第八章『修行と思惑』
『SERVAMP夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夏休み二日目―――――吸血鬼達の活動に制限がなくなる日没から、いよいよ修行開始となる。
真昼はジャージ姿で、瑠璃はいつも通りシンプルな服装で黒猫を肩に乗せて、鉄と一緒に御国が待つ修行場所に向かう。
修行は真昼が特訓に使っていた公園と同じ処で行われる。
そして公園に到着すると、樹木を囲った円形の椅子の上には、ひっそりと身を潜めるようにしながら座るジェジェの姿が在り。その手前にはリリイと御国が並んで立っていた。
しかし、リリイがいつも通りの笑顔で迎えてくれたのに対し、御国は此方の姿を目にした瞬間、ふいに露骨に眉を顰めると。
「・・・あのね? お兄ちゃんもそんなに暇じゃないのよ?」
右手に持っていた帽子をぱたぱたと翻す仕草を行った後に、それをまた頭に被りなおし。
「なんでお友達までつれて来ちゃったのかな?」
「すみません、御国さん。でも彼は〝一般人〟じゃなくて・・・・・・」
皮肉交じりの御国の言葉に、瑠璃が謝罪の言葉を返し、鉄を連れて来た理由を言いかけると、
「・・・こいつ、鉄っていって〝傲慢〟の主人なんです!」
真昼もまた慌てた様子で御国にそう告げたのだ。
「それは知ってるんだけどね・・・」
すると御国はやれやれと言った様子で帽子を被りなおしつつ、小声でぼそと呟くとジェジェが身を潜めるようにして座っていた樹木の反対側に腰を下ろしていく。
と―――――此処に来てから一言も喋らず無言で立っていた鉄が、徐に御国の前に一歩進み出ると、
「何これ人形?」
そう言うのと同時に御国の傍らに置かれていた『アベル』と彼が呼んでいるおさげの人形の片足をひょいと掴んで持ち上げたのだ。
それにより逆さまになった人形はスカートが捲れて、その下に履いているペチコートが丸見えとなってしまう。
刹那、御国の顔色は蒼白なものとなり―――――
「オレのアベルを性的な目で見るな!!」
あああああ、と声を震わせながら御国は鉄の左肩を右手で掴むと、人形を取り戻そうと左手を伸ばしていく。
しかし、鉄は御国の言動に怪訝そうな面持ちで、微かに眉を顰めると、
「見ねーよ。人形だろ?」
「乱暴するな!! 暴漢め!! アベルの純潔が―――――!!」
ああああ、うわあああ、と御国がさらに喚くように声を上げる。
果たして御国のあの態度は本気なのか、それとも演技なのか。
判断に迷う処なのだが・・・・・・。
「鉄君、アベルちゃんのこと御国さんに返して貰える?」
困惑の表情を浮かべつつ瑠璃は鉄を見上げると、
「別にいいぜ。あんたがそう言うんなら」
首を傾げる仕草をしながら鉄は頷き返した事により、御国の手元には無事に人形が戻ったのだ。
「あ―――――やる気なくなった。帰る。アベルを性的な目で見る暴漢とは同じ空間にいられない」
けれど最初から鉄の事を歓迎していなかった御国は、オレこいつ嫌と言ってリュックを背負い直すと、踵を返そうとした為。
「ちょっ、御国さん!!」
真昼が慌てて御国が背負っていたリュックを掴んで引き留めにかかる。
「なんじゃ・・・? 騒がしいのう。我が輩を呼んでおるのか?」
すると、鉄の武器である棺桶の中で眠っていたヒューが目を覚ましたようで。
ギギ・・・ィと音を鳴らしながら、ずらされた棺桶の蓋の隙間からまず片目が覗き。
「我が輩こそが!! 〝傲慢〟の真祖・・・」
バ―――――ンと仰々しく、棺桶の蓋が完全に開いた処で、煙管を持ったヒューが高らかに名乗りを上げながら姿を見せたのだが。
それとほぼ同時に、まだ鉄に挨拶をしていなかったリリイが、
「鉄くん、初めまして。〝色欲〟のスノーリリイと申します・・・今回、私がひと肌脱ぎま」
例のごとく名乗りながら上半身の衣服に手を掛け、半裸になりかけた為。
「脱ぐな!!」
御国を引き留めつつも、真昼は突っ込みを入れ。
「リリイ・・・・・・他の人に見られたら、誤解を招く事態になりかねないから・・・・・・」
瑠璃もまた目線を逸らしつつ窘めるように言うと、わかりましたと残念そうな表情を浮かべながらリリイは衣服を整える。
するとリリイに気づいたヒューが口元に弧を浮かべると、
「久しぶりじゃな! お主相変わらず美しいのう!」
「久しぶりに言われましたー」
ヒューからの称賛の挨拶に、最近はキモイとばかり言われて・・・とリリイは心底嬉しそうな様子で応じる。
そんな二人の近くにいつの間にかジェジェも歩み寄って来ていて、何事かを呟いていたのだが、二人のやり取りにかき消されてしまい、何を言っているのか聞き取ることは難しそうだった。
「みんな、マイペースだな―――――・・・」
『やるぞ―――――』って盛り上がりたいよ・・・と真昼は半眼になりながら少し疲れた様子の面持ちで呟く。
「そうね・・・・・・」
瑠璃もまた眉を下げつつ頷くと、御国のほうに振り返る。
「あの、御国さん。さっきのアベルちゃんの事は鉄君も悪気があった訳ではないと思うので・・・・・・」
大目に見てあげて貰えないだろうかという瑠璃の眼差しに対し、御国は驚いたように微かに目を丸くすると。
「も―――――・・・しょうがないな」
それを隠すように帽子のつばに手を掛けながら嘆息しつつそう言って。
「やるぞ、リリイ」
「はい・・・それでは」
御国からの呼びかけに答えたリリイが軽やかに跳躍して公園の街灯の先端にトッと降り立つと「ひと肌脱ぎましょう?」というとまたもや半裸になりながら手の平を口元に近づける。
と―――――リリイの口からピンク色のハートの吐息がふうっと吐き出されていく。
