第三章『アリス・イン・ザ・ガーデン』
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アリス・イン・ザ・ガーデン
「―――――さてと。まずは、瑠璃姉の怪我の手当てからだな」
8番目―――――〝憂鬱〟の真祖だという〝椿〟に襲われた処を、7番目―――――〝色欲〟の真祖である〝オールオブラブ〟に助けられ、家に帰宅してすぐの事。
真昼はそういうと、すぐさま救急箱をリビングの棚から取り出してきたのだが。
「・・・真昼。オレがやる」
「え? クロが?」
そこに手を出してきたのが、人型に戻ったスリーピーアッシュだった。
「・・・瑠璃の怪我は、オレを庇った所為だしな」
「まぁ、そうだけど。・・・お前ちゃんと、手当て出来んのか?」
眉を顰め、真昼はスリーピーアッシュを見る。
「・・・向き合えねーけど、ちゃんとやるから」
「じゃあ、スリーピーアッシュ。お願いしても良い?」
若干視線を逸らしつつ、そう告げたスリーピーアッシュに、瑠璃が柔らかな笑みを浮かべ言う。
「瑠璃姉がそういうのなら、お前に任せるけど」
そのやり取りに微妙に不服そうな顔をしながら、真昼は救急箱をスリーピーアッシュに差し出すと、ふと、目を瞬かせた。
「――――そういえば瑠璃姉って、なんでクロの事〝スリーピーアッシュ〟って呼ぶんだ? ・・・もともと、知り合いだったのか?」
―――――真昼の疑問は尤もなもので。
それだけでなく、何故、瑠璃が〝ミストレス〟と吸血鬼たちに呼ばれるのか。
瑠璃自身の素性――――――彼と出逢った経緯も含めて、真昼には話さなければならない。
瑠璃は覚悟を決めるように、ゆっくりと一度目を伏せると、真昼の顔を見つめて言った。
「―――――そうね。その事も含めて、真昼君にはきちんと話さないといけないわね」
瑠璃の手の怪我は、刀身を握った事により負ったモノだったが、止血の為に巻いていたタオルを外し、流水で傷口を洗い流してみると―――――出血量は多かったものの、傷口のほうは幸いというべきか、綺麗に一本の線がある状態であった為。傷口が開かないように傷テープを貼り、それを固定するために包帯を巻けば、手当ては完了となり。
黙々と手当てを行ったスリーピーアッシュは、ホッとした様子で息を吐くと、また黒猫の姿になって、ソファーに腰を下ろしていた瑠璃の膝の上で丸くなってしまった。
「―――――ありがとう、スリーピーアッシュ」
そっと労うように瑠璃が左手で黒猫を撫でると、手当てが終わったのを見計らって、ジュースが入ったコップを両手に持った真昼がこちらにやって来た。
「瑠璃姉、これ、オレンジジュース」
「うん、ありがとう、真昼君」
お礼を言って瑠璃はそれを受け取り、一息つくと、傍らに腰を下ろした真昼もまた自分のカップに口を付ける。
そうして、二人とも飲み終えたところで、コップを近くの小さなテーブルに置くと、瑠璃は真昼に話を切り出したのだ。
「―――――昨日、桜哉君が、吸血鬼が出るっていう噂を話してくれたでしょう。それと同じような話が、私が住んでいた場所でもあったの」
「・・・え?」
目を瞬かせ、眉を顰めた真昼に、瑠璃は言う。
「―――――紅い月夜の晩、十字路を渡るのは避けなければならない。
―――――何故なら、その境界線には吸血鬼が存在する世界への入り口があるから。
―――――その場所に足を踏み入れてしまったら最期、もう戻ることは出来ない。
―――――吸血鬼に魅入られる血を持つ、〝ミストレス〟となってしまうから。
ただの都市伝説だと思っていたのだけど。それは本当の事で、仕事で帰宅が遅くなってしまった紅い月夜の晩に、十字路の境界線に足を踏み入れてしまった私は、〝ミストレス〟として、自分が存在していた世界とは異なる処―――――吸血鬼が存在するこちらの世界に招かれて。そこで自身の中に引きこもって黒猫の姿で眠っていた―――――〝怠惰〟の吸血鬼―――――〝
