第十章『カウントダウン』
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カウントダウン
ふと、目を開けると瑠璃は一人で十字路の近くに立っていた。
そして視線を空に向けると、そこには紅い月が浮んでいて。
―――――・・・・・・ここは・・・・・・。
この情景は見覚えがある。
―――――紅い月夜の晩、十字路を渡るのは避けなければならない
―――――何故なら、その境界線には吸血鬼が存在する世界への入り口があるから
―――――その場所に足を踏み入れてしまったら最期、もう戻ることは出来ない
―――――吸血鬼に魅入られる血を持つ、〝ミストレス〟となってしまうから
―――――・・・・・・吸血鬼である『クロ』と異なる世界に居た『私』が最初に出逢った場所。
全てはここから始まった。
十字路の境界線には小さな黒猫が姿を見せていて。
―――――コン
けれどその刹那、記憶を呼び起こした瑠璃の耳朶に届いたのは黒猫の鳴き声ではなく。
十字路の境界線に姿を見せたのもまた、『黒猫』ではなく二股の尾を持った『黒狐』だった。
―――――・・・・・・あれは・・・・・・。
呆然と目を見開くと、瑠璃は反射的にその『黒狐』の下に向かって走り出していた。
と―――――
―――――シャラーン―――――
涼やかな音色が鳴り響き、目の前の景色が一転する。
次に瑠璃の視界に映ったのは、絡みついた漆黒の鎖と南京錠によって厳重に封鎖された襖だった。
―――――あれ? どうして瑠璃がここにいるの?
そうして封鎖された襖の前には夜陰のごとく朧気な姿をした『黒狐』が居て、不思議そうに小首を傾げながら瑠璃を見上げてくる。
―――――ここは『つばき』の中なんだけど。
―――――・・・・・・『つばき』の中・・・・・・?
目を瞠った瑠璃をジッと『黒狐』は見遣った処で合点がいった様子で口を開いた。
―――――そうか。その『鍵』の力が発動して瑠璃はここに辿り着いたんだね。
するとその言葉に応えるように、瑠璃の胸元で『鍵』がふわりと淡い光を瞬かせ。
―――――〝ミストレス〟として少しずつ瑠璃は〝覚醒〟を始めているみたいだから。
それを目にした『黒狐』はゆっくりと細い瞳を開眼させると真紅の輝きを覗かせながら言葉を紡ぎ出す。
―――――でも、瑠璃が〝選んだ〟のは『つばき』じゃなくて『クロ』でしょ。
―――――・・・・・・それは・・・・・・。
『黒狐』の言葉に瑠璃は眉根を寄せるも、それを〝否定〟することは出来なかった。
何故なら確かに瑠璃は『つばき』の傍から、〝離れる〟ことを〝選んだ〟のだから。
―――――だから瑠璃はここに居てはいけないんだよ。
言葉を途切れさせてしまった瑠璃に『黒狐』は寂し気な口調でそう言うと―――――
―――――シャラーン―――――
この場所に辿り着く前に耳朶に鳴り響いた、水琴鈴の音色がまた何処からともなく聴こえてきて。
―――――コン
それに同調するように『黒狐』が鳴き声を上げると、瑠璃の意識はまたフワリとその場から遠退き始めていた。
―――――もうすぐ〝カウントダウン〟が始まるんだよ。
―――――出来る事なら、瑠璃。・・・・・・キミには安全な処に居て欲しいけれど、それは叶わないんだろうね。
―――――・・・・・・待って・・・・・・キミは・・・・・・っ!!
