第四章『願いと選択』
『SERVAMP夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その後、リリイに誘導されて店内に入ると―――――
「ほら、真昼くん。瑠璃さん。奥の席でお待ちですよ」
窓側のテーブルに置かれたお冷のグラスを前に、腕を組みながら黙然と座る、黒いスーツ姿の、前髪を後ろに纏め上げたロングヘアの女性と、窓に背を向けながらテーブルに片肘を付きつつ、行儀悪く席に足を投げ出して座りながら、お冷のグラスを傾けて飲む、ツナギ服を身に纏った短髪の男。
―――――リリイが示した席には、対照的な雰囲気を持つ男女の姿が在った。
あの二人が、残り五人の真祖 の内の誰かなのだろうか。
真昼と瑠璃が二人の姿を目にした時、こちら側を向いていたことにより、来店に気付いたらしい男と視線が合った。
吊り上った眉に、凄味のある鋭い眼光―――――真昼と瑠璃は一瞬、射竦められたような感覚に捉われてしまう。
その刹那、バンッと男は勢いよくテーブルを叩き、立ち上がると―――――
「スリーピーアアアアッシュ!! この数百年ドコに隠れていやがったァァ!?」
咆哮と共に、向かい側の席の生け垣をドカドカと踏みつけて、こちらにやって来たのだ。
その向かい側の席には、一般客の姿が在り、男が声を荒げるのと同時に垣根を踏み越えて現れたのを見た瞬間、コーヒーカップを片手に、わあああと、顔を青ざめさせていたのだが、男は謝罪をすることなく。
「いつものらりくらり逃げやがって!! 今日こそあの時のケリつける!!」
怒声と共に男に胸ぐらを掴みあげられたクロは、そのままがくがくと身体を揺さぶられてしまう。
「クロが、〝ミストレス〟を見つけて『誓約』を結んだだけでなく、さらに久しぶりに主人 を持ったのだという話をしたら、彼が一番食いついてきたんですよー」
「あああ・・・クロが」と、真昼が冷や汗を流しながらその光景を見つめる一方で、リリイが暢気な口調で告げてくる。
「彼が〝暴食〟の真祖 ・・・〝世界を食い尽くせ 〟」
それにより、クロに掴みかかっている男が、真祖の一人であるというのは分かったのだが・・・。
「・・・あの、ワールドエンドさん。クロから手を離して貰えませんか」
リリイの動じない様子から、おそらく見慣れた光景なのだろう。
けれど、やはり黙って見ていることが出来ず、ワールドエンドに向かって瑠璃が声を掛けると―――――
「あん? てめぇ、スリーピーアッシュとどういう関係だ!?」
「・・・私の名前は瑪瑙瑠璃といいます。クロとの関係は・・・・」
怒気を滲ませながら振り返ってきたワールドエンドに、瑠璃はまた圧倒されそうになるも、何とか視線を逸らすことなく、まず名前を名乗り、それから彼の問いに答えようとしたのだが。
「・・・この〝気配〟と〝血の香り〟・・・・そうか。あんたが、スリーピーアッシュと『誓約』を結んだ〝ミストレス〟か」
目線が合ってから数秒後、ふいに、ワールドエンドは驚いたように、吊り上った真紅の瞳を見開くと、決まりが悪そうな表情を浮かべてそう言ったのだ。
それと同時に、ワールドエンドに捕まっていたクロが人型から黒猫の姿に変わると―――――
「ぐっ・・・てめぇ汚ェぞっ。またこんな可愛い姿に・・・っ」
左手の中に現れた黒猫をワールドエンドはたじろいだ様子で見下ろし、
「女、子供と、小動物と、お年寄りには、手は出せねぇ」
あと、病人やケガ人もだめだ・・・と、言いながら黒猫に変わったクロの事を、右手でもふもふと撫ではじめたのだ。
「手ぇ出せる範囲狭っ」
まるで昔の不良のような台詞を口にしたワールドエンドに、真昼が思わず突っ込みを入れる。
「久しぶりに集まれて楽しいですね・・・・・ッ!?」
それに対して、リリイがまた笑みを浮かべながらそんなコメントを漏らしたのだが、その直後、ヒュッと店の柱の陰に何故かリリイは身を隠してしまったのだ。
「急にどうしたの、リリイ?」
