第二十八章『桎梏の塔』
『SERVAMP夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「真昼君」
耳朶に聴こえてきた瑠璃の声に、フード付きローブを纏った姿となった真昼がゆっくりと目を開ける。
壁のあちこちに小窓の様なものがあり、そこから光が降り注いでくる何処かの最下層の空間の中で。
「瑠璃姉。俺、うまく・・・いったのか? ここは・・・」
「えぇ。大丈夫。真昼君はちゃんと成功したわ」
真昼と同様にフード付きローブを纏った瑠璃が頷くと。
『瑠璃の言う通り。あの男の扉の内側に入るのに成功したよ。今回は条件 がよかったね』
いつの間にか、足元に姿を現していた『力』が告げてくる。
『まったく他人の精神と接続しようなんてのは。そうそううまくはいかないよ』
「お前・・・」
目を瞠った真昼に構うことはせず、『力』は呆れた様子で話し続ける。
『それにしても、瑠璃といい、きみといい。せっかく手にした〝力〟なんだからもっと有意義なことに使ってほしいなぁ。人を理解しようなんて時間のムダ。まどろっこしくて自己陶酔的だ。きみたちの命は有限なんだからもっと意味のあることに・・・』
「いいえ。そんなことはないわ」
そんな『力』に対して瑠璃は窘めるように言葉を紡ぎだし、そっと腕の中に抱えると。
「誰とも向き合わず理解し合えないなら、たとえ命が永遠だって何の意味もないよ」
上を見据えながらそう言った真昼もまた『力』に目を向けて。
「お前もそう知ってるんだろ? 〝クロ〟」
相棒の一部である存在に対してそう呼び掛けたのだ。
そうして「だから俺と瑠璃姉をここに・・・」と真昼が言い掛けた中。
『ボクの名前はそんなのじゃない』
瑠璃の腕の中で視線を俯けた『力』が否定の言葉を紡ぎだしたその直後。
ズシンと建物全体を震わせる震動が起こって。
「・・・・・・っ! 真昼君!!」
「瑠璃姉っ!! な・・・んだ!? 揺れ・・・・・・」
倒れそうになった瑠璃を真昼が両腕を伸ばして支えながらその場に踏み止まる。
その時、瑠璃の腕の中にいた『力』は姿を消していた。
そうして一先ず、足元の揺れは収まったものの、ズズンという音はまだ上から響いてくる。
周囲を見回した真昼は、壁伝いに作られた梯子に目を止めると―――――。
「行こう、瑠璃姉。多分この先に―――――」
「えぇ。居るはずよ」
真昼に対して瑠璃は頷き返し。梯子に手を掛けて登り始めたのだ。
―――――ドン
―――――ドォ・・・ン
―――――ドズン
―――――どんどん・・・上るほど暗くなってく―――――
―――――それにこの・・・・・・大きな花火みたいな音はなんだ?―――――
―――――これが・・・塔間の世界・・・?
―――――ド・・・ン
―――――ズズン・・・
聴こえてくる激しい炸裂音―――――そして一切灯りがない領域。
手探り状態の中、慎重に真昼と瑠璃は梯子を上っていく。
―――――鍵を買わないと・・・―――――
―――――ばけものが入ってこられないように―――――
―――――誰にもこじ開けられない頑丈な鍵を―――――
そんな中、不意に聴こえてきた声に真昼と瑠璃はハッと目を瞬かせる。
そして―――――
「・・・そこにいるのか? 誰か」
「私達の声が聴こえていたらこの手を取って」
闇の中、目を凝らすと本を手にした〝少年〟の姿が視えた気がした。
けれど、真昼と瑠璃が左手を伸ばしていくと―――――。
フッとその姿は闇の中で煙に変わって消失してしまったのだが。
それと入れ替わる様にして、上の方にぼんやりと灯りらしきものが現れて。
それが何なのか確かめるべく、さらに真昼と瑠璃は梯子を登っていく。
と―――――
「・・・吊戯さん?」
「どうしてここに・・・・・・」
崩れかけた道の端に、蝋燭を掲げながら座っていたのは、真昼と瑠璃と同じようにローブを身に纏った〝幼子〟の姿となった『吊戯』で。