淡々と言葉を紡ぎ出した『黒狐』に向かって瑠璃は必死に手を伸ばす。
―――――ボクは『 』だよ。
けれど最後に紡ぎ出された『黒狐』の言葉を聞き取ることは叶わず。
瑠璃の意識はそのまま〝在るべき場所〟に向かって戻っていったのだ。
C3の拠点から脱出したあと、瑠璃のスマホで時刻を確認してみると、真昼の予想通り―――――既にお昼を過ぎていて家に帰宅した時には14時を回っているという状況だった。
普段ならば、日中は家の中の掃除やら洗濯やら。真昼と瑠璃は家事を分担して行っているのが常だが―――――帰って早々に瑠璃は真昼から身体を休めるよう言い渡され。
黒猫も昼寝の時間だと言って瑠璃についていき、そのままベッドに潜り込んで一緒に眠っていたのだが。
夕方に差し掛かった頃―――――
「―――――・・・・・・瑠璃?」
ふと、瑠璃の纏う気配に微かな違和感を覚えた黒猫が目を覚ますと―――――
瑠璃の胸元でふわりと淡い輝きを瞬かせながら『鍵』が発動をしていて。
瑠璃の身体は此処には在るものの、〝意識〟だけが違う場所に居るのだという事を黒猫は直感的に理解をした。
―――――瑠璃は少しずつ〝ミストレス〟として覚醒を始めている。
―――――それにより真祖たちの〝深層意識〟とも、繋がりやすくなっている。
瑠璃自身はまだそのことを自覚してはいないが、C3で捕まっていた時もその〝力〟によってクロの処まで辿り着いた。
瑠璃が〝ミストレス〟として秘めている〝力〟はまだ、未知数ともいえるが・・・・・・。
瑠璃の〝力〟が発動に至るきっかけは、その〝心の在り様〟によるものだ。
先日、真昼の修行の最中、傲慢の真祖の主人である鉄の力の本領を目にした際―――――真昼と一緒に爆風に巻き込まれそうになった処で、クロが真昼と瑠璃を抱えてその場から回避させた―――――その時にも『鍵』の力を瑠璃は無意識に発動させて防御シールドを展開させていた。
―――――クロと真昼を〝守る〟ために。
そうしていま―――――また『鍵』が発動している〝理由〟があるとすれば・・・・・・
「・・・・・・つばき・・・・・・」
吐息とともに瑠璃の口から零れ落ちた名前を耳朶に拾った黒猫は何とも言えない面持ちで瑠璃を見つめる。
―――――C3からの接触により、〝椿〟が昔そこにいたのだということを瑠璃は知った。
―――――そしてC3は人外の存在を『捕獲』し『裁く』裁く組織なのだということも。
「・・・・・・向き合ねー」
ポツリとそう呟くと同時に、黒猫は静かに人型に戻る。
―――――クロ、好きだよ―――――
あの日、〝こちら〟に帰って来る事を選んだ瑠璃がクロに対して伝えてくれた言葉。
それは『真実』のものであり、〝椿〟に対して抱いている感情は『家族愛』なのだということも頭ではちゃんと理解をしている。
それなのに瑠璃が想いを口にしてくれたのに対して、ハッキリとクロは自分の想いを言葉にすることが未だ出来ずにいるままだ。
それでも瑠璃はクロの心に寄り添う事を選んでくれた―――――だから『恋人同士』という関係が成り立っている。
けれど―――――
〝ミストレス〟という立場に在るという事を除いても、瑠璃は吸血鬼だけでなく関わった人たちを惹きつける雰囲気を持っている。
そうして瑠璃は気を許した相手に対しては、自然と無防備になる傾向にあり。
結果―――――主人である真昼とともに拉致される形で連れて来られたC3において、クロは瑠璃と無事に合流を果たした時。あの嫉妬の主人である〝御国〟の香水の匂いを感じた時にもまた、気づけば〝苛立ち〟の感情を覚えていた。
―――――けれど、瑠璃のことだ。
―――――組織内で遭遇した〝御国〟の冷徹な行動を止めようとした結果なのだろうということは容易に想像ができる訳なのだが。
