第十章『カウントダウン』
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「ジャージ・・・いやジャージよりは制服のほうがましだよな」
自室で着替えを終えた真昼はリビングの一角に置かれている姿見の前でネクタイを締めながら独り言ちる。
「―――――真昼君、どこかに出かける用事でも入ったの?」
そこに服装を整えた瑠璃が黒猫を腕に抱いて顔を覗かせると、
「あ、瑠璃姉! ごめん、もしかして五月蠅くして起こしちゃったか?」
「ううん。もう夕方だし、丁度いい時間だったから」
笑みを浮かべて首を振った瑠璃に真昼は言う。
「そっか。俺が落とした携帯・・・鈴原さんが拾ってくれたんだって! さっき連絡がついたからクロを連れて取りに行って来るけど。瑠璃姉はこのまま家で待っててくれて大丈夫だから」
「あ―――――・・・クラスの女子が?」
瑠璃の腕の中から床に下り立った黒猫がぽひゅという音とともに人型に戻ると、
「駅前で待っててくれるらしいから・・・」
そう言いながら真昼は鏡で髪形を確認する。
身嗜みを気にする真昼の行動は年頃の少年そのものの雰囲気があり微笑ましいものだ。
―――――鈴原さん、可愛らしい子だものね。
文化祭の準備期間に彼女と接した時は、真昼はリリイたちの件もあり、意識するような素振りを見せてはいなかったが―――――。
「それならせっかくだから、お礼も兼ねてご飯を一緒に食べて来ても大丈夫よ、真昼君」
ふふっと笑みを零しながら瑠璃がそう真昼に言った時。
ピンポ―――――ン
来客を告げるチャイムが家の中に鳴り響いたのだ。
「あら、誰かしら?」
目を瞬かせた瑠璃がインターホンのモニターで確認してみると、それはこれから真昼が会いに行こうとしていた相手で。
真昼が慌てて玄関に向かって行って扉を開くと、
「鈴原さん・・・!? ごめんっ・・・来てくれたんだ!?」
「うん・・・城田くんに・・・早く会わなくちゃって・・・」
「待たせちゃったかな。ごめん・・・今出るところでさ」
左手を後頭部に添えながら、真昼は眉を下げつつ鈴原に言う。
そんな真昼の様子を瑠璃はリビングから顔を覗かせつつ見ていたのだが、
「まるでデートの遅刻の言い訳」
ぼそ、とそう漏らしたのは真昼の頭に乗っていた黒猫だった。
「うっせー!! ちげ―――――よ!!」
と、か―――――っと顔を赤くしながら真昼は小声で黒猫に言い返す。
それから鈴原にまた視線を戻すと、
「携帯ありがとう! 助かったよ!」
差し出されたスマホを受け取り真昼はお礼を言う。
「城田くん・・・今一人・・・? あがってもいい・・・?」
「えっ」
すると鈴原の口から出た思わぬ申し出に真昼は反射的にドキッと鼓動を高鳴らせてしまう。
黒猫もまさかの展開に驚いた様子で目を見開くと、真昼の頭から下りて一歩後ろに下がる。
「城田君のところに・・・来たかったの。なんでかわからないけど・・・」
そう言いながら鈴原は真昼の左手に向かって自身の右手を伸ばすと、きゅ・・・と握りしめる。
リビングからこそっと顔を覗かせつつ、様子を見ていた瑠璃は思考を巡らせる。
―――――何だか真昼君と鈴原さん、良い雰囲気みたいだし。せっかくだから二人きりにしてあげたほうが良いかしら。
「城田くんなら・・・私を・・・」
けれど気恥ずかしさのほうが真昼は勝ってしまったようで。
「ちょ・・・ちょっと待って!! どっ・・・どうしたの鈴原さん・・・何かあった・・・!? 瑠璃姉も家に居るから、相談事があるなら瑠璃姉も一緒に・・・っ!」
あわあわとした様子で声を上げた真昼がチラリと此方に振り返ってくる。
そんな真昼の行動に、とりあえず自分も顔を見せた方が良さそうだと瑠璃は微苦笑を零すと、リビングから出て玄関に向かって行く。
「こんにちは、鈴原さん。私はお邪魔にならないようにクロを連れて部屋に居るから良かったらどうぞ。あがって貰って大丈夫よ」
そうして鈴原に向かって挨拶と合わせてそう瑠璃は言ったのだが。
―――――・・・・・・何か、変だわ。
ふと、鈴原を見つめながら瑠璃は眉を顰めた。
彼女の頭や肩に、纏わりつく白いもやのようなものが目に入ったのだ。
そして鈴原と至近距離に居た真昼もまたそれに気が付いて目を瞬かせた刹那―――――
「・・・わからないけど・・・でも城田くんなら私を食べてくれる と思って」
瑠璃の言葉など耳に入っていないかのように、淡々とそんな言葉を紡ぎ出した鈴原の身体から白いもやが噴出し、それが全身を覆ったのだ。
もやには虚ろな目のようなモノがあり、その周囲には歪なキャンドルのような形をしたものが一緒に浮かんでいる。
「―――――ッ!!!」
突如として現れた存在に真昼が愕然と目を見開くと、
―――――たべないの?
