第六章『祭りの序曲』
『SERVAMP夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
祭りの序曲
―――――ジャラジャラジャラ
憂鬱組の拠点にて、麻雀牌をかき回す音が鳴り響く。
応接スペース内にて、卓を囲んで麻雀にいそしんでいるのは、椿、シャムロック、ベルキア、オトギリだ。
「ここンとこ、つばきゅん機嫌いいねェ~~~」
「あはっ。そうかもね、ポン」
「若の笑顔を毎日拝見できて私どもは至福でございます」
ベルキアの言葉に笑いを零しつつ応じた椿に、シャムロックもまた、その言葉通り、幸せそうな様子で告げてくる。
―――――瑠璃が怠惰たちの処へ帰ったその日は、静けさとは無縁であるはずの拠点内には静寂が漂っていたのだが・・・・・・。
この場にはいるものの、麻雀に参加することはせず。窓辺に座って寄りかかるようにしながら、ぼんやりとした様子で、桜哉が外の景色を眺めている事を除けば、いまはもう元の在り様ともいえる。
リズムよく、ポンと言いつつ椿はまた牌を並べると、
「その〝若〟ってダサイからやめてよ、シャムロック」
「あぁ若・・・っ。若が私ごときの牌で鳴いて下さった・・・」
唯一、椿の言葉であろうとも〝呼び方〟に関してだけは聞く耳を持たないシャムロックは、自身が不利な立場に追い込まれているのにも拘らず、至福に満ちた面持ちで言った。
「よォォしきたァ~~~ッ。リ~~~チッ★」
続いて、テンション高く、ベルキアが点棒を卓に投げつける。
と―――――
「それロンです。高めです」
うかつなのは困ります・・・とオトギリが淡々とした口調で言うと、牌をパタタ・・・と静かに倒していく。
「ゲェ~~~~~~ッ、ギリオトめェ~っ、さっきからボクの牌でアガリすぎ・・・」
「一万二千点です。つっかかられても困ります」
オトギリに対して連敗し続けているベルキアは、顔を顰めながら喚くも、彼女は動じる様子もなく。
オトギリは強いねぇ―――――と椿もまた、やはり愉しげな様子のまま、卓に並べた牌に視線を落としながら呟くと、
「ねぇ、シャム。この前、言ってたやつどうなった?」
「ご安心を若!! 抜かりはありません!! すべては若の仰せのままに!!」
「若はやめてってば」
本日二度目となる、呼び名の訂正をシャムロックにした処で。
そういえば、瑠璃の呼び名も〝お嬢〟のままなんだよね―――――と、今はもう傍には居ない彼女の事を椿が思い浮かべると。
「・・・それよりも若。あの嘘つきに何故HARAKIRIを命じないのです」
シャムロックが冷ややかな眼差しで、窓辺に居る桜哉を見据えながら椿に言ったのだ。
嘘つきと呼ばれた桜哉は無言でシャムロックを睨む。
ビリ・・・と両者の間で殺気がぶつかり合う。
「あっ、城田真昼と瑠璃!!」
その時、ベルキアが窓の向こう側を指さすと、そう言って声を上げたのだ。
刹那、ピクッと身体を震わせた桜哉が、瞬時に窓のほうに視線を戻すと―――――
「うっそ~~~~~~見間違いィ~~~★ ココ30階だよォ~!? いるわけないしィ~~~★」
ベルキアはお腹を抱えながら、ぎゃははははははは、と笑い出し。
シャムロックは「お嬢があのような場所にいらっしゃる筈がないだろう、バカめが」と小馬鹿にした様子で、顎に片手を添えながら桜哉を見遣り。
オトギリは特に何も言うことは無かったが、何処となく呆れたような眼差しで桜哉を見つめていた。
ぶるぶると桜哉が怒りに身体を震わせていた最中、椿はといえば―――――実は桜哉と同じように、一瞬、反応したのだが、すぐにベルキアの嘘だと気づき、卓に突っ伏すように伏せると―――――
あっは! あはははは、あはっ、あはははは、あはっ・・・と、笑い出し。
