第四章『願いと選択』
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願いと選択
―――――有栖院の邸宅から帰宅した後。朝、家を出る前に掃除を済ませてあった浴槽にお湯を張ると、入浴は、瑠璃、スリーピーアッシュ、真昼の順で入ることになり。
瑠璃が入浴を終えて出てくると、制服から、部屋着として使用している学校のジャージに着替えた真昼が、リビングのソファーに座って、そこでパソコンを立ち上げ、リリイから貰ったメモに書かれていた吸血鬼のコミュニティにアクセスを試みていた。
「お待たせ、スリーピーアッシュ。お風呂、どうぞ」
「おう」
そして少し離れた場所で、携帯型ゲーム『ポカモン』をプレイしていたスリーピーアッシュに瑠璃は声を掛けると、真昼の傍らに腰を下ろして、横から真昼が閲覧していたPCの画面を見せてもらう。
「下位吸血鬼ってこんなにいるのね」
真祖が七人(椿を入れたら八人)いるのに対して―――――どうやら下位達は、それをはるかに上回る人数がいるようだ。
その中で皆が一様に上げているのが、八番目の真祖だと名乗った椿のこと―――――。
「うん。それでみんな、やっぱり椿達のことを怖がってるみたいなんだよな」
瑠璃の言葉に真昼は頷くと、ゲームを切り上げ、立ち上がったスリーピーアッシュに視線を向け、眉を顰めながら口を開く。
「なぁ、定例会っての、もっと早くやって対策考えてやれよ・・・」
すると、こちらに振り返ってきたスリーピーアッシュは片手を上げながら、
「あー、その定例会だけどな。オレたぶん、その日風邪ひくからよろしくな」
「どんだけ行きたくねーんだよ!!」
その返答に、「カゼ予告すんな!!」と真昼は睨みながら突っ込みを入れるが、スリーピーアッシュはそれ以上何も言う事は無く、ゲーム機を片付けると、入浴の為にリビングから出て行ってしまう。
「大丈夫よ、真昼君。あぁは言っていても、きっと、ちゃんと一緒に来てくれると思うから」
「・・・うん。いざとなったら、引きずってでも連れてくよ」
苦笑した瑠璃に真昼は嘆息しつつ頷く。
―――――定例会のお知らせ。
その通知が、リリイから届いたのは、それから15分くらい過ぎた頃だった。
「定例会・・・」
目を瞬かせ、それを確認した真昼は、ふいにトンと肩に凭れてきた重みに傍らを振り返る。
「瑠璃姉?」
目を閉じた瑠璃の胸元は規則正しく上下しており、静かな寝息が聞こえてくる。
「・・・寝ちゃったのか。まぁ、吸血鬼絡みで、今日はまた大変だったしな」
眠る瑠璃の顔を見つめ、ぽつりと真昼は呟く。
「―――――・・・こうして眠ってる姿を見ると、やっぱり年上には見えないよなぁ」
と―――――先程まではコミュニティの閲覧に熱中していた為に、意識していなかったが、傍らで無防備に眠る瑠璃の姿を目にした事で、その体からふわりとボディーソープの、シンプルな石鹸の香りが漂ってくるのに気付いた真昼は、顔が赤くなっていくのを感じた。
『―――――え!? 瑠璃さんって・・・・21!? 俺より、年上だったのか!?』
『うん。見えないってよく言われるけどね』
『じゃあ、今日から瑠璃さんのこと、『瑠璃姉』って呼んでもいいかな?』
『えぇ! ありがとう、真昼君!!』
―――――それは、瑠璃が城田家で暮らすことになってから、2週間程度過ぎた頃のやりとりだった。
家族がもういないという瑠璃は、真昼がそう言った時、本当に嬉しそうな満面の笑みを浮かべていた。
―――――瑠璃姉は俺にとって『大切な家族』だ。
―――――だから、シンプルに考えて疾しい感情なんてないと思う。