鈴原に取り付いた白いもやは真昼に対してそんな言葉を投げかけてきたのだ。
どうやら意思を持った何らかの存在らしい。
けれど、果たして此方の云う事を理解するのか、その辺りの事は分からないが―――――
「真昼君は人のことを食べたりはしないわよ。だから鈴原さんから離れて頂戴っ!!」
そう瑠璃は言うと、バッと手を鈴原に向かって伸ばしていく。
―――――キュイッ
刹那、瑠璃の手が鈴原の腕に触れると、彼女の身体に取り付いて膨張していたもやのような存在はキューと小さな鳴き声を洩らして消失したのだ。
「え・・・・・・消えた・・・・・・?」
呆然と目を瞠りつつ、真昼は意識を失った鈴原を抱きとめる。
瑠璃もまた、まさか自分が触れただけで鈴原に付いていたモノがあっさりと消えるとは思わず、呆気に取られた面持ちで自身の掌を見つめた後に、
「クロ! 鈴原さんに付いてたのって・・・・・・」
「あー、アレは〝灰塵 〟っていうやつだ」
振り返ってきた瑠璃に答えた黒猫はぽひゅという音とともに人型に戻ると、
「ジン ・・・!? 何だよ!? ジンって・・・」
眉を顰めた真昼がクロに尋ねかける。
するとクロはめんどくせーとぼやいたのだが―――――
「〝灰塵〟は・・・人に取り付いてその人間を近くの吸血鬼まで運ぶ〝運搬役〟の下級生物・・・」
「つまり、さっきのアレは鈴原さんを吸血鬼 の食糧にって持ってきたってこと?」
眉根を寄せた瑠璃に、あぁ・・・・・・とクロが気まずそうに視線を逸らしながら応じる。
灰塵が最初、真昼に反応を見せたのは、真昼が吸血鬼の主人だったからということなのか。
そう考えれば、話の辻褄は合うが―――――
「なんで、瑠璃姉が触っただけで鈴原さんに取り付いていた奴はあっさり消えたんだ?」
鈴原の身体を支えながら真昼が口を開く。
「・・・・・・それは、瑠璃が〝ミストレス〟だからだろうな。〝ミストレス〟に拒絶されれば、運搬役のあいつらは立場的に弱いから消えるしかない」
「そう、なのね」
クロの言葉に瑠璃は目を瞬かせる。
―――――自覚が無い中で、〝ミストレス〟として瑠璃の〝本質〟は緩やかに変わり始めている。
―――――けれど〝守られる側〟ではなく〝立ち向かう側〟に在りたいと願ったのも瑠璃自身だ。
―――――そしてクロの傍に、〝ミストレス〟として在ることを選んだのは瑠璃自身だ。
だから―――――
「―――――私にも出来ることがあって良かったわ」
小さく笑みを零し、瑠璃は呟く。
それから真昼に視線を向けると、
「真昼君、とりあえず鈴原さんは目が覚めるまではソファーに寝かせておいてあげましょう」
「そうだな、このままにしても置けないし」
頷いた真昼とともに、鈴原を左右から支える形でソファーまで運んでいく。
それから、鈴原にそっと瑠璃がタオルケットを掛けると、ピンポ―――――ン・・・と再び誰かの来訪を知らせるチャイムが家の中に鳴り響いたのだが―――――。
―――――ピンポーン、ピンポン、ピンポン、ピンポ―――――ン
鳴りやむことなく鳴り響くチャイムに、訝しみつつまた確認してみると。
玄関の外には灰塵に取り付かれた無数の人の集団が集まっていたのだ。
「クロ・・・お前。瑠璃姉は別としても、主人 以外の血は飲まねーんじゃなかったのかよ・・・?」
「瑠璃の血は今の処は吸うつもりはねーし。お前の血だって吸いたくねーよ・・・。めんどくせー・・・」
眉間を顰めつつ問いを洩らした真昼をクロは半眼で見遣りながら言う。
その言葉に、オイ吸血鬼と思わず真昼は突っ込みを入れるも、当の吸血鬼自身が食糧を欲していないのにも拘わらず、どうしてここまでたくさんの人が集まってしまったのか。
向き合えね―――――・・・とクロは息を吐き出すと、
「・・・灰塵は下位も真祖も区別つかねー。ただ一番近くに いる吸血鬼に人を運ぶだけだ」
告げられたその言葉に真昼の表情が硬いものになる。
―――――つまり、鈴原の近くにクロ以外の吸血鬼がいたら、彼女はそちらに運ばれて血を吸われて死んでしまっていたかもしれない。
―――――それだけでなく、いま此方に集まっている外の人達も殺されていた可能性があったということになる。
「・・・そんなのだめだ!! 俺が全部払ってやる!!」
ぎゅ・・・と右手を握りしめると、強い口調でそう宣言した真昼の手の中に武器であるホウキが具現化する。
「―――――真昼君、私も一緒にやるわ!」
瑠璃もまた胸元の『鍵』を右手で握ると言い放つ。
〝力〟を使って移動をしながら取り付かれた相手に触れて払う。
それならば、いまの自分でも問題なく出来るはずだ。
クロは真昼だけでなく瑠璃までもが事を起こすことを言い切った際、苦い表情を浮かべていたのだが、真昼が先陣を切って玄関扉を開いて武器を灰塵に向かって振りかざしていった時点で。
瑠璃もまた『鍵』の〝力〟を発動させて後方から払いに飛んだ際には、瑠璃の肩に黒猫の姿でしがみ付いていたのだった。
灰塵は吸血鬼の手ではどうする事も出来ず、〝ミストレス〟である瑠璃が触れる以外の方法としては主人の武器で払うしかないのだという。
その話を聞いたのは家の周囲に押し寄せていた数十人の人達の灰塵を全て払い終えた後の事だった。
しかし、真昼の場合は武器をひたすら振り回して灰塵にそれを中てて、払っていかなければならなかったことから、相当体力を消耗する事となり。
その後に町の様子を見に行くことにしたものの、その道すがらはクロが肩を貸して歩いていく事となったのだが―――――。
「俺の家の周りだけじゃない・・・街中に灰塵がいっぱいじゃん・・・!」
「そうね。あと白いチリみたいなものも、あちこちに積もってるみたいだけど・・・・・・」
横断歩道の信号の上やら、道行く人の肩にもまた薄っすらと積もっている。
歩きながら青い顔で呻いた真昼を瑠璃もまた反対側から支えるようにしながら歩く中で視線を巡らせると。
動けなくなるまでやるなよ・・・と真昼に対して呆れた様子で呟いたクロが、
「そのチリも灰塵だ。灰塵はチリみたいなもんなんだ。それが暗い気を出す人間を好んで集まって大きくなると人を操るようになる」
と、灰塵に関しての講釈をしてくれたのだが。
フツーの人間には見えない為に対処の仕様がなく、取り付かれる人が続出している状態のようで。
「わっ。また来た・・・」
げんなりした様子で真昼が呻くと―――――
「・・・古き良き伝承でのう。吸血鬼は日光を浴びると灰になる・・・と言うじゃろう。正確には吸血鬼は死ぬと灰塵になるのじゃ」
ふいに、聴こえてきた第三者の声により、真昼と瑠璃の脳裏に御国とジェジェが下位吸血鬼を壊した時の光景が思い出された。
同時に、此方に迫って来ていた灰塵に付かれた人に向かってバシュと武器を振りかざしていった人の姿が視界に入った。
ドンと存在感を主張する、その武器は漆黒の大きな棺桶であり―――――『おいでませ白ノ湯温泉』と宣伝がペンキで書かれている。
その棺桶を軽々と左腕で担ぎ上げると、此方に振り返ってきた青年の肩には黒いシルクハットに黒マントとステッキを持った幼い子供が鎮座していて。
「捜したぞ、お主ら!」
「良かったぜ、会えて。ケータイかけたのに二人とも出ねーしさ」
此方に向かってそう呼び掛けてきた子供に続いて、青年もまた首に掛けた『ゆ』と書かれた手ぬぐいで汗を拭いながら口を開いた。
「ヒューくん! 鉄君!」
合流をすることが出来た傲慢の真祖とその主人の名を瑠璃が呼ぶ。
