第五章『嘘に隠れた想いと描いた未来』
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「止めてくれた・・・のか? この前の定例会であった・・・・・・」
呆然とへたり込んだ体制のまま、真昼は目の前に立つ、紙袋を被った長身の黒衣の存在―――――〝嫉妬〟の真祖〝ダウトダウト〟を見遣り呟く。
と―――――手先よりも長い衣装の両袖を翻し、掲げていた銃を収めた、ダウトダウトが、勢いよく、こちらに振り返ってくる。
三段重ねだった紙袋は着地の際、地面に落ちてしまった為に、1つしか被っていなかったのだが、しかし、迫力のある眼力は変わらず、それを下から、仰ぎ見ることになり、真昼が反射的に身体を震わせると。
す―――――っと、ダウトダウトは真昼の傍を素通りして、その後ろに転がっていた紙袋2つを、しゃがむことなく、パシ、パシ、と長い衣装の袖で、器用に弾き飛ばし、ちょん、と元通り、三段重ねたのだ。
―――――その、執念のような行動を真昼が困惑の面持ちで眺めていると。
「化け物と黒い沼が消えた・・・」
サーヴァンプが3人もこの場に集ってしまった状態では、さすがに分が悪すぎる。
チ・・・と舌打ちとともに呟いた桜哉が、ゆっくりと後退して、この場から撤退しようとしたのだが、それに気づいたダウトダウトが、すぐさままた袖口から銃器を取り出すと、桜哉の額に突き付けたのだ。
ドン―――――と、銃声が轟いた。
桜哉の身体が地面に倒れ込む―――――しかし、間一髪のところで、オトギリの糸が桜哉の右足首に巻き着き、身体を引き倒した為に、銃弾は当たっていなかった。
「サーヴァンプ3人相手は困ります・・・帰りましょう」
ぐい、と桜哉に巻きつけた糸を引きながら、オトギリは言う。
「了解」
助かったものの、顔面を地面に向かって強かに打ち付けてしまった桜哉は、痛む顔を抑えながら、顰め面で頷く。
空中を糸で操られたベルキアの身体が跳躍を始めると、上体を起こした桜哉も、すぐさまそれに続いて立ち去ろうと、身を翻した。
「桜哉!! 待てよ!! 本当はお前、俺の事も、瑠璃姉の事も、殺す気なんか・・・」
その背中に向かって、今度は真昼が必死に手を伸ばしながら叫んだ。
と―――――振り返ってきた桜哉の顔には、今にも泣き出しそうな、そして、悔しそうな、表情が浮かんでいた。
それから真昼に向かって、桜哉はリストバンドを投げた。
―――――それは真昼が桜哉に決別の証として投げつけたリストバンドだった。
それを、ばっ、と、真昼がまた、手の平で受け止めると、既にそこには、桜哉の姿は無かったのだ。
「桜・・・・・・」
けれど、まだ声が聴こえる距離に居るのではないか、と言う思いが捨てきれず、真昼がまた、桜哉の名を叫ぼうとした刹那の事だった。
桜哉が姿を消したフェンスの向こう側から、ドン、と、一台の乗用車が、空き地に向かって突っこんできたのだ。
「何・・・!?」
ギッ、ギャギャッ、という凄まじい音をさせながら、すぐ傍に横付けしてきた車体から姿を見せたのは、御園の専属運転手である洞堂と、リリイの下位である双子の少女、ユリーとマリーだった。
「・・・でっ。アホ毛死んだんすか?」
全速力で車を飛ばしてきた洞堂は、は―――――は―――――と、息を切らしながら、尋ねかけてくる。
「・・・死んでたらこんな悠長にはしてられませんよ・・・」
ほ・・・と、息を吐いたリリイが洞堂に答える。
