第七章『遭遇』
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「えっと・・・・・・すみません。この先は祭りで通行止めなんです。お車でお越しの方は離れた駐車場があるので―――――・・・」
祭り実行委員という文字が両サイドに入った法被を羽織って、ボランティア活動に尽力する事となった真昼に与えられた主な役割は交通整理だった。
けれど―――――
そこに御園の専属運転手である洞堂が車でやって来て、お祭りの屋台の食べ物―――――綿菓子15個、たこ焼き15個、クレープ15個・・・などなど。
大量のそれらを有栖院家の下位の子供たちから買ってきて欲しいと言われたのだという話を聞かされた真昼は、
「買うものリスト貸して下さい。すぐ俺が買って来ます」
と駐車場までは距離があるということから、洞堂に代わって屋台まで走り。
その後は―――――
「えっ、迷子?! 誰と一緒に来たの? 一緒に探そうっ」
泣いている幼い女の子を宥めつつ、保護者を一緒に探したり。
「えぇっ、サイフ落とした?!」
財布の落とし主が杖を着いた老人であったことから、代わりに本部にそれが届けられていないか確認に走ったり。
「打ち上げ花火はここじゃ見にくいですよっ。お父さん、場所取りなら急がないと・・・っ」
花火の場所取りまでも、手伝ったり。
「えっ、一番おいしいクレープ屋を探してる?!」
さらには、お店のリサーチまで行ったり。
「契約した事業内容以上のことを率先してやる・・・さすが残業大国ニッポン・・・」
ヨーヨー釣りと射的―――――ゲーム系の屋台で遊んだ後は、祭りの醍醐味とも言える、屋台の食べ物の味も少し楽しんでから、真昼の処にクロと瑠璃はやって来たのだが―――――。
疲弊した様子の真昼から、事情を聞いた処でクロが洩らしたのがその言葉だった。
「でも困っている人を見過ごせないっていうのは真昼君の長所でもある訳だから・・・・・・」
眉を下げつつ、やんわりとクロを窘めるように口を開いた瑠璃は、購入してきたオレンジ味のカキ氷を真昼に差し出す。
「お疲れ様、真昼君。これ食べて、一息ついてね」
打ち上げ花火が始まる時間が近づいてきたおかげで、見づらいこの場所は人通りも少なくなってきている。
いまなら休憩をしていても大丈夫だろう。
「・・・・・・ありがとう、瑠璃姉」
お礼を言って瑠璃からカキ氷を受け取った真昼が、疲れたな―――――と洩らしながら橋のたもとに腰を下ろすと、
「余計なことまで手を出すからだろ。ここで交通整理だけしときゃいいのに」
自分と瑠璃の分のカキ氷を持っていたクロは、欄干に背を預けながら「世話焼きめ」と呆れたように呟いた。
「クロはすぐ、そーやってめんどくさがる・・・」
眉を顰めながら真昼がジト目でクロを見遣ると、
「ふふっ、そうね・・・・・・。でもね、真昼君。この子たちを獲得できたのはクロが協力してくれたおかげなのよ」
片腕に二匹のぬいぐるみを抱きなおし、クロから抹茶味のカキ氷を受け取った瑠璃が微苦笑を零しながら言う。
と―――――
ぬいぐるみに目を向けた真昼は戸惑ったような面持ちとなり、
「―――――・・・・・・やっぱり似てるな」
呟くような口調で言った。
瑠璃がクロと共にこちらに来た時、腕に抱かれた『黒猫』と『狐』のぬいぐるみを目にした刹那、その時も思わずギョッとなってしまったのだが・・・・・・。
心中に抱いた何とも言えない感情を誤魔化すように、真昼はカキ氷を一口スプーンで掬って食べると、
「瑠璃姉が、ちゃんとお祭りを満喫できたんなら良かったよ。露木先輩のこと、下位吸血鬼かも・・・祭りなんて罠かもって少し疑ったけど。でも今日のはただ生徒会としてのことだったのかもな」
学校で露木と真昼が遭遇した際の話は瑠璃も耳にはしている。
けれど―――――
真昼の傍らにしゃがんで、膝の上にぬいぐるみを乗せた瑠璃もまた、カキ氷を少しずつ食べながら
「確かに露木君は、何というか・・・・・・〝一般の人〟とは異なる雰囲気を纏った人だけど。恐らく彼は、〝違う〟んじゃないかしら」
「そうだな・・・・・・それにもし吸血鬼だとしても・・・今は大体の奴は普通に人にまぎれて人生エンジョイしてるからな」
瑠璃が小首を傾げると、イチゴ味のカキ氷を食べ始めたクロが頷きながら言った。
「エンジョイ・・・」
お前もそうだもんなと真昼がクロに視線を向けながらぼやく。
真昼からの視線を受け流すように、カキ氷を食べる手を止めたクロは、ふと目線を上に向けると、
「あんまり何もかも疑って身動き取れなくなるってのもお前らしくねーし・・・まぁ今までどおりでいいんじゃね・・・?」
「クロ・・・もしかしてお前、そんなふうに思ってたから学校でも気ままに振舞って・・・それを俺に伝えようと・・・・・・?」
クロの言葉に真昼は目を瞠りながら言う。
するとクロは居心地が悪そうに視線を彷徨わせ、
「あ、いや・・・前言撤回。お前はもっといろいろ疑え・・・余計な行動はしない感じのほうがいいな・・・」
「何なんだよ! ちょっとじーんとしちゃったじゃねーか」
クロの言動に振り回される形になってしまった真昼がツッコミを入れる。
「大丈夫よ、真昼君。無理に自分の在り様を変える必要は無いと思うわよ」
すっかりいつも通りの雰囲気に戻った真昼を見て、瑠璃はフフッと笑いを零しつつ言う。
「ねぇ、この話はとりあえず終わりにして。カキ氷を食べ終わったらせっかくだから三人で写真を撮らない? 真昼君は一緒にお祭りは回れなかったけれど、こうして三人で過ごせているから『夏の思い出』の一つとして」
それから笑顔で真昼とクロに交互に視線を向けた瑠璃がそう提案すると、
「そうだな、せっかく瑠璃姉が浴衣を着てるんだし!」
「おぅ、別に良いぞ・・・・・・」
真昼とクロからはすぐさま賛同を貰う事が出来たので、瑠璃は自身のスマホを巾着の中から取り出して準備しようとしたのだが―――――。
その時、ふいに誰かに見られているような気配を感じ、瑠璃は目を瞬かせた。
黒い〝影〟が、此方に向かって近づいて来る。
刹那―――――路の向こう側から現れたのは外国人の様な容姿をした、オールバックの髪に、右目に黒い蝙蝠の羽根の様な形の眼帯をした男。
「・・・・・・っ!?」
その男の姿を目にした瞬間、瑠璃は思わず目を見開いてしまう。
―――――シャムロックさん!?