―――――自分が何処からどうやって来たのか、スリーピーアッシュといつ何処で知り合ったのか、そこまで話し終えたところで、無意識の内に早まっていた鼓動を落ち着かせる為に、瑠璃は目を伏せると、ゆっくりと息を吐いた。傍らに座る真昼は、戸惑った表情を浮かべていたが、瑠璃が話し終えるまでは、何も言うつもりはないようで、両手を膝の上で握り拳にして、その様子を見つめていた。
話を再開する前に、チラと膝の上の黒猫に瑠璃が視線を向けると、丸まっていた黒猫は身じろぎとして、ころんと反仰向けのような状態に体制を変えると、こちらに顔を向けてきた。そうして膝の上に置かれた瑠璃の手に、前足を乗せてくる。
どうやら気持ちを落ち着かせようと気を使ってくれたらしい。
そのおかげで、心の細波が幾分か和らいだのを感じた瑠璃は、ふっと目元を緩めると、再び真昼に顔を向ける。
「・・・あのね、真昼君、〝ミストレス〟っていうのは、吸血鬼にとっては魅惑の血を持つ者であり、吸血鬼の真祖の〝花嫁〟に為りえる存在の呼び名なの」
「・・・吸血鬼にとって魅惑の血を持つ者であり・・・吸血鬼の真祖の・・・〝花嫁〟にも為りえる存在・・・?」
―――――困惑の表情から一変して、真昼は呆然とした様子で目を瞬かせ、瑠璃の言葉を繰り返す。
と―――――ふいに目を見開き、「〝花嫁〟?!」と声を上げると、瑠璃の膝の上で寛いでいた黒猫に視線を向け、
「・・・そう云えばクロ・・・最初から瑠璃姉に対する態度だけは、何か違うとは思ってたけど・・・そう云う事だったのか!?」
「・・・何がそう云う事なんだ・・・向き合えねー・・・」
動揺のあまり裏返った声を上げた真昼に対して、反仰向け状態から身体を起こした黒猫が、煩いと言わんばかりに、両耳を前足で押さえながら、呆れたように息を吐く。
―――――何事もシンプルに考える、真昼らしい反応ではあるのだが・・・。
「そうよ、真昼君・・・落ち着いて。私とスリーピーアッシュは、まだ、そういう関係じゃないから・・・」
瑠璃もまた苦笑いを浮かべると、左腕にある、真紅のリングを真昼に見えるように掲げ、
「私がスリーピーアッシュと結んでいるのは『誓約』だけよ」
「・・・『誓約』?」
「そう。正式に云うと―――――〝血の誓約〟―――――無作為に私が他の下位吸血鬼から狙われない為に、スリーピーアッシュが結んでくれたものなの」
「・・・〝血の誓約〟。もしかして、初めて会った時に、
「えぇ。でも、血を吸われた訳じゃなくて、ほんとに噛まれただけだったのよ」
〝ミストレス〟と真祖、両者の血が〝誓約の証〟を具現化させるためには必要だったから、と眉を顰めた真昼に瑠璃は告げ、思い返す。
―――――『誓約』のおかげで、この約一月余りの間、他の下位吸血鬼から襲われることなく、無事に過ごすことが出来ていた。
けれど、それだけでなく―――――
「『誓約』を結んだ後、
「・・・・・まぁな」
瑠璃が洩らした言葉に、思うところがあった黒猫は、少し間を開けてから頷いた。
大概の下位は、〝誓約の証〟に込められた真祖の気配に、瑠璃を襲う事を諦めるが、それでも稀に命知らずにちょっかいを出そうとする者がいなかった訳ではない。
が、そういうのは、瑠璃に気付かれる前に、追い払っていた。
そうやって、血を吸っていない状態で、少々無理をしすぎて、ダウンしていたところを、一昨日、真昼に拾われることになり、こうして契約をするまでに至ってしまった結果には、やはり〝怠惰〟の身としては向き合えるものではない。
「―――――でも、これからは私も守られる側じゃなくて、立ち向かっていく側になりたいと思ってるから。今後も、私は大人しく見ている事なんて出来ないと思う」
「・・・瑠璃」
ギュッと眉根を寄せると、そう言った瑠璃を黒猫は困惑した顔で見上げる。
やはりというべきか―――――〝ミストレス〟である彼女は自分とは逆の路を選択するのか。
そして、〝
「大丈夫だよ、瑠璃姉。―――――違う世界とか、何処から来たとか、シンプルに考えてそんなの関係ない!! 瑠璃姉は俺にとって『大事な家族』だ! だから、これからも一緒に立ち向かって行けばいいだろ!」
