第九章『俺は大人、ここは社会』
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「お前がうかつなせいでさんざんだ・・・。さっさと帰って・・・」
「いや。まだ帰らない! さっき露木先輩と話をして俺・・・・・・いくつか気になることがある・・・!」
腕の中に抱いていた瑠璃がそっと地に足を着けたところで、溜息を洩らすとそのまま踵を返しかけたクロに対し、真昼は真剣な眼差しで言い返す。
「それならフロアの〝案内板〟をまずは見つけないといけないわね」
そして真昼の言葉にすぐさま瑠璃も同意を示したのだが、しかしクロは例に漏れず「オレはない」と言った事から、
「何かくらい聞けよ!! 瑠璃姉にこれ以上、負担を掛けない為にも出口を捜す必要があるだろ!! 動け!!」
「それは一理あるが・・・・・・いまはムリ、向き合えね―――――・・・」
床に伏した状態からクロはずるずるずると真昼にジャケットの裾を掴まれて引きずられていく事となるのだった。
そうして、なんとか〝案内板〟的なモノを見つけることが出来たのだが―――――
「地下のはずなのに上への階段がない!!」
記載されている案内の内容は、このフロアに何が在るのかという表記のみで。
「どーなってんだよ。このC3の拠点ってやつは!!」
「・・・・・・多分、隠し通路がどこかにあると思うのだけど」
天井を壊していくしかね―――――の?! と頭を抱えて呻く真昼に瑠璃は眉根を寄せながら言う。
此処に来る前、クロが居るフロアに行く為に、瑠璃は由利が開けてくれた隠し通路を通って来た。
普通に他のフロアに移動する為の通路が在るのだとすれば、おそらく由利はそちらを教えてくれたはずだ。
「リタイアボタンどこだ」
「脱出ゲームじゃねーから!!」
隠し通路があるのならそれもあるだろうとクロが漏らした言葉に対し、すぐさま真昼は突っ込みを返す。
それから真昼は、ふと眉根を寄せると―――――
「ケータイ落としたみたいで時間もわかんないんだよな。瑠璃姉はケータイ手元にある?」
「ううん。残念ながら組織の中に連れて来られた時点で没収をされてしまったから・・・・・・。ただ時間に関しては昨日ここに連れて来られた時間帯から考えると、一夜は間違いなく明けてると思うのだけど」
「そうだよな・・・・・・そうすると今は次の日の昼間か・・・・・・?」
瑠璃の言葉に真昼は、う―――――ん・・・と唸りながら両手を使って指で時間の計算を行った処で。
「あっ! 時間といえば吸血鬼と主人が離れて時間が経つとどうなるんだよ!?」
ちゃんときいてなかったよ! と真昼はクロに問いを投げかけたのだ。
それにより、やはり自分が危惧したとおり限界距離の範囲外にいた間に、真昼の身には危険が迫っていたのだと察した瑠璃は、
「あ―――――・・・めんどくせ・・・」
「クロ、私もまだその話は聞いていなかったから。ちゃんと教えて貰える?」
常と変わらぬ態度でぼやいたクロを瑠璃はジッと見つめながら言うと。
「離れて6時間で主人の体に異常が出る」
「ああ! 出たよ! なんか体が動かしにくくなって・・・」
それにより漸く、主従契約契約を交わした者同士が限界距離を外れた場合どうなるのかの確認が始まったのだが。
「手足のしびれ。動機・息切れ・吐き気やめまい・・・頭痛・腹痛・目の乾きやお肌の乾燥・・・」
最初の説明においてのポイントとなる〝異常〟という症例には当てはまらない項目もあったようで。
「お前それテキトーに言ってねぇ?」
真昼はクロを睨みつつ突っ込みを入れると―――――
「離れたままで18時間経過するとお前もオレも猫になる」
「え―――――!? 俺も!?」
