第五章『嘘に隠れた想いと描いた未来』
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【―――――瑠璃姉。クロから聞いたよ、リリイから連絡が来て御園のお見舞いに行く事にしたって。迎えが来てくれるなら、とりあえず大丈夫だろうけど・・・・・・。終わったら、必ず俺に連絡をする事! これだけは、本当に『約束』してくれよな。それと一人で帰るのだけは、『絶対に禁止』だからな!!】
―――――それは御園のお見舞いに瑠璃が行く事になったとクロから聞いた真昼が送ったメールだった。
そして―――――
【真昼君、また、一人で行動したりしてごめんなさい。御園君のお見舞い無事に終わりました。御園君の容体は落ち着いていたから安心してね。それで今日はもうこれから帰るのだけれど、洞堂さんにまた送って貰える事になったので大丈夫です。だから真昼君は安心してクロと一緒に帰ってきて下さい】
洞堂に送って貰い帰路に着く際、瑠璃は真昼に車内から連絡メールを送っていた。
すると、程なくして真昼からも返信があり―――――
【俺もさっき、御園にメールしたんだ。御園の傷、深くなかったって聞いて、ホッとしたよ。それで、瑠璃姉。帰りも送って貰える事になったんだな。・・・・・・それなら良いんだけど。ただ、瑠璃姉、ごめん。俺ももう暫くしたら帰るけど、家の中がちょっと散らかったままなんだ。夕飯の支度は俺も一緒にやるから、先に片付けのほう頼めるかな?】
そう書かれた真昼からのメールを受け取った瑠璃は―――――
【勿論、大丈夫よ。片付けは任せて!】
帰宅後に家の中の片付けを引き受ける旨を真昼に返信したのだ。
―――――ダイニングテーブルの片隅に山になっていた洗濯物をたたみ。
―――――キッチンのシンクに下げられていた、ペットボトルやカップ麺のゴミを分別して処理を行い。
―――――テレビの前に積まれていた雑誌などを所定の場所に戻し。
―――――仕上げに掃除機をかけて。
一通り、瑠璃が片付けを終えた処でガチャと玄関の扉が開く音が聞こえ、バタバタという足音とともに人の気配が此方に近づいてくる。
「―――――・・・・・・ただいま、瑠璃姉っ!!」
勢いよく、息を切らしながらリビングにやって来たのは真昼だった。
そんな真昼の様子に瑠璃は思わず目を瞠りつつ、
「お帰りなさい、真昼君。もしかして、走って帰って来たの?」
出迎えの言葉とともに尋ねかけると。
「・・・・・・向き合えねー。だから言っただろ、瑠璃の気配はちゃんと家のほうからするって・・・」
真昼の後から遅い足取りで顔を覗かせたクロが呆れたように息を吐きながら言った。
―――――〝誓約の証〟で、瑠璃とクロは繋がっている。
―――――妨害がなければ、瑠璃の居場所の把握はクロにとっては容易なモノなのだ。
けれど―――――
「クロ、お帰りなさい・・・・・・」
「・・・・・・ただいま」
クロは瑠璃と視線を合わせようとはせず、二人の間にぎこちない空気が漂う。
―――――・・・・・・いまのクロと瑠璃の間には、目には見えない〝心〟の距離がある。
「瑠璃姉が家に居るって〝分かってた〟なら、なんでクロはそんな〝浮かない顔〟してるんだよ?」
それだけでなく、瑠璃が無事に帰って来たというのに、クロは学校では瑠璃の事を避けるような素振りさえ見せていた。
真昼が眉を顰めながら、クロに咎めるような視線を向ける。
「・・・・・・真昼君、あのね・・・・・・」
〝あのね、クロ・・・・・・帰ったら聞いて欲しい話があるの。椿との間に何があったのか・・・・・・〟
―――――クロには、まだ話せていない事がある。
