第九章『俺は大人、ここは社会』
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俺は大人、ここは社会
「―――――それじゃあ、これから私たちの組織に貴女には一緒に来て貰う事になるんだけど。内部に入る為の方法とかは、いまはまだ教えることは出来ないから。・・・・・・ごめんね、到着するまでの間だけ、ちょっと目隠しをさせて貰うね」
「・・・・・・わかりました」
溶接面を付けた彼女からそう言われ、移動の為に車に乗せられてから暫くの間、瑠璃の視界は遮られた状態となっていた。
そうして組織内に到着した時点で、すぐさま意識が戻っていないままの状態の真昼とクロは、待機していた組織の他のメンバーたちに、それぞれ異なる場所に連れて行かれてしまい。
目隠しを外された瑠璃もまた、別室に通される事となったのだが―――――。
「どうも、瑪瑙瑠璃さん。先日、学校でお会いして以来ですね」
「ごめんなさいね、瑪瑙さん。本当はこんな形で貴女をこちらに呼ぶ予定じゃなかったんだけど」
そこで対面した白衣を纏った三角眼鏡をかけた青年とふっくらとした体形の壮年女性。
―――――その二人の顔は見知ったものだった。
「露木君と由利さん・・・・・・っ!? なんで、二人が此処に・・・・・・!?」
露木は東高校、生徒会の副会長で。由利は東高校の購買部で働く瑠璃にとっては、その職場の頼りになる先輩という立場に在る存在だった。
それが―――――
「俺達は中立機関『C3』の職員なんですよ。あそこには上からの命令で潜り込んでいたんです」
「〝怠惰〟の吸血鬼と『誓約』を結んだという〝ミストレス〟と、その〝怠惰〟を拾ったっていう高校生の子の様子を見る為だったの」
愕然となった瑠璃に二人は内情を告白する。
「・・・・・・じゃあ、もしかして露木君って本当は高校生じゃなくて・・・・・・」
「はい。22歳の大人ですよ」
確認するように口を開いた瑠璃に、露木は事も無げな口調で頷き返す。
瑠璃自身も童顔である為、学生に間違えられたりすることもある。
なので露木が成人していたと聞かされても驚くべきところではないのだが―――――。
まさか、こんな近くに二人も組織の人間が居たなんて。
―――――どうにも無防備な処があるから―――――
ふと、御国から云われた言葉を瑠璃は思い出す。
「―――――・・・・・・っ」
ギュッと膝の上で瑠璃は両手を握りしめると、二人のほうを見据えて口を開く。
「露木さん。それから、由利さん。私に協力して欲しいことというのはどのような事なんですか?」
―――――いまの私の力は〝戦闘向き〟じゃない。
―――――だけど私にも〝出来ること〟はある。
―――――何があったとしても大切な人たちと一緒に、〝逃げず〟に〝立ち向かうこと〟だ。
瑠璃の瞳に、強い〝想い〟と〝意志〟の色が浮ぶ。
―――――クロと向き合う為にも。
―――――私はまず、この組織の事をきちんと知らなければいけない。
「―――――ッ」
瑠璃の様子が変わったのを感じ取った露木は、思わず目を瞠り、瑠璃を見る。
けれど、ふと由利が微笑ましいモノを見るような眼差しを向けてきたのに気づくと、眼鏡のフレームの縁に右手を添えながら、小さく咳払いを行い。
「瑪瑙瑠璃さん、協力して欲しいことというのは〝ミストレス〟である貴女のデータを取らせて欲しいというものです。これまで〝ミストレス〟の存在は、一度として観測する事が出来なかった。けれど―――――あの〝怠惰〟の真祖が〝ミストレス〟を見つけただけでなく『誓約』まで結んだ。だから貴女は俺達にとっても、とても稀有な存在なんですよ」
露木が話し終えると、由利が瑠璃に向かって告げる。
「―――――城田真昼君と〝怠惰〟の真祖に此方からは一切危害を加えない 。この〝約束〟は守るわ。それから、貴女自身の事を傷つけるつもりも勿論ないから安心してね。データを取ると言っても、一種の『健康診断』みたいなものだから」
―――――瑠璃がそんなやり取りを露木達と交わしていた時。
意識を失った状態で組織内に連れて来られた真昼は何もない場所で、ただ無造作に床に転がされた状態になっていた。
「・・・・・・う・・・っ」
それからどれくらいの時間が経過したのだろうか。
ぼんやりと意識を取り戻した真昼は、徐に身体を起こしたのだが―――――
「ッ!? いって・・・っ、何されたんだ・・・!?」
その直後、首筋に激痛が走るのを感じ、右手を地面に付きながら左手で痛みが走った箇所を押さえつつ、がばっと身体を折り曲げてしまう。
けれど、痛みを堪えつつも状況を把握しようとした真昼は、はっと目を見開くと、直前まで一緒にいたはずの二人の事を思い出す。
「クロ!? 瑠璃姉!? クロと瑠璃姉がいな・・・ってココどこだよ!?」
壁も床も一面真っ白な空間―――――そして目の前には複数の扉。
「ま・・・さか、椿の本拠地につれて来られた・・・とかじゃないよな・・・」
椿の性格的にありうる・・・―――――と真昼の脳裏に最悪の想定が浮ぶ。
そうだとすれば、瑠璃姉はまた椿と一緒に居て、クロのほうは―――――・・・・・・。
