第四章『願いと選択』
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―――――定例会当日の日。
その日の天気は荒れており、降りしきる雨の勢いは、暫くすればさらに強まる可能性があるという予報が出ていた。
そして、真昼の通う学校では文化祭の準備期間ではあるものの、その事を見越して生徒達には早めの下校指示が校内アナウンスで流れていた。
―――――〝会議〟は19時からだが、まだ約束の時間までは一時間近くもある。
瑠璃も今日はまだ仕事が残っている為、後で待ち合わせ場所で合流することになっている。
黒猫が顔を覗かせるリュックを背負い、教室を出たところで、スマホで時間を確認し、どうするべきかと真昼が悩んでいると、背後から呼び止める声が掛けられた。
「真昼っ。すぐ帰んの!? どっか寄ってこーぜっ」
声の主は桜哉だったのだが、振り返った真昼はその珍妙な格好に思わず顔を引きつらせてしまう。
「その浮かれたカッコじゃなければな!!」
びゃ―――――んと、両腕を広げて立つ桜哉の頭には『ウサ耳』―――――正面には文化祭で女子が着用する『喫茶店のエプロン』―――――背中にはクラスの『横断幕』。
そして首からも、宣伝用の看板を下げていて、まるですでに文化祭当日のような恰好だった。
――――― 一方瑠璃は。
生徒達に帰宅指示が出たことにより、購買も本日は閉めることになり。
そちらの片付けを終えたところで、翌日納品のチェック&発注を行っていたのだが―――――。
「すみません。生徒会で使う備品の発注を申し訳ないのですがお願いしてもよろしいでしょうか?」
「―――――あ、はい」
手にしていたリストから顔を上げた瑠璃は、声を掛けてきた生徒の方に振り返る。
そこに立っていたのは三角眼鏡を掛け、白いスクールシャツを着用した男子生徒。
知的な雰囲気を醸し出す彼は確か―――――。
「二年の、生徒会、副会長の露木君よね?」
「そうです。そして貴女は、一ヶ月ほど前からこちらで勤められている、瑪瑙瑠璃さんですね」
「えぇ。購買員の名前まで把握しているなんて、さすが生徒会の役員さんね」
「備えあれば多少憂いあれど問題なし。――――教師の名前だけでなく、学校運営に携わる人間の顔と名前は全て把握しています」
「・・・そ、そうなの」
それなりの人数が居る筈だが、真顔で宣言した彼の表情を見る限り、本当の事なのだろう。
思わず、唖然とした表情になりながら、瑠璃は露木から発注リストを受け取る。
―――――リストの内容は、筆記具、会計用記録帳、PC用コピー用紙など、消耗品の類だった。
「それじゃあ、確かに承りました。来週の月曜には、入ってくるので」
「はい。よろしくお願いします」
にこりと笑みを浮かべてそう言った瑠璃に、露木は眼鏡のフレームの縁に手を添えながら頷く。
そうして、露木は購買を後にしたのだが―――――。
「―――――『要監視対象』の内の一人である『瑪瑙瑠璃』。吸血鬼にとって魅惑の血を持つ者であり、真祖の〝花嫁〟にも為りえる存在・・・吸血鬼に魅入られた彼女は、果たして〝どちら側〟に着くのでしょうね」
購買から少し離れたところで、露木はそちらをまた振り返ると、作業を再開した瑠璃を見据えながら呟いた。
―――――彼が本当は何者であるのか、それが明かされるのは、まだもう暫く先の事である。
「えっ。真昼、7時から用あんの?」
桜哉とともに、真昼が寄り道をすることにしたのは、服飾雑貨ショップだった。
そこで服などを見つつ、この後に予定があることを桜哉に伝えると「何? テレビとか?」と、問いかけてきた桜哉に、『吸血鬼の会合に出る』とは、さすがに言えない為。
うん・・・まぁそんな感じ、と曖昧に答えると。
「えっ何何!? 何があんの!?」
何か隠してる?! あやしいっ・・・と、さらに食いつくようにしてきた桜哉から、真昼は視線を逸らすと、近くに在ったシャツを手に取りながら言う。
「たいしたことじゃないって」