「・・・・・・瑠璃」
胸の内に渦巻くモヤモヤとした感情を打ち消すために、クロは眠る瑠璃に顔を近づけるとそっと口付ける。
と―――――
「・・・・・・クロ・・・・・・」
ふと瑠璃の瞼が震えて意識が覚醒する。
―――――まるで眠り姫のように。
「・・・・・・あのね、クロ。私、夢の中で『つばき』の処に・・・・・・」
そうして目覚めた瑠璃は自分を見つめるクロの姿を瞳に映すと、眠っていた時に〝繋がった〟場所で出会った『黒狐』の話を伝えようと言葉を紡ぎ出しかけたのだが。
それを遮るようにクロは瑠璃の枕元に両手を付くと、そのまま唇を重ねていく。
「・・・・・・っ!!」
そんなクロの行動に瑠璃は驚いた様子で目を見開くも、やがて何かを感じ取ったかのように、そのまま自身の両手を布団の中から出すとクロの背中に回してくる。
―――――チャンスだよ、このまま瑠璃の〝全て〟を手に入れてしまえば良い。
―――――そうして『契約』を結んでしまえば、瑠璃はキミ以外の真祖と〝繋がる〟事もなくなる。
その時、クロの心の奥底でまた、ひっそりと『力』が嗤い声を洩らしながら囁いていた。
そして―――――
暫しの後に、ハァと息を洩らしながら瑠璃に口付けをするのを止めたクロは、次にゆっくりと瑠璃の首筋に顔を埋めるとさらにそこにも唇を滑らせていく。
瑠璃にこんなふうに触れるのは、これで二度目になる。
一度目もまた『椿』の処から帰ってきた瑠璃から、〝椿に関する話〟を聞いていた中でのことだった。
他の奴が瑠璃にちょっかいを出しているのを見れば、〝腹立たしい〟という感情が沸きあがる。
―――――が、他の奴に対してはその程度で済むのに対して。
―――――相手が『椿』の場合はそれ以上に、どうしようもない程の激しい〝焦燥〟に囚われてしまうのだ。
瑠璃が〝ミストレス〟として、〝傍に在る〟ことを〝選んだ〟のは『クロ』だと解っている。
けれど瑠璃は『椿』にも〝心を砕いている〟―――――『大切な家族』だから。
その一方で『椿』が瑠璃に対して抱いている〝想い〟は『クロ』と〝同じモノ〟だ。
だからどうしようもなく、〝不安〟になってしまうのだ。
〝あのこと〟を話すことが出来ないから。
いつか瑠璃が自分の傍から居なくなってしまうのではないかと。
―――――それなら、いっその事。
―――――瑠璃が〝あのこと〟を知ってしまう前に。
―――――このまま、あいつの云う通り『契約』まで結んでしまえば。
「―――――・・・・・・っ、ん・・・・・・・・ぁっ」
普段、耳にするよりも甘さを含んだ声が瑠璃の口から洩れだす。
と―――――常よりも瑠璃の纏う魅惑の香りもまた、一層甘い匂いに変わっていく。
〝ミストレス〟と心を通わせた真祖が、〝ミストレス〟の〝全て〟を手に入れるのに対し。
真祖に自身の〝全て〟を捧げた〝ミストレス〟は『契りの証』としてその真祖の〝血〟を口にする。
そうすれば〝ミストレス〟と真祖の『契約』は成立し、共に永劫の時を歩むパートナーとなる。
「・・・・・・っ・・・・・・瑠璃・・・・・・」
耳朶に囁きかけるように瑠璃の名前を呼んだクロは、瑠璃の上に覆いかぶさるように体勢を変えながら、衣服の下に手を這わせようと左手をそちらに向かってゆっくりと滑らせていった。
―――――その時だった。
リビングから廊下に出てきたらしい真昼のバタバタと勢いのある足音が聴こえてきて。
「―――――とりあえず、急いで着替えるべきだよな・・・・・・っ!!」
ガチャと瑠璃の向かいの部屋の扉が開かれる音がしたことにより―――――反射的に動きを止めたクロの意識がハッと我に返っていく。
「・・・・・・ク・・・・・・クロ・・・・・・・あの・・・・・・」