だから、クロは悪くないのだと、瑠璃が真昼に言おうと口を開きかけたのだが、
「・・・・・・向き合えねー・・・・・・」
「なっ!? おい、クロ・・・・・・っ!?」
瑠璃が言葉を口にするよりも前に、ポツリとクロはいつもの口癖を呟くと、黒猫の姿にまたなってリビングから出て行ってしまったのだ。
「―――――ったく、クロの奴・・・・・」
眉を顰めながら息を吐き出した真昼に、瑠璃は眉を下げながら言う。
「・・・・・・ごめんね、真昼君。クロと話をしてきても良いかな・・・・・・?」
聞いて欲しい話があるのだと言った瑠璃に対して、クロは―――――
〝・・・・・・わかった・・・・・・帰ってきたら聞かせてくれ・・・・・・〟
「約束をしたの・・・・・・椿との間に何があったのか、話すって・・・・・・」
「瑠璃姉・・・・・・」
真昼は瑠璃の言葉に困惑したように眉根を寄せる。
けれど、それは僅かな間の事で、すぐさま瑠璃を真っ直ぐに見つめると、
「―――――そっか。なら瑠璃姉はクロと話すべきだ! 夕飯の支度は俺がやっとくからさ」
「ありがとう、真昼君・・・・・・」
任せておいてくれよと、笑みを浮かべた真昼に瑠璃は背を押される形で、リビングの扉を開いて廊下に出た。
そして―――――
「クロ・・・・・・話を聞いて貰っても良い?」
廊下の片隅に黒猫の姿を見つけた瑠璃は、そっと呼びかけると同時に手を伸ばしていく。
その手に抱き上げられた黒猫は「・・・・・・あぁ」と小さな声で応じたのだ。
黒猫を連れて自室に戻った瑠璃は、ベッドに腰掛けると腕に抱いていた黒猫を膝の上に下ろし、淡々とした口調で語り出す。
「二日前、桜哉君のお見舞いに行くって言った真昼君と学校で別れた後。夕食の支度の為の買い物を終えた帰り道で椿に会ったの。―――――椿の目的は私と話をすることで。その時に無関係の人を巻き込まない為に家に招いたの」
―――――椿との間に起こった出来事を。
「椿が私に話すよう求めてきた内容は、〝ミストレス〟である私が何処から来たのか。クロといつ、どこで知り合ったのか。そしてその時に―――――椿から桜哉君の過去の話を聞いたの」
―――――人で在った『彼』は嘘つきの街に命を奪われた。
―――――その時に『彼』を迎えに来たのが『椿』だった。
「・・・・・・外ハネが〝吸血鬼〟だって、瑠璃はいつから気付いてたんだ?」
「もしかしたらっていう、考えに至ったのは定例会で椿の下位の話を聞いた後のことよ。吸血鬼の噂話を口にした桜哉君と視線があった時、何処となく〝辛そうな〟〝申し訳なさそうな〟感情が入り混じった瞳をしていたの。・・・・・・だけど、私は桜哉君に尋ねることが出来なかった。あの時、〝自分の気持ち〟とちゃんと〝向き合う〟事が出来ていたなら・・・・・・って、椿から話を聞いた時は、すごく後悔したわ」
消沈した態度のまま尋ねかけてきた黒猫に、瑠璃もまた哀し気に眉を寄せながら告げる。
「それでその後に、桜哉君が椿の命令で『下位』として真昼君の処に向かったという話を聞いて。止めに向かうべく行動をしようとしたら、椿にそれを阻まれて・・・・・・。『誓約』の上書きをされそうになったのだけれど・・・・・・。その時に『鍵』の力が発動して、あの場に行くことが出来たの・・・・・・」
瑠璃は胸元の鍵を右手で握りしめる。
と―――――
「・・・・・・っ・・・・・・向き合えねー・・・・・」
黒猫は呻くように言葉を洩らした。
それはまるで自身の不甲斐なさを悔やんでいるかのような声音だった。
瑠璃は黒猫の背中を慰めるようにそっと左手で撫でると、