「何してんだっ」
キモいっ・・・つかまるぞ?! と真昼が顔を蒼白にしながら後退る。
「ピンクの霧・・・・・・これって、もしかして人除けの幻術なのかしら?」
ふわあ・・・と霧は公園内に広がっていく。
辺りを見渡した瑠璃が目を瞬かせながら言うと、
「そうだよ。さすが瑠璃ちゃんは察しが良いね。リリイの幻術で他の人間が中に入れないようにしたんだよ」
あいつはこーゆーのが得意なのと御国は笑みを浮かべながら言った。
瑠璃の肩から腕の中に移動してきていた黒猫が無言で御国を見上げると、そこから抜け出して人型に戻り傍らに立つ。
御国は帽子に手を掛けながらフッと目を細め、クロを一瞥すると、
「さて・・・と。一週間!」
「!?」
真昼はふいに自分に向けて、ビッと左手の中指を目の前に掲げてきた御国に驚いた様子で目を見開く。
「ちょっと事情が変わってね・・・あまりゆっくりしている時間がない。キミには一週間でサーヴァンプをある程度使えるようになってもらうよ」
「えぇ!? 一週間って・・・」
そうして御国から申し渡された言葉に真昼は唖然となってしまったのだが。
「最初の課題はジェジェの被り物を全部落として素顔を見ること!」
御国はそれに構うことはせず、愉しげな笑みを浮かべると、自身の背後に来ていたジェジェを左手の親指で後ろ手に指し示しながらそう宣言したのだ。
それに対し、びくっと身体を震わせたジェジェは怒り心頭といった態度で、すぐさま袖口から覗かせた銃口を御国に向かって突き付ける。
「おっとお、そう睨むなよジェジェ~~~? 人を伸ばすにはこのちょっとしたゲーム感覚が大事なんだから―――――」
けれど相変わらずの意地の悪い笑顔で御国はジェジェを見返すと、あっさりと右手の平で銃口を押し返してしまい。
「血は飲ませたらだめだよ? 武器は使ってOK。それから・・・4人がかりでどうぞ? オレのジェジェは一人でもかなりやれるよ?」
御国の挑発するかのような物言いに、真昼たちの間に緊張した空気が漂うも、
「じゃっ、オレはアベルとお茶してるから?」
告知した通り御国自身は加わるつもりはないようで。
リュックの中から、テーブルクロス、折り畳みのテーブル、椅子と順に取り出して並べていく。
けれど、御国だけではなく―――――
「我が輩は今取り込み中じゃ!!」
「オレ体調不良」
ヒューは公園の動物型の遊具に乗りながら、クロは携帯型ゲームを片手に、不参加の意を示してきたのだ。
「吸血鬼 は動け!!」
真昼が一喝するも、吸血鬼達は動く様子は見られず。
「クロ・・・・・・」
積極的にクロが動こうとしないのは、いつもの事ではあるのだが―――――。
瑠璃は小さく息を吐き出すと、
「御国さん、私も真昼君達と一緒に・・・・・・」
「―――――いや。瑠璃ちゃんは今回の修行は参加しないで良いよ。君の持つ『力』は、いまの処は〝戦闘向き〟じゃないだろ?」
胸元の『鍵』を握りしめた瑠璃が真昼の処に向かおうとすると、
「その代わりに、オレと少し話をしようか。アベルもキミと話してみたいって言ってるしね?」
小さな洒落た椅子をテーブルに置き、そこに人形を座らせると、にっこりと笑みを浮かべつつ、人形の片手を持って振る仕草をさせながら告げてくる。
すると微かに眉を顰めたクロが御国のほうを見遣ったのだが、真剣に修行に取り組む意思を見せていない立場に在る為か。
「・・・・・・向き合えねー」とぽつりと呟いたのみだった。
―――――どうするべきか。
逡巡する瑠璃に対して声を掛けてきたのは真昼だった。
「―――――大丈夫だよ、瑠璃姉。まずは俺達だけでやってみるから、そこで見ていてほしい」
「・・・・・・わかったわ」
そうして真昼の言葉を受け入れた瑠璃が頷くと―――――
―――――・・・・・・やるぞっ
―――――これで・・・強くなれるなら・・・!
―――――〝守る力〟と〝立ち向かう力〟を手に入れられるなら・・・!!
心の中で気合いを入れた真昼が、す・・・と右手首からリストバンドを外すと、武器である漆黒のホウキが手の中に具現化する。
「よろしくお願いします!!」
そうして真昼はジェジェに向かってそう言うと同時にホウキをばっと振りかざしながら跳躍する。
しかし、ホウキは真昼の意志に従うことはせず、
「わああ!?」
ぐるんっと勢いよく回転し、その重力により真昼の身体も引っ張られる形で、地面に転がって強かに打ち付けてしまう。
「真昼君っ!?」
その様を目にした瑠璃が思わず声を上げると、
「相変わらずこっちが振り回される・・・」
いててと呻きつつ、身体を起こした真昼は平気だと示すように、瑠璃に向かって片手を上げて見せた。
「とにかく・・・こいつぶっ飛ばして顔を見りゃいいんだな?」
と―――――真昼に続いて、武器である棺桶を担いだ鉄がゴオと勢いよく、ジェジェに向かって突進していく。
が、ジェジェはそれを往なすように、素早く長身の体躯を捻ると、鉄の棺桶を蹴り飛ばして方向転換させてしまう。
その結果、地面に座ったままだった真昼の上に鉄は倒れこんでしまい。
わりい、と鉄が真昼に謝り身体を起こそうとした処で―――――
―――――ガガガガガガガガッ
袖口から銃口を覗かせたジェジェが容赦のない銃弾を連発させてきた。
けれど、間一髪のタイミングで起き上がった鉄が真昼の左足を掴んで自分の前に転がし、さらに棺桶を背中で支えながら立たせたお陰で、銃弾を浴びることはなく済ませることが出来たのだ。
「・・・・・・鉄君の武器 ・・・・・・やっぱり凄い・・・・・・」
御国の向かい側に用意された椅子に座った瑠璃は呆然とした表情で呟く。