それは瑠璃もまた同様で―――――しどろもどろになりながら、涙目の状態に加えて赤く染まった顔でクロに呼びかけてくる。
「―――――・・・・・・向き合えねー・・・・・・」
そこで徐に瑠璃の上から身体を起こしたクロは口元を右手で押さえると視線を逸らしながら自嘲するかのように呟いた。
―――――あいつの唆すような言葉には耳を傾けることをしないようにしていたつもりだったのに。
―――――結局、自分の気持ちに歯止めを掛けきれずに、瑠璃に手を出しそうになってしまった。
「悪かったな・・・・・・瑠璃。その・・・・・・寝こみを襲うような真似をして・・・・・・」
「・・・・・・ううん。その、びっくりはしたけど・・・・・・」
にゃ―――――・・・・・・と項垂れながら息を吐き出し、謝ってきたクロに対してベッドから起き上がった瑠璃は胸元で右手を握りしめながらゆっくりと頭を振る。
クロとは曲がりなりにも『恋人同士』なのだから、目覚めた直後にキスをされていたことに驚きはしたものの拒むつもりはなかった。
そうしてそのまま―――――無意識の内にとはいえ―――――クロからの求めを拒むことなく自分で受け入れていた。
―――――〝ミストレス〟である〝私〟が選んだのは『 』の云う通り〝クロ〟だから―――――
目覚める前に繋がった場所で出逢った『黒狐』とのやり取りが瑠璃の意識の内に浮かんでくる。
「あのね、クロ。私はこれから先、何があったとしてもクロの〝ミストレス〟として、ずっと離れないで傍にいるから。―――――クロの事を絶対に一人にはしないって約束するわ」
それから瑠璃は顔を上げると、クロを見つめながら想いを紡ぎ出す。
それはクロの中にある混沌としたモノを甘やかなモノに変えていく。
―――――あぁ・・・・・・向き合えねー・・・・・・。
呆然と目を瞠りながら、思わずそう心中でクロは洩らしてしまう。
けれど―――――
手放したくないという『本心』には抗うことは出来ず。
「―――――瑠璃・・・・・・ありがとな」
両腕を伸ばして瑠璃の身体をそっと抱き寄せると、クロは小さな声でその言葉を口にしたのだ。
19/7/22掲載
ふと、目を開けると瑠璃は一人で十字路の近くに立っていた。
そして視線を空に向けると、そこには紅い月が浮んでいて。
―――――・・・・・・ここは・・・・・・。
この情景は見覚えがある。
―――――紅い月夜の晩、十字路を渡るのは避けなければならない
―――――何故なら、その境界線には吸血鬼が存在する世界への入り口があるから
―――――その場所に足を踏み入れてしまったら最期、もう戻ることは出来ない
―――――吸血鬼に魅入られる血を持つ、〝ミストレス〟となってしまうから
―――――・・・・・・吸血鬼である『クロ』と異なる世界に居た『私』が最初に出逢った場所。
全てはここから始まった。
十字路の境界線には小さな黒猫が姿を見せていて。
―――――コン
けれどその刹那、記憶を呼び起こした瑠璃の耳朶に届いたのは黒猫の鳴き声ではなく。
十字路の境界線に姿を見せたのもまた、『黒猫』ではなく二股の尾を持った『黒狐』だった。
―――――・・・・・・あれは・・・・・・。
呆然と目を見開くと、瑠璃は反射的にその『黒狐』の下に向かって走り出していた。
と―――――
―――――シャラーン―――――
涼やかな音色が鳴り響き、目の前の景色が一転する。
次に瑠璃の視界に映ったのは、絡みついた漆黒の鎖と南京錠によって厳重に封鎖された襖だった。
―――――あれ? どうして瑠璃がここにいるの?
そうして封鎖された襖の前には夜陰のごとく朧気な姿をした『黒狐』が居て、不思議そうに小首を傾げながら瑠璃を見上げてくる。
―――――ここは『つばき』の中なんだけど。
―――――・・・・・・『つばき』の中・・・・・・?