それから、洞堂とは面識がなかった真昼に、御園の運転手なのだと云う事を告げると。
「「御園・・・ケガ・・・」」
双子がいまにも泣き出しそうな顔で、リリイの腕の中の御園の姿を見つめる。
「来て下さって助かりました。早く御園を病院へ・・・」
そう言いながら、双子が開いてくれた後部座席から、御園を抱いて乗り込もうとしたリリイは真昼に振り返ると、
「さあ、真昼くんも早く」
「あ・・・そ・・・の、俺は大丈夫だから御園を早く・・・・・・」
右手でクロに噛まれた首筋に触れながら、真昼はぎこちない口調でそう言ったのだ。
それに対して、リリイは申し訳なさそうな表情で、ぺこ・・・と頭を下げると、車に乗り込んでいく。
リリイに続いて、双子が再び乗車したのを確認すると、運転席に戻った洞堂はハンドルを握ると同時にすぐさま車を発進させた。
「いやー、びっくりしたっすわ。久々に
「そうでしたか・・・。それでこの場所が・・・」
タイミングよく現れた理由を口にした洞堂の言葉に、リリイは神妙な面持ちで相槌を打つ。
それから「
「・・・瑠璃さんの件に関して、
一瞬、洞堂が気まずそうに、眉を顰めると、双子もまた、ピクリと身体を震わせた。
―――――こちらに来る前に、話を聞いていたからなのだろう。
「あぁ・・・と、お嬢さんに関しては・・・怠惰と『誓約』が繋がっている間は問題ないだろうから様子見だとだけ・・・」
―――――もしも、椿に『誓約』を上書きされてしまったら、瑠璃の居場所を掴むことは、出来なくなってしまうかもしれない。
―――――けれど、瑠璃は、あの『鍵』の力を使って、この場に来た。
―――――あの『鍵』は、瑠璃の〝心次第〟で、今後もまた、在り様を恐らく変えていくだろう。
「・・・わかりました。では、〝ミストレス〟である瑠璃さんの、〝想い〟と〝意志の強さ〟を信じましょう・・・」
傍らの双子の頭を、片手でそっとリリイは撫でると、そう呟いたのだった。
「なぜ・・・行かない・・・」
リリイ達が居なくなった後、ついで、ダウトダウトもこの場から姿を消すだろうと思われたのだが。
しかし、ダウトダウトは、この場を離れることなく―――――。
背を向けて立ち尽くしていた真昼に、問いを投げかけてきたのだ。
それに対して、びくっ、と真昼は身体を震わせると、視線を俯けて言った。
「だ・・・って、御園のケガは俺のせいだ・・・っ。俺のために御園は・・・。それでみんな・・・あんなに心配して・・・。それに瑠璃姉も俺が・・・ちゃんと見ていなかったから・・・椿に連れ去られて・・・。俺、どんな顔して一緒に行けば・・・」
「君が責任を感じることじゃないよ」
遣り切れない想いに支配された真昼の前に、ブーツで地面を踏みしめながら、歩み寄ってくる人影が在った。
その影の主は、ダウトダウトに、クロを襲撃するよう、命じた人物と同じ。
「自分のする事には、すべて
やがて、真昼の前に現れたのは、右手におさげ姿の人形を持った、カウボーイスタイルの、バックパッカーな男だった。
「初めまして、少年。こいつが嫉妬の真祖・・・〝
斜めに被った帽子のつばを、人形を持っているのとは反対の左手で、男が持ち上げると、その隠れていた顔が現れる。
整った顔立ちに、金髪の毛先に付いているそれは、エクステなのだろうか。
人形とお揃いの、細い三つ編みを、髪のサイドにつけた男は、何処となく、人を小馬鹿にするような笑みを浮かべながら、「よろしくー。城田真昼くん?」と、真昼の顔の前に、手にしていた人形をひょいと近づけてくる。
