第五章『嘘に隠れた想いと描いた未来』
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嘘に隠れた想いと描いた未来
「何か面白い話をしてよ。学校ではどんな嘘 で通してるの? ・・・ねぇ桜哉」
返り血を浴びた姿で、感情を失ったかのように、無表情に佇む、自身の下位である少年に椿は言った。
―――――けれど、桜哉はそれに答える事は無く。真昼と雨の日に交わしたやり取りを最後に、翌日から学校に姿を現さなくなったのだ。
「はあああああ。目覚めろっ俺の力・・・ッ」
――――― 一方、真昼は吸血鬼達の定例会の日に手に入れた自身の武器を使いこなすべく。その翌日から、文化祭の準備の後は、有栖院邸を訪れて、御園に付き合ってもらい〝特訓〟を行っていた。
しかし、いくら武器を手に入れた証の痣がある右手を掲げて、気合を込めるようにして左手をそこに翳そうとも、何の反応もなく―――――。
「う~~~っ。あのホウキ(?)なんで出ないんだよ・・・っ」
肩を落としながら真昼は唸りつつ、今度は両手を頭上に向かって伸ばすと、
「は―――――っ出ろ!! 出ろよ、も―――――っ」
半ばやけくそのように「あ~~~っ」と叫び声を上げた真昼を、常に見慣れたあのアンティーク風のイスに座った御園が、頬杖をつきながら、憮然とした眼差しで見据えると言った。
「城田真昼・・・貴様、ふざけているなら帰れ」
「御園君、真昼君はあれでも真剣にやっていると思うから・・・」
その言葉に、御園の隣でリリイが用意してくれた椅子に座って、特訓の様子を見ていた瑠璃は苦笑を浮かべながら口を開く。
瑠璃の膝の上には真昼の相棒である黒猫の姿も在ったが、黒猫は何も言う事は無く、我関せずと言った様子でたいくつそうにあくびをしただけだった。
御園は仕方がないなというように、息を吐くと、立ち上がり、口を開いた。
「サーヴァンプの主人 が使える・・・〝武器 〟という力。これが扱えないとサーヴァンプは制御できない」
そうして、自身の右手を上げた御園は、その手首にある痣―――――白と黒のひし形のモノを指し示すと、サーヴァンプとの関係性について説明をしてくれたのだ。
LV.1―――――サーヴァンプに血を飲ませて主従の契約を完了させる。
LV.2―――――武器を手に入れて自由に出し入れできるようになる。
LV.3―――――武器でサーヴァンプを制御して連携技を発動させる。
主人とサーヴァンプとの関係性には、この三段階が重要になるらしい。
真昼のホウキ型の武器がどのように使うものなのか御園には知る由もないというが、それならば、武器ではない、この『鍵』はどのような役割を持っているのだろう。
胸元で揺れる銀色の鍵を手の平に瑠璃は乗せると、それに視線を落とした。
『力』から貰った鍵は、やはり消える事は無く、手元に残されたままだった為、あの日以来、瑠璃はそれに銀色のチェーンを通して首からネックレスのようにして身に着けていた。
<―――――瑠璃さんの、その『鍵』はどの様に使うものなんでしょうね?―――――>
ヒラヒラと蝶の姿で部屋の中を飛び回っていたリリイが、鍵を手にしていた瑠璃の手元にとまると語りかけてきた。
リリイの言葉に、瑠璃は目を瞬かせると、『力』から云われた言葉を思い出す。
―――――その鍵を〝どんな風に使うか〟は、〝君次第〟だよ、瑠璃―――――
「この鍵で〝何をしたいのか〟、私が〝イメージ〟してみたら何か変わるのかしら」
「そうですね。瑠璃さんが手にしたそれにも、何らかの『力』はあるはずです。それを使う為には、まずイメージをしてみるというのも大切なことだと思いますよ」
ふわりと羽を瞬かせると、人型に戻ったリリイが、傍らに姿を現し、にこりと微笑み頷いた。
