第五章『嘘に隠れた想いと描いた未来』
『SERVAMP夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「さァさァ喝采を!! 変態ちょうちょの串刺しだよォっ」
あははァッ、と云う笑い声と共に、口の中の鋭い牙を覗かせながら、両手に構えた剣を手品師の吸血鬼―――――ベルキア―――――がリリイに向かって振り翳していく。
「変態なんて心外ですねぇ」
御園の血を口にした直後、ベルキアと対峙したリリイは目を瞬かせると、すぐさま身を引いて、襲い来る攻撃を避けたのだが、しかし、剣先がザッと掠め、右側の髪を数センチ切られてしまった。
それからまた、すぐさま身を翻したベルキアが剣を突き付けてきたのだが、リリイは具現化させていた鎌でそれを防いだのだ。
「激しいのも嫌いじゃありませんが、髪を切られるのは傷付きますねぇ」
「お前、ボクよりキャラ濃くてムカつくなァ~~~っ」
眉を顰めるリリイに対して、げェ~~~と、ベルキアは不愉快だと云わんばかりに顔を顰めながら、ぺっぺっと吐き捨てるように言った。
一方、桜哉と対峙した御園は―――――。
「ア―――――ホ―――――毛―――――?主人 が一人でやる気かよ? 調子乗ってんなよ。お坊ちゃんがよぉ」
片目を眇めながら、煽るように、桜哉は御園に言い、その後ろで片膝に黒猫を乗せたまま、地面に座り込む、真昼に視線を向けていく。
「後ろの真昼に期待してんなら無駄だぜ? 真昼は優しいもんなぁ。 オレは友達だもんな? その猫でオレを八つ裂きになんかしないよな? 瑠璃さんを悲しませるようなことなんて出来ないよな? なぁ真昼・・・」
「貴様はいつから、何の目的で、瑪瑙瑠璃と城田真昼に近づいた?」
桜哉の言葉を無言で聞いていた御園が、ふと冷やかに桜哉を見据えると言った。
それに対して、言葉を遮られた桜哉は一瞬、無表情となり、口を閉ざしたのだが、
「な―――――に、妻に浮気された旦那みて―――――なこと言ってんだ!? てめーは瑠璃さんの、真昼の、何なんだよ。関係ねーだろ!? 強いて言うなら暇つぶしだよ。暇つぶし!! 瑠璃さんの方は、椿さんから見張っとけっていう命令もあったしな!! お前こそ、瑠璃さんと真昼と知り合ってたかだか二週間とかだろ? なんでそこまで・・・」
「時間は関係ない。瑠璃と城田が、僕を友達だと言ったからだ」
蔑むような眼差しと、冷淡な口調で言った桜哉に対して、御園は口元を引き結ぶと、きっぱりとした口調で告げた。
「友達!? そんな都合のいい〝嘘〟信じたのかよ!? 世界で一番多く使われる〝嘘〟じゃねーか!! そんな社交辞令 もわかんねぇの!? 世間知らずのお坊ちゃんは安全なお庭で本でも読んでろよ!!」
「口で言っても無駄らしいな」
月夜の闇の中、外の世界での出来事は、全て〝嘘〟なのだと、せせ嗤う桜哉に対して、リリイと繋がれた主従の証と武器が宿る右手を、御園がゆっくりと掲げると、ヴァッと黒い閃光が瞬き始めた。
「だーかーらー・・・てめーに何ができんだよ。サーヴァンプと戦う時にはまず人間である主人から狙うのが定石。それなのに自分から離れるなんて論外―――・・・」
「リリイが意味もなく僕から離れるわけがないだろう」
しかし、動揺することなく、呆れた様子で嘆息した桜哉を、御園はじっと睨むように見据えると言った。
「さァさァ喝采を!! ボクは〝串刺公〟ベルキア☆★ 得意芸 は串刺し芸☆ 見せちゃうぞォ~~~ッ」
―――――と、リリイと戦っていたベルキアが、その矛先を御園に変えて、シルクハットの中に手を差し入れていく。
「脱出不能の串刺しBOX☆ さァさァ、アホ毛ちゃんから串刺しにィ~~~」
そうして、シルクハットの中から出現したのは巨大なマジックボックスだった。
けれど―――――
「串刺しになった のは貴様だ、手品師」
御園のその言葉と共に、ベルキアが優勢かと思われた状況は逆転したのだ。