「あのね、クロ・・・・・・私自身の話とクロとの話をした時に、椿からある〝問いかけ〟をされたの。―――――もし、クロじゃなくて、『椿』が私と〝最初〟に出逢っていたら・・・・・・私は『椿』を選んだかって」
「・・・・・・っ」
瑠璃の口から紡ぎ出された言葉に、黒猫が動揺した様子で、微かに身体を震わせる。
「―――――私とクロとの『誓約』は成り行きだったけれど、一緒に過ごすようになって『大切な家族』になった。だからもしも、椿と『誓約』を結んでいたとしたら、私にとって椿は同じように『大切な家族』になっていたと思う―――――それが、私が『椿』と〝向き合って〟出した答だった・・・・・・」
瑠璃は眉を下げながら、また黒猫を抱き上げると、想いを口にする。
「椿に〝連れ去られた〟後―――――翌日に目を覚ましてから、一緒の時間を過ごしていた中で、椿は私の事を〝からかって遊ぶ〟ことはあっても、傷つけるような行為は一切しなかった。椿の下位の人たちも、私が一緒に居る事を当たり前の事として受け入れてくれて。・・・・・・桜哉君とも、椿が間に入ってくれたおかげで、もう一度ちゃんと話をすることが出来た。だけど、椿の『兄弟戦争』を始めるという『意志』だけは変えることが出来なかった・・・・・・っ」
黒猫にそこまで話を終えた時、胸の奥がギュッと締め付けられる感覚とともに、瑠璃の瞳からは、涙が零れ出していた。
病院で御園とリリイに話をした時は、平静さを保ったまま、ちゃんと話をすることが出来た。
それなのに―――――・・・・・・
「・・・・・・っごめんね、クロ・・・・・・」
ポタリと黒猫に向かって、涙の雫が落ちていく。
「向き合えねー・・・・・・」
刹那―――――ポフンという音とともに人型に戻ったクロに、瑠璃の身体は抱きすくめられていた。
―――――敵対していた側の〝憂鬱〟の真祖である椿に〝連れ去られた〟瑠璃が『椿』と〝デート〟をしていたと知った時。
―――――〝怠惰〟の真祖であるオレの心の奥に〝向き合えない〟感情が沸きあがるのを感じた。
―――――瑠璃は『怠惰 』の〝ミストレス〟だ。
―――――それなのに・・・・・・。
と―――――
―――――けれど、それと同時に瑠璃の事を〝責めることは出来ない〟という感情も、オレの心の奥には存在していた。
―――――〝此方の世界〟に、何も知らなかった瑠璃を〝ミストレス〟として招き入れ。
―――――きちんとした説明をすることもなく。
―――――瑠璃の身を〝守る為〟という『建て前』を掲げて。
―――――〝ミストレス〟という『楔』に囚われた瑠璃と『誓約』を結んだ。
しかし、『誓約』は絶対的なモノではなく。
〝ミストレス〟の〝全て〟を、その真祖が〝手に入れて〟『契約』を交わさない限り。
他の真祖が『誓約』の上書きを行うことが出来てしまうのだ。
それが判っていながら、瑠璃に対する〝想い〟から、目を逸らし続け。
中途半端な態度で、〝ミストレス〟である瑠璃に接してきた。
だからそのツケが回ってきて、〝憂鬱〟の真祖に〝連れ去られた〟事をきっかけとして。
〝ミストレス〟である瑠璃の〝心〟は、椿に寄り添う事を選んでしまったのだと。
そして―――――
〝・・・・・・っごめんなさい・・・・・〟
リュックの中で、瑠璃の涙に濡れた声を聴いた時に思ったのだ。
これ以上、瑠璃が泣く姿は見たくないと・・・・・・。
―――――だからオレは瑠璃が、今度は〝自分の意思〟で『椿』の処へ〝行ってしまう〟ように。
―――――瑠璃と〝向き合わない〟ようにすれば良いと思った。
―――――けれど・・・・・・オレはまた・・・・・・間違ってしまった。
「・・・・・・瑠璃、お前が謝る必要は無いだろ・・・・・・」