「あ――――――――――~・・・面白くない・・・こともない」
一頻り笑い終えた処で、上体を起こすとそう言った椿は狂気に満ちた笑みを浮かべると、
「ようやく話は動き出してる。〝前夜祭〟は終わった! 〝〝本祭 〟はこれから !! これまで以上に盛り上げないと!! 花火は!? 屋台は!? 祭囃子と交通規制!! 将棋倒しで暴動は必須!! 早く僕をお祭りに連れて行ってよ、お兄ちゃん!!?」
喚くように叫んだ後、その勢いを収束させることなく、椿は再び笑い出したのだが―――――「あははは、げほっ、ごほ、ごほ、ごふっ、けほっ、水・・・」と―――――珍しくむせてしまったようで。口元を左手で抑えつつ、身体を苦の字に曲げた椿の下に、慌ててシャムロックが水を持ってきて差し出す事態となったのだ。
そうして水を飲んだことで、落ち着きを取り戻した椿は、新しく手にした牌を指先で構えると、静かな声で宣言した。
「・・・〝先生〟もきっと、待ちくたびれてしまう。一気に祭りを盛り上げて、すべて取り戻す 」
日が沈んで、静まり返った夜の公園内―――――仄かな街灯に照らされたその場所には二つの人影が在った。
ピロリロン、ピロン―――――と電子音を鳴り響かせ、携帯型ゲームをプレイするクロ。
「は―――――っ!! た―――――っ!! や―――――ッ!!」
箒を振り回しながら掛け声を発する真昼。
そこへ、フッと白銀の閃光が瞬き―――――『鍵』の力を使って空間跳躍を行った瑠璃が現れる。
「―――――真昼君、調子はどう?」
「・・・・・・瑠璃姉。この前以来、武器の出し入れは自由にできるようになったけど・・・・・・使い方がやっぱりわかんないんだよな」
瑠璃が尋ねかけると、真昼は眉を顰めながら、当惑した面持ちで言った。
文化祭が終了した数日後から、真昼は夜になるとこの公園にやって来て、武器を使いこなす為の特訓を開始していた。
そして現状において『鍵』の力を多少なりと引き出すことが出来ている瑠璃は―――――真昼が特訓に集中できるよう、家の雑事をある程度片付けてから。
『鍵』の力を使いこなす訓練の一環として、家から真昼とクロが居る公園まで、空間跳躍を行って此方に来るという方法を取っていた。
「・・・・・・そうなのね」
真昼の言葉にどうすべきかと、瑠璃は逡巡するようにしながら、クロが居るすべり台のほうに視線を向けると、そちらに向かって行き。
すべり台の階段を上りきった処で、
「クロは真昼君と一緒にやらないの?」
「あぁ・・・・・・だって、真昼がいまやってるのって、呪いのダンスだろ?」
ゲームの画面から視線を上げて瑠璃のほうに顔を向けたクロは、困惑した様子でそう言ったのだ。
と―――――
「ダンスじゃねぇ!! 戦闘訓練だよ!!」
眉を吊り上げつつ、真昼が怒鳴るように言う。
「クロ!! お前も来い!! 俺達二人の特訓なんだぞ!!」
「そうね、クロ。真昼君とちゃんと協力してやらないと訓練の意味がないと思うわよ」
微苦笑を浮かべて瑠璃もまたそう言うと、「めんどくせー・・・」とポツリと呟いてクロがその場から立ち上がった為。
先にクロが降りられるよう、路を譲るべく身体を横向きにして立とうとしたのだが―――――
「きゃ!? クロ!?」
すれ違いざまに腕を伸ばしてきたクロに、腰を抱き寄せられ―――――方向転換をさせられるのと同時に、そのまま一緒にすべり台を滑り降りる事となったのだ。
「おいっ! クロ、何やってんだよ!?」
「何って、一緒にすべり台を滑っただけだぞ」
そんな怒る事でも別にないだろうと、クロは呆れたように真昼を見遣りながら言う。
「・・・・・・あのね、クロ・・・・・・いきなりは私もちょっと・・・・・・」
そんなクロに対して、抱きすくめられた状態となっていた瑠璃が顔を赤らめつつ、そう言うと。