「城田・・・見せてやる。僕の武器の使い方の一つを」
主人 ・標的・吸血鬼 がこの順で一直線上に並んだ時に発動する―――――・・・。
御園の宣言と共に、ベルキアの足元に、四角い黒い影が浮かび上がると、そこから、あの御園が常に座っていたアンティーク風の椅子が出現した。
―――――〝赤の女王の処刑台 〟
「なっ・・・何だよォ、このイス!?」
全身を逃げられないよう、椅子から伸びた影に拘束されたベルキアは、唖然とした表情を浮かべると、喚くように言った。
「もしかして・・・御園の武器ってそのイス・・・っ」
座り込んだままの真昼が、呆然と呟く。
いつも御園の傍らに、気づけば具現化していたあの椅子は、一体何処から出て来ていたのか。解らず仕舞いだったが、武器だったのだとすれば、納得がいくというものだ。
―――――HAVEA GOOD DREAM
ベルキアの喉元に、ピタと鎌を突き付けたリリイは、甘やかな囁きと共に刃を振り下ろした。
「まず一人」
その光景を、無情な眼差しで一瞥し、御園が呟く。
ゴトンッと椅子から転がり落ちたベルキアの姿を目にした真昼が「うわぁっ」と身体をびくつかせて悲鳴を上げた。
「あ・・・れ? 首・・・切れてない・・・?」
しかし、昏倒して白目を剥いたベルキアの首は、無傷の状態でしっかりと繋がっていて、結わえられていた髪だけが、切断されて長さが不揃い、という状態になっていた。
「色欲 が破壊するのは肉体ではありません。精神です。髪を切ったのはお返しです♥」
にっこりと笑みを浮かべたリリイが真昼に説明をする。
それから、主人の方に視線を向けると、
「久々に術の練習なんてした甲斐がありましたかね。御園が瑠璃さんと真昼くんにどうしてもいいとこ見せたいというので・・・。まぁ、瑠璃さんにはまたの機会にお見せ出来れば・・・」
シリアスな雰囲気をぶち壊すように、にっこりと微笑を浮かべながらそう言ったリリイに対して「黙ってろ、リリイッ」と御園は一喝すると、桜哉に視線を戻し、静かな声で言った。
「・・・残念だ。城田は貴様を一番の友達だと言っていたのに・・・」
「・・・真昼が・・・オレを?」
ふいに、泣き出しそうな表情になった桜哉の姿に、御園は呆然と目を見開くと、肩を強張らせて動きを止めてしまう。
「そっか・・・。せめてあと一週間・・・友達でいられたらよかったのにな・・・。来週の文化祭けっこー楽しみにしてたんだ・・・」
切なげな笑みを浮かべた桜哉を、真昼もまた愕然とした表情で見つめていた。
「有栖院御園・・・。お前の友達 の、瑠璃さんと真昼が、何を望んでるか、ちゃんと考えた?」
「御園、彼の話を聞かないで・・・」
主人の心の揺れを感じ取った吸血鬼が叫ぶ。―――――が、それは主人の耳には届かず、話は続く。
「瑠璃さんがまだオレの事を大事に思ってくれていて、真昼がオレを友達だと言ってくれるのなら・・・オレとお前は友達になれたのかな? ほんのすこし・・・何かが違っていたら・・・瑠璃さんと真昼はお前とオレに殺し合いなんて望んでたのかなぁ・・・?」
―――――――御園の心の中に、罪悪感と後悔の念が押し寄せる。
それは主従の繋がりにも影響を及ぼし、刹那、リリイが手にしていた鎌がバシャッと消失してしまう。
「あ・・・」
「御園っ。ダメです、解いては・・・」
よろ、と後ろに後ずさりかけた御園に向かってリリイが手を伸ばしながら叫ぶ。
―――――その、刹那の事だった。
精神を破壊され、戦闘不能に陥っていた筈のベルキアが、突如としてリリイのすぐ傍に現れたのだ。
「?!」
ハッとそちらにリリイが振り返った時には、間に合わず。
ズダン!! という音ともに、リリイの右足はベルキアの剣により切断をされてしまった。
「ボッ・・・クは串刺公ベルキアッ☆ 足が串刺しだァ~~~・・☆」
しかし、ベルキア自身の意識は戻っておらず。
「糸で・・・動いて・・・!?」