と―――――
此方に視線を投じてきた鉄は、ふいに灰塵が離れたことで意識を失って倒れている人の傍らにしゃがみ込むと、そっと何処から取り出したのか、何かの包みをその背に置いていた。
「・・・何してんの?」
その行動に対して、真昼が眉を顰めながら尋ねかけると、
「灰塵が離れて気絶した人にウチの手ぬぐいやってんだ。起きた時に役立つし・・・宣伝も兼ねて」
鉄は手ぬぐいを片手に持ちながら、どことなく誇らしげな面持ちでそう告げてきたのだ。
しかし、気絶させた本人が、自身の家の宣伝を兼ねてというのは・・・・・・。
どーゆーサービスだよと思わず真昼は突っ込み入れてしまう。
瑠璃もまた苦笑を零しつつ、此方にまた迫ってきた灰塵に触れてそれを払う。
それから場所を公園に移した処で、灰塵を触れただけで払えるとはさすが〝ミストレス〟じゃのうと感心した口調で呟いたヒューに、
「ヒューくん。どうしてこんなに灰塵が発生しているのか、何か心当たりない?」
「昨日から急にじゃ。椿達との小競り合いで吸血鬼が多くやられて灰塵が増えているとは言えこの量はおかしいのう・・・」
瑠璃からの問いかけにヒューは眉を顰めながら応じてくる。
それから蝙蝠の姿に変わると、けれど自分たちでは払うことは出来ないから降参なのだという言葉で締め括り。その際にクロもまた黒猫の姿になっていて同意を示すように白旗を掲げていたのだった。
「あっ。またいる・・・っ」
それから程なくして公園内でも灰塵に取り付かれた人達の姿を見つけた真昼が武器であるホウキをすぐさま具現化させてまた走り出した為。
「待って、真昼君! 私も一緒に・・・・・・っ」
瑠璃もまた一緒に払う為にその後を追いかけて駆け出していく。
「くそっ。その人達から離れ・・・・・・」
そしてそう言いながらホウキを振り翳そうとした真昼と一緒に瑠璃も、右手をもう一人の灰塵に取り付かれた人に触れようと手を伸ばした。
その刹那―――――
「―――――ぇ!?」
「もォ~~~~~~ボク今日は忙しいのにィ~~~」
ガッ!と真昼のホウキは突如として現れた男に踏みつけられてしまい、瑠璃の右手もまた触れる手前で掴まれて止められてしまったのだ。
「せっかく増えてきた灰塵を勝手に消すなよォ~~~」
ピンクの髪にピンクのスーツ。右手には同色のシルクハットを持ちながら、左腕にはコンビニか何処かに寄った帰りなのだろうか。手提げのビニール袋をぶら下げながら瑠璃の右手を掴んだまま、男は真昼に向かって舌を出しながら顔を顰めつつ不服を申し立てる。
「ベルキアッ!?」
「久しぶりだねェ、瑠璃☆」
しかし、瞠目しながら瑠璃が名前を呼ぶと、真昼を睨み付けていたベルキアは、目線を瑠璃に向けた処で剣呑な雰囲気から一転して笑みを浮かべつつ軽快な口調で応じてくる。
鉄は知り合いなのか? といった様子できょとんとした面持ちでベルキアを見ていた一方で、黒猫が眉を顰めながらベルキアを睨む。
「お前・・・っ」
そして真昼もまたベルキアに対して反射的に声を荒げかけたのだが―――――
「・・・髪型変えた?」
ふと、目に入ったその姿に違和感を覚え、思わずそれを指摘すると。
ベルキアは真昼のホウキを踏み付けていた足を下ろすと、瑠璃の右手だけは掴んだまま、一歩後ろに下がり。
「あ゛ァ~~~!? 何だよォ~~~~~~!! お前、何か文句あんのかァ!? あンの露出狂の変態ちょうちょに切られたのを瑠璃が整えてくれたからこの髪型なんだよ!!」
「え?! 瑠璃姉が・・・・・・!?」
ギロリと睨み付けてきたベルキアから告げられた事に対して真昼は唖然とした面持ちになってしまう。
憂鬱側に居た際の椿と瑠璃の関係性を考えれば、その下位であったベルキアとも交流があったとしてもまぁ、可笑しくはないのだが。
まさか髪を整えるくらい親しい関係になっていたとは―――――。
ベルキアに手を掴まれたままの瑠璃は、眉を顰めた真昼が言わんとしている事を察し、眉を下げつつ、微苦笑を浮かべるしかなく。
しかし、いつまでもこの状態で居る訳にもいかないとベルキアを見据えると口を開いた。
「ベルキア、この灰塵が大量に発生している状況は椿と・・・・・・貴方たちがやったの? もしそうなのなら目的は・・・・・・」
「べ~~~つにィ? 吸血鬼にとって生きやすいようにしただけじゃ~~~ん」
するとベルキアは瑠璃の右手を解放すると、腕に下げたままだったビニール袋を右手に持っていたシルクハットの中に仕舞い、肩を竦めながらそう言うと、不意を突くようにドンと瑠璃の身体を真昼のほうに向かって突き飛ばしたのだ。
「―――――えっ!?」
「瑠璃姉っ!?」
真昼が瑠璃の身体を慌てて抱きとめると、
「ホラ☆ 灰塵が運んでくれた人間 が大量だよォ? 血ィ吸わなきゃもったいないねェ?」
その刹那、残虐な吸血鬼の顔に変わったベルキアは、すっと灰塵に取り付かれた制服姿の少女に向かって右手を伸ばして自分の傍に引き寄せると、晒した首筋にガッと牙を突き立てていく。
「・・・・・・っ!!」
「やめろ!!」
その光景に愕然と瑠璃が目を見開くと真昼もまた怒りの声を発した。
するとそこに様子を見るようにしていた黒猫が駆け寄ってきて真昼の左腕にガブッと噛みついたことで主従の証の鎖が具現化する。
「めんどくせ―――――・・・」
そしてお決まりの台詞とともに人型に戻ったクロがザッと勢いよくベルキアに向かって距離を詰めると、右手に具現化させた鍵爪でドッと少女を捕らえていたその右腕を切り落とし、落下する身体を素早く左手で受け止めたのだ。
「こッ・・・のォ~~~ッ、またッボクの腕をォ~~~ッ」
痛みと屈辱に顔を歪めながらベルキアは咆哮する。
けれど、その次の瞬間―――――
「で~~~も~~~?」
ニィ★と不敵な笑みを口元に浮かべたベルキアに、受け止めた少女を地面に寝かせたクロが視線を向けると、
「なくなったはずの腕もアラ不思議~~~」
ベルキアは左手に持っていたシルクハットを消して、その変わりにピンク色で星柄。中心に大きなクエスチョンマークが描かれた布を具現化させて、バサァとそれを自身の姿を覆い隠すように翻しながらドゥルルルルルルルルとテンポ良く口ずさむ。
「ジャンッ☆ も☆と☆ど☆お☆リィ~~~☆」
バッ★と得意げな笑みを浮かべながらベルキアは布を翻すと、クロに切断されたはずの腕は元の状態に戻っていて。その刹那、灰塵に取り付かれていた中の一人がズシャァと首から血を吹き出しながら倒れこんでいく姿が在ったのだ。
「「・・・!!」」
真昼と瑠璃が目を見開き絶句するも、ベルキアは特に気にした様子もなく。
「どんどん攻撃してイイよォ~~~?人間 がどんどん死ぬだけだしィ?」
あははァッ★ と嘲笑するかのように笑いながら、愉しげな口調で言う。
「灰塵がエサを運んでくれるおかげでボクらは無敵☆★☆ 今まではさァ~、ちょ―――――と灰塵が増えてくるとC3の連中が灰塵を掃除 しやがってたんだよねェ☆ だからこんなに増えることなくってさァ」
―――――でもC3なら機能してない。
というベルキアの言葉に、真昼はさらに表情を強張らせ、瑠璃もまた眉根を寄せながら胸元の『鍵』を固く握りしめてしまう。
「吸血鬼を殺す度、灰塵は積もる☆ さらにさらにィ・・・真祖 を殺せばも~~~っと多くの灰塵が出るし・・・☆ 吸血鬼で殺し合って灰塵が増えれば☆ 人間なんてぜ~~~んぶ吸血鬼のエサになる☆」
―――――・・・状況は悪化してる・・・!!