「まさか、この後、実は瑠璃さんとデートに行くとかじゃ!?」
「なっ!! 確かに瑠璃姉とは後で合流する約束はしてるけど・・・そんなんじゃねーよ!!」
探るような眼差しを向けつつ、ふいに茶化すような表情を浮かべた桜哉の口から出た言葉に、ついそう言い返してしまい、しまったと、バツが悪そうな表情に真昼はなってしまったのだが―――――。
「・・・あっ、俺リストバンド買ってこ」
反対側の服飾小物のコーナーに置かれたリストバンドが目に留まり、この前なくしてしまった為ちょうどいいと、それを手に取ると。
「なんだよー・・・・?」と眉根を寄せ真昼を見ていた桜哉の顔色が今度は蒼白になっていく。
「えっそれ・・・!? そ・・・それはやめれば~?」
「え? 何でだよ・・・」
先程とは立場が一変して、今度は真昼が桜哉を怪訝そうな眼差しで見つめる側に為り。
「え―――と・・・その、あ~~~・・・そう! それはっ呪われている!! 一度つけたら二度とは・・・」
迫真の演技とともに恐怖に顔を歪ませ、力説した桜哉に対し、すぐ傍のレジに居た店員が無言で、冷然とした眼差しを向けてくる。
それを目にした真昼は、居た堪れない気持ちになり、冷や汗を流すとともに頬を紅潮させながら、「変な嘘つくな!! あとお店の人に謝れ!!」そう桜哉に突っ込みを入れつつ。
すいませんっ、と店員に向けても謝罪をすると。
「・・・あーもーっ」という叫び声とともに、桜哉は自身の鞄から小さな紙袋を取り出すと「はいっやるっ」と言って、バッとそれを真昼の前に突き出してきたのだ。
その中身は、先程真昼が購入しようと決めたリストバンドと同じものだった。
「前に・・・真昼がなくしたって言った時に買ったんだよな。でも、なーんか渡すタイミングがなくて・・・」
そのまま鞄に入れっぱなしにしてしまっていたのだという桜哉の顔を、真昼は「桜哉・・・」と、リストバンドを手にしながら呆然と見つめる。
誕生日でもないのに渡すのは変だと思い、渡しそびれてしまっていたと、桜哉は弁明を口にする。
その必死な桜哉の様子を見ていると、自分の事を思って選んでくれたのだというのが、しっかりと伝わって来て―――――。
「・・・ありがとう桜哉」
リストバンドを手にした真昼は、気恥ずかしそうな笑みを浮かべながらそう桜哉に言ったのだ。
「やめろよっ。はずかしいっ。もっと言って!」
すると桜哉もそれにつられたように、照れた様子を見せながら、真昼の首に背中から腕を回すと、「―――――瑠璃さんにも渡したいモノがあったんだけど、それはまた本人がいる時にするから、それまでは内緒な」と笑みを浮かべて言い、そのまま二人は楽しそうに連れだって店を後にした。
それから、雨の中を二人で傘を差しながら歩いていた時。
―――――ふいに感じた、付け狙うような視線に真昼はすぐさま背後を振り返るも、そこには誰の姿もなく。
「真昼? 何か、いた?」
「あ・・・いや」
急に足を止めたことで、桜哉に尋ねかけられた真昼は、気のせい・・・と曖昧な笑みを浮かべる。
「まさか・・・吸血鬼じゃね!?」
すると、ハッと目を見開くと、噂のあれが出たのではないかと、辺りを見回した桜哉に、真昼は僅かに逡巡するような表情を浮かべると、
「・・・桜哉。もし・・・本当に変なことがあったら俺に言ってよ。俺が絶対どうにかするからさ」
「・・・何だよそれ!? 真昼っまさかエクソシストとかになっちゃったのか!?」
「バカっ違ェけどっ」
オレもまぜろよ!! と絡んでくる桜哉に対して、真昼は突っ込みを返すと。
「でも・・・真昼。最近ちょっと変だよな・・・? それに・・・瑠璃さんも。・・・二人とも何かあった?」
ふと桜哉は視線を俯けると、抑揚のない声でそう問いかけてきたのだ。
それに対して、真昼が「え?」と目を瞬かせると、
「真昼・・・最近何かオレに隠しごとしてないよな・・・? 何かオレに嘘ついてないよな・・・?」
桜哉は真昼の左腕を掴むと、苦しそうな、辛そうな、表情で問いかけてくる。
