第五章『嘘に隠れた想いと描いた未来』
『SERVAMP夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「―――――・・・・・・あの・・・・・・真昼君・・・・・・」
会計を終えて退店する客を見送る店員の声が店内に響き渡ったことにより、現実に戻ってきたのだと認識した瑠璃は、何とも言えない面差しで、ぽっかりと一つ空いた席の向こうに座る真昼に視線を向けると、躊躇いつつ呼びかけた。
けれど、膝の上で固く両手を握りしめ、俯く真昼の姿を目にして、何と言えば良いのか、思い浮かばずに言葉を途切れさせてしまう。
二日前、桜哉のお見舞いに行くという真昼と別れた後、夕食の買い物をした帰り道で椿と遭遇し。
―――――話がしたくて来たのだと云われ、無関係の人間を巻き込まない為に、家に招いたという事。
それから椿に〝ミストレス〟である自分が何処から来たのか―――――クロといつ、どこで知り合ったのか―――――それを話すよう乞われ。
その代わりとして、椿から彼の下位であり『家族』でもある――――〝桜哉〟の過去―――――の話を聞いたという事。
そして桜哉と真昼が戦っていたあの場に『鍵』の力を使って瑠璃が駆けつけた後。
クロの暴走の際、意識を失ってしまった処で椿に連れ去られてしまったものの、そこで桜哉とまた再会を果たし、彼と話をしたという事。
―――――それから椿の拠点で出逢ったシャムロック達の事。
―――――二日間共に過ごした中で、椿とシャムロック達もまた、瑠璃にとっては『大切な家族』になったのだという事。
真昼とクロが待つ家に帰ったら、心配させてしまった事を謝った上で、受け入れて貰えるかは分からないけれど、ちゃんと話をするつもりだった。
けれど―――――
椿の〝お願い〟を瑠璃が聞いて一緒に行動していた―――――〝デート中〟―――――昼食の為に立ち寄ったお寿司屋さんで、まさかの再会を果たすこととなり。
椿の口から〝桜哉〟の話を聞かされた真昼は、〝向き合う〟どころか、余計に追い詰められてしまった。
そんな真昼に対して『心配をかけてしまってごめんなさい』という言葉を、いま瑠璃が口にしたとしてもそれは、真昼の心に届く事は無く。
椿と一緒に居た理由を、いま〝弁明〟したとしても、それもまた唯の〝言い訳〟にしかならないだろう。
―――――結局、私は・・・・・・また・・・・・・〝身勝手〟な行動を取ってしまったというだけに過ぎなかったのかもしれない。
真昼に向けていた視線を、その背に在るリュックにも向けた瑠璃は、胸元の『鍵』を握りしめる。
―――――・・・・・・クロも、私とはもう〝向き合って〟くれないかもしれない。
ギュッと胸の奥が締め付けられる感覚とともに、瑠璃の瞳にまたじわりと涙が浮んでくる。
と―――――
「お? 瑠璃さんと一緒に居た、あの粋な兄ちゃん帰ったのか」
ふいに、聴こえてきた声に、ハッと瑠璃は目元を手の甲で拭う。
「・・・・・・あ、はい。その、用事を思い出したみたいで・・・・・・」
ぎこちない笑みを浮かべて瑠璃が返事をした相手は電話を終えて戻ってきた徹だった。
瑠璃の目元が赤くなっているのに気づいた徹は微かに眉を顰めたが、しかしそれを指摘することはせず、眉尻を下げながら「そうか。それは残念だったな」とだけ言うと。
「待たせたな、真昼―――――・・・」
続いて真昼に視線を向けて声を掛けたのだが・・・・・・。
やはり真昼は顔を俯けたまま、反応することはなく。
「・・・・・・・真昼君」
その姿を目にして、また悲痛な面持ちとなった瑠璃が、ポツリと小さな声で名前を呼ぶと―――――ピクリと真昼は肩を震わせ、
