第八章『修行と思惑』
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修行と思惑
「お前、うちの看板猫になるか? 温泉宿にはやっぱ猫だよな―――――」
真昼の家のリビングで、ダイニングテーブルの椅子に座りながら、右手に掴まえた黒猫の頭に自分の首に巻いていた手拭いを畳んで乗せつつ。そう言ったのは夏祭り会場で出会った〝傲慢〟の真祖の主人である鉄だった。
けれど黒猫は掴まえられているのはお気に召さなかったようで、
「はなせ~~~・・・」
に゛ゃ―――――と抗議の声を上げながら、じたじたと身体を動かしていた。
「ごめんね、鉄君。クロのこと放してあげて貰える?」
自室で浴衣から私服に着替えた後、真昼と一緒にキッチンでカレーと付け合わせのサラダを作っていた瑠璃が、嫌がる黒猫の姿を目にして苦笑を浮かべながら言った。
夏祭りで爆破(未遂?)事件をどうにか抑えたあと、騒ぎを避けて真昼と瑠璃たちはとりあえずそこから近い、自宅に鉄を連れて来た。
叔父の徹はこの前、久しぶりに帰ってきたのにも拘らず、またすぐに出張が決まってしまい、出発してしまった為。今はもうここには居ない。
ゆっくりと一緒に過ごす時間が取れなかったのは残念な事ではあるが・・・・・・。
―――――逆によかったかも・・・。
―――――いろいろ説明しづらいし・・・。
リビングのドアから入ってすぐの場所に立てかけられた、ずん・・・と存在感を象徴している棺桶を一瞥した真昼が乾いた笑みを零す。
それから完成したカレーを皿によそうと、瑠璃がサラダと一緒にテーブルまで運んでいく。
鉄の手の中から勢いよく逃げるように抜け出した黒猫は、そのまま瑠璃の肩に着地すると、ホッとした様子で息を吐き出していた。
その姿を視界の片隅に捉えつつ、真昼は残り三人分のカレーをよそったところで、鉄のほうに視線を向けると、
「今日の祭り・・・吸血鬼達が何か仕掛けて来てるって聞いて来たって言ってたけど。そんなこと、どこで聞いたんだよ?」
爆破事件が起こる前。鉄と遭遇した際に言われた事柄を改めて真昼は尋ねかける。
と―――――
「オレはよく知らねぇ・・・ヒューが聞いて来たんだよ」
「『ヒュー』?」
「鉄君と契約している〝傲慢〟の真祖のことじゃないかしら」
眉を顰めた真昼に察した瑠璃が言う。
「あぁ。血も飲ませたしそろそろ回復したんじゃね? ヒュー?」
鉄は棺桶に視線を向けると、その中に居る吸血鬼に向かって呼びかける。
すると、棺桶はガタと微かに揺れ動き。
「当然じゃ・・・我が輩を誰じゃと思っておる?」
ギィ・・・と音を立てて棺桶の蓋が僅かに持ち上がると―――――
「我が輩こそ由緒正しき〝傲慢〟の
フローリングの床に棺桶の蓋が平行に開ききるのと同時に、黒マントにシルクハット、モノクルを身に着けた5歳ぐらいの子供が姿を現したのだ。
「・・・やっぱりかなりダメージが大きかったんだ・・・回復しきれてないじゃん・・・」
末っ子であるリリイでさえも、かなりの長身なのだ。
それに対して、二番目の真祖があの姿というのは・・・・・・。
真昼が何とも言えない面持ちで、マントを翻しながら名乗りを上げた〝傲慢〟の真祖―――――ヒューを見遣ると。
シュタと棺桶の上にヒューは飛び乗った処で、
「完全回復じゃ、愚か者!! この恐ろしい吸血鬼たる我が輩を前に状況すら把握できんようじゃな!!」
天井にシルクハットがぶつかり、頭からずり落ちかけたのだが、何処からともなく取り出した煙管を左手に持ちながら、そう言い放ったヒューはご満悦な様子で。
この家は天井が低いのう!と洩らした処で、ふと視線を瑠璃のほうに向けると、
「そこの娘!! お主が噂に名高い〝ミストレス〟じゃな! そして捜したぞ、スリーピーアッシュ!」
「え、えぇ・・・・・・・初めまして」
「あ? えーと・・・お久しぶり・・・」