「そんで離れて24時間で死ぬ感じかな・・・」
その後にさらりと告げられた内容に関しては、真実の事なのだろうと、直感的に理解した真昼の頬を冷や汗が滑り落ちた。
一方、瑠璃もまた胸元にある『鍵』を右手で握りしめると、キュッと口を引き結んで俯いてしまう。
もしも、あの部屋からあのまま出ることが出来ず、クロと真昼が離れたままになっていたとしたら―――――
―――――『大切な人たち』を私は〝間違った選択〟の所為で・・・・・・
―――――失ってしまっていたかもしれない
「は―――――あぶなかったな―――――・・・。そーゆーことはちゃんと先に教えとけよ!」
首筋を右手で摩る仕草をしながら、俯いた瑠璃の姿を視界の端に捉えた真昼は、眉を顰めながら微かに咎めるような眼差しでクロを見据えて言った。
「他には? 俺だけじゃなくて、瑠璃姉にも言ってないこととかあるか? あるなら今、話してくれよ!」
するとクロはバツが悪そうな面持ちで視線を真昼から逸らし、
「話してねーことはけっこ―――――ある・・・」
重い口調でそう言ったのだが。
「・・・でも、たぶん話さねぇ」
その後にクロの口から出たのは拒絶とも取れる言葉で。
「えっ・・・!?」
思わず真昼が困惑の声を上げると、瑠璃もまた耳朶に届いたクロの言葉に、何とも言えない面持ちのまま視線を上げる。
「・・・・・・」
ふと、〝迷い〟と〝葛藤〟の感情が混ざり合った真紅の瞳と視線が合った。
が、それは僅かな間の事で視線は逸らされてしまう。
「話すとお前と瑠璃はもっと吸血鬼 のことに首を突っ込むだろ・・・。それは死ぬほどめんどくせぇ・・・」
クロが口にする『めんどくせー』という言葉は、〝そのままの意味〟である時もあるけれど、時折〝違う想い〟がそこに含まれている事もある。
―――――自身に対する〝皮肉〟の場合と、自身の胸の奥に在る〝本心〟を誤魔化すときだ。
クロから告げられた言葉に、ゆっくりと真昼は目を瞬かせると聞き返す。
「・・・シンプルに言うと俺と瑠璃姉を巻き込むことになるから話せないってこと?」
するとクロは、好意的に解釈し過ぎだ、めんどくせぇんだよと、それをまた否定する言葉をふぁ―――――~と欠伸をしながら口にしたのだが。
クロとのやり取りを通じて真昼は―――――以前、友人であった桜哉と敵として対峙することになった時、真実を告げなかった事を責められた際に自身が口にした言葉を思い出していた。
そうして俯き加減の状態になっていた視線を真昼は上げると瑠璃のほうに振り返り。
―――――瑠璃姉はどうしたい?
そう目で尋ねかけてきた真昼に対し瑠璃は自身の胸の内にある想いを確認する為にクロのほうに瞳を向けていく。
―――――私は・・・・・・
C3という組織がどういうモノなのか、まだ全貌を理解できたわけではない。
分かったのは、人と人外の『共存』を掲げているのにも拘らず、それが〝全て〟ではないという点だけだ。
そんな組織から過去にクロ達が受けた〝命令〟―――――〝あやまち〟―――――というのはもしかしたらそれに〝関係〟していることなのかもしれない。
けれど―――――クロと〝向き合っていきたい〟という〝想い〟は、それでも変わらずに、今も胸の内に揺らぐことなく存在している。
だからこそ―――――
「クロ。貴方が話せないというのなら、今は真昼君と私は何も聞かないわ」
―――――いまはクロのその〝想い〟を受け入れるという選択を私はする。
微笑みながらそう瑠璃が言うと、
「そうだな。巻き込みたくないから今は話せないってのはシンプルな信念じゃん」
再びクロに視線を向けた真昼も、俺もその気持ちは分かるよと言葉を紡ぎ出し、