只事ではない雰囲気を漂わせ始めたリリイに、瑠璃が眉を顰めながら呼びかける。
すると、奥のテーブル席の様子を伺うように、ほんの少しだけ顔を覗かせながら、けれどあくまでも視線はそちらに向ける事は無く、リリイは言った。
「ど・・・どうして貴女がここに・・・今日は・・・来ない予定では? 〝憤怒 〟の真祖 ・・・〝母なるもの 〟」
リリイの言葉にそれまで黙然と椅子に座っていた女性―――――ザ・マザーが視線をこちらに向けてくる。
どうやら、リリイは彼女がワールドエンドと共に居た事に気付いていなかったらしい。
そして、リリイが名前を呼んだことで、ザ・マザーもこちらに気付き、視線を向けてきたのだが・・・・・。
「久しぶりね・・・兄さん・・・」
奥の席に向かうと、何故か、ザ・マザーは真昼に対してそう呼びかけてきたのだ。
それからさらに、至近距離に顔を近づけてきた、ザ・マザーに対して、真昼は顔を赤く染めると、目のやり場に困ったような様子で視線を逸らしながら言った。
「な・・・何か怒ってる・・・?」
「・・・怒ってないわ・・・むしろクールよ」
ザ・マザーの表情は、司る『憤怒』の名の通り―――――怒り顔だったが―――――しかし、彼女は、そういう顔立ちをしているだけで、今は至って冷静らしい。
一方、真昼が、ザ・マザーから視線を逸らしてしまった理由―――――それは、スタイルの良い彼女の、豊満な胸の谷間が、身に纏ったジャケットの隙間から覗いていたからだった。
しかし、本人はそれには気付いていないのか「・・・兄さん・・・? こんなだったかしら・・・」と腕組みをしながら、じと・・・と、食い入るように、真昼の顔を覗き込むように、見つめていた為。
「―――――あの、〝マザー〟さん。貴女の前に居るのは、クロの主人の真昼君ですよ」
眉尻を下げながら、微苦笑を浮かべた瑠璃がそう声を掛けると、
「オレはこっちだ」
「・・・あら、兄さん・・・? そう・・・貴方は兄さんの主人だったのね・・・」
クロもまた、呆れた様子で『妹』に呼びかけた事により、改めて認識し直された処で、ようやく真昼はザ・マザーから解放されたのだった。
そうして、兄とその主人の姿を確認した、ザ・マザーは、次いでその傍らに立っていた瑠璃の顔をじっと見つめると、尋ねかけてきた。
「・・・〝ミストレス〟のお嬢さん・・・貴女のお名前は?」
―――――リリイは彼女の事が苦手なようで、柱の陰でガタガタガタと、こちらに背を向けながら震えていた。
しかし、こうして目を合わせて話をしていても、瑠璃は恐怖を感じる事は無く、むしろ、スタイルが良くてカッコいい―――――本人が口にしていた言葉を借りるなら―――――『クールビューティ』な女の人だな、というのがザ・マザーに対して抱いた心証だった。
「あ、はい、瑪瑙瑠璃といいます」
「・・・そう・・・じゃあ、貴女の事は瑠璃さんと呼べばいいかしら・・・?」
「はい。あの、私は何て呼んだら・・・」
先程は、つい、〝マザー〟さん、と省略して呼んでしまったが、本人から承諾を貰ったわけではない。
「・・・〝マザー〟で構わないわよ・・・」
けれど、本人は気にしていなかったようで、微かに首を傾げると、薄らと口元に微笑みを浮かべて、そう言ってくれたのだ。
「で・・・今日集まった新キャラはこの2人?」
瑠璃もまた自己紹介を終えたところで、一応の落ち着きを取り戻した真昼が、そう言いながら、元々の席は四人掛けの為、別でテーブルの手前に用意された右手側の椅子に座ろうとしたのだが。
「あ・・・いえ。机の下にもう1人・・・」
ようやく、こちらにやって来たリリイが、そう言うのと同時に、椅子を引いた真昼の目に飛び込んできたのは、紙袋を被って膝を抱えて蹲る黒衣の衣装を纏った人物の姿だった。
「・・・・・ッ」
「〝嫉妬〟の真祖 〝ダウトダウト〟です」
テーブルの下に蹲っていた、三人目の真祖をリリイが左手で指し示す。