「叔父さん・・・俺・・・っ大事な友達をなくしたんだ・・・っ。俺っ・・・なんで今まであいつのこと知ろうとしなかったんだっ。巻き込みたくないなんてエゴで俺は簡単に嘘をついた」
「なんだ・・・やっぱりケンカでもしたんか?」
胸の内をようやく言葉にした真昼に、徹は詰問することはせず、静かな声で訊き返す。
「俺・・・本当は叔父さんみたいになりたかった。誰かに手を伸べて・・・守れる人に。でも・・・結局俺は力も使えなくて・・・」
その所為で―――――
―――――・・・・・・瑠璃姉の事も・・・・・・また・・・・・・椿から〝守ること〟が出来なかった・・・・・・。
―――――・・・・・・〝一緒に立ち向かう〟って約束したのに・・・・・・。
「俺ァ・・・お前が友達とどんなことがあったか知らねーが・・・誰かに手を伸べるのに必要なもんはシンプルだぞ」
視界の隅で目撃してしまった、椿の行動を思い出し、再び言葉を詰まらせた真昼に、徹は変わらず静かな口調で言葉を掛けると、その隣の椅子にまた腰を下ろした。
そうして目線を合わせられる場所に落ち着いた処で、
「何があっても俺ァお前の味方だって覚悟。お前を信じる・・・ていう覚悟だけだ」
そう告げるとともにポンと右手を真昼の頭に乗せたのだ。
・・・叔父さんの手は大きい
・・・・・・ああ。これがずっと俺がなりたかったものだ
真昼の中で張り詰めていた感情が解けて瞳から涙が溢れ出す。
真昼が母親を失ったとき、親族皆が真昼を引き取ることを疎んだ。
そんな中で躊躇うことなく、「ここはシンプルに考えて俺だろ」と言って、手を差し伸べたのが徹だった。
俺はちゃんと信じられていたかな
俺が守るためにすべきだったのは・・・あいつに武器を向けることじゃなくて
ただシンプルに何があっても俺は桜哉の・・・
そうしたら瑠璃姉のことも・・・
―――――泣き声を洩らさないように、歯を食いしばる真昼の心の声が瑠璃の内に響いてくる。
「・・・・・・―――――っ」
沈痛の面持ちで真昼を見ていた瑠璃は、ガタッと音を鳴らして席を立つと、真昼に近づき―――――
「・・・・・・ごめんね、真昼君。桜哉君との事は、私にも責任の一端があるの。〝守られる側〟じゃなくて〝立ち向かう側になりたい〟って私は真昼君に言ったのに・・・・・・私はちゃんと自分の心と向き合えていなかった。そのせいで、桜哉君の本当の気持ちに私は気付くことが出来なくて・・・・・・桜哉君だけじゃなくて、真昼君にまでも『嘘』をつかせてしまった。・・・・・・だけど椿とのことは、真昼君は何も責任を感じる必要はないの・・・・・・。私が自分で、椿と〝向き合う〟ことを決めて一緒にいただけなの。だから・・・・・・っ」
泣き出しそうになるのを堪えるために、グッと左右の手を握りしめながら、そこまで言葉を紡ぎ出したところで、瑠璃は両手をゆっくりと真昼の右手に伸ばしていく。
「・・・・・・っ瑠璃姉・・・・・・」
瑠璃の手が触れると、真昼の右手のリストバンドの下にある、主人の証でもある武器がそこに在ることを示す〝黒い痣〟がじんわりと熱を帯びていった。
―――――どうかもう一度、桜哉君と向き合ってほしい―――――
そうして伝わってきた瑠璃の想いに、真昼がまた瞳から涙を溢れさせると―――――
真昼の頭から手を下ろしたところで、そのまま黙って様子を見ていた徹がふと、目を細めると「瑠璃さんも色々あったんだな」と、椅子からまた立ち上がってポンと瑠璃の頭にも手を乗せたのだ。
そして―――――