「そうか。じゃあ、次からはちゃんと声を掛けてからやるようにするからな」
クロは尤もらしい返答をした後、滑り降りたその場所から動かず、瑠璃を腕の中に収めたまま、ゲームを再開する体制に入ってしまう。
気持ちを伝えたあの日以来、クロは人型の姿でも、スキンシップといえばいいのだろうか。時たま、こんなふうに触れてくるようになった。
けれど、このままでは此処に来た目的から完全に脱線したままになってしまう。
「えっと・・・・・・クロ、真昼君と一緒に特訓やるんでしょう?」
眉を下げながら、瑠璃はクロを見上げると、
「・・・・・・クロ。瑠璃姉を困らせるなって、俺、つい最近、お前に言ったよな」
いつまでそうしているつもりだと真昼がクロを睨みながら言った。
すると―――――
「オレが苦手なものを教えてやろうか? 修行・努力・熱血・・・・・・ついでにシスコンな奴・・・・・・つまりお前だ」
「俺が好きなものを教えてやる!! 友情・努力・勝利!! あと、俺はシスコンじゃねぇ!!」
向き合えね―――――~・・・と半眼の眼差しで見返してきたクロに、真昼が我慢の限界だと言わんばかりに、カッと詰め寄らんばかりの勢いで言い返す。
そこでクロは仕方がないといった様子で、瑠璃を腕の中から解放したのだが。
「ほらっ、血ィ飲めよ! 練習したいんだから・・・」
「ムリ」
顔の前に突き出された真昼の右腕に対して、噛みつくどころか、イヤイヤと身を竦めるようにしながら拒否の姿勢を取り。
「オレ、こう見えて超危険猫だぞ。扱いに注意しろ」
「説得力ねーよ!!」
ごろにゃ~んと、人型のままで猫と同じように転がって見せたクロに対して、真昼は再度、怒りの突っ込みをしたのだが―――――。
―――――・・・いや・・・。
ふと、真昼の意識にクロの力が暴走した時の情景が思い出された。
「―――――大丈夫、真昼君?」
眉を寄せ、顔色を変えた真昼を目にした瑠璃は、気遣うようにそっと呼びかける。
「ごめん、瑠璃姉。大丈夫だから・・・・・・」
ゆっくりと顔を上げた真昼は、瑠璃に頷き返してから、クロに視線を向けると、
「クロ。この前のこと・・・謝らなきゃと思ってたんだ」
「あ? 何・・・・・・」
怒りの口調から一変して、静かな口調で切り出してきた真昼にクロは眉を顰める。
「クロはあの時、止めてくれたのに俺・・・・・・あとお礼も・・・いつも俺のこと助けてくれてありがとな。俺・・・もう力の使い方を間違えたりしたくないよ。俺もちゃんと強くなりたいんだ」
「・・・強くなるとかそーゆー時代でもねーだろ・・・オレは向き合えねーよ・・・」
真っ直ぐな眼差しで、自身の胸の内を言葉にした真昼に対して、クロは視線を俯かせながら言う。
その刹那、クロが纏う雰囲気は怠惰から一変して哀愁を帯びたものになり。
真昼は思わず呆然とした面持ちでクロを見ていたのだが―――――。
「草食系男子もそれはそれでモテるらしいじゃねーか。オレはそっちだな。瑠璃もそう思うだろ?」
唐突な話題転換を図ったクロに、我に返った真昼が「何言ってんだ」と突っ込みを入れ、話を振られた瑠璃は「えと・・・・・・草食系?」ときょとんとした面持ちでクロを見つめ返す。
「つーかお前、主な食糧、血だろ!? 肉食系より肉肉しいよ!」
真昼の云う通り、クロは吸血鬼なのだから―――――
「そうね。クロはどちらかと言えば〝吸血系男子〟じゃないかしら」
思い付いた言葉を瑠璃が口にすると、
「吸血系男子か・・・もっと爽やかそうなのがいいな・・・」
う―――――ん・・・と、目を閉じつつ、その言葉の響きを確認するような仕草をしながらクロが応じてくる。
そんなクロに呆れの眼差しを真昼は向けつつ、そういえばクロって全然血を飲みたがらないな、と自身の記憶を振り返る。