目を瞠った瑠璃をジッと『黒狐』は見遣った処で合点がいった様子で口を開いた。
―――――そうか。その『鍵』の力が発動して瑠璃はここに辿り着いたんだね。
するとその言葉に応えるように、瑠璃の胸元で『鍵』がふわりと淡い光を瞬かせ。
―――――〝ミストレス〟として少しずつ瑠璃は〝覚醒〟を始めているみたいだから。
それを目にした『黒狐』はゆっくりと細い瞳を開眼させると真紅の輝きを覗かせながら言葉を紡ぎ出す。
―――――でも、瑠璃が〝選んだ〟のは『つばき』じゃなくて『クロ』でしょ。
―――――・・・・・・それは・・・・・・。
『黒狐』の言葉に瑠璃は眉根を寄せるも、それを〝否定〟することは出来なかった。
何故なら確かに瑠璃は『つばき』の傍から、〝離れる〟ことを〝選んだ〟のだから。
―――――だから瑠璃はここに居てはいけないんだよ。
言葉を途切れさせてしまった瑠璃に『黒狐』は寂し気な口調でそう言うと―――――
―――――シャラーン―――――
この場所に辿り着く前に耳朶に鳴り響いた、水琴鈴の音色がまた何処からともなく聴こえてきて。
―――――コン
それに同調するように『黒狐』が鳴き声を上げると、瑠璃の意識はまたフワリとその場から遠退き始めていた。
―――――もうすぐ〝カウントダウン〟が始まるんだよ。
―――――出来る事なら、瑠璃。・・・・・・キミには安全な処に居て欲しいけれど、それは叶わないんだろうね。
―――――・・・・・・待って・・・・・・キミは・・・・・・っ!!
淡々と言葉を紡ぎ出した『黒狐』に向かって瑠璃は必死に手を伸ばす。
―――――ボクは『 』だよ。
けれど最後に紡ぎ出された『黒狐』の言葉を聞き取ることは叶わず。
瑠璃の意識はそのまま〝在るべき場所〟に向かって戻っていったのだ。
C3の拠点から脱出したあと、瑠璃のスマホで時刻を確認してみると、真昼の予想通り―――――既にお昼を過ぎていて家に帰宅した時には14時を回っているという状況だった。
普段ならば、日中は家の中の掃除やら洗濯やら。真昼と瑠璃は家事を分担して行っているのが常だが―――――帰って早々に瑠璃は真昼から身体を休めるよう言い渡され。
黒猫も昼寝の時間だと言って瑠璃についていき、そのままベッドに潜り込んで一緒に眠っていたのだが。
夕方に差し掛かった頃―――――
「―――――・・・・・・瑠璃?」
ふと、瑠璃の纏う気配に微かな違和感を覚えた黒猫が目を覚ますと―――――
瑠璃の胸元でふわりと淡い輝きを瞬かせながら『鍵』が発動をしていて。
瑠璃の身体は此処には在るものの、〝意識〟だけが違う場所に居るのだという事を黒猫は直感的に理解をした。
―――――瑠璃は少しずつ〝ミストレス〟として覚醒を始めている。
―――――それにより真祖たちの〝深層意識〟とも、繋がりやすくなっている。
瑠璃自身はまだそのことを自覚してはいないが、C3で捕まっていた時もその〝力〟によってクロの処まで辿り着いた。
瑠璃が〝ミストレス〟として秘めている〝力〟はまだ、未知数ともいえるが・・・・・・。
瑠璃の〝力〟が発動に至るきっかけは、その〝心の在り様〟によるものだ。
先日、真昼の修行の最中、傲慢の真祖の主人である鉄の力の本領を目にした際―――――真昼と一緒に爆風に巻き込まれそうになった処で、クロが真昼と瑠璃を抱えてその場から回避させた―――――その時にも『鍵』の力を瑠璃は無意識に発動させて防御シールドを展開させていた。
―――――クロと真昼を〝守る〟ために。
そうしていま―――――また『鍵』が発動している〝理由〟があるとすれば・・・・・・
「・・・・・・つばき・・・・・・」
吐息とともに瑠璃の口から零れ落ちた名前を耳朶に拾った黒猫は何とも言えない面持ちで瑠璃を見つめる。