祭り会場での爆弾処理の時も、ダメージを負ったのは中に居たヒューだけで。
―――――棺桶は全くの無傷だった。
「なんで俺の武器ホウキなんだろ・・・。やっぱり、飛んだりすんのかな―――――・・・」
鉄の武器に庇われる形になった真昼が落ち込んだ様子で項垂れながら言う。
と―――――それに答えたのは御国だった。
「そうだねぇ。『武器』ってのは結構、吸血鬼を拘束するのに適した形のものが多いんだけどね」
御国の言葉が耳朶に届いた真昼がこちらに振り返ってくる。
「〝ミストレス〟である瑠璃ちゃんが持っている『鍵』もまたそれとは異なるものなんだよね」
軽く眉を顰めた御国は、用意したティーポットを右手に持ちながら、二つのカップに紅茶を注ぎ入れると、一つを瑠璃の前に置き。
「ねぇ、瑠璃ちゃん、『鍵』にはどんな役割があると思う?」
「役割、ですか・・・・・・?」
カップに口を付けると、チラリと窺うように視線を向けてきた御国からの問いに対して、瑠璃は胸元の『鍵』を握りしめながら思わず眉を寄せてしまう。
そんな瑠璃の反応に対し、御国はフッと口の端を吊り上げると、
「―――――鍵は開けるモノ。―――――鍵は大切なものを守るモノ。―――――鍵がかかっていれば開けられない。―――――鍵があれば開けられる」
謎かけの様な言葉を御国は紡ぎ出し、話を続ける。
「そして瑠璃ちゃん、キミは真祖の〝花嫁〟に為りうる唯一の存在―――――キミの〝血〟だけでなく〝キミ自身〟の〝全て〟を手に入れて『契約』を結んだ真祖は、主人が居なくとも同等の―――――否、それ以上の力をもしかしたら発揮できるかもしれない」
「・・・・・・『契約』・・・・・・」
戸惑いの表情を浮かべ、瑠璃は御国の顔を見る。
しかし、笑みを浮かべてはいるものの、御国の本心はやはり窺い見ることが出来ない。
「一方で、そんな吸血鬼達と『契約』を結んでいる主人 が持つ武器 ・・・・・・これが〝リード〟と呼ばれている所以。それは、主人 が〝自分の〟吸血鬼を〝制御〟するために使うものだからだよ。人間が吸血鬼を〝管理〟するためにある。ペットの暴走を止められないのは主人 の責任だろ?」
けれど、吸血鬼達の事を口にした瞬間、御国の表情は冷ややかなものになる。
―――――ガチャ!
その刹那、テーブルの上に向かって勢いよく飛び乗ってきたのは、静観の体勢を取っていたヒューだった。
「ヒューくん・・・・・・っ!?」
瑠璃が驚愕の声を上げると、チラリとヒューは瑠璃のほうを一瞥したのだが。
すぐに視線を御国のほうに向けると、
「・・・お主、何か勘違いしておるようじゃの」
手にした煙管を御国の眉間に突き付けながら、冷然たる眼差しと口調で話し出す。
「確かに〝ミストレス〟は我らにとって唯一の存在 ではあるが。我らの力を非力な人間では扱えぬからこそ。武器 という形で我々が人間に力を貸して やっているのじゃ。我々が人間を利用している ということを忘れるでないぞ」
「この鉄 みたいにバカな奴が人間のすべてだと思ってる? 傲慢だねぇ・・・進化をあきらめた 古い種族が」
しかし、ヒューの言葉に対し、御国は横目で鉄を見遣ると、顔を歪めながら嘲笑うように言い返す。
ヒューは御国と話をしても意味がないと思ったのだろう。
修行の手を止めたまま、困惑した面持ちで此方の様子を見ていた真昼をふと見遣ると、
「・・・城田真昼と言ったのう。このような男を師と仰いではいかんぞ。〝ミストレス〟である瑪瑙瑠璃の為にも、我が輩が話してやろう。吸血鬼 と人とのあり方について・・・」
「オレが話すよ。もっと今らしい 形を・・・」
そうはさせまいとするかのように、御国もまたヒューの言葉に被せる様に言葉を紡ぎ出す。
けれど、そんな二人に対して真昼は、
「あ―――――・・・その話はどっちも今はいいや」
頭の中の考えを整理しようとするかのように左手を後頭部に添えると、右手に握りしめていた武器であるホウキに視線を向けながらそう言ったのだ。
そして唖然とした面持ちになったヒューと御国に対し真昼は告げる。
「同じ事柄でも視点が違えば全然違う形に見えちゃうだろ。絶対に客観的な見方なんてきっと誰にもできないから。俺の相棒はクロなんだ。クロ達サーヴァンプの話は〝誰か〟からよりもまずクロから聞きたい」
椿を止める為にクロと一緒に強くなりたいと。
文化祭で桜哉の本心を知った真昼は―――――そう決意をした。
だから―――――
「俺が最初に聞くのはクロが感じた形がいいって思ったんだ」
座り込んだままだったクロに視線を向けると真昼は笑顔でそう宣言した。
すると、クロは微かに冷や汗を浮かべながら、当惑の面持ちで固まってしまう。
そんなクロの様子を目にした瑠璃は椅子から立ち上がるとクロの傍に向かって歩いていき。
「―――――クロ。私も〝ミストレス〟としてまだ、知らないことが色々あると思うから。話せる範囲で構わないから、クロの口から聞かせて貰えたら嬉しいわ」
ふわっと笑みを浮かべながら瑠璃がそう言うと、クロは目を見開いた後に視線を俯かせ。
「・・・・・・向き合えね―――――・・・」
ポツリといつもの口癖の言葉を呟いたのだ。
「クロはすぐそう言う!」
それに対し、すぐさま真昼が突っ込みを入れると、テーブルの上から地面に下りたヒューは「・・・ふむ」と唸り。
「気に入ったぞ!」
そう言うと同時に跳躍すると、トッと真昼の左肩に飛び乗ってきたのだ。
「わっ!?」
不意打ちともいえるヒューの行動に、真昼は目を見開き、驚きの声を上げる。
ヒューはそんな真昼の顔をニヤリと、吸血鬼らしい含みのある笑みを浮かべながら見据えると、
