第五章『嘘に隠れた想いと描いた未来』
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夕刻―――――仕事帰りに、東高から少しだけ距離のあるスーパーで、夕食の支度の為の買い物を終えた瑠璃は一人で家に向かって歩いていた。
―――――桜哉は、真昼と同じで両親がすでに亡くなっていて、一人暮らしをしているのだという。
―――――学校にも休みの連絡が来ていないと云う事は、もしかしたら寝込んでしまっているのかもしれない。
その可能性も考慮して、放課後、真昼が桜哉の様子を見に行く事にしたのだが―――――。
「瑠璃姉も一緒に行くだろ? 桜哉の家」
「・・・・ううん。私も一緒だと、かえって桜哉君に気を使わせちゃうかもしれないから、今回は真昼君だけで行ってきて貰えないかな」
真昼に、声を掛けられた際に、そう言ったのだ。
けれど―――――
本当は、瑠璃も桜哉の様子は気になっていた。
あの雨の日以来、桜哉は学校を休んでいるのだという。
吸血鬼達と『定例会』を行った日の翌日から―――――。
冗談交じりに、よく桜哉は吸血鬼の話をしていた。
けれど、その内容は、思い返せば、まるで忠告のようでもあった。
そして、吸血鬼達の定例会で知った情報。
椿の下位は―――――日光の下でも人の姿を保てるのだという。
―――――意識の内にまた、桜哉のあの瞳が思い浮かぶ。
―――――申し訳なさそうな、辛そうな感情を宿した真紅の瞳。
「・・・・きっと、違うよね・・・・桜哉君は・・・・」
―――――家まであともう少しの距離。
手にした買い物袋の持ち手をギュッと握りしめ、視線を落とした瑠璃が呟いた。
―――――その刹那の事だった。
コンコンコン―――――という、まるで狐の鳴き声のような下駄の音と突然の天気雨。
―――――それと共に白い霧も、立ち込めはじめる。
覚えのある、感覚に、脳裏が警鐘を鳴らす。
「―――――やぁ、瑪瑙瑠璃。ちょっと、君と話がしたくて来たんだけど、良いかな?」
「・・・・っ・・椿!?」
まるで、瑠璃の想いを見透かしたかのように、現れたのは八番目―――――〝憂鬱〟の真祖である椿だった。
―――――『力』から受け取った『鍵』の使い方もまだ掴めていないうえに、真昼とクロも傍に居ない以上、今の瑠璃に真祖に対抗する術は無い。
けれど、ここで、椿に怯えるような様を見せたなら、『守られる側』ではなく『立ち向かう側』でありたいと真昼に言った言葉が『嘘』になってしまう。
「・・・・話って?」
―――――瑠璃は、キュッと口元を引き結ぶと、椿を真っ直ぐと見据えて口を開いた。
その時、瑠璃の胸元にある銀色の鍵は、ほんの一瞬だが、瑠璃の気持ちに呼応するかのように、微かな光を灯していた。
「あはっ・・・あははははははははははっ!! あ―――――面白くない。けど、さすが〝ミストレス〟だね。兄さんたちも居なくて一人なのに。怯える様子も見せないで、僕を見返してくるなんて」
それに瑠璃自身は気づかなかったが、椿は微かに目を眇め、瑠璃の胸元の『鍵』を一瞥すると、笑い声を上げながら言った。
けれど、椿の真紅の瞳には、この前対峙した時に見受けられたような、狂気は見えず。
着物の袂で口元を抑えながら、こちらを見つめてくる椿の表情は、面白くないという言葉とは裏腹に、愉しげで。
「君が知りたがっている事に答えてあげるよ。その代わり、君の事も教えて貰えるかな? 君が何処から来たのか。いつ何処で、怠惰の兄さんと知り合ったのかとか。―――――家にお邪魔させて貰って、お茶でも飲みながらゆっくりとね?」
「―――――・・・・・家に?」
唐突に出された条件に、瑠璃は困惑の表情を浮かべてしまう。
真昼とクロに無断で、敵対している相手である真祖を、果たして招き入れても良いものなのだろうか。
「―――――大丈夫だよ、君には危害を加えるつもりはないから」