―――――ベルキアの身体には、無数の糸が巻き付いていた。
片脚を奪われた状態ではあるものの、何とかベルキアから距離を取ったリリイは、はっと、主人である御園のほうに視線を向ける。
「御園・・・」
その刹那、無防備になってしまった御園の身体を、バッと桜哉のナイフが切り裂いたのだ。
頬と、肩と腹部の辺りから、血を流しながら、御園が倒れ込んでいく。
「御園!」
リリイが叫び、片脚の状態のまま、御園の元に必死に向かっていく。
その様を、嘲笑うかのように桜哉が言う。
「さあ、オレの話はどこまでが嘘でしょ―――――かっ? いつオレ達が2人で来たなんて言った!?」
「・・・もう一人・・・ですか・・・・・・」
御園の元に辿り着くと、その身体を抱き起こしたリリイが、苦い口調で呟いた言葉に、桜哉が「言ったっけ? はははははっ」と嗤う。
ベルキアの身体を操る糸は、ここよりもさらに距離のある別のビルの上の方から伸びていた。
「ベルキアは喋り方がなかなか難しい・・・。困ります・・・」
そこには、ナース服に身を包んだ、ショートヘアの女性の姿が在り、両手と両足、さらに口にも糸を咥えた状態で、無数の糸を彼女は操っていた。
「桜哉!! なんで・・・こんなことするんだっ。嘘だ、こんなの・・・っ。な・・・んで・・・。瑠璃姉と一緒に、4人で・・・友達になれると思ったんだ・・・なのにどうして・・・っ。俺・・・っ」
座り込んだまま、呆然自失状態になっていた、真昼が激昂し、叫んだ。
脳裏に浮かぶのは、バーガーショップの飲み物を片手に、桜哉、真昼、御園、瑠璃の、4人で仲良く並んで歩く姿。
御園のアホ毛を、桜哉がちょんとつまむ姿に、真昼は思わず笑いを零し、御園の隣に居る瑠璃は、カップの何処にストローを差すのか解らず、顰め面の御園に、微笑みを浮かべながら手を差し伸べている。
―――――そんな未来があると信じていたのに。
「・・・城田・・・僕は余計なことをしたか・・・? 友達を・・・守りたかったんだ・・・」
ごほっ・・・と咳きこむと、口元から血を流しながら、朦朧とした意識で、御園が言った。
「・・・余計なことじゃない!! 余計なことなんかじゃないよ・・・!」
その言葉に、真昼は目を見開くと、肩を震わせながら叫んだ。
「なんでなんだよ、桜哉・・・っ」
そうして、両手を握りしめながら真昼が桜哉の名を呼んだ刹那―――――。
「真昼にはわかんねぇよ。オレがずっと、どんな気持ちでいたのかなんて」
ヒュッと背後から一気に間合いを詰めてきた桜哉に、喉元にナイフを突きつけられるのと同時に、両腕を後ろ手に捕らわれてしまったのだ。
真昼を拘束したまま、桜哉は苦しげな口調で言う。
「・・・みんなで楽しく遊んだ帰り道、のどが渇いて仕方ないんだ・・・。楽しければ、楽しいほど、渇いて、渇いて、殺したくなる。そんなとき・・・椿さん達に会うと安心するんだ・・・。オレが悪いんじゃない。吸血鬼はそういうふうにできてるんだ。他人を傷付けないと生きられない生き物なんだ。・・・だから傷付けるのは仕方ない・・・」
「傷付けても仕方ないなんてあるわけ・・・っ」
苦悩に満ちた桜哉の言葉に、真昼は思わず、反論をする。
と―――――「あるんだよ、真昼!!」と云う言葉と共に、桜哉は真昼の背をドカと足で蹴り倒し、後頭部に足を置きながら、嘲るように言った。
「だって後ろめたくて気持ちいいんだ! わかれよ、真昼!! 嘘をついたお前の言葉なんて、もう何一つオレには届かない!」
後頭部を踏まれた状態の中で、唯一自由である瞳で、真昼が桜哉を睨みつける。
そんな真昼に対して、桜哉はまた、怒りを煽り立てるように、言葉を紡ぎ出す。
「さあ真昼。もっと本気でオレを殺しに来いよ。そうしないと・・・オレはまたお前の友達を、それだけじゃなく、今度は瑠璃さんを殺すかもよ・・・!?」
その、刹那の事だった。
―――――うそつき。自分がされて悲しかったことを彼にもするの?