―――――これが〝カウントダウン〟の始まりっていうことなの・・・・・・。
真昼と瑠璃がもどかしい感情に捉われた中でベルキアは手の中の布を翻し消失させると、代わりに再び手元に出現させたシルクハットの中から、愛用している三本の剣を取り出しながら、さながらショーのお披露目をするかのような口調で話し出す。
「さァさァ今日はお返ししちゃうぞォ!? 怠惰な黒猫チャンの運命はァ~~~☆」
1、串刺し☆
2、モット串刺し☆
3、motto KUSHIZASHI☆
「ネットかお電話で投票してねッ☆ 投票スタ―――――」
三つの選択肢を口にしたベルキアはバッとクロに向かって跳躍しながら襲い掛かっていく。
「―――――クロッ!!」
これ以上、何もせずに見ているだけなんて出来ない。
そんな想いから『鍵』の力を使い防御を発動させた瑠璃がクロの傍に向かって走り寄る。
その刹那―――――
「・・・・・・えっ、消えた?」
ベルキアの姿は忽然と目の前から消え去ったのだ。
「もォ~~~~~~ッ☆ なんでボクのショージャマすんだよォ!? エサもいっぱいいたしッ反撃もできたのにィッ!! それに久しぶりに瑠璃にも会えたんだから、せっかくだし瑠璃の〝力〟も少しぐらい見たかったのにさァ!!! 桜哉ァッ」
桜哉の影から伸びた黒い触手のようなモノに後ろ手に拘束されて、公園から離れたビルの上に連れて来られたベルキアは唯一拘束されていなかった足をばたつかせるようにしながら喚く。
ベルキアがクロに攻撃を仕掛けようとした刹那―――――あの場から消え去ったのは桜哉の強制連行によるものだったのだ。
けれど桜哉はベルキアの抗議には耳を貸すことはせずに背を向けたまま、
「寄り道してんじゃねーよ・・・」
不機嫌そうに顔を顰めながら譴責の言葉を口にする。
アイスを買いにコンビニに行ったベルキアの帰りが遅いから様子を見に行くようにと椿に言われ、嫌々ながら向かった処であのような場面に遭遇する事になるとは―――――。
「―――――椿さんの知らない処で瑠璃さんまで交えての戦闘に為ったら、あの人のことだから無駄に騒ぐだろ・・・・・・」
先日、祭りでシャムロックが手に入れた、ぬいぐるみを抱いた瑠璃の浴衣姿の写真を受け取った時も、鬱陶しいことこの上ない状態になっていたのだから。
「ちェ~~~。これからこれからみんなで行く のはわかってるけどォ~」
ベルキアもそれを思い出したのだろう、顰め面で唸りながらそう言うと、桜哉から解放された処で、つばきゅんのダッツ溶けてないよなァ・・・? と袋の中からアイスを取り出し確認する。
桜哉はベルキアにそれ以上は何も言うことをせず、ぐ・・・ときつく眉根を寄せると、空に向かって跳躍する。
と―――――
ベルキアもその後に続いて空を駆け上がってくる。
そうして「つばきゅん、遅いって怒ってたァ?」と尋ねかけてきたのだが。
桜哉はそれにもまた、答えることはせず。
心の中でただひたすらに『約束』を交わした〝大切な二人〟に向かって訴えかけていた。
―――――・・・真昼、瑠璃さん。
―――――早く止めてくれ・・・。
―――――取り返しがつかなくなるぞ・・・!
―――――オレは・・・どうすればいい・・・?
「――――――・・・・・・?」
自販機で買った飲み物を片手に、真昼と黒猫と一緒に公園のベンチに座って体を休めていた瑠璃は、ふと聞き覚えのある声が意識の中に聴こえた気がして、ゆっくりと目を瞬かせた。
刹那―――――浮かんできたのは真昼と一緒に『約束』をした少年の姿。
―――――・・・・・・桜哉君?
ベルキアの姿が戦いの最中、唐突に消失したのはもしかしたら桜哉が止めてくれたのだろうか。
右腕の四つ葉のブレスレットに視線を落としながら瑠璃はそんな想いを巡らせる。
けれど―――――
―――――世界は変わってきている。
―――――世界は抑止力 を失ってしまって
――――― 一気にバランスを崩してしまう。
「椿は・・・灰塵を増やそうとしてるのか・・・? だから吸血鬼同士を戦わせて・・・」
救急車で運ばれていく人達の姿を視界に映しながら真昼が険しい面持ちで呟く。
あの後、吸血鬼に襲われてしまった人達の手当てを行い。さらに灰塵に取り付かれた人達を片っ端から真昼と鉄と瑠璃の三人で払って行き。救急車を呼んだ処でとりあえずこの場は何とかなったが―――――。
「・・・・・・そうね。もしもこれ以上、灰塵が増えていったら・・・・・・」
瑠璃もまた重々しい表情で口を開くと、
「・・・人間など皆、吸血鬼の食糧になってしまうじゃろうな」
棺桶を背負って立ちながらペットボトルの飲み物を口にしていた鉄の頭に乗っていた蝙蝠が淡々とした口調で先見の言葉を洩らした。
「そんなのだめだ・・・っ。椿達 は灰塵に憑かれた人の血を躊躇いもなく吸うし・・・!!」
そこで真昼が手にしていたペットボトルをカッとベンチに打ち据えるように置いて反論を声高に主張すると、
「真祖からはもっと多くの灰塵が出るって言った・・・」
黙って話を聞いていた鉄もまた真昼に視線を向けながら、眉を顰めてベルキアが言っていた事柄を口にする。
「もし一人でもやられたら一気に分が悪くなるのう」
それに対して蝙蝠がまた、先程と変わらぬ調子で相槌を打っと、
「・・・じゃあ! バラバラでいたらだめだ・・・きっと狙われる! 椿達の動きは大きくなってるんだ。俺達も動かないと!」
意を決した表情で真昼がベンチから腰を上げたのだ。