腕の中に瑠璃を抱きしめたまま、首筋に顔を埋めるようにしながらクロは言う。
「・・・・・・でも、私の身勝手な行動で・・・・・・結局、クロの事も傷つけて・・・・・・」
クロの上着の背を握りしめ、肩を震わせながら、涙声で瑠璃が言う。
と―――――ふわりと〝ミストレス〟特有の魅惑の香りを色濃く感じるのと同時に、微かに感じた、他の〝吸血鬼〟の気配。
―――――それは〝憂鬱〟の真祖の気配。
―――――瑠璃の首筋に咲いた〝紅い花〟。
『椿』が残した―――――瑠璃に対する〝想いの証〟だ。
瑠璃の首筋からゆっくりと顔を上げた処で、それを目にしたクロは眉を顰めると、
「・・・・・・瑠璃、オレはお前を泣かせたくなかった・・・・・・」
想いを吐き出すように口にする。
「・・・・・・クロ・・・・・・っ」
と―――――真紅の瞳に、涙に濡れた瑠璃の姿が捉えられる。
―――――・・・・・・あぁ、向き合えねー・・・・・・。
胸の奥で椿に対する腹立たしさと、自身の苛正しい感情が鬩ぎ合う。
そっと右手を瑠璃の左頬にクロは添えると顔を近づけていく。
「・・・・・・―――――瑠璃・・・・・・」
涙は本来ならば、塩辛いもののはずだが、瑠璃が〝ミストレス〟であるが故なのだろうか。
右目の端に口付けると甘さを感じ―――――その刹那、クロの胸の奥でせめぎ合っていた二つの感情が、僅かだが溶けたような気がした。
「・・・・・・ク・・・・・・ロ?」
一瞬、何をされたのか、解らなかった瑠璃が呆然と声を洩らす。
「・・・・・・」
けれどクロは瑠璃に返答する事はなく、今度は左目の端に口付ける。
「・・・・・・・っ」
それにより、何をされたのか、ようやく理解した瑠璃が、息を呑み、微かに肩を震わせる。
「―――――・・・・・・瑠璃、オレはお前の事を・・・・・・」
―――――椿の処に行かせたくねーんだ・・・・・・。
それを目にしたクロは、僅かに目を細めると、低い声で囁くように言葉を紡ぎ出しながら、瑠璃の口にもそのまま唇を重ねてキスをしたのだ。
「・・・・・・っ、クロっ・・・・・・!?」
驚きに目を見開いた瑠璃の後頭部に、クロは右手を触れさせると、そのままさらに深く口づける。
「―――――・・・・・っ」
ギュッと瑠璃はまたクロの上着の端を握りしめると、酸素を求めて僅かに口を開いた。
刹那、それを逃すまいとするかのように、クロの舌が瑠璃の口の中に侵入してくる。
「っ・・・・・・ぁ・・・・・・クロっ・・・・・・・」
そうして瑠璃のほうにクロが体重を掛けたことにより、ベッドに押し倒される状態となってしまい。首筋にもまた、椿が付けた〝紅い花〟を消そうとするかのように、口付けを落とされると、
「―――――・・・・・・ぅ・・・・・・っやぁ・・・・・・クロ・・・・・・」
びくりと身体を震わせた瑠璃の口から、さらにか細く縋るような声が洩れだした。
「・・・・・・―――――瑠璃・・・・・・っ」
そこでハッと我に返った様子で顔を上げたクロが、切ない声で瑠璃の名前を呼んだ。
薄っすらと目を開けた瑠璃は自分を見つめている真紅の瞳を見上げる。
―――――・・・・・・椿は私にとっては『大切な家族』だけど・・・・・・。
―――――・・・・・・やっぱりクロは私にとっては『大切な存在』なんだと思う・・・・・・。
椿にキスをされて、触れられた時に抱いた感情は、〝驚き〟と〝戸惑い〟だけだった。
けれどクロにキスをされて、触れられて抱いた感情は、〝驚き〟と〝戸惑い〟。
―――――そして〝切なさ〟と〝愛おしさ〟。
―――――目の前に居る〝怠惰〟の真祖である吸血鬼が、もしも本当に〝私〟の事を〝望んで〟くれているのなら・・・・・・。