「主人 たるもの自分の吸血鬼 を一番に信じるべきじゃ。〝ミストレス〟もまたそれは然り。我が輩もお主達に協力してやろう」
と、ヒューは明言した。
けれど―――――
「あくまでも城田真昼と瑪瑙瑠璃にじゃがな!」
あやつは嫌じゃ!! と煙管でビッと御国を指しながらヒューが言うと、それに対して御国もまた舌を突き出してきたのだ。
ほんの少し前のやり取りでは殺伐とした空気を互いに醸し出していたのにも拘わらず、いまはまるで子供同士のケンカのようだと真昼と瑠璃が苦笑を浮かべると。
「鉄! お主の才能を見せてやるがいい!」
ふと、話に加わることをしなかった主人である鉄に向かってヒューは呼び掛けると、
「・・・いいのかよ、人前ではやるなって言うくせに」
「時と場合じゃ。力を見せ合うことは信頼の証じゃよ」
微かに眉を顰めた鉄にヒューは頷きながら告げる。
「・・・へぇ」
それに対して短く声を洩らした鉄が一体何をするのだろうかと、真昼とクロと瑠璃が視線をそちらに向けた直後、信じられない光景を目にする事となる。
棺桶に右手を添えながら立っていた鉄の鍛え上げられた腕の筋肉がビキッとさらに盛り上がり―――――その次の瞬間、棺桶を抱えた状態で鉄は空中に向かって勢いよく跳躍すると、そこで体の向きだけを逆にしながら方向転換を行い、ジェジェ目掛けて空中からの奇襲を仕掛けたのだ。
「ヒューはいつもいいこと言うぜ」
そして鉄がそう呟くと同時に、
―――――ドオ・・・ン
激しい暴風が巻き起こり。
目を開けていることが出来ない状況下に陥った時、咄嗟にクロが右腕に真昼を、左腕に瑠璃を抱えて「あっぶね」と冷や汗を流しつつ、その場から後ろに向かって跳び退いた処で。
「・・・・・・なんだこれ?」
ふと、クロは自分たちの前に防御シールドのようなモノが張られている事に気づき目を瞠る。
その時、瑠璃が首から下げている『鍵』もまた淡い光を瞬かせていた。
そして―――――
「・・・なっ、すご・・・い」
「何が・・・・・・どうなったの・・・・・・?」
真昼と瑠璃が呻くように声を洩らし、薄っすらと目を開けると、防御シールドはフッと消失したのだ。
「瑠璃、いまお前の『鍵』が・・・・・・」
クロはそう言い掛けたのだが、その時、バササッとジェジェが被っていた紙袋三個が勢いよく空に向かって吹き飛ばされていったことにより。
真昼と瑠璃の意識はそちらに向けられていた為、クロは口をつぐんでしまう。
―――――瑠璃が『鍵』の発動に気づいた様子がないのなら言わなくても良いよな・・・・・・。
そして抉れた地面に棺桶を右手に立つ鉄の前には、素顔を晒されたジェジェの姿が在るかと思われたのだが―――――。
「はは・・・惜しいね! 主人だけでその力・・・まぁ鉄クンの才能は認めるよ」
ジェジェの肩の上には見下すような笑みを浮かべた御国が乗っていて、自分の帽子をジェジェに被せることにより素顔を隠してしまっていたのだ。
「でもそんな大振りの技じゃあ、ジェジェのお顔は披露できないな?」
口の端を吊り上げると、意地の悪い笑みを浮かべてそう言った御国に、
「なぜ・・・乗る・・・・・・どけ・・・」
ジェジェがぼそ・・・と怒りながら、ガチャと袖口から銃の先端を覗かせながら突き付ける。
そして御国の言葉に鉄は「そーか」と不服そうに微かに眉を顰める。
しかし、鉄の本領を目の当たりにした真昼はというと―――――
「・・・瑠璃姉! すごいよ! このメンバーなら椿とだってきっと戦える・・・っ。俺・・・まだ全然ついていけてないけどっ・・・。それに御園もいるんだっ。9人そろえばもっと・・・!!」
興奮した面持ちでそう力説を行う。
その後ろではクロが「・・・・・・オレと瑠璃は不参加でも大丈夫そうだと思うけどな」と携帯ゲームをまた片手に呟いていたのだが、当然聞き入れられることはなく。
「そうね、みんなで力を合わせたら・・・・・・」
瑠璃もまた笑顔で真昼に頷き返すとリリイと御国たちのほうに視線を向ける。
けれど、真昼が御園の名前を口にした瞬間、リリイの笑顔が微かに曇り、ジェジェの肩から降りた御国もまた、手元に戻ってきた帽子で表情を隠すかのように被り直した際の仕草には、何となく引っ掛かるものを感じたのだった。
そして―――――
「よーし。クロっ、俺達もやるぞっ」
「めんどくせ―――――・・・」
真昼がホウキを左手に掲げながら宣言し、クロがそれにお決まりの返答をした時。
公園の向かい側にあるビルの屋上には、椿の指示により真昼と瑠璃の監視を行う桜哉の姿が在ったのだ。
『じゃあ・・・桜哉。適当に監視よろしくね』
笑みを浮かべながら椿が桜哉に指示を伝える。
『若!! だめです、こやつを信用しては!! 監視なら私が・・・』
すると椿の傍に控えていたシャムロックが、制するように右手を伸ばしながら、進言しようとしたのだが。
『大丈夫。だってこれは瑠璃と城田真昼のため でもあるんだから』
ニヤッと口元に笑みを浮かべながら椿は告げる。
『そう・・・今、注視しておくべきはクロ よりも―――――・・・』
―――――椿さん・・・あの男が一体、瑠璃さんと真昼に何をするって―――――・・・。
屋上の縁に座って、右足を下ろして、左足だけ立てながら、そこに組んだ腕を乗せつつ、二人の様子を見ていた桜哉は、監視に就く前に椿から云われた事を思い出していたのだが。
ふと、視線を御国のほうに向けたその刹那―――――
―――――ドッ
桜哉の全身を悪寒が貫いた。
監視するに中って存在を気づかれないよう、ちゃんと適切な距離は取っていた。
それなのにも拘わらず、御国の冷酷な瞳が桜哉の存在を捉えたのだ。
―――――・・・〝有栖院〟が何だっていうんだよ・・・!?