ダウトダウトが被っている紙袋は目元の部分だけ穴が開いており、吸血鬼特有の真紅の瞳が、ギラリと真昼を射竦めるように見つめていた。
そのホラーな光景に、さしもの真昼も耐えられなかったらしい。
口元を戦慄かせると、声にならない叫び声を上げると同時に、座ろうとしていた椅子の上に飛び乗ると、ドッドッドッドッドッと心臓の鼓動を激しく高鳴らせながら、血の気の引いた顔で、椅子の背にしがみ付く有り様となってしまっていた。
そして、真昼と並んでその隣の左側のイスに座ろうとしていた瑠璃はといえば―――――
「・・・・・っ?!」
真昼とは真逆で、ダウトダウトの姿を目にした刹那、目を丸くすると、暫しの間、椅子の背を掴んだ状態で、驚きのあまり、静止してしまっていたのだった。
それから暫くして、真昼と瑠璃が何とか平静さを取り戻したところで、向かって右側の席―――――窓際にリリイ、手前にクロ。そして椅子に真昼。
向かって左側の席―――――窓際にマザー、手前にワールドエンド。そして椅子に瑠璃。
ダウトダウトは、テーブルの下から出てくるつもりはないようで、その状態のまま。
吸血鬼達の『会議』が始まるかと思われたのだが―――――。
「最近・・・農業に・・・ハマってるのよ・・・」
―――――久しぶりに兄弟で集まれたからなのだろうか。
―――――最初に口を開いたのはマザーだったのだが、その内容は自身の近況報告だった。
それから次に、口を開いたのはワールドエンドだったのだが―――――。
「それより今日は誰のオゴリだ!? はっきりしねーとお冷以外のもん頼めねーだろが!!」
クロ、リリイ、マザーの三人は、飲み物を注文していたのだが、ワールドエンドは、手持ちのお金がないらしく。三人が飲み物を注文した際に、追加で貰ったお冷の氷を、空腹を紛らわすために、ゴリゴリゴリと豪快に噛み砕きながら、抗議の言葉を口にしたのだが、兄弟たちはそれに取り合わず。長男であるクロが、弟の訴えに対して、「その氷、食う音うるせぇ・・・」とぼやくと。
「りんご・・・作ってるのよ・・・かわいいわよ・・・」
「金がねーんだよ。とにかく」
「おや。ここのコーヒー豆変わりました?」
「は――――オレも田舎に住みてーなー・・・山小屋とか」
―――――その後、四人は各々で噛みあわない話を始めてしまい。
テーブルの下に居る、ダウトダウトもまた、ぶつぶつと何か言葉を発しているようなのだが、その内容は聴き取れず。
「―――――・・・・瑠璃姉、今日集まったのって『会議』の為だったはずだよな?」
自由奔放すぎる吸血鬼達の様子に、真昼が苦虫を潰したような表情を浮かべながら口を開いた。
「・・・えぇ、そうね・・・」
瑠璃もまた、どうしたものか、と眉根を寄せながら真昼の言葉に頷くと―――――。
「お前ら、会議 する気あんのか!?」
バンッと勢いよくテーブルを叩くと、真昼は椅子から立ち上がり、吸血鬼達を見据えながら声高に言ったのだ。
「吸血鬼 のSNS(?)見たぞ!! 下位 はみんな椿に困ってた!! トップのサーヴァンプ が動かなきゃ・・・」
結果、吸血鬼達は沈黙し、真昼の話に耳を傾け始めたかのように思われたのだが―――――。
「あ、コーラおかわり」
真昼の相棒であるクロは、やはりいつもと変わらぬ調子で、通りかかった店員に飲み物のお代わりを頼もうとした為。
―――――例のごとく、真昼から拳骨を頭に落とされてしまったのだった。
すぐ殴る・・・と痛む頭を押さえるクロに対し、今回ばかりは瑠璃も庇うことが出来ない為、苦笑いを零すと―――――
「・・・下位 ・・・と言えば・・・・・・普通、下位 は・・・日光を浴びると灰になる けれど・・・。椿の下位 は・・・日光の下でも人の姿を保てる ・・・そう聞いてるわ・・・」
真昼の口から出た下位と言う言葉に対して、重要なポイントとなるであろう話題を提示してきたのはマザーだった。
すると、マザーの向かい側に座っていたリリイが「おそらく事実でしょう。現に私も日中に椿の下位に襲われました」とそれを肯定したのだ。