その時、人型に戻ったクロとヒューがそれぞれ、お? む? と目を瞬かせると、瑠璃もまた真昼が言わんとしている事に同意を示す為にベンチから立ち上がり、
「そうね。真昼君の云う通りだわ。みんなで協力をしないといけないわ」
「・・・集めよう! 真祖7人全員を!」
真昼は強い眼差しでそう宣言したのだ。
時を同じくして―――――
「先生のご葬儀会場はこちらです。カウントダウン を始めようか! さあ・・・7.」
8番目―――――〝憂鬱〟の真祖である椿が拠点の屋上の縁に立ちながら、不敵な笑みを浮かべて、目的の開幕を告げる言葉を口にしていた。
それに立ち会ったのは、三人の下位―――――シャムロック、桜哉、ベルキアで。
その周囲一帯には、灰塵がオオオオと唸り声のようなモノを響かせながら渦を巻くようにして吹き荒れていた。
そしてシャムロックと桜哉が、椿の左右に立ってその情景を見ていた時。
ベルキアはその灰塵の渦に身を任せながら愉しげに宙返りを行なっていたのだった。
19/8/8掲載
自室で着替えを終えた真昼はリビングの一角に置かれている姿見の前でネクタイを締めながら独り言ちる。
「―――――真昼君、どこかに出かける用事でも入ったの?」
そこに服装を整えた瑠璃が黒猫を腕に抱いて顔を覗かせると、
「あ、瑠璃姉! ごめん、もしかして五月蠅くして起こしちゃったか?」
「ううん。もう夕方だし、丁度いい時間だったから」
笑みを浮かべて首を振った瑠璃に真昼は言う。
「そっか。俺が落とした携帯・・・鈴原さんが拾ってくれたんだって! さっき連絡がついたからクロを連れて取りに行って来るけど。瑠璃姉はこのまま家で待っててくれて大丈夫だから」
「あ―――――・・・クラスの女子が?」
瑠璃の腕の中から床に下り立った黒猫がぽひゅという音とともに人型に戻ると、
「駅前で待っててくれるらしいから・・・」
そう言いながら真昼は鏡で髪形を確認する。
身嗜みを気にする真昼の行動は年頃の少年そのものの雰囲気があり微笑ましいものだ。
―――――鈴原さん、可愛らしい子だものね。
文化祭の準備期間に彼女と接した時は、真昼はリリイたちの件もあり、意識するような素振りを見せてはいなかったが―――――。
「それならせっかくだから、お礼も兼ねてご飯を一緒に食べて来ても大丈夫よ、真昼君」
ふふっと笑みを零しながら瑠璃がそう真昼に言った時。
ピンポ―――――ン
来客を告げるチャイムが家の中に鳴り響いたのだ。
「あら、誰かしら?」
目を瞬かせた瑠璃がインターホンのモニターで確認してみると、それはこれから真昼が会いに行こうとしていた相手で。
真昼が慌てて玄関に向かって行って扉を開くと、
「鈴原さん・・・!? ごめんっ・・・来てくれたんだ!?」
「うん・・・城田くんに・・・早く会わなくちゃって・・・」
「待たせちゃったかな。ごめん・・・今出るところでさ」
左手を後頭部に添えながら、真昼は眉を下げつつ鈴原に言う。
そんな真昼の様子を瑠璃はリビングから顔を覗かせつつ見ていたのだが、
「まるでデートの遅刻の言い訳」
ぼそ、とそう漏らしたのは真昼の頭に乗っていた黒猫だった。
「うっせー!! ちげ―――――よ!!」
と、か―――――っと顔を赤くしながら真昼は小声で黒猫に言い返す。
それから鈴原にまた視線を戻すと、
「携帯ありがとう! 助かったよ!」
差し出されたスマホを受け取り真昼はお礼を言う。
「城田くん・・・今一人・・・? あがってもいい・・・?」
「えっ」
すると鈴原の口から出た思わぬ申し出に真昼は反射的にドキッと鼓動を高鳴らせてしまう。
黒猫もまさかの展開に驚いた様子で目を見開くと、真昼の頭から下りて一歩後ろに下がる。
「城田君のところに・・・来たかったの。なんでかわからないけど・・・」
そう言いながら鈴原は真昼の左手に向かって自身の右手を伸ばすと、きゅ・・・と握りしめる。
リビングからこそっと顔を覗かせつつ、様子を見ていた瑠璃は思考を巡らせる。
―――――何だか真昼君と鈴原さん、良い雰囲気みたいだし。せっかくだから二人きりにしてあげたほうが良いかしら。
「城田くんなら・・・私を・・・」
けれど気恥ずかしさのほうが真昼は勝ってしまったようで。
「ちょ・・・ちょっと待って!! どっ・・・どうしたの鈴原さん・・・何かあった・・・!? 瑠璃姉も家に居るから、相談事があるなら瑠璃姉も一緒に・・・っ!」
あわあわとした様子で声を上げた真昼がチラリと此方に振り返ってくる。
そんな真昼の行動に、とりあえず自分も顔を見せた方が良さそうだと瑠璃は微苦笑を零すと、リビングから出て玄関に向かって行く。
「こんにちは、鈴原さん。私はお邪魔にならないようにクロを連れて部屋に居るから良かったらどうぞ。あがって貰って大丈夫よ」
そうして鈴原に向かって挨拶と合わせてそう瑠璃は言ったのだが。
―――――・・・・・・何か、変だわ。
ふと、鈴原を見つめながら瑠璃は眉を顰めた。
彼女の頭や肩に、纏わりつく白いもやのようなものが目に入ったのだ。
そして鈴原と至近距離に居た真昼もまたそれに気が付いて目を瞬かせた刹那―――――
「・・・わからないけど・・・でも城田くんなら私を
瑠璃の言葉など耳に入っていないかのように、淡々とそんな言葉を紡ぎ出した鈴原の身体から白いもやが噴出し、それが全身を覆ったのだ。
もやには虚ろな目のようなモノがあり、その周囲には歪なキャンドルのような形をしたものが一緒に浮かんでいる。
「―――――ッ!!!」
突如として現れた存在に真昼が愕然と目を見開くと、
―――――たべないの?