すると、穏やかな口調で、椿は諭すように告げてくる。
「だって、君は〝ミストレス〟だからね。だけど、このまま、外で話をするというのなら、この場に通りかかった人間の事までは保証は出来ないよ?」
その刹那、ぞくりと背筋に瑠璃は震えが走るのを感じた。
―――――白い霧の中、降り注いでいた雨が紅く染まる。
―――――その言葉どおり、ここに何も知らない一般人が立ち入ったなら、椿は本当にその人間を殺してしまうだろう。
「・・・・・・――――分かったわ。真昼君とクロが帰って来るのには、まだ時間が掛かると思うから・・・・」
瑠璃は目を伏せると、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと右手を胸元に持っていき、そこに在る鍵を握り締めると、椿の言葉に頷いた。
と―――――椿は一瞬、
「ふぅん。君、兄さんのこと、〝名前〟で呼ぶようになったんだね」
驚いたように目を瞬かせたのだが、すぐにまた愉しげな様子で瑠璃の姿を真紅の瞳で捉えると、口元に弧を描いたのだ。
「こらクロ! これは桜哉の弁当だよ!!」
日が暮れ始めたところで、学校を後にして、近所のコンビニでお弁当類を購入した真昼は、左肩に乗っていた黒猫が器用に腕まで降りてくると、そこに掴まりながら、袋をガサガサと漁ろうとするのを見て、顔を顰めると口を開いた。
「ポテチは?」
「お前に買ったんじゃね―の! 桜哉、どーせ何も食ってないだろーから」
目ざとく見つけた黒猫に、学校でさんざんお菓子もらっただろっ、と真昼は窘める様に言う。
「桜哉ってあの冗談ばっか言ってる外ハネか。キサマちゃんとは気ぃ合わなそうな・・・」
外ハネというのは、桜哉のあの独特の髪型から取った呼び名だろう。
ならば、『キサマちゃん』というのは・・・・
「キサマちゃん・・・って御園・・・!?」
人の事を、『貴様』と口癖のように呼ぶ事から、その呼び名に至ったのだろうが。
腕からまた、肩に移動してきた黒猫の口から出た二人に対するあだ名に、真昼は唖然としつつ、気を取り直して歩き出すと、口を付いて出たのは、桜哉に関する話だった。
「桜哉と最後に別れたとき、様子変だったけど・・・何かあったのかも・・・ちゃんと聞けばよかったな・・・。桜哉は昔から冗談みたいにしか喋らないし・・・。あ・・・桜哉とは小学校から一緒なんだけど。・・・あれ? 一緒なのは中学からだっけ・・・?」
ふいに、真昼の内に在った桜哉との思い出に、微かな亀裂が入った。
「桜哉の親も俺と同じで亡くなってて・・・・・・あれ? 桜哉の親って・・・どうして亡くなったんだっけ・・・」
知っていた筈の記憶の中の情報が、不確かなものになっていく。
「・・・・・・? お前の話なんか変だぞ・・・」
黒猫は真昼の言動に違和感を覚え、困惑の表情で主人の顔を見ながら言った。
「・・・あれ? 桜哉の家ってどこだっけ・・・?」
刹那、真昼の中に在ったはずの、その記憶はバラバラに砕け散ってしまったのだ。
黒猫が「は・・・?」と眉を顰める一方で、真昼自身もまた、突如として襲ってきた記憶が喪失してしまった感覚に、右手を額に当てると、戸惑いの表情を浮かべながら口を開く。
「いや・・・何言ってんだ俺・・・行ったことあるのに・・・昔から何度も行った―――――・・・・・・いつ ・・・行ったんだ・・・?」
―――――何言ってんだ俺・・・
―――――桜哉は幼馴染みで、いつだっていっしょで
―――――・・・あれ? 本当に幼馴染なんだっけ?
「ま・・・真昼・・・?」
黒猫が当惑しながら名を呼ぶ。
「・・・なんか・・・頭いてぇ・・・っ」
自問自答を繰り返していた中で、突如として見舞われた頭痛に、真昼は思わず額に添えていた右手で前髪を掴んでしまう。
―――――いや、いつも・・・一緒に
―――――いつも俺と・・・あれ?