真昼がクロと契約して一か月近くの時が経つ。
けれど、クロが真昼の血を口にしたのは戦ったときの数回のみ。
普通の食事などをしているから平気なのだろうか。
「クロ、お前・・・血飲まなくて腹減らねーの?」
真昼が問いかけると「んー・・・?」と気のない返事をクロはしたのだが。
「なんつーか・・・献血みたいなもんだろ? 飲みたいなら言えよ?」
「・・・・・・飲みたくね―――――・・・」
真昼がさらに言葉を重ねると、クロは拒絶の言葉を口にしたのだ。
吸血鬼とは、読んで字のごとく、血を吸う生き物なのではないのだろうか。
遠慮している? という可能性が浮ぶも、しかし、クロはそのタイプには当てはまらない気がする。
―――――飲みたくない理由でもあるのか・・・?
―――――クロって自分のこと、全然話さないよな・・・。
眉を顰めた真昼に代わって、瑠璃はクロの傍らにしゃがむと、
「―――――クロ。身体が辛くなったら、ちゃんと言ってね?」
「ちゃんと飯を食ってるから、平気だぞ」
視線を上げたクロはいつもと変わらぬ口調で返してきた。
「それより、瑠璃。お前の携帯、借りても良いか?」
「えぇ、構わないけれど・・・・・・」
クロの申し出に、瑠璃はきょとんと目を瞬かせると、パンツのポケットからスマホを取り出す。
―――――と、シャラーンと涼やかな音色が響いた。
それは、椿に買って貰った、あの水琴鈴だ。
携帯に付けるか、仕舞っておくか―――――迷ったのだが。
水琴鈴の音色は、やはり気持ちを落ち着かせてくれる効果があるので、結局こうして付けて、身近に置いている。
真昼もクロも、鈴をどういう経緯で手に入れたのか、尋ねてはこなかったが、おそらく椿から貰ったモノだというのは察しているだろう。
音色を耳にした二人は、ほんの少しだけ、複雑そうな面持ちになっていたからだ。
瑠璃からスマホを受け取ったクロは、その画面に視線を落とすと、
「イマドキ大事なのは特訓なんかより情報なんだよ」
「そっか、吸血鬼のSNS・・・」
クロが口にした言葉から、何をしようとしているのか、理解した瑠璃が呟く。
「確かにまた、他のサーヴァンプに連絡を取ってみて。一緒に戦っ・・・・・・」
それにより、真昼も納得した様子でその事を口にしようとしたのだが、その言葉は途中で途切れてしまった。
―――――NOT FOUND―――――
画面に表示されたアルファベットの文字。
それはサイトが落ちている事を示すものだった。
そこで、吸血鬼の中で唯一、すぐに連絡を取ることが可能なリリイに瑠璃が電話をしたのだが―――――。
『私も確認しましたが数日前から繋がりませんね。私の知る限り・・・こんなことは初めてですよ』
「そう。リリイにも原因は分からないのね」
『こんなときこそ、情報収集にひと肌脱ぎたいのですが・・・』
リリイが〝あの言葉〟を口にした時は必ず、脱いでいる。
「いくら場所が病院といえども、それはやめてね、リリイ」
もはや既知の事実であることから、すぐさまリリイを諫める言葉を口にした瑠璃は、ふと耳を澄ませるように目を伏せると、柔らかな口調で言った。
「子供たちの声が聴こえるという事は、下位の子たちも一緒に病院に来ているんでしょう? 洞堂さん一人だと大変そうだと思うから、今日の処は大丈夫よ」
はしゃぎ回る子供たちの声に混ざって、『ヤメロ、ガキどもっ』という洞堂の叫び声がしていた。
18・11/23 掲載
―――――ジャラジャラジャラ
憂鬱組の拠点にて、麻雀牌をかき回す音が鳴り響く。
応接スペース内にて、卓を囲んで麻雀にいそしんでいるのは、椿、シャムロック、ベルキア、オトギリだ。
「ここンとこ、つばきゅん機嫌いいねェ~~~」
「あはっ。そうかもね、ポン」
「若の笑顔を毎日拝見できて私どもは至福でございます」