「―――――でもさ、俺はクロの相棒で。瑠璃姉も一緒なんだ。だからクロがなんか悩んだり困ったりするなら協力したいからさ。それは忘れんなよ!」
さらに屈託のない笑顔でそう言ったのだ。
すると、クロはきまりが悪そうな面持ちで固まってしまったのだが―――――。
「向き合えね―――――・・・」
やがてそう漏らすと同時に、黒猫の姿に変わってしまい。
めんど―――――~にゃ―――――~んと言いながら暫しの間、床を転がっていたのだ。
けれど、恐らくこれは心の奥底に生まれた喜悦の感情を誤魔化す為の行動なのだろう。
てめぇ・・・と真昼が眉を顰めた一方で瑠璃は微苦笑を零す。
と―――――
「とにかく! まず出口は捜さなきゃなんないけど・・・俺が気になってることのひとつが〝椿が昔C3 にいた〟って露木先輩が言ってたことなんだ」
「・・・椿がC3に・・・?」
クロが当惑した面持ちで真昼を見る。
瑠璃もまた、予想だにしていなかったその情報に目を見開くも、
「・・・・・・それじゃあ、C3には椿に関する情報が保管されている可能性があるってことなのね」
「瑠璃姉の云う通りだと思う。さっきの案内板、この階のほとんどの部屋が〝資料室〟だった。だから椿のことがわかれば―――――椿が『なにをしようとしてるのか』に近づける気がするんだ」
瑠璃が漏らした言葉に真昼は頷き、自身の思いを口にする。
そして―――――
「じゃあクロは出口捜して! 俺はちょっと瑠璃姉と一緒に資料室っての入れるか見てまわるよ」
二手に分かれて行動をする事を真昼が提案すると、
「・・・・・・なんかあったら大声で騒げよ」
気乗りしない表情ではあったものの、クロは珍しく気を遣うかのような言葉を口にしたのだが。
「え、おう」と真昼が目を瞬かせながら頷くと、
「もしもの場合は瑠璃のこと連れてオレはすぐ逃げるからよ」
「俺の事は助けに来る気ねーのかよ!!」
踵を返しながらいつも通りの態度でそう言ったクロに真昼は薄情者!!と突っ込みを返した処で。
「クロこそ何かあったら呼べよ!! 俺は瑠璃姉と一緒にすぐ行くからな!!」
「クロ。また後でね」
眉を顰めながらもそう言った真昼に続いて瑠璃も微苦笑を零しながらクロにそう声を掛けたのだ。
―――――てってって。
真昼と瑠璃と別れて歩き出した処で、ふとクロの陰の中から小さな黒い存在が姿を覗かせた。
―――――あ~~~~~~あ。浮かれちゃってなんて無様
―――――瑠璃と真昼の言葉は心地いいねクロ
―――――でもC3 はいろいろ思い出しちゃう
目を見開き、後ろをチラリと振り返ったクロの瞳に映ったのは、自身の中に存在している猫のような姿をした奇妙なぬいぐるみ『力』の姿だった。
『力』はくすと嗤いながらクロに語り掛けてくる。
―――――真昼があのこと を知っちゃったらどうしよう?
―――――それでも変わらず君を信じてくれるかな?
―――――勿論、瑠璃には話さないよ?
―――――だけど不安だね? 迷っちゃうね?
―――――真昼は力を使い始めてるよ
―――――ハッピーバースデー♪
―――――逆にキミの言動はムジュンばっかり!
―――――背中を押したり、引き止めたり
―――――無様に迷ってる!
・・・っせぇ・・・とクロは眉間を顰めながら小さく吐き捨てるも、『力』は気にした様子もなく。
くすくすくす―――――とまた嗤いながら嘲るように語り掛けてくる。
―――――瑠璃も少しずつ〝ミストレス〟として覚醒を始めている
―――――そんな瑠璃に他の誰かがちょっかいを出したら苛立つくせに
―――――キミは瑠璃との『契約』を躊躇ったままでいる
―――――挙句にC3にまで瑠璃の事を利用されそうになっちゃうなんて
―――――ねぇ、せっかくC3の内部にいるんだしこの際だから壊しちゃうとかドオ?