けれど、その話をした時、リリイはマザーのほうを向いておらず、その視線は窓の外に向けられていた為、「誰に喋ってるんだ」と真昼から突っこみが入ったのは云うまでもない。
―――――椿の下位は、吸血鬼の唯一の弱点である日光も克服しており、普段は人間に紛れてしまっている。加えて、椿を含めてかなり戦闘能力も高いらしい。
しかし、今この場に居る真祖達は―――――
「逆に私達はすっかり平和ボケです」
「誰かどうにかしてくれねーかなぁ・・・」
コーヒーを飲むことで気を落ち着けたリリイの言葉に、テーブルの上にだらりと伏したクロが相槌を打つ。
「何か作戦を立てるとしてもまとめる人が必要ですよねぇ」
「そんな死ぬほどめんどくせーこと・・・誰かやれよ・・・」
そうして、交互に二人が言葉を交わし合う中、
「何が〝誰か〟だよ!!」
それを遮るようにして勢いよく、ガタッと席を立ったのは真昼だった。
「吸血鬼が起こしてる問題だろ!? 椿達は・・・人も吸血鬼 も平気で殺すんだろ。そんなの放っておけるかよ。何か行動しなくちゃいけないのは・・・シンプルに考えて俺達だろ!!?」
そして真祖達を見据えながら、真昼は自身の胸に右手を添えて声高に言い放つ。
真祖達は呆然とした顔で真昼の事を見つめていた。
「―――――私は真昼君に賛成よ」
静まり返った中、瑠璃もまた席を立つと、真祖達に視線を向けて言った。
「平和を守るってか・・・? お前ら・・・忘れてるかもしんねーがオレ達は吸血鬼・・・」
と―――――おずおずと、自身の事を示しながら口を開いたのはクロだった。
「忘れてねーよ!」と真昼がそれに対し、突っ込みの切り返しをする。
「よし。わかったっ」
すると、そう言葉を発するとともに、ぐいっと勢いよく真昼の胸ぐらを掴んだのはワールドエンドだった。
それに対して「わっ?!」と真昼は驚きの声を上げてしまう。
「オレ達はなっ。何をどーするとか考えるのがだりーんだ。吸血鬼 と吸血鬼 の問題を、てめぇらがどうにかするってんなら文句ねぇ!」
そのまま睨みつけるようにしながら、告げてきたワールドエンドを、真昼はたじろいだ様子で見返す。
それに構う事は無く、ワールドエンドは、真昼の胸ぐらを掴んでいた手を、今度は首に回すと、
「まぁ多少なら手も貸すからよ! 基本的にはてめぇらとクロが動けばいいんだ」
瑠璃のほうにも視線を向けて、そう主張してきたのだ。
【本館/17・6/26掲載/別館/17・6/28転記】
「ほら、真昼くん。瑠璃さん。奥の席でお待ちですよ」
窓側のテーブルに置かれたお冷のグラスを前に、腕を組みながら黙然と座る、黒いスーツ姿の、前髪を後ろに纏め上げたロングヘアの女性と、窓に背を向けながらテーブルに片肘を付きつつ、行儀悪く席に足を投げ出して座りながら、お冷のグラスを傾けて飲む、ツナギ服を身に纏った短髪の男。
―――――リリイが示した席には、対照的な雰囲気を持つ男女の姿が在った。
あの二人が、残り五人の
真昼と瑠璃が二人の姿を目にした時、こちら側を向いていたことにより、来店に気付いたらしい男と視線が合った。
吊り上った眉に、凄味のある鋭い眼光―――――真昼と瑠璃は一瞬、射竦められたような感覚に捉われてしまう。
その刹那、バンッと男は勢いよくテーブルを叩き、立ち上がると―――――
「スリーピーアアアアッシュ!! この数百年ドコに隠れていやがったァァ!?」
咆哮と共に、向かい側の席の生け垣をドカドカと踏みつけて、こちらにやって来たのだ。
その向かい側の席には、一般客の姿が在り、男が声を荒げるのと同時に垣根を踏み越えて現れたのを見た瞬間、コーヒーカップを片手に、わあああと、顔を青ざめさせていたのだが、男は謝罪をすることなく。
「いつものらりくらり逃げやがって!! 今日こそあの時のケリつける!!」
怒声と共に男に胸ぐらを掴みあげられたクロは、そのままがくがくと身体を揺さぶられてしまう。