―――――私もそれに〝応えたい〟・・・・・・。
クロに向かって瑠璃は、ゆっくりと〝誓約の証〟がある左手を伸ばすと、ふんわりと微笑みを浮かべて言った。
「・・・・・・クロ、好きだよ・・・・・・」
18・10/14 掲載
18・11/6加筆修正
―――――それは御園のお見舞いに瑠璃が行く事になったとクロから聞いた真昼が送ったメールだった。
そして―――――
【真昼君、また、一人で行動したりしてごめんなさい。御園君のお見舞い無事に終わりました。御園君の容体は落ち着いていたから安心してね。それで今日はもうこれから帰るのだけれど、洞堂さんにまた送って貰える事になったので大丈夫です。だから真昼君は安心してクロと一緒に帰ってきて下さい】
洞堂に送って貰い帰路に着く際、瑠璃は真昼に車内から連絡メールを送っていた。
すると、程なくして真昼からも返信があり―――――
【俺もさっき、御園にメールしたんだ。御園の傷、深くなかったって聞いて、ホッとしたよ。それで、瑠璃姉。帰りも送って貰える事になったんだな。・・・・・・それなら良いんだけど。ただ、瑠璃姉、ごめん。俺ももう暫くしたら帰るけど、家の中がちょっと散らかったままなんだ。夕飯の支度は俺も一緒にやるから、先に片付けのほう頼めるかな?】
そう書かれた真昼からのメールを受け取った瑠璃は―――――
【勿論、大丈夫よ。片付けは任せて!】
帰宅後に家の中の片付けを引き受ける旨を真昼に返信したのだ。
―――――ダイニングテーブルの片隅に山になっていた洗濯物をたたみ。
―――――キッチンのシンクに下げられていた、ペットボトルやカップ麺のゴミを分別して処理を行い。
―――――テレビの前に積まれていた雑誌などを所定の場所に戻し。
―――――仕上げに掃除機をかけて。
一通り、瑠璃が片付けを終えた処でガチャと玄関の扉が開く音が聞こえ、バタバタという足音とともに人の気配が此方に近づいてくる。
「―――――・・・・・・ただいま、瑠璃姉っ!!」
勢いよく、息を切らしながらリビングにやって来たのは真昼だった。
そんな真昼の様子に瑠璃は思わず目を瞠りつつ、
「お帰りなさい、真昼君。もしかして、走って帰って来たの?」
出迎えの言葉とともに尋ねかけると。
「・・・・・・向き合えねー。だから言っただろ、瑠璃の気配はちゃんと家のほうからするって・・・」
真昼の後から遅い足取りで顔を覗かせたクロが呆れたように息を吐きながら言った。
―――――〝誓約の証〟で、瑠璃とクロは繋がっている。
―――――妨害がなければ、瑠璃の居場所の把握はクロにとっては容易なモノなのだ。
けれど―――――
「クロ、お帰りなさい・・・・・・」
「・・・・・・ただいま」
クロは瑠璃と視線を合わせようとはせず、二人の間にぎこちない空気が漂う。
―――――・・・・・・いまのクロと瑠璃の間には、目には見えない〝心〟の距離がある。
「瑠璃姉が家に居るって〝分かってた〟なら、なんでクロはそんな〝浮かない顔〟してるんだよ?」
それだけでなく、瑠璃が無事に帰って来たというのに、クロは学校では瑠璃の事を避けるような素振りさえ見せていた。
真昼が眉を顰めながら、クロに咎めるような視線を向ける。
「・・・・・・真昼君、あのね・・・・・・」
〝あのね、クロ・・・・・・帰ったら聞いて欲しい話があるの。椿との間に何があったのか・・・・・・〟
―――――クロには、まだ話せていない事がある。
だから、クロは悪くないのだと、瑠璃が真昼に言おうと口を開きかけたのだが、
「・・・・・・向き合えねー・・・・・・」
「なっ!? おい、クロ・・・・・・っ!?」