「・・・・・真昼君」
呆然と真昼の顔を瑠璃は見つめる。
初めて出逢った時、この家に迎え入れてくれたのと変わらない真昼の笑顔。
「・・・うん、ありがとう、真昼君」
瑠璃もまた、微笑を浮かべると、傍らに座る真昼に両腕を伸ばしていく。
「―――――っ・・・瑠璃姉っ!?」
ふわりと抱きしめられた感覚に、真昼は顔を赤くして、あわあわと動揺をしながら、両手を上げた状態で固まってしまう。
「・・・向き合えねー」
瑠璃の膝の上から床に下り立った黒猫は、その光景を半眼で見つめながら呟いた。
拾った黒猫が、ただの猫ではなく、ニートで怠惰な吸血鬼―――――というよく分からない存在の主人になってしまった。
それから、約一月前から家で一緒に暮らし始めた――――――いまでは大切な家族で『姉』として慕う彼女。
瑠璃姉は、こことは似て非なる世界―――――いわゆる異世界から来た―――――吸血鬼にとって魅惑の血を持つ者であり吸血鬼の真祖の〝花嫁〟にも為りえる存在―――――〝ミストレス〟なのだという。
さらに、敵対しているっぽい吸血鬼・・・・〝椿〟に襲われたり・・・仲間っぽい吸血鬼に助けられたり。
いきなりいろんなことが起きて何がなんだか・・・。
―――――頭の中では、追いついていない部分も多々あるが、シンプルに考えて、いまはこのメアドに連絡をしてみるしかない。
―――――alice-in-the-garden@・・・ne.jp
唯一の手掛かりである、メモに書かれたアドレス―――――これで味方であるらしい〝オールオブラブ〟と会うことが出来たなら、吸血鬼に関する詳しい話をもっときちんと聞けるかもしれない。
―――――そう真昼が考えて、メールを送ってから早一週間以上。
半日授業のあとは文化祭の準備時間となり、生徒たちは放課後の日が暮れた後も、残ってその準備に勤しんでいる。
そんな中、吸血鬼に関する噂―――――警告のようなそれを―――――力説するのは、首から雑用係と云う札をぶら下げた桜哉だった。
「だ――――か―――ら―――この前の吸血鬼の噂! むしろ広がってるんだって!! 原因不明の死体もたくさん出てる・・・ほんと夜は出歩くと危ねーの!! この街はすでに吸血鬼の巣窟!! だからっこんなのんきに文化祭の準備している場合じゃ・・・」
「―――――こんばんは、差し入れを持ってきたんだけど・・・」
教室の扉を開いて顔を覗かせた瑠璃と桜哉の視線が合う。
ほんの一瞬、また、あの複雑な―――――申し訳なさそうな辛そうな――――感情が桜哉の瞳に浮かんでいたのは、見間違いではない気がする。
「ちょっ桜哉、前見ろ!!」
けれど、その事を瑠璃が桜哉に尋ねるより前に――――――桜哉と共に荷物を運んでいた龍征の叫び声が上がった。
そうしてその直後、二人は共にひっくり返ってしまったのだ。
「だ、大丈夫? 龍征君、桜哉君」
「ったく、何やってるんだよ、桜哉!」
「・・・いやぁ、ごめんな、龍征。・・・瑠璃さんも、すいません」
近くの空いていた机の上に、差し入れのお菓子とジュースが入った袋を瑠璃は置くと、顔を顰めながら起き上がった二人と共に、散らばってしまった中身を段ボールに収めていく。
「最近の桜哉は吸血鬼の噂話ばっかりだな・・・」
喫茶店用の女子のエプロンを縫っていた真昼が呆れたように呟いた。
――――けれど、その噂は実は本当で、実際この教室にも吸血鬼が一匹馴染んでいるのだ。
「クロちゃん、クッキー食べるー?」
机の上でくつろぐ黒猫に、虎雪がお菓子を差し出す。
「クロちゃんは、いつもいい子だねー」
にゃ―――――と、それに返事をして差し出されたお菓子を食べる黒猫の頭をクラスメイトの女子が撫でる。
「まさに、ねこかぶり・・・」
「すっかり、クラスに打ち解けているみたいね。家の黒猫さん」
ジト目で黒猫を一瞥した真昼の漏らした言葉に、桜哉たちが運んでいたモノの中身を拾い終えた瑠璃が苦笑交じりに応じる。