「失敗したっていいさ。俺もそうやって大人んなった。ただ・・・二人とも後悔は残すな。お前たちの正義が誰かの正義と違うこともある。他人と自分はまったく違う生き物だから。それでも一緒に生きていくものなんだ。人はずっと・・・その方法を探っていくものなんだ」
徹の掌から伝わってきた温もりと、彼の口から告げられた言葉に―――――また、後悔の想いに囚われかけていた心が―――――救われた気がして―――――。
「・・・・・・っ」
瑠璃の瞳からも、堪えていた涙が流れ出していた。
徹はポンポンと瑠璃の頭を軽く撫でると、また真昼に視線を向け、
「真昼。お前はそいつとケンカしたままで良いのか?」
〝意志〟を確認する言葉を投げかけた。
―――――それに対する真昼の〝心〟はもう決まっていた。
ごしっと涙を右腕で真昼は拭うと、流れてきたお寿司の皿を両手で二つ取り、それをテーブルに置くと、ばくばくばくっと、一気に口の中に詰め込んだ。
その豪快な食べ方に徹は「おっ」と笑みを零す。
空っぽだったお腹を満たした真昼は「ごちそうさま」と言うと勢いよく席を立ち、
「叔父さんっ俺・・・学校行く!!」
そう宣言をすると同時に真昼は瑠璃のほうに振り返り、右手を差し出した。
「―――――瑠璃姉、俺と一緒に来て欲しい」
「・・・・・・真昼君」
差し出された真昼の手を、瑠璃は目を見開き見つめると、涙を左手でグイッと拭い。
「―――――・・・・・・ありがとう」
真昼のその手を右手で握り返した。
それから徹に向き直ると、
「徹さん、ご心配をおかけしてすみませんでした。私も真昼君と一緒に行ってきます」
「気にすんな。真昼にとって瑠璃さんが『姉』なら、俺からしてみれば『姪っ子』になるわけだからな。二人とも、車に気をつけろよ!」
頭を下げた瑠璃に対して徹は、はっはっと満面の笑みを浮かべながら、片手を上げると、そう言って店から送り出してくれたのだ。
―――――桜哉。俺はお前のこと・・・本当に何も知らなかった。
―――――何も知らないでただ武器を向けた。
―――――ごめんな。
―――――桜哉、俺の隣でどんな顔で笑ってたっけ。
瑠璃とともに、学校を目指して走る中―――――真昼は桜哉とともに過ごした記憶の中のある出来事を思い出していた。
それは真昼がまだ高校に進学する前―――――中学三年の時のこと。
教師から進路相談の為の三者面談の用紙を貰った真昼は、すぐさま保護者である徹に携帯を使って電話をしたのだが。
しかし、電話を終えた処で真昼の表情は浮かないものになってしまっていた。
―――――桜哉が姿を現したのは、その直後のことだった。
『まーひるっ。今日、真昼んちで夕飯食っていい?』
いつものふざけた口調で、片手を上げながらどんっと真昼に、背後から勢いよく迫った桜哉は、真昼が手にしていた用紙に気づくと、
『・・・あー・・・三者面談? 真昼んちの叔父さん来れそう?』
『今、長い出張中でさ。しばらく戻るのムリそうだって・・・・』
桜哉からの問いかけに、真昼は沈んだ口調でそう答えたのだ。
すると桜哉は事も無げな口調で、
『オレもさっき先生に、親いないし一人でって言って来たよ。まっ。オレは親がいたとしても面談とか必要ない成績だけど』
軽口を叩いた桜哉に『はは・・・そうだっけ?』と真昼は虚ろな目つきで相槌を打つ。
するとそれを目にした桜哉は、へこむなよと真昼の頭にポンと平手で触れると、
『じゃあさっ、オレと真昼と先生で三面やろうぜっ』
と、突拍子もない話を持ち掛けてきたのだ。
それに対し真昼は『はぁ?』と思わず目を見開くと、どうゆう面談だよと桜哉に訊き返してしまったのだが・・・・・・。