そんな二人のやり取りを、黒猫はチラリと一瞥すると、瑠璃の膝の上から下りて人型に戻り、携帯型ゲームを始めてしまう。
すると、その姿を目にした真昼が、眉を顰めながら呼びかけてきた。
「クロ・・・なんかコツとかねーの? お前もちょっとやる気出して・・・」
「お前の武器がうまく出せねーのはオレとは関係ねーし。出せるようになったら呼んでくれ」
真昼の言葉に、クロは「え・・・」と、困惑したような表情を見せると、そう言ってゲーム画面にまた視線を戻してしまった。
「・・・・・っ」
そんな相棒のつれない態度に、真昼は言葉を詰まらせると、御園に問いかけた。
「武器とか制御とか・・・サーヴァンプって戦うのがメインなの?」
「それは・・・もともとサーヴァンプというのは戦・・・・・」
「先程、瑠璃さんとも同じようなお話をしたのですが、何のために力が欲しいのか具体的にイメージしてみたらいかがでしょう?」
ひょいと瑠璃と御園の間から、顔を覗かせるようにしながら、御園の言葉をさりげなく遮るようにしてリリイが口を開いた。
「具体的に・・・?」
真昼が目を瞬かせる。
御園は眉を顰めながらリリイを一瞥すると、真昼に視線を戻し、憮然とした口調で言った。
「・・・貴様のサーヴァンプにやる気がないのは貴様の意志が弱いからだ」
だら―――――ん、と、また黒猫の姿に変わって、床の片隅で寝転がりながら、携帯型ゲームをプレイする相棒の姿に、真昼はまた困惑の表情を浮かべると、御園に向けて聞き返すように口を開いた。
「じゃあ、お前のリリイが脱ぎまくるのは、お前が何かから解放されたがってるってこと・・・?」
「・・・え? そうだったの・・・御園君?」
真昼の言葉に、思わず瑠璃が口元を手で覆いながら、目を瞠り、御園を見ると、
「やかましいっ、あれはただの奴の性癖だ!! 瑠璃も、変な勘違いをするなっ!!」
カッと頬を赤らめながら、眉を吊り上げて一喝した御園は、真昼を睨みながら「僕の話はいいっ」とそのまま話を強制終了させたのだが。しかし、御園の後ろでは、にっこりと笑みを浮かべたリリイが、また上半身を肌蹴させていた。
リリイにそれを止めるよう言ったところで、最早無意味だと解っているので、反射的に顔が赤くなるのを感じつつも、瑠璃はそれを見なかったことにして、スッと視線を逸らすと、床に転がってゲームを続けている黒猫の傍に歩み寄り、プレイしているゲーム画面を何気なく後ろから眺めてみた。
すると、猫の姿でも器用にゲーム機のボタンを押せているようで、画面上ではバトルを繰り広げる『ポカモン』が着々とレベルを上げて成長を遂げていた。
「何のために・・・か」
黒猫の様子を見ている瑠璃の姿を何気なく見つめながら、改めてリリイから貰ったヒントのような言葉を真昼は呟く。
それから、ふと、武器が宿った自身の右手首に視線を落とすと、淡々と静かな声で言った。
「守りたいからだよ。手の届く範囲の全部・・・友達とか・・・子供の頃から一緒で家族みたいに思ってる。俺は親いないから余計そう思うのかもしれないけど・・・」
放課後の帰り道―――――楽しげな様子で四人の男子高校生が歩いて行く。
―――――虎雪、真昼、桜哉、龍征。
笑みを浮かべる虎雪の隣には、桜哉に肩に手を回された真昼の姿が在り、その反対側に立つ龍征はパンを食べながら、頭部に桜哉から手を乗せられて、眉を顰めている。
―――――そこにもう一人の姿が加わる。
ふわりと柔らかな微笑を浮かべた女性―――――『姉』として慕う瑠璃は紛れもなく自分にとって大切な『家族』であり―――――守りたい『大切な人』でもある。
「・・・それに瑠璃姉の為にも・・・」
瑠璃は、『守られる側』ではなく『立ち向かう側』になる事を望んでいる。
だから、真昼はそれを叶えるためにも、『守る』力が必要なのだ。