ナイフを握った桜哉を制するように、背後に現れた制服姿の少女の影―――――それは彼の亡くなった姉だった。
ばっ! と、狼狽した様子で、桜哉は背後を振り返るのと同時に、反射的に真昼から距離を取る。
―――――しかし、そこに姉の姿は無く。それは桜哉の良心の呵責により現れた幻影だった。
―――――けれど、その直後。
「―――――真昼君!! 桜哉君!!」
真昼と桜哉の間に、眩い閃光が瞬くとともに、新たに聴こえてきた声。
―――――それは、幻聴ではなく。
「・・・っ・・・瑠璃さん・・・」
「・・・瑠璃姉・・・」
銀色の光が収縮すると、現れたのは『鍵』の力を使って、家から空間跳躍を行った瑠璃の姿だった。
息を呑み、瑠璃の名を呼んだ、ナイフを握りしめた桜哉と、倒れ込んだ真昼。
―――――傷を負っているらしい黒猫。
―――――そして、傷付き倒れ伏した御園と、その傍らに同じように負傷したリリイの姿。
リリイもまた、光の中なから瑠璃が姿を見せた刹那、目を見開いてはいたが、しかし、すぐに『鍵』を使ったと云う事を察したのだろう。
沈痛の面持ちで、こちらを見つめてくるに留められていた。
―――――さらに、椿が言っていた、手品師の吸血鬼―――――ベルキアの姿もあり。
椿の命令通り、殺し合いに発展してしまっているのだと、察しが付いた瑠璃は、哀しげな顔で桜哉を見つめると口を開いた。
「―――――桜哉君、貴方、本当は真昼君と殺し合いをすることなんて望んでなかったんでしょう?」
「・・・・瑠璃さん、オレは・・・・」
―――――刹那、真紅の瞳の中に垣間見せたのは、あの、申し訳なさそうな、辛そうな感情。
―――――それを見て、瑠璃は心中で確信をする。
―――――やっぱり、桜哉君は本心でこんなことをしているんじゃない。
「桜哉・・・っ」
「・・・・真昼君っ」
桜哉の名を呼んだ真昼の声に、ハッとそちらに視線を向けた瑠璃は、ぐ・・・と身体を、よろめかせながらも、何とか起き上がろうとする姿を見て、走り寄る。
右側から肩に手を差し入れながら、瑠璃が真昼を助け起こすと、「待て、真昼」と云う言葉と共に、左側に姿を現したのは人型になったクロだった。
「やめとけ、いまのお前じゃ戦えねーよ・・・」
「クロ・・・っ!?」
戸惑いの表情でクロの方を見た真昼は、ふと眉を顰めると、「お前・・・ケガは!?」と問いかける。
すると、「もう治っ・・・あ―――――いや、だめだ・・・ここは逃げるしか・・・」と、ふるる・・・と身体を震わせた相棒の姿に、真昼は「クロは、瑠璃姉と一緒に下がってろ!! 俺が・・・」と言い放つ。
けれど―――――
「逃げるんだよ」
一歩前に出ようとした真昼の左腕をクロが掴んで止めたのだ。
「逃げねぇよ!! 御園がやられたんだぞ・・・!?」
「こんな力の使い方でいいのか・・・何もしてない、今ならまだ・・・何もお前のせいじゃ・・・」
「・・・・クロ・・・・?」
真昼君も冷静さを欠いているが、クロの様子も何処かおかしい。
―――――まるで、真昼君に力を使わせることを、恐れているような、そんな気がする。
「何もしないでどうするんだよ!!」
当惑の表情で、瑠璃がクロを見つめていると、バシッと真昼がクロの手を振り払った。
「・・・だめだ、真昼。・・・だって」
クロが、ポツリと呟く。
けれど、それに耳を貸すことなく、真昼はこちらに背を向けてしまう。
「・・・・真昼君・・・・」
それを見て、思わず瑠璃が名を呼ぶと、哀しさと苦しさが、ない交ぜになったような、真昼の謝罪の言葉が聞こえた。
「・・・・ごめん、瑠璃姉・・・・」
そして―――――
―――――お前、迷ってるじゃねーか・・・。
真昼のその言葉を聞いたクロが、小さな声でそう呟いたのだ。
―――――・・・・〝立ち向かう側になりたい〟と望んだのに、結局、私にはこの状況を変える事はもうできないのだろうか。