「クロが、〝ミストレス〟を見つけて『誓約』を結んだだけでなく、さらに久しぶりに
「あああ・・・クロが」と、真昼が冷や汗を流しながらその光景を見つめる一方で、リリイが暢気な口調で告げてくる。
「彼が〝暴食〟の
それにより、クロに掴みかかっている男が、真祖の一人であるというのは分かったのだが・・・。
「・・・あの、ワールドエンドさん。クロから手を離して貰えませんか」
リリイの動じない様子から、おそらく見慣れた光景なのだろう。
けれど、やはり黙って見ていることが出来ず、ワールドエンドに向かって瑠璃が声を掛けると―――――
「あん? てめぇ、スリーピーアッシュとどういう関係だ!?」
「・・・私の名前は瑪瑙瑠璃といいます。クロとの関係は・・・・」
怒気を滲ませながら振り返ってきたワールドエンドに、瑠璃はまた圧倒されそうになるも、何とか視線を逸らすことなく、まず名前を名乗り、それから彼の問いに答えようとしたのだが。
「・・・この〝気配〟と〝血の香り〟・・・・そうか。あんたが、スリーピーアッシュと『誓約』を結んだ〝ミストレス〟か」
目線が合ってから数秒後、ふいに、ワールドエンドは驚いたように、吊り上った真紅の瞳を見開くと、決まりが悪そうな表情を浮かべてそう言ったのだ。
それと同時に、ワールドエンドに捕まっていたクロが人型から黒猫の姿に変わると―――――
「ぐっ・・・てめぇ汚ェぞっ。またこんな可愛い姿に・・・っ」
左手の中に現れた黒猫をワールドエンドはたじろいだ様子で見下ろし、
「女、子供と、小動物と、お年寄りには、手は出せねぇ」
あと、病人やケガ人もだめだ・・・と、言いながら黒猫に変わったクロの事を、右手でもふもふと撫ではじめたのだ。
「手ぇ出せる範囲狭っ」
まるで昔の不良のような台詞を口にしたワールドエンドに、真昼が思わず突っ込みを入れる。
「久しぶりに集まれて楽しいですね・・・・・ッ!?」
それに対して、リリイがまた笑みを浮かべながらそんなコメントを漏らしたのだが、その直後、ヒュッと店の柱の陰に何故かリリイは身を隠してしまったのだ。
「急にどうしたの、リリイ?」
只事ではない雰囲気を漂わせ始めたリリイに、瑠璃が眉を顰めながら呼びかける。
すると、奥のテーブル席の様子を伺うように、ほんの少しだけ顔を覗かせながら、けれどあくまでも視線はそちらに向ける事は無く、リリイは言った。
「ど・・・どうして貴女がここに・・・今日は・・・来ない予定では? 〝
リリイの言葉にそれまで黙然と椅子に座っていた女性―――――ザ・マザーが視線をこちらに向けてくる。
どうやら、リリイは彼女がワールドエンドと共に居た事に気付いていなかったらしい。
そして、リリイが名前を呼んだことで、ザ・マザーもこちらに気付き、視線を向けてきたのだが・・・・・。
「久しぶりね・・・兄さん・・・」
奥の席に向かうと、何故か、ザ・マザーは真昼に対してそう呼びかけてきたのだ。
それからさらに、至近距離に顔を近づけてきた、ザ・マザーに対して、真昼は顔を赤く染めると、目のやり場に困ったような様子で視線を逸らしながら言った。
「な・・・何か怒ってる・・・?」
「・・・怒ってないわ・・・むしろクールよ」
ザ・マザーの表情は、司る『憤怒』の名の通り―――――怒り顔だったが―――――しかし、彼女は、そういう顔立ちをしているだけで、今は至って冷静らしい。
一方、真昼が、ザ・マザーから視線を逸らしてしまった理由―――――それは、スタイルの良い彼女の、豊満な胸の谷間が、身に纏ったジャケットの隙間から覗いていたからだった。
しかし、本人はそれには気付いていないのか「・・・兄さん・・・? こんなだったかしら・・・」と腕組みをしながら、じと・・・と、食い入るように、真昼の顔を覗き込むように、見つめていた為。
「―――――あの、〝マザー〟さん。貴女の前に居るのは、クロの主人の真昼君ですよ」
眉尻を下げながら、微苦笑を浮かべた瑠璃がそう声を掛けると、