けれど、つい先日のように、ふいに抱きしめられたり、いまのような姿を見たら顔が赤くなってしまうのは、瑠璃の事を『姉』として慕う反面、あの笑顔を見た時から、心の奥底では憧れに似た淡い感情を抱いているからなのかもしれない。
「―――――真昼、フロあがったぞ」
自身の胸の内に想いを巡らせていた真昼の意識を、ふいに引き戻したのは、入浴を終え、濡れた髪を大雑把にタオルで拭き、それを頭に乗せたままリビングに顔を覗かせたスリーピーアッシュだった。
「・・・あぁ。クロ、瑠璃姉、寝ちゃったから静かにしてろよ」
冷凍庫からお風呂上がりのカップアイスを取り出すと、それを手にこちらにやってきたスリーピーアッシュに、コミュニティサイトの閲覧を終了させた真昼は声のトーンを僅かに下げながら言う。
「・・・そうか」
アイスの蓋を開けて、中身を匙で軽く掬うと一口食べたスリーピーアッシュの真紅の瞳が眠る瑠璃の姿を捉える。
と―――――ちょうど一人、座れるスペースが残っていた瑠璃の傍らに、腰を下ろしたのだが。しかし、スリーピーアッシュの顔には僅かながら不満そうな表情が浮かんでいた。
その理由は、いま食べているアイスが、スリーピーアッシュが好きな『クッキー&クリーム』ではなく、シンプル推奨派の真昼が選んだ『バニラ』だからなのか。
それとも―――――真昼の肩に瑠璃が頭を預けた状態で眠っているからなのか。
「あと、そうだ。定例会の日付、来週の26日―――――時間は19時からやることに決まったってリリイからメッセージが届いたからな」
すっかりいつも通りの顔に戻った真昼は、スリーピーアッシュの様子に眉を顰めつつも、あえて何が気に入らないのか触れる事はせず、コミュニティを閲覧していた時に来た連絡事項を口にする。
すると、アイスをまた一口食べたスリーピーアッシュは、チ・・・と小さく舌打ちをすると「リリイめ、ホントにやる気か・・・」と、めんどくさそうに顔を顰め、
「・・・これ以上、首突っこんでもめんどくせーことしかねーぞ。誰かがどうにかしてくれんの待っときゃいいんだ」
アイスのスプーンを咥えたまま、溜息交じりにスリーピーアッシュが洩らしたその言葉に、真昼は眉根を寄せると、それに対する自分の思いを口にする。
「なんていうか・・・俺は今までいろんな人に守られてきたしさ。今は俺が誰かを〝守る側〟なんだ・・・だから、俺はできることは何だってやりたいよ。―――――なにより、〝立ち向かう側〟になることを選んだ瑠璃姉の為にも・・・」
「・・・向き合えねー・・・やっぱお前、シスコンだな。あと、それよりこのアイス・・・オレはクッキー&クリーム派だと何回言わせるんだ・・・」
けれど、スリーピーアッシュはそれを聞き流すことにしたらしい。
「なっ、だれがシスコンだ!! ちゃんと人の話、聞いてんのかよ!!」
―――――シスコンだと指摘されたことによる恥ずかしさと、人が真面目に話をしていたというのにこいつは、という怒りが混ざり合い、カッと顔を赤らめながら、真昼は眉を吊り上げて、スリーピーアッシュに向かって声を上げてしまう。
「・・・ぅ・・・ん・・・まひる・・・くん・・・?」
それにより、眠りから引き戻された瑠璃が、ぼんやりとした様子で声を漏らした。
「あっ・・・ごめん、瑠璃姉っ」
「人に静かにしてろって言ったくせに、何をやってるんだか・・・」
半分ほどアイスを食べ終えたスリーピーアッシュが呆れたように、半眼で真昼を見ながら息を吐く。
―――――誰のせいだと思っているのか、握り拳を真昼は作りながら、スリーピーアッシュを睨む。