「城く―――ん。スズのエプロン、肩のレースがほつれちゃってるのだよー。ちゃっちゃと直せる?」
それからまた、黙々と針仕事を再開し、エプロンのフリル部分を着々と縫い付けていく真昼の手元を、暫くの間、感心した面持ちで瑠璃が眺めていると、衣装の試着を終えたらしい女子がこちらに向かって呼びかけてきた。
「ああ、見せて」
真昼が頷くと、髪をアップに結った快活そうな女子が、ショートボブヘアの大人しそうな雰囲気の可愛らしい女子を連れて傍までやって来る。
城田だから、真昼の呼び名は『城』。
黒髪ショートの彼女の名は鈴原―――――だから『スズ』。
シンプルだが、二人とも響きのいい愛称だ。
そうして鈴原さんが着用しているエプロンの肩のレースを真昼は確認すると、肩口に顔を近づけて、用意した針と糸で修繕を開始する。
―――――と、「まっ真昼近いっ」「女子の髪がっ髪が触れちゃうっ」とその光景を見た、虎雪と桜哉が、大胆だと顔を赤くしながら揶揄を口にする。
けれど、そんな二人のやり取りが、意識には全く届いていないようで、ぼ―――――っとした顔で真昼は、針を進めている。
―――――件のメモに書かれていたメルアド宛に、真昼が連絡を取ったのは一週間以上前の事。けれど、いまだにあちらから何の連絡もない事から、その事がおそらく気にかかっているのだろう。
一方、瑠璃もまた、椿に襲われかけた窮地を救って貰ったあの日の夜、御園とリリイに、助けて貰った事に対するお礼のメールを送ったのだが、すると御園からその翌日に電話が掛かってきたのだ。
ちょうど自室に居た時に、それは掛かってきたため、真昼には気付かれることはなかったが―――――電話口で、御園が問いかけてきたのは、瑠璃の手の怪我のことで。
出血の割に傷口がそこまで酷いものではなかったのだと伝えると、御園は安堵したようだった。が、しかし、その後に、真昼から送られたであろうメールの事を訊ねると、『こちらからまた連絡するまで待て』という言葉と共に、電話を切られてしまったのだ。
なので、瑠璃自身も待つしかない状態なのだが―――――。
真昼がエプロンの肩のレースのほつれの修繕を終えた処で、桜哉がまた大量の雑用を押し付けられ、その荷物に埋もれた時。
彼の悲鳴に混じって、スマホのバイブ音が鳴り響いたのだ。
それは、真昼のポケットの中からしたもので。
目を瞬かせ、我に返った真昼がポケットからスマホを取り出して画面を確認してみると、メール受信の通知。
―――――おむかえにあがりました。
そしてその簡潔な文の送り主は、真昼が連絡を待ちわびていた相手からのもので。
「「城田真昼?」」
ふいに、背後から聴こえてきた幼い少女二人の声に、名前を呼ばれた真昼は驚きそちらを振り返る。
そこに居たのは、同じ顔をした髪の長い少女と短い少女。
「「〝オールオブラブ〟があなたを呼んでる」」
そう真昼に告げた双子は、次いで瑠璃のほうに視線を向けると。
「「瑠璃!!」」
嬉しそうな笑みを浮かべて、瑠璃に抱き着いたのだ。
突如として現れた双子に、真昼のクラスメイト達の視線が集まる。
「え? 瑠璃さんの知り合いの子なの?」
瑠璃の腰の辺りにギュッと抱き着いている双子を見て、虎雪が首を傾げる。
「・・・瑠璃姉、もしかして・・・」
困惑の表情を浮かべながら、もしやと、目で問いかけをしてきた真昼に瑠璃は頷き。
「ユリーちゃん、マリーちゃん、貴方たちだけでここに来たの?」
微笑を浮かべながら、両手で双子の頭を撫で、瑠璃は尋ねかける。
「「ううん」」
それに対して双子は首を振ると、何かを探すように教室内に視線を巡らせる。
「「スリーピーアッシュ」」
と―――――机の上で寛いでいた黒猫に目を止め、そちらに向かって跳びかかって行ったのだ。しかし、びくぅっと身体を黒猫は震わせると、素早く跳躍して、その場から逃げてしまう。同時に双子が勢いよく手を付いた反動で、ガタタッと机はひっくり返ってしまい、不運にもその近くで雑用を処理していた桜哉がそれに巻き込まれて、下敷きになってしまったのだ。
17・5/19掲載