「オレはこっちだ」
「・・・あら、兄さん・・・? そう・・・貴方は兄さんの主人だったのね・・・」
クロもまた、呆れた様子で『妹』に呼びかけた事により、改めて認識し直された処で、ようやく真昼はザ・マザーから解放されたのだった。
そうして、兄とその主人の姿を確認した、ザ・マザーは、次いでその傍らに立っていた瑠璃の顔をじっと見つめると、尋ねかけてきた。
「・・・〝ミストレス〟のお嬢さん・・・貴女のお名前は?」
―――――リリイは彼女の事が苦手なようで、柱の陰でガタガタガタと、こちらに背を向けながら震えていた。
しかし、こうして目を合わせて話をしていても、瑠璃は恐怖を感じる事は無く、むしろ、スタイルが良くてカッコいい―――――本人が口にしていた言葉を借りるなら―――――『クールビューティ』な女の人だな、というのがザ・マザーに対して抱いた心証だった。
「あ、はい、瑪瑙瑠璃といいます」
「・・・そう・・・じゃあ、貴女の事は瑠璃さんと呼べばいいかしら・・・?」
「はい。あの、私は何て呼んだら・・・」
先程は、つい、〝マザー〟さん、と省略して呼んでしまったが、本人から承諾を貰ったわけではない。
「・・・〝マザー〟で構わないわよ・・・」
けれど、本人は気にしていなかったようで、微かに首を傾げると、薄らと口元に微笑みを浮かべて、そう言ってくれたのだ。
「で・・・今日集まった新キャラはこの2人?」
瑠璃もまた自己紹介を終えたところで、一応の落ち着きを取り戻した真昼が、そう言いながら、元々の席は四人掛けの為、別でテーブルの手前に用意された右手側の椅子に座ろうとしたのだが。
「あ・・・いえ。机の下にもう1人・・・」
ようやく、こちらにやって来たリリイが、そう言うのと同時に、椅子を引いた真昼の目に飛び込んできたのは、紙袋を被って膝を抱えて蹲る黒衣の衣装を纏った人物の姿だった。
「・・・・・ッ」
「〝嫉妬〟の
テーブルの下に蹲っていた、三人目の真祖をリリイが左手で指し示す。
ダウトダウトが被っている紙袋は目元の部分だけ穴が開いており、吸血鬼特有の真紅の瞳が、ギラリと真昼を射竦めるように見つめていた。
そのホラーな光景に、さしもの真昼も耐えられなかったらしい。
口元を戦慄かせると、声にならない叫び声を上げると同時に、座ろうとしていた椅子の上に飛び乗ると、ドッドッドッドッドッと心臓の鼓動を激しく高鳴らせながら、血の気の引いた顔で、椅子の背にしがみ付く有り様となってしまっていた。
そして、真昼と並んでその隣の左側のイスに座ろうとしていた瑠璃はといえば―――――
「・・・・・っ?!」
真昼とは真逆で、ダウトダウトの姿を目にした刹那、目を丸くすると、暫しの間、椅子の背を掴んだ状態で、驚きのあまり、静止してしまっていたのだった。
それから暫くして、真昼と瑠璃が何とか平静さを取り戻したところで、向かって右側の席―――――窓際にリリイ、手前にクロ。そして椅子に真昼。
向かって左側の席―――――窓際にマザー、手前にワールドエンド。そして椅子に瑠璃。
ダウトダウトは、テーブルの下から出てくるつもりはないようで、その状態のまま。
吸血鬼達の『会議』が始まるかと思われたのだが―――――。
「最近・・・農業に・・・ハマってるのよ・・・」
―――――久しぶりに兄弟で集まれたからなのだろうか。
―――――最初に口を開いたのはマザーだったのだが、その内容は自身の近況報告だった。
それから次に、口を開いたのはワールドエンドだったのだが―――――。
「それより今日は誰のオゴリだ!? はっきりしねーとお冷以外のもん頼めねーだろが!!」
クロ、リリイ、マザーの三人は、飲み物を注文していたのだが、ワールドエンドは、手持ちのお金がないらしく。三人が飲み物を注文した際に、追加で貰ったお冷の氷を、空腹を紛らわすために、ゴリゴリゴリと豪快に噛み砕きながら、抗議の言葉を口にしたのだが、兄弟たちはそれに取り合わず。長男であるクロが、弟の訴えに対して、「その氷、食う音うるせぇ・・・」とぼやくと。