「・・・私のほうこそごめんね。こんな処で寝ちゃって。スリーピーアッシュも、いつの間にかお風呂を出てるし。・・・もしかして、真昼君、私の所為でお風呂入りそびれちゃってた?」
目を覚ました瑠璃は真昼からスリーピーアッシュにも視線を向けると、首を傾げながら尋ねかける。
「いや、それは大丈夫だよ! クロが出てから、まだそんなに時間は経ってないから」
「・・・そうなの? ならいいのだけど・・・」
「あぁ。じゃあ、俺も風呂に入ってくるね」
ソファーから真昼は腰を上げると、そう言って、パソコンを棚の上に収め、リビングを後にする。
「―――――瑠璃、寝るんなら部屋に戻った方がいいぞ」
ぼんやりとソファーに座ったままの瑠璃に、アイスの残りを口にしつつ、スリーピーアッシュは言う。
「・・・うん、大丈夫よ。ありがとう、スリーピーアッシュ」
それに笑みを浮かべながら頷いた瑠璃は、タオルが被さったスリーピーアッシュの頭に視線を向けると、ふと眉根を寄せた。
「スリーピーアッシュ。また、髪の毛ちゃんと乾かしてないでしょう? ドライヤー持ってくるからちょっと待っててね」
「・・・おう」
真昼が入浴を始めている事を確認して、洗面所に入った瑠璃は、そこからドライヤーを出すと、リビングに戻ってくる。
掃除機の音と同様にドライヤーの音も苦手だと言って、スリーピーアッシュは自分では髪を乾かそうとしない。
そのため大抵は真昼が、お小言を言いつつ、嫌がるスリーピーアッシュを捕まえて乾かしてしまうのだが、今日のように瑠璃が乾かす場合もある。
スリーピーアッシュがアイスを食べ終えたところで、ドライヤーのプラグをコンセントに繋ぐと、その傍らにまた瑠璃は腰を下ろし、スイッチを入れたそれを片手に、そっと髪に温風を当てながら反対の手で撫でるように乾かしていく。
「よし! 乾いたわね」
それから数分してパチンとスイッチを切ると、ドライヤーのプラグをコンセントから抜いて、コードを束ねたところで近くのテーブルに置く。
スリーピーアッシュは瑠璃から視線を逸らしつつ、「・・・ありがとな」と言った。
それに対して、瑠璃は笑みを浮かべると「どういたしまして」と応じながら、
「スリーピーアッシュの髪って、猫の姿の時は毛並がふわふわだけど、人の姿の時はサラサラになるわよね」
仕上げに、髪をブラシでそっと梳かすと、こちらを見つめてくる真紅の瞳と視線が合った。
「・・・お前の髪も綺麗だと思うぞ。それに、良い匂いもするし・・・」
「そうかな? ありがとう。でも匂いは同じシャンプーを私も使ってるはずなんだけど」
きょとんとした様子で自分の髪に触れた瑠璃の手をスリーピーアッシュは掴むと、そのまま自分の方に向かって引き寄せた。
ポスンとスリーピーアッシュの腕の中に納まった瑠璃は、突然の出来事に、目を瞠りながら口を開く。
「急にどうしたの? スリーピーアッシュ?」
真昼に接する時と同じように、まるで警戒心のないその口調に、スリーピーアッシュは胸の内に何とも言えない想いが湧き上がるのを感じ、そのまま瑠璃の首筋に顔を埋める。
と―――――ふわりと魅惑の血の香りとは別に、鼻孔を擽る柔らかな香りに、奥底にある欲が擽られる。
「・・・なぁ、瑠璃。オレのことも『名前』で呼んでくれないか」
スリーピーアッシュの吐息が首筋に中り、反射的にピクリと瑠璃の身体は震えてしまう。
「・・・っ『名前』? それって・・・」
「〝リリイ〟のことは、最初から『名前』で呼んでただろ?」
その拗ねた様なその口ぶりに、瑠璃は今日の有栖院邸でのスリーピーアッシュとのやり取りを思い出す。
リリイのあの姿を直視しそうになった処を、スリーピーアッシュが目隠ししてくれたおかげで見ずに済んだのだが、あの時もこんな風にどこか拗ねているような様子だった。