『こんなのどーでもいいってことだよ。元気出せよ真昼。一人じゃねーよ』
その瞬間、桜哉がそう言ってくれたおかげで真昼の中にあった〝寂しい〟気持ちは―――――〝嬉しい〟気持ちに変わったのだ。
そして―――――
―――――あの時・・・嬉しいと思った気持ちは消えていない
―――――俺は確かに桜哉と一緒に笑ってたんだ
胸の奥にあるこの〝変わらぬ想い〟は『嘘』ではなく『真実』だという証なのだ。
学校に辿り着くと、つい先日と同様に息を切らしながら真昼はまた廊下も走り、自分のクラスの教室の前まで来たところで、その扉を勢いよく開け放った。
「あっ。真昼、それに瑠璃さんも!! よかったーっ。真昼がいなきゃ明日の文化祭どうしようかと・・・。それに瑠璃さんにもお願いしたいことが・・・っ」
刹那、明日の準備の要である真昼が登校してきたことに安堵したクラスメイト達はわっと沸き立ったのだが。
「ケガ、どうしたの!?」
「制服は!?」
同時に、真昼の状態に気づき、驚いた様子で、質問を投げかけてきた。
そんなクラスメイト達の中にいたはずの、〝桜哉〟の姿を真昼は探して視線を彷徨わせる。
「真昼も瑠璃さんも、急に休むから心配したよー」
「真昼―――――っ早速なんだけど、この衣装・・・」
そうして、幼馴染の二人―――――虎雪と龍征から声を掛けられた処で、
「桜哉は?」
「・・・え? サクヤ・・・?」
真昼が緊張した面持ちで〝桜哉〟の名を口にすると、クラスメイト達は怪訝そうな様子で真昼を見つめ返してきた。
―――――やっぱり・・・みんな桜哉の記憶は消えてる・・・。
呆然とした表情になった真昼に代わり、瑠璃が口を開く。
「みんな、桜哉君のこと・・・覚えていないの?」
朝、憂鬱組の拠点で話をした時に桜哉は―――――
―――――オレ、『学校』のほうは先週、転校 したっていうふうに、皆の『記憶』を二日前に操作したんです―――――
―――――そう言っていた。だからクラスメイト達が〝桜哉〟の事を覚えていないはずはない。
と―――――
「覚えてないわけねーだろ・・・」
そう言ったのは、龍征だった。
「えっ?」
真昼が目を見開き、龍征の顔を凝視する。
「桜哉が転校 したの先週じゃん・・・」
「文化祭の直前で・・・残念だったよね。桜哉、すごく楽しみにしてたから。明日、桜哉来るかなー」
龍征に続いて、虎雪が言う。
虎雪は桜哉に『文化祭に顔を出せるようだったら来て欲しい』とメールを送っている。
幼馴染二人が真昼からの問いかけに答えたことにより、その話はこれで終了だといわんばかりに、それから程なくしてクラスメイト達は各々で出来る、文化祭の最終準備に取り掛かり始めた。
―――――桜哉君は文化祭に行くか、迷っているようだったけれど・・・・・・。
ギュッと右手を握りしめ、口元を引き結んだ真昼を、眉を下げながら瑠璃は見つめる。
―――――〝名前〟を・・・残していった。
それこそが、桜哉から唯一真昼に向けて残されたメッセージともいえる。
「真昼、瑠璃さん」
と、こちらにやって来た龍征がぼそっと小声で話しかけてくる。
「その・・・桜哉の話だけどよ。なんか・・・変なんだ。あいつの性格とか・・・喋り方とかはっきり覚えてんのに・・・・・・顔が なんか・・・思い出せねーんだよな・・・」
龍征から聞かされた事実に、真昼が呆然と目を瞬かせる。
―――――桜哉・・・お前・・・本当はこんなに憶病だったんだ・・・。
「明日・・・あいつが来てわかるかな・・・」
「大丈夫。俺と瑠璃姉が絶対見つけるよ」
らしくない様子で、龍征が洩らした言葉に、真昼が迷いのない口調で断言する。