瑠璃姉のことを探し回っている真っ最中だったりするのだろうか・・・・・・。
俺、うかつすぎ・・・と顔を青ざめさせつつも、引きつった笑みを浮かべた真昼の耳朶に、
「多少の予定外も含みましたが、まぁ誤差の範囲内です。備えあれば多少憂いあれど問題なし」
聞き覚えのあるフレーズが滑り込んでくる。
目を見開いた真昼は声が聴こえたほうに振り返る。
無数の扉がある部屋の中央―――――そこには白衣の裾を靡かせながら、脚の長い丸椅子に腰かけて読書をする露木の姿が在ったのだ。
呆然とした面持ちになった真昼と本を読むのを止めて振り返ってきた露木の視線が合う。
「えっ・・・!? 露木・・・先輩!?」
「どうも一週間ぶりです。城田真昼くん」
椅子から腰を上げて立ち上がった露木は右手で眼鏡のフレームを摘まみつつ、左手に本を持ちながら、愕然と声を上げた真昼の前に歩み寄って来る。
「・・・やっぱりっ露木先輩も椿の下位吸血鬼・・・」
ばっと顔色を変えた真昼は瞬時に迎え撃てるよう、右手首のリストバンドに左手を触れさせるも、
「いえ、備えは大事ですが今は不要ですよ。俺達は君の味方です」
「・・・味方・・・?」
そんな真昼の行動に対しても露木は表情を変えることなく、淡々とした口調で告げてくる。
「手荒な手段で呼び入れたことは謝ります。こちらはただ君達と〝話〟がしたいだけなんです」
意識を取り戻した真昼が露木からそう言われた時―――――何もない処に転がされていた真昼とは違って、ちゃんとソファーが設置された部屋に通されていた黒猫もまた目を覚まして人型に戻っていた。
けれど―――――
「・・・死ぬほどめんどくせー・・・」
そう呟いたクロの顔に浮かぶのは、起き抜けのものとは異なる、嫌悪を露わにしたもので。
クロの右手には組織の人間から先日無理やり押し付けられた手紙があった。
―――――強制的に連れて来られたこの場所はクロにとっては〝忌まわしいモノ〟でしかない―――――
そして真昼は―――――
「俺達は中立機関『C3』。椿を止めるために協力しませんか?」
露木の口からこの場所が何の為に在るのか、目的は何なのか、話を聞かされることとなる。
地面に座る真昼の目の前には、トレーに載せられた状態で見慣れたファーストフードのハンバーガーとフライドポテトとドリンクが置かれていた。
それは真昼が目覚めた後、露木が用意した食事であり―――――露木もまた最初に座っていたあの丸椅子に腰かけながら、右手には読みかけの本を、左手にはハンバーガーを持って、もくもくと食べ進めていた。
だが、露木が口にしているからといって、果たしてこの食べ物は安全なのだろうか。
眉を顰めて一向に手を伸ばそうとしない真昼の様子を一瞥した露木は言う。
「備えの心は大事ですが・・・すぐそこのモックで買ったものですから毒は入っていませんよ」
「そこってどこの!? ここC3の拠点なんですよね!?」
―――――相変わらず吸血鬼にかかわる人はノリが軽いな!!
真昼は唖然とした面持ちであんぐりと口を開けると、思わずいつもの調子で突っ込みを返してしまう。
けれど、露木は冷静沈着な態度を崩すことはなく、
「俺のおごりです。・・・・・・まぁ経費ですが」
「はぁ・・・」
経費?? と真昼は当惑しつつ頷く。
それから漸く目の前に出されたモノに手を付ける事に決めた処で、一応の礼儀としていただきます・・・と食事の際の合掌をしてからハンバーガーの包みを開いて食べ始めたのだが。
「露木先輩は・・・C3の人なんですか。C3って高校生もいるんですね・・・」
黙って食べるよりも、少しでも話を聞いて情報を集めたい。
何より、この場には居ない、クロと瑠璃姉の事も気がかりだ。
そんな想いから、真昼は露木に向かって口を開いたのだが―――――
「俺のことでしたら高校生ではありませんよ。22歳の大人です」
「え!?」
しかし、露木から返ってきた返答はまたもや、思いも寄らぬもので。
「えっ・・・どういう・・・!?」
6歳も上?! と混乱した面持ちで目を丸く見開いた真昼に露木はしれっとした口調のまま言う。
「君が『姉』と慕う瑪瑙瑠璃さん、彼女だって俺とほとんど歳は変わらないんですから、そう驚く事でもないと思いますが。―――――〝ミストレス〟と、とある高校生に拾われたという〝怠惰〟の吸血鬼の監視の為。潜りこんだだけです。俺なら制服でも違和感が少ないので。そう来ると思って早々に制服も取り寄せてありました」
そうして仲間内から『童顔!』だと指名された時点で、露木は用意を済ませていた制服を着用して東高校、生徒会の副会長として夏休みの前日まで在籍をしていたのだ。
「備えあれば多少憂いあれど問題なし」
眼鏡のフレームの縁に右手を添えながら、左手にコーヒーのカップを持ちつつ、足を組んで座る露木はキリッとした表情で座右の銘ともいえる言葉を口にする。
けれど露木のその発言に対して―――――それはもう備えっていうか予知能力じゃ・・・と思わずそう真昼は漏らしてしまったのだが。
「でも・・・それじゃあ、あの花火大会に俺を呼んだのには、それに瑠璃姉が祭りに参加するようチラシを渡したのには何か意味があったんですか!? あの日の爆破事件のことも何か知って・・・?」