「ふたりとも、おれをしってるの?」
呆然となった真昼と瑠璃に、『吊戯』はにこりと笑みを向けてくる。
そこで真昼と瑠璃はここにいるのは、自分達とはまだ出会っていない、『吊戯』なのだと理解する。
「あかりをもったままじゃのぼれないんだ。ついていってもいい?」
だからこそ、この『吊戯』はきっと〝彼〟にとって大切な『鍵』になる存在だ。
「うん。まっくらで困ってたんだ」
「だから私達と一緒に行きましょう」
真昼と瑠璃は吊戯に笑顔で頷き返し。
先に上っていた真昼が『吊戯』を肩車した処で。
「・・・・・・吊戯さん。貴方が居たあの部屋は」
瑠璃が尋ねかけると、僅かに開かれた扉を『吊戯』は照らしてくれた。
そこに見えたのは、〝彼〟が『吊戯』を助け出したあの日の光景だった。
そして―――――
「いこう。ここからはおれがすこしだけ、てらしてあげられる」
三人で上を目指して上り始めると。
「ほら。別の日がみえてきた」
灯りに照らされたその先に新たな場景が投影されて浮かび上がってくる。
「・・・塔間! なあ! なあってば」
最初に見えたのは学校から帰宅途中らしい〝彼〟の後姿だった。
そして幾度か誰かが〝彼〟に向かって呼び掛ける声が聴こえてくる。
しかし、〝彼〟が無反応なままであったことから。
「塔間! 無視するこたねーだろ!」
遂に、大声で名前を呼ばれる事態になり。
そこで漸く〝彼〟が足を止めたことから、呼び掛けてきていた声の主の姿を、真昼と瑠璃も認識することが出来たのだが―――――。
「えっ」
―――――・・・・・・俺!?
その声の主は真昼と瓜二つともいえる容姿の少年だったのだ。
「あれって・・・・・・」
呆然と目を見開いて固まった真昼と同様に瑠璃もまた、戸惑いの眼差しで少年を見つめていたのだが。
「・・・城田」
チッという舌打ちとともに左の目元の辺りに、ガーゼを張り付けた〝彼〟が刺すような目つきで振り返ってくるも。
「んな顔すんなよ。怖ぇだろ」
そんな〝彼〟の威圧感に一切怯むことなく、二ッと笑顔で応じる少年の姿を目にして。
―――――・・・いや、違う。俺じゃない―――――
―――――あの人は徹さんだわ・・・・・・!!―――――
真昼と瑠璃は確信する。
塔間は自分と徹は同級生 だと言っていた。
ならば〝彼〟の過去の場景に、少年時代の徹が出てくるのもまた必然のことなのかもしれない。
「なー塔間。ウチ寄ってけよ。お前、その・・・ちゃんと飯食ってねーんだろ。ウチで一緒に食おうぜ。姉ちゃんが作ってくれて・・・」
徹が〝彼〟に声を掛けた理由は同級生であり、友人だと思っている相手の食生活を純粋に気遣ってのものだったのだろう。
「なあお前。気持ちいいか?」
「え?」
しかして予想外の返答を貰ったことにより、きょとんとなった徹に対し。
「『かわいそうな俺に手を差し伸べる。優しいお前』は素晴らしいよ」
〝彼〟は悪感情を露わにしながら告げてくる。
「楽しいか? 気分がいいか? 俺はなお前にそうやって声をかけられる度、惨めで死にたくなるんだよ。俺はお前の身勝手な正義感に付き合わされたくない」
そうして右手で己の喉元を締め上げる仕草をしながら、憎悪のこもった口調でそう言い放つと。
「・・・俺、そんな・・・」
「自覚のないところでお前、俺のこと見下してるんだよ」
血の気が引いた面持ちになった徹の喉元に人差し指を突きつけながらさらに糾弾を行い。
果てには蔑むような眼差しで徹を凝視すると―――――
「〝弱い者さがし〟はよそでやれ。ヒーロー面のクソ野郎」
毒舌な言葉を浴びせてから、踵を返して歩き出したのだ。
そんな〝彼〟の後姿を茫然自失状態に陥った徹は黙って見送ることしか出来ず。
真昼と瑠璃もまた、そんな徹の様子を沈痛な面持ちで見つめることしか出来なかったのだが―――――。
「徹? 何してんの。そんなとこでぼーっとして」
そこに聴こえてきた女性の声に、ハッと我に返った徹がバッとそちらに振り返る。