胸元の鍵を、ギュッと瑠璃は哀しげな瞳で握りしめる。
桜哉と対峙した真昼は―――――右手首にはめていた、桜哉から貰った―――――リストバンドを外すと、バシと桜哉に向かって投げつけた。
―――――それは、二人の決別を示していた。
そうして投げつけられたリストバンドを、桜哉が手の中に掴んだ刹那、黒い閃光が瞬くとともに、真昼の手の中には、主人 の証である『武器 』が具現化した。
「・・・そう。それでいいんだよ、真昼。嘘つきは殺さないと」
そうして武器を手にした真昼の姿を見た桜哉は、薄らと微笑みを浮かべるとそう言ったのだ。
【本館/17・8/19掲載/別館/17・8/21転記】
あははァッ、と云う笑い声と共に、口の中の鋭い牙を覗かせながら、両手に構えた剣を手品師の吸血鬼―――――ベルキア―――――がリリイに向かって振り翳していく。
「変態なんて心外ですねぇ」
御園の血を口にした直後、ベルキアと対峙したリリイは目を瞬かせると、すぐさま身を引いて、襲い来る攻撃を避けたのだが、しかし、剣先がザッと掠め、右側の髪を数センチ切られてしまった。
それからまた、すぐさま身を翻したベルキアが剣を突き付けてきたのだが、リリイは具現化させていた鎌でそれを防いだのだ。
「激しいのも嫌いじゃありませんが、髪を切られるのは傷付きますねぇ」
「お前、ボクよりキャラ濃くてムカつくなァ~~~っ」
眉を顰めるリリイに対して、げェ~~~と、ベルキアは不愉快だと云わんばかりに顔を顰めながら、ぺっぺっと吐き捨てるように言った。
一方、桜哉と対峙した御園は―――――。
「ア―――――ホ―――――毛―――――?
片目を眇めながら、煽るように、桜哉は御園に言い、その後ろで片膝に黒猫を乗せたまま、地面に座り込む、真昼に視線を向けていく。
「後ろの真昼に期待してんなら無駄だぜ? 真昼は優しいもんなぁ。 オレは友達だもんな? その猫でオレを八つ裂きになんかしないよな? 瑠璃さんを悲しませるようなことなんて出来ないよな? なぁ真昼・・・」
「貴様はいつから、何の目的で、瑪瑙瑠璃と城田真昼に近づいた?」
桜哉の言葉を無言で聞いていた御園が、ふと冷やかに桜哉を見据えると言った。
それに対して、言葉を遮られた桜哉は一瞬、無表情となり、口を閉ざしたのだが、
「な―――――に、妻に浮気された旦那みて―――――なこと言ってんだ!? てめーは瑠璃さんの、真昼の、何なんだよ。関係ねーだろ!? 強いて言うなら暇つぶしだよ。暇つぶし!! 瑠璃さんの方は、椿さんから見張っとけっていう命令もあったしな!! お前こそ、瑠璃さんと真昼と知り合ってたかだか二週間とかだろ? なんでそこまで・・・」
「時間は関係ない。瑠璃と城田が、僕を友達だと言ったからだ」
蔑むような眼差しと、冷淡な口調で言った桜哉に対して、御園は口元を引き結ぶと、きっぱりとした口調で告げた。
「友達!? そんな都合のいい〝嘘〟信じたのかよ!? 世界で一番多く使われる〝嘘〟じゃねーか!! そんな
「口で言っても無駄らしいな」
月夜の闇の中、外の世界での出来事は、全て〝嘘〟なのだと、せせ嗤う桜哉に対して、リリイと繋がれた主従の証と武器が宿る右手を、御園がゆっくりと掲げると、ヴァッと黒い閃光が瞬き始めた。
「だーかーらー・・・てめーに何ができんだよ。サーヴァンプと戦う時にはまず人間である主人から狙うのが定石。それなのに自分から離れるなんて論外―――・・・」
「リリイが意味もなく僕から離れるわけがないだろう」
しかし、動揺することなく、呆れた様子で嘆息した桜哉を、御園はじっと睨むように見据えると言った。
「さァさァ喝采を!! ボクは〝串刺公〟ベルキア☆★ 得意
―――――と、リリイと戦っていたベルキアが、その矛先を御園に変えて、シルクハットの中に手を差し入れていく。
「脱出不能の串刺しBOX☆ さァさァ、アホ毛ちゃんから串刺しにィ~~~」
