第五章『嘘に隠れた想いと描いた未来』
『SERVAMP夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―――――時は遡り、昨日の夜のこと。
「―――――・・・・椿さん、なぜ〝彼女〟を此処に連れて来たんですか?」
憂鬱組の拠点である、とあるホテルの最上階の一室―――――そこに在るベッドに気を失ったままの瑠璃を寝かせた処で、一旦、部屋から出てきた椿にそう尋ねかけてきたのは、ベルキアの身体を回収して、桜哉と共に、あの場から拠点に戻ってきたオトギリだった。
桜哉は帰って来てからすぐさま、自室に引っ込んでしまったようで、部屋から出た先に在る応接スペースのソファーには、精神の回復にはしばらく時を要するであろう、ベルキアの身体が寝かされているだけだった。
てっきり、桜哉のほうが瑠璃をこちらに連れてきたことに対して、何かしら言ってくるのではないかと思っていたのだが・・・・・・。
気配を窺うように桜哉の部屋の扉を、椿はチラリと見遣るとオトギリに言った。
「あのままだったら、暴走した兄さんの中に、瑠璃は取り込まれてしまっていただろう? そんなのは、面白くないからね。だから、連れてきたんだよ」
「・・・・そうですか。でも、急に連れてこられては・・・・困ります」
困惑した様子でそう呟いたオトギリに、椿は「あはははははははっ」と笑い声を上げ、問いかける。
「怠惰の兄さんと城田真昼はどうなった?」
「〝嫉妬〟の真祖が、乱入してきて、怠惰の真祖の暴走を止めました。桜哉は怠惰の真祖の暴走の際・・・その主人を助けようとしていました・・・・・・困ります」
「ふぅん。そっか。でもまぁ、二人とも、ちゃんと無事に帰って来てくれて良かったよ」
ぽつりと、桜哉に関する苦言をオトギリが洩らすも、椿はしかし然程気にしたふうでもなく。
「それで瑠璃の事なんだけど。着替えさせるのを、オトギリにお願いしても良いかな? まだ、暫くは目を覚ましそうにないから」
「・・・・・・分かりました」
「ありがとう。とりあえず、着替えは僕のモノを置いてあるからよろしくね」
こちら側に、〝ミストレス〟である瑠璃を連れて来られたからなのだろう、ご機嫌な様子で椿はオトギリにそう告げたのだった。
―――――初めて『力』を使った事に対する精神的負担と、クロの暴走に意識が巻き込まれかけた事による反動なのだろうか。
瑠璃が目覚めたのは、それから一夜明けた翌日の昼頃の事だった。
「・・・・・・ここは・・・・・・?」
―――――目覚めた瑠璃の視界に飛び込んできたのは見慣れぬ部屋の天井。
以前にも、このような状況に置かれたことはあった。
あの時は〝色欲〟の真祖であるリリイにより、有栖院邸に招かれた訳だったのだが―――――。
今回は、あの時とはまた、何かが違う気がする。
身体を起こそうとしたところで、瑠璃は胸元の辺りに何かがしがみ付いているのに気付き、そっと上掛けを捲ってみた。
そこに居たのは、二股の尾を持った黒い動物。
「・・・・・・きつね?・・・・・・ってまさか椿・・・・・・?」
目を瞬かせ、呆然と瑠璃は、そこで眠っている黒い狐を見下ろす。
そうして、そこでさらに、もう一つの変化に瑠璃は気づく。
「―――――・・・これって、椿が着ていたのと同じ着物・・・・・・?」
――――――意識を失っていた間に着替えさせられていたという事実に、瑠璃は呆然とした表情から一変して、戸惑いの表情を浮かべると、次いでハッと目を瞬かせ、左腕の〝誓約の証〟を確認した。
真紅のリングの中心には変わらず、Ⅰという文字が刻まれている。
つまり、クロとの『誓約』はまだちゃんと継続されているということだ。
「・・・・・・良かった」と、瑠璃は安堵の息を吐く。
と―――――
「・・う・・ぅ、瑠璃・・?」
「―――――・・・・っきゃ!?」
むくりと、首を擡げると、眠たげに言葉を漏らし、コンと云う鳴き声と共に、狐の姿から人型に戻った椿に瑠璃はベッドに押し倒される状態になったのだ。
「あは・・・・目が覚めたんだね。瑠璃」
「・・・・・・っ椿!? ここは何処なの!? それに、なんで私、貴方の着物を着て・・・・・っ!!」
昨日の椿とのやり取りが思い出され、反射的にジタバタと瑠璃は身体を捻りながら、起き上がろうとするも、覆いかぶさるような体制になった椿からは逃れることが出来ず。