「え・・・?」
そして呆然とした面持ちでシャムロックを見上げたのは真昼だった。
しかし、真昼がそんな反応をしたのはシャムロックの〝正体〟を知っていたからではなく。
すぐ傍で立ち止まった隻眼の男―――――シャムロックが、手にしていた銀色のアタッシュケースを徐に目前へ突き出してきたからだった。
「すみません。こちら、拾ったんですが」
「・・・えっ、アタッシュケース・・・ですか?」
「落とし物なのでしょうが・・・本部の場所がわからなくて」
「あ・・・じゃあ俺、届けますよ」
有無を言わせぬ笑みを浮かべながら、困ったような口ぶりで事情を述べてきたシャムロックに対し、真昼は呆気に取られつつも、そのままアタッシュケースを受け取ると。
シャムロックはさらに念を押すように、
「・・・花火の時間までにはお願いしますね」
そんな言い含めるような言葉を口にしてきた。
それからふと、真昼の隣で困惑の表情を浮かべていた瑠璃に視線を向けると、
「―――――お嬢様。せっかくの楽しい時間を中断させてしまうことになり、申し訳ありません。そのお詫びにご承諾を頂けるようならば、私がお写真をお撮り致します」
威圧的な態度から一変して、右手を胸に添えながら慇懃な態度でそう告げてきたのだ。
真昼やクロが一緒だからなのだろう。
呼び名に敬称を付けてきてはいるものの、シャムロックから感じられる雰囲気は―――――瑠璃が憂鬱組の拠点に居た時に共に過ごしていた時のものと変わらぬままで。
〝―――――お嬢。もしも何かお困りのことが御座いましたら、ご連絡いただければすぐに、このシャムロックが馳せ参じますので―――――〟
憂鬱組の拠点から出発する日に、シャムロックから告げられた言葉が瑠璃の心の奥に響き渡る。
ふと、瑠璃は口元を綻ばせると―――――
「―――――有難う御座います。それじゃあ、お願いしても良いですか?」
そう言って自分のスマホをシャムロックに差し出したのだ。
真昼、瑠璃、クロ―――――三人で並んだ記念写真を一枚。
さらに真昼の提案により―――――瑠璃とクロが一緒に映っている写真を一枚。
それとは別にシャムロックが自身の携帯で一枚、狐と猫のぬいぐるみを抱いた瑠璃が一人だけで映っている写真も撮り終えると。
「―――――それでは、お嬢様。私はこれで失礼致します」
瑠璃に対する態度だけは、最後まで変えぬまま。別れの言葉とともに、シャムロックは去っていった。
「・・・・・・何か少し変わった、外国の人?・・・・・・だったな」
眉を寄せつつ、呆気に取られた面持ちで真昼が呟く。
眼帯のインパクトも凄かったが、何より、瑠璃に対するあの慇懃な様子。
外国人=女性にだけはああも礼儀正しいものなのだろうか。
首を捻りつつも、ともあれ落とし物を届けに行かなければと真昼は思考を切り替えると、
「じゃっ。俺、これ届けて来ちゃうよ!」
「オイ・・・離れ過ぎんなよ。吸血鬼と主人はキョリがあくと・・・」
クロが真昼に注意を促す言葉を口にしかけたのだが。
「いまさら何言ってんだよ、すぐそこだし平気だろ! クロこそ、瑠璃姉の傍にちゃんといるんだぞ!!」
そう言うとすぐさま踵を返して、たっと真昼は走って行ってしまう。
「危機感のねー奴・・・」
クロがぼやきながら、は―――――・・・と溜息を吐き出す。
その隣で瑠璃は、ふと目を瞬かせると、短く震えた手の中のスマホに視線を落とす。
―――――メール受信『綿貫桜哉』―――――
「・・・・・・桜哉君・・・・・・!?」
と―――――通知を確認した瑠璃は、思わず驚愕の声を洩らしてしまう。
―――――文化祭の日を最後に桜哉とは会うことはなく。
―――――連絡もまた互いに取り合うことはなかった。
「―――――・・・・・・瑠璃、外ハネから連絡が来たのか?」
瑠璃の口から紡ぎ出された名前を耳朶で聞き取ったクロが、眉を寄せながら視線を向けてくる。
「・・・・・・えぇ」
瑠璃はクロの目を見つめ返すと、そっと首を縦に振り、受信メールをタップする。
【―――――・・・・・・瑠璃さん、祭り会場には戻らないで下さい】
桜哉からのメッセージは、その一文だけだった。
けれどそれは―――――祭り会場で〝何かが起こる〟という――――――警告を暗示するモノに他ならないだろう。
これを送ってきたのは桜哉の独断なのか。それとも―――――・・・・・・
―――――何だか、胸騒ぎがする。
瑠璃の意識の内に、先に姿を見せたシャムロックが、落とし物だと言って真昼に託してきた『アタッシュケース』の事が思い出される。
〝―――――花火の時間までにはお願いしますね―――――〟
もしも、あれに何らかの〝仕掛け〟が施されているとしたら―――――。
自分に対して、変わらぬ雰囲気のままだった、シャムロックに対し、〝警戒〟するのではなく、『家族』として〝気を許して〟しまった。
けれど―――――
シャムロックは椿の『腹心』の立場に在る人物なのだ。
「クロ! 真昼君の処に行って!! 多分、あの『アタッシュケース』・・・・・・っ」
顔色を変えた瑠璃が、そう言った刹那。
―――――ドッ
大きな火柱が祭り会場の一角で立ち昇ったのだ。
「銀色のアタッシュケースが爆発したって・・・!」
落とし物として預かった『銀色のアタッシュケース』を、祭り会場の本部に届けに向かおうとしていた真昼は、騒然となった会場内で耳朶に届いた情報に、自身が手にしていたそれに視線を向けると、ブリキ人形のように、愕然とした面持ちのまま、一瞬固まってしまう。
そして―――――
「うそだろっ。まさか・・・これも爆弾!?」
「・・・あんた爆弾魔だったのか?」
血相を変えて叫んだ真昼に、眉を顰めながらそう尋ねかけてきたのは―――――真昼が祭り会場の本部に向かう途中。無くし物を探しているのだという話を聞いて、一緒に行動をすることになった、金髪で両サイドにヘアピンを付けていて、首には〝ゆ〟と書かれたタオルを下げた、大柄な体系の青年だった。
「違う!!」
すぐさま否定の言葉を返した真昼の意識に、落とし物だと言ってアタッシュケースを託してきた隻眼の男―――――〝シャムロック〟の姿が浮かび上がる。
―――――・・・あの眼帯の男が吸血鬼だったのか!?