瑠璃が言葉を口にするよりも前に、ポツリとクロはいつもの口癖を呟くと、黒猫の姿にまたなってリビングから出て行ってしまったのだ。
「―――――ったく、クロの奴・・・・・」
眉を顰めながら息を吐き出した真昼に、瑠璃は眉を下げながら言う。
「・・・・・・ごめんね、真昼君。クロと話をしてきても良いかな・・・・・・?」
聞いて欲しい話があるのだと言った瑠璃に対して、クロは―――――
〝・・・・・・わかった・・・・・・帰ってきたら聞かせてくれ・・・・・・〟
「約束をしたの・・・・・・椿との間に何があったのか、話すって・・・・・・」
「瑠璃姉・・・・・・」
真昼は瑠璃の言葉に困惑したように眉根を寄せる。
けれど、それは僅かな間の事で、すぐさま瑠璃を真っ直ぐに見つめると、
「―――――そっか。なら瑠璃姉はクロと話すべきだ! 夕飯の支度は俺がやっとくからさ」
「ありがとう、真昼君・・・・・・」
任せておいてくれよと、笑みを浮かべた真昼に瑠璃は背を押される形で、リビングの扉を開いて廊下に出た。
そして―――――
「クロ・・・・・・話を聞いて貰っても良い?」
廊下の片隅に黒猫の姿を見つけた瑠璃は、そっと呼びかけると同時に手を伸ばしていく。
その手に抱き上げられた黒猫は「・・・・・・あぁ」と小さな声で応じたのだ。
黒猫を連れて自室に戻った瑠璃は、ベッドに腰掛けると腕に抱いていた黒猫を膝の上に下ろし、淡々とした口調で語り出す。
「二日前、桜哉君のお見舞いに行くって言った真昼君と学校で別れた後。夕食の支度の為の買い物を終えた帰り道で椿に会ったの。―――――椿の目的は私と話をすることで。その時に無関係の人を巻き込まない為に家に招いたの」
―――――椿との間に起こった出来事を。
「椿が私に話すよう求めてきた内容は、〝ミストレス〟である私が何処から来たのか。クロといつ、どこで知り合ったのか。そしてその時に―――――椿から桜哉君の過去の話を聞いたの」
―――――人で在った『彼』は嘘つきの街に命を奪われた。
―――――その時に『彼』を迎えに来たのが『椿』だった。
「・・・・・・外ハネが〝吸血鬼〟だって、瑠璃はいつから気付いてたんだ?」
「もしかしたらっていう、考えに至ったのは定例会で椿の下位の話を聞いた後のことよ。吸血鬼の噂話を口にした桜哉君と視線があった時、何処となく〝辛そうな〟〝申し訳なさそうな〟感情が入り混じった瞳をしていたの。・・・・・・だけど、私は桜哉君に尋ねることが出来なかった。あの時、〝自分の気持ち〟とちゃんと〝向き合う〟事が出来ていたなら・・・・・・って、椿から話を聞いた時は、すごく後悔したわ」
消沈した態度のまま尋ねかけてきた黒猫に、瑠璃もまた哀し気に眉を寄せながら告げる。
「それでその後に、桜哉君が椿の命令で『下位』として真昼君の処に向かったという話を聞いて。止めに向かうべく行動をしようとしたら、椿にそれを阻まれて・・・・・・。『誓約』の上書きをされそうになったのだけれど・・・・・・。その時に『鍵』の力が発動して、あの場に行くことが出来たの・・・・・・」
瑠璃は胸元の鍵を右手で握りしめる。
と―――――
「・・・・・・っ・・・・・・向き合えねー・・・・・」
黒猫は呻くように言葉を洩らした。
それはまるで自身の不甲斐なさを悔やんでいるかのような声音だった。
瑠璃は黒猫の背中を慰めるようにそっと左手で撫でると、
「あのね、クロ・・・・・・私自身の話とクロとの話をした時に、椿からある〝問いかけ〟をされたの。―――――もし、クロじゃなくて、『椿』が私と〝最初〟に出逢っていたら・・・・・・私は『椿』を選んだかって」
「・・・・・・っ」
瑠璃の口から紡ぎ出された言葉に、黒猫が動揺した様子で、微かに身体を震わせる。