「ここは僕が『家族』と住んでいる拠点にある部屋。だけど、瑠璃、中々、目を覚まさないから心配したんだよ?」
―――――と、椿は一瞬眉根を寄せると。
「着替えは、僕の下位のオトギリに頼んでやって貰ったから安心して」
そう告げたところで、椿はサングラスをしていない真紅の瞳で、じっと瑠璃の事を見下ろすと、顔を近づけてきたのだ。
「―――――・・・・っ!!」
また、キスをされてしまうのだろうか。
ギュッと思わず目を瞑ると、チュッと云うリップ音と共に柔らかな感覚が瑠璃の左頬に落とされた。
「あはははははははは!! あっはははははははは! あ―――――面白くない・・・こともないかな」
そうして聴こえてきた笑い声に、瑠璃は目を開けると、身体を起こした状態で、ニヤと口元を吊り上げて、愉しげな笑みを浮かべる椿と視線が合った。
「~~~~~・・・・椿っ!!」
からかわれたのだと感じた瑠璃は、顔を赤らめながら、キッと椿を睨む。
それから起き上がると、椿の真紅の瞳を瑠璃は見据えて、真剣な口調で言った。
「―――――椿、ふざけるのは止めて、私の質問に答えて。・・・・・・真昼君と桜哉君はどうなったの?」
瑠璃が覚えているのは、真昼が桜哉に対して、武器を使い一撃を与えてしまったところまで。その後、クロの中に瑠璃の意識は飛ばされ、真昼の精神の濁流にクロとともに呑まれてしまった。
クロのことも、勿論気がかりではあるが・・・・・・。
左腕には、クロと交わした〝誓約の証〟がちゃんと残っている。
だからクロは〝大丈夫〟だと信じることが出来る。
だけど、真昼君と桜哉君は――――――・・・・・・。
胸元の鍵を瑠璃はまた無意識の内に右手で握りしめる。
―――――けれど今の処、鍵は発動の兆候は見られない。
椿はその様子を、目を眇めて一瞥すると、漸うと口を開いた。
「城田真昼は死んでないよ。桜哉もね。瑠璃が意識を失った直後、城田真昼の血を飲んだ怠惰の兄さんが暴走して、大きな黒い化け物が現れたんだ。僕は瑠璃が暴走に巻き込まれる前に、連れて帰って来たから―――――。その後の事は、オトギリから聞いた話になるけど。嫉妬の兄さんが乱入してそれを止めたんだってさ」
「・・・・・・っ」
椿から聞かされた話に、瑠璃は目を見開くと、視線を落として黙り込んでしまう。
クロの暴走―――――それは『力』が言っていた、クロの中に流れ込んできた、真昼の〝精神〟の影響によるものだったのではないだろうか。
アレに呑まれた後に、精神バランスが不安定になっていた、主人の血を口にしてしまったから・・・・・・。
けれど―――――
ダウトダウトがそれを止めてくれたのと云うのならば、彼には感謝をしなければならない。
そして、椿の口ぶりと態度から察するに、真昼と桜哉の殺し合いはその時点で中断したと考えて良いだろう。
胸元で鍵を握りしめていた右手を解くと、瑠璃は「はぁ」と深く息を吐いた。
それからこちらの様子をじっと、観察する様に見つめてくる椿に、瑠璃は俯けていた視線をまた向けていく。
―――――椿が何を考えているのか、やはり掴めない部分もあるが、瑠璃自身も一応は危うい状況下から助けて貰った立場になるのだ。
「・・・・―――――椿、話してくれてありがとう。それから、私の事も助けてくれて・・・・」
淡い微笑みを浮かべると、瑠璃は椿に言った。
「だって、瑠璃は僕の事を『家族』だって言ったでしょう? 『家族』を助けるのは当然のことだよ」
すると、椿もまた笑みを浮かべると、手を伸ばして瑠璃の腰にギュッと抱き着いてくる。
「―――――っ・・・・・・椿!?」
「あはは。もう少しだけこのままでいさせてよ」
驚きの声を瑠璃は上げるも、椿はご満悦で離れる様子は見られず。
さらに瑠璃の膝の上に頭を乗せると、目を閉じてベッドの上に寝転がってしまう。
所謂、膝枕をすることになってしまった瑠璃は当惑の表情を浮かべながら思う。
椿の動物の姿は、〝狐〟なのだが―――――。
―――――なんだか、気まぐれな〝猫〟を相手にしているみたい。
―――――もし、クロがそれを聞いたなら『一緒にするな、向き合えねー』と眉を顰めるかもしれないけれど。
クロの事を思い出し、ふと、口元を緩めた瑠璃は、視線を膝に落とすと、椿の頭をそっと撫でてみた。
クロの髪とはまた違う、サラサラの綺麗な黒髪。
―――――狐の時の毛の手触りは、やっぱり、もふもふなのかしら?