ベルキアの言葉に笑いを零しつつ応じた椿に、シャムロックもまた、その言葉通り、幸せそうな様子で告げてくる。
―――――瑠璃が怠惰たちの処へ帰ったその日は、静けさとは無縁であるはずの拠点内には静寂が漂っていたのだが・・・・・・。
この場にはいるものの、麻雀に参加することはせず。窓辺に座って寄りかかるようにしながら、ぼんやりとした様子で、桜哉が外の景色を眺めている事を除けば、いまはもう元の在り様ともいえる。
リズムよく、ポンと言いつつ椿はまた牌を並べると、
「その〝若〟ってダサイからやめてよ、シャムロック」
「あぁ若・・・っ。若が私ごときの牌で鳴いて下さった・・・」
唯一、椿の言葉であろうとも〝呼び方〟に関してだけは聞く耳を持たないシャムロックは、自身が不利な立場に追い込まれているのにも拘らず、至福に満ちた面持ちで言った。
「よォォしきたァ~~~ッ。リ~~~チッ★」
続いて、テンション高く、ベルキアが点棒を卓に投げつける。
と―――――
「それロンです。高めです」
うかつなのは困ります・・・とオトギリが淡々とした口調で言うと、牌をパタタ・・・と静かに倒していく。
「ゲェ~~~~~~ッ、ギリオトめェ~っ、さっきからボクの牌でアガリすぎ・・・」
「一万二千点です。つっかかられても困ります」
オトギリに対して連敗し続けているベルキアは、顔を顰めながら喚くも、彼女は動じる様子もなく。
オトギリは強いねぇ―――――と椿もまた、やはり愉しげな様子のまま、卓に並べた牌に視線を落としながら呟くと、
「ねぇ、シャム。この前、言ってたやつどうなった?」
「ご安心を若!! 抜かりはありません!! すべては若の仰せのままに!!」
「若はやめてってば」
本日二度目となる、呼び名の訂正をシャムロックにした処で。
そういえば、瑠璃の呼び名も〝お嬢〟のままなんだよね―――――と、今はもう傍には居ない彼女の事を椿が思い浮かべると。
「・・・それよりも若。あの嘘つきに何故HARAKIRIを命じないのです」
シャムロックが冷ややかな眼差しで、窓辺に居る桜哉を見据えながら椿に言ったのだ。
嘘つきと呼ばれた桜哉は無言でシャムロックを睨む。
ビリ・・・と両者の間で殺気がぶつかり合う。
「あっ、城田真昼と瑠璃!!」
その時、ベルキアが窓の向こう側を指さすと、そう言って声を上げたのだ。
刹那、ピクッと身体を震わせた桜哉が、瞬時に窓のほうに視線を戻すと―――――
「うっそ~~~~~~見間違いィ~~~★ ココ30階だよォ~!? いるわけないしィ~~~★」
ベルキアはお腹を抱えながら、ぎゃははははははは、と笑い出し。
シャムロックは「お嬢があのような場所にいらっしゃる筈がないだろう、バカめが」と小馬鹿にした様子で、顎に片手を添えながら桜哉を見遣り。
オトギリは特に何も言うことは無かったが、何処となく呆れたような眼差しで桜哉を見つめていた。
ぶるぶると桜哉が怒りに身体を震わせていた最中、椿はといえば―――――実は桜哉と同じように、一瞬、反応したのだが、すぐにベルキアの嘘だと気づき、卓に突っ伏すように伏せると―――――
あっは! あはははは、あはっ、あはははは、あはっ・・・と、笑い出し。
「あ――――――――――~・・・面白くない・・・こともない」
一頻り笑い終えた処で、上体を起こすとそう言った椿は狂気に満ちた笑みを浮かべると、
「ようやく話は動き出してる。〝前夜祭〟は終わった! 〝〝
喚くように叫んだ後、その勢いを収束させることなく、椿は再び笑い出したのだが―――――「あははは、げほっ、ごほ、ごほ、ごふっ、けほっ、水・・・」と―――――珍しくむせてしまったようで。口元を左手で抑えつつ、身体を苦の字に曲げた椿の下に、慌ててシャムロックが水を持ってきて差し出す事態となったのだ。