瑠璃もまた、それに静かな口調で同意を示した。
「そうね。桜哉君の事は私達が必ず見つけるから」
―――――私達は〝桜哉君〟と〝向き合う〟事を選んだのだから―――――
18・7/28 掲載
会計を終えて退店する客を見送る店員の声が店内に響き渡ったことにより、現実に戻ってきたのだと認識した瑠璃は、何とも言えない面差しで、ぽっかりと一つ空いた席の向こうに座る真昼に視線を向けると、躊躇いつつ呼びかけた。
けれど、膝の上で固く両手を握りしめ、俯く真昼の姿を目にして、何と言えば良いのか、思い浮かばずに言葉を途切れさせてしまう。
二日前、桜哉のお見舞いに行くという真昼と別れた後、夕食の買い物をした帰り道で椿と遭遇し。
―――――話がしたくて来たのだと云われ、無関係の人間を巻き込まない為に、家に招いたという事。
それから椿に〝ミストレス〟である自分が何処から来たのか―――――クロといつ、どこで知り合ったのか―――――それを話すよう乞われ。
その代わりとして、椿から彼の下位であり『家族』でもある――――〝桜哉〟の過去―――――の話を聞いたという事。
そして桜哉と真昼が戦っていたあの場に『鍵』の力を使って瑠璃が駆けつけた後。
クロの暴走の際、意識を失ってしまった処で椿に連れ去られてしまったものの、そこで桜哉とまた再会を果たし、彼と話をしたという事。
―――――それから椿の拠点で出逢ったシャムロック達の事。
―――――二日間共に過ごした中で、椿とシャムロック達もまた、瑠璃にとっては『大切な家族』になったのだという事。
真昼とクロが待つ家に帰ったら、心配させてしまった事を謝った上で、受け入れて貰えるかは分からないけれど、ちゃんと話をするつもりだった。
けれど―――――
椿の〝お願い〟を瑠璃が聞いて一緒に行動していた―――――〝デート中〟―――――昼食の為に立ち寄ったお寿司屋さんで、まさかの再会を果たすこととなり。
椿の口から〝桜哉〟の話を聞かされた真昼は、〝向き合う〟どころか、余計に追い詰められてしまった。
そんな真昼に対して『心配をかけてしまってごめんなさい』という言葉を、いま瑠璃が口にしたとしてもそれは、真昼の心に届く事は無く。
椿と一緒に居た理由を、いま〝弁明〟したとしても、それもまた唯の〝言い訳〟にしかならないだろう。
―――――結局、私は・・・・・・また・・・・・・〝身勝手〟な行動を取ってしまったというだけに過ぎなかったのかもしれない。
真昼に向けていた視線を、その背に在るリュックにも向けた瑠璃は、胸元の『鍵』を握りしめる。
―――――・・・・・・クロも、私とはもう〝向き合って〟くれないかもしれない。
ギュッと胸の奥が締め付けられる感覚とともに、瑠璃の瞳にまたじわりと涙が浮んでくる。
と―――――
「お? 瑠璃さんと一緒に居た、あの粋な兄ちゃん帰ったのか」
ふいに、聴こえてきた声に、ハッと瑠璃は目元を手の甲で拭う。
「・・・・・・あ、はい。その、用事を思い出したみたいで・・・・・・」
ぎこちない笑みを浮かべて瑠璃が返事をした相手は電話を終えて戻ってきた徹だった。
瑠璃の目元が赤くなっているのに気づいた徹は微かに眉を顰めたが、しかしそれを指摘することはせず、眉尻を下げながら「そうか。それは残念だったな」とだけ言うと。
「待たせたな、真昼―――――・・・」
続いて真昼に視線を向けて声を掛けたのだが・・・・・・。
やはり真昼は顔を俯けたまま、反応することはなく。
「・・・・・・・真昼君」
その姿を目にして、また悲痛な面持ちとなった瑠璃が、ポツリと小さな声で名前を呼ぶと―――――ピクリと真昼は肩を震わせ、