そうして、シルクハットの中から出現したのは巨大なマジックボックスだった。
けれど―――――
「串刺しに
御園のその言葉と共に、ベルキアが優勢かと思われた状況は逆転したのだ。
「城田・・・見せてやる。僕の武器の使い方の一つを」
御園の宣言と共に、ベルキアの足元に、四角い黒い影が浮かび上がると、そこから、あの御園が常に座っていたアンティーク風の椅子が出現した。
―――――〝
「なっ・・・何だよォ、このイス!?」
全身を逃げられないよう、椅子から伸びた影に拘束されたベルキアは、唖然とした表情を浮かべると、喚くように言った。
「もしかして・・・御園の武器ってそのイス・・・っ」
座り込んだままの真昼が、呆然と呟く。
いつも御園の傍らに、気づけば具現化していたあの椅子は、一体何処から出て来ていたのか。解らず仕舞いだったが、武器だったのだとすれば、納得がいくというものだ。
―――――HAVEA GOOD DREAM
ベルキアの喉元に、ピタと鎌を突き付けたリリイは、甘やかな囁きと共に刃を振り下ろした。
「まず一人」
その光景を、無情な眼差しで一瞥し、御園が呟く。
ゴトンッと椅子から転がり落ちたベルキアの姿を目にした真昼が「うわぁっ」と身体をびくつかせて悲鳴を上げた。
「あ・・・れ? 首・・・切れてない・・・?」
しかし、昏倒して白目を剥いたベルキアの首は、無傷の状態でしっかりと繋がっていて、結わえられていた髪だけが、切断されて長さが不揃い、という状態になっていた。
「
にっこりと笑みを浮かべたリリイが真昼に説明をする。
それから、主人の方に視線を向けると、
「久々に術の練習なんてした甲斐がありましたかね。御園が瑠璃さんと真昼くんにどうしてもいいとこ見せたいというので・・・。まぁ、瑠璃さんにはまたの機会にお見せ出来れば・・・」
シリアスな雰囲気をぶち壊すように、にっこりと微笑を浮かべながらそう言ったリリイに対して「黙ってろ、リリイッ」と御園は一喝すると、桜哉に視線を戻し、静かな声で言った。
「・・・残念だ。城田は貴様を一番の友達だと言っていたのに・・・」
「・・・真昼が・・・オレを?」
ふいに、泣き出しそうな表情になった桜哉の姿に、御園は呆然と目を見開くと、肩を強張らせて動きを止めてしまう。
「そっか・・・。せめてあと一週間・・・友達でいられたらよかったのにな・・・。来週の文化祭けっこー楽しみにしてたんだ・・・」
切なげな笑みを浮かべた桜哉を、真昼もまた愕然とした表情で見つめていた。
「有栖院御園・・・。
「御園、彼の話を聞かないで・・・」
主人の心の揺れを感じ取った吸血鬼が叫ぶ。―――――が、それは主人の耳には届かず、話は続く。
「瑠璃さんがまだオレの事を大事に思ってくれていて、真昼がオレを友達だと言ってくれるのなら・・・オレとお前は友達になれたのかな? ほんのすこし・・・何かが違っていたら・・・瑠璃さんと真昼はお前とオレに殺し合いなんて望んでたのかなぁ・・・?」
―――――――御園の心の中に、罪悪感と後悔の念が押し寄せる。
それは主従の繋がりにも影響を及ぼし、刹那、リリイが手にしていた鎌がバシャッと消失してしまう。
「あ・・・」
「御園っ。ダメです、解いては・・・」
よろ、と後ろに後ずさりかけた御園に向かってリリイが手を伸ばしながら叫ぶ。
―――――その、刹那の事だった。
精神を破壊され、戦闘不能に陥っていた筈のベルキアが、突如としてリリイのすぐ傍に現れたのだ。
「?!」
ハッとそちらにリリイが振り返った時には、間に合わず。
ズダン!! という音ともに、リリイの右足はベルキアの剣により切断をされてしまった。
「ボッ・・・クは串刺公ベルキアッ☆ 足が串刺しだァ~~~・・☆」
しかし、ベルキア自身の意識は戻っておらず。
「糸で・・・動いて・・・!?」
―――――ベルキアの身体には、無数の糸が巻き付いていた。