「・・・ああもう俺・・・っ・・・疑うの向いてねぇなぁ・・・っ」
―――――〝花火の時間までにはお願いしますね〟
切羽詰まった顔で呻いた真昼は、アタッシュケースを預かった際に、言われた言葉を思い出す。
それから自身のスマホで時刻を確認すると、焦燥感に苛まれながら思考を巡らせていく。
―――――花火が・・・始まるのは8時半。
―――――その時間に爆発するんだとしたらあと1分・・・!?
―――――・・・どうしよう・・・クロと瑠璃姉を呼んで遠くに運ぶ!?
―――――でも・・・この人が何者なのかもまわりにどれだけ吸血鬼がひそんでるかもわかんねぇ。
―――――そんな状態で・・・クロと瑠璃姉を呼んで力を使っていいのか・・・・・・。
『答』を出せない真昼の心の内に、クロと瑠璃から掛けられた言葉が浮んでくる。
―――――〝あんまり何もかも疑って身動き取れなくなるってのもお前らしくねーし〟
―――――〝無理に自分の在り様を変える必要は無いと思うわよ〟
呆然と目を見開いた真昼は、自分の前に立っている正体不明の青年を見据えると―――――
「なぁっ・・・あんなのこと悪い奴じゃないって信じていいか!?」
「別にいいぜ」
目を瞬かせた青年は、表情を変えることなく、堂々とした態度でそう言った。
それにより真昼が出した『答』は―――――
「どうせ疑えないなら信じたい・・・っ。もし騙されてもその時どうにかするっ。そのほうがシンプルだ」
―――――揺らがぬ信念を貫くもので。
「お―――――そーゆーのいいじゃん」
青年がまた、変わらぬ声のトーンのまま、真昼の言葉に同意するようにそう呟くと。
「クロ!! 瑠璃姉!!」
真昼は二人の名を叫んだ。
その刹那―――――
バッと木の陰から跳躍しながら現れたのは、相棒である『吸血鬼』と、その腕の中に抱きかかえられた『姉』だった。
「クロ・・・っ、瑠璃姉・・・っ」
二人の傍に真昼は走りよると、
「―――――真昼君!! さっきの爆発はもしかして・・・・・・っ」
「そうなんだよ、瑠璃姉!! さっきのケースが爆弾かもで大変なんだっ」
クロの腕の中から地面に降り立った瑠璃に対して、真昼は頷き返すと要点だけを口にしてきた。
そんな姉弟だけで通じ合っているやり取りに、「落ち着けよ、意味が・・・」とクロが眉を顰める。
と―――――
「手伝ってくれっ」
そういう言うや否や、真昼はクロの口元に向かって右腕を突き出してきたのだ。
「あ―――――?? 血を飲むのか? めんどくせ・・・」
仕方がないという態度でクロが真昼の腕に噛みつくと、二人の間に主従の証の鎖が現れる。
「・・・・・・そのケースをどっか遠くに運べってのか。猫使いの荒い奴め・・・」
口の端に垂れた血を手の甲で拭ったクロに瑠璃が言う。
「クロ、私が『鍵』を使って爆弾をどこか人が居ない処に運ぶのは―――――」
「否、時間が無いみたいだしな。瑠璃、オレが空まで運ぶからここで待ってろ」
しかし、瑠璃に対してそうクロは答えると、右手で真昼を小脇に抱え、左手にトランクを持って跳躍していってしまう。
「お前っ、飛ぶ前に一言言えよっ」
真昼の叫び声が空に響き渡る。
空を仰ぎ見た人たちは、常人ではない存在を目にした事で、唖然とした面持ちになっていたのだが―――――。
「サーヴァンプ ・・・」
その中で、唯一人だけ、やはり動じることなくそう呟いたのは真昼と一緒に居た青年だった。
「・・・・・・え?」
吸血鬼 の存在を一般の人間が知っていることはありえない。
当惑の面持ちで瑠璃が振り返ると、
「なぁ、あんた・・・・・・アレってそうなんだろ?」
ジッとこちらを見つめてくる青年の瞳は真っ直ぐなもので。
「―――――あんたも吸血鬼の〝主人〟なのか?」
青年からそう問いかけられたことにより、瑠璃は一つの『答』を導き出す。
彼もまた〝吸血鬼の主人〟なのだ、と―――――。
そして『敵』ではなく、おそらくは『味方』になるであろう青年に瑠璃は告げる。
「私は〝主人〟ではないわ。〝怠惰〟の真祖―――――彼の〝ミストレス〟よ」
「・・・・・・〝ミストレス〟?」
首を傾げる仕草をした青年は、
「あ、そうか・・・・・・あんたがあいつの言ってた吸血鬼の〝花嫁〟ってやつか」
納得した様子で、左手の平をポンと握った右手で打つと。
ふと、先程、クロと瑠璃が降り立った木の陰の近くに歩み寄っていき―――――。
「こんなとこに置いてたのか」
そこから青年が担ぎ上げてきたのは、巨大な漆黒の棺だった。
「え? ・・・・・・棺桶?」
―――――何故、そんなモノを彼は抱えているのだろうか?
