第九章『俺は大人、ここは社会』
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「御国先輩」
露木は冷ややかな口調で男の名を口にする。
「ほんと高校からず―――――っと〝先輩〟呼び変わんないね。修平」
すると名前を呼ばれた御国もまた、ニヤリと笑みを浮かべると露木の下の名前を呼び返してきた。
けれど、露木には旧交を温めるつもりなど一切なく。
「露木です。
「あ。俺が勝手に入ったから彼女と由利さんを責めないでね。ちょっと見に来ただけだよ。瑠璃ちゃんが〝ミストレス〟としてどう行動するのか。それと修平が真昼くんとどんなふうに交渉するのかをね」
御国もまたそれを解った上で、挑発するかのように此方を訪れた目的を告げてくる。
その御国の言動に、苛つきを感じた露木は睨むような視線を向けると、
「その目、何!! 俺のアベルを性的な目で見るな!!」
ひぃ、と御国は腕で人形を隠すような仕草をしながら、お決まりとも言える台詞を口にしたのだ。
「・・・俺をイライラさせにきたのならすぐに出てって下さい。御国先輩は。
その御国の態度に露木は言葉通り苛立ちを隠すことはせず。
「あなたが
右手で握り拳を作るとそれを御国に向かって突き出しながらそう言い放ったのだ。
けれど、その険悪な空気は長くは続かなかった。
「それよりアベルちゃん、ロボ
溶接面を付けた彼女が右手に溶接器具を構えながらそう言いつつ御国に迫ったのだ。
「うわああ出たよ、溶接系女子!! 俺のアベルに性的な属性を付けるな!!」
バチバチと火花を散らす溶接器具から人形を守るようにしっかりと腕の中に抱えながら御国は彼女に向かって喚く。
そんなやり取りを目にした露木は、これ以上相手にしているのは時間の無駄だと言わんばかりに、視線を真昼と瑠璃が映った監視モニターに滑らせると、
「城田真昼と瑪瑙瑠璃は・・・第21資料室」
「あ、ろきくん待ってって・・・」
二人の居場所を確認すると同時にすぐさま身を翻して、たっとモニタールームを出て行ってしまった露木を彼女も「ろきく―――――~ん、私も行くよ―――――」と追いかけてぱたぱたぱたと飛び出して行ってしまったのだ。
それから由利もまた、そんな二人の姿を何も言うことはせず見送った処で小さく苦笑を零すと、御国にも構うことはなく静かにその場から立ち去り。
モニタールームに一人残った御国は帽子の鍔に右手を添えると、ひっそりと嘲笑するかのような笑みを浮かべて呟いた。
「・・・瑠璃ちゃんが此処で篭の中の『駒鳥』になることがないように。それから真昼くんがC3に懐柔されそうなら
―――――モニタールーム内にてそんなやり取りがあった時。
「なんだ・・・これ・・・」
ようやく入ることが出来た資料室で、真昼が偶然手にしたそれは―――――
『捕縛者リスト』と書かれたモノだった。
―――――No.J-025539 種別・・吸血鬼
―――――補足・・〝強欲〟下位
―――――捕縛理由・・傷害
―――――No.J-025540 種別・・吸血鬼
―――――補足・・〝憤怒〟下位
―――――捕縛理由・・任務妨害
けれど、資料のリスト内容はそれだけではなく。
他にも、処理リスト、手配リストなどがあり。
「―――――!」
―――――ベルキアとシャムロックさん!?
真昼が手にしていた資料から、ひらっと落ちた写真を拾い上げた瑠璃は驚愕に目を見開いてしまう。
そして、真昼もまた―――――
「
呆然とした表情で思考を巡らせる。
―――――だから・・・吸血鬼はC3を嫌ってたのかな・・・?