そうして水を飲んだことで、落ち着きを取り戻した椿は、新しく手にした牌を指先で構えると、静かな声で宣言した。
「・・・〝先生〟もきっと、待ちくたびれてしまう。一気に祭りを盛り上げて、すべて
日が沈んで、静まり返った夜の公園内―――――仄かな街灯に照らされたその場所には二つの人影が在った。
ピロリロン、ピロン―――――と電子音を鳴り響かせ、携帯型ゲームをプレイするクロ。
「は―――――っ!! た―――――っ!! や―――――ッ!!」
箒を振り回しながら掛け声を発する真昼。
そこへ、フッと白銀の閃光が瞬き―――――『鍵』の力を使って空間跳躍を行った瑠璃が現れる。
「―――――真昼君、調子はどう?」
「・・・・・・瑠璃姉。この前以来、武器の出し入れは自由にできるようになったけど・・・・・・使い方がやっぱりわかんないんだよな」
瑠璃が尋ねかけると、真昼は眉を顰めながら、当惑した面持ちで言った。
文化祭が終了した数日後から、真昼は夜になるとこの公園にやって来て、武器を使いこなす為の特訓を開始していた。
そして現状において『鍵』の力を多少なりと引き出すことが出来ている瑠璃は―――――真昼が特訓に集中できるよう、家の雑事をある程度片付けてから。
『鍵』の力を使いこなす訓練の一環として、家から真昼とクロが居る公園まで、空間跳躍を行って此方に来るという方法を取っていた。
「・・・・・・そうなのね」
真昼の言葉にどうすべきかと、瑠璃は逡巡するようにしながら、クロが居るすべり台のほうに視線を向けると、そちらに向かって行き。
すべり台の階段を上りきった処で、
「クロは真昼君と一緒にやらないの?」
「あぁ・・・・・・だって、真昼がいまやってるのって、呪いのダンスだろ?」
ゲームの画面から視線を上げて瑠璃のほうに顔を向けたクロは、困惑した様子でそう言ったのだ。
と―――――
「ダンスじゃねぇ!! 戦闘訓練だよ!!」
眉を吊り上げつつ、真昼が怒鳴るように言う。
「クロ!! お前も来い!! 俺達二人の特訓なんだぞ!!」
「そうね、クロ。真昼君とちゃんと協力してやらないと訓練の意味がないと思うわよ」
微苦笑を浮かべて瑠璃もまたそう言うと、「めんどくせー・・・」とポツリと呟いてクロがその場から立ち上がった為。
先にクロが降りられるよう、路を譲るべく身体を横向きにして立とうとしたのだが―――――
「きゃ!? クロ!?」
すれ違いざまに腕を伸ばしてきたクロに、腰を抱き寄せられ―――――方向転換をさせられるのと同時に、そのまま一緒にすべり台を滑り降りる事となったのだ。
「おいっ! クロ、何やってんだよ!?」
「何って、一緒にすべり台を滑っただけだぞ」
そんな怒る事でも別にないだろうと、クロは呆れたように真昼を見遣りながら言う。
「・・・・・・あのね、クロ・・・・・・いきなりは私もちょっと・・・・・・」
そんなクロに対して、抱きすくめられた状態となっていた瑠璃が顔を赤らめつつ、そう言うと。
「そうか。じゃあ、次からはちゃんと声を掛けてからやるようにするからな」
クロは尤もらしい返答をした後、滑り降りたその場所から動かず、瑠璃を腕の中に収めたまま、ゲームを再開する体制に入ってしまう。
気持ちを伝えたあの日以来、クロは人型の姿でも、スキンシップといえばいいのだろうか。時たま、こんなふうに触れてくるようになった。
けれど、このままでは此処に来た目的から完全に脱線したままになってしまう。
「えっと・・・・・・クロ、真昼君と一緒に特訓やるんでしょう?」
眉を下げながら、瑠璃はクロを見上げると、
「・・・・・・クロ。瑠璃姉を困らせるなって、俺、つい最近、お前に言ったよな」
いつまでそうしているつもりだと真昼がクロを睨みながら言った。