「・・・オレの事も少しくらいは、意識してくれよな・・・」
小声でそう呟いたスリーピーアッシュは、ふと思い出す。
無防備な首筋―――――そういえば、この前、椿に・・・・・。
途端、ムカッと込み上げてきた想いにスリーピーアッシュは、そのままそこに唇を寄せる。
ふいに、首筋に柔らかいモノが触れるのを感じた瑠璃は、ビクッと身体を震わせると同時に、思わず上ずった声を上げてしまう。
「・・ふぇっ・・・!? ・・・ク・・・『クロ』・・・っ!?」
「―――――・・・・っ!!」
その声を聴いた瞬間、我に返ったスリーピーアッシュは、バッと瑠璃の身体を離した。
それから、ポフンと黒猫の姿になると、ソファーの隅で頭を抱えてしまう。
―――――・・・何やってるんだオレは・・・・向き合えねー・・・。
一方、瑠璃は―――――
―――――・・・スリーピーアッシュの事は、真昼君と同じ『大切な家族』だと私は思ってる。
―――――・・・だけど私は〝ミストレス〟としてスリーピーアッシュと『誓約』を結んでいるわけで・・・。
―――――・・・無理強いをするつもりはないと、初めて逢った時、スリーピーアッシュは言っていたけれど・・・・・。
熱が集まった顔を両手で覆いながら、グルグルとなっていた思考を落ち着かせる為に、ゆっくりと瑠璃は息を吐き出す。
―――――『名前』で呼んでほしいとスリーピーアッシュは言っていた。
―――――だったら、今の私にできるのは、それに応える事だ。
にゃ~と、頭を抱えて唸る黒猫を瑠璃は両手を伸ばすとそっと抱き上げる。
「―――――『クロ』」
「・・・っ・・・瑠璃・・・」
驚いた様子で体を震わせた黒猫の頭を、微笑を浮かべて撫でながら瑠璃は言った。
「これからは私もスリーピーアッシュの事は『クロ』って呼ぶね」
17・06/13掲載
―――――有栖院の邸宅から帰宅した後。朝、家を出る前に掃除を済ませてあった浴槽にお湯を張ると、入浴は、瑠璃、スリーピーアッシュ、真昼の順で入ることになり。
瑠璃が入浴を終えて出てくると、制服から、部屋着として使用している学校のジャージに着替えた真昼が、リビングのソファーに座って、そこでパソコンを立ち上げ、リリイから貰ったメモに書かれていた吸血鬼のコミュニティにアクセスを試みていた。
「お待たせ、スリーピーアッシュ。お風呂、どうぞ」
「おう」
そして少し離れた場所で、携帯型ゲーム『ポカモン』をプレイしていたスリーピーアッシュに瑠璃は声を掛けると、真昼の傍らに腰を下ろして、横から真昼が閲覧していたPCの画面を見せてもらう。
「下位吸血鬼ってこんなにいるのね」
真祖が七人(椿を入れたら八人)いるのに対して―――――どうやら下位達は、それをはるかに上回る人数がいるようだ。
その中で皆が一様に上げているのが、八番目の真祖だと名乗った椿のこと―――――。
「うん。それでみんな、やっぱり椿達のことを怖がってるみたいなんだよな」
瑠璃の言葉に真昼は頷くと、ゲームを切り上げ、立ち上がったスリーピーアッシュに視線を向け、眉を顰めながら口を開く。
「なぁ、定例会っての、もっと早くやって対策考えてやれよ・・・」
すると、こちらに振り返ってきたスリーピーアッシュは片手を上げながら、
「あー、その定例会だけどな。オレたぶん、その日風邪ひくからよろしくな」
「どんだけ行きたくねーんだよ!!」
その返答に、「カゼ予告すんな!!」と真昼は睨みながら突っ込みを入れるが、スリーピーアッシュはそれ以上何も言う事は無く、ゲーム機を片付けると、入浴の為にリビングから出て行ってしまう。