そうして、砕けてしまった記憶の欠片は、鏡のごとく、『嘘』を掻き消して、真昼の中に『真実』のみを映し出していく。
―――――・・・これ
―――――ぜんぶ
―――――本当に?
「〝桜哉〟って・・・なんだっけ・・・?」
茫然と立ち尽くす真昼の背後に、記憶から消失してしまった〝彼〟が、再び『嘘』の仮面を付けて忍び寄ってくる。
「真昼」
疑心暗鬼に苛まれた真昼は、突如、背後に現れた気配に、名を呼ばれた、その刹那、狼狽した表情でそちらを振り返った。
「わっ?」と、驚いた表情で、呼び止めるために、肩を叩こうとした左手を上げたまま、動きを止めている―――――自分の名を呼んだ『彼』は誰だっただろうか。
恐怖に支配されていた真昼の口から「あ・・・」と茫然とした声が漏れ出す。
「〝桜哉〟・・・」
そうだ、いま自分の目の前に居るのは、学校を休んでいるのを心配して様子を見に行こうとしていた―――――幼馴染み―――――の『桜哉』だ。
「どーしたんだよ、真昼? こんなところで・・・」
「お前こそ・・・何で学校来ないんだよ! 俺心配で・・・」
いつも通りの軽口で喋る桜哉に対して、真昼は自分の胸の内にある得も言えぬ不安を打ち消そうとするかのように、強い口調で問い返す。
「いやー実はさ・・・ほらっ、この辺吸血鬼が出るって言ったじゃんっ。オレ実はこの前襲われてさ・・・!! ギリっギリ助かったけど! 怖くて暫く家出れなくてー」
嘘か真か―――――真昼の肩に乗った黒猫が、眉を顰め、桜哉を見つめる。
それに気づいているのか、桜哉は口元を吊り上げると―――――
「・・・さてっ今の話はどこまでが嘘でしょーかっ」
冗談交じりにそう言った桜哉の頭に、真昼は拳骨で突っ込みを入れる代わりに、
「言うと思った! ほらコレ! 弁当!」
飯食ったか?! という言葉と共に、手にしていたお弁当の袋をドスと乗せた。
それから「いつも変な嘘ばっか言って・・・」と眉を顰め、真昼が桜哉にお説教をしようとした時、突如として「キャァァッ」という悲鳴のような叫び声が何処からか聴こえてきたのだ。
「・・・えっ今・・・悲鳴・・・?」
「・・・真昼、こっち」
刹那、桜哉はふざけていた雰囲気から一変して、冷めたような眼差しで、悲鳴が聞こえた方を一瞥すると、グイと真昼の右手を掴んで、路地裏に向かって走り出した。
「えっ!? 何・・・!? ちょ・・・っどこ行くんだよっ・・・」
そのまま、桜哉に引きずられるようにして、ひたすら路地裏の狭い道を、時折、壁に身体をぶつけながら、ばたばたばたと真昼は駆けていく。
「さ・・・桜哉っ。何・・・っ」
突然の出来事に、その意味が分からず、走りながら声を上げた真昼に桜哉は言う。
「大丈夫だよ。オレは・・・お前の友達だから。オレはお前を裏切らないよ」
―――――そうして、真昼が桜哉に連れてこられたのは、ビル街の片隅にある空き地だった。
「サク・・・ヤ・・・? なんでこんなとこ・・・」
ようやく立ち止まった桜哉の背中を真昼は戸惑いの表情で見つめる。
「真昼はオレを信用してくれる?」
すると、桜哉は真昼に振り返ることなく、哀しげな口調で問いかけてくる。
「信用してくれてるなら嘘なんかつかないよな?」
「な・・・んか、お前・・・変だよ。何かあった・・・?」
自分が知っている桜哉はお調子者で、冗談のような話ばかりしていて。
「さあ真昼。オレとお前の関係はどこまでが〝嘘〟でしょーか?」
困惑する真昼に、桜哉は淡々とした声で言った。
―――――刹那、真昼と黒猫の身体は突如として、何処からか伸びてきた糸に絡め取られ、拘束されてしまったのだ。
17・7/23 掲載
18・6/29 加筆修正