「りんご・・・作ってるのよ・・・かわいいわよ・・・」
「金がねーんだよ。とにかく」
「おや。ここのコーヒー豆変わりました?」
「は――――オレも田舎に住みてーなー・・・山小屋とか」
―――――その後、四人は各々で噛みあわない話を始めてしまい。
テーブルの下に居る、ダウトダウトもまた、ぶつぶつと何か言葉を発しているようなのだが、その内容は聴き取れず。
「―――――・・・・瑠璃姉、今日集まったのって『会議』の為だったはずだよな?」
自由奔放すぎる吸血鬼達の様子に、真昼が苦虫を潰したような表情を浮かべながら口を開いた。
「・・・えぇ、そうね・・・」
瑠璃もまた、どうしたものか、と眉根を寄せながら真昼の言葉に頷くと―――――。
「お前ら、
バンッと勢いよくテーブルを叩くと、真昼は椅子から立ち上がり、吸血鬼達を見据えながら声高に言ったのだ。
「
結果、吸血鬼達は沈黙し、真昼の話に耳を傾け始めたかのように思われたのだが―――――。
「あ、コーラおかわり」
真昼の相棒であるクロは、やはりいつもと変わらぬ調子で、通りかかった店員に飲み物のお代わりを頼もうとした為。
―――――例のごとく、真昼から拳骨を頭に落とされてしまったのだった。
すぐ殴る・・・と痛む頭を押さえるクロに対し、今回ばかりは瑠璃も庇うことが出来ない為、苦笑いを零すと―――――
「・・・
真昼の口から出た下位と言う言葉に対して、重要なポイントとなるであろう話題を提示してきたのはマザーだった。
すると、マザーの向かい側に座っていたリリイが「おそらく事実でしょう。現に私も日中に椿の下位に襲われました」とそれを肯定したのだ。
けれど、その話をした時、リリイはマザーのほうを向いておらず、その視線は窓の外に向けられていた為、「誰に喋ってるんだ」と真昼から突っこみが入ったのは云うまでもない。
―――――椿の下位は、吸血鬼の唯一の弱点である日光も克服しており、普段は人間に紛れてしまっている。加えて、椿を含めてかなり戦闘能力も高いらしい。
しかし、今この場に居る真祖達は―――――
「逆に私達はすっかり平和ボケです」
「誰かどうにかしてくれねーかなぁ・・・」
コーヒーを飲むことで気を落ち着けたリリイの言葉に、テーブルの上にだらりと伏したクロが相槌を打つ。
「何か作戦を立てるとしてもまとめる人が必要ですよねぇ」
「そんな死ぬほどめんどくせーこと・・・誰かやれよ・・・」
そうして、交互に二人が言葉を交わし合う中、
「何が〝誰か〟だよ!!」
それを遮るようにして勢いよく、ガタッと席を立ったのは真昼だった。
「吸血鬼が起こしてる問題だろ!? 椿達は・・・人も
そして真祖達を見据えながら、真昼は自身の胸に右手を添えて声高に言い放つ。
真祖達は呆然とした顔で真昼の事を見つめていた。
「―――――私は真昼君に賛成よ」
静まり返った中、瑠璃もまた席を立つと、真祖達に視線を向けて言った。
「平和を守るってか・・・? お前ら・・・忘れてるかもしんねーがオレ達は吸血鬼・・・」
と―――――おずおずと、自身の事を示しながら口を開いたのはクロだった。
「忘れてねーよ!」と真昼がそれに対し、突っ込みの切り返しをする。
「よし。わかったっ」
すると、そう言葉を発するとともに、ぐいっと勢いよく真昼の胸ぐらを掴んだのはワールドエンドだった。
それに対して「わっ?!」と真昼は驚きの声を上げてしまう。
「オレ達はなっ。何をどーするとか考えるのがだりーんだ。
そのまま睨みつけるようにしながら、告げてきたワールドエンドを、真昼はたじろいだ様子で見返す。
それに構う事は無く、ワールドエンドは、真昼の胸ぐらを掴んでいた手を、今度は首に回すと、
「まぁ多少なら手も貸すからよ! 基本的にはてめぇらとクロが動けばいいんだ」
瑠璃のほうにも視線を向けて、そう主張してきたのだ。
【本館/17・6/26掲載/別館/17・6/28転記】