それに対して、「えっ、何・・・それ・・・」と思わず真昼が、びくと、身体を引くと、骨董屋と名乗った男は、人形を自身の耳元に近づけると。
「・・・ん? なあに? アベル? うん・・・うん・・・大丈夫だよ。この少年は敵じゃないからね。アベルは怖がりだなあ―――――」
あっはっはっ、こいつぅ―――――と、何やら人形と一人でお喋りを始めてしまったのだ。
その姿を見て、また変な人が出てきた・・・と、段々と冷静になってきた真昼が、眉を顰めながら、男を見ていると。
「最近の若い子はキレやすいから? アベルは心配性だなあー」
人形と楽しげに会話をしていた男が、ふと、その視線に気づいたのか、真昼を振り返ってきたのだが、
「ちょっと君、その目・・・っ。オレのアベルを性的な目で見るな!! 変態!! 人形だぞ?!」
人形を腕に抱えると、いきなり、そんな非難の言葉を浴びせてきたのだ。
「誰が見るか!!」
それに対して、真昼が怒りの抗議の声を上げた刹那のことだった。
―――――ドン! と、いきなり銃弾が背後から飛んできたのだ。
「おっと」
「!?」
しかし、それに対して、男は慌てた様子もなく―――――。
まるでボール球でも避けるかのような調子で男が身を低くすると、弾丸は真昼の頭上を通り過ぎ、その刹那、男が被っていた帽子を撃ち抜いたのだ。
血の気の引いた顔で、真昼が硬直していると、ぼそ、と背後から声が聴こえてくる。
「なぜ・・・約束を守らない・・・」
「な・・・!? 何?!」
顔を引きつらせながら、怖々と真昼がそちらを振り返ると、硝煙を立ち上らせながら、銃を構える、ダウトダウトの姿がそこには在った。
「え? 何だっけ?」
骨董屋の男が、蔑むような笑みを浮かべながら、ダウトダウトに聞き返す。
「この仕事を終えたら・・・血を飲ませる約束・・・」
左目の側だけ、大きくくり抜かれた覗き穴から、男を睨みつけるように見据えながらダウトダウトが言った。
「聞こーえなーいなぁ―――――?」
すると、男は左手を耳元に掲げながら、HA?とからかうような調子でそう返したのだ。
それを目にしたダウトダウトは、すぐさま肩を怒らせながら両腕を掲げると、ガシャ! と隠し持っていた幾本もの銃を両手に取り出し、それを男に目掛けて乱射を始めた。
「あっはっはっ。ジェジェってば、こわーいなあー」
しかし、男は笑いながら、ドドドドドドドドッ―――――と、跳んでくる銃弾を、うたれる~~~と、ステップを踏むようにして避けていた。
その異様な光景を、暫し真昼が唖然としながら見ていると、やがて、ダウトダウトは諦めたのか、壁に背を向けると蹲ってぶつぶつと、何やら呟き始めてしまった。
「ジェジェは、すぐに撃ってきやがる。怖いね―――――アベル?」
やだやだと、男はそんなダウトダウトの後ろ姿を見つつ、小馬鹿にするような笑みを浮かべながら、人形に向かってそう語りかけると、地面で気を失ったままだった黒猫をひょいと掴みあげ。
「はい。君の猫」
めった撃ちにして悪かったね―――――と、言いながら差し出してきたのだ。
「あ・・・」
反射的に手を伸ばすも、受け取る時、びくっと真昼は、身体を震わせてしまう。
そうして俯いてしまった真昼に、ふいに、雰囲気を一変させ、酷薄な笑みを浮かべると男は言った。
「
―――――桜哉を壊す? この人は、一体何を言っているのか?
言われた言葉の意味が理解できず、愕然と真昼は男を見上げる。
「そんな覚悟なんてなかったと自覚できただけでも良かったかな?