すると―――――
「オレが苦手なものを教えてやろうか? 修行・努力・熱血・・・・・・ついでにシスコンな奴・・・・・・つまりお前だ」
「俺が好きなものを教えてやる!! 友情・努力・勝利!! あと、俺はシスコンじゃねぇ!!」
向き合えね―――――~・・・と半眼の眼差しで見返してきたクロに、真昼が我慢の限界だと言わんばかりに、カッと詰め寄らんばかりの勢いで言い返す。
そこでクロは仕方がないといった様子で、瑠璃を腕の中から解放したのだが。
「ほらっ、血ィ飲めよ! 練習したいんだから・・・」
「ムリ」
顔の前に突き出された真昼の右腕に対して、噛みつくどころか、イヤイヤと身を竦めるようにしながら拒否の姿勢を取り。
「オレ、こう見えて超危険猫だぞ。扱いに注意しろ」
「説得力ねーよ!!」
ごろにゃ~んと、人型のままで猫と同じように転がって見せたクロに対して、真昼は再度、怒りの突っ込みをしたのだが―――――。
―――――・・・いや・・・。
ふと、真昼の意識にクロの力が暴走した時の情景が思い出された。
「―――――大丈夫、真昼君?」
眉を寄せ、顔色を変えた真昼を目にした瑠璃は、気遣うようにそっと呼びかける。
「ごめん、瑠璃姉。大丈夫だから・・・・・・」
ゆっくりと顔を上げた真昼は、瑠璃に頷き返してから、クロに視線を向けると、
「クロ。この前のこと・・・謝らなきゃと思ってたんだ」
「あ? 何・・・・・・」
怒りの口調から一変して、静かな口調で切り出してきた真昼にクロは眉を顰める。
「クロはあの時、止めてくれたのに俺・・・・・・あとお礼も・・・いつも俺のこと助けてくれてありがとな。俺・・・もう力の使い方を間違えたりしたくないよ。俺もちゃんと強くなりたいんだ」
「・・・強くなるとかそーゆー時代でもねーだろ・・・オレは向き合えねーよ・・・」
真っ直ぐな眼差しで、自身の胸の内を言葉にした真昼に対して、クロは視線を俯かせながら言う。
その刹那、クロが纏う雰囲気は怠惰から一変して哀愁を帯びたものになり。
真昼は思わず呆然とした面持ちでクロを見ていたのだが―――――。
「草食系男子もそれはそれでモテるらしいじゃねーか。オレはそっちだな。瑠璃もそう思うだろ?」
唐突な話題転換を図ったクロに、我に返った真昼が「何言ってんだ」と突っ込みを入れ、話を振られた瑠璃は「えと・・・・・・草食系?」ときょとんとした面持ちでクロを見つめ返す。
「つーかお前、主な食糧、血だろ!? 肉食系より肉肉しいよ!」
真昼の云う通り、クロは吸血鬼なのだから―――――
「そうね。クロはどちらかと言えば〝吸血系男子〟じゃないかしら」
思い付いた言葉を瑠璃が口にすると、
「吸血系男子か・・・もっと爽やかそうなのがいいな・・・」
う―――――ん・・・と、目を閉じつつ、その言葉の響きを確認するような仕草をしながらクロが応じてくる。
そんなクロに呆れの眼差しを真昼は向けつつ、そういえばクロって全然血を飲みたがらないな、と自身の記憶を振り返る。
真昼がクロと契約して一か月近くの時が経つ。
けれど、クロが真昼の血を口にしたのは戦ったときの数回のみ。
普通の食事などをしているから平気なのだろうか。
「クロ、お前・・・血飲まなくて腹減らねーの?」
真昼が問いかけると「んー・・・?」と気のない返事をクロはしたのだが。
「なんつーか・・・献血みたいなもんだろ? 飲みたいなら言えよ?」
「・・・・・・飲みたくね―――――・・・」
真昼がさらに言葉を重ねると、クロは拒絶の言葉を口にしたのだ。
吸血鬼とは、読んで字のごとく、血を吸う生き物なのではないのだろうか。
遠慮している? という可能性が浮ぶも、しかし、クロはそのタイプには当てはまらない気がする。
―――――飲みたくない理由でもあるのか・・・?