―――――だってボクらはC3なんて大嫌いだもんね
資料室の扉がある通路に瑠璃とともにやって来た真昼はガチャガチャと順にドアノブに手を掛けながら進んで行く。
椿がC3にいたのだと露木から言われたものの、真昼はC3がどのような場所なのか全く把握が出来ていない。
だから椿がC3の一員だったということなのか、それとも他の理由があってのことだったのか。
もう少しそれぞれがどんな関係なのかわかればいいのだが―――――。
は―――――と深い溜息を真昼は吐き出すと、
「瑠璃姉・・・・・・そっちはどう?」
「・・・・・・残念ながら、いまの処は入れそうな部屋はないみたいね」
ガチャガチャと反対側の通路にて資料室の扉のチェックをしてきた瑠璃は眉を下げながら答える。
すると真昼はまた、はーと溜息を洩らしながら、
「やっぱどこも鍵がかかってんだよなー。入れる部屋なんてない・・・」
新たな扉のドアノブに手を掛けた瞬間。
―――――ガチャッ
という音とともに内側に向かって開いた扉に、身体をつられる形で資料室の中に真昼はバランスを崩して倒れこんでいってしまったのだ。
「えっ? 真昼君!?」
その光景を目にした瑠璃は、一瞬、驚きに目を見開いた後に、慌てて真昼が開いた扉の側に向かって走り寄る。
部屋の中にうつぶせの状態で転倒してしまった真昼は、いて・・・と呻きつつ言う。
「・・・瑠璃姉、あったよ」
「とりあえず、真昼君。起きられそう?」
そんな真昼を瑠璃は心配そうな面持ちで見つめながら尋ねかける。
「うん、大丈夫だけど・・・・・・」
むくりと真昼が起き上がった処で、瑠璃もまた部屋の中に一歩足を踏み入れたのだが―――――。
「ここだけ、棚でも倒れたのかしら。凄い資料が散らかってるわね・・・・・・」
資料室の床一面には膨大な量の資料が散乱している状態だったのだ。
視線を瑠璃が巡らせていると、真昼の近くでバサッと床にあった資料の束の中の一冊が崩れ落ちて広がった。
その資料には写真が添付されており、何気なくそれを拾い上げた真昼は呆然と目を見開いてしまう。
「・・・・・・? これって・・・」
―――――カツカツカツカツカツカツ
床を蹴るようにしながら足早に靴音を響かせつつ、白衣を纏った青年が通路を歩いていく。
「城田真昼は!」
青年の目的の場所は、組織内の監視設備があるモニタールームで。
そこには溶接面を付けた彼女と由利の姿が在り―――――
「あ、ろきくん」
回転イスに膝を立てて座りながら、真昼たちの様子を見ていた彼女が部屋の中にばっと飛び込んできた青年の名前を呼ぶ。
「露木です」
するとすかさず、〝ろき〟と呼ばれた青年―――――〝露木〟は名前の訂正を行い。
「〝怠惰〟と瑪瑙瑠璃さんも逃がしたんですか」
真昼と共にモニターに映っていた、クロと瑠璃の姿も確認した露木は、顔を顰めながら言う。
「瑪瑙瑠璃さんのほうは由利さんに任せていたのですが・・・・・・。エレベーターは隠したままですよね」
「えぇ。瑪瑙さんには〝怠惰〟が居たフロアに繋がる隠し通路の階段を通って貰っただけよ」
微かに咎めるような視線を向けてきた露木に対して由利は冷静な態度で告げる。
と―――――
「ねぇ・・・ろきくん。そんな無理 しなくても説得に失敗したってことで返しても良いんじゃないかな・・・」
それに続くように、彼女もまた静かな声音で露木にそう言葉を掛けてきたのだ。
「何を・・・」
「なんか・・・違ったよ。〝怠惰〟の様子・・・聞いてたのとちょっと違った」
怪訝そうに眉を顰めた露木に彼女は淡々とした口調で言う。
そんな彼女に対し露木は何と言葉を返すべきか思考を巡らせようとしたのだが。
「やっぱり子供相手だと行動が読みづらくてうまくいかないねぇ。そう思わない? アベル」