鈴原に取り付いた白いもやは真昼に対してそんな言葉を投げかけてきたのだ。
どうやら意思を持った何らかの存在らしい。
けれど、果たして此方の云う事を理解するのか、その辺りの事は分からないが―――――
「真昼君は人のことを食べたりはしないわよ。だから鈴原さんから離れて頂戴っ!!」
そう瑠璃は言うと、バッと手を鈴原に向かって伸ばしていく。
―――――キュイッ
刹那、瑠璃の手が鈴原の腕に触れると、彼女の身体に取り付いて膨張していたもやのような存在はキューと小さな鳴き声を洩らして消失したのだ。
「え・・・・・・消えた・・・・・・?」
呆然と目を瞠りつつ、真昼は意識を失った鈴原を抱きとめる。
瑠璃もまた、まさか自分が触れただけで鈴原に付いていたモノがあっさりと消えるとは思わず、呆気に取られた面持ちで自身の掌を見つめた後に、
「クロ! 鈴原さんに付いてたのって・・・・・・」
「あー、アレは〝
振り返ってきた瑠璃に答えた黒猫はぽひゅという音とともに人型に戻ると、
「
眉を顰めた真昼がクロに尋ねかける。
するとクロはめんどくせーとぼやいたのだが―――――
「〝灰塵〟は・・・人に取り付いてその人間を近くの吸血鬼まで運ぶ〝運搬役〟の下級生物・・・」
「つまり、さっきのアレは鈴原さんを
眉根を寄せた瑠璃に、あぁ・・・・・・とクロが気まずそうに視線を逸らしながら応じる。
灰塵が最初、真昼に反応を見せたのは、真昼が吸血鬼の主人だったからということなのか。
そう考えれば、話の辻褄は合うが―――――
「なんで、瑠璃姉が触っただけで鈴原さんに取り付いていた奴はあっさり消えたんだ?」
鈴原の身体を支えながら真昼が口を開く。
「・・・・・・それは、瑠璃が〝ミストレス〟だからだろうな。〝ミストレス〟に拒絶されれば、運搬役のあいつらは立場的に弱いから消えるしかない」
「そう、なのね」
クロの言葉に瑠璃は目を瞬かせる。
―――――自覚が無い中で、〝ミストレス〟として瑠璃の〝本質〟は緩やかに変わり始めている。
―――――けれど〝守られる側〟ではなく〝立ち向かう側〟に在りたいと願ったのも瑠璃自身だ。
―――――そしてクロの傍に、〝ミストレス〟として在ることを選んだのは瑠璃自身だ。
だから―――――
「―――――私にも出来ることがあって良かったわ」
小さく笑みを零し、瑠璃は呟く。
それから真昼に視線を向けると、
「真昼君、とりあえず鈴原さんは目が覚めるまではソファーに寝かせておいてあげましょう」
「そうだな、このままにしても置けないし」
頷いた真昼とともに、鈴原を左右から支える形でソファーまで運んでいく。
それから、鈴原にそっと瑠璃がタオルケットを掛けると、ピンポ―――――ン・・・と再び誰かの来訪を知らせるチャイムが家の中に鳴り響いたのだが―――――。
―――――ピンポーン、ピンポン、ピンポン、ピンポ―――――ン
鳴りやむことなく鳴り響くチャイムに、訝しみつつまた確認してみると。
玄関の外には灰塵に取り付かれた無数の人の集団が集まっていたのだ。
「クロ・・・お前。瑠璃姉は別としても、
「瑠璃の血は今の処は吸うつもりはねーし。お前の血だって吸いたくねーよ・・・。めんどくせー・・・」
眉間を顰めつつ問いを洩らした真昼をクロは半眼で見遣りながら言う。
その言葉に、オイ吸血鬼と思わず真昼は突っ込みを入れるも、当の吸血鬼自身が食糧を欲していないのにも拘わらず、どうしてここまでたくさんの人が集まってしまったのか。
向き合えね―――――・・・とクロは息を吐き出すと、
「・・・灰塵は下位も真祖も区別つかねー。ただ一番
告げられたその言葉に真昼の表情が硬いものになる。
―――――つまり、鈴原の近くにクロ以外の吸血鬼がいたら、彼女はそちらに運ばれて血を吸われて死んでしまっていたかもしれない。
―――――それだけでなく、いま此方に集まっている外の人達も殺されていた可能性があったということになる。
「・・・そんなのだめだ!! 俺が全部払ってやる!!」
ぎゅ・・・と右手を握りしめると、強い口調でそう宣言した真昼の手の中に武器であるホウキが具現化する。
「―――――真昼君、私も一緒にやるわ!」
瑠璃もまた胸元の『鍵』を右手で握ると言い放つ。
〝力〟を使って移動をしながら取り付かれた相手に触れて払う。
それならば、いまの自分でも問題なく出来るはずだ。
クロは真昼だけでなく瑠璃までもが事を起こすことを言い切った際、苦い表情を浮かべていたのだが、真昼が先陣を切って玄関扉を開いて武器を灰塵に向かって振りかざしていった時点で。
瑠璃もまた『鍵』の〝力〟を発動させて後方から払いに飛んだ際には、瑠璃の肩に黒猫の姿でしがみ付いていたのだった。
灰塵は吸血鬼の手ではどうする事も出来ず、〝ミストレス〟である瑠璃が触れる以外の方法としては主人の武器で払うしかないのだという。
その話を聞いたのは家の周囲に押し寄せていた数十人の人達の灰塵を全て払い終えた後の事だった。
しかし、真昼の場合は武器をひたすら振り回して灰塵にそれを中てて、払っていかなければならなかったことから、相当体力を消耗する事となり。
その後に町の様子を見に行くことにしたものの、その道すがらはクロが肩を貸して歩いていく事となったのだが―――――。
「俺の家の周りだけじゃない・・・街中に灰塵がいっぱいじゃん・・・!」
「そうね。あと白いチリみたいなものも、あちこちに積もってるみたいだけど・・・・・・」
横断歩道の信号の上やら、道行く人の肩にもまた薄っすらと積もっている。
歩きながら青い顔で呻いた真昼を瑠璃もまた反対側から支えるようにしながら歩く中で視線を巡らせると。
動けなくなるまでやるなよ・・・と真昼に対して呆れた様子で呟いたクロが、
「そのチリも灰塵だ。灰塵はチリみたいなもんなんだ。それが暗い気を出す人間を好んで集まって大きくなると人を操るようになる」
と、灰塵に関しての講釈をしてくれたのだが。
フツーの人間には見えない為に対処の仕様がなく、取り付かれる人が続出している状態のようで。
「わっ。また来た・・・」
げんなりした様子で真昼が呻くと―――――
「・・・古き良き伝承でのう。吸血鬼は日光を浴びると灰になる・・・と言うじゃろう。正確には吸血鬼は死ぬと灰塵になるのじゃ」
ふいに、聴こえてきた第三者の声により、真昼と瑠璃の脳裏に御国とジェジェが下位吸血鬼を壊した時の光景が思い出された。
同時に、此方に迫って来ていた灰塵に付かれた人に向かってバシュと武器を振りかざしていった人の姿が視界に入った。
ドンと存在感を主張する、その武器は漆黒の大きな棺桶であり―――――『おいでませ白ノ湯温泉』と宣伝がペンキで書かれている。
その棺桶を軽々と左腕で担ぎ上げると、此方に振り返ってきた青年の肩には黒いシルクハットに黒マントとステッキを持った幼い子供が鎮座していて。
「捜したぞ、お主ら!」
「良かったぜ、会えて。ケータイかけたのに二人とも出ねーしさ」
此方に向かってそう呼び掛けてきた子供に続いて、青年もまた首に掛けた『ゆ』と書かれた手ぬぐいで汗を拭いながら口を開いた。
「ヒューくん! 鉄君!」