「―――――私とクロとの『誓約』は成り行きだったけれど、一緒に過ごすようになって『大切な家族』になった。だからもしも、椿と『誓約』を結んでいたとしたら、私にとって椿は同じように『大切な家族』になっていたと思う―――――それが、私が『椿』と〝向き合って〟出した答だった・・・・・・」
瑠璃は眉を下げながら、また黒猫を抱き上げると、想いを口にする。
「椿に〝連れ去られた〟後―――――翌日に目を覚ましてから、一緒の時間を過ごしていた中で、椿は私の事を〝からかって遊ぶ〟ことはあっても、傷つけるような行為は一切しなかった。椿の下位の人たちも、私が一緒に居る事を当たり前の事として受け入れてくれて。・・・・・・桜哉君とも、椿が間に入ってくれたおかげで、もう一度ちゃんと話をすることが出来た。だけど、椿の『兄弟戦争』を始めるという『意志』だけは変えることが出来なかった・・・・・・っ」
黒猫にそこまで話を終えた時、胸の奥がギュッと締め付けられる感覚とともに、瑠璃の瞳からは、涙が零れ出していた。
病院で御園とリリイに話をした時は、平静さを保ったまま、ちゃんと話をすることが出来た。
それなのに―――――・・・・・・
「・・・・・・っごめんね、クロ・・・・・・」
ポタリと黒猫に向かって、涙の雫が落ちていく。
「向き合えねー・・・・・・」
刹那―――――ポフンという音とともに人型に戻ったクロに、瑠璃の身体は抱きすくめられていた。
―――――敵対していた側の〝憂鬱〟の真祖である椿に〝連れ去られた〟瑠璃が『椿』と〝デート〟をしていたと知った時。
―――――〝怠惰〟の真祖であるオレの心の奥に〝向き合えない〟感情が沸きあがるのを感じた。
―――――瑠璃は『
―――――それなのに・・・・・・。
と―――――
―――――けれど、それと同時に瑠璃の事を〝責めることは出来ない〟という感情も、オレの心の奥には存在していた。
―――――〝此方の世界〟に、何も知らなかった瑠璃を〝ミストレス〟として招き入れ。
―――――きちんとした説明をすることもなく。
―――――瑠璃の身を〝守る為〟という『建て前』を掲げて。
―――――〝ミストレス〟という『楔』に囚われた瑠璃と『誓約』を結んだ。
しかし、『誓約』は絶対的なモノではなく。
〝ミストレス〟の〝全て〟を、その真祖が〝手に入れて〟『契約』を交わさない限り。
他の真祖が『誓約』の上書きを行うことが出来てしまうのだ。
それが判っていながら、瑠璃に対する〝想い〟から、目を逸らし続け。
中途半端な態度で、〝ミストレス〟である瑠璃に接してきた。
だからそのツケが回ってきて、〝憂鬱〟の真祖に〝連れ去られた〟事をきっかけとして。
〝ミストレス〟である瑠璃の〝心〟は、椿に寄り添う事を選んでしまったのだと。
そして―――――
〝・・・・・・っごめんなさい・・・・・〟
リュックの中で、瑠璃の涙に濡れた声を聴いた時に思ったのだ。
これ以上、瑠璃が泣く姿は見たくないと・・・・・・。
―――――だからオレは瑠璃が、今度は〝自分の意思〟で『椿』の処へ〝行ってしまう〟ように。
―――――瑠璃と〝向き合わない〟ようにすれば良いと思った。
―――――けれど・・・・・・オレはまた・・・・・・間違ってしまった。
「・・・・・・瑠璃、お前が謝る必要は無いだろ・・・・・・」
腕の中に瑠璃を抱きしめたまま、首筋に顔を埋めるようにしながらクロは言う。
「・・・・・・でも、私の身勝手な行動で・・・・・・結局、クロの事も傷つけて・・・・・・」
クロの上着の背を握りしめ、肩を震わせながら、涙声で瑠璃が言う。