その刹那、耳朶に届いた聞き覚えのある軽薄そうな声に、露木は驚愕した様子で一瞬、思考を停止させてしまう。
それから数秒の後に露木は眉間に皺を寄せながら背後を振り返ると、
「・・・どうしてこの人がここにいるんです・・・」
モニタールーム出入り口。そのすぐ左手側に、カーボーイスタイルでスカーフを巻いた首周りに蛇を纏わりつかせ、左手に女の子の人形を抱いて壁に寄りかかるようにして立つ男の姿が在り。その傍らには男の荷物であろう巨大なリュックサックが置かれていたのだ。
19/6/28掲載
「いや。まだ帰らない! さっき露木先輩と話をして俺・・・・・・いくつか気になることがある・・・!」
腕の中に抱いていた瑠璃がそっと地に足を着けたところで、溜息を洩らすとそのまま踵を返しかけたクロに対し、真昼は真剣な眼差しで言い返す。
「それならフロアの〝案内板〟をまずは見つけないといけないわね」
そして真昼の言葉にすぐさま瑠璃も同意を示したのだが、しかしクロは例に漏れず「オレはない」と言った事から、
「何かくらい聞けよ!! 瑠璃姉にこれ以上、負担を掛けない為にも出口を捜す必要があるだろ!! 動け!!」
「それは一理あるが・・・・・・いまはムリ、向き合えね―――――・・・」
床に伏した状態からクロはずるずるずると真昼にジャケットの裾を掴まれて引きずられていく事となるのだった。
そうして、なんとか〝案内板〟的なモノを見つけることが出来たのだが―――――
「地下のはずなのに上への階段がない!!」
記載されている案内の内容は、このフロアに何が在るのかという表記のみで。
「どーなってんだよ。このC3の拠点ってやつは!!」
「・・・・・・多分、隠し通路がどこかにあると思うのだけど」
天井を壊していくしかね―――――の?! と頭を抱えて呻く真昼に瑠璃は眉根を寄せながら言う。
此処に来る前、クロが居るフロアに行く為に、瑠璃は由利が開けてくれた隠し通路を通って来た。
普通に他のフロアに移動する為の通路が在るのだとすれば、おそらく由利はそちらを教えてくれたはずだ。
「リタイアボタンどこだ」
「脱出ゲームじゃねーから!!」
隠し通路があるのならそれもあるだろうとクロが漏らした言葉に対し、すぐさま真昼は突っ込みを返す。
それから真昼は、ふと眉根を寄せると―――――
「ケータイ落としたみたいで時間もわかんないんだよな。瑠璃姉はケータイ手元にある?」
「ううん。残念ながら組織の中に連れて来られた時点で没収をされてしまったから・・・・・・。ただ時間に関しては昨日ここに連れて来られた時間帯から考えると、一夜は間違いなく明けてると思うのだけど」
「そうだよな・・・・・・そうすると今は次の日の昼間か・・・・・・?」
瑠璃の言葉に真昼は、う―――――ん・・・と唸りながら両手を使って指で時間の計算を行った処で。
「あっ! 時間といえば吸血鬼と主人が離れて時間が経つとどうなるんだよ!?」
ちゃんときいてなかったよ! と真昼はクロに問いを投げかけたのだ。
それにより、やはり自分が危惧したとおり限界距離の範囲外にいた間に、真昼の身には危険が迫っていたのだと察した瑠璃は、
「あ―――――・・・めんどくせ・・・」
「クロ、私もまだその話は聞いていなかったから。ちゃんと教えて貰える?」
常と変わらぬ態度でぼやいたクロを瑠璃はジッと見つめながら言うと。
「離れて6時間で主人の体に異常が出る」
「ああ! 出たよ! なんか体が動かしにくくなって・・・」
それにより漸く、主従契約契約を交わした者同士が限界距離を外れた場合どうなるのかの確認が始まったのだが。
「手足のしびれ。動機・息切れ・吐き気やめまい・・・頭痛・腹痛・目の乾きやお肌の乾燥・・・」