―――――桜哉は、真昼と同じで両親がすでに亡くなっていて、一人暮らしをしているのだという。
―――――学校にも休みの連絡が来ていないと云う事は、もしかしたら寝込んでしまっているのかもしれない。
その可能性も考慮して、放課後、真昼が桜哉の様子を見に行く事にしたのだが―――――。
「瑠璃姉も一緒に行くだろ? 桜哉の家」
「・・・・ううん。私も一緒だと、かえって桜哉君に気を使わせちゃうかもしれないから、今回は真昼君だけで行ってきて貰えないかな」
真昼に、声を掛けられた際に、そう言ったのだ。
けれど―――――
本当は、瑠璃も桜哉の様子は気になっていた。
あの雨の日以来、桜哉は学校を休んでいるのだという。
吸血鬼達と『定例会』を行った日の翌日から―――――。
冗談交じりに、よく桜哉は吸血鬼の話をしていた。
けれど、その内容は、思い返せば、まるで忠告のようでもあった。
そして、吸血鬼達の定例会で知った情報。
椿の下位は―――――日光の下でも人の姿を保てるのだという。
―――――意識の内にまた、桜哉のあの瞳が思い浮かぶ。
―――――申し訳なさそうな、辛そうな感情を宿した真紅の瞳。
「・・・・きっと、違うよね・・・・桜哉君は・・・・」
―――――家まであともう少しの距離。
手にした買い物袋の持ち手をギュッと握りしめ、視線を落とした瑠璃が呟いた。
―――――その刹那の事だった。
コンコンコン―――――という、まるで狐の鳴き声のような下駄の音と突然の天気雨。
―――――それと共に白い霧も、立ち込めはじめる。
覚えのある、感覚に、脳裏が警鐘を鳴らす。
「―――――やぁ、瑪瑙瑠璃。ちょっと、君と話がしたくて来たんだけど、良いかな?」
「・・・・っ・・椿!?」
まるで、瑠璃の想いを見透かしたかのように、現れたのは八番目―――――〝憂鬱〟の真祖である椿だった。
―――――『力』から受け取った『鍵』の使い方もまだ掴めていないうえに、真昼とクロも傍に居ない以上、今の瑠璃に真祖に対抗する術は無い。
けれど、ここで、椿に怯えるような様を見せたなら、『守られる側』ではなく『立ち向かう側』でありたいと真昼に言った言葉が『嘘』になってしまう。
「・・・・話って?」
―――――瑠璃は、キュッと口元を引き結ぶと、椿を真っ直ぐと見据えて口を開いた。
その時、瑠璃の胸元にある銀色の鍵は、ほんの一瞬だが、瑠璃の気持ちに呼応するかのように、微かな光を灯していた。
「あはっ・・・あははははははははははっ!! あ―――――面白くない。けど、さすが〝ミストレス〟だね。兄さんたちも居なくて一人なのに。怯える様子も見せないで、僕を見返してくるなんて」
それに瑠璃自身は気づかなかったが、椿は微かに目を眇め、瑠璃の胸元の『鍵』を一瞥すると、笑い声を上げながら言った。
けれど、椿の真紅の瞳には、この前対峙した時に見受けられたような、狂気は見えず。
着物の袂で口元を抑えながら、こちらを見つめてくる椿の表情は、面白くないという言葉とは裏腹に、愉しげで。
「君が知りたがっている事に答えてあげるよ。その代わり、君の事も教えて貰えるかな? 君が何処から来たのか。いつ何処で、怠惰の兄さんと知り合ったのかとか。―――――家にお邪魔させて貰って、お茶でも飲みながらゆっくりとね?」
「―――――・・・・・家に?」
唐突に出された条件に、瑠璃は困惑の表情を浮かべてしまう。
真昼とクロに無断で、敵対している相手である真祖を、果たして招き入れても良いものなのだろうか。
「―――――大丈夫だよ、君には危害を加えるつもりはないから」
すると、穏やかな口調で、椿は諭すように告げてくる。