瑠璃が目を瞠った、その刹那―――――
「早い早い早い!! たぶん8時半に爆発するんだよっ。あと10秒くらいある!!」
空中から真昼の叫び声がまた聞こえてきたのだ。
視線をそちらに向けると、クロが持っていたアタッシュケースを、空中に投げた処だった。
「いや大丈夫だって・・・こーゆーのは大体、空気読んで空中で爆発するもんだから・・・」
顔面蒼白の真昼と対照的にクロは平然としたままだったのだが。
ひゅう・・・とアタッシュケースは弧を描くと、そのまま落下を始めてしまい。
「キャッチしてる間に爆発したらやだな―――――・・・」
は―――――しょうがね―――――・・・とぼやきつつ、トッと地面にクロは降り立つと、小脇に抱えられていた真昼はそのまま地面に投げ出され。
受け身を取る余裕などなく、倒れこんでしまう。
―――――以前にも一度、見た光景だ。
その様は気の毒ではあるが、いまはそれどころではない。
「クロっ、やっぱり私が・・・・・!!」
『鍵』を手にした瑠璃がそう言いかけた処で、
「貸せよ」
それを制するように青年は瑠璃の前に出ると、担いでいた棺桶の蓋を開け放ち、態勢を低く下げていく。
ガコッと音を立てて、アタッシュケースが棺桶の中に着地する。
―――――バンッ
そこで勢いよく、棺桶の蓋を青年は閉じると、
「あっ!? さっきの人」
状態を起こした真昼はその様子を目にして、愕然とした面持ちで声を上げる。
「えっ、中に・・・!? 何する気だよ!? 危ないから早く離れ・・・っ」
「問題ねえよ・・・見てな。オレの棺桶は誰にも壊せねぇ」
しかし、青年は動じることなく、抑揚のない口調でそう言うと、徐に棺桶を掲げていく。
―――――タイムリミットである、8時半を迎える。
―――――そして夜空に色鮮やかな〝華〟が咲き誇る。
その時―――――その光景に心を躍らせた二人の吸血鬼の姿が在った。
「―――――・・・若!! 見ておられますか、若・・・!!」
一人は〝憂鬱〟の下位 である隻眼の吸血鬼―――――シャムロック。
花火会場から程近い、電柱の上に立ちながら―――――
「―――――我らの〝葬儀〟開演でございます!!」
もう一人は〝憂鬱〟の真祖 ―――――椿。
拠点がある建物の屋上の縁に座りながら左足で壁を蹴ってコンと下駄を打ち鳴らすと―――――
「さあさあ世界、あーそびーましょ―――――?」
〝ミストレス〟である彼女が〝憂鬱〟の彼らの事を『家族』として大事に想っているように。
〝憂鬱〟の彼らもまた〝ミストレス〟である彼女の事を想う気持ちは変わってはいない。
けれどこの日を境に両者の歩む道は、今度こそ本当に分かたれる事となる。
そして―――――
その日、祭り会場にて、〝怠惰〟の真祖―――――彼の〝ミストレス〟である瑠璃が新たに出会った、棺桶を担いだ青年の正体は―――――
「千駄ヶ谷 鉄。温泉宿の跡取り息子だ」
並外れた体力の持ち主である青年―――――鉄はそう名乗ったのだ。
鉄が手にしている棺桶には、『おいでませ、白ノ湯温泉』という文字が書かれていた。
しかし、温泉宿と棺桶というのはあまりにミスマッチだ。
困惑する、真昼とクロと瑠璃の目の前で、ギィ・・・いう音とともに棺桶の扉が僅かに開くと、焦げ臭い匂いとともに呻き声が聴こえてきた。
「ば・・・かもの・・・・・・我が輩を差し置いて・・・先に名乗るとは何事じゃ・・・。我が・・・輩・・・は・・・・・・」
「うわあ!? 棺桶から何か出てきた・・・っ」
地面に座り込んだままだった真昼の足元に、棺桶の隙間から黒コゲになった何かがポテッと落ちてくる。
「あ―――――・・・やべ。吸血鬼 が中で寝てんの忘れてた」
それにも鉄は動じることなく、視線をそちらに向けながら、右手を後頭部に添える仕草をすると、ドンマイ、まぁ不死だしと呟く。
「えぇ!? もしかしてこの黒コゲのは・・・」
その言葉を耳にした真昼は唖然とした面持ちになりながら、鉄を横目で見る。
鉄が吸血鬼の主人だとしたら―――――
瑠璃はクロのほうに伺うように視線を向ける。
と―――――
「お―――――・・・久しぶり・・・〝傲慢〟の真祖 。〝古き良き時代の忘れ者 〟」
黒コゲになった蝙蝠に対して、クロはそう呼び掛けたのだ。
<後書き>
物語を進めるに中って、シャムロックと既に拠点で瑠璃は面識があった事からどうするか相当迷ったのですが・・・。
椿からの指示とは別に『お嬢』の為にの精神で何とか動いて貰うことが出来ました。
二枚目の写真は、恐らく椿へのお土産ですね。
この後も、不定期更新となってしまうと思うのですが、どうか長い目でお付き合い頂けましたら幸いに思います。
朱臣繭子 拝
19・3/2 掲載
祭り実行委員という文字が両サイドに入った法被を羽織って、ボランティア活動に尽力する事となった真昼に与えられた主な役割は交通整理だった。
けれど―――――
そこに御園の専属運転手である洞堂が車でやって来て、お祭りの屋台の食べ物―――――綿菓子15個、たこ焼き15個、クレープ15個・・・などなど。
大量のそれらを有栖院家の下位の子供たちから買ってきて欲しいと言われたのだという話を聞かされた真昼は、
「買うものリスト貸して下さい。すぐ俺が買って来ます」
と駐車場までは距離があるということから、洞堂に代わって屋台まで走り。
その後は―――――
「えっ、迷子?! 誰と一緒に来たの? 一緒に探そうっ」