「姉ちゃん!」
「・・・姉 ・・・?」
呆然と目を見開いた真昼の口から「・・・母さ・・・」という声が漏れ出す。
徹の『姉』―――――ということはつまり。
―――――・・・・・・あの人が真昼君のお母さん。
ゆっくりと目を瞬かせた瑠璃もまた、徹と会話をする女性に視線を向ける。
「部活じゃなかったの?」
ハキハキと喋るその声音は温かみに満ちた人柄が感じられる。
「いや・・・えっと。友達を・・・・・・」
―――――果たして本当はどうするのが正解だったのか。
「・・・なに? どうかしたの? ・・・徹?」
項垂れてしまった弟に姉が眉を寄せながら気遣うような声音で尋ねかける。
その一方で踵を返した〝彼〟の後姿は徐々に闇の中に見えなくなっていく。
―――――あの徹の姿は少し前の真昼と同じだった。
―――――ただ、純粋に友達のことを思って行動したつもりだった。
―――――けれど失敗してしまった。
遣る瀬ない瞳で城田姉弟を見ていた真昼は静かに言葉を紡ぎだす。
「大丈夫だよ。叔父さん」
―――――人は誰しも〝挫折〟を乗り越え、それを力に変えて〝成長〟していく―――――
だから―――――
「行こう、瑠璃姉」
「えぇ」
踵を返した真昼とともに瑠璃もまた一歩踏み出すと―――――手元の梯子をしっかりと握りしめて、そこからさらに塔の上を目指して進んで行く。
―――――・・・のため、ご両親とも任務中の事故で殉職・・・という―――――・・・
―――――辛いことと思いますが・・・武器の整備不良による暴発と認定され・・・保証金等の申請はこちらの書類―――――
C3の職員が〝彼〟の家を訪れて、淡々と両親の訃報と、その後の事務手続きに関する説明を行っていく。
その間、終始一貫して無表情のままだった〝彼〟はバタンと家の扉が閉ざされて、職員が立ち去っていったその直後。
「・・・ははは」
一変して―――――解放感に満ち溢れた―――――清々しい笑みを浮かべて。
「はは! やった!」と歓喜の叫び声を上げたのだ。
その〝彼〟の姿を目にした時、真昼も瑠璃も、衝撃のあまり言葉を失ってしまっていた。
しかして独立不羈 を達成した〝彼〟は―――――
「全部うまくいった! 事故で二人とも殺せた! 俺だ、吊戯。開けていいぞ!」
室内で在るのにも拘らず、ゴミ袋の山が積まれた状態となっているだけでなく、無数の傷だらけである部屋の扉のドアノブに〝彼〟は手を掛けながら、その中にいる相手に向かって呼び掛ける。
すると程なくしてガチャ・・・と開かれたその扉の向こう側から、あの日〝彼〟に助けられた『吊戯』が顔を覗かせて。
「鍵ももう要らないな。もう誰も帰ってこないからな。これで自由だ。飯にしよう。外に食べに出るか。吊戯」
二ッと笑いながら目線を合わせてきた〝彼〟のその笑顔に釣られるように、ふにゃと『吊戯』もまた眉を下げながら嬉しそうに笑みを浮かべる。
そして先に玄関口で〝彼〟は靴を履いた処で―――――
「・・・・・・ああ。靴がないな。そりゃそうか。お前、外に出るの初めてか」
裸足のままで、玄関で首を傾げて見せた『吊戯』を〝彼〟は肩車をすると、その日、二人で初めて外の世界に出たのだ。
そうして『吊戯』が初めて出た外の世界で、最初に目にしたのは、金色に輝く丸い月だった。
高身長の〝彼〟の肩の上で、上半身を伸ばしながら月に向かって『吊戯』は右手を伸ばしていく。
と―――――
「なんだ。手を伸ばしても取れねぇぞ、それは。はは」
屈託のない笑顔で〝彼〟はまた笑ったのだ。
それは〝彼〟にとっては恐らくは生まれて初めて手にした『平穏な日々』だった。
ぽた、とその過去の場景を見つめていた『吊戯』の瞳から涙が零れ落ちていく。
しかしそれ以降、見えた場景は決して明るいモノではなかった。
―――――・・・お前は外から見えるようなところに傷を作るなよ―――――
―――――くだらねぇ同情や好機を集めて面倒くせぇからな―――――