「・・・・・・瑠璃姉、露木先輩は俺に対して〝椿は逃げた〟って言ったんだ・・・・・・」
「つまり・・・・・・椿はここに〝捕まってた〟可能性があるっていうことなのね」
真昼が漏らした言葉に瑠璃は眉を顰めながら口を開く。
「他にも何か、〝手がかり〟を見つけることが出来たら良いのだけど」
「・・・・・・だけど、あんまり漁るとさすがにまずいのかな」
左手の小脇に最初に見つけたリストを持ちながら真昼は呟いた。
それから床に落ちている資料をなるべく踏まないようにしつつ、瑠璃と二人で奥に向かって歩みを進めた処で―――――
「瑠璃姉、これ何だろ」
「地図に印・・・・・・」
机の上に広げられた地図を真昼が右手に取り、それを瑠璃もまた左側に立ちながら手に取って一緒に覗き込む。
そこで、ふと瑠璃は目を瞠ると、ある事に気づいた。
けれど、それを言葉にするよりも前に―――――
―――――ドン
「わ―――――っ!?」
真昼の右側―――――手元をギリギリ掠める形で一発の銃弾が飛んできたのだ。
けれど、それは寸前の処で発動した瑠璃の『鍵』の力による、防御シールドにより軌道を逸らされていた。
「―――――っ!?」
顔を蒼白にした真昼が叫び声を上げると、瑠璃もまた唖然とした面持ちで目を見開く。
と―――――
「それを置いて、二人ともすぐ部屋から出て下さい」
耳朶に届いた警告に、真昼と瑠璃はそちらを振り返る。
「露木さん・・・・・・」
資料室の開かれた扉の前、そこには硝煙を燻らせる銃口を構えた露木の姿が在った。
瑠璃が名前を呼ぶと、露木は苦い表情を浮かべながら、銃口の照準を真昼に向かって定めたまま、じり・・・とこちらに距離を詰めようとしてくる。
「早・・・く」
けれど、その直後―――――床に散らばった資料を踏みつけたことにより、すて―――――んと足を滑らせながら後ろに向かって倒れこんでしまい。
ドン―――――と天井に向かって銃弾は発射される事となり。
「うわ―――――!!?」
その光景を目にした真昼は思わずまた叫び声をあげてしまう。
そして瑠璃も驚きに目を見開いていたのだが、
「露木さん・・・・・・!? 大丈夫ですか!?」
「そ・・・そう来ると思って氷のうを準備して・・・」
は―――――は―――――と呻きつつ、体を起こした露木はどこからともなく氷のう袋を取り出してきた為。
露木の傍に瑠璃は近づくと「露木さん、貸して下さい」と言って氷のうの袋を取り上げて、そのまま傍らに膝を付きながら後頭部に乗せると。
露木の起こした行動により肝を冷やす羽目になってしまった真昼は、ドキドキと心臓が音を立てるのを感じつつ、不運キャラなんだから銃とかやめたほうが・・・!! あぶなすぎる!! と突っ込みを入れたのだった。
それから程なくして―――――
「すみません、瑪瑙さん。もう大丈夫ですから・・・・・・」
容態が落ち着いた露木からそう言われた為、瑠璃は氷のうを乗せるのを止めると、
「たんこぶにはなっていないみたいです。良かったですね」
にこりと笑みを浮かべた瑠璃に対し露木は何とも言えない面持ちの表情を見せていたのだが。
「―――――露木さん、この前の爆破事件で爆破されたのはC3の施設だったんですね」
その後、先程目にした地図の件を瑠璃が切り出すと―――――
「・・・おかげで人手不足ですよ。東高校もそう・・・C3の人間が多く潜入していたから。吸血鬼達のSNSが落ちたのも椿の攻撃・・・こちらは後手後手ですよ」
露木は眉を顰めながら皮肉めいた言葉を洩らしたのだ。
それに対して当惑した面持ちで口を開いたのは真昼だった。
「だから・・・俺達の協力が必要だった? 事情があるならそう説明してくれれば・・・」
「我々C3は人外達の抑止力。C3が弱体化したと知られたら・・・」
そんな真昼の言葉に対して露木は焦燥感を滲ませながら反論を返した。
その刹那―――――ず、と得体の知れない巨大な化け物のような黒い影が露木の背後に現れたのだ。
「!! 吸血鬼・・・」
ぞ、と身体を戦慄かせた露木は、すぐさま銃を構えなおすと、振り返りざまに迎撃態勢に入った。
けれど―――――その時にポフと露木の頭に着地したのは一見すれば無害にしか見えない小さな黒猫で。
「!?」
予想だにしていなかった相手の姿に露木が混乱した面持ちで顔を歪めると―――――
「あっ、クロ!」
真昼に名前を呼ばれた黒猫はトッと露木の頭の上から瑠璃の傍らに下り立った時には人型に戻っていたのだ。
「お前・・・うかつなのもほどほどにな。また捕まる気か? もしもの場合は瑠璃のこと連れてオレはすぐ逃げるって言っただろ」
真昼に対して呆れたような口調でクロは言う。
けれど、そんな風に言いつつも銃声を耳にしたからこそ、クロは窮地に陥る前に此方へ駆け付けてくれたのだろう。
「クロ、来てくれてありがとう」
フフッと瑠璃が笑みを零しながらクロを見上げると―――――
「君達は・・・やけに
乱れた思考を制御しようとするかのように、銃を白衣のしたに戻した処で、頭を押さえて沈黙していた露木が苦悩に満ちた言葉を紡ぎ出したのだ。
それを耳にした真昼が呆然とした面持ちで露木に振り返る。
「露木先輩・・・?」
「吸血鬼なんて・・・壊すしかない。本当は椿以外だって・・・」
畏怖と苦悶に顔を歪めながらそう言った露木の瞳は、既にまた冷静さを完全に欠いたもので。
―――――どうして露木さんはそこまで吸血鬼の事を憎んでいるの・・・・・・?