外見にそぐわないヒューの口調に呆気に取られつつ瑠璃が応じると、いつの間にか瑠璃の肩から降りて黒猫の姿から人型に戻ったクロもまた、携帯型ゲームをプレイしつつ挨拶を返したのだ。
すると―――――
「我が輩は・・・〝傲慢〟の真祖・・・実は・・・今、大変なことになっておるのじゃ。お主が眠っている間に・・・世界は終末へのカウントダウンを・・・・・・・・・」
仕切り直しをするかのように左手でマントを翻し、口元を覆うようにしながらシリアスな雰囲気を漂わせつつ、ヒューはまた口上を述べ始めたのだが―――――。
それもまた、数秒の間の事だった。
「な―――――んじゃっ。〝ミストレス〟の血の香りとは別に、いいにおいがすると思ったら食事どきであったか! 話は後じゃ! 冷める前に食すのが礼儀じゃ。のう鉄!」
ふわりと漂う食欲をそそるカレーの香りを嗅ぎ取ったヒューは、幼い子供のようにまた表情を輝かせると、右手にスプーンを、左手にフォークを持った状態で、しゅたっと食卓に着いたのだ。
「ヒューはいつもいいこと言うぜ」
鉄はそんな真祖の行動を特に気にした様子もなく、そう言うとヒューが座った椅子の向きを直してやっていた。
しかし、そんなヒューに対して「何なんだお前は!!」と真昼が突っ込みをしたのは言うまでもないことだ。
「・・・えっと・・・ヒューくん・・・でいいのかしら」
五人で食卓に着き、カレーを食べることにした中で、瑠璃が呼び名の確認をすると、
「〝Ⅲ世〟まで名前じゃぞ!」
と、ヒューは眉を顰めたのだが。
「何より吸血鬼たる我が輩を、そのように子供扱いするような呼び名は本来なら許せぬ処じゃが。―――――まぁお主は〝ミストレス〟じゃからの。特別にその様に呼ぶことを許可してやろう」
モノクル越しに瑠璃の姿を捉えたヒューは、真紅の瞳を細めるとそう言ったのだ。
その後は―――――わいわいと賑やかな食事が始まり。
そこでもまた、ヒューは―――――
―――――吸血鬼たるもの、にんにくは嫌じゃぞ!
―――――吸血鬼たるもの、食事には赤ワイン!
―――――吸血鬼たるもの、サラダよりも・・・。
吸血鬼らしさを強調する発言を繰り返したのだが。
「・・・お前ワガママだけどダントツで吸血鬼っぽくてなんか安心するよ」
それに対して真昼は突っ込みを返すことはせず、しみじみとした口調でそう言ったのだ。
それはこれまで顔を合わせてきた真祖がみな、吸血鬼らしさを感じさせない面子ばかりだったからなのだろう。
その後―――――
ヒューの主人である鉄もまた唐突に食事の途中で席を立つと、
「今日サッカーの試合やってんだ。テレビ貸して」
と言ってテレビの前に腰を据えた際には「お前はくつろぎすぎ」と再び真昼は突っ込みを入れたのだが。
「吸血鬼たるもの、人間ごときの遊戯で熱くなったりなど・・・」
翻したマントで口元を覆いながら、件の台詞を口にしたヒューもまた。
「あっチャンス!! いけ!! 入れろ!!」
盛り上がりを見せる試合画面に向かって、鉄が歓声を上げると、すぐさま鉄の肩の上によじ登って一緒にサッカー観戦を始めたのだ。
ヒューの振舞いは確かに吸血鬼らしいものではあるが、しかし子供の容姿そのままの部分も、やはり内面には備わっているらしい。
―――――が、このままでは一向に話が進まないままだ。
「ねぇ、ヒューくん。クロに何か用事があって、探していたのよね?」
やきもきした様子になってしまった真昼に代わり瑠璃が尋ねかけた。
すると何か思う処でもあったのだろうか。
「おお・・・そうじゃな。まず我が輩が鉄と出会った時の話をしてやろう!」
表情を輝かせながら、そう言ったヒューに「えっ。そこから?! なんで?!」と真昼がまた突っ込みを入れたのだが、それは聞き入れられることはなく。
「良い血の気配を頼りに我が輩は
―――――傲慢の真祖による、回想録が始まる事となる。
ざわ、と黒い影を纏わりつかせながら、宵闇の中を主人とするに相応しい人間を探し求めて、彷徨っていた傲慢の真祖が辿り着いたのはとある温泉宿の前だった。