泣いている幼い女の子を宥めつつ、保護者を一緒に探したり。
「えぇっ、サイフ落とした?!」
財布の落とし主が杖を着いた老人であったことから、代わりに本部にそれが届けられていないか確認に走ったり。
「打ち上げ花火はここじゃ見にくいですよっ。お父さん、場所取りなら急がないと・・・っ」
花火の場所取りまでも、手伝ったり。
「えっ、一番おいしいクレープ屋を探してる?!」
さらには、お店のリサーチまで行ったり。
「契約した事業内容以上のことを率先してやる・・・さすが残業大国ニッポン・・・」
ヨーヨー釣りと射的―――――ゲーム系の屋台で遊んだ後は、祭りの醍醐味とも言える、屋台の食べ物の味も少し楽しんでから、真昼の処にクロと瑠璃はやって来たのだが―――――。
疲弊した様子の真昼から、事情を聞いた処でクロが洩らしたのがその言葉だった。
「でも困っている人を見過ごせないっていうのは真昼君の長所でもある訳だから・・・・・・」
眉を下げつつ、やんわりとクロを窘めるように口を開いた瑠璃は、購入してきたオレンジ味のカキ氷を真昼に差し出す。
「お疲れ様、真昼君。これ食べて、一息ついてね」
打ち上げ花火が始まる時間が近づいてきたおかげで、見づらいこの場所は人通りも少なくなってきている。
いまなら休憩をしていても大丈夫だろう。
「・・・・・・ありがとう、瑠璃姉」
お礼を言って瑠璃からカキ氷を受け取った真昼が、疲れたな―――――と洩らしながら橋のたもとに腰を下ろすと、
「余計なことまで手を出すからだろ。ここで交通整理だけしときゃいいのに」
自分と瑠璃の分のカキ氷を持っていたクロは、欄干に背を預けながら「世話焼きめ」と呆れたように呟いた。
「クロはすぐ、そーやってめんどくさがる・・・」
眉を顰めながら真昼がジト目でクロを見遣ると、
「ふふっ、そうね・・・・・・。でもね、真昼君。この子たちを獲得できたのはクロが協力してくれたおかげなのよ」
片腕に二匹のぬいぐるみを抱きなおし、クロから抹茶味のカキ氷を受け取った瑠璃が微苦笑を零しながら言う。
と―――――
ぬいぐるみに目を向けた真昼は戸惑ったような面持ちとなり、
「―――――・・・・・・やっぱり似てるな」
呟くような口調で言った。
瑠璃がクロと共にこちらに来た時、腕に抱かれた『黒猫』と『狐』のぬいぐるみを目にした刹那、その時も思わずギョッとなってしまったのだが・・・・・・。
心中に抱いた何とも言えない感情を誤魔化すように、真昼はカキ氷を一口スプーンで掬って食べると、
「瑠璃姉が、ちゃんとお祭りを満喫できたんなら良かったよ。露木先輩のこと、下位吸血鬼かも・・・祭りなんて罠かもって少し疑ったけど。でも今日のはただ生徒会としてのことだったのかもな」
学校で露木と真昼が遭遇した際の話は瑠璃も耳にはしている。
けれど―――――
真昼の傍らにしゃがんで、膝の上にぬいぐるみを乗せた瑠璃もまた、カキ氷を少しずつ食べながら
「確かに露木君は、何というか・・・・・・〝一般の人〟とは異なる雰囲気を纏った人だけど。恐らく彼は、〝違う〟んじゃないかしら」
「そうだな・・・・・・それにもし吸血鬼だとしても・・・今は大体の奴は普通に人にまぎれて人生エンジョイしてるからな」
瑠璃が小首を傾げると、イチゴ味のカキ氷を食べ始めたクロが頷きながら言った。
「エンジョイ・・・」
お前もそうだもんなと真昼がクロに視線を向けながらぼやく。
真昼からの視線を受け流すように、カキ氷を食べる手を止めたクロは、ふと目線を上に向けると、
「あんまり何もかも疑って身動き取れなくなるってのもお前らしくねーし・・・まぁ今までどおりでいいんじゃね・・・?」
「クロ・・・もしかしてお前、そんなふうに思ってたから学校でも気ままに振舞って・・・それを俺に伝えようと・・・・・・?」
クロの言葉に真昼は目を瞠りながら言う。
するとクロは居心地が悪そうに視線を彷徨わせ、
「あ、いや・・・前言撤回。お前はもっといろいろ疑え・・・余計な行動はしない感じのほうがいいな・・・」
「何なんだよ! ちょっとじーんとしちゃったじゃねーか」
クロの言動に振り回される形になってしまった真昼がツッコミを入れる。
「大丈夫よ、真昼君。無理に自分の在り様を変える必要は無いと思うわよ」
すっかりいつも通りの雰囲気に戻った真昼を見て、瑠璃はフフッと笑いを零しつつ言う。
「ねぇ、この話はとりあえず終わりにして。カキ氷を食べ終わったらせっかくだから三人で写真を撮らない? 真昼君は一緒にお祭りは回れなかったけれど、こうして三人で過ごせているから『夏の思い出』の一つとして」
それから笑顔で真昼とクロに交互に視線を向けた瑠璃がそう提案すると、
「そうだな、せっかく瑠璃姉が浴衣を着てるんだし!」
「おぅ、別に良いぞ・・・・・・」
真昼とクロからはすぐさま賛同を貰う事が出来たので、瑠璃は自身のスマホを巾着の中から取り出して準備しようとしたのだが―――――。
その時、ふいに誰かに見られているような気配を感じ、瑠璃は目を瞬かせた。
黒い〝影〟が、此方に向かって近づいて来る。
刹那―――――路の向こう側から現れたのは外国人の様な容姿をした、オールバックの髪に、右目に黒い蝙蝠の羽根の様な形の眼帯をした男。
「・・・・・・っ!?」
その男の姿を目にした瞬間、瑠璃は思わず目を見開いてしまう。
―――――シャムロックさん!?