最初の説明においてのポイントとなる〝異常〟という症例には当てはまらない項目もあったようで。
「お前それテキトーに言ってねぇ?」
真昼はクロを睨みつつ突っ込みを入れると―――――
「離れたままで18時間経過するとお前もオレも猫になる」
「え―――――!? 俺も!?」
「そんで離れて24時間で死ぬ感じかな・・・」
その後にさらりと告げられた内容に関しては、真実の事なのだろうと、直感的に理解した真昼の頬を冷や汗が滑り落ちた。
一方、瑠璃もまた胸元にある『鍵』を右手で握りしめると、キュッと口を引き結んで俯いてしまう。
もしも、あの部屋からあのまま出ることが出来ず、クロと真昼が離れたままになっていたとしたら―――――
―――――『大切な人たち』を私は〝間違った選択〟の所為で・・・・・・
―――――失ってしまっていたかもしれない
「は―――――あぶなかったな―――――・・・。そーゆーことはちゃんと先に教えとけよ!」
首筋を右手で摩る仕草をしながら、俯いた瑠璃の姿を視界の端に捉えた真昼は、眉を顰めながら微かに咎めるような眼差しでクロを見据えて言った。
「他には? 俺だけじゃなくて、瑠璃姉にも言ってないこととかあるか? あるなら今、話してくれよ!」
するとクロはバツが悪そうな面持ちで視線を真昼から逸らし、
「話してねーことはけっこ―――――ある・・・」
重い口調でそう言ったのだが。
「・・・でも、たぶん話さねぇ」
その後にクロの口から出たのは拒絶とも取れる言葉で。
「えっ・・・!?」
思わず真昼が困惑の声を上げると、瑠璃もまた耳朶に届いたクロの言葉に、何とも言えない面持ちのまま視線を上げる。
「・・・・・・」
ふと、〝迷い〟と〝葛藤〟の感情が混ざり合った真紅の瞳と視線が合った。
が、それは僅かな間の事で視線は逸らされてしまう。
「話すとお前と瑠璃はもっと
クロが口にする『めんどくせー』という言葉は、〝そのままの意味〟である時もあるけれど、時折〝違う想い〟がそこに含まれている事もある。
―――――自身に対する〝皮肉〟の場合と、自身の胸の奥に在る〝本心〟を誤魔化すときだ。
クロから告げられた言葉に、ゆっくりと真昼は目を瞬かせると聞き返す。
「・・・シンプルに言うと俺と瑠璃姉を巻き込むことになるから話せないってこと?」
するとクロは、好意的に解釈し過ぎだ、めんどくせぇんだよと、それをまた否定する言葉をふぁ―――――~と欠伸をしながら口にしたのだが。
クロとのやり取りを通じて真昼は―――――以前、友人であった桜哉と敵として対峙することになった時、真実を告げなかった事を責められた際に自身が口にした言葉を思い出していた。
そうして俯き加減の状態になっていた視線を真昼は上げると瑠璃のほうに振り返り。
―――――瑠璃姉はどうしたい?
そう目で尋ねかけてきた真昼に対し瑠璃は自身の胸の内にある想いを確認する為にクロのほうに瞳を向けていく。
―――――私は・・・・・・
C3という組織がどういうモノなのか、まだ全貌を理解できたわけではない。
分かったのは、人と人外の『共存』を掲げているのにも拘らず、それが〝全て〟ではないという点だけだ。
そんな組織から過去にクロ達が受けた〝命令〟―――――〝あやまち〟―――――というのはもしかしたらそれに〝関係〟していることなのかもしれない。
けれど―――――クロと〝向き合っていきたい〟という〝想い〟は、それでも変わらずに、今も胸の内に揺らぐことなく存在している。
だからこそ―――――
「クロ。貴方が話せないというのなら、今は真昼君と私は何も聞かないわ」
―――――いまはクロのその〝想い〟を受け入れるという選択を私はする。
微笑みながらそう瑠璃が言うと、
「そうだな。巻き込みたくないから今は話せないってのはシンプルな信念じゃん」