『―――――客か? 一泊
そこで傲慢の真祖に声を掛けてきたのが、その温泉宿の跡取り息子の鉄であった。
そうして傲慢の真祖が案内されたのは、大人数でも泊まることが可能な温泉宿らしい落ち着いた間取りで、大きな窓がある和室だった。
普通の客ならば、一人なのにも拘らず同じ料金で、そんな良い部屋に通されれば喜ぶものだろう。
けれど―――――
『こんな日差しの入りそうな部屋など泊まれぬわ! 吸血鬼たるもの眠りには漆黒の闇が必要じゃ!』
吸血鬼であることに誇りを持っている傲慢の真祖は、憤慨しながら卓袱台の上に立つと、愛用の煙管を右手に窓に向かって突き付けながら、自身のポリシーを主張したのだ。
『吸血鬼? あんたが?』
その言葉を聞き、目を瞬かせた鉄は眉を顰めると、ん―――――・・・と暫しの間、思案をめぐらせるように目線を上に向けていたのだが。
『待ってな』
やがてそう言い残すと、踵を返して部屋を後にした鉄は―――――
幾枚かのベニヤ板を右手に担ぎ、左手にはトンカチを構え、口には幾本かの釘を加えて、部屋の外の窓の前にやって来た。
そして―――――
―――――ガン! ガン! ガン! ガン! ガン!
窓に板を当てると、左足でそれを押さえながら、トンカチで釘を打ち付け始めたのだ。
『てっ・・・鉄!? そこは一番日当たりのいい部屋・・・っ』
聴こえてきた大きな音に、何事かと顔を覗かせた、宿の主人である鉄の父親が『何をしてるっ』と血相を変えて奇行としか思えない息子の行動を止めようとしたというのは無理もない話だろう。
「それが・・・出会いじゃった・・・。鉄は大ばか者じゃが、血・身体能力・感性。どれをとっても最上級の素材じゃ。一目で気に入ってのう!」
得意げな面持ちで語り終えたヒューに「その話が何・・・??」と真昼が眉を顰める。
するとヒューは少し前まで自分が眠っていた棺桶を一瞥し、
「あの立派な
「えっ。あの棺桶って武器だったの!?」
明らかになった真実に驚愕の表情を浮かべた真昼に次いで、
「だからあんなに丈夫だったのね・・・・・・」
瑠璃もまた目を瞠りながら呟くと、鉄は淡々とした口調で告げてくる。
「一度出したら消し方わかんなくてよ。どうせだから実家の宣伝してんだ」
棺桶に書かれた文字は自分でペンキを使って書いたのだと言う。
外見だけでなく、器もまた鉄は大きいらしい。
開いた口が塞がらない、そんな面持ちで真昼は鉄を見遣ると、
「でも・・・鉄って順応性高いなぁ。こんな強引に巻き込まれて・・・」
「客が吸血鬼だろーが・・・宿に泊めねぇで追い返したりしねぇだろ。朝日が入りにくい部屋を用意してやんのがオレの仕事だ」
さも当然だと言わんばかりに鉄は眉を顰めながら告げてくる。
「観光業は平和じゃねーと成り立たねーからよ。オレが平和のために行動すんのは普通だろ?」
何処までも真っ直ぐで、飾り気のない鉄の言葉に、ふと瑠璃は口元を綻ばせると、真昼のほうを見る。
―――――鉄君ならきっと私たちの心強い仲間になってくれる。
真昼は瑠璃に小さく頷き返すと、
「・・・あのさ、俺・・・明日から吸血鬼に詳しい人と修行を始めるんだ。武器の扱い方とか教えて貰えると思う。鉄達も・・・来るか?」
切り出した提案にきょとんとした面持ちになったヒューと鉄に真昼は言う。
「鉄ももう夏休みだろ? よければ泊まってけよ!」
「そうね、もう遅いし」
真昼の言葉に瑠璃も笑顔で同意を示すと、
「やっぱ、あんた達いい奴だな」
「うむ。さすが〝ミストレス〟じゃな」
鉄とヒューは泊まる事を受諾したのだが。
そのやり取りに対して、やはりクロだけは気乗りしない面持ちで、
「気に入っちまった・・・めんどくせー・・・」
シンプルだからか・・・と溜息を洩らしたのだった。
客間として使える部屋は空きが無い為、徹の部屋の布団を予備のモノに変えて、そこを鉄とヒューに使って貰う事にした後。