「それ以上は我々の提案を君が受け入れてくれるなら話しましょう」
眉を顰めた真昼に露木は制するような視線を向けると言葉を紡ぎ出す。
その提案内容は―――――
『椿を止めるため我々と協力しましょう』というものだった。
―――――C3の理念の一つは『共存 』。
―――――吸血鬼と人間の平穏な共存のため・・・〝8番目 〟の存在は危険なのだという。
―――――けれど〝8番目 〟の力は大きい。
だからこそ・・・・・・
「君の〝怠惰〟と、〝ミストレス〟として〝怠惰〟と『誓約』を結んでいる―――――瑪瑙瑠璃さんには是非協力して欲しいんですよ」
請う様に紡ぎ出された露木の言葉に、しかし真昼はさらに眉根を寄せてしまう。
―――――『8番目』の件にC3を関わらせるべきではない!―――――
―――――奴らはとにかく利己主義で傲慢な組織じゃ!!―――――
2番目の傲慢の真祖たる、ヒューは真昼にそう言っていた。
―――――どちらの言葉を信じるのが果たして正解なのか。
眉を顰めた真昼は、胡坐をかいていた足元で両手を握り拳にすると、
「俺は・・・C3ってどういう組織なのか全然知らない・・・協力って言われても俺一人じゃ決めらんないよ」
視線を俯けた真昼の脳裏に浮かぶのは相棒と姉の顔。
「・・・クロと瑠璃姉は? 俺と一緒にいたはずだ」
「・・・彼にも今、別室で話をしていますよ。彼女のほうは最初から意識はある状態で同行をして貰いましたので。同じく別室で、身体データを取るのに協力をして貰っています。まぁ、もうすでに終了して休んで頂いている頃合いですが・・・・・・」
「なっ!? 何で瑠璃姉のデータを・・・・・・っ!?」
「先ほども言った通り、彼女は〝ミストレス〟だからですよ。それと強制した訳ではなく、きちんと彼女には〝お願い〟をして協力をして頂きましたから」
ギョッと目を見開いた真昼に露木は言う。
それから眼鏡のフレームにまた露木は右手を添えると、
「しかし・・・〝8番目 〟を止めたいという目的は同じですし迷う理由なんてありますかね・・・」
「でもっ・・・お互いの考えとか知っておかないとっ・・・」
呆れたようにそう漏らした露木に対し、真昼は自身の思いを訴える。
すると―――――
「・・・・・・我々には〝8番目 〟捕縛の責任 があるんです。もともと〝8番目 〟はC3が所持していたサーヴァンプですから」
露木は真昼に対して衝撃の告白を返してきたのだ。
けれど、この話は露木がC3に入る前のもので、あくまでも記録 で読んだだけなのだという。
「彼が逃げ出した のはC3 の不備・・・」
「それって・・・どういうことですか!? 椿は昔C3 にいた・・・!?」
思いも寄らぬ真実に真昼は思わず声を荒げかけるも、露木は平静さを保ったまま、
「・・・この話も君の返事をきいてからです」
「~~~~~~っ何でもかんでもあとで・・・って・・・」
苛立ちを募らせながら唸った真昼に、露木は右手の平を向けながら言う。
「断る理由もないでしょう。〝8番目 〟が暴れすぎなのは君もよく知ってるはず。皆で椿とその下位吸血鬼をすべて 壊す。それ以外に選択肢はありませんよ」
けれど―――――
「・・・壊すって殺すってことですか?」
露木の口から出た『選択肢』を聞いた瞬間、真昼の苛立ちの感情は暗い陰に覆われていく。
吸血鬼と人の共存を掲げているのにも拘らず、椿とその下位はそれらの対象に入らないというのか。
「それじゃあ協力できない。椿の下位吸血鬼に友達がいる。助けるって約束した!」
変わりに沸きあがってきた怒りの感情を真昼は露木に向かってぶつける。
「それに瑠璃姉も、椿達の事を殺すことを望んでない!!」
〝―――――私にとって椿は『大切な家族』よ。だから私は椿のことは〝止めたい〟と思ってる。―――――『大切な家族』に、何も知らない人たちの命を奪って、兄弟で争うなんてして欲しくないから〟
真昼の意識の内に文化祭の日に桜哉と交わしたやり取りの情景と、その前日に瑠璃から聞かされた言葉が浮んでくる。
「・・・・・・綿貫桜哉・・・ですか」
露木はコーヒーのカップに口を付けると、それを飲みながら暫しの間、無言で真昼の顔を見つめた後に、椿の下位吸血鬼であり、真昼と瑠璃の〝友人〟である彼の少年の名前を口にした。
露木の口から桜哉の名前が出た事に真昼は「知って・・・」と驚きの表情を浮かべると、
「調査資料には目を通しています。君と話す上での備えとして」
「それじゃあっ、わかってくれるはず・・・っ」
縋るような面持ちで真昼は叫んだ。
けれど―――――
「子供のワガママのようなことを言いますね」
侮蔑に満ちた眼差しで露木は真昼を見据えると言った。
「俺は大人。C3 は社会。君の個人的な感情に価値はないんですよ。そして、彼女―――――瑪瑙瑠璃さんの考え方も、俺にとっては綺麗事にしか思えませんね」
露木の言葉を聞いた刹那、愕然とした表情になった真昼は奥歯を噛みしめながら、彼の顔を見つめていた。
「何が・・・大人ですか。ブラックコーヒー、カッコ良く飲んで正論言ったら大人ですか・・・!」
そして自分の想いだけでなく、瑠璃の想いまでも否定した露木に、真昼は身体を戦慄かせると、喉の奥から絞り出すように言葉を紡ぎ出す。