「え・・・?」
そして呆然とした面持ちでシャムロックを見上げたのは真昼だった。
しかし、真昼がそんな反応をしたのはシャムロックの〝正体〟を知っていたからではなく。
すぐ傍で立ち止まった隻眼の男―――――シャムロックが、手にしていた銀色のアタッシュケースを徐に目前へ突き出してきたからだった。
「すみません。こちら、拾ったんですが」
「・・・えっ、アタッシュケース・・・ですか?」
「落とし物なのでしょうが・・・本部の場所がわからなくて」
「あ・・・じゃあ俺、届けますよ」
有無を言わせぬ笑みを浮かべながら、困ったような口ぶりで事情を述べてきたシャムロックに対し、真昼は呆気に取られつつも、そのままアタッシュケースを受け取ると。
シャムロックはさらに念を押すように、
「・・・花火の時間までにはお願いしますね」
そんな言い含めるような言葉を口にしてきた。
それからふと、真昼の隣で困惑の表情を浮かべていた瑠璃に視線を向けると、
「―――――お嬢様。せっかくの楽しい時間を中断させてしまうことになり、申し訳ありません。そのお詫びにご承諾を頂けるようならば、私がお写真をお撮り致します」
威圧的な態度から一変して、右手を胸に添えながら慇懃な態度でそう告げてきたのだ。
真昼やクロが一緒だからなのだろう。
呼び名に敬称を付けてきてはいるものの、シャムロックから感じられる雰囲気は―――――瑠璃が憂鬱組の拠点に居た時に共に過ごしていた時のものと変わらぬままで。
〝―――――お嬢。もしも何かお困りのことが御座いましたら、ご連絡いただければすぐに、このシャムロックが馳せ参じますので―――――〟
憂鬱組の拠点から出発する日に、シャムロックから告げられた言葉が瑠璃の心の奥に響き渡る。
ふと、瑠璃は口元を綻ばせると―――――
「―――――有難う御座います。それじゃあ、お願いしても良いですか?」
そう言って自分のスマホをシャムロックに差し出したのだ。
真昼、瑠璃、クロ―――――三人で並んだ記念写真を一枚。
さらに真昼の提案により―――――瑠璃とクロが一緒に映っている写真を一枚。
それとは別にシャムロックが自身の携帯で一枚、狐と猫のぬいぐるみを抱いた瑠璃が一人だけで映っている写真も撮り終えると。
「―――――それでは、お嬢様。私はこれで失礼致します」
瑠璃に対する態度だけは、最後まで変えぬまま。別れの言葉とともに、シャムロックは去っていった。
「・・・・・・何か少し変わった、外国の人?・・・・・・だったな」
眉を寄せつつ、呆気に取られた面持ちで真昼が呟く。
眼帯のインパクトも凄かったが、何より、瑠璃に対するあの慇懃な様子。
外国人=女性にだけはああも礼儀正しいものなのだろうか。
首を捻りつつも、ともあれ落とし物を届けに行かなければと真昼は思考を切り替えると、
「じゃっ。俺、これ届けて来ちゃうよ!」
「オイ・・・離れ過ぎんなよ。吸血鬼と主人はキョリがあくと・・・」
クロが真昼に注意を促す言葉を口にしかけたのだが。
「いまさら何言ってんだよ、すぐそこだし平気だろ! クロこそ、瑠璃姉の傍にちゃんといるんだぞ!!」
そう言うとすぐさま踵を返して、たっと真昼は走って行ってしまう。
「危機感のねー奴・・・」
クロがぼやきながら、は―――――・・・と溜息を吐き出す。
その隣で瑠璃は、ふと目を瞬かせると、短く震えた手の中のスマホに視線を落とす。
―――――メール受信『綿貫桜哉』―――――
「・・・・・・桜哉君・・・・・・!?」
と―――――通知を確認した瑠璃は、思わず驚愕の声を洩らしてしまう。
―――――文化祭の日を最後に桜哉とは会うことはなく。
―――――連絡もまた互いに取り合うことはなかった。
「―――――・・・・・・瑠璃、外ハネから連絡が来たのか?」
瑠璃の口から紡ぎ出された名前を耳朶で聞き取ったクロが、眉を寄せながら視線を向けてくる。
「・・・・・・えぇ」
瑠璃はクロの目を見つめ返すと、そっと首を縦に振り、受信メールをタップする。
【―――――・・・・・・瑠璃さん、祭り会場には戻らないで下さい】
桜哉からのメッセージは、その一文だけだった。
けれどそれは―――――祭り会場で〝何かが起こる〟という――――――警告を暗示するモノに他ならないだろう。
これを送ってきたのは桜哉の独断なのか。それとも―――――・・・・・・
―――――何だか、胸騒ぎがする。
瑠璃の意識の内に、先に姿を見せたシャムロックが、落とし物だと言って真昼に託してきた『アタッシュケース』の事が思い出される。
〝―――――花火の時間までにはお願いしますね―――――〟
もしも、あれに何らかの〝仕掛け〟が施されているとしたら―――――。
自分に対して、変わらぬ雰囲気のままだった、シャムロックに対し、〝警戒〟するのではなく、『家族』として〝気を許して〟しまった。
けれど―――――
シャムロックは椿の『腹心』の立場に在る人物なのだ。
「クロ! 真昼君の処に行って!! 多分、あの『アタッシュケース』・・・・・・っ」
顔色を変えた瑠璃が、そう言った刹那。
―――――ドッ
大きな火柱が祭り会場の一角で立ち昇ったのだ。
「銀色のアタッシュケースが爆発したって・・・!」