「だって、君は〝ミストレス〟だからね。だけど、このまま、外で話をするというのなら、この場に通りかかった人間の事までは保証は出来ないよ?」
その刹那、ぞくりと背筋に瑠璃は震えが走るのを感じた。
―――――白い霧の中、降り注いでいた雨が紅く染まる。
―――――その言葉どおり、ここに何も知らない一般人が立ち入ったなら、椿は本当にその人間を殺してしまうだろう。
「・・・・・・――――分かったわ。真昼君とクロが帰って来るのには、まだ時間が掛かると思うから・・・・」
瑠璃は目を伏せると、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと右手を胸元に持っていき、そこに在る鍵を握り締めると、椿の言葉に頷いた。
と―――――椿は一瞬、
「ふぅん。君、兄さんのこと、〝名前〟で呼ぶようになったんだね」
驚いたように目を瞬かせたのだが、すぐにまた愉しげな様子で瑠璃の姿を真紅の瞳で捉えると、口元に弧を描いたのだ。
「こらクロ! これは桜哉の弁当だよ!!」
日が暮れ始めたところで、学校を後にして、近所のコンビニでお弁当類を購入した真昼は、左肩に乗っていた黒猫が器用に腕まで降りてくると、そこに掴まりながら、袋をガサガサと漁ろうとするのを見て、顔を顰めると口を開いた。
「ポテチは?」
「お前に買ったんじゃね―の! 桜哉、どーせ何も食ってないだろーから」
目ざとく見つけた黒猫に、学校でさんざんお菓子もらっただろっ、と真昼は窘める様に言う。
「桜哉ってあの冗談ばっか言ってる外ハネか。キサマちゃんとは気ぃ合わなそうな・・・」
外ハネというのは、桜哉のあの独特の髪型から取った呼び名だろう。
ならば、『キサマちゃん』というのは・・・・
「キサマちゃん・・・って御園・・・!?」
人の事を、『貴様』と口癖のように呼ぶ事から、その呼び名に至ったのだろうが。
腕からまた、肩に移動してきた黒猫の口から出た二人に対するあだ名に、真昼は唖然としつつ、気を取り直して歩き出すと、口を付いて出たのは、桜哉に関する話だった。
「桜哉と最後に別れたとき、様子変だったけど・・・何かあったのかも・・・ちゃんと聞けばよかったな・・・。桜哉は昔から冗談みたいにしか喋らないし・・・。あ・・・桜哉とは小学校から一緒なんだけど。・・・あれ? 一緒なのは中学からだっけ・・・?」
ふいに、真昼の内に在った桜哉との思い出に、微かな亀裂が入った。
「桜哉の親も俺と同じで亡くなってて・・・・・・あれ? 桜哉の親って・・・どうして亡くなったんだっけ・・・」
知っていた筈の記憶の中の情報が、不確かなものになっていく。
「・・・・・・? お前の話なんか変だぞ・・・」
黒猫は真昼の言動に違和感を覚え、困惑の表情で主人の顔を見ながら言った。
「・・・あれ? 桜哉の家ってどこだっけ・・・?」
刹那、真昼の中に在ったはずの、その記憶はバラバラに砕け散ってしまったのだ。
黒猫が「は・・・?」と眉を顰める一方で、真昼自身もまた、突如として襲ってきた記憶が喪失してしまった感覚に、右手を額に当てると、戸惑いの表情を浮かべながら口を開く。
「いや・・・何言ってんだ俺・・・行ったことあるのに・・・昔から何度も行った―――――・・・・・・
―――――何言ってんだ俺・・・
―――――桜哉は幼馴染みで、いつだっていっしょで
―――――・・・あれ? 本当に幼馴染なんだっけ?
「ま・・・真昼・・・?」
黒猫が当惑しながら名を呼ぶ。
「・・・なんか・・・頭いてぇ・・・っ」
自問自答を繰り返していた中で、突如として見舞われた頭痛に、真昼は思わず額に添えていた右手で前髪を掴んでしまう。
―――――いや、いつも・・・一緒に
―――――いつも俺と・・・あれ?