―――――ぽつりと真昼が洩らした言葉に、御園は何を思ったのだろうか。
「ふぅん・・・」とそれに相槌を打った御園の表情は、陰りを帯びており、視線は俯けられていた。
幼い頃から虚弱だった御園には、友人と呼べる存在は無く、自室のベッドで体を休めながら本を読む彼の傍に居るのは、契約を交わした真祖のみだった。
頬杖をついたまま、黙り込んでしまった御園の心中を察したのか、真昼は気持ちを切り替えるように、打って変わって、明るい口調で言った。
「今度、御園にも紹介するよ! 龍征とか虎雪とか・・・まずは桜哉かなー。このリストバンドくれた奴でさ・・・幼馴染なんだよ。いつもふざけてるけどいい奴なんだ・・・」
「・・・やめろ。吸血鬼の話をすれば巻き込むことになるし、それがなければ僕と貴様に共通の話題なんか・・・」
しかし、御園はそれを否定する言葉を口にする。
「―――――御園君」
ゲームで遊ぶ黒猫の様子を見つつも、聴こえてきた二人のやり取りに、また耳を傾けていた瑠璃は、御園の元に歩いて行くと、両膝を地面に着いて、目線を合わせるようにしながらそっと名を呼んだ。
「・・・瑠璃」
戸惑いの色を宿した薄紫色の瞳と視線が合う。
淡い微笑を浮かべ瑠璃は御園を見つめると静かな声で言った。
「確かに私たちが御園君と知り合ったのは、吸血鬼絡みでかもしれないけれど・・・・。吸血鬼のことは抜きにしても、友達として仲良くなることは出来ると思うわよ」
「瑠璃姉の言う通りだよ。シンプルにさ、友達の友達が友達になったっていいじゃん。友達や家族・・・大事なものを守りたいから誰が来ても 俺達で倒すんだ」
真昼もまた、力強く瑠璃の言葉に頷き、決意を述べると、いつの間にかまた、人型に戻ってゲームを続行していたクロに視線を向け、右手を握りしめながら「なっクロ!」と呼び掛ける。
すると、クロはぎくっと体を震わせると、当惑した様子で顔を顰めながら、「な・・・何故俺に振る・・・。めんどくせー・・・その輝いた目と向き合えねー・・・」と、身を縮み込ませてしまう。
「オレはただ・・・お前が守れっつえば、そうするし・・・殺せっつえばそうする・・・」
「何だよそれ。主体性ないな・・・」
そうして、視線を俯けると淡々とクロが洩らした言葉に、真昼は呆れたように顔を顰めてしまう。
けれど、瑠璃はそのクロの様子に、引っかかるものを感じ、気遣うように見つめると、クロの腕を取り、静かに呼びかけた。
「・・・クロ?」
―――――以前にも一度、目にした、〝迷い〟と〝恐れ〟の感情。
あれがまた、クロの真紅の瞳に浮かんでいた気がして。
と―――――真紅の瞳が瑠璃の顔を映し出す。
その刹那、真昼の右手首の、黒猫の尾の形をした痣が、チカッと微かな光を瞬かせた。
「これっ今ちょっと光っ・・・?!」
それに気づいた真昼が、右手を掲げ、御園に見せようとするも、
「・・・と御園が眠る時間ですので、今日はこの辺で・・・」
椅子に座っていた御園は、いつの間にか、9時を回ってしまっていたようで、うと・・・と、頭を傾がせていた。
思わず「おい!!」と声を上げてしまった真昼に、リリイが眉を下げながら「すみません」と微笑む。
けれど、こちらはあくまでも特訓に付き合って貰っている側なのだ。
「真昼君、御園君を無理に起こすわけにはいかないし、今日はここまでにして帰りましょう」
「・・・そうだな。俺が付き合ってもらってんだし・・・」
やんわりとした口調で瑠璃が呼び掛けると、真昼もまた、同じ考えに至ったようで、いつもありがと・・・・と、リリイと夢の中に旅立ちかけている御園に礼を云うと、帰り支度を始めた。
そこで、もう一度クロに瑠璃が視線を戻すと、眠そうにあくびをするクロの姿がそこには在った。
――――――・・・武器が出ないのは、真昼君だけ の気持ちの問題なのかしら?