「だったら俺はまだ! オレンジジュースが好きな子供のままでいい!!」
それから真昼は、自分の前にあったジュースのカップを手に取ると、ガッとストローの先を強く噛んでそう宣言した。
そうしてジュースを全て飲み干した処で「ごちそ―――――さまでしたっ!」と憤りながらもきちんと真昼が合掌をすると、
「そうですか・・・わかりました。じゃあお帰りいただいて結構ですよ」
「そうします! それじゃ・・・」
あまりにも露木があっさりと引き下がった為に、真昼もまた反射的にそう言葉を返してしまったのだが。
「・・・え? あの・・・まずクロと瑠璃姉は・・・?」
ふと、我に返った真昼は、そう言われても・・・と困惑した面持ちで露木を見返しながら尋ねかける。
すると―――――
「ただし、君の相棒とお姉さんと出口は自分でみつけてくださいね」
コト・・・とコーヒーのカップを下に置いた露木は椅子から立ち上がると、両手を広げながら冷淡な口調で告げてくる。
「この部屋の52の扉。君の吸血鬼とお姉さんはこのどこかにいますから」
「な・・・!? さっ・・・捜せっていうんですか!? 気配・・・とか・・・?? クロと瑠璃姉はともかく・・・・・・俺とクロはそういうことはできない・・・・・・」
クロは瑠璃と『誓約』を結んでいる事から、何処にいるのかおおよその場所を感じ取ることは出来るらしい。そして瑠璃もまた『鍵』の力を使える状況にあれば、合流することは出来るだろう。
―――――が、二人とは違って真昼には何の手立てもないのだ。
狼狽える真昼に対し、ふと露木はポケットからスマホを取り出すと、
「今、何時だか知ってますか?」
唐突にそんな問いを投げかけてきた。
それは今までの話の流れの中で何の関連性もないように思えるモノだったのだが―――――。
がくん! と突如として真昼の身体は膝から崩れ落ちてしまう。
「―――――!?」
「吸血鬼 と主人 の限界距離のことはご存じで?」
がく・・・っと、身体に力が入らず、両手を地面についてしまった真昼に露木は淡々とした口調で話しかけてくる。
―――――何だ!? 体が・・・っ。
小刻みに震え続ける自身の身体の異変の原因は一体何だというのか。
その答に繋がる記憶を真昼は露木の言葉から思い出す。
―――――そういえばクロが言ってた・・・。
―――――吸血鬼 と主人 は距離が離れすぎると・・・。
―――――まぁ・・・なんかなるぞ―――――
けれど、意図せずして『仮契約』を結んだ時、クロはその答をはっきりと真昼に告げることはしていなかったのだ。
―――――あのっ・・・めんどくさがり~~~ッ。
―――――どうなるんだよッ。
「離れた状態で6時間経過すると異常が現れます」
すると怒り心頭状態の真昼のそれを察したかのように、絶妙のタイミングでまた露木が語り掛けてくる。
「そして24時間で・・・どうなるか知ってますか?」
「知ら・・・ない・・・っ」
その時、両手で身体を支え続けるのも辛くなってきた真昼は地面に俯せの体勢になってしまう。
そんな真昼の傍に露木はゆっくりと歩み寄ると、
「あと17時間58分16秒で体験できますよ」
「・・・・・・これが・・・っ、大人のやり方だって言うんですか・・・っ」
無情な宣告を行った露木を真昼は上目遣いで睨みつける。
―――――が、露木は眉一つ動かすことなく。
はぁ・・・と真昼は少しでも身体が楽になるように息を吐き出すと、
「クロもどっかで・・・同じことに・・・? それに、瑠璃姉も・・・・・・」
―――――瑠璃姉はいつだって、自分の事よりも〝誰か〟を〝優先〟しようとする。
―――――もしも今の俺達の事をまた、〝交渉材料〟に使われたりしたら・・・・・・。
ギュッと右手を握りしめた真昼の心を読んだかのように露木は口を開いた。
「吸血鬼がどうなるのか、それも知らないんですね。彼女のほうは、いまの処は丁重に扱っていますよ。ですが、交渉のカードが増えますね」
「クロと瑠璃姉を返せっ・・・」
「えぇ。君が良い返事をくれればすぐにでも」
真昼の訴えに対し、露木からの返答は変わらず心ないものだったのだが、
「〝武器 〟と〝情報〟はどちらが欠けても意味がない。〝無知〟とは〝絶対的弱者〟と同意なんですよ。だから誰も〝教えて〟くれない。自分の優位を保つために」
ふと、真昼を見下ろすのを止めて腰を落とした露木は両腕を膝の上で組みながらそんな言葉を口にすると。
―――――ばささっ。
「!?」
何処からともなく取り出した複数の文庫本を真昼の頭上に落下させたのだ。
「えっ? 本・・・?」
真昼は右手で頭を押さえながら、何のつもりなのかと、立ち上がった露木を睨み付ける。
「俺は文庫本を読むのに1冊約3時間かかります。そしてここに6冊」
と―――――先程までのやり取りとは全く関係がなさそうな話を始めた露木の手には一冊の文庫本があり。真昼の周囲には5冊の文庫本が散らばっていた。
「・・・6×3は?」
そこでいきなり算数の問題を出してきた露木に、右手で文庫本を一冊拾い上げた真昼は眉を顰めたのだが。
―――――6×3・・・・・・残り18時間?!