「叔父さん・・・俺・・・っ大事な友達をなくしたんだ・・・っ。俺っ・・・なんで今まであいつのこと知ろうとしなかったんだっ。巻き込みたくないなんてエゴで俺は簡単に嘘をついた」
「なんだ・・・やっぱりケンカでもしたんか?」
胸の内をようやく言葉にした真昼に、徹は詰問することはせず、静かな声で訊き返す。
「俺・・・本当は叔父さんみたいになりたかった。誰かに手を伸べて・・・守れる人に。でも・・・結局俺は力も使えなくて・・・」
その所為で―――――
―――――・・・・・・瑠璃姉の事も・・・・・・また・・・・・・椿から〝守ること〟が出来なかった・・・・・・。
―――――・・・・・・〝一緒に立ち向かう〟って約束したのに・・・・・・。
「俺ァ・・・お前が友達とどんなことがあったか知らねーが・・・誰かに手を伸べるのに必要なもんはシンプルだぞ」
視界の隅で目撃してしまった、椿の行動を思い出し、再び言葉を詰まらせた真昼に、徹は変わらず静かな口調で言葉を掛けると、その隣の椅子にまた腰を下ろした。
そうして目線を合わせられる場所に落ち着いた処で、
「何があっても俺ァお前の味方だって覚悟。お前を信じる・・・ていう覚悟だけだ」
そう告げるとともにポンと右手を真昼の頭に乗せたのだ。
・・・叔父さんの手は大きい
・・・・・・ああ。これがずっと俺がなりたかったものだ
真昼の中で張り詰めていた感情が解けて瞳から涙が溢れ出す。
真昼が母親を失ったとき、親族皆が真昼を引き取ることを疎んだ。
そんな中で躊躇うことなく、「ここはシンプルに考えて俺だろ」と言って、手を差し伸べたのが徹だった。
俺はちゃんと信じられていたかな
俺が守るためにすべきだったのは・・・あいつに武器を向けることじゃなくて
ただシンプルに何があっても俺は桜哉の・・・
そうしたら瑠璃姉のことも・・・
―――――泣き声を洩らさないように、歯を食いしばる真昼の心の声が瑠璃の内に響いてくる。
「・・・・・・―――――っ」
沈痛の面持ちで真昼を見ていた瑠璃は、ガタッと音を鳴らして席を立つと、真昼に近づき―――――
「・・・・・・ごめんね、真昼君。桜哉君との事は、私にも責任の一端があるの。〝守られる側〟じゃなくて〝立ち向かう側になりたい〟って私は真昼君に言ったのに・・・・・・私はちゃんと自分の心と向き合えていなかった。そのせいで、桜哉君の本当の気持ちに私は気付くことが出来なくて・・・・・・桜哉君だけじゃなくて、真昼君にまでも『嘘』をつかせてしまった。・・・・・・だけど椿とのことは、真昼君は何も責任を感じる必要はないの・・・・・・。私が自分で、椿と〝向き合う〟ことを決めて一緒にいただけなの。だから・・・・・・っ」
泣き出しそうになるのを堪えるために、グッと左右の手を握りしめながら、そこまで言葉を紡ぎ出したところで、瑠璃は両手をゆっくりと真昼の右手に伸ばしていく。
「・・・・・・っ瑠璃姉・・・・・・」
瑠璃の手が触れると、真昼の右手のリストバンドの下にある、主人の証でもある武器がそこに在ることを示す〝黒い痣〟がじんわりと熱を帯びていった。
―――――どうかもう一度、桜哉君と向き合ってほしい―――――
そうして伝わってきた瑠璃の想いに、真昼がまた瞳から涙を溢れさせると―――――
真昼の頭から手を下ろしたところで、そのまま黙って様子を見ていた徹がふと、目を細めると「瑠璃さんも色々あったんだな」と、椅子からまた立ち上がってポンと瑠璃の頭にも手を乗せたのだ。
そして―――――