それに対して、当惑したような表情で真昼は桜哉を見返すと、桜哉の手は緩み左腕は解放された。
そこで、すぐさま真昼は笑みを浮かべると、「・・・何言ってんだよっ」と安心させるように桜哉の肩を左手でポンと叩いたのだ。
―――――けれど、その時、真昼は桜哉に確かに一つの『嘘』をついていた。
―――――クロの正体が吸血鬼なのだと告げることはせず、ただの『猫』だと言った事。
―――――それは友達を守るためについたつもりの『嘘』だった。
―――――そして、その時、真昼はこう思っていた。
―――――自分はすべてを守る力を得たのだと。
―――――だけど、それは間違いだった。
真昼と別れた帰り道、桜哉を背後から襲った二対の刃物を持った影。
それに気づいた桜哉がそちらを振り返った時、彼が手にしていた傘は手元を離れて、逆さまになって地面に転がっていた。
―――――自分は一体、何を守れると思っていたのだろうか。
―――――友達を守るためについた筈の『嘘』に対して、真昼はそんな後悔の想いを後に抱くことになる。
リリイとの待ち合わせ場所は、とあるファミレスの近くだった。
瑠璃が待ち合わせ場所に辿り着いた時、ファミレスの入り口近くに佇んでいたリリイは、一人ではなく、彼の前には傘をさした女性二人の姿が在り。
「どうしてもダメですかー? お茶ぐらい・・・」
二人組の女性が頬を赤らめながらリリイに、そう声を掛けていた。
―――――どうやら、ナンパをされているらしい。
あの美貌なのだ、一人であのような場所に居れば、女性たちの目に留まるのも無理はないだろう。
主人である御園の姿が傍に見当たらないようだが・・・。
さて、どうするべきか、と瑠璃が眉根を寄せながら様子を見ていると―――――
「困りましたねぇ・・・こんな可愛らしい目で言われてしまうと。ひと肌脱がないわけにはいきませ・・・」
両肩に手を掛け、そうリリイが言ったのを訊いた瞬間。
「―――――っリリイ!? 外でそれやったら駄目っ!!」
―――――犯罪になっちゃうから!? と、慌てて瑠璃が止めに走ろうとした刹那。
「脱ぐな!!」
外だぞ!! という叫び声とともに、リリイの頭に、飛んできた空き缶が命中したのだ。
それを投げたのは真昼だった。
「・・・良かった」
ホッと瑠璃が息を吐き出すと、真昼と共に人型のクロがこちらにやって来た。
その時点で、リリイに声を掛けていた女性たちは、リリイのあの行動を見て、関わらない方が身の為だと思ったのか、そそくさとこの場から立ち去っていた。
クロはリリイが立っていた店の、入り口前の屋根の下に入ると、濡れた身体を猫のようにブルリと震わせ、雨粒を飛ばしていく。
「おや・・・瑠璃さん、真昼くん。お二人ともお待ちしてました」
リリイはクロから飛ばされた雨粒が自身の顔にかからないよう、片手を上げながら、こちらに呼びかけてくる。
「クロ、そんなんじゃ本当に風邪をひいちゃうかもしれないでしょ。ちょっとしゃがんでもらえる?」
今は人型なのにも拘らず、そんな芸当ができるなんて器用だとは思うが・・・。
「・・・おぅ」
鞄からタオルを取り出すと、瑠璃は姿勢を低くしたクロの頭にタオルを被せて、ポンポンと軽く頭を撫でるようにしながら水分を吸わせていく。
雨が強くなることを見越して、念のためにタオルを持ってきておいて正解だった。
そう思いながら瑠璃がタオルでクロの頭を拭いていると、自分で拭けばいいものを・・・と、云う眼差しが真昼からクロに向けられた。
それにクロ本人は気づいたものの、しかし素知らぬ様子で、ついと視線を逸らしてしまう。
―――――有栖院の邸宅から帰ってきた日の翌日から、気付けば瑠璃姉はクロの事を『名前』で呼ぶようになっていた。
二人の関係性に変化があった証なのだろうが、瑠璃姉に対して人型でクロが甘えているように見えるあの光景は、やはり見ていて面白いものではない。
眉を顰めながら真昼はそう考えつつ、その隣に立つリリイに視線を向けると「リリイだけ? 御園は?」と主人の行方を尋ねた。