―――――それに〝壊す〟って、御国さんと同じ・・・・・・。
気遣わし気な表情で露木を見た瑠璃の意識の内に、組織に連れて来られた後―――――再びクロの元に瑠璃が辿り着けるように―――――助力をしてくれた御国の事が思い出された。
すると、真昼もまた―――――
「・・・気になってたんだ。御国さんも・・・露木先輩と同じだった。吸血鬼を〝壊す〟っていう。〝殺す〟とは一度も言わないんんだ・・・」
嫉妬の真祖の主人でありながら、吸血鬼を憎悪している、御国のことを口にしたのだ。
その時、御国はまだモニタールームに残っていて、真昼たちの様子を見ていた事により―――――意図せずして話の内容は御国の耳にも入ることとなる。
「先輩は吸血鬼が家でごろごろしながらゲームをしてる様子を見たこと無いだろ。吸血鬼が・・・『嘘をついてごめん』って泣いて後悔したり・・・本当にめんどくさがりなニート吸血鬼が会ったばかりの人間を守るために戦ってくれたりもした! 悪い面以外をたくさんみたんだ。みんな俺の仲間だよ!」
吸血鬼に対する自身の思想を話し終えた処で、クロに向かって振り返りざまにニッと笑みを向けた真昼に続いて―――――
「露木さん、吸血鬼も誰かの為に、何かを守ろうと行動する時もあれば、傷つけてしまうこともある。そして誰かの事を想って一喜一憂する時もある。その二面性は人と同じなんですよ。だから私は吸血鬼に出逢った事も、魅入られて〝ミストレス〟になった事も後悔なんて一切してません。みんな私にとって『大切な人』ですから!」
瑠璃もまた静かな声でそう言い切ると。微かに戸惑いの色を浮かべながら此方を見ていたクロにふわりと微笑みを向けたのだ。
「先輩も・・・普通に困ってるって話してくれたらよかった。人でも吸血鬼でも守りたいとか助けたいって思うことに理由はないから」
その後、露木に対して真昼が再び、正直な胸の内を伝えると―――――
「・・・C3が弱体化していると知れれば人間と人外とのバランスが崩れます。椿たちに大打撃を与えられてしまったから助けてくれとそう君達に言ったとして。他の吸血鬼の誰かがC3を襲撃しないと保証できますか」
今度は露木もつとめて冷静な口調で応えながら、トンと壁に背中を寄りかからせつつ、立とうとしたのだが、
「・・・そうそう見せられるものではないんですよ・・・弱みというのは・・・」
張り詰めていた緊張の糸が途切れたようで露木の身体は床に座り込んでしまう。
さらにそのまま、ずる・・・と左側に倒れこみそうになった自身の身体を反射的に露木が左手で支えると、眼鏡が外れて素顔が露わになったのだが、眉間だけは変わらず顰められたままで。
そんな露木を真昼は真っ直ぐに見据えると決然たる口調で宣言する。
「吸血鬼とかC3とかの・・・事情は俺にはよくわからないけど。ただシンプルにっ傷付く人が出ないようにまるごと守って一緒に立ち向かうだけだ!」
結果、露木は顰め面から一転して呆然とした面持ちになっていた。
完全に気の抜けた露木の顔は、やはり真昼と同年代の少年のように見える。
「―――――露木さん、真昼君なら大丈夫ですよ。だからまずは、クロの事も信じて貰えませんか? 吸血鬼も―――――変わるんですよ」
そんな露木に対して、瑠璃は柔らかな微笑を浮かべながら言うと、
―――――吸血鬼が・・・
―――――吸血鬼がC3を守る・・・?