起きてすぐ、狐姿の椿を目にした時は、そのような事に気を留めている余裕がなかった為、触れずじまいで終わってしまったわけなのだが―――――。
―――――コンコン
「―――――・・・椿さん、起きていらっしゃいますか?」
そんな風に思いながら、瑠璃が首を傾げた時。
控え目なノック音とともに、部屋の外から聞こえてきた、おっとりとした女性の声。
「うん。起きてるよ、オトギリ」
「・・・・・・失礼します」
閉じていた目を開き、椿が応じると、扉の向こうからから、椿の下位であるオトギリが入ってくる。
―――――看護師さん?
オトギリの普段着は、ナース服である。
しかし、初対面である瑠璃はそれを知らない為、きょとんと目を瞬かせると、オトギリは椿に視線を向けて、眉を顰めながら口を開いた。
「・・・・・・困ります。・・・・・・椿さん、何をしてらっしゃるんですか」
「あはははは、ごめんね、オトギリ。もう、ちゃんと起きるよ」
起きていると答えておきながら、瑠璃の膝の上に頭を預けた状態のままだった椿は、そう言って身体を起こすと、ベッドから降りてオトギリの隣に立った。
そうして、瑠璃のほうに向きなおると、
「瑠璃、紹介するよ。彼女は僕の下位で『家族』の一人」
「・・・・・・オトギリです。よろしくお願いします、瑠璃さん」
椿の言葉に続いて挨拶をしてくれたオトギリは、無表情ではあるが、纏っている雰囲気はおっとりとした口調と同様に柔らかなもので、どうやら敵意は持たれていないようだ。
「―――――瑪瑙瑠璃です。こちらこそ、よろしくお願いします。あと・・・・着替え、オトギリさんに、お手間かけさせてしまってすみません」
挨拶の後に、次いで申し訳なさそうな表情を瑠璃が浮かべると、オトギリは微かにまた眉を顰めて言った。
「・・・・・・困ります。手間だなんて思ってません。・・・・・・ですが、やはり、瑠璃さんには椿さんの着物は大きいですね。帯で長さは一応調節しましたが・・・・・・。着ていらっしゃった服はお洗濯をしましたので、後でお返ししますね」
「―――――はい、有難う御座います」
微笑を浮かべて瑠璃はオトギリに頷く。
すると、オトギリは驚いたように目を瞬かせ、ポツリと小さな声で呟いた。
「・・・・・・なんだか、気持ちが少し落ち着かないですね。困ります・・・・・・」
と―――――
「あはっははははっ! あははははははははっ! あはははははははっは! あ―――――・・・・面白くない!! せっかく、僕とお揃いになったのに着替えるなんてさ」
次いで笑い出した椿が拗ねたように不満を漏らしたのだが、オトギリはそれには構う事をせず。
「はぁ・・・・・・困ります。シャムロックが用意してくれたご飯が冷めてしまいます。・・・・・・行きましょう、瑠璃さん」
と―――――瑠璃の手を取ると、部屋の外に瑠璃を連れ出してしまったのだ。
オトギリと共に瑠璃が部屋から出ると、まず目に飛び込んできたのは広々とした応接スペースだった。
そちらのソファーの上には、昨夜の時点では人型で寝かされていたベルキアが、ぬいぐるみの姿で転がっていた。
しかし、やはり言葉を交わすまでにはまだ回復していないようで、瑠璃を連れたオトギリが、通り過ぎた際も、静かなままだった。
その応接スペースの反対側の空間―――――そちらには、キッチンと憂鬱組のメンバーが食事をする為に使うのであろう。
大きなダイニングテーブルと6脚のイスがあり。
そしてテーブルの上には―――――美味しそうな和食と洋食が並べられていた。
と―――――
そちらで料理をしていたらしい、銀髪の男と瑠璃の視線が合った。
「初めまして、〝ミストレス〟の姫君。―――――私は〝若〟の公私ともにお世話をさせて頂いております、シャムロックと申します。姫君の噂は聞き及んでおりましたが、こうして直接お会いできる日が来るとは!! 恐悦至極に存じます」
外国人のような容姿で、髪はオールバック、右目に黒い蝙蝠の羽根のような形の眼帯をした男―――――シャムロックは、右手を胸に添えながら、恭しい態度で頭を垂れてきた。