屋上の内側に瞬時に身を隠した桜哉は蒼白な顔で、は・・・と息を吐き出しながら心中で呻いた。
一方、御国だけでなくジェジェもまた桜哉の存在には気づいていたのだが。
「いいよ、ほっとけ」
そちらから視線を外した御国は、ぼそと小声でジェジェにそう告げたのだった。
<後書き>
お待たせ致しました。修行編、二話目です。
修行に瑠璃も直接参加させるか迷ったのですが、御国さんと話をするのを優先させる事にしました。
御国さんの『鍵』に関する言葉は、ネットで検索して見つけたモノになります。
(※オリジナルの言葉ではありませんのでご承知下さい)
そして瑠璃の『鍵』は修行に間接的に参加した事により、一応新たな『力』防御能力を発動させました。
クロは修行には乗り気ではないことから、瑠璃に伝えることはしなかった為、本人が気づくのはまだ少しだけ先になるかと思うのですが・・・・・。
クロとの関係性も含めて、見守って頂けたら幸いに思います。
朱臣繭子 拝
19・4/12 掲載
真昼はジャージ姿で、瑠璃はいつも通りシンプルな服装で黒猫を肩に乗せて、鉄と一緒に御国が待つ修行場所に向かう。
修行は真昼が特訓に使っていた公園と同じ処で行われる。
そして公園に到着すると、樹木を囲った円形の椅子の上には、ひっそりと身を潜めるようにしながら座るジェジェの姿が在り。その手前にはリリイと御国が並んで立っていた。
しかし、リリイがいつも通りの笑顔で迎えてくれたのに対し、御国は此方の姿を目にした瞬間、ふいに露骨に眉を顰めると。
「・・・あのね? お兄ちゃんもそんなに暇じゃないのよ?」
右手に持っていた帽子をぱたぱたと翻す仕草を行った後に、それをまた頭に被りなおし。
「なんでお友達までつれて来ちゃったのかな?」
「すみません、御国さん。でも彼は〝一般人〟じゃなくて・・・・・・」
皮肉交じりの御国の言葉に、瑠璃が謝罪の言葉を返し、鉄を連れて来た理由を言いかけると、
「・・・こいつ、鉄っていって〝傲慢〟の主人なんです!」
真昼もまた慌てた様子で御国にそう告げたのだ。
「それは知ってるんだけどね・・・」
すると御国はやれやれと言った様子で帽子を被りなおしつつ、小声でぼそと呟くとジェジェが身を潜めるようにして座っていた樹木の反対側に腰を下ろしていく。
と―――――此処に来てから一言も喋らず無言で立っていた鉄が、徐に御国の前に一歩進み出ると、
「何これ人形?」
そう言うのと同時に御国の傍らに置かれていた『アベル』と彼が呼んでいるおさげの人形の片足をひょいと掴んで持ち上げたのだ。
それにより逆さまになった人形はスカートが捲れて、その下に履いているペチコートが丸見えとなってしまう。
刹那、御国の顔色は蒼白なものとなり―――――
「オレのアベルを性的な目で見るな!!」
あああああ、と声を震わせながら御国は鉄の左肩を右手で掴むと、人形を取り戻そうと左手を伸ばしていく。
しかし、鉄は御国の言動に怪訝そうな面持ちで、微かに眉を顰めると、
「見ねーよ。人形だろ?」
「乱暴するな!! 暴漢め!! アベルの純潔が―――――!!」
ああああ、うわあああ、と御国がさらに喚くように声を上げる。
果たして御国のあの態度は本気なのか、それとも演技なのか。
判断に迷う処なのだが・・・・・・。
「鉄君、アベルちゃんのこと御国さんに返して貰える?」
困惑の表情を浮かべつつ瑠璃は鉄を見上げると、
「別にいいぜ。あんたがそう言うんなら」
首を傾げる仕草をしながら鉄は頷き返した事により、御国の手元には無事に人形が戻ったのだ。
「あ―――――やる気なくなった。帰る。アベルを性的な目で見る暴漢とは同じ空間にいられない」
けれど最初から鉄の事を歓迎していなかった御国は、オレこいつ嫌と言ってリュックを背負い直すと、踵を返そうとした為。
「ちょっ、御国さん!!」
真昼が慌てて御国が背負っていたリュックを掴んで引き留めにかかる。
「なんじゃ・・・? 騒がしいのう。我が輩を呼んでおるのか?」
すると、鉄の武器である棺桶の中で眠っていたヒューが目を覚ましたようで。
ギギ・・・ィと音を鳴らしながら、ずらされた棺桶の蓋の隙間からまず片目が覗き。
「我が輩こそが!! 〝傲慢〟の真祖・・・」
バ―――――ンと仰々しく、棺桶の蓋が完全に開いた処で、煙管を持ったヒューが高らかに名乗りを上げながら姿を見せたのだが。
それとほぼ同時に、まだ鉄に挨拶をしていなかったリリイが、
「鉄くん、初めまして。〝色欲〟のスノーリリイと申します・・・今回、私がひと肌脱ぎま」
例のごとく名乗りながら上半身の衣服に手を掛け、半裸になりかけた為。
「脱ぐな!!」
御国を引き留めつつも、真昼は突っ込みを入れ。
「リリイ・・・・・・他の人に見られたら、誤解を招く事態になりかねないから・・・・・・」
瑠璃もまた目線を逸らしつつ窘めるように言うと、わかりましたと残念そうな表情を浮かべながらリリイは衣服を整える。
するとリリイに気づいたヒューが口元に弧を浮かべると、
「久しぶりじゃな! お主相変わらず美しいのう!」
「久しぶりに言われましたー」