―――――C3からの接触により、〝椿〟が昔そこにいたのだということを瑠璃は知った。
―――――そしてC3は人外の存在を『捕獲』し『裁く』裁く組織なのだということも。
「・・・・・・向き合ねー」
ポツリとそう呟くと同時に、黒猫は静かに人型に戻る。
―――――クロ、好きだよ―――――
あの日、〝こちら〟に帰って来る事を選んだ瑠璃がクロに対して伝えてくれた言葉。
それは『真実』のものであり、〝椿〟に対して抱いている感情は『家族愛』なのだということも頭ではちゃんと理解をしている。
それなのに瑠璃が想いを口にしてくれたのに対して、ハッキリとクロは自分の想いを言葉にすることが未だ出来ずにいるままだ。
それでも瑠璃はクロの心に寄り添う事を選んでくれた―――――だから『恋人同士』という関係が成り立っている。
けれど―――――
〝ミストレス〟という立場に在るという事を除いても、瑠璃は吸血鬼だけでなく関わった人たちを惹きつける雰囲気を持っている。
そうして瑠璃は気を許した相手に対しては、自然と無防備になる傾向にあり。
結果―――――主人である真昼とともに拉致される形で連れて来られたC3において、クロは瑠璃と無事に合流を果たした時。あの嫉妬の主人である〝御国〟の香水の匂いを感じた時にもまた、気づけば〝苛立ち〟の感情を覚えていた。
―――――けれど、瑠璃のことだ。
―――――組織内で遭遇した〝御国〟の冷徹な行動を止めようとした結果なのだろうということは容易に想像ができる訳なのだが。
「・・・・・・瑠璃」
胸の内に渦巻くモヤモヤとした感情を打ち消すために、クロは眠る瑠璃に顔を近づけるとそっと口付ける。
と―――――
「・・・・・・クロ・・・・・・」
ふと瑠璃の瞼が震えて意識が覚醒する。
―――――まるで眠り姫のように。
「・・・・・・あのね、クロ。私、夢の中で『つばき』の処に・・・・・・」
そうして目覚めた瑠璃は自分を見つめるクロの姿を瞳に映すと、眠っていた時に〝繋がった〟場所で出会った『黒狐』の話を伝えようと言葉を紡ぎ出しかけたのだが。
それを遮るようにクロは瑠璃の枕元に両手を付くと、そのまま唇を重ねていく。
「・・・・・・っ!!」
そんなクロの行動に瑠璃は驚いた様子で目を見開くも、やがて何かを感じ取ったかのように、そのまま自身の両手を布団の中から出すとクロの背中に回してくる。
―――――チャンスだよ、このまま瑠璃の〝全て〟を手に入れてしまえば良い。
―――――そうして『契約』を結んでしまえば、瑠璃はキミ以外の真祖と〝繋がる〟事もなくなる。
その時、クロの心の奥底でまた、ひっそりと『力』が嗤い声を洩らしながら囁いていた。
そして―――――
暫しの後に、ハァと息を洩らしながら瑠璃に口付けをするのを止めたクロは、次にゆっくりと瑠璃の首筋に顔を埋めるとさらにそこにも唇を滑らせていく。
瑠璃にこんなふうに触れるのは、これで二度目になる。
一度目もまた『椿』の処から帰ってきた瑠璃から、〝椿に関する話〟を聞いていた中でのことだった。
他の奴が瑠璃にちょっかいを出しているのを見れば、〝腹立たしい〟という感情が沸きあがる。
―――――が、他の奴に対してはその程度で済むのに対して。
―――――相手が『椿』の場合はそれ以上に、どうしようもない程の激しい〝焦燥〟に囚われてしまうのだ。
瑠璃が〝ミストレス〟として、〝傍に在る〟ことを〝選んだ〟のは『クロ』だと解っている。
けれど瑠璃は『椿』にも〝心を砕いている〟―――――『大切な家族』だから。
その一方で『椿』が瑠璃に対して抱いている〝想い〟は『クロ』と〝同じモノ〟だ。
だからどうしようもなく、〝不安〟になってしまうのだ。