―――――クロって自分のこと、全然話さないよな・・・。
眉を顰めた真昼に代わって、瑠璃はクロの傍らにしゃがむと、
「―――――クロ。身体が辛くなったら、ちゃんと言ってね?」
「ちゃんと飯を食ってるから、平気だぞ」
視線を上げたクロはいつもと変わらぬ口調で返してきた。
「それより、瑠璃。お前の携帯、借りても良いか?」
「えぇ、構わないけれど・・・・・・」
クロの申し出に、瑠璃はきょとんと目を瞬かせると、パンツのポケットからスマホを取り出す。
―――――と、シャラーンと涼やかな音色が響いた。
それは、椿に買って貰った、あの水琴鈴だ。
携帯に付けるか、仕舞っておくか―――――迷ったのだが。
水琴鈴の音色は、やはり気持ちを落ち着かせてくれる効果があるので、結局こうして付けて、身近に置いている。
真昼もクロも、鈴をどういう経緯で手に入れたのか、尋ねてはこなかったが、おそらく椿から貰ったモノだというのは察しているだろう。
音色を耳にした二人は、ほんの少しだけ、複雑そうな面持ちになっていたからだ。
瑠璃からスマホを受け取ったクロは、その画面に視線を落とすと、
「イマドキ大事なのは特訓なんかより情報なんだよ」
「そっか、吸血鬼のSNS・・・」
クロが口にした言葉から、何をしようとしているのか、理解した瑠璃が呟く。
「確かにまた、他のサーヴァンプに連絡を取ってみて。一緒に戦っ・・・・・・」
それにより、真昼も納得した様子でその事を口にしようとしたのだが、その言葉は途中で途切れてしまった。
―――――NOT FOUND―――――
画面に表示されたアルファベットの文字。
それはサイトが落ちている事を示すものだった。
そこで、吸血鬼の中で唯一、すぐに連絡を取ることが可能なリリイに瑠璃が電話をしたのだが―――――。
『私も確認しましたが数日前から繋がりませんね。私の知る限り・・・こんなことは初めてですよ』
「そう。リリイにも原因は分からないのね」
『こんなときこそ、情報収集にひと肌脱ぎたいのですが・・・』
リリイが〝あの言葉〟を口にした時は必ず、脱いでいる。
「いくら場所が病院といえども、それはやめてね、リリイ」
もはや既知の事実であることから、すぐさまリリイを諫める言葉を口にした瑠璃は、ふと耳を澄ませるように目を伏せると、柔らかな口調で言った。
「子供たちの声が聴こえるという事は、下位の子たちも一緒に病院に来ているんでしょう? 洞堂さん一人だと大変そうだと思うから、今日の処は大丈夫よ」
はしゃぎ回る子供たちの声に混ざって、『ヤメロ、ガキどもっ』という洞堂の叫び声がしていた。
18・11/23 掲載