はっと閃いた答に真昼の顔は蒼白なものになっていく。
「選択肢は二つ。自分で吸血鬼とお姉さんを探し出すか。我々に協力するか」
露木は右手の中指と人差し指―――――2本の指を立てながら真昼に決断を迫ってくる。
それに対する真昼の答は―――――
「こんなやり方をする奴らとは絶対組みたくない!!」
最初に出したモノから一切代わることはなかった。
そして激昂するのと同時に身体を起こした真昼は一つ目の扉の前に向かっていくと、
「クロと瑠璃姉をみつけて帰る!! このどこかにいるんなら・・・っ。シンプルに考えて全部開けて確かめればいいだろ!!」
バッと腕を伸ばしてドアノブを掴みながら露木に向かってそう宣言したのだ。
―――――が、開いた扉の向こう側に在ったのは先が見えない長い廊下だった。
長っ・・・と顔を蒼白にした真昼の背に向かって露木は言う。
「・・・・・・答え、教えましょうか?」
―――――協力さえしてくれれば。
「いいです!! 俺が見つける!!」
けれど、やはり真昼はそれを受け入れることはなく突っぱねると、だだだだだと扉の向こう側に向かって走り出したのだ。
一冊目の本を手に持ちながら椅子に腰かけた露木は、ぱらとページを開くと嘆息しながら呟いた。
「・・・・・・十五、六歳というのはこんなに子供でしたかね・・・」
19/5/23掲載
「―――――それじゃあ、これから私たちの組織に貴女には一緒に来て貰う事になるんだけど。内部に入る為の方法とかは、いまはまだ教えることは出来ないから。・・・・・・ごめんね、到着するまでの間だけ、ちょっと目隠しをさせて貰うね」
「・・・・・・わかりました」
溶接面を付けた彼女からそう言われ、移動の為に車に乗せられてから暫くの間、瑠璃の視界は遮られた状態となっていた。
そうして組織内に到着した時点で、すぐさま意識が戻っていないままの状態の真昼とクロは、待機していた組織の他のメンバーたちに、それぞれ異なる場所に連れて行かれてしまい。
目隠しを外された瑠璃もまた、別室に通される事となったのだが―――――。
「どうも、瑪瑙瑠璃さん。先日、学校でお会いして以来ですね」
「ごめんなさいね、瑪瑙さん。本当はこんな形で貴女をこちらに呼ぶ予定じゃなかったんだけど」
そこで対面した白衣を纏った三角眼鏡をかけた青年とふっくらとした体形の壮年女性。
―――――その二人の顔は見知ったものだった。
「露木君と由利さん・・・・・・っ!? なんで、二人が此処に・・・・・・!?」
露木は東高校、生徒会の副会長で。由利は東高校の購買部で働く瑠璃にとっては、その職場の頼りになる先輩という立場に在る存在だった。
それが―――――
「俺達は中立機関『C3』の職員なんですよ。あそこには上からの命令で潜り込んでいたんです」
「〝怠惰〟の吸血鬼と『誓約』を結んだという〝ミストレス〟と、その〝怠惰〟を拾ったっていう高校生の子の様子を見る為だったの」
愕然となった瑠璃に二人は内情を告白する。
「・・・・・・じゃあ、もしかして露木君って本当は高校生じゃなくて・・・・・・」
「はい。22歳の大人ですよ」
確認するように口を開いた瑠璃に、露木は事も無げな口調で頷き返す。
瑠璃自身も童顔である為、学生に間違えられたりすることもある。
なので露木が成人していたと聞かされても驚くべきところではないのだが―――――。
まさか、こんな近くに二人も組織の人間が居たなんて。
―――――どうにも無防備な処があるから―――――
ふと、御国から云われた言葉を瑠璃は思い出す。
「―――――・・・・・・っ」
ギュッと膝の上で瑠璃は両手を握りしめると、二人のほうを見据えて口を開く。
「露木さん。それから、由利さん。私に協力して欲しいことというのはどのような事なんですか?」
―――――いまの私の力は〝戦闘向き〟じゃない。
―――――だけど私にも〝出来ること〟はある。
―――――何があったとしても大切な人たちと一緒に、〝逃げず〟に〝立ち向かうこと〟だ。
瑠璃の瞳に、強い〝想い〟と〝意志〟の色が浮ぶ。
―――――クロと向き合う為にも。
―――――私はまず、この組織の事をきちんと知らなければいけない。
「―――――ッ」
瑠璃の様子が変わったのを感じ取った露木は、思わず目を瞠り、瑠璃を見る。
けれど、ふと由利が微笑ましいモノを見るような眼差しを向けてきたのに気づくと、眼鏡のフレームの縁に右手を添えながら、小さく咳払いを行い。
「瑪瑙瑠璃さん、協力して欲しいことというのは〝ミストレス〟である貴女のデータを取らせて欲しいというものです。これまで〝ミストレス〟の存在は、一度として観測する事が出来なかった。けれど―――――あの〝怠惰〟の真祖が〝ミストレス〟を見つけただけでなく『誓約』まで結んだ。だから貴女は俺達にとっても、とても稀有な存在なんですよ」
露木が話し終えると、由利が瑠璃に向かって告げる。
「―――――城田真昼君と〝怠惰〟の真祖に
―――――瑠璃がそんなやり取りを露木達と交わしていた時。
意識を失った状態で組織内に連れて来られた真昼は何もない場所で、ただ無造作に床に転がされた状態になっていた。
「・・・・・・う・・・っ」
それからどれくらいの時間が経過したのだろうか。
ぼんやりと意識を取り戻した真昼は、徐に身体を起こしたのだが―――――
「ッ!? いって・・・っ、何されたんだ・・・!?」
その直後、首筋に激痛が走るのを感じ、右手を地面に付きながら左手で痛みが走った箇所を押さえつつ、がばっと身体を折り曲げてしまう。