と―――――ふわりと〝ミストレス〟特有の魅惑の香りを色濃く感じるのと同時に、微かに感じた、他の〝吸血鬼〟の気配。
―――――それは〝憂鬱〟の真祖の気配。
―――――瑠璃の首筋に咲いた〝紅い花〟。
『椿』が残した―――――瑠璃に対する〝想いの証〟だ。
瑠璃の首筋からゆっくりと顔を上げた処で、それを目にしたクロは眉を顰めると、
「・・・・・・瑠璃、オレはお前を泣かせたくなかった・・・・・・」
想いを吐き出すように口にする。
「・・・・・・クロ・・・・・・っ」
と―――――真紅の瞳に、涙に濡れた瑠璃の姿が捉えられる。
―――――・・・・・・あぁ、向き合えねー・・・・・・。
胸の奥で椿に対する腹立たしさと、自身の苛正しい感情が鬩ぎ合う。
そっと右手を瑠璃の左頬にクロは添えると顔を近づけていく。
「・・・・・・―――――瑠璃・・・・・・」
涙は本来ならば、塩辛いもののはずだが、瑠璃が〝ミストレス〟であるが故なのだろうか。
右目の端に口付けると甘さを感じ―――――その刹那、クロの胸の奥でせめぎ合っていた二つの感情が、僅かだが溶けたような気がした。
「・・・・・・ク・・・・・・ロ?」
一瞬、何をされたのか、解らなかった瑠璃が呆然と声を洩らす。
「・・・・・・」
けれどクロは瑠璃に返答する事はなく、今度は左目の端に口付ける。
「・・・・・・・っ」
それにより、何をされたのか、ようやく理解した瑠璃が、息を呑み、微かに肩を震わせる。
「―――――・・・・・・瑠璃、オレはお前の事を・・・・・・」
―――――椿の処に行かせたくねーんだ・・・・・・。
それを目にしたクロは、僅かに目を細めると、低い声で囁くように言葉を紡ぎ出しながら、瑠璃の口にもそのまま唇を重ねてキスをしたのだ。
「・・・・・・っ、クロっ・・・・・・!?」
驚きに目を見開いた瑠璃の後頭部に、クロは右手を触れさせると、そのままさらに深く口づける。
「―――――・・・・・っ」
ギュッと瑠璃はまたクロの上着の端を握りしめると、酸素を求めて僅かに口を開いた。
刹那、それを逃すまいとするかのように、クロの舌が瑠璃の口の中に侵入してくる。
「っ・・・・・・ぁ・・・・・・クロっ・・・・・・・」
そうして瑠璃のほうにクロが体重を掛けたことにより、ベッドに押し倒される状態となってしまい。首筋にもまた、椿が付けた〝紅い花〟を消そうとするかのように、口付けを落とされると、
「―――――・・・・・・ぅ・・・・・・っやぁ・・・・・・クロ・・・・・・」
びくりと身体を震わせた瑠璃の口から、さらにか細く縋るような声が洩れだした。
「・・・・・・―――――瑠璃・・・・・・っ」
そこでハッと我に返った様子で顔を上げたクロが、切ない声で瑠璃の名前を呼んだ。
薄っすらと目を開けた瑠璃は自分を見つめている真紅の瞳を見上げる。
―――――・・・・・・椿は私にとっては『大切な家族』だけど・・・・・・。
―――――・・・・・・やっぱりクロは私にとっては『大切な存在』なんだと思う・・・・・・。
椿にキスをされて、触れられた時に抱いた感情は、〝驚き〟と〝戸惑い〟だけだった。
けれどクロにキスをされて、触れられて抱いた感情は、〝驚き〟と〝戸惑い〟。
―――――そして〝切なさ〟と〝愛おしさ〟。
―――――目の前に居る〝怠惰〟の真祖である吸血鬼が、もしも本当に〝私〟の事を〝望んで〟くれているのなら・・・・・・。
―――――私もそれに〝応えたい〟・・・・・・。
クロに向かって瑠璃は、ゆっくりと〝誓約の証〟がある左手を伸ばすと、ふんわりと微笑みを浮かべて言った。
「・・・・・・クロ、好きだよ・・・・・・」
18・10/14 掲載
18・11/6加筆修正