そんな真昼に対して、憐れむように言葉を続けた男は、「・・・そこで、だ」と一度、言葉を区切ると。
「キミと吸血鬼の契約を解除する方法を教えるよ。替りに、その〝怠惰〟をオレに渡さない? 取り返しがつかなくなる前にさ」
突然、持ちかけられた取引に、只々、真昼は困惑の表情を浮かべるしかなく。
「なん・・・なんですか。あなたは・・・? 誰―――――・・・」
「いやあ・・・ただのお節介なんだけど。キミが・・・吸血鬼なんか持ってしまったこと後悔してないかと思ってね」
「俺・・・は、ただ・・・クロと瑠璃姉と、みんなを守れたら・・・って思って・・・」
手の届く範囲の全部・・・・そして・・・・。
―――――これからは私も守られる側じゃなくて、立ち向かう側になっていきたいと思ってるから。
『大切な人』である、瑠璃の願いを叶える為に、真昼は『守る力』が欲しいと思っていた。
けれど―――――
「だって、そのせいでキミと親友は敵対することになったんでしょ? そして、君が『姉』と慕っていた瑪瑙瑠璃も、そのせいで他の
男は苦笑を浮かべながら、言い聞かせるように真昼に語りかけてくる。
しかし、何処となく胡散臭い雰囲気を漂わせる男に対して、真昼の不信感は拭いきれず、当惑の表情を浮かべて黙り込んでいると。
「
そう言い残し、背を向けてこの場から男が去ろうとした為。
「ちょ・・・っと待ってください。あなたって何者・・・・・・」
男を呼び止めて、改めてその正体を訊こうとしたのだが。
「ただのしがない骨董屋ですって」
自分が何者なのか、最初に名乗った以上のことを、やはり男は言うつもりはないようで。
はっはっと、はぐらかすように笑いながら、左手に抱えた人形にまた「ね―――――アベル―――――?」と語りかけると、ふと思いついた様子で真昼に言葉を投げかけてきたのだ。
「・・・・・オレの持論をひとつ披露しようか? 『力を持ち始めた無知な子供は最も恐ろしい』・・・なんてね」
眠りから目覚めた御園の視界に、殺風景な白い天井と、点滴らしきものが飛び込んでくる。
病院に運び込まれた御園が意識を取り戻したのは、一夜明けた翌日の、お昼ごろの事だった。
ゆっくりと御園は、日差しが入り込んでくる窓辺とは反対のほうに、首を傾けると、近くにいるであろう真祖の名を呼んだ。
「・・・リリイ・・・?」
ひらりと、一匹の蝶が室内を舞い、窓辺に向かう。
「はい」
すると、窓辺から入り込んできていた陽光が遮られ、そこに器用にカーテンを後ろ手に閉め、人型になったリリイが姿を現したのだ。
「病院・・・か・・・? 僕は・・・」
「半日ほど眠ってました。傷は深くなかったようですが今しばらく安静に」
薄く微笑みながら、リリイは御園に言う。
御園は視線をリリイの足に向けていく。
「リリイ・・・切られた・・・足は・・・?」
昨夜の戦闘に置いて、リリイは右足をベルキアに切られたはずだが、ちゃんと二本の両足が揃っている。
「ご心配なく・・・とりあえずくっつけましたので」
切られた右足を、御園の目の前で持ち上げて見せ、ほら大丈夫ですと、リリイは示してみせる。
―――――しかし、リリイは幻術を得意としているのだ。
「本当に・・・くっついたんだろうな・・・?」
「疑っておいででしたらひと肌脱いで見せましょうか?」
念押しで御園が確認すると、嬉々とした様子でリリイはズボンのベルトに、カチャ・・と手を掛け、外しにかかった。
「脱ぐな変態」
普段の様に、本を投げたり、殴って止めたりできない御園は憤怒の眼差しで、リリイを睨みつける。
それから、呆れた様子で、はぁ、と溜息を吐くと、この場に姿の見えない二人の事を口にした。
「・・・城田はどうした・・・? ・・・瑠璃も、かなり心配しているのではないのか・・・?」
―――――あの場に、瑠璃が来ていた事を御園は意識を失っていた為に知らない。
―――――そして、瑠璃が椿に連れ去られてしまったことも。
しかし、それを伝えたならば、御園は病院を無理やりにでも退院して、瑠璃の行方を捜索しようとするだろう。
―――――だから今は本当の事をまだ伝えるわけにはいかない。
―――――〝ミストレス〟である瑠璃の、〝想い〟と〝意志の強さ〟を信じて待つしかないのだ。
昨夜、口にした言葉をまた、自身に対して、リリイは心の中で言い聞かせる。
「―――――真昼君は怪我の程度はそこまでではなかったので、家で過ごされていると聞いています。あとで、御園が目を覚ましたという連絡をしておきますね」
そうして身なりを整えたリリイは、常と変わらぬ笑みを浮かべると、そう御園に対して言ったのだ。
【本館/17・8/19掲載/別館/17・8/21転記】