片脚を奪われた状態ではあるものの、何とかベルキアから距離を取ったリリイは、はっと、主人である御園のほうに視線を向ける。
「御園・・・」
その刹那、無防備になってしまった御園の身体を、バッと桜哉のナイフが切り裂いたのだ。
頬と、肩と腹部の辺りから、血を流しながら、御園が倒れ込んでいく。
「御園!」
リリイが叫び、片脚の状態のまま、御園の元に必死に向かっていく。
その様を、嘲笑うかのように桜哉が言う。
「さあ、オレの話はどこまでが嘘でしょ―――――かっ? いつオレ達が2人で来たなんて言った!?」
「・・・もう一人・・・ですか・・・・・・」
御園の元に辿り着くと、その身体を抱き起こしたリリイが、苦い口調で呟いた言葉に、桜哉が「言ったっけ? はははははっ」と嗤う。
ベルキアの身体を操る糸は、ここよりもさらに距離のある別のビルの上の方から伸びていた。
「ベルキアは喋り方がなかなか難しい・・・。困ります・・・」
そこには、ナース服に身を包んだ、ショートヘアの女性の姿が在り、両手と両足、さらに口にも糸を咥えた状態で、無数の糸を彼女は操っていた。
「桜哉!! なんで・・・こんなことするんだっ。嘘だ、こんなの・・・っ。な・・・んで・・・。瑠璃姉と一緒に、4人で・・・友達になれると思ったんだ・・・なのにどうして・・・っ。俺・・・っ」
座り込んだまま、呆然自失状態になっていた、真昼が激昂し、叫んだ。
脳裏に浮かぶのは、バーガーショップの飲み物を片手に、桜哉、真昼、御園、瑠璃の、4人で仲良く並んで歩く姿。
御園のアホ毛を、桜哉がちょんとつまむ姿に、真昼は思わず笑いを零し、御園の隣に居る瑠璃は、カップの何処にストローを差すのか解らず、顰め面の御園に、微笑みを浮かべながら手を差し伸べている。
―――――そんな未来があると信じていたのに。
「・・・城田・・・僕は余計なことをしたか・・・? 友達を・・・守りたかったんだ・・・」
ごほっ・・・と咳きこむと、口元から血を流しながら、朦朧とした意識で、御園が言った。
「・・・余計なことじゃない!! 余計なことなんかじゃないよ・・・!」
その言葉に、真昼は目を見開くと、肩を震わせながら叫んだ。
「なんでなんだよ、桜哉・・・っ」
そうして、両手を握りしめながら真昼が桜哉の名を呼んだ刹那―――――。
「真昼にはわかんねぇよ。オレがずっと、どんな気持ちでいたのかなんて」
ヒュッと背後から一気に間合いを詰めてきた桜哉に、喉元にナイフを突きつけられるのと同時に、両腕を後ろ手に捕らわれてしまったのだ。
真昼を拘束したまま、桜哉は苦しげな口調で言う。
「・・・みんなで楽しく遊んだ帰り道、のどが渇いて仕方ないんだ・・・。楽しければ、楽しいほど、渇いて、渇いて、殺したくなる。そんなとき・・・椿さん達に会うと安心するんだ・・・。オレが悪いんじゃない。吸血鬼はそういうふうにできてるんだ。他人を傷付けないと生きられない生き物なんだ。・・・だから傷付けるのは仕方ない・・・」
「傷付けても仕方ないなんてあるわけ・・・っ」
苦悩に満ちた桜哉の言葉に、真昼は思わず、反論をする。
と―――――「あるんだよ、真昼!!」と云う言葉と共に、桜哉は真昼の背をドカと足で蹴り倒し、後頭部に足を置きながら、嘲るように言った。
「だって後ろめたくて気持ちいいんだ! わかれよ、真昼!! 嘘をついたお前の言葉なんて、もう何一つオレには届かない!」
後頭部を踏まれた状態の中で、唯一自由である瞳で、真昼が桜哉を睨みつける。
そんな真昼に対して、桜哉はまた、怒りを煽り立てるように、言葉を紡ぎ出す。
「さあ真昼。もっと本気でオレを殺しに来いよ。そうしないと・・・オレはまたお前の友達を、それだけじゃなく、今度は瑠璃さんを殺すかもよ・・・!?」
その、刹那の事だった。
―――――うそつき。自分がされて悲しかったことを彼にもするの?