「大丈夫よ、真昼君。あぁは言っていても、きっと、ちゃんと一緒に来てくれると思うから」
「・・・うん。いざとなったら、引きずってでも連れてくよ」
苦笑した瑠璃に真昼は嘆息しつつ頷く。
―――――定例会のお知らせ。
その通知が、リリイから届いたのは、それから15分くらい過ぎた頃だった。
「定例会・・・」
目を瞬かせ、それを確認した真昼は、ふいにトンと肩に凭れてきた重みに傍らを振り返る。
「瑠璃姉?」
目を閉じた瑠璃の胸元は規則正しく上下しており、静かな寝息が聞こえてくる。
「・・・寝ちゃったのか。まぁ、吸血鬼絡みで、今日はまた大変だったしな」
眠る瑠璃の顔を見つめ、ぽつりと真昼は呟く。
「―――――・・・こうして眠ってる姿を見ると、やっぱり年上には見えないよなぁ」
と―――――先程まではコミュニティの閲覧に熱中していた為に、意識していなかったが、傍らで無防備に眠る瑠璃の姿を目にした事で、その体からふわりとボディーソープの、シンプルな石鹸の香りが漂ってくるのに気付いた真昼は、顔が赤くなっていくのを感じた。
『―――――え!? 瑠璃さんって・・・・21!? 俺より、年上だったのか!?』
『うん。見えないってよく言われるけどね』
『じゃあ、今日から瑠璃さんのこと、『瑠璃姉』って呼んでもいいかな?』
『えぇ! ありがとう、真昼君!!』
―――――それは、瑠璃が城田家で暮らすことになってから、2週間程度過ぎた頃のやりとりだった。
家族がもういないという瑠璃は、真昼がそう言った時、本当に嬉しそうな満面の笑みを浮かべていた。
―――――瑠璃姉は俺にとって『大切な家族』だ。
―――――だから、シンプルに考えて疾しい感情なんてないと思う。
けれど、つい先日のように、ふいに抱きしめられたり、いまのような姿を見たら顔が赤くなってしまうのは、瑠璃の事を『姉』として慕う反面、あの笑顔を見た時から、心の奥底では憧れに似た淡い感情を抱いているからなのかもしれない。
「―――――真昼、フロあがったぞ」
自身の胸の内に想いを巡らせていた真昼の意識を、ふいに引き戻したのは、入浴を終え、濡れた髪を大雑把にタオルで拭き、それを頭に乗せたままリビングに顔を覗かせたスリーピーアッシュだった。
「・・・あぁ。クロ、瑠璃姉、寝ちゃったから静かにしてろよ」
冷凍庫からお風呂上がりのカップアイスを取り出すと、それを手にこちらにやってきたスリーピーアッシュに、コミュニティサイトの閲覧を終了させた真昼は声のトーンを僅かに下げながら言う。
「・・・そうか」
アイスの蓋を開けて、中身を匙で軽く掬うと一口食べたスリーピーアッシュの真紅の瞳が眠る瑠璃の姿を捉える。
と―――――ちょうど一人、座れるスペースが残っていた瑠璃の傍らに、腰を下ろしたのだが。しかし、スリーピーアッシュの顔には僅かながら不満そうな表情が浮かんでいた。
その理由は、いま食べているアイスが、スリーピーアッシュが好きな『クッキー&クリーム』ではなく、シンプル推奨派の真昼が選んだ『バニラ』だからなのか。
それとも―――――真昼の肩に瑠璃が頭を預けた状態で眠っているからなのか。
「あと、そうだ。定例会の日付、来週の26日―――――時間は19時からやることに決まったってリリイからメッセージが届いたからな」
すっかりいつも通りの顔に戻った真昼は、スリーピーアッシュの様子に眉を顰めつつも、あえて何が気に入らないのか触れる事はせず、コミュニティを閲覧していた時に来た連絡事項を口にする。
すると、アイスをまた一口食べたスリーピーアッシュは、チ・・・と小さく舌打ちをすると「リリイめ、ホントにやる気か・・・」と、めんどくさそうに顔を顰め、