そうして、砕けてしまった記憶の欠片は、鏡のごとく、『嘘』を掻き消して、真昼の中に『真実』のみを映し出していく。
―――――・・・これ
―――――ぜんぶ
―――――本当に?
「〝桜哉〟って・・・なんだっけ・・・?」
茫然と立ち尽くす真昼の背後に、記憶から消失してしまった〝彼〟が、再び『嘘』の仮面を付けて忍び寄ってくる。
「真昼」
疑心暗鬼に苛まれた真昼は、突如、背後に現れた気配に、名を呼ばれた、その刹那、狼狽した表情でそちらを振り返った。
「わっ?」と、驚いた表情で、呼び止めるために、肩を叩こうとした左手を上げたまま、動きを止めている―――――自分の名を呼んだ『彼』は誰だっただろうか。
恐怖に支配されていた真昼の口から「あ・・・」と茫然とした声が漏れ出す。
「〝桜哉〟・・・」
そうだ、いま自分の目の前に居るのは、学校を休んでいるのを心配して様子を見に行こうとしていた―――――幼馴染み―――――の『桜哉』だ。
「どーしたんだよ、真昼? こんなところで・・・」
「お前こそ・・・何で学校来ないんだよ! 俺心配で・・・」
いつも通りの軽口で喋る桜哉に対して、真昼は自分の胸の内にある得も言えぬ不安を打ち消そうとするかのように、強い口調で問い返す。
「いやー実はさ・・・ほらっ、この辺吸血鬼が出るって言ったじゃんっ。オレ実はこの前襲われてさ・・・!! ギリっギリ助かったけど! 怖くて暫く家出れなくてー」
嘘か真か―――――真昼の肩に乗った黒猫が、眉を顰め、桜哉を見つめる。
それに気づいているのか、桜哉は口元を吊り上げると―――――
「・・・さてっ今の話はどこまでが嘘でしょーかっ」
冗談交じりにそう言った桜哉の頭に、真昼は拳骨で突っ込みを入れる代わりに、
「言うと思った! ほらコレ! 弁当!」
飯食ったか?! という言葉と共に、手にしていたお弁当の袋をドスと乗せた。
それから「いつも変な嘘ばっか言って・・・」と眉を顰め、真昼が桜哉にお説教をしようとした時、突如として「キャァァッ」という悲鳴のような叫び声が何処からか聴こえてきたのだ。
「・・・えっ今・・・悲鳴・・・?」
「・・・真昼、こっち」
刹那、桜哉はふざけていた雰囲気から一変して、冷めたような眼差しで、悲鳴が聞こえた方を一瞥すると、グイと真昼の右手を掴んで、路地裏に向かって走り出した。
「えっ!? 何・・・!? ちょ・・・っどこ行くんだよっ・・・」
そのまま、桜哉に引きずられるようにして、ひたすら路地裏の狭い道を、時折、壁に身体をぶつけながら、ばたばたばたと真昼は駆けていく。
「さ・・・桜哉っ。何・・・っ」
突然の出来事に、その意味が分からず、走りながら声を上げた真昼に桜哉は言う。
「大丈夫だよ。オレは・・・お前の友達だから。オレはお前を裏切らないよ」
―――――そうして、真昼が桜哉に連れてこられたのは、ビル街の片隅にある空き地だった。
「サク・・・ヤ・・・? なんでこんなとこ・・・」
ようやく立ち止まった桜哉の背中を真昼は戸惑いの表情で見つめる。
「真昼はオレを信用してくれる?」
すると、桜哉は真昼に振り返ることなく、哀しげな口調で問いかけてくる。
「信用してくれてるなら嘘なんかつかないよな?」
「な・・・んか、お前・・・変だよ。何かあった・・・?」
自分が知っている桜哉はお調子者で、冗談のような話ばかりしていて。
「さあ真昼。オレとお前の関係はどこまでが〝嘘〟でしょーか?」
困惑する真昼に、桜哉は淡々とした声で言った。
―――――刹那、真昼と黒猫の身体は突如として、何処からか伸びてきた糸に絡め取られ、拘束されてしまったのだ。
17・7/23 掲載
18・6/29 加筆修正