けれど、痛みを堪えつつも状況を把握しようとした真昼は、はっと目を見開くと、直前まで一緒にいたはずの二人の事を思い出す。
「クロ!? 瑠璃姉!? クロと瑠璃姉がいな・・・ってココどこだよ!?」
壁も床も一面真っ白な空間―――――そして目の前には複数の扉。
「ま・・・さか、椿の本拠地につれて来られた・・・とかじゃないよな・・・」
椿の性格的にありうる・・・―――――と真昼の脳裏に最悪の想定が浮ぶ。
そうだとすれば、瑠璃姉はまた椿と一緒に居て、クロのほうは―――――・・・・・・。
瑠璃姉のことを探し回っている真っ最中だったりするのだろうか・・・・・・。
俺、うかつすぎ・・・と顔を青ざめさせつつも、引きつった笑みを浮かべた真昼の耳朶に、
「多少の予定外も含みましたが、まぁ誤差の範囲内です。備えあれば多少憂いあれど問題なし」
聞き覚えのあるフレーズが滑り込んでくる。
目を見開いた真昼は声が聴こえたほうに振り返る。
無数の扉がある部屋の中央―――――そこには白衣の裾を靡かせながら、脚の長い丸椅子に腰かけて読書をする露木の姿が在ったのだ。
呆然とした面持ちになった真昼と本を読むのを止めて振り返ってきた露木の視線が合う。
「えっ・・・!? 露木・・・先輩!?」
「どうも一週間ぶりです。城田真昼くん」
椅子から腰を上げて立ち上がった露木は右手で眼鏡のフレームを摘まみつつ、左手に本を持ちながら、愕然と声を上げた真昼の前に歩み寄って来る。
「・・・やっぱりっ露木先輩も椿の下位吸血鬼・・・」
ばっと顔色を変えた真昼は瞬時に迎え撃てるよう、右手首のリストバンドに左手を触れさせるも、
「いえ、備えは大事ですが今は不要ですよ。俺達は君の味方です」
「・・・味方・・・?」
そんな真昼の行動に対しても露木は表情を変えることなく、淡々とした口調で告げてくる。
「手荒な手段で呼び入れたことは謝ります。こちらはただ君達と〝話〟がしたいだけなんです」
意識を取り戻した真昼が露木からそう言われた時―――――何もない処に転がされていた真昼とは違って、ちゃんとソファーが設置された部屋に通されていた黒猫もまた目を覚まして人型に戻っていた。
けれど―――――
「・・・死ぬほどめんどくせー・・・」
そう呟いたクロの顔に浮かぶのは、起き抜けのものとは異なる、嫌悪を露わにしたもので。
クロの右手には組織の人間から先日無理やり押し付けられた手紙があった。
―――――強制的に連れて来られたこの場所はクロにとっては〝忌まわしいモノ〟でしかない―――――
そして真昼は―――――
「俺達は中立機関『C3』。椿を止めるために協力しませんか?」
露木の口からこの場所が何の為に在るのか、目的は何なのか、話を聞かされることとなる。
地面に座る真昼の目の前には、トレーに載せられた状態で見慣れたファーストフードのハンバーガーとフライドポテトとドリンクが置かれていた。
それは真昼が目覚めた後、露木が用意した食事であり―――――露木もまた最初に座っていたあの丸椅子に腰かけながら、右手には読みかけの本を、左手にはハンバーガーを持って、もくもくと食べ進めていた。
だが、露木が口にしているからといって、果たしてこの食べ物は安全なのだろうか。
眉を顰めて一向に手を伸ばそうとしない真昼の様子を一瞥した露木は言う。
「備えの心は大事ですが・・・すぐそこのモックで買ったものですから毒は入っていませんよ」
「そこってどこの!? ここC3の拠点なんですよね!?」
―――――相変わらず吸血鬼にかかわる人はノリが軽いな!!
真昼は唖然とした面持ちであんぐりと口を開けると、思わずいつもの調子で突っ込みを返してしまう。
けれど、露木は冷静沈着な態度を崩すことはなく、
「俺のおごりです。・・・・・・まぁ経費ですが」
「はぁ・・・」
経費?? と真昼は当惑しつつ頷く。
それから漸く目の前に出されたモノに手を付ける事に決めた処で、一応の礼儀としていただきます・・・と食事の際の合掌をしてからハンバーガーの包みを開いて食べ始めたのだが。
「露木先輩は・・・C3の人なんですか。C3って高校生もいるんですね・・・」
黙って食べるよりも、少しでも話を聞いて情報を集めたい。
何より、この場には居ない、クロと瑠璃姉の事も気がかりだ。
そんな想いから、真昼は露木に向かって口を開いたのだが―――――
「俺のことでしたら高校生ではありませんよ。22歳の大人です」
「え!?」
しかし、露木から返ってきた返答はまたもや、思いも寄らぬもので。
「えっ・・・どういう・・・!?」
6歳も上?! と混乱した面持ちで目を丸く見開いた真昼に露木はしれっとした口調のまま言う。
「君が『姉』と慕う瑪瑙瑠璃さん、彼女だって俺とほとんど歳は変わらないんですから、そう驚く事でもないと思いますが。―――――〝ミストレス〟と、とある高校生に拾われたという〝怠惰〟の吸血鬼の監視の為。潜りこんだだけです。俺なら制服でも違和感が少ないので。そう来ると思って早々に制服も取り寄せてありました」
そうして仲間内から『童顔!』だと指名された時点で、露木は用意を済ませていた制服を着用して東高校、生徒会の副会長として夏休みの前日まで在籍をしていたのだ。
「備えあれば多少憂いあれど問題なし」
眼鏡のフレームの縁に右手を添えながら、左手にコーヒーのカップを持ちつつ、足を組んで座る露木はキリッとした表情で座右の銘ともいえる言葉を口にする。