ヒューからの称賛の挨拶に、最近はキモイとばかり言われて・・・とリリイは心底嬉しそうな様子で応じる。
そんな二人の近くにいつの間にかジェジェも歩み寄って来ていて、何事かを呟いていたのだが、二人のやり取りにかき消されてしまい、何を言っているのか聞き取ることは難しそうだった。
「みんな、マイペースだな―――――・・・」
『やるぞ―――――』って盛り上がりたいよ・・・と真昼は半眼になりながら少し疲れた様子の面持ちで呟く。
「そうね・・・・・・」
瑠璃もまた眉を下げつつ頷くと、御国のほうに振り返る。
「あの、御国さん。さっきのアベルちゃんの事は鉄君も悪気があった訳ではないと思うので・・・・・・」
大目に見てあげて貰えないだろうかという瑠璃の眼差しに対し、御国は驚いたように微かに目を丸くすると。
「も―――――・・・しょうがないな」
それを隠すように帽子のつばに手を掛けながら嘆息しつつそう言って。
「やるぞ、リリイ」
「はい・・・それでは」
御国からの呼びかけに答えたリリイが軽やかに跳躍して公園の街灯の先端にトッと降り立つと「ひと肌脱ぎましょう?」というとまたもや半裸になりながら手の平を口元に近づける。
と―――――リリイの口からピンク色のハートの吐息がふうっと吐き出されていく。
「何してんだっ」
キモいっ・・・つかまるぞ?! と真昼が顔を蒼白にしながら後退る。
「ピンクの霧・・・・・・これって、もしかして人除けの幻術なのかしら?」
ふわあ・・・と霧は公園内に広がっていく。
辺りを見渡した瑠璃が目を瞬かせながら言うと、
「そうだよ。さすが瑠璃ちゃんは察しが良いね。リリイの幻術で他の人間が中に入れないようにしたんだよ」
あいつはこーゆーのが得意なのと御国は笑みを浮かべながら言った。
瑠璃の肩から腕の中に移動してきていた黒猫が無言で御国を見上げると、そこから抜け出して人型に戻り傍らに立つ。
御国は帽子に手を掛けながらフッと目を細め、クロを一瞥すると、
「さて・・・と。一週間!」
「!?」
真昼はふいに自分に向けて、ビッと左手の中指を目の前に掲げてきた御国に驚いた様子で目を見開く。
「ちょっと事情が変わってね・・・あまりゆっくりしている時間がない。キミには一週間でサーヴァンプをある程度使えるようになってもらうよ」
「えぇ!? 一週間って・・・」
そうして御国から申し渡された言葉に真昼は唖然となってしまったのだが。
「最初の課題はジェジェの被り物を全部落として素顔を見ること!」
御国はそれに構うことはせず、愉しげな笑みを浮かべると、自身の背後に来ていたジェジェを左手の親指で後ろ手に指し示しながらそう宣言したのだ。
それに対し、びくっと身体を震わせたジェジェは怒り心頭といった態度で、すぐさま袖口から覗かせた銃口を御国に向かって突き付ける。
「おっとお、そう睨むなよジェジェ~~~? 人を伸ばすにはこのちょっとしたゲーム感覚が大事なんだから―――――」
けれど相変わらずの意地の悪い笑顔で御国はジェジェを見返すと、あっさりと右手の平で銃口を押し返してしまい。
「血は飲ませたらだめだよ? 武器は使ってOK。それから・・・4人がかりでどうぞ? オレのジェジェは一人でもかなりやれるよ?」
御国の挑発するかのような物言いに、真昼たちの間に緊張した空気が漂うも、
「じゃっ、オレはアベルとお茶してるから?」
告知した通り御国自身は加わるつもりはないようで。
リュックの中から、テーブルクロス、折り畳みのテーブル、椅子と順に取り出して並べていく。
けれど、御国だけではなく―――――
「我が輩は今取り込み中じゃ!!」
「オレ体調不良」
ヒューは公園の動物型の遊具に乗りながら、クロは携帯型ゲームを片手に、不参加の意を示してきたのだ。
「
真昼が一喝するも、吸血鬼達は動く様子は見られず。
「クロ・・・・・・」
積極的にクロが動こうとしないのは、いつもの事ではあるのだが―――――。
瑠璃は小さく息を吐き出すと、
「御国さん、私も真昼君達と一緒に・・・・・・」
「―――――いや。瑠璃ちゃんは今回の修行は参加しないで良いよ。君の持つ『力』は、いまの処は〝戦闘向き〟じゃないだろ?」
胸元の『鍵』を握りしめた瑠璃が真昼の処に向かおうとすると、
「その代わりに、オレと少し話をしようか。アベルもキミと話してみたいって言ってるしね?」
小さな洒落た椅子をテーブルに置き、そこに人形を座らせると、にっこりと笑みを浮かべつつ、人形の片手を持って振る仕草をさせながら告げてくる。
すると微かに眉を顰めたクロが御国のほうを見遣ったのだが、真剣に修行に取り組む意思を見せていない立場に在る為か。
「・・・・・・向き合えねー」とぽつりと呟いたのみだった。
―――――どうするべきか。
逡巡する瑠璃に対して声を掛けてきたのは真昼だった。
「―――――大丈夫だよ、瑠璃姉。まずは俺達だけでやってみるから、そこで見ていてほしい」
「・・・・・・わかったわ」
そうして真昼の言葉を受け入れた瑠璃が頷くと―――――
―――――・・・・・・やるぞっ
―――――これで・・・強くなれるなら・・・!
―――――〝守る力〟と〝立ち向かう力〟を手に入れられるなら・・・!!
