・まさかあのメガネ・・・・・・。
道すがら、ヒューからそんな話を聞いていた真昼の脳裏にその時浮かんだのは、C3の面々が着用していたメガネの存在だった。
しかし、いまこの場に彼らの姿はないので事実の確認はしようがないのだが―――――。
その直後、人に取り付いた灰塵が何かに群がっているのを見つけた真昼は武器であるホウキを具現化させると、ホウキは円を描くようにしなりながら灰塵を払い。
「おお真昼・・・なかなか武器が使えるように・・・」
ゲームをしつつ同行していたクロがそれを目にして感嘆の声を洩らしたのだが。
「だろ!? 俺、結構・・・わ―――――!!!」
まだまだ完全制御は難しいようで、真昼はクロに振り返って答えようとした直後、ホウキは暴走をして、べしゃ―――――と勢いよく転倒をしてしまったのだ。
「・・・がんばれ」
そこでクロが一言、励ましの言葉を口にすると、いて・・・と呻きつつ、地面に打ち付けてしまった後頭部を右手で押さえながら起き上がった真昼は、見覚えのある存在を見つけて目を瞬かせた。
「・・・あれっ? 御園んちの双子の・・・!」
「あっ! 城田真昼!」
真昼が声を上げると、蹲っていた双子の片割れである髪の長い少女もまた真昼に気が付き、すぐさま立ち上がって走り寄ってくる。
それから少女はきょろきょろと周囲に視線を巡らせると、
「・・・・・・瑠璃は一緒じゃないの?」
「えと、瑠璃姉は後から合流するんだけど・・・・・・ごめん、ユリーかマリーどっち?」
双子に懐かれている瑠璃ならば、すぐに見分けることが出来たのだろうが、あいにく真昼にはそれが出来ず。眉を下げつつ、尋ねかけると「ユリー」と少女は自身を指さしながら言った。そしていまこの場には居ない、髪が短いほうが「マリー」だと少女の口から聞いた処で。
「ガキが一人で夜、出歩いたらあぶねーぞ。この辺、吸血鬼が出るからな」
鉄がユリーの頭に右手を乗せながらそう声を掛けたのだ。
そしていつの間にか、真昼の頭の上には黒猫が乗っていたのだが、もはやいつものことなのでそれには構うことはせず。しかし、鉄の発言に対しては「その子も吸血鬼だよ」と思わず引きつった笑みを浮かべながら真昼は突っ込みを入れると、ユリーもまたきょとんとした様子で鉄を見上げていたのだが。
「一人で出てきたんだけど灰塵に囲まれて動けなくなっちゃったの・・・。おうち以外では血は飲んじゃだめってリリイに言われてるから・・・」
ポツリと洩らされたユリーの言葉に真昼は目を瞬かせると、
「・・・あ・・・のさ、ユリー達って普段・・・
少女の発言から気になった事柄を、言葉を濁しつつ尋ねかける。
「
するとユリーは小首を傾げた後、真昼を見上げながら言った。
「お腹が空いちゃったら家のこととかお手伝いして、そのお礼にって少し血を飲ませてもらえるんだよ」
主な手伝いは窓拭きなどで、それを行った後に指先から血を貰うのだという。
―――――そっか・・・そうやってうまく共存してるんだ・・・。
ユリーの話を聞いて放心した面持ちになりながら、誰のアイディアなのだろうかと真昼が思考を巡らせていると。
「・・・城田真昼、今日は助けてほしくて会いに来たの。・・・御園が困ってるの・・・」
ふと、沈んだ面持ちになったユリーは視線を俯けると、スカートを握りしめながらそう切り出してきたのだ。
そうしてユリーから話を聞いたことにより―――――
「・・・そっか・・・お父さんに家を出るなって言われてんのか・・・」
御園に電話が繋がらなかった理由が明らかになり。
「でも御園はこっちに来たいと思ってるんだな? 御園がそう思ってるんならシンプルに考えて手を貸しに行かなきゃだよな!」
そう結論を出した真昼に「当然」と鉄も同意を示したことにより、ユリーを有栖院邸に送り届けに行き、そこで御園と話をという流れに決まったのだが―――――。
「・・・・・・ってこれは無理あるだろ!!」
歩いて向かうには距離が在る事から自転車を利用して向かうことにしたものの、調達できたのは一台だけで、それにまさかの5人乗り?! という展開となり。
前カゴに黒猫が、自転車の運転を真昼が、ユリーは真昼の肩に乗って、その後ろには頭に蝙蝠を乗せて棺桶を抱えた鉄が背中合わせで跨っている状態で。
必死に真昼が踏ん張ってはいるものの、気を抜けばすぐにでも倒れてしまうだろう。
「あんたのホウキとか乗れねーの?」
飛べねーの? と微かに眉を顰めながら鉄が真昼に尋ねかけてくる。
真昼は、うっ・・・と言葉を詰まらせると、
「あれはまだ一人乗りもまともにできないから・・・!!」
そう答えた真昼の中に自転車を利用する前に浮かんだもう一つの移動手段は、瑠璃の『鍵』の力で、有栖院邸に空間転移するというものだった。
けれどC3での件から日を置かずして、椿達の動きが本格的なモノに変わり。
きちんと休めていないのではないだろうかと、内心では気がかりに想う処もあり。
合流する場所は『有栖院邸の前』と自転車に乗る前に瑠璃には連絡をしたのだ。
「しょーがねぇ、行くぞ!!」
そうして腹を括った真昼は気合いを込めてそう叫ぶと、できるだけ人通りが少ないところを選んで、ふらふら・・・と自転車を漕ぎだしたのだった。
19/8/18掲載