左の目元の辺りにある独特の模様の様な傷跡―――――それは過去に両親に付けられた傷で。〝彼〟にとっては忌々しいものでしかなかった。
だからC3で戦闘員として働く〝彼〟は自らの手で育てながら鍛え上げることで、成長してきた『吊戯』にはそう言い含めるようになった。
それから―――――
―――――・・・なんで俺じゃなくあいつが・・・―――――
―――――俺のほうが・・・っ―――――
―――――絶対俺のほうが能力は上なのに―――――
―――――生まれた家がいいってだけで・・・―――――
―――――・・・ひきずりおろしてやる―――――
〝彼〟は心から笑うことをしなくなり。
他者に対して―――――『恨み』『妬み』『嫉み』といった感情を抱くようになった。
そして狡知に長けた大人に成長した〝彼〟は―――――
―――――困っているなら手を貸そうか?―――――
―――――・・・そう警戒するなよ―――――
有栖院家から嫉妬の主人となった時点で立ち去ることを選択した御国をC3へ勧誘し。
―――――・・・まちがいない。これならきっとうまくいく―――――
―――――吊戯。俺達は―――――
『9番目』のサーヴァンプを誕生させるという計画を組み立てた。
そこで〝彼〟の過去の場景は終わりを迎え―――――。
真昼と瑠璃が梯子を上りきった処で、目にしたのは一つの扉だった。
「ここが・・・一番上?」
「あの扉は・・・・・・」
灯りを手に扉に近づいて行く『吊戯』に真昼と瑠璃は目を向ける。
と―――――
笑みを浮かべた『吊戯』が左手で黒い鍵を此方に向かって差し出してきて。
それを真昼が受け取ると、フッと姿を隠してしまったのだ。
「―――――真昼君。恐らく、この先に」
「あぁ。そうだな」
瑠璃の言葉に真昼は頷き返してくる。
そして手に入れた鍵をゆっくりと鍵穴に差し入れると、カチャ・・・と音がして。
―――――ズズン、ドン、ガガガ、ドドド!!!
開かれた扉の向こう側に、〝彼〟――――『塔間』―――――の姿を見つけたものの。
耳を劈かんばかりの爆音が聴こえてきて。
「・・・塔間」
「・・・・・・塔間さんっ」
薄暗い部屋全体はぐるりと布のようなモノに覆われていて。
その部屋の奥の中央で一脚の椅子に足を組んで座りながら、平然と本を捲って読み続ける『塔間』は入室してきた真昼と瑠璃の存在に気付いている様子はなく。
ビリビリビリ・・・・・・と身体にもまた響き渡るその感覚に、真昼と瑠璃は眉を顰めながら、片耳を抑えた態勢で、幾度も『塔間』に向かって呼び掛けた。
しかし、此方に『塔間』が気付く様子は一切見られず。
「「―――――っつ!!」」
そこで真昼と瑠璃は一気に『塔間』の傍まで走り寄ると。
「塔間!」
「塔間さん!!」
二人で最大限の声量でもう一度、『塔間』に向かって呼び掛けた。
と―――――
「・・・・・・ああ。二人揃って、いたのか。気付かなかった。何か用か?」
「俺達はお前を連れ出しに来たんだ」
「そうよ。ここにいたら誰の声も聞こえないままでしょう!!」
漸く此方の姿に気付いた『塔間』に真昼と瑠璃は強い口調で訴えかけるも。
「・・・? 連れ出しに?」
眉を顰めた『塔間』がそう呟いた刹那―――――ふわと、部屋全体を覆っていた布が捲れあがって。
「外になんて出たら死んでしまうだろ」
そう『塔間』が言った言葉は比喩ではなく―――――部屋の外の世界には無数の戦闘機が飛んでいて。それらが爆撃や銃弾戦を繰り広げていたのだ。
「「―――――・・・・・・っ」」
想像を絶する世界の場景に真昼と瑠璃は愕然と目を見開いてしまう。
「こんななか外へ出ろだなんて、そろそろ死ねって言ってるのか?」
「・・・ちがう。そんなわけないんだ。外の世界はもっと明るくて・・・・・・」
「そうよ。確かに、時に厳しさもあるかもしれないけれど・・・・・・その先には優しさがある。外の世界はそういう場所のはずなのに・・・・・・」