――――――それとも真昼君とクロ の・・・?
これは、自分が口を挟んでも良い問題なのだろうか。
―――――その答が出ないまま、一夜明けた翌日。瑠璃は、〝嘘の虚像〟の中に居た、少年の『正体』と彼が抱えていた『秘密』を知ることになる。
「えっ、桜哉君、今日もお休みなの?」
生徒達のお昼休みが終わる少し前、購買に虎雪、龍征、真昼の三人が連れだって、やってきたのだが、今日もまた桜哉の姿は無かった。
休みだと聞いて、瑠璃が思わず眉を顰めると、虎雪もまた心配そうな表情で言った。
「こんな続けて桜哉が休むなんて、珍しいことだと思うんですけど・・・・・・」
「風邪でもひいて、寝込んでんじゃねぇのかと、俺は思うけどな」
一方、龍征はさほど気にしている様子はなく―――――。
桜哉が休み始めたのは、この前の雨の日の翌日からだという。
だとすれば、龍征の云う通り、風邪である可能性も捨てきれないわけだが・・・・・・。
「例の『アレ』も、せっかく完成したし、桜哉にも見せたかったんだけど。昨日、俺、電話したけど出なかったんだよな」
真昼の言葉に「例の『アレ』?」と、虎雪と龍征が、首を傾げる。
「―――――あぁ、ギャルソン服のことね」
真昼の言葉に瑠璃は、昨夜、有栖院邸から帰宅した後に、真昼から見せて貰ったモノの事だと思い至り、それを口にすると。
「ギャルソンって、文化祭の喫茶店用か!?」
龍征が、ギョッと目を瞠り、真昼を見る。
接客をやりたがっていた桜哉の為に真昼は作ったのだが・・・・・・。
フリルのエプロンだけに留まらず、あんなものまで、作り上げてしまうとは、もはや一高校生―――――基―――――主夫の腕前、レベルを超えているだろう。
「真昼・・・器用だね・・・」
しかし、他に云う言葉が見つからず、虎雪がいつも通りの笑みを浮かべながら、ぽつりとそう呟いたのだった。
17・7/23 掲載
「何か面白い話をしてよ。学校ではどんな
返り血を浴びた姿で、感情を失ったかのように、無表情に佇む、自身の下位である少年に椿は言った。
―――――けれど、桜哉はそれに答える事は無く。真昼と雨の日に交わしたやり取りを最後に、翌日から学校に姿を現さなくなったのだ。
「はあああああ。目覚めろっ俺の力・・・ッ」
――――― 一方、真昼は吸血鬼達の定例会の日に手に入れた自身の武器を使いこなすべく。その翌日から、文化祭の準備の後は、有栖院邸を訪れて、御園に付き合ってもらい〝特訓〟を行っていた。
しかし、いくら武器を手に入れた証の痣がある右手を掲げて、気合を込めるようにして左手をそこに翳そうとも、何の反応もなく―――――。
「う~~~っ。あのホウキ(?)なんで出ないんだよ・・・っ」
肩を落としながら真昼は唸りつつ、今度は両手を頭上に向かって伸ばすと、
「は―――――っ出ろ!! 出ろよ、も―――――っ」
半ばやけくそのように「あ~~~っ」と叫び声を上げた真昼を、常に見慣れたあのアンティーク風のイスに座った御園が、頬杖をつきながら、憮然とした眼差しで見据えると言った。
「城田真昼・・・貴様、ふざけているなら帰れ」
「御園君、真昼君はあれでも真剣にやっていると思うから・・・」
その言葉に、御園の隣でリリイが用意してくれた椅子に座って、特訓の様子を見ていた瑠璃は苦笑を浮かべながら口を開く。
瑠璃の膝の上には真昼の相棒である黒猫の姿も在ったが、黒猫は何も言う事は無く、我関せずと言った様子でたいくつそうにあくびをしただけだった。
御園は仕方がないなというように、息を吐くと、立ち上がり、口を開いた。
「サーヴァンプの
そうして、自身の右手を上げた御園は、その手首にある痣―――――白と黒のひし形のモノを指し示すと、サーヴァンプとの関係性について説明をしてくれたのだ。