そんな真昼の心情を察してか、クスリとリリイは笑みを零すと、
「御園は今日塾なんです」
「えっ、離れて平気なの?」
以前クロから、主人と下僕の吸血鬼の距離が離れたら、何かが起こるとだけ聞かされていた真昼がその言葉に驚いた様子で尋ねかける。
そこで、瑠璃はハッとした表情を浮かべると、
「・・・ごめんね、真昼君。伝えそびれていたんだけど、〝限界距離〟・・・というものが、主人とサーヴァンプの間にはあるんですって。そして、その範囲内だったら別行動も可能だそうなの」
つい先日、リリイと御園と初めて会った時、いまの真昼と同じように疑問を持ったのに対して、二人から説明を受けていたのに、そういえばそれをまだ真昼には話していなかった。
申し訳なさそうな顔でそう言った瑠璃に、「大丈夫だよ、瑠璃姉」と真昼は笑って言った。
色々なことが立て続けにあったのだ。―――――いずれにしても、クロを学校に連れて行くのは変わらないので、とりあえず知識として知ることが今できたのだからシンプルに考えて問題ない。
そうして、御園が不在でもこの場は大丈夫なのだと分かったところで、「では、会場に参りましょうか」と、そうリリイに言われた為。
ここからまた何処かに移動するのかと思いきや、リリイが示した定例会を行う場所は―――――
「ファミレスじゃねーか!! 人里離れた古城とかじゃねーのかよ・・・」
頭上の看板を見上げながら、思わずそう突っ込みを入れた真昼に対し、
「それは漫画の読みすぎだ」
古城?とクロは眉を顰めると、何を言っているんだといわんばかりの眼差しを向けた。
リリイも「そういうものに憧れちゃうお年頃ですかねぇ。可愛らしい」と、言いながら、ふふふふふ、と口元に手を当てて、笑いを零していた。
吸血鬼二人がそんな反応をしている一方、瑠璃はといえば、コミュニティサイトの件と云い、今どきの吸血鬼って、本当にすっかり現代に溶け込んでいるのね・・・・と、真昼同様、心中ではやはりカルチャーショックを受けていたのだった。
【本館/17・6/26掲載/別館/17・6/28転記】
その日の天気は荒れており、降りしきる雨の勢いは、暫くすればさらに強まる可能性があるという予報が出ていた。
そして、真昼の通う学校では文化祭の準備期間ではあるものの、その事を見越して生徒達には早めの下校指示が校内アナウンスで流れていた。
―――――〝会議〟は19時からだが、まだ約束の時間までは一時間近くもある。
瑠璃も今日はまだ仕事が残っている為、後で待ち合わせ場所で合流することになっている。
黒猫が顔を覗かせるリュックを背負い、教室を出たところで、スマホで時間を確認し、どうするべきかと真昼が悩んでいると、背後から呼び止める声が掛けられた。
「真昼っ。すぐ帰んの!? どっか寄ってこーぜっ」
声の主は桜哉だったのだが、振り返った真昼はその珍妙な格好に思わず顔を引きつらせてしまう。
「その浮かれたカッコじゃなければな!!」
びゃ―――――んと、両腕を広げて立つ桜哉の頭には『ウサ耳』―――――正面には文化祭で女子が着用する『喫茶店のエプロン』―――――背中にはクラスの『横断幕』。
そして首からも、宣伝用の看板を下げていて、まるですでに文化祭当日のような恰好だった。
――――― 一方瑠璃は。
生徒達に帰宅指示が出たことにより、購買も本日は閉めることになり。
そちらの片付けを終えたところで、翌日納品のチェック&発注を行っていたのだが―――――。
「すみません。生徒会で使う備品の発注を申し訳ないのですがお願いしてもよろしいでしょうか?」
「―――――あ、はい」
手にしていたリストから顔を上げた瑠璃は、声を掛けてきた生徒の方に振り返る。
そこに立っていたのは三角眼鏡を掛け、白いスクールシャツを着用した男子生徒。
知的な雰囲気を醸し出す彼は確か―――――。
「二年の、生徒会、副会長の露木君よね?」
「そうです。そして貴女は、一ヶ月ほど前からこちらで勤められている、瑪瑙瑠璃さんですね」