再びクロに視線を向けた真昼も、俺もその気持ちは分かるよと言葉を紡ぎ出し、
「―――――でもさ、俺はクロの相棒で。瑠璃姉も一緒なんだ。だからクロがなんか悩んだり困ったりするなら協力したいからさ。それは忘れんなよ!」
さらに屈託のない笑顔でそう言ったのだ。
すると、クロはきまりが悪そうな面持ちで固まってしまったのだが―――――。
「向き合えね―――――・・・」
やがてそう漏らすと同時に、黒猫の姿に変わってしまい。
めんど―――――~にゃ―――――~んと言いながら暫しの間、床を転がっていたのだ。
けれど、恐らくこれは心の奥底に生まれた喜悦の感情を誤魔化す為の行動なのだろう。
てめぇ・・・と真昼が眉を顰めた一方で瑠璃は微苦笑を零す。
と―――――
「とにかく! まず出口は捜さなきゃなんないけど・・・俺が気になってることのひとつが〝椿が昔
「・・・椿がC3に・・・?」
クロが当惑した面持ちで真昼を見る。
瑠璃もまた、予想だにしていなかったその情報に目を見開くも、
「・・・・・・それじゃあ、C3には椿に関する情報が保管されている可能性があるってことなのね」
「瑠璃姉の云う通りだと思う。さっきの案内板、この階のほとんどの部屋が〝資料室〟だった。だから椿のことがわかれば―――――椿が『なにをしようとしてるのか』に近づける気がするんだ」
瑠璃が漏らした言葉に真昼は頷き、自身の思いを口にする。
そして―――――
「じゃあクロは出口捜して! 俺はちょっと瑠璃姉と一緒に資料室っての入れるか見てまわるよ」
二手に分かれて行動をする事を真昼が提案すると、
「・・・・・・なんかあったら大声で騒げよ」
気乗りしない表情ではあったものの、クロは珍しく気を遣うかのような言葉を口にしたのだが。
「え、おう」と真昼が目を瞬かせながら頷くと、
「もしもの場合は瑠璃のこと連れてオレはすぐ逃げるからよ」
「俺の事は助けに来る気ねーのかよ!!」
踵を返しながらいつも通りの態度でそう言ったクロに真昼は薄情者!!と突っ込みを返した処で。
「クロこそ何かあったら呼べよ!! 俺は瑠璃姉と一緒にすぐ行くからな!!」
「クロ。また後でね」
眉を顰めながらもそう言った真昼に続いて瑠璃も微苦笑を零しながらクロにそう声を掛けたのだ。
―――――てってって。
真昼と瑠璃と別れて歩き出した処で、ふとクロの陰の中から小さな黒い存在が姿を覗かせた。
―――――あ~~~~~~あ。浮かれちゃってなんて無様
―――――瑠璃と真昼の言葉は心地いいねクロ
―――――でも
目を見開き、後ろをチラリと振り返ったクロの瞳に映ったのは、自身の中に存在している猫のような姿をした奇妙なぬいぐるみ『力』の姿だった。
『力』はくすと嗤いながらクロに語り掛けてくる。
―――――真昼が
―――――それでも変わらず君を信じてくれるかな?
―――――勿論、瑠璃には話さないよ?
―――――だけど不安だね? 迷っちゃうね?
―――――真昼は力を使い始めてるよ
―――――ハッピーバースデー♪
―――――逆にキミの言動はムジュンばっかり!
―――――背中を押したり、引き止めたり
―――――無様に迷ってる!
・・・っせぇ・・・とクロは眉間を顰めながら小さく吐き捨てるも、『力』は気にした様子もなく。
くすくすくす―――――とまた嗤いながら嘲るように語り掛けてくる。
―――――瑠璃も少しずつ〝ミストレス〟として覚醒を始めている
―――――そんな瑠璃に他の誰かがちょっかいを出したら苛立つくせに
―――――キミは瑠璃との『契約』を躊躇ったままでいる
―――――挙句にC3にまで瑠璃の事を利用されそうになっちゃうなんて
―――――ねぇ、せっかくC3の内部にいるんだしこの際だから壊しちゃうとかドオ?