ぼんやりとした面持ちで露木は真昼と話をしているクロに視線を向けていく。
真昼のシンプル宣言に、お前・・・それはシンプルっつーかゴリ押しと言います・・・とそろりと言ったクロに、とか言って最近クロあんまり嫌がらなくなった気がする!と真昼は徐に言い返す。
するとクロはまた姿を猫に変えて、全力で嫌がっているのだというアピールを始めたのだが―――――
「かわいいにゃー」
そこに溶接面を付けた彼女がやって来て、わしゃっと黒猫の頭とお腹を撫で始めたのだ。
「誰!?」
真昼が思わず驚きの声を洩らすも、撫でられている黒猫自身は彼女に対して特に警戒する素振りを見せることはなく。
「女子をところかまわず引きよせるオレのかわいさ・・・」
「自分で言うな!!」
にゃ―――――~と愛嬌を振りまいて見せる黒猫に真昼が突っ込みを入れる。
「ちょ・・・それ吸血鬼・・・」
そして露木もまた、同僚の彼女の目を疑うような行動に、左手で眼鏡を掛け直した処で、唖然とした面持ちのまま手を止めてしまったのだが。
「ふふっ、もうクロったらしかたがないわね」
ふと、愛しむような口調でそう漏らした瑠璃に露木は視線を向けると、
「―――――・・・・・・あの吸血鬼が変わったというのなら、それは城田真昼くんの影響だけでなく、〝ミストレス〟である瑪瑙瑠璃さんと出逢ったからこそなのかもしれませんね」
嘆息しながら呟くようにそう言ったのだ。
そして心中で―――――
―――――そんな貴女を見ていると、どう備えたら良いのか。
―――――俺は判らなくなる時がありますよ。
自身の心の中に浮かんできた感情を誤魔化そうとするかのように、露木はまた眼鏡のフレームに指先で触れる仕草をすると。
「露木さん?」
「・・・こちらの常識やルールは通用しそうにないんですね・・・」
きょとんとした面持ちになった瑠璃に応える事はせず、露木はチラリと再び真昼たちを一瞥しながらそう言うと。首から下げていた社員証を壁に埋め込まれた電子端末にかざしていく。
するとピピと電子音が鳴るのと同時にすいんっと壁に線が浮かび上がり、そこに隠されていた扉が解錠されたのだ。
「わっ」
「どうぞ1階まで上がって下さい」
カベが開いたっ、と目を瞠った真昼に「エレベーターです」と露木は告げてくる。
瑠璃が利用した隠し通路の階段も、恐らくはこの手段を用いて由利の手で解錠されたモノだったのだろう。
「ありがとうございます、露木さん」
黒猫を腕の中に抱き上げた瑠璃が露木に礼を言うと、
「あの祭りの日、C3として君達に接触する予定でした。でも・・・
露木は真昼から問われた際に話さなかった答を訥々と語り出す。
「あの日あの場所に傲慢の真祖が来るとは思わなかったんです。傲慢の真祖は下位の数が多いですから・・・その情報網で椿達の動向を知ったのかもしれません。傲慢の真祖は我々C3に対して否定的です。C3の弱体化を知られて付け込まれでもしたら困る・・・だから動けなかった」
その結果の備えとして、組織の人間としての立場上、〝強硬手段〟を選択するしかなかった。
露木の話の答はそう云う事なのだろう。
けれど―――――
「みんな・・・椿を止めたいだけなのにお互いに疑いあって動けなくなるのは何だか嫌だな・・・」
真昼が沈痛の面持ちで漏らした言葉に瑠璃も同意を示しながら言葉を紡ぎ出す。
「そうね。まずはどちらかが信じなければ始まらないのよ・・・・・・」
―――――だから私は・・・・・・
そっと瑠璃が目を伏せると、右手を握りしめた真昼は露木に向かって再び口を開いた。
「・・・あの、先輩・・・後で椿のこととか何か情報があったらくれませんか?」
「えっ?」
「C3としてじゃなくて・・・先輩個人として俺と瑠璃姉に話して良いって思ったら!」
当惑の面持ちになった露木に真昼は笑顔で言う。
それに対し、露木は一瞬、視線を俯けると驚いた様子で目を見開いたのだが、
「・・・・・・君は不思議だ。それに彼女も。気を抜くと・・・何の備えも無しに信用してしまいそうになる」
数秒後にまた顔を上げると、真昼と黒猫を腕に抱いた瑠璃に向かって、ポツリとそんな言葉を洩らしたのだった。