「えぇ。購買員の名前まで把握しているなんて、さすが生徒会の役員さんね」
「備えあれば多少憂いあれど問題なし。――――教師の名前だけでなく、学校運営に携わる人間の顔と名前は全て把握しています」
「・・・そ、そうなの」
それなりの人数が居る筈だが、真顔で宣言した彼の表情を見る限り、本当の事なのだろう。
思わず、唖然とした表情になりながら、瑠璃は露木から発注リストを受け取る。
―――――リストの内容は、筆記具、会計用記録帳、PC用コピー用紙など、消耗品の類だった。
「それじゃあ、確かに承りました。来週の月曜には、入ってくるので」
「はい。よろしくお願いします」
にこりと笑みを浮かべてそう言った瑠璃に、露木は眼鏡のフレームの縁に手を添えながら頷く。
そうして、露木は購買を後にしたのだが―――――。
「―――――『要監視対象』の内の一人である『瑪瑙瑠璃』。吸血鬼にとって魅惑の血を持つ者であり、真祖の〝花嫁〟にも為りえる存在・・・吸血鬼に魅入られた彼女は、果たして〝どちら側〟に着くのでしょうね」
購買から少し離れたところで、露木はそちらをまた振り返ると、作業を再開した瑠璃を見据えながら呟いた。
―――――彼が本当は何者であるのか、それが明かされるのは、まだもう暫く先の事である。
「えっ。真昼、7時から用あんの?」
桜哉とともに、真昼が寄り道をすることにしたのは、服飾雑貨ショップだった。
そこで服などを見つつ、この後に予定があることを桜哉に伝えると「何? テレビとか?」と、問いかけてきた桜哉に、『吸血鬼の会合に出る』とは、さすがに言えない為。
うん・・・まぁそんな感じ、と曖昧に答えると。
「えっ何何!? 何があんの!?」
何か隠してる?! あやしいっ・・・と、さらに食いつくようにしてきた桜哉から、真昼は視線を逸らすと、近くに在ったシャツを手に取りながら言う。
「たいしたことじゃないって」
「まさか、この後、実は瑠璃さんとデートに行くとかじゃ!?」
「なっ!! 確かに瑠璃姉とは後で合流する約束はしてるけど・・・そんなんじゃねーよ!!」
探るような眼差しを向けつつ、ふいに茶化すような表情を浮かべた桜哉の口から出た言葉に、ついそう言い返してしまい、しまったと、バツが悪そうな表情に真昼はなってしまったのだが―――――。
「・・・あっ、俺リストバンド買ってこ」
反対側の服飾小物のコーナーに置かれたリストバンドが目に留まり、この前なくしてしまった為ちょうどいいと、それを手に取ると。
「なんだよー・・・・?」と眉根を寄せ真昼を見ていた桜哉の顔色が今度は蒼白になっていく。
「えっそれ・・・!? そ・・・それはやめれば~?」
「え? 何でだよ・・・」
先程とは立場が一変して、今度は真昼が桜哉を怪訝そうな眼差しで見つめる側に為り。
「え―――と・・・その、あ~~~・・・そう! それはっ呪われている!! 一度つけたら二度とは・・・」
迫真の演技とともに恐怖に顔を歪ませ、力説した桜哉に対し、すぐ傍のレジに居た店員が無言で、冷然とした眼差しを向けてくる。
それを目にした真昼は、居た堪れない気持ちになり、冷や汗を流すとともに頬を紅潮させながら、「変な嘘つくな!! あとお店の人に謝れ!!」そう桜哉に突っ込みを入れつつ。
すいませんっ、と店員に向けても謝罪をすると。
「・・・あーもーっ」という叫び声とともに、桜哉は自身の鞄から小さな紙袋を取り出すと「はいっやるっ」と言って、バッとそれを真昼の前に突き出してきたのだ。
その中身は、先程真昼が購入しようと決めたリストバンドと同じものだった。
「前に・・・真昼がなくしたって言った時に買ったんだよな。でも、なーんか渡すタイミングがなくて・・・」
そのまま鞄に入れっぱなしにしてしまっていたのだという桜哉の顔を、真昼は「桜哉・・・」と、リストバンドを手にしながら呆然と見つめる。
誕生日でもないのに渡すのは変だと思い、渡しそびれてしまっていたと、桜哉は弁明を口にする。