落とし物として預かった『銀色のアタッシュケース』を、祭り会場の本部に届けに向かおうとしていた真昼は、騒然となった会場内で耳朶に届いた情報に、自身が手にしていたそれに視線を向けると、ブリキ人形のように、愕然とした面持ちのまま、一瞬固まってしまう。
そして―――――
「うそだろっ。まさか・・・これも爆弾!?」
「・・・あんた爆弾魔だったのか?」
血相を変えて叫んだ真昼に、眉を顰めながらそう尋ねかけてきたのは―――――真昼が祭り会場の本部に向かう途中。無くし物を探しているのだという話を聞いて、一緒に行動をすることになった、金髪で両サイドにヘアピンを付けていて、首には〝ゆ〟と書かれたタオルを下げた、大柄な体系の青年だった。
「違う!!」
すぐさま否定の言葉を返した真昼の意識に、落とし物だと言ってアタッシュケースを託してきた隻眼の男―――――〝シャムロック〟の姿が浮かび上がる。
―――――・・・あの眼帯の男が吸血鬼だったのか!?
「・・・ああもう俺・・・っ・・・疑うの向いてねぇなぁ・・・っ」
―――――〝花火の時間までにはお願いしますね〟
切羽詰まった顔で呻いた真昼は、アタッシュケースを預かった際に、言われた言葉を思い出す。
それから自身のスマホで時刻を確認すると、焦燥感に苛まれながら思考を巡らせていく。
―――――花火が・・・始まるのは8時半。
―――――その時間に爆発するんだとしたらあと1分・・・!?
―――――・・・どうしよう・・・クロと瑠璃姉を呼んで遠くに運ぶ!?
―――――でも・・・この人が何者なのかもまわりにどれだけ吸血鬼がひそんでるかもわかんねぇ。
―――――そんな状態で・・・クロと瑠璃姉を呼んで力を使っていいのか・・・・・・。
『答』を出せない真昼の心の内に、クロと瑠璃から掛けられた言葉が浮んでくる。
―――――〝あんまり何もかも疑って身動き取れなくなるってのもお前らしくねーし〟
―――――〝無理に自分の在り様を変える必要は無いと思うわよ〟
呆然と目を見開いた真昼は、自分の前に立っている正体不明の青年を見据えると―――――
「なぁっ・・・あんなのこと悪い奴じゃないって信じていいか!?」
「別にいいぜ」
目を瞬かせた青年は、表情を変えることなく、堂々とした態度でそう言った。
それにより真昼が出した『答』は―――――
「どうせ疑えないなら信じたい・・・っ。もし騙されてもその時どうにかするっ。そのほうがシンプルだ」
―――――揺らがぬ信念を貫くもので。
「お―――――そーゆーのいいじゃん」
青年がまた、変わらぬ声のトーンのまま、真昼の言葉に同意するようにそう呟くと。
「クロ!! 瑠璃姉!!」
真昼は二人の名を叫んだ。
その刹那―――――
バッと木の陰から跳躍しながら現れたのは、相棒である『吸血鬼』と、その腕の中に抱きかかえられた『姉』だった。
「クロ・・・っ、瑠璃姉・・・っ」
二人の傍に真昼は走りよると、
「―――――真昼君!! さっきの爆発はもしかして・・・・・・っ」
「そうなんだよ、瑠璃姉!! さっきのケースが爆弾かもで大変なんだっ」
クロの腕の中から地面に降り立った瑠璃に対して、真昼は頷き返すと要点だけを口にしてきた。
そんな姉弟だけで通じ合っているやり取りに、「落ち着けよ、意味が・・・」とクロが眉を顰める。
と―――――
「手伝ってくれっ」
そういう言うや否や、真昼はクロの口元に向かって右腕を突き出してきたのだ。
「あ―――――?? 血を飲むのか? めんどくせ・・・」
仕方がないという態度でクロが真昼の腕に噛みつくと、二人の間に主従の証の鎖が現れる。
「・・・・・・そのケースをどっか遠くに運べってのか。猫使いの荒い奴め・・・」
口の端に垂れた血を手の甲で拭ったクロに瑠璃が言う。
「クロ、私が『鍵』を使って爆弾をどこか人が居ない処に運ぶのは―――――」
「否、時間が無いみたいだしな。瑠璃、オレが空まで運ぶからここで待ってろ」
しかし、瑠璃に対してそうクロは答えると、右手で真昼を小脇に抱え、左手にトランクを持って跳躍していってしまう。
「お前っ、飛ぶ前に一言言えよっ」
真昼の叫び声が空に響き渡る。
空を仰ぎ見た人たちは、常人ではない存在を目にした事で、唖然とした面持ちになっていたのだが―――――。
「
その中で、唯一人だけ、やはり動じることなくそう呟いたのは真昼と一緒に居た青年だった。
「・・・・・・え?」
当惑の面持ちで瑠璃が振り返ると、
「なぁ、あんた・・・・・・アレってそうなんだろ?」
ジッとこちらを見つめてくる青年の瞳は真っ直ぐなもので。
「―――――あんたも吸血鬼の〝主人〟なのか?」
青年からそう問いかけられたことにより、瑠璃は一つの『答』を導き出す。
彼もまた〝吸血鬼の主人〟なのだ、と―――――。
そして『敵』ではなく、おそらくは『味方』になるであろう青年に瑠璃は告げる。
「私は〝主人〟ではないわ。〝怠惰〟の真祖―――――彼の〝ミストレス〟よ」
「・・・・・・〝ミストレス〟?」
首を傾げる仕草をした青年は、
「あ、そうか・・・・・・あんたがあいつの言ってた吸血鬼の〝花嫁〟ってやつか」
納得した様子で、左手の平をポンと握った右手で打つと。
ふと、先程、クロと瑠璃が降り立った木の陰の近くに歩み寄っていき―――――。
「こんなとこに置いてたのか」
そこから青年が担ぎ上げてきたのは、巨大な漆黒の棺だった。
「え? ・・・・・・棺桶?」
―――――何故、そんなモノを彼は抱えているのだろうか?