合流をすることが出来た傲慢の真祖とその主人の名を瑠璃が呼ぶ。
と―――――
此方に視線を投じてきた鉄は、ふいに灰塵が離れたことで意識を失って倒れている人の傍らにしゃがみ込むと、そっと何処から取り出したのか、何かの包みをその背に置いていた。
「・・・何してんの?」
その行動に対して、真昼が眉を顰めながら尋ねかけると、
「灰塵が離れて気絶した人にウチの手ぬぐいやってんだ。起きた時に役立つし・・・宣伝も兼ねて」
鉄は手ぬぐいを片手に持ちながら、どことなく誇らしげな面持ちでそう告げてきたのだ。
しかし、気絶させた本人が、自身の家の宣伝を兼ねてというのは・・・・・・。
どーゆーサービスだよと思わず真昼は突っ込み入れてしまう。
瑠璃もまた苦笑を零しつつ、此方にまた迫ってきた灰塵に触れてそれを払う。
それから場所を公園に移した処で、灰塵を触れただけで払えるとはさすが〝ミストレス〟じゃのうと感心した口調で呟いたヒューに、
「ヒューくん。どうしてこんなに灰塵が発生しているのか、何か心当たりない?」
「昨日から急にじゃ。椿達との小競り合いで吸血鬼が多くやられて灰塵が増えているとは言えこの量はおかしいのう・・・」
瑠璃からの問いかけにヒューは眉を顰めながら応じてくる。
それから蝙蝠の姿に変わると、けれど自分たちでは払うことは出来ないから降参なのだという言葉で締め括り。その際にクロもまた黒猫の姿になっていて同意を示すように白旗を掲げていたのだった。
「あっ。またいる・・・っ」
それから程なくして公園内でも灰塵に取り付かれた人達の姿を見つけた真昼が武器であるホウキをすぐさま具現化させてまた走り出した為。
「待って、真昼君! 私も一緒に・・・・・・っ」
瑠璃もまた一緒に払う為にその後を追いかけて駆け出していく。
「くそっ。その人達から離れ・・・・・・」
そしてそう言いながらホウキを振り翳そうとした真昼と一緒に瑠璃も、右手をもう一人の灰塵に取り付かれた人に触れようと手を伸ばした。
その刹那―――――
「―――――ぇ!?」
「もォ~~~~~~ボク今日は忙しいのにィ~~~」
ガッ!と真昼のホウキは突如として現れた男に踏みつけられてしまい、瑠璃の右手もまた触れる手前で掴まれて止められてしまったのだ。
「せっかく増えてきた灰塵を勝手に消すなよォ~~~」
ピンクの髪にピンクのスーツ。右手には同色のシルクハットを持ちながら、左腕にはコンビニか何処かに寄った帰りなのだろうか。手提げのビニール袋をぶら下げながら瑠璃の右手を掴んだまま、男は真昼に向かって舌を出しながら顔を顰めつつ不服を申し立てる。
「ベルキアッ!?」
「久しぶりだねェ、瑠璃☆」
しかし、瞠目しながら瑠璃が名前を呼ぶと、真昼を睨み付けていたベルキアは、目線を瑠璃に向けた処で剣呑な雰囲気から一転して笑みを浮かべつつ軽快な口調で応じてくる。
鉄は知り合いなのか? といった様子できょとんとした面持ちでベルキアを見ていた一方で、黒猫が眉を顰めながらベルキアを睨む。
「お前・・・っ」
そして真昼もまたベルキアに対して反射的に声を荒げかけたのだが―――――
「・・・髪型変えた?」
ふと、目に入ったその姿に違和感を覚え、思わずそれを指摘すると。
ベルキアは真昼のホウキを踏み付けていた足を下ろすと、瑠璃の右手だけは掴んだまま、一歩後ろに下がり。
「あ゛ァ~~~!? 何だよォ~~~~~~!! お前、何か文句あんのかァ!? あンの露出狂の変態ちょうちょに切られたのを瑠璃が整えてくれたからこの髪型なんだよ!!」
「え?! 瑠璃姉が・・・・・・!?」
ギロリと睨み付けてきたベルキアから告げられた事に対して真昼は唖然とした面持ちになってしまう。
憂鬱側に居た際の椿と瑠璃の関係性を考えれば、その下位であったベルキアとも交流があったとしてもまぁ、可笑しくはないのだが。
まさか髪を整えるくらい親しい関係になっていたとは―――――。
ベルキアに手を掴まれたままの瑠璃は、眉を顰めた真昼が言わんとしている事を察し、眉を下げつつ、微苦笑を浮かべるしかなく。
しかし、いつまでもこの状態で居る訳にもいかないとベルキアを見据えると口を開いた。
「ベルキア、この灰塵が大量に発生している状況は椿と・・・・・・貴方たちがやったの? もしそうなのなら目的は・・・・・・」
「べ~~~つにィ? 吸血鬼にとって生きやすいようにしただけじゃ~~~ん」
するとベルキアは瑠璃の右手を解放すると、腕に下げたままだったビニール袋を右手に持っていたシルクハットの中に仕舞い、肩を竦めながらそう言うと、不意を突くようにドンと瑠璃の身体を真昼のほうに向かって突き飛ばしたのだ。
「―――――えっ!?」
「瑠璃姉っ!?」
真昼が瑠璃の身体を慌てて抱きとめると、
「ホラ☆ 灰塵が運んでくれた
その刹那、残虐な吸血鬼の顔に変わったベルキアは、すっと灰塵に取り付かれた制服姿の少女に向かって右手を伸ばして自分の傍に引き寄せると、晒した首筋にガッと牙を突き立てていく。
「・・・・・・っ!!」
「やめろ!!」
その光景に愕然と瑠璃が目を見開くと真昼もまた怒りの声を発した。
するとそこに様子を見るようにしていた黒猫が駆け寄ってきて真昼の左腕にガブッと噛みついたことで主従の証の鎖が具現化する。
「めんどくせ―――――・・・」
そしてお決まりの台詞とともに人型に戻ったクロがザッと勢いよくベルキアに向かって距離を詰めると、右手に具現化させた鍵爪でドッと少女を捕らえていたその右腕を切り落とし、落下する身体を素早く左手で受け止めたのだ。
「こッ・・・のォ~~~ッ、またッボクの腕をォ~~~ッ」
痛みと屈辱に顔を歪めながらベルキアは咆哮する。
けれど、その次の瞬間―――――
「で~~~も~~~?」
ニィ★と不敵な笑みを口元に浮かべたベルキアに、受け止めた少女を地面に寝かせたクロが視線を向けると、
「なくなったはずの腕もアラ不思議~~~」
ベルキアは左手に持っていたシルクハットを消して、その変わりにピンク色で星柄。中心に大きなクエスチョンマークが描かれた布を具現化させて、バサァとそれを自身の姿を覆い隠すように翻しながらドゥルルルルルルルルとテンポ良く口ずさむ。
「ジャンッ☆ も☆と☆ど☆お☆リィ~~~☆」
バッ★と得意げな笑みを浮かべながらベルキアは布を翻すと、クロに切断されたはずの腕は元の状態に戻っていて。その刹那、灰塵に取り付かれていた中の一人がズシャァと首から血を吹き出しながら倒れこんでいく姿が在ったのだ。
「「・・・!!」」
真昼と瑠璃が目を見開き絶句するも、ベルキアは特に気にした様子もなく。
「どんどん攻撃してイイよォ~~~?
あははァッ★ と嘲笑するかのように笑いながら、愉しげな口調で言う。
「灰塵がエサを運んでくれるおかげでボクらは無敵☆★☆ 今まではさァ~、ちょ―――――と灰塵が増えてくるとC3の連中が灰塵を
―――――でもC3なら機能してない。
というベルキアの言葉に、真昼はさらに表情を強張らせ、瑠璃もまた眉根を寄せながら胸元の『鍵』を固く握りしめてしまう。
「吸血鬼を殺す度、灰塵は積もる☆ さらにさらにィ・・・
―――――・・・状況は悪化してる・・・!!