その必死な桜哉の様子を見ていると、自分の事を思って選んでくれたのだというのが、しっかりと伝わって来て―――――。
「・・・ありがとう桜哉」
リストバンドを手にした真昼は、気恥ずかしそうな笑みを浮かべながらそう桜哉に言ったのだ。
「やめろよっ。はずかしいっ。もっと言って!」
すると桜哉もそれにつられたように、照れた様子を見せながら、真昼の首に背中から腕を回すと、「―――――瑠璃さんにも渡したいモノがあったんだけど、それはまた本人がいる時にするから、それまでは内緒な」と笑みを浮かべて言い、そのまま二人は楽しそうに連れだって店を後にした。
それから、雨の中を二人で傘を差しながら歩いていた時。
―――――ふいに感じた、付け狙うような視線に真昼はすぐさま背後を振り返るも、そこには誰の姿もなく。
「真昼? 何か、いた?」
「あ・・・いや」
急に足を止めたことで、桜哉に尋ねかけられた真昼は、気のせい・・・と曖昧な笑みを浮かべる。
「まさか・・・吸血鬼じゃね!?」
すると、ハッと目を見開くと、噂のあれが出たのではないかと、辺りを見回した桜哉に、真昼は僅かに逡巡するような表情を浮かべると、
「・・・桜哉。もし・・・本当に変なことがあったら俺に言ってよ。俺が絶対どうにかするからさ」
「・・・何だよそれ!? 真昼っまさかエクソシストとかになっちゃったのか!?」
「バカっ違ェけどっ」
オレもまぜろよ!! と絡んでくる桜哉に対して、真昼は突っ込みを返すと。
「でも・・・真昼。最近ちょっと変だよな・・・? それに・・・瑠璃さんも。・・・二人とも何かあった?」
ふと桜哉は視線を俯けると、抑揚のない声でそう問いかけてきたのだ。
それに対して、真昼が「え?」と目を瞬かせると、
「真昼・・・最近何かオレに隠しごとしてないよな・・・? 何かオレに嘘ついてないよな・・・?」
桜哉は真昼の左腕を掴むと、苦しそうな、辛そうな、表情で問いかけてくる。
それに対して、当惑したような表情で真昼は桜哉を見返すと、桜哉の手は緩み左腕は解放された。
そこで、すぐさま真昼は笑みを浮かべると、「・・・何言ってんだよっ」と安心させるように桜哉の肩を左手でポンと叩いたのだ。
―――――けれど、その時、真昼は桜哉に確かに一つの『嘘』をついていた。
―――――クロの正体が吸血鬼なのだと告げることはせず、ただの『猫』だと言った事。
―――――それは友達を守るためについたつもりの『嘘』だった。
―――――そして、その時、真昼はこう思っていた。
―――――自分はすべてを守る力を得たのだと。
―――――だけど、それは間違いだった。
真昼と別れた帰り道、桜哉を背後から襲った二対の刃物を持った影。
それに気づいた桜哉がそちらを振り返った時、彼が手にしていた傘は手元を離れて、逆さまになって地面に転がっていた。
―――――自分は一体、何を守れると思っていたのだろうか。
―――――友達を守るためについた筈の『嘘』に対して、真昼はそんな後悔の想いを後に抱くことになる。
リリイとの待ち合わせ場所は、とあるファミレスの近くだった。
瑠璃が待ち合わせ場所に辿り着いた時、ファミレスの入り口近くに佇んでいたリリイは、一人ではなく、彼の前には傘をさした女性二人の姿が在り。
「どうしてもダメですかー? お茶ぐらい・・・」
二人組の女性が頬を赤らめながらリリイに、そう声を掛けていた。
―――――どうやら、ナンパをされているらしい。
あの美貌なのだ、一人であのような場所に居れば、女性たちの目に留まるのも無理はないだろう。
主人である御園の姿が傍に見当たらないようだが・・・。
さて、どうするべきか、と瑠璃が眉根を寄せながら様子を見ていると―――――
「困りましたねぇ・・・こんな可愛らしい目で言われてしまうと。ひと肌脱がないわけにはいきませ・・・」
両肩に手を掛け、そうリリイが言ったのを訊いた瞬間。
「―――――っリリイ!? 外でそれやったら駄目っ!!」
―――――犯罪になっちゃうから!? と、慌てて瑠璃が止めに走ろうとした刹那。