ナイフを握った桜哉を制するように、背後に現れた制服姿の少女の影―――――それは彼の亡くなった姉だった。
ばっ! と、狼狽した様子で、桜哉は背後を振り返るのと同時に、反射的に真昼から距離を取る。
―――――しかし、そこに姉の姿は無く。それは桜哉の良心の呵責により現れた幻影だった。
―――――けれど、その直後。
「―――――真昼君!! 桜哉君!!」
真昼と桜哉の間に、眩い閃光が瞬くとともに、新たに聴こえてきた声。
―――――それは、幻聴ではなく。
「・・・っ・・・瑠璃さん・・・」
「・・・瑠璃姉・・・」
銀色の光が収縮すると、現れたのは『鍵』の力を使って、家から空間跳躍を行った瑠璃の姿だった。
息を呑み、瑠璃の名を呼んだ、ナイフを握りしめた桜哉と、倒れ込んだ真昼。
―――――傷を負っているらしい黒猫。
―――――そして、傷付き倒れ伏した御園と、その傍らに同じように負傷したリリイの姿。
リリイもまた、光の中なから瑠璃が姿を見せた刹那、目を見開いてはいたが、しかし、すぐに『鍵』を使ったと云う事を察したのだろう。
沈痛の面持ちで、こちらを見つめてくるに留められていた。
―――――さらに、椿が言っていた、手品師の吸血鬼―――――ベルキアの姿もあり。
椿の命令通り、殺し合いに発展してしまっているのだと、察しが付いた瑠璃は、哀しげな顔で桜哉を見つめると口を開いた。
「―――――桜哉君、貴方、本当は真昼君と殺し合いをすることなんて望んでなかったんでしょう?」
「・・・・瑠璃さん、オレは・・・・」
―――――刹那、真紅の瞳の中に垣間見せたのは、あの、申し訳なさそうな、辛そうな感情。
―――――それを見て、瑠璃は心中で確信をする。
―――――やっぱり、桜哉君は本心でこんなことをしているんじゃない。
「桜哉・・・っ」
「・・・・真昼君っ」
桜哉の名を呼んだ真昼の声に、ハッとそちらに視線を向けた瑠璃は、ぐ・・・と身体を、よろめかせながらも、何とか起き上がろうとする姿を見て、走り寄る。
右側から肩に手を差し入れながら、瑠璃が真昼を助け起こすと、「待て、真昼」と云う言葉と共に、左側に姿を現したのは人型になったクロだった。
「やめとけ、いまのお前じゃ戦えねーよ・・・」
「クロ・・・っ!?」
戸惑いの表情でクロの方を見た真昼は、ふと眉を顰めると、「お前・・・ケガは!?」と問いかける。
すると、「もう治っ・・・あ―――――いや、だめだ・・・ここは逃げるしか・・・」と、ふるる・・・と身体を震わせた相棒の姿に、真昼は「クロは、瑠璃姉と一緒に下がってろ!! 俺が・・・」と言い放つ。
けれど―――――
「逃げるんだよ」
一歩前に出ようとした真昼の左腕をクロが掴んで止めたのだ。
「逃げねぇよ!! 御園がやられたんだぞ・・・!?」
「こんな力の使い方でいいのか・・・何もしてない、今ならまだ・・・何もお前のせいじゃ・・・」
「・・・・クロ・・・・?」
真昼君も冷静さを欠いているが、クロの様子も何処かおかしい。
―――――まるで、真昼君に力を使わせることを、恐れているような、そんな気がする。
「何もしないでどうするんだよ!!」
当惑の表情で、瑠璃がクロを見つめていると、バシッと真昼がクロの手を振り払った。
「・・・だめだ、真昼。・・・だって」
クロが、ポツリと呟く。
けれど、それに耳を貸すことなく、真昼はこちらに背を向けてしまう。
「・・・・真昼君・・・・」
それを見て、思わず瑠璃が名を呼ぶと、哀しさと苦しさが、ない交ぜになったような、真昼の謝罪の言葉が聞こえた。
「・・・・ごめん、瑠璃姉・・・・」
そして―――――
―――――お前、迷ってるじゃねーか・・・。
真昼のその言葉を聞いたクロが、小さな声でそう呟いたのだ。
―――――・・・・〝立ち向かう側になりたい〟と望んだのに、結局、私にはこの状況を変える事はもうできないのだろうか。
胸元の鍵を、ギュッと瑠璃は哀しげな瞳で握りしめる。
桜哉と対峙した真昼は―――――右手首にはめていた、桜哉から貰った―――――リストバンドを外すと、バシと桜哉に向かって投げつけた。
―――――それは、二人の決別を示していた。
そうして投げつけられたリストバンドを、桜哉が手の中に掴んだ刹那、黒い閃光が瞬くとともに、真昼の手の中には、
「・・・そう。それでいいんだよ、真昼。嘘つきは殺さないと」
そうして武器を手にした真昼の姿を見た桜哉は、薄らと微笑みを浮かべるとそう言ったのだ。
【本館/17・8/19掲載/別館/17・8/21転記】