けれど露木のその発言に対して―――――それはもう備えっていうか予知能力じゃ・・・と思わずそう真昼は漏らしてしまったのだが。
「でも・・・それじゃあ、あの花火大会に俺を呼んだのには、それに瑠璃姉が祭りに参加するようチラシを渡したのには何か意味があったんですか!? あの日の爆破事件のことも何か知って・・・?」
「それ以上は我々の提案を君が受け入れてくれるなら話しましょう」
眉を顰めた真昼に露木は制するような視線を向けると言葉を紡ぎ出す。
その提案内容は―――――
『椿を止めるため我々と協力しましょう』というものだった。
―――――C3の理念の一つは『
―――――吸血鬼と人間の平穏な共存のため・・・〝
―――――けれど〝
だからこそ・・・・・・
「君の〝怠惰〟と、〝ミストレス〟として〝怠惰〟と『誓約』を結んでいる―――――瑪瑙瑠璃さんには是非協力して欲しいんですよ」
請う様に紡ぎ出された露木の言葉に、しかし真昼はさらに眉根を寄せてしまう。
―――――『8番目』の件にC3を関わらせるべきではない!―――――
―――――奴らはとにかく利己主義で傲慢な組織じゃ!!―――――
2番目の傲慢の真祖たる、ヒューは真昼にそう言っていた。
―――――どちらの言葉を信じるのが果たして正解なのか。
眉を顰めた真昼は、胡坐をかいていた足元で両手を握り拳にすると、
「俺は・・・C3ってどういう組織なのか全然知らない・・・協力って言われても俺一人じゃ決めらんないよ」
視線を俯けた真昼の脳裏に浮かぶのは相棒と姉の顔。
「・・・クロと瑠璃姉は? 俺と一緒にいたはずだ」
「・・・彼にも今、別室で話をしていますよ。彼女のほうは最初から意識はある状態で同行をして貰いましたので。同じく別室で、身体データを取るのに協力をして貰っています。まぁ、もうすでに終了して休んで頂いている頃合いですが・・・・・・」
「なっ!? 何で瑠璃姉のデータを・・・・・・っ!?」
「先ほども言った通り、彼女は〝ミストレス〟だからですよ。それと強制した訳ではなく、きちんと彼女には〝お願い〟をして協力をして頂きましたから」
ギョッと目を見開いた真昼に露木は言う。
それから眼鏡のフレームにまた露木は右手を添えると、
「しかし・・・〝
「でもっ・・・お互いの考えとか知っておかないとっ・・・」
呆れたようにそう漏らした露木に対し、真昼は自身の思いを訴える。
すると―――――
「・・・・・・我々には〝
露木は真昼に対して衝撃の告白を返してきたのだ。
けれど、この話は露木がC3に入る前のもので、あくまでも
「彼が
「それって・・・どういうことですか!? 椿は昔
思いも寄らぬ真実に真昼は思わず声を荒げかけるも、露木は平静さを保ったまま、
「・・・この話も君の返事をきいてからです」
「~~~~~~っ何でもかんでもあとで・・・って・・・」
苛立ちを募らせながら唸った真昼に、露木は右手の平を向けながら言う。
「断る理由もないでしょう。〝
けれど―――――
「・・・壊すって殺すってことですか?」
露木の口から出た『選択肢』を聞いた瞬間、真昼の苛立ちの感情は暗い陰に覆われていく。
吸血鬼と人の共存を掲げているのにも拘らず、椿とその下位はそれらの対象に入らないというのか。
「それじゃあ協力できない。椿の下位吸血鬼に友達がいる。助けるって約束した!」
変わりに沸きあがってきた怒りの感情を真昼は露木に向かってぶつける。
「それに瑠璃姉も、椿達の事を殺すことを望んでない!!」
〝―――――私にとって椿は『大切な家族』よ。だから私は椿のことは〝止めたい〟と思ってる。―――――『大切な家族』に、何も知らない人たちの命を奪って、兄弟で争うなんてして欲しくないから〟
真昼の意識の内に文化祭の日に桜哉と交わしたやり取りの情景と、その前日に瑠璃から聞かされた言葉が浮んでくる。
「・・・・・・綿貫桜哉・・・ですか」
露木はコーヒーのカップに口を付けると、それを飲みながら暫しの間、無言で真昼の顔を見つめた後に、椿の下位吸血鬼であり、真昼と瑠璃の〝友人〟である彼の少年の名前を口にした。
露木の口から桜哉の名前が出た事に真昼は「知って・・・」と驚きの表情を浮かべると、
「調査資料には目を通しています。君と話す上での備えとして」
「それじゃあっ、わかってくれるはず・・・っ」
縋るような面持ちで真昼は叫んだ。
けれど―――――
「子供のワガママのようなことを言いますね」
侮蔑に満ちた眼差しで露木は真昼を見据えると言った。
「俺は大人。
露木の言葉を聞いた刹那、愕然とした表情になった真昼は奥歯を噛みしめながら、彼の顔を見つめていた。
「何が・・・大人ですか。ブラックコーヒー、カッコ良く飲んで正論言ったら大人ですか・・・!」
そして自分の想いだけでなく、瑠璃の想いまでも否定した露木に、真昼は身体を戦慄かせると、喉の奥から絞り出すように言葉を紡ぎ出す。
「だったら俺はまだ! オレンジジュースが好きな子供のままでいい!!」
それから真昼は、自分の前にあったジュースのカップを手に取ると、ガッとストローの先を強く噛んでそう宣言した。
そうしてジュースを全て飲み干した処で「ごちそ―――――さまでしたっ!」と憤りながらもきちんと真昼が合掌をすると、
「そうですか・・・わかりました。じゃあお帰りいただいて結構ですよ」
「そうします! それじゃ・・・」
あまりにも露木があっさりと引き下がった為に、真昼もまた反射的にそう言葉を返してしまったのだが。
「・・・え? あの・・・まずクロと瑠璃姉は・・・?」