LV.1―――――サーヴァンプに血を飲ませて主従の契約を完了させる。
LV.2―――――武器を手に入れて自由に出し入れできるようになる。
LV.3―――――武器でサーヴァンプを制御して連携技を発動させる。
主人とサーヴァンプとの関係性には、この三段階が重要になるらしい。
真昼のホウキ型の武器がどのように使うものなのか御園には知る由もないというが、それならば、武器ではない、この『鍵』はどのような役割を持っているのだろう。
胸元で揺れる銀色の鍵を手の平に瑠璃は乗せると、それに視線を落とした。
『力』から貰った鍵は、やはり消える事は無く、手元に残されたままだった為、あの日以来、瑠璃はそれに銀色のチェーンを通して首からネックレスのようにして身に着けていた。
<―――――瑠璃さんの、その『鍵』はどの様に使うものなんでしょうね?―――――>
ヒラヒラと蝶の姿で部屋の中を飛び回っていたリリイが、鍵を手にしていた瑠璃の手元にとまると語りかけてきた。
リリイの言葉に、瑠璃は目を瞬かせると、『力』から云われた言葉を思い出す。
―――――その鍵を〝どんな風に使うか〟は、〝君次第〟だよ、瑠璃―――――
「この鍵で〝何をしたいのか〟、私が〝イメージ〟してみたら何か変わるのかしら」
「そうですね。瑠璃さんが手にしたそれにも、何らかの『力』はあるはずです。それを使う為には、まずイメージをしてみるというのも大切なことだと思いますよ」
ふわりと羽を瞬かせると、人型に戻ったリリイが、傍らに姿を現し、にこりと微笑み頷いた。
そんな二人のやり取りを、黒猫はチラリと一瞥すると、瑠璃の膝の上から下りて人型に戻り、携帯型ゲームを始めてしまう。
すると、その姿を目にした真昼が、眉を顰めながら呼びかけてきた。
「クロ・・・なんかコツとかねーの? お前もちょっとやる気出して・・・」
「お前の武器がうまく出せねーのはオレとは関係ねーし。出せるようになったら呼んでくれ」
真昼の言葉に、クロは「え・・・」と、困惑したような表情を見せると、そう言ってゲーム画面にまた視線を戻してしまった。
「・・・・・っ」
そんな相棒のつれない態度に、真昼は言葉を詰まらせると、御園に問いかけた。
「武器とか制御とか・・・サーヴァンプって戦うのがメインなの?」
「それは・・・もともとサーヴァンプというのは戦・・・・・」
「先程、瑠璃さんとも同じようなお話をしたのですが、何のために力が欲しいのか具体的にイメージしてみたらいかがでしょう?」
ひょいと瑠璃と御園の間から、顔を覗かせるようにしながら、御園の言葉をさりげなく遮るようにしてリリイが口を開いた。
「具体的に・・・?」
真昼が目を瞬かせる。
御園は眉を顰めながらリリイを一瞥すると、真昼に視線を戻し、憮然とした口調で言った。
「・・・貴様のサーヴァンプにやる気がないのは貴様の意志が弱いからだ」
だら―――――ん、と、また黒猫の姿に変わって、床の片隅で寝転がりながら、携帯型ゲームをプレイする相棒の姿に、真昼はまた困惑の表情を浮かべると、御園に向けて聞き返すように口を開いた。
「じゃあ、お前のリリイが脱ぎまくるのは、お前が何かから解放されたがってるってこと・・・?」
「・・・え? そうだったの・・・御園君?」
真昼の言葉に、思わず瑠璃が口元を手で覆いながら、目を瞠り、御園を見ると、
「やかましいっ、あれはただの奴の性癖だ!! 瑠璃も、変な勘違いをするなっ!!」
カッと頬を赤らめながら、眉を吊り上げて一喝した御園は、真昼を睨みながら「僕の話はいいっ」とそのまま話を強制終了させたのだが。しかし、御園の後ろでは、にっこりと笑みを浮かべたリリイが、また上半身を肌蹴させていた。