「失敗したっていいさ。俺もそうやって大人んなった。ただ・・・二人とも後悔は残すな。お前たちの正義が誰かの正義と違うこともある。他人と自分はまったく違う生き物だから。それでも一緒に生きていくものなんだ。人はずっと・・・その方法を探っていくものなんだ」
徹の掌から伝わってきた温もりと、彼の口から告げられた言葉に―――――また、後悔の想いに囚われかけていた心が―――――救われた気がして―――――。
「・・・・・・っ」
瑠璃の瞳からも、堪えていた涙が流れ出していた。
徹はポンポンと瑠璃の頭を軽く撫でると、また真昼に視線を向け、
「真昼。お前はそいつとケンカしたままで良いのか?」
〝意志〟を確認する言葉を投げかけた。
―――――それに対する真昼の〝心〟はもう決まっていた。
ごしっと涙を右腕で真昼は拭うと、流れてきたお寿司の皿を両手で二つ取り、それをテーブルに置くと、ばくばくばくっと、一気に口の中に詰め込んだ。
その豪快な食べ方に徹は「おっ」と笑みを零す。
空っぽだったお腹を満たした真昼は「ごちそうさま」と言うと勢いよく席を立ち、
「叔父さんっ俺・・・学校行く!!」
そう宣言をすると同時に真昼は瑠璃のほうに振り返り、右手を差し出した。
「―――――瑠璃姉、俺と一緒に来て欲しい」
「・・・・・・真昼君」
差し出された真昼の手を、瑠璃は目を見開き見つめると、涙を左手でグイッと拭い。
「―――――・・・・・・ありがとう」
真昼のその手を右手で握り返した。
それから徹に向き直ると、
「徹さん、ご心配をおかけしてすみませんでした。私も真昼君と一緒に行ってきます」
「気にすんな。真昼にとって瑠璃さんが『姉』なら、俺からしてみれば『姪っ子』になるわけだからな。二人とも、車に気をつけろよ!」
頭を下げた瑠璃に対して徹は、はっはっと満面の笑みを浮かべながら、片手を上げると、そう言って店から送り出してくれたのだ。
―――――桜哉。俺はお前のこと・・・本当に何も知らなかった。
―――――何も知らないでただ武器を向けた。
―――――ごめんな。
―――――桜哉、俺の隣でどんな顔で笑ってたっけ。
瑠璃とともに、学校を目指して走る中―――――真昼は桜哉とともに過ごした記憶の中のある出来事を思い出していた。
それは真昼がまだ高校に進学する前―――――中学三年の時のこと。
教師から進路相談の為の三者面談の用紙を貰った真昼は、すぐさま保護者である徹に携帯を使って電話をしたのだが。
しかし、電話を終えた処で真昼の表情は浮かないものになってしまっていた。
―――――桜哉が姿を現したのは、その直後のことだった。
『まーひるっ。今日、真昼んちで夕飯食っていい?』
いつものふざけた口調で、片手を上げながらどんっと真昼に、背後から勢いよく迫った桜哉は、真昼が手にしていた用紙に気づくと、
『・・・あー・・・三者面談? 真昼んちの叔父さん来れそう?』
『今、長い出張中でさ。しばらく戻るのムリそうだって・・・・』
桜哉からの問いかけに、真昼は沈んだ口調でそう答えたのだ。
すると桜哉は事も無げな口調で、
『オレもさっき先生に、親いないし一人でって言って来たよ。まっ。オレは親がいたとしても面談とか必要ない成績だけど』
軽口を叩いた桜哉に『はは・・・そうだっけ?』と真昼は虚ろな目つきで相槌を打つ。
するとそれを目にした桜哉は、へこむなよと真昼の頭にポンと平手で触れると、
『じゃあさっ、オレと真昼と先生で三面やろうぜっ』
と、突拍子もない話を持ち掛けてきたのだ。
それに対し真昼は『はぁ?』と思わず目を見開くと、どうゆう面談だよと桜哉に訊き返してしまったのだが・・・・・・。
『こんなのどーでもいいってことだよ。元気出せよ真昼。一人じゃねーよ』