〝若〟――――――というのは、もしかして椿の事なのだろうか。
チラリと当惑の顔でオトギリのほうに視線を向けると、「・・・・・・〝若〟というのは椿さんのことです」と、頷いてくれた。
「・・・・・・えと、初めまして、シャムロックさん。瑪瑙瑠璃と申します。・・・・・・こちらこそよろしくお願いします」
シャムロックの口から出た『姫君』と云う呼び名と、その態度に瑠璃は戸惑いながら挨拶を行い、言葉を続ける。
「あの、シャムロックさん・・・・・・そんな畏まって話されるような立場の人間じゃ、私は無いですから、普通に接して頂いて大丈夫ですよ」
「―――――いえ、姫君は十分に敬意を払うに値する存在です」
けれど、シャムロックは、態度を改めるつもりはないらしく、きっぱりと言い切ってしまう。
「―――――おはよう、シャム」
そこに、部屋に一人置いてきぼりにされていた椿がやって来た。
「おはようございます、若!! 昨夜は、ちゃんとお休みになられましたか?」
「うん。瑠璃が一緒だったから、おかげでぐっすり眠れたよ」
瑠璃のほうに視線を向けながら、椿は口の端をニヤと上げて言った。
―――――こちらの反応を見て、また面白がっているのであろう。
瑠璃は顔が赤くなるのを感じながら、むぅ・・・と椿を睨む。
オトギリも「・・・・・・瑠璃さんをからかうなんて困ります・・・・・・」と眉を顰めながら呟いていたのだが、しかし、シャムロックには、仲睦まじいやり取りに見えたらしく。
「それは何よりですね。―――――ならば、あとは姫君がこのまま、若の〝花嫁〟になって下されば、憂鬱組は安泰です!!」
「え・・・・・・!? それは・・・・・・」
感極まった様子で、握り拳を作ると、高らかにそう言ったシャムロックに、瑠璃は目を見開き、当惑の表情を浮かべてしまう。
「あははははははっ! あはっはははははははははは!! あ―――――・・・・面白くない。シャム、それはまだ気が早いよ。瑠璃の事は未だ口説いてる最中だからね?」
「はっ。そうでしたか・・・・・・若、差し出がましい事を言ってしまい、申し訳ありませんでした」
けれど、とりあえず、椿が弁解をしてくれたおかげで、シャムロックには一応納得をして貰えたようで。
シャムロックはすぐさま、直立の姿勢でまず椿に頭を下げると、次いで瑠璃に対しても、「姫君も、ご気分を害させてしまったようで申し訳ありません」と頭を下げてきたのだった。
その後―――――椿、オトギリ、シャムロックと共に、時間帯的には昼食となる、食事を瑠璃は取ることになったのだが。
「若、姫君、お食事のおかわりがいる場合には遠慮なさらず仰って下さいね。オトギリ女史も、入用な場合は教えて欲しい」
―――――椿の好物は日本食で、特に好んで食べるのは和食なのだという。
―――――オトギリの好物はお蕎麦なのだという。
―――――洋食は、瑠璃の好みが把握できていない事から、シャムロックが用意してくれたモノだった。
―――――瑠璃はそちらを、有難く頂くことにしたのだが。
〝姫君〟というふうに呼ばれるのは、やはりどうも落ち着かない。
態度は変えて貰えないにしても、せめて〝呼び名〟だけでも何とかならないものだろうか。
食事の手を休めると、瑠璃はシャムロックに、遠慮がちな口調で呼びかけた。
「あの・・・・・・シャムロックさん、私のことも普通に名前で呼んで頂けませんか?」
「―――――ねぇ、シャム。僕も〝若〟って呼ぶのはダサいからやめてよ」
瑠璃が呼び方の件で申し出ると、どうやら椿もそれが気になっていたらしく。
同様に、シャムロックに異を示したのだが――――――。
「何を仰います。若の呼び名は、〝若〟以外はありえません。ですが姫君のほうは、そうですね。では、若と同様の呼び方に改めさせて頂くと云う事で、今後は〝お嬢〟と呼ばせて頂きます」
妙な所で拘りがあるのだろうか。
結局、聞き入れて貰えず、椿の〝若〟呼びと合わせて瑠璃は〝お嬢〟とシャムロックに呼ばれることが決まってしまったのだった。
【本館/17・9/8掲載/別館/17・9/9転記】