真昼と瑠璃は動揺を隠せない状態になりながらも、自身の想いを言葉にして伝えようとした。
「・・・それはここじゃない世界で生きてる奴らの言葉だ。そちらではそう なんだろうが、そちらの世界の常識で、ものを語られるのは困ってしまうな」
しかし、淡々とした声音で『塔間』はそれを否定してきて。
「お前らは・・・・・・大切な人と、誰かと、食事をともにする・・・なんてずいぶん気軽に言ってくれたもんだが」
それから視線を落とした『塔間』は徐に右手を椅子の座面に着きながら立ち上がると。
「『席に着け』? 『誰かの手を取れ』? 『こうすりゃいい』? 『なぜしない』? 簡単に言ってくれるなよ。ただ現状を傍受するだけで、そんなことまず考えもしねぇ 。そういう思考の放棄と極小化が『貧困』の本質さ。生まれた環境によって価値観は形作られてしまう」
此方に向かって凄まじい殺気に満ち溢れた凄みのある笑みを湛え乍ら語りかけてくる。
そして―――――
「俺達は目隠しをして生まれた。」
己の思想の根幹を述べた『塔間』はスッと目を眇めると。
「親が俺に教えてくれた世界のルールはひとつだけ。〝気に入らない奴は虐げていい〟」
真昼と瑠璃は『塔間』が口にしたその台詞に対し、言葉も出ない様相になってしまっていたのだが。
【本館/24・11/16/別館/24・11/30掲載】
耳朶に聴こえてきた瑠璃の声に、フード付きローブを纏った姿となった真昼がゆっくりと目を開ける。
壁のあちこちに小窓の様なものがあり、そこから光が降り注いでくる何処かの最下層の空間の中で。
「瑠璃姉。俺、うまく・・・いったのか? ここは・・・」
「えぇ。大丈夫。真昼君はちゃんと成功したわ」
真昼と同様にフード付きローブを纏った瑠璃が頷くと。
『瑠璃の言う通り。あの男の扉の内側に入るのに成功したよ。今回は
いつの間にか、足元に姿を現していた『力』が告げてくる。
『まったく他人の精神と接続しようなんてのは。そうそううまくはいかないよ』
「お前・・・」
目を瞠った真昼に構うことはせず、『力』は呆れた様子で話し続ける。
『それにしても、瑠璃といい、きみといい。せっかく手にした〝力〟なんだからもっと有意義なことに使ってほしいなぁ。人を理解しようなんて時間のムダ。まどろっこしくて自己陶酔的だ。きみたちの命は有限なんだからもっと意味のあることに・・・』
「いいえ。そんなことはないわ」
そんな『力』に対して瑠璃は窘めるように言葉を紡ぎだし、そっと腕の中に抱えると。
「誰とも向き合わず理解し合えないなら、たとえ命が永遠だって何の意味もないよ」
上を見据えながらそう言った真昼もまた『力』に目を向けて。
「お前もそう知ってるんだろ? 〝クロ〟」
相棒の一部である存在に対してそう呼び掛けたのだ。
そうして「だから俺と瑠璃姉をここに・・・」と真昼が言い掛けた中。
『ボクの名前はそんなのじゃない』
瑠璃の腕の中で視線を俯けた『力』が否定の言葉を紡ぎだしたその直後。
ズシンと建物全体を震わせる震動が起こって。
「・・・・・・っ! 真昼君!!」
「瑠璃姉っ!! な・・・んだ!? 揺れ・・・・・・」
倒れそうになった瑠璃を真昼が両腕を伸ばして支えながらその場に踏み止まる。
その時、瑠璃の腕の中にいた『力』は姿を消していた。
そうして一先ず、足元の揺れは収まったものの、ズズンという音はまだ上から響いてくる。
周囲を見回した真昼は、壁伝いに作られた梯子に目を止めると―――――。
「行こう、瑠璃姉。多分この先に―――――」
「えぇ。居るはずよ」
真昼に対して瑠璃は頷き返し。梯子に手を掛けて登り始めたのだ。
―――――ドン
―――――ドォ・・・ン
―――――ドズン
―――――どんどん・・・上るほど暗くなってく―――――
―――――それにこの・・・・・・大きな花火みたいな音はなんだ?―――――
―――――これが・・・塔間の世界・・・?