―――――これが〝カウントダウン〟の始まりっていうことなの・・・・・・。
真昼と瑠璃がもどかしい感情に捉われた中でベルキアは手の中の布を翻し消失させると、代わりに再び手元に出現させたシルクハットの中から、愛用している三本の剣を取り出しながら、さながらショーのお披露目をするかのような口調で話し出す。
「さァさァ今日はお返ししちゃうぞォ!? 怠惰な黒猫チャンの運命はァ~~~☆」
1、串刺し☆
2、モット串刺し☆
3、motto KUSHIZASHI☆
「ネットかお電話で投票してねッ☆ 投票スタ―――――」
三つの選択肢を口にしたベルキアはバッとクロに向かって跳躍しながら襲い掛かっていく。
「―――――クロッ!!」
これ以上、何もせずに見ているだけなんて出来ない。
そんな想いから『鍵』の力を使い防御を発動させた瑠璃がクロの傍に向かって走り寄る。
その刹那―――――
「・・・・・・えっ、消えた?」
ベルキアの姿は忽然と目の前から消え去ったのだ。
「もォ~~~~~~ッ☆ なんでボクのショージャマすんだよォ!? エサもいっぱいいたしッ反撃もできたのにィッ!! それに久しぶりに瑠璃にも会えたんだから、せっかくだし瑠璃の〝力〟も少しぐらい見たかったのにさァ!!! 桜哉ァッ」
桜哉の影から伸びた黒い触手のようなモノに後ろ手に拘束されて、公園から離れたビルの上に連れて来られたベルキアは唯一拘束されていなかった足をばたつかせるようにしながら喚く。
ベルキアがクロに攻撃を仕掛けようとした刹那―――――あの場から消え去ったのは桜哉の強制連行によるものだったのだ。
けれど桜哉はベルキアの抗議には耳を貸すことはせずに背を向けたまま、
「寄り道してんじゃねーよ・・・」
不機嫌そうに顔を顰めながら譴責の言葉を口にする。
アイスを買いにコンビニに行ったベルキアの帰りが遅いから様子を見に行くようにと椿に言われ、嫌々ながら向かった処であのような場面に遭遇する事になるとは―――――。
「―――――椿さんの知らない処で瑠璃さんまで交えての戦闘に為ったら、あの人のことだから無駄に騒ぐだろ・・・・・・」
先日、祭りでシャムロックが手に入れた、ぬいぐるみを抱いた瑠璃の浴衣姿の写真を受け取った時も、鬱陶しいことこの上ない状態になっていたのだから。
「ちェ~~~。これから
ベルキアもそれを思い出したのだろう、顰め面で唸りながらそう言うと、桜哉から解放された処で、つばきゅんのダッツ溶けてないよなァ・・・? と袋の中からアイスを取り出し確認する。
桜哉はベルキアにそれ以上は何も言うことをせず、ぐ・・・ときつく眉根を寄せると、空に向かって跳躍する。
と―――――
ベルキアもその後に続いて空を駆け上がってくる。
そうして「つばきゅん、遅いって怒ってたァ?」と尋ねかけてきたのだが。
桜哉はそれにもまた、答えることはせず。
心の中でただひたすらに『約束』を交わした〝大切な二人〟に向かって訴えかけていた。
―――――・・・真昼、瑠璃さん。
―――――早く止めてくれ・・・。
―――――取り返しがつかなくなるぞ・・・!
―――――オレは・・・どうすればいい・・・?
「――――――・・・・・・?」
自販機で買った飲み物を片手に、真昼と黒猫と一緒に公園のベンチに座って体を休めていた瑠璃は、ふと聞き覚えのある声が意識の中に聴こえた気がして、ゆっくりと目を瞬かせた。
刹那―――――浮かんできたのは真昼と一緒に『約束』をした少年の姿。
―――――・・・・・・桜哉君?
ベルキアの姿が戦いの最中、唐突に消失したのはもしかしたら桜哉が止めてくれたのだろうか。
右腕の四つ葉のブレスレットに視線を落としながら瑠璃はそんな想いを巡らせる。
けれど―――――
―――――世界は変わってきている。
―――――世界は
――――― 一気にバランスを崩してしまう。
「椿は・・・灰塵を増やそうとしてるのか・・・? だから吸血鬼同士を戦わせて・・・」
救急車で運ばれていく人達の姿を視界に映しながら真昼が険しい面持ちで呟く。
あの後、吸血鬼に襲われてしまった人達の手当てを行い。さらに灰塵に取り付かれた人達を片っ端から真昼と鉄と瑠璃の三人で払って行き。救急車を呼んだ処でとりあえずこの場は何とかなったが―――――。
「・・・・・・そうね。もしもこれ以上、灰塵が増えていったら・・・・・・」
瑠璃もまた重々しい表情で口を開くと、
「・・・人間など皆、吸血鬼の食糧になってしまうじゃろうな」
棺桶を背負って立ちながらペットボトルの飲み物を口にしていた鉄の頭に乗っていた蝙蝠が淡々とした口調で先見の言葉を洩らした。
「そんなのだめだ・・・っ。
そこで真昼が手にしていたペットボトルをカッとベンチに打ち据えるように置いて反論を声高に主張すると、
「真祖からはもっと多くの灰塵が出るって言った・・・」
黙って話を聞いていた鉄もまた真昼に視線を向けながら、眉を顰めてベルキアが言っていた事柄を口にする。
「もし一人でもやられたら一気に分が悪くなるのう」
それに対して蝙蝠がまた、先程と変わらぬ調子で相槌を打っと、
「・・・じゃあ! バラバラでいたらだめだ・・・きっと狙われる! 椿達の動きは大きくなってるんだ。俺達も動かないと!」
意を決した表情で真昼がベンチから腰を上げたのだ。
その時、人型に戻ったクロとヒューがそれぞれ、お? む? と目を瞬かせると、瑠璃もまた真昼が言わんとしている事に同意を示す為にベンチから立ち上がり、
「そうね。真昼君の云う通りだわ。みんなで協力をしないといけないわ」
「・・・集めよう! 真祖7人全員を!」
真昼は強い眼差しでそう宣言したのだ。
時を同じくして―――――
「先生のご葬儀会場はこちらです。
8番目―――――〝憂鬱〟の真祖である椿が拠点の屋上の縁に立ちながら、不敵な笑みを浮かべて、目的の開幕を告げる言葉を口にしていた。
それに立ち会ったのは、三人の下位―――――シャムロック、桜哉、ベルキアで。
その周囲一帯には、灰塵がオオオオと唸り声のようなモノを響かせながら渦を巻くようにして吹き荒れていた。
そしてシャムロックと桜哉が、椿の左右に立ってその情景を見ていた時。
ベルキアはその灰塵の渦に身を任せながら愉しげに宙返りを行なっていたのだった。
19/8/8掲載