〝あのこと〟を話すことが出来ないから。
いつか瑠璃が自分の傍から居なくなってしまうのではないかと。
―――――それなら、いっその事。
―――――瑠璃が〝あのこと〟を知ってしまう前に。
―――――このまま、あいつの云う通り『契約』まで結んでしまえば。
「―――――・・・・・・っ、ん・・・・・・・・ぁっ」
普段、耳にするよりも甘さを含んだ声が瑠璃の口から洩れだす。
と―――――常よりも瑠璃の纏う魅惑の香りもまた、一層甘い匂いに変わっていく。
〝ミストレス〟と心を通わせた真祖が、〝ミストレス〟の〝全て〟を手に入れるのに対し。
真祖に自身の〝全て〟を捧げた〝ミストレス〟は『契りの証』としてその真祖の〝血〟を口にする。
そうすれば〝ミストレス〟と真祖の『契約』は成立し、共に永劫の時を歩むパートナーとなる。
「・・・・・・っ・・・・・・瑠璃・・・・・・」
耳朶に囁きかけるように瑠璃の名前を呼んだクロは、瑠璃の上に覆いかぶさるように体勢を変えながら、衣服の下に手を這わせようと左手をそちらに向かってゆっくりと滑らせていった。
―――――その時だった。
リビングから廊下に出てきたらしい真昼のバタバタと勢いのある足音が聴こえてきて。
「―――――とりあえず、急いで着替えるべきだよな・・・・・・っ!!」
ガチャと瑠璃の向かいの部屋の扉が開かれる音がしたことにより―――――反射的に動きを止めたクロの意識がハッと我に返っていく。
「・・・・・・ク・・・・・・クロ・・・・・・・あの・・・・・・」
それは瑠璃もまた同様で―――――しどろもどろになりながら、涙目の状態に加えて赤く染まった顔でクロに呼びかけてくる。
「―――――・・・・・・向き合えねー・・・・・・」
そこで徐に瑠璃の上から身体を起こしたクロは口元を右手で押さえると視線を逸らしながら自嘲するかのように呟いた。
―――――あいつの唆すような言葉には耳を傾けることをしないようにしていたつもりだったのに。
―――――結局、自分の気持ちに歯止めを掛けきれずに、瑠璃に手を出しそうになってしまった。
「悪かったな・・・・・・瑠璃。その・・・・・・寝こみを襲うような真似をして・・・・・・」
「・・・・・・ううん。その、びっくりはしたけど・・・・・・」
にゃ―――――・・・・・・と項垂れながら息を吐き出し、謝ってきたクロに対してベッドから起き上がった瑠璃は胸元で右手を握りしめながらゆっくりと頭を振る。
クロとは曲がりなりにも『恋人同士』なのだから、目覚めた直後にキスをされていたことに驚きはしたものの拒むつもりはなかった。
そうしてそのまま―――――無意識の内にとはいえ―――――クロからの求めを拒むことなく自分で受け入れていた。
―――――〝ミストレス〟である〝私〟が選んだのは『 』の云う通り〝クロ〟だから―――――
目覚める前に繋がった場所で出逢った『黒狐』とのやり取りが瑠璃の意識の内に浮かんでくる。
「あのね、クロ。私はこれから先、何があったとしてもクロの〝ミストレス〟として、ずっと離れないで傍にいるから。―――――クロの事を絶対に一人にはしないって約束するわ」
それから瑠璃は顔を上げると、クロを見つめながら想いを紡ぎ出す。
それはクロの中にある混沌としたモノを甘やかなモノに変えていく。
―――――あぁ・・・・・・向き合えねー・・・・・・。
呆然と目を瞠りながら、思わずそう心中でクロは洩らしてしまう。
けれど―――――
手放したくないという『本心』には抗うことは出来ず。
「―――――瑠璃・・・・・・ありがとな」
両腕を伸ばして瑠璃の身体をそっと抱き寄せると、クロは小さな声でその言葉を口にしたのだ。
19/7/22掲載