リリイにそれを止めるよう言ったところで、最早無意味だと解っているので、反射的に顔が赤くなるのを感じつつも、瑠璃はそれを見なかったことにして、スッと視線を逸らすと、床に転がってゲームを続けている黒猫の傍に歩み寄り、プレイしているゲーム画面を何気なく後ろから眺めてみた。
すると、猫の姿でも器用にゲーム機のボタンを押せているようで、画面上ではバトルを繰り広げる『ポカモン』が着々とレベルを上げて成長を遂げていた。
「何のために・・・か」
黒猫の様子を見ている瑠璃の姿を何気なく見つめながら、改めてリリイから貰ったヒントのような言葉を真昼は呟く。
それから、ふと、武器が宿った自身の右手首に視線を落とすと、淡々と静かな声で言った。
「守りたいからだよ。手の届く範囲の全部・・・友達とか・・・子供の頃から一緒で家族みたいに思ってる。俺は親いないから余計そう思うのかもしれないけど・・・」
放課後の帰り道―――――楽しげな様子で四人の男子高校生が歩いて行く。
―――――虎雪、真昼、桜哉、龍征。
笑みを浮かべる虎雪の隣には、桜哉に肩に手を回された真昼の姿が在り、その反対側に立つ龍征はパンを食べながら、頭部に桜哉から手を乗せられて、眉を顰めている。
―――――そこにもう一人の姿が加わる。
ふわりと柔らかな微笑を浮かべた女性―――――『姉』として慕う瑠璃は紛れもなく自分にとって大切な『家族』であり―――――守りたい『大切な人』でもある。
「・・・それに瑠璃姉の為にも・・・」
瑠璃は、『守られる側』ではなく『立ち向かう側』になる事を望んでいる。
だから、真昼はそれを叶えるためにも、『守る』力が必要なのだ。
―――――ぽつりと真昼が洩らした言葉に、御園は何を思ったのだろうか。
「ふぅん・・・」とそれに相槌を打った御園の表情は、陰りを帯びており、視線は俯けられていた。
幼い頃から虚弱だった御園には、友人と呼べる存在は無く、自室のベッドで体を休めながら本を読む彼の傍に居るのは、契約を交わした真祖のみだった。
頬杖をついたまま、黙り込んでしまった御園の心中を察したのか、真昼は気持ちを切り替えるように、打って変わって、明るい口調で言った。
「今度、御園にも紹介するよ! 龍征とか虎雪とか・・・まずは桜哉かなー。このリストバンドくれた奴でさ・・・幼馴染なんだよ。いつもふざけてるけどいい奴なんだ・・・」
「・・・やめろ。吸血鬼の話をすれば巻き込むことになるし、それがなければ僕と貴様に共通の話題なんか・・・」
しかし、御園はそれを否定する言葉を口にする。
「―――――御園君」
ゲームで遊ぶ黒猫の様子を見つつも、聴こえてきた二人のやり取りに、また耳を傾けていた瑠璃は、御園の元に歩いて行くと、両膝を地面に着いて、目線を合わせるようにしながらそっと名を呼んだ。
「・・・瑠璃」
戸惑いの色を宿した薄紫色の瞳と視線が合う。
淡い微笑を浮かべ瑠璃は御園を見つめると静かな声で言った。
「確かに私たちが御園君と知り合ったのは、吸血鬼絡みでかもしれないけれど・・・・。吸血鬼のことは抜きにしても、友達として仲良くなることは出来ると思うわよ」
「瑠璃姉の言う通りだよ。シンプルにさ、友達の友達が友達になったっていいじゃん。友達や家族・・・大事なものを守りたいから
真昼もまた、力強く瑠璃の言葉に頷き、決意を述べると、いつの間にかまた、人型に戻ってゲームを続行していたクロに視線を向け、右手を握りしめながら「なっクロ!」と呼び掛ける。
すると、クロはぎくっと体を震わせると、当惑した様子で顔を顰めながら、「な・・・何故俺に振る・・・。めんどくせー・・・その輝いた目と向き合えねー・・・」と、身を縮み込ませてしまう。