瑠璃が目を瞠った、その刹那―――――
「早い早い早い!! たぶん8時半に爆発するんだよっ。あと10秒くらいある!!」
空中から真昼の叫び声がまた聞こえてきたのだ。
視線をそちらに向けると、クロが持っていたアタッシュケースを、空中に投げた処だった。
「いや大丈夫だって・・・こーゆーのは大体、空気読んで空中で爆発するもんだから・・・」
顔面蒼白の真昼と対照的にクロは平然としたままだったのだが。
ひゅう・・・とアタッシュケースは弧を描くと、そのまま落下を始めてしまい。
「キャッチしてる間に爆発したらやだな―――――・・・」
は―――――しょうがね―――――・・・とぼやきつつ、トッと地面にクロは降り立つと、小脇に抱えられていた真昼はそのまま地面に投げ出され。
受け身を取る余裕などなく、倒れこんでしまう。
―――――以前にも一度、見た光景だ。
その様は気の毒ではあるが、いまはそれどころではない。
「クロっ、やっぱり私が・・・・・!!」
『鍵』を手にした瑠璃がそう言いかけた処で、
「貸せよ」
それを制するように青年は瑠璃の前に出ると、担いでいた棺桶の蓋を開け放ち、態勢を低く下げていく。
ガコッと音を立てて、アタッシュケースが棺桶の中に着地する。
―――――バンッ
そこで勢いよく、棺桶の蓋を青年は閉じると、
「あっ!? さっきの人」
状態を起こした真昼はその様子を目にして、愕然とした面持ちで声を上げる。
「えっ、中に・・・!? 何する気だよ!? 危ないから早く離れ・・・っ」
「問題ねえよ・・・見てな。オレの棺桶は誰にも壊せねぇ」
しかし、青年は動じることなく、抑揚のない口調でそう言うと、徐に棺桶を掲げていく。
―――――タイムリミットである、8時半を迎える。
―――――そして夜空に色鮮やかな〝華〟が咲き誇る。
その時―――――その光景に心を躍らせた二人の吸血鬼の姿が在った。
「―――――・・・若!! 見ておられますか、若・・・!!」
一人は〝憂鬱〟の
花火会場から程近い、電柱の上に立ちながら―――――
「―――――我らの〝葬儀〟開演でございます!!」
もう一人は〝憂鬱〟の
拠点がある建物の屋上の縁に座りながら左足で壁を蹴ってコンと下駄を打ち鳴らすと―――――
「さあさあ世界、あーそびーましょ―――――?」
〝ミストレス〟である彼女が〝憂鬱〟の彼らの事を『家族』として大事に想っているように。
〝憂鬱〟の彼らもまた〝ミストレス〟である彼女の事を想う気持ちは変わってはいない。
けれどこの日を境に両者の歩む道は、今度こそ本当に分かたれる事となる。
そして―――――
その日、祭り会場にて、〝怠惰〟の真祖―――――彼の〝ミストレス〟である瑠璃が新たに出会った、棺桶を担いだ青年の正体は―――――
「千駄ヶ谷 鉄。温泉宿の跡取り息子だ」
並外れた体力の持ち主である青年―――――鉄はそう名乗ったのだ。
鉄が手にしている棺桶には、『おいでませ、白ノ湯温泉』という文字が書かれていた。
しかし、温泉宿と棺桶というのはあまりにミスマッチだ。
困惑する、真昼とクロと瑠璃の目の前で、ギィ・・・いう音とともに棺桶の扉が僅かに開くと、焦げ臭い匂いとともに呻き声が聴こえてきた。
「ば・・・かもの・・・・・・我が輩を差し置いて・・・先に名乗るとは何事じゃ・・・。我が・・・輩・・・は・・・・・・」
「うわあ!? 棺桶から何か出てきた・・・っ」
地面に座り込んだままだった真昼の足元に、棺桶の隙間から黒コゲになった何かがポテッと落ちてくる。
「あ―――――・・・やべ。
それにも鉄は動じることなく、視線をそちらに向けながら、右手を後頭部に添える仕草をすると、ドンマイ、まぁ不死だしと呟く。
「えぇ!? もしかしてこの黒コゲのは・・・」
その言葉を耳にした真昼は唖然とした面持ちになりながら、鉄を横目で見る。
鉄が吸血鬼の主人だとしたら―――――
瑠璃はクロのほうに伺うように視線を向ける。
と―――――
「お―――――・・・久しぶり・・・〝傲慢〟の
黒コゲになった蝙蝠に対して、クロはそう呼び掛けたのだ。
<後書き>
物語を進めるに中って、シャムロックと既に拠点で瑠璃は面識があった事からどうするか相当迷ったのですが・・・。
椿からの指示とは別に『お嬢』の為にの精神で何とか動いて貰うことが出来ました。
二枚目の写真は、恐らく椿へのお土産ですね。
この後も、不定期更新となってしまうと思うのですが、どうか長い目でお付き合い頂けましたら幸いに思います。
朱臣繭子 拝
19・3/2 掲載