ふと、我に返った真昼は、そう言われても・・・と困惑した面持ちで露木を見返しながら尋ねかける。
すると―――――
「ただし、君の相棒とお姉さんと出口は自分でみつけてくださいね」
コト・・・とコーヒーのカップを下に置いた露木は椅子から立ち上がると、両手を広げながら冷淡な口調で告げてくる。
「この部屋の52の扉。君の吸血鬼とお姉さんはこのどこかにいますから」
「な・・・!? さっ・・・捜せっていうんですか!? 気配・・・とか・・・?? クロと瑠璃姉はともかく・・・・・・俺とクロはそういうことはできない・・・・・・」
クロは瑠璃と『誓約』を結んでいる事から、何処にいるのかおおよその場所を感じ取ることは出来るらしい。そして瑠璃もまた『鍵』の力を使える状況にあれば、合流することは出来るだろう。
―――――が、二人とは違って真昼には何の手立てもないのだ。
狼狽える真昼に対し、ふと露木はポケットからスマホを取り出すと、
「今、何時だか知ってますか?」
唐突にそんな問いを投げかけてきた。
それは今までの話の流れの中で何の関連性もないように思えるモノだったのだが―――――。
がくん! と突如として真昼の身体は膝から崩れ落ちてしまう。
「―――――!?」
「
がく・・・っと、身体に力が入らず、両手を地面についてしまった真昼に露木は淡々とした口調で話しかけてくる。
―――――何だ!? 体が・・・っ。
小刻みに震え続ける自身の身体の異変の原因は一体何だというのか。
その答に繋がる記憶を真昼は露木の言葉から思い出す。
―――――そういえばクロが言ってた・・・。
―――――
―――――まぁ・・・なんかなるぞ―――――
けれど、意図せずして『仮契約』を結んだ時、クロはその答をはっきりと真昼に告げることはしていなかったのだ。
―――――あのっ・・・めんどくさがり~~~ッ。
―――――どうなるんだよッ。
「離れた状態で6時間経過すると異常が現れます」
すると怒り心頭状態の真昼のそれを察したかのように、絶妙のタイミングでまた露木が語り掛けてくる。
「そして24時間で・・・どうなるか知ってますか?」
「知ら・・・ない・・・っ」
その時、両手で身体を支え続けるのも辛くなってきた真昼は地面に俯せの体勢になってしまう。
そんな真昼の傍に露木はゆっくりと歩み寄ると、
「あと17時間58分16秒で体験できますよ」
「・・・・・・これが・・・っ、大人のやり方だって言うんですか・・・っ」
無情な宣告を行った露木を真昼は上目遣いで睨みつける。
―――――が、露木は眉一つ動かすことなく。
はぁ・・・と真昼は少しでも身体が楽になるように息を吐き出すと、
「クロもどっかで・・・同じことに・・・? それに、瑠璃姉も・・・・・・」
―――――瑠璃姉はいつだって、自分の事よりも〝誰か〟を〝優先〟しようとする。
―――――もしも今の俺達の事をまた、〝交渉材料〟に使われたりしたら・・・・・・。
ギュッと右手を握りしめた真昼の心を読んだかのように露木は口を開いた。
「吸血鬼がどうなるのか、それも知らないんですね。彼女のほうは、いまの処は丁重に扱っていますよ。ですが、交渉のカードが増えますね」
「クロと瑠璃姉を返せっ・・・」
「えぇ。君が良い返事をくれればすぐにでも」
真昼の訴えに対し、露木からの返答は変わらず心ないものだったのだが、
「〝
ふと、真昼を見下ろすのを止めて腰を落とした露木は両腕を膝の上で組みながらそんな言葉を口にすると。
―――――ばささっ。
「!?」
何処からともなく取り出した複数の文庫本を真昼の頭上に落下させたのだ。
「えっ? 本・・・?」
真昼は右手で頭を押さえながら、何のつもりなのかと、立ち上がった露木を睨み付ける。
「俺は文庫本を読むのに1冊約3時間かかります。そしてここに6冊」
と―――――先程までのやり取りとは全く関係がなさそうな話を始めた露木の手には一冊の文庫本があり。真昼の周囲には5冊の文庫本が散らばっていた。
「・・・6×3は?」
そこでいきなり算数の問題を出してきた露木に、右手で文庫本を一冊拾い上げた真昼は眉を顰めたのだが。
―――――6×3・・・・・・残り18時間?!
はっと閃いた答に真昼の顔は蒼白なものになっていく。
「選択肢は二つ。自分で吸血鬼とお姉さんを探し出すか。我々に協力するか」
露木は右手の中指と人差し指―――――2本の指を立てながら真昼に決断を迫ってくる。
それに対する真昼の答は―――――
「こんなやり方をする奴らとは絶対組みたくない!!」
最初に出したモノから一切代わることはなかった。
そして激昂するのと同時に身体を起こした真昼は一つ目の扉の前に向かっていくと、
「クロと瑠璃姉をみつけて帰る!! このどこかにいるんなら・・・っ。シンプルに考えて全部開けて確かめればいいだろ!!」
バッと腕を伸ばしてドアノブを掴みながら露木に向かってそう宣言したのだ。
―――――が、開いた扉の向こう側に在ったのは先が見えない長い廊下だった。
長っ・・・と顔を蒼白にした真昼の背に向かって露木は言う。
「・・・・・・答え、教えましょうか?」
―――――協力さえしてくれれば。
「いいです!! 俺が見つける!!」
けれど、やはり真昼はそれを受け入れることはなく突っぱねると、だだだだだと扉の向こう側に向かって走り出したのだ。
一冊目の本を手に持ちながら椅子に腰かけた露木は、ぱらとページを開くと嘆息しながら呟いた。
「・・・・・・十五、六歳というのはこんなに子供でしたかね・・・」
19/5/23掲載