「オレはただ・・・お前が守れっつえば、そうするし・・・殺せっつえばそうする・・・」
「何だよそれ。主体性ないな・・・」
そうして、視線を俯けると淡々とクロが洩らした言葉に、真昼は呆れたように顔を顰めてしまう。
けれど、瑠璃はそのクロの様子に、引っかかるものを感じ、気遣うように見つめると、クロの腕を取り、静かに呼びかけた。
「・・・クロ?」
―――――以前にも一度、目にした、〝迷い〟と〝恐れ〟の感情。
あれがまた、クロの真紅の瞳に浮かんでいた気がして。
と―――――真紅の瞳が瑠璃の顔を映し出す。
その刹那、真昼の右手首の、黒猫の尾の形をした痣が、チカッと微かな光を瞬かせた。
「これっ今ちょっと光っ・・・?!」
それに気づいた真昼が、右手を掲げ、御園に見せようとするも、
「・・・と御園が眠る時間ですので、今日はこの辺で・・・」
椅子に座っていた御園は、いつの間にか、9時を回ってしまっていたようで、うと・・・と、頭を傾がせていた。
思わず「おい!!」と声を上げてしまった真昼に、リリイが眉を下げながら「すみません」と微笑む。
けれど、こちらはあくまでも特訓に付き合って貰っている側なのだ。
「真昼君、御園君を無理に起こすわけにはいかないし、今日はここまでにして帰りましょう」
「・・・そうだな。俺が付き合ってもらってんだし・・・」
やんわりとした口調で瑠璃が呼び掛けると、真昼もまた、同じ考えに至ったようで、いつもありがと・・・・と、リリイと夢の中に旅立ちかけている御園に礼を云うと、帰り支度を始めた。
そこで、もう一度クロに瑠璃が視線を戻すと、眠そうにあくびをするクロの姿がそこには在った。
――――――・・・武器が出ないのは、真昼君
――――――それとも
これは、自分が口を挟んでも良い問題なのだろうか。
―――――その答が出ないまま、一夜明けた翌日。瑠璃は、〝嘘の虚像〟の中に居た、少年の『正体』と彼が抱えていた『秘密』を知ることになる。
「えっ、桜哉君、今日もお休みなの?」
生徒達のお昼休みが終わる少し前、購買に虎雪、龍征、真昼の三人が連れだって、やってきたのだが、今日もまた桜哉の姿は無かった。
休みだと聞いて、瑠璃が思わず眉を顰めると、虎雪もまた心配そうな表情で言った。
「こんな続けて桜哉が休むなんて、珍しいことだと思うんですけど・・・・・・」
「風邪でもひいて、寝込んでんじゃねぇのかと、俺は思うけどな」
一方、龍征はさほど気にしている様子はなく―――――。
桜哉が休み始めたのは、この前の雨の日の翌日からだという。
だとすれば、龍征の云う通り、風邪である可能性も捨てきれないわけだが・・・・・・。
「例の『アレ』も、せっかく完成したし、桜哉にも見せたかったんだけど。昨日、俺、電話したけど出なかったんだよな」
真昼の言葉に「例の『アレ』?」と、虎雪と龍征が、首を傾げる。
「―――――あぁ、ギャルソン服のことね」
真昼の言葉に瑠璃は、昨夜、有栖院邸から帰宅した後に、真昼から見せて貰ったモノの事だと思い至り、それを口にすると。
「ギャルソンって、文化祭の喫茶店用か!?」
龍征が、ギョッと目を瞠り、真昼を見る。
接客をやりたがっていた桜哉の為に真昼は作ったのだが・・・・・・。
フリルのエプロンだけに留まらず、あんなものまで、作り上げてしまうとは、もはや一高校生―――――基―――――主夫の腕前、レベルを超えているだろう。
「真昼・・・器用だね・・・」
しかし、他に云う言葉が見つからず、虎雪がいつも通りの笑みを浮かべながら、ぽつりとそう呟いたのだった。
17・7/23 掲載