「・・・これ以上、首突っこんでもめんどくせーことしかねーぞ。誰かがどうにかしてくれんの待っときゃいいんだ」
アイスのスプーンを咥えたまま、溜息交じりにスリーピーアッシュが洩らしたその言葉に、真昼は眉根を寄せると、それに対する自分の思いを口にする。
「なんていうか・・・俺は今までいろんな人に守られてきたしさ。今は俺が誰かを〝守る側〟なんだ・・・だから、俺はできることは何だってやりたいよ。―――――なにより、〝立ち向かう側〟になることを選んだ瑠璃姉の為にも・・・」
「・・・向き合えねー・・・やっぱお前、シスコンだな。あと、それよりこのアイス・・・オレはクッキー&クリーム派だと何回言わせるんだ・・・」
けれど、スリーピーアッシュはそれを聞き流すことにしたらしい。
「なっ、だれがシスコンだ!! ちゃんと人の話、聞いてんのかよ!!」
―――――シスコンだと指摘されたことによる恥ずかしさと、人が真面目に話をしていたというのにこいつは、という怒りが混ざり合い、カッと顔を赤らめながら、真昼は眉を吊り上げて、スリーピーアッシュに向かって声を上げてしまう。
「・・・ぅ・・・ん・・・まひる・・・くん・・・?」
それにより、眠りから引き戻された瑠璃が、ぼんやりとした様子で声を漏らした。
「あっ・・・ごめん、瑠璃姉っ」
「人に静かにしてろって言ったくせに、何をやってるんだか・・・」
半分ほどアイスを食べ終えたスリーピーアッシュが呆れたように、半眼で真昼を見ながら息を吐く。
―――――誰のせいだと思っているのか、握り拳を真昼は作りながら、スリーピーアッシュを睨む。
「・・・私のほうこそごめんね。こんな処で寝ちゃって。スリーピーアッシュも、いつの間にかお風呂を出てるし。・・・もしかして、真昼君、私の所為でお風呂入りそびれちゃってた?」
目を覚ました瑠璃は真昼からスリーピーアッシュにも視線を向けると、首を傾げながら尋ねかける。
「いや、それは大丈夫だよ! クロが出てから、まだそんなに時間は経ってないから」
「・・・そうなの? ならいいのだけど・・・」
「あぁ。じゃあ、俺も風呂に入ってくるね」
ソファーから真昼は腰を上げると、そう言って、パソコンを棚の上に収め、リビングを後にする。
「―――――瑠璃、寝るんなら部屋に戻った方がいいぞ」
ぼんやりとソファーに座ったままの瑠璃に、アイスの残りを口にしつつ、スリーピーアッシュは言う。
「・・・うん、大丈夫よ。ありがとう、スリーピーアッシュ」
それに笑みを浮かべながら頷いた瑠璃は、タオルが被さったスリーピーアッシュの頭に視線を向けると、ふと眉根を寄せた。
「スリーピーアッシュ。また、髪の毛ちゃんと乾かしてないでしょう? ドライヤー持ってくるからちょっと待っててね」
「・・・おう」
真昼が入浴を始めている事を確認して、洗面所に入った瑠璃は、そこからドライヤーを出すと、リビングに戻ってくる。
掃除機の音と同様にドライヤーの音も苦手だと言って、スリーピーアッシュは自分では髪を乾かそうとしない。
そのため大抵は真昼が、お小言を言いつつ、嫌がるスリーピーアッシュを捕まえて乾かしてしまうのだが、今日のように瑠璃が乾かす場合もある。
スリーピーアッシュがアイスを食べ終えたところで、ドライヤーのプラグをコンセントに繋ぐと、その傍らにまた瑠璃は腰を下ろし、スイッチを入れたそれを片手に、そっと髪に温風を当てながら反対の手で撫でるように乾かしていく。
「よし! 乾いたわね」
それから数分してパチンとスイッチを切ると、ドライヤーのプラグをコンセントから抜いて、コードを束ねたところで近くのテーブルに置く。