その瞬間、桜哉がそう言ってくれたおかげで真昼の中にあった〝寂しい〟気持ちは―――――〝嬉しい〟気持ちに変わったのだ。
そして―――――
―――――あの時・・・嬉しいと思った気持ちは消えていない
―――――俺は確かに桜哉と一緒に笑ってたんだ
胸の奥にあるこの〝変わらぬ想い〟は『嘘』ではなく『真実』だという証なのだ。
学校に辿り着くと、つい先日と同様に息を切らしながら真昼はまた廊下も走り、自分のクラスの教室の前まで来たところで、その扉を勢いよく開け放った。
「あっ。真昼、それに瑠璃さんも!! よかったーっ。真昼がいなきゃ明日の文化祭どうしようかと・・・。それに瑠璃さんにもお願いしたいことが・・・っ」
刹那、明日の準備の要である真昼が登校してきたことに安堵したクラスメイト達はわっと沸き立ったのだが。
「ケガ、どうしたの!?」
「制服は!?」
同時に、真昼の状態に気づき、驚いた様子で、質問を投げかけてきた。
そんなクラスメイト達の中にいたはずの、〝桜哉〟の姿を真昼は探して視線を彷徨わせる。
「真昼も瑠璃さんも、急に休むから心配したよー」
「真昼―――――っ早速なんだけど、この衣装・・・」
そうして、幼馴染の二人―――――虎雪と龍征から声を掛けられた処で、
「桜哉は?」
「・・・え? サクヤ・・・?」
真昼が緊張した面持ちで〝桜哉〟の名を口にすると、クラスメイト達は怪訝そうな様子で真昼を見つめ返してきた。
―――――やっぱり・・・みんな桜哉の記憶は消えてる・・・。
呆然とした表情になった真昼に代わり、瑠璃が口を開く。
「みんな、桜哉君のこと・・・覚えていないの?」
朝、憂鬱組の拠点で話をした時に桜哉は―――――
―――――オレ、『学校』のほうは先週、
―――――そう言っていた。だからクラスメイト達が〝桜哉〟の事を覚えていないはずはない。
と―――――
「覚えてないわけねーだろ・・・」
そう言ったのは、龍征だった。
「えっ?」
真昼が目を見開き、龍征の顔を凝視する。
「桜哉が
「文化祭の直前で・・・残念だったよね。桜哉、すごく楽しみにしてたから。明日、桜哉来るかなー」
龍征に続いて、虎雪が言う。
虎雪は桜哉に『文化祭に顔を出せるようだったら来て欲しい』とメールを送っている。
幼馴染二人が真昼からの問いかけに答えたことにより、その話はこれで終了だといわんばかりに、それから程なくしてクラスメイト達は各々で出来る、文化祭の最終準備に取り掛かり始めた。
―――――桜哉君は文化祭に行くか、迷っているようだったけれど・・・・・・。
ギュッと右手を握りしめ、口元を引き結んだ真昼を、眉を下げながら瑠璃は見つめる。
―――――〝名前〟を・・・残していった。
それこそが、桜哉から唯一真昼に向けて残されたメッセージともいえる。
「真昼、瑠璃さん」
と、こちらにやって来た龍征がぼそっと小声で話しかけてくる。
「その・・・桜哉の話だけどよ。なんか・・・変なんだ。あいつの性格とか・・・喋り方とかはっきり覚えてんのに・・・・・・
龍征から聞かされた事実に、真昼が呆然と目を瞬かせる。
―――――桜哉・・・お前・・・本当はこんなに憶病だったんだ・・・。
「明日・・・あいつが来てわかるかな・・・」
「大丈夫。俺と瑠璃姉が絶対見つけるよ」
らしくない様子で、龍征が洩らした言葉に、真昼が迷いのない口調で断言する。
瑠璃もまた、それに静かな口調で同意を示した。
「そうね。桜哉君の事は私達が必ず見つけるから」
―――――私達は〝桜哉君〟と〝向き合う〟事を選んだのだから―――――
18・7/28 掲載