「脱ぐな!!」
外だぞ!! という叫び声とともに、リリイの頭に、飛んできた空き缶が命中したのだ。
それを投げたのは真昼だった。
「・・・良かった」
ホッと瑠璃が息を吐き出すと、真昼と共に人型のクロがこちらにやって来た。
その時点で、リリイに声を掛けていた女性たちは、リリイのあの行動を見て、関わらない方が身の為だと思ったのか、そそくさとこの場から立ち去っていた。
クロはリリイが立っていた店の、入り口前の屋根の下に入ると、濡れた身体を猫のようにブルリと震わせ、雨粒を飛ばしていく。
「おや・・・瑠璃さん、真昼くん。お二人ともお待ちしてました」
リリイはクロから飛ばされた雨粒が自身の顔にかからないよう、片手を上げながら、こちらに呼びかけてくる。
「クロ、そんなんじゃ本当に風邪をひいちゃうかもしれないでしょ。ちょっとしゃがんでもらえる?」
今は人型なのにも拘らず、そんな芸当ができるなんて器用だとは思うが・・・。
「・・・おぅ」
鞄からタオルを取り出すと、瑠璃は姿勢を低くしたクロの頭にタオルを被せて、ポンポンと軽く頭を撫でるようにしながら水分を吸わせていく。
雨が強くなることを見越して、念のためにタオルを持ってきておいて正解だった。
そう思いながら瑠璃がタオルでクロの頭を拭いていると、自分で拭けばいいものを・・・と、云う眼差しが真昼からクロに向けられた。
それにクロ本人は気づいたものの、しかし素知らぬ様子で、ついと視線を逸らしてしまう。
―――――有栖院の邸宅から帰ってきた日の翌日から、気付けば瑠璃姉はクロの事を『名前』で呼ぶようになっていた。
二人の関係性に変化があった証なのだろうが、瑠璃姉に対して人型でクロが甘えているように見えるあの光景は、やはり見ていて面白いものではない。
眉を顰めながら真昼はそう考えつつ、その隣に立つリリイに視線を向けると「リリイだけ? 御園は?」と主人の行方を尋ねた。
そんな真昼の心情を察してか、クスリとリリイは笑みを零すと、
「御園は今日塾なんです」
「えっ、離れて平気なの?」
以前クロから、主人と下僕の吸血鬼の距離が離れたら、何かが起こるとだけ聞かされていた真昼がその言葉に驚いた様子で尋ねかける。
そこで、瑠璃はハッとした表情を浮かべると、
「・・・ごめんね、真昼君。伝えそびれていたんだけど、〝限界距離〟・・・というものが、主人とサーヴァンプの間にはあるんですって。そして、その範囲内だったら別行動も可能だそうなの」
つい先日、リリイと御園と初めて会った時、いまの真昼と同じように疑問を持ったのに対して、二人から説明を受けていたのに、そういえばそれをまだ真昼には話していなかった。
申し訳なさそうな顔でそう言った瑠璃に、「大丈夫だよ、瑠璃姉」と真昼は笑って言った。
色々なことが立て続けにあったのだ。―――――いずれにしても、クロを学校に連れて行くのは変わらないので、とりあえず知識として知ることが今できたのだからシンプルに考えて問題ない。
そうして、御園が不在でもこの場は大丈夫なのだと分かったところで、「では、会場に参りましょうか」と、そうリリイに言われた為。
ここからまた何処かに移動するのかと思いきや、リリイが示した定例会を行う場所は―――――
「ファミレスじゃねーか!! 人里離れた古城とかじゃねーのかよ・・・」
頭上の看板を見上げながら、思わずそう突っ込みを入れた真昼に対し、
「それは漫画の読みすぎだ」
古城?とクロは眉を顰めると、何を言っているんだといわんばかりの眼差しを向けた。
リリイも「そういうものに憧れちゃうお年頃ですかねぇ。可愛らしい」と、言いながら、ふふふふふ、と口元に手を当てて、笑いを零していた。
吸血鬼二人がそんな反応をしている一方、瑠璃はといえば、コミュニティサイトの件と云い、今どきの吸血鬼って、本当にすっかり現代に溶け込んでいるのね・・・・と、真昼同様、心中ではやはりカルチャーショックを受けていたのだった。
【本館/17・6/26掲載/別館/17・6/28転記】