心の中で気合いを入れた真昼が、す・・・と右手首からリストバンドを外すと、武器である漆黒のホウキが手の中に具現化する。
「よろしくお願いします!!」
そうして真昼はジェジェに向かってそう言うと同時にホウキをばっと振りかざしながら跳躍する。
しかし、ホウキは真昼の意志に従うことはせず、
「わああ!?」
ぐるんっと勢いよく回転し、その重力により真昼の身体も引っ張られる形で、地面に転がって強かに打ち付けてしまう。
「真昼君っ!?」
その様を目にした瑠璃が思わず声を上げると、
「相変わらずこっちが振り回される・・・」
いててと呻きつつ、身体を起こした真昼は平気だと示すように、瑠璃に向かって片手を上げて見せた。
「とにかく・・・こいつぶっ飛ばして顔を見りゃいいんだな?」
と―――――真昼に続いて、武器である棺桶を担いだ鉄がゴオと勢いよく、ジェジェに向かって突進していく。
が、ジェジェはそれを往なすように、素早く長身の体躯を捻ると、鉄の棺桶を蹴り飛ばして方向転換させてしまう。
その結果、地面に座ったままだった真昼の上に鉄は倒れこんでしまい。
わりい、と鉄が真昼に謝り身体を起こそうとした処で―――――
―――――ガガガガガガガガッ
袖口から銃口を覗かせたジェジェが容赦のない銃弾を連発させてきた。
けれど、間一髪のタイミングで起き上がった鉄が真昼の左足を掴んで自分の前に転がし、さらに棺桶を背中で支えながら立たせたお陰で、銃弾を浴びることはなく済ませることが出来たのだ。
「・・・・・・鉄君の
御国の向かい側に用意された椅子に座った瑠璃は呆然とした表情で呟く。
祭り会場での爆弾処理の時も、ダメージを負ったのは中に居たヒューだけで。
―――――棺桶は全くの無傷だった。
「なんで俺の武器ホウキなんだろ・・・。やっぱり、飛んだりすんのかな―――――・・・」
鉄の武器に庇われる形になった真昼が落ち込んだ様子で項垂れながら言う。
と―――――それに答えたのは御国だった。
「そうだねぇ。『武器』ってのは結構、吸血鬼を拘束するのに適した形のものが多いんだけどね」
御国の言葉が耳朶に届いた真昼がこちらに振り返ってくる。
「〝ミストレス〟である瑠璃ちゃんが持っている『鍵』もまたそれとは異なるものなんだよね」
軽く眉を顰めた御国は、用意したティーポットを右手に持ちながら、二つのカップに紅茶を注ぎ入れると、一つを瑠璃の前に置き。
「ねぇ、瑠璃ちゃん、『鍵』にはどんな役割があると思う?」
「役割、ですか・・・・・・?」
カップに口を付けると、チラリと窺うように視線を向けてきた御国からの問いに対して、瑠璃は胸元の『鍵』を握りしめながら思わず眉を寄せてしまう。
そんな瑠璃の反応に対し、御国はフッと口の端を吊り上げると、
「―――――鍵は開けるモノ。―――――鍵は大切なものを守るモノ。―――――鍵がかかっていれば開けられない。―――――鍵があれば開けられる」
謎かけの様な言葉を御国は紡ぎ出し、話を続ける。
「そして瑠璃ちゃん、キミは真祖の〝花嫁〟に為りうる唯一の存在―――――キミの〝血〟だけでなく〝キミ自身〟の〝全て〟を手に入れて『契約』を結んだ真祖は、主人が居なくとも同等の―――――否、それ以上の力をもしかしたら発揮できるかもしれない」
「・・・・・・『契約』・・・・・・」
戸惑いの表情を浮かべ、瑠璃は御国の顔を見る。
しかし、笑みを浮かべてはいるものの、御国の本心はやはり窺い見ることが出来ない。
「一方で、そんな吸血鬼達と『契約』を結んでいる
けれど、吸血鬼達の事を口にした瞬間、御国の表情は冷ややかなものになる。
―――――ガチャ!
その刹那、テーブルの上に向かって勢いよく飛び乗ってきたのは、静観の体勢を取っていたヒューだった。
「ヒューくん・・・・・・っ!?」
瑠璃が驚愕の声を上げると、チラリとヒューは瑠璃のほうを一瞥したのだが。
すぐに視線を御国のほうに向けると、
「・・・お主、何か勘違いしておるようじゃの」
手にした煙管を御国の眉間に突き付けながら、冷然たる眼差しと口調で話し出す。
「確かに〝ミストレス〟は我らにとって
「この
しかし、ヒューの言葉に対し、御国は横目で鉄を見遣ると、顔を歪めながら嘲笑うように言い返す。
ヒューは御国と話をしても意味がないと思ったのだろう。
修行の手を止めたまま、困惑した面持ちで此方の様子を見ていた真昼をふと見遣ると、
「・・・城田真昼と言ったのう。このような男を師と仰いではいかんぞ。〝ミストレス〟である瑪瑙瑠璃の為にも、我が輩が話してやろう。
「オレが話すよ。もっと
そうはさせまいとするかのように、御国もまたヒューの言葉に被せる様に言葉を紡ぎ出す。
けれど、そんな二人に対して真昼は、
「あ―――――・・・その話はどっちも今はいいや」
頭の中の考えを整理しようとするかのように左手を後頭部に添えると、右手に握りしめていた武器であるホウキに視線を向けながらそう言ったのだ。
そして唖然とした面持ちになったヒューと御国に対し真昼は告げる。
「同じ事柄でも視点が違えば全然違う形に見えちゃうだろ。絶対に客観的な見方なんてきっと誰にもできないから。俺の相棒はクロなんだ。クロ達サーヴァンプの話は〝誰か〟からよりもまずクロから聞きたい」
椿を止める為にクロと一緒に強くなりたいと。
文化祭で桜哉の本心を知った真昼は―――――そう決意をした。
だから―――――
「俺が最初に聞くのはクロが感じた形がいいって思ったんだ」
座り込んだままだったクロに視線を向けると真昼は笑顔でそう宣言した。
すると、クロは微かに冷や汗を浮かべながら、当惑の面持ちで固まってしまう。
そんなクロの様子を目にした瑠璃は椅子から立ち上がるとクロの傍に向かって歩いていき。
「―――――クロ。私も〝ミストレス〟としてまだ、知らないことが色々あると思うから。話せる範囲で構わないから、クロの口から聞かせて貰えたら嬉しいわ」
ふわっと笑みを浮かべながら瑠璃がそう言うと、クロは目を見開いた後に視線を俯かせ。
「・・・・・・向き合えね―――――・・・」
ポツリといつもの口癖の言葉を呟いたのだ。
「クロはすぐそう言う!」
それに対し、すぐさま真昼が突っ込みを入れると、テーブルの上から地面に下りたヒューは「・・・ふむ」と唸り。
「気に入ったぞ!」
そう言うと同時に跳躍すると、トッと真昼の左肩に飛び乗ってきたのだ。
「わっ!?」
不意打ちともいえるヒューの行動に、真昼は目を見開き、驚きの声を上げる。
ヒューはそんな真昼の顔をニヤリと、吸血鬼らしい含みのある笑みを浮かべながら見据えると、