お風呂は、鉄とヒュー。クロ、瑠璃、真昼―――――この順番で入浴を済ませることになり。
クロの後に入浴を終えた瑠璃が自室に戻ると、狐と猫のぬいぐるみが居るベッドの上に。
さらにもう一匹―――――黒猫の姿が増えていたのだ。
「―――――・・・・・クロ?」
ベッドに近づいた処で瑠璃が名前を呼ぶと、ピクッと黒猫は耳を動かし、
「ニャ~・・・・・・」
と声を洩らしたものの、目を開ける様子はなく。
どうやら、完全に寝入っているようだった。
「やっぱり、そっくりよね・・・・・・」
黒猫の寝姿を見ながら笑みを零した瑠璃は、ベッドの脇に置いていた鞄からスマホを取り出すと、ぬいぐるみたちと共に眠っている黒猫の写真を一枚撮影した。
それから、ふと眉を下げると―――――
ベッドに腰掛けた処で爆破事件が起こる直前、桜哉から届いたメール画面を開いた。
「・・・・・・」
暫しの間、何とも言えない面持ちで画面に視線を落としていた瑠璃は、
【―――――桜哉君、ありがとう。それから、ごめんなさい・・・・・・】
キュッと口元を引き結ぶと、返信画面を開き、その一文を入力した。
そしてシャムロックに撮って貰った、〝真昼とクロと一緒に映っている写真〟を添付した処でメールの送信を行ったのだ。
―――――憂鬱組の拠点を去る前に椿達と一緒に撮った『家族写真』は私の手元にはない。
―――――だからこそ、シャムロックさんに撮って貰った、『クロと真昼君との写真』を送るのはある意味私自身の決意表明のようなものだ。
―――――これから先、椿との〝直接対決〟を避けることは出来ないかもしれない。
―――――けれど、その時が来たら、私はクロと真昼君と一緒に、きっと椿の事は〝止めて見せる〟から。
―――――そんな想いを込めて―――――
それからベッドに瑠璃も入ると、丸くなっていた黒猫をそっと腕の中に抱き寄せた処で―――――部屋の灯りを消灯した。
「―――――クロ、明日から一緒に頑張ろうね」
そして静かな声で瑠璃は黒猫にそう囁くと目を閉じて眠りに就いたのだ。
やがて、瑠璃の口から静かな寝息が洩れだした時―――――瑠璃の腕の中に居た黒猫は小さく身じろぎをすると、ポフンという音とともに人型に戻っていた。
「―――――・・・・・・向き合えねー・・・・・・」
それによりクロの腕の中に今度は無防備に眠る瑠璃が収まることになる。
柔らかな温もりと鼓動に意識を傾けつつ、クロはそっと瑠璃に口付けると髪を撫でながら言った。
「・・・・・・瑠璃、出来る事ならオレは吸血鬼達のことに、お前をこれ以上関わらせたくはねーんだけどな」
―――――あの〝組織〟に瑠璃まで目を付けられたら。
―――――間違いなく厄介なことになるだろう。
―――――けれど、この温もりと鼓動を自分から手放すことはもう出来ない。
自身の中に或る――――――相反する感情。
それは祭りの最中に抱いた―――――〝瑠璃の事をもっと知りたい〟―――――けれど〝自分の過去は話せない〟。
―――――それと同じだ。
そんな自問自答をクロがしていると、ふとまた心の奥底から声が聴こえてくる。
―――――そうだよね。あのことを瑠璃が知ったら今度は〝自分の意志〟でキミの傍からいなくなっちゃかもしれないもんね?―――――
「・・・・・・うるせーなぁ・・・・・・」
顔を顰めたクロに対して、心の奥底でクロの一部である『力』はひっそりと笑い声を洩らした。
―――――だけど、大丈夫だよ? ボクの口からは言うつもりはないから。何よりキミには瑠璃と『契約』までちゃんと、辿り着いて貰わないとね?―――――
<後書き>
今月、二回目の更新になります。
後半部分の傲慢組が泊まることになった後の展開をどうするか迷ったのですが・・・・・・。
原作を読み直し、とりあえずこの内容で掲載させて頂く運びとなりました。
読んで下さる方々には、本当に心より感謝を申し上げます。
朱臣繭子 拝
19・3/24 掲載