スリーピーアッシュは瑠璃から視線を逸らしつつ、「・・・ありがとな」と言った。
それに対して、瑠璃は笑みを浮かべると「どういたしまして」と応じながら、
「スリーピーアッシュの髪って、猫の姿の時は毛並がふわふわだけど、人の姿の時はサラサラになるわよね」
仕上げに、髪をブラシでそっと梳かすと、こちらを見つめてくる真紅の瞳と視線が合った。
「・・・お前の髪も綺麗だと思うぞ。それに、良い匂いもするし・・・」
「そうかな? ありがとう。でも匂いは同じシャンプーを私も使ってるはずなんだけど」
きょとんとした様子で自分の髪に触れた瑠璃の手をスリーピーアッシュは掴むと、そのまま自分の方に向かって引き寄せた。
ポスンとスリーピーアッシュの腕の中に納まった瑠璃は、突然の出来事に、目を瞠りながら口を開く。
「急にどうしたの? スリーピーアッシュ?」
真昼に接する時と同じように、まるで警戒心のないその口調に、スリーピーアッシュは胸の内に何とも言えない想いが湧き上がるのを感じ、そのまま瑠璃の首筋に顔を埋める。
と―――――ふわりと魅惑の血の香りとは別に、鼻孔を擽る柔らかな香りに、奥底にある欲が擽られる。
「・・・なぁ、瑠璃。オレのことも『名前』で呼んでくれないか」
スリーピーアッシュの吐息が首筋に中り、反射的にピクリと瑠璃の身体は震えてしまう。
「・・・っ『名前』? それって・・・」
「〝リリイ〟のことは、最初から『名前』で呼んでただろ?」
その拗ねた様なその口ぶりに、瑠璃は今日の有栖院邸でのスリーピーアッシュとのやり取りを思い出す。
リリイのあの姿を直視しそうになった処を、スリーピーアッシュが目隠ししてくれたおかげで見ずに済んだのだが、あの時もこんな風にどこか拗ねているような様子だった。
「・・・オレの事も少しくらいは、意識してくれよな・・・」
小声でそう呟いたスリーピーアッシュは、ふと思い出す。
無防備な首筋―――――そういえば、この前、椿に・・・・・。
途端、ムカッと込み上げてきた想いにスリーピーアッシュは、そのままそこに唇を寄せる。
ふいに、首筋に柔らかいモノが触れるのを感じた瑠璃は、ビクッと身体を震わせると同時に、思わず上ずった声を上げてしまう。
「・・ふぇっ・・・!? ・・・ク・・・『クロ』・・・っ!?」
「―――――・・・・っ!!」
その声を聴いた瞬間、我に返ったスリーピーアッシュは、バッと瑠璃の身体を離した。
それから、ポフンと黒猫の姿になると、ソファーの隅で頭を抱えてしまう。
―――――・・・何やってるんだオレは・・・・向き合えねー・・・。
一方、瑠璃は―――――
―――――・・・スリーピーアッシュの事は、真昼君と同じ『大切な家族』だと私は思ってる。
―――――・・・だけど私は〝ミストレス〟としてスリーピーアッシュと『誓約』を結んでいるわけで・・・。
―――――・・・無理強いをするつもりはないと、初めて逢った時、スリーピーアッシュは言っていたけれど・・・・・。
熱が集まった顔を両手で覆いながら、グルグルとなっていた思考を落ち着かせる為に、ゆっくりと瑠璃は息を吐き出す。
―――――『名前』で呼んでほしいとスリーピーアッシュは言っていた。
―――――だったら、今の私にできるのは、それに応える事だ。
にゃ~と、頭を抱えて唸る黒猫を瑠璃は両手を伸ばすとそっと抱き上げる。
「―――――『クロ』」
「・・・っ・・・瑠璃・・・」
驚いた様子で体を震わせた黒猫の頭を、微笑を浮かべて撫でながら瑠璃は言った。
「これからは私もスリーピーアッシュの事は『クロ』って呼ぶね」
17・06/13掲載