「
と、ヒューは明言した。
けれど―――――
「あくまでも城田真昼と瑪瑙瑠璃にじゃがな!」
あやつは嫌じゃ!! と煙管でビッと御国を指しながらヒューが言うと、それに対して御国もまた舌を突き出してきたのだ。
ほんの少し前のやり取りでは殺伐とした空気を互いに醸し出していたのにも拘わらず、いまはまるで子供同士のケンカのようだと真昼と瑠璃が苦笑を浮かべると。
「鉄! お主の才能を見せてやるがいい!」
ふと、話に加わることをしなかった主人である鉄に向かってヒューは呼び掛けると、
「・・・いいのかよ、人前ではやるなって言うくせに」
「時と場合じゃ。力を見せ合うことは信頼の証じゃよ」
微かに眉を顰めた鉄にヒューは頷きながら告げる。
「・・・へぇ」
それに対して短く声を洩らした鉄が一体何をするのだろうかと、真昼とクロと瑠璃が視線をそちらに向けた直後、信じられない光景を目にする事となる。
棺桶に右手を添えながら立っていた鉄の鍛え上げられた腕の筋肉がビキッとさらに盛り上がり―――――その次の瞬間、棺桶を抱えた状態で鉄は空中に向かって勢いよく跳躍すると、そこで体の向きだけを逆にしながら方向転換を行い、ジェジェ目掛けて空中からの奇襲を仕掛けたのだ。
「ヒューはいつもいいこと言うぜ」
そして鉄がそう呟くと同時に、
―――――ドオ・・・ン
激しい暴風が巻き起こり。
目を開けていることが出来ない状況下に陥った時、咄嗟にクロが右腕に真昼を、左腕に瑠璃を抱えて「あっぶね」と冷や汗を流しつつ、その場から後ろに向かって跳び退いた処で。
「・・・・・・なんだこれ?」
ふと、クロは自分たちの前に防御シールドのようなモノが張られている事に気づき目を瞠る。
その時、瑠璃が首から下げている『鍵』もまた淡い光を瞬かせていた。
そして―――――
「・・・なっ、すご・・・い」
「何が・・・・・・どうなったの・・・・・・?」
真昼と瑠璃が呻くように声を洩らし、薄っすらと目を開けると、防御シールドはフッと消失したのだ。
「瑠璃、いまお前の『鍵』が・・・・・・」
クロはそう言い掛けたのだが、その時、バササッとジェジェが被っていた紙袋三個が勢いよく空に向かって吹き飛ばされていったことにより。
真昼と瑠璃の意識はそちらに向けられていた為、クロは口をつぐんでしまう。
―――――瑠璃が『鍵』の発動に気づいた様子がないのなら言わなくても良いよな・・・・・・。
そして抉れた地面に棺桶を右手に立つ鉄の前には、素顔を晒されたジェジェの姿が在るかと思われたのだが―――――。
「はは・・・惜しいね! 主人だけでその力・・・まぁ鉄クンの才能は認めるよ」
ジェジェの肩の上には見下すような笑みを浮かべた御国が乗っていて、自分の帽子をジェジェに被せることにより素顔を隠してしまっていたのだ。
「でもそんな大振りの技じゃあ、ジェジェのお顔は披露できないな?」
口の端を吊り上げると、意地の悪い笑みを浮かべてそう言った御国に、
「なぜ・・・乗る・・・・・・どけ・・・」
ジェジェがぼそ・・・と怒りながら、ガチャと袖口から銃の先端を覗かせながら突き付ける。
そして御国の言葉に鉄は「そーか」と不服そうに微かに眉を顰める。
しかし、鉄の本領を目の当たりにした真昼はというと―――――
「・・・瑠璃姉! すごいよ! このメンバーなら椿とだってきっと戦える・・・っ。俺・・・まだ全然ついていけてないけどっ・・・。それに御園もいるんだっ。9人そろえばもっと・・・!!」
興奮した面持ちでそう力説を行う。
その後ろではクロが「・・・・・・オレと瑠璃は不参加でも大丈夫そうだと思うけどな」と携帯ゲームをまた片手に呟いていたのだが、当然聞き入れられることはなく。
「そうね、みんなで力を合わせたら・・・・・・」
瑠璃もまた笑顔で真昼に頷き返すとリリイと御国たちのほうに視線を向ける。
けれど、真昼が御園の名前を口にした瞬間、リリイの笑顔が微かに曇り、ジェジェの肩から降りた御国もまた、手元に戻ってきた帽子で表情を隠すかのように被り直した際の仕草には、何となく引っ掛かるものを感じたのだった。
そして―――――
「よーし。クロっ、俺達もやるぞっ」
「めんどくせ―――――・・・」
真昼がホウキを左手に掲げながら宣言し、クロがそれにお決まりの返答をした時。
公園の向かい側にあるビルの屋上には、椿の指示により真昼と瑠璃の監視を行う桜哉の姿が在ったのだ。
『じゃあ・・・桜哉。適当に監視よろしくね』
笑みを浮かべながら椿が桜哉に指示を伝える。
『若!! だめです、こやつを信用しては!! 監視なら私が・・・』
すると椿の傍に控えていたシャムロックが、制するように右手を伸ばしながら、進言しようとしたのだが。
『大丈夫。だってこれは瑠璃と城田真昼の
ニヤッと口元に笑みを浮かべながら椿は告げる。
『そう・・・今、注視しておくべきは
―――――椿さん・・・あの男が一体、瑠璃さんと真昼に何をするって―――――・・・。
屋上の縁に座って、右足を下ろして、左足だけ立てながら、そこに組んだ腕を乗せつつ、二人の様子を見ていた桜哉は、監視に就く前に椿から云われた事を思い出していたのだが。
ふと、視線を御国のほうに向けたその刹那―――――
―――――ドッ
桜哉の全身を悪寒が貫いた。
監視するに中って存在を気づかれないよう、ちゃんと適切な距離は取っていた。
それなのにも拘わらず、御国の冷酷な瞳が桜哉の存在を捉えたのだ。
―――――・・・〝有栖院〟が何だっていうんだよ・・・!?
屋上の内側に瞬時に身を隠した桜哉は蒼白な顔で、は・・・と息を吐き出しながら心中で呻いた。
一方、御国だけでなくジェジェもまた桜哉の存在には気づいていたのだが。
「いいよ、ほっとけ」
そちらから視線を外した御国は、ぼそと小声でジェジェにそう告げたのだった。
<後書き>
お待たせ致しました。修行編、二話目です。
修行に瑠璃も直接参加させるか迷ったのですが、御国さんと話をするのを優先させる事にしました。
御国さんの『鍵』に関する言葉は、ネットで検索して見つけたモノになります。
(※オリジナルの言葉ではありませんのでご承知下さい)
そして瑠璃の『鍵』は修行に間接的に参加した事により、一応新たな『力』防御能力を発動させました。
クロは修行には乗り気ではないことから、瑠璃に伝えることはしなかった為、本人が気づくのはまだ少しだけ先になるかと思うのですが・・・・・。
クロとの関係性も含めて、見守って頂けたら幸いに思います。
朱臣繭子 拝
19・4/12 掲載