そして真昼と瑠璃がエレベーターに乗り込もうとした時―――――
「城田・・・まひるくん? それと・・・・・・瑪瑙瑠璃さん」
此方に背を向けて距離を取った露木と入れ替わる形で、溶接面を付けた彼女が近づいてきたのだ。
「えっと・・・」
真昼は彼女とはつい先程、顔を会わせたばかりである為に面識はないに等しい。
「あ。私はろきくん・・・露木くんの同僚みたいなものでして」
戸惑いの声を洩らした真昼に、彼女は自身の立場を明かす。
いろいろごめんねと、それから謝罪を口にした彼女は、瑠璃に此方に到着した時点で没収となっていたスマホを差し出すと、こそと声を潜めながら告げてくる。
「ろきくんのお父さんも・・・C3の人でね。お父さんは昔、吸血鬼に殺されちゃったの。だからたぶんろきくんは吸血鬼を許せないよ」
―――――露木が吸血鬼を憎む理由。
―――――それは『大切な家族』を吸血鬼によって奪われてしまったから。
思いも及ばなかった真実に真昼と瑠璃は茫然とした面持ちになってしまう。
しかし、その事を告白した彼女は、ふと微笑みを浮かべると―――――
「・・・でも
彼女が口にした言葉に、真昼は気付かされた事柄があり、目を瞠っていた。
そして瑠璃もまた、心の中にまで響いた彼女の言葉に、ゆっくりと目を瞬かせると、
「ねぇ、良ければ貴女の名前を教えて貰えないかしら?」
彼女に対してそう言葉を紡ぎ出したのだ。
此方の事を彼女は、名前も含めて、恐らくは組織の情報で、多少は知っているだろう。
けれど、瑠璃は何も彼女のことを知らない。
だからこそ―――――
これから少しずつ、露木を始めとして、C3という組織と向き合っていくためにも、知りたいと思っている。
そんな瑠璃の想いを彼女もまた感じ取ったのだろう。
「私はイズナ・ノーベルだよ」
「教えてくれてありがとう、イズナちゃん。私は瑪瑙瑠璃です。よろしくね」
にこと笑みを浮かべた彼女に瑠璃もまたふんわりと微笑を零すと、どちらからともなく差し出しあった手を握り合い、握手を交わしたのだ。
そして―――――
「それじゃあ―――――またね、瑠璃ちゃん」
笑みを浮かべたイズナに見送られ、真昼と共に腕の中から肩に移動した黒猫を連れてエレベーターに乗り込むと、
「クロ・・・瑠璃姉・・・・・・さっき俺・・・助けたいと思うことに理由なんかないって言ったけど。たぶん嫌ったり傷つけたりすることには理由があるんだ。でもそれはちゃんと向き合っていかないとわかんないんだな」
真昼は視線を上に向けながら、先程のイズナの言葉で、実感した思いを静かな声音でそう言いながら紡ぎ出し。
「これだけの騒ぎを起こしてるんだ。椿にもきっと何か理由がある。俺は椿の〝理由〟が知りたい!」
エレベーターが地上に到着するその少し手前で、具現化させた武器であるホウキに真昼は足を乗せると、右手で掴んでバランスを取りながら、瑠璃に向かって左手を差し出しつつ、そう言ったのだ。
「そうね、椿にも〝理由〟があるのよね・・・・・・」
瑠璃もまた、真昼の手を取って箒に腰を下ろすと、ポツリと同意する言葉を洩らした。
そうして、二人を乗せた箒はそのまま勢いよくエレベーターから飛び出していくかと思われたのだが。
残念ながら、箒は主の想いを汲み取ることはせず―――――
「わ―――――~っ」
「きゃ―――――っ」
そのまま真昼は箒から振り落とされることになり、瑠璃は地面に身体をぶつける前に、人型に戻ったクロに腕を掴まれた事により、難を逃れたのだった。
それから周囲を見回した処で気づいたのだが、エレベーターの出口はどうやら近くの駅に通じていたもののようで。
けれど地下に降りるボタンは存在しないことから、どうやら拠点に入る為の出入り口は巧妙に隠されているようだった。
そうして―――――
起き上がった処でそれに気づいた真昼に、
「大丈夫、真昼君?」
瑠璃が声を掛けると、
「うん。あのさ瑠璃姉、露木先輩達、C3も大変な状況だってわかったんだし俺達にできることから・・・まずは動いていかなきゃな」
真昼は右手を握りしめながら、そんな決意の想いをまた言葉にしたのだった。
19/6/28 掲載