―――――だってボクらはC3なんて大嫌いだもんね
資料室の扉がある通路に瑠璃とともにやって来た真昼はガチャガチャと順にドアノブに手を掛けながら進んで行く。
椿がC3にいたのだと露木から言われたものの、真昼はC3がどのような場所なのか全く把握が出来ていない。
だから椿がC3の一員だったということなのか、それとも他の理由があってのことだったのか。
もう少しそれぞれがどんな関係なのかわかればいいのだが―――――。
は―――――と深い溜息を真昼は吐き出すと、
「瑠璃姉・・・・・・そっちはどう?」
「・・・・・・残念ながら、いまの処は入れそうな部屋はないみたいね」
ガチャガチャと反対側の通路にて資料室の扉のチェックをしてきた瑠璃は眉を下げながら答える。
すると真昼はまた、はーと溜息を洩らしながら、
「やっぱどこも鍵がかかってんだよなー。入れる部屋なんてない・・・」
新たな扉のドアノブに手を掛けた瞬間。
―――――ガチャッ
という音とともに内側に向かって開いた扉に、身体をつられる形で資料室の中に真昼はバランスを崩して倒れこんでいってしまったのだ。
「えっ? 真昼君!?」
その光景を目にした瑠璃は、一瞬、驚きに目を見開いた後に、慌てて真昼が開いた扉の側に向かって走り寄る。
部屋の中にうつぶせの状態で転倒してしまった真昼は、いて・・・と呻きつつ言う。
「・・・瑠璃姉、あったよ」
「とりあえず、真昼君。起きられそう?」
そんな真昼を瑠璃は心配そうな面持ちで見つめながら尋ねかける。
「うん、大丈夫だけど・・・・・・」
むくりと真昼が起き上がった処で、瑠璃もまた部屋の中に一歩足を踏み入れたのだが―――――。
「ここだけ、棚でも倒れたのかしら。凄い資料が散らかってるわね・・・・・・」
資料室の床一面には膨大な量の資料が散乱している状態だったのだ。
視線を瑠璃が巡らせていると、真昼の近くでバサッと床にあった資料の束の中の一冊が崩れ落ちて広がった。
その資料には写真が添付されており、何気なくそれを拾い上げた真昼は呆然と目を見開いてしまう。
「・・・・・・? これって・・・」
―――――カツカツカツカツカツカツ
床を蹴るようにしながら足早に靴音を響かせつつ、白衣を纏った青年が通路を歩いていく。
「城田真昼は!」
青年の目的の場所は、組織内の監視設備があるモニタールームで。
そこには溶接面を付けた彼女と由利の姿が在り―――――
「あ、ろきくん」
回転イスに膝を立てて座りながら、真昼たちの様子を見ていた彼女が部屋の中にばっと飛び込んできた青年の名前を呼ぶ。
「露木です」
するとすかさず、〝ろき〟と呼ばれた青年―――――〝露木〟は名前の訂正を行い。
「〝怠惰〟と瑪瑙瑠璃さんも逃がしたんですか」
真昼と共にモニターに映っていた、クロと瑠璃の姿も確認した露木は、顔を顰めながら言う。
「瑪瑙瑠璃さんのほうは由利さんに任せていたのですが・・・・・・。エレベーターは隠したままですよね」
「えぇ。瑪瑙さんには〝怠惰〟が居たフロアに繋がる隠し通路の階段を通って貰っただけよ」
微かに咎めるような視線を向けてきた露木に対して由利は冷静な態度で告げる。
と―――――
「ねぇ・・・ろきくん。そんな
それに続くように、彼女もまた静かな声音で露木にそう言葉を掛けてきたのだ。
「何を・・・」
「なんか・・・違ったよ。〝怠惰〟の様子・・・聞いてたのとちょっと違った」
怪訝そうに眉を顰めた露木に彼女は淡々とした口調で言う。
そんな彼女に対し露木は何と言葉を返すべきか思考を巡らせようとしたのだが。
「やっぱり子供相手だと行動が読みづらくてうまくいかないねぇ。そう思わない? アベル」
その刹那、耳朶に届いた聞き覚えのある軽薄そうな声に、露木は驚愕した様子で一瞬、思考を停止させてしまう。
それから数秒の後に露木は眉間に皺を寄せながら背後を振り返ると、
「・・・どうしてこの人がここにいるんです・・・」
モニタールーム出入り口。そのすぐ左手側に、カーボーイスタイルでスカーフを巻いた首周りに蛇を纏わりつかせ、左手に女の子の人形を抱いて壁に寄りかかるようにして立つ男の姿が在り。その傍らには男の荷物であろう巨大なリュックサックが置かれていたのだ。
19/6/28掲載