―――――ド・・・ン
―――――ズズン・・・
聴こえてくる激しい炸裂音―――――そして一切灯りがない領域。
手探り状態の中、慎重に真昼と瑠璃は梯子を上っていく。
―――――鍵を買わないと・・・―――――
―――――ばけものが入ってこられないように―――――
―――――誰にもこじ開けられない頑丈な鍵を―――――
そんな中、不意に聴こえてきた声に真昼と瑠璃はハッと目を瞬かせる。
そして―――――
「・・・そこにいるのか? 誰か」
「私達の声が聴こえていたらこの手を取って」
闇の中、目を凝らすと本を手にした〝少年〟の姿が視えた気がした。
けれど、真昼と瑠璃が左手を伸ばしていくと―――――。
フッとその姿は闇の中で煙に変わって消失してしまったのだが。
それと入れ替わる様にして、上の方にぼんやりと灯りらしきものが現れて。
それが何なのか確かめるべく、さらに真昼と瑠璃は梯子を登っていく。
と―――――
「・・・吊戯さん?」
「どうしてここに・・・・・・」
崩れかけた道の端に、蝋燭を掲げながら座っていたのは、真昼と瑠璃と同じようにローブを身に纏った〝幼子〟の姿となった『吊戯』で。
「ふたりとも、おれをしってるの?」
呆然となった真昼と瑠璃に、『吊戯』はにこりと笑みを向けてくる。
そこで真昼と瑠璃はここにいるのは、自分達とはまだ出会っていない、『吊戯』なのだと理解する。
「あかりをもったままじゃのぼれないんだ。ついていってもいい?」
だからこそ、この『吊戯』はきっと〝彼〟にとって大切な『鍵』になる存在だ。
「うん。まっくらで困ってたんだ」
「だから私達と一緒に行きましょう」
真昼と瑠璃は吊戯に笑顔で頷き返し。
先に上っていた真昼が『吊戯』を肩車した処で。
「・・・・・・吊戯さん。貴方が居たあの部屋は」
瑠璃が尋ねかけると、僅かに開かれた扉を『吊戯』は照らしてくれた。
そこに見えたのは、〝彼〟が『吊戯』を助け出したあの日の光景だった。
そして―――――
「いこう。ここからはおれがすこしだけ、てらしてあげられる」
三人で上を目指して上り始めると。
「ほら。別の日がみえてきた」
灯りに照らされたその先に新たな場景が投影されて浮かび上がってくる。
「・・・塔間! なあ! なあってば」
最初に見えたのは学校から帰宅途中らしい〝彼〟の後姿だった。
そして幾度か誰かが〝彼〟に向かって呼び掛ける声が聴こえてくる。
しかし、〝彼〟が無反応なままであったことから。
「塔間! 無視するこたねーだろ!」
遂に、大声で名前を呼ばれる事態になり。
そこで漸く〝彼〟が足を止めたことから、呼び掛けてきていた声の主の姿を、真昼と瑠璃も認識することが出来たのだが―――――。
「えっ」
―――――・・・・・・俺!?
その声の主は真昼と瓜二つともいえる容姿の少年だったのだ。
「あれって・・・・・・」
呆然と目を見開いて固まった真昼と同様に瑠璃もまた、戸惑いの眼差しで少年を見つめていたのだが。
「・・・城田」
チッという舌打ちとともに左の目元の辺りに、ガーゼを張り付けた〝彼〟が刺すような目つきで振り返ってくるも。
「んな顔すんなよ。怖ぇだろ」
そんな〝彼〟の威圧感に一切怯むことなく、二ッと笑顔で応じる少年の姿を目にして。
―――――・・・いや、違う。俺じゃない―――――
―――――あの人は徹さんだわ・・・・・・!!―――――
真昼と瑠璃は確信する。
塔間は自分と徹は
ならば〝彼〟の過去の場景に、少年時代の徹が出てくるのもまた必然のことなのかもしれない。
「なー塔間。ウチ寄ってけよ。お前、その・・・ちゃんと飯食ってねーんだろ。ウチで一緒に食おうぜ。姉ちゃんが作ってくれて・・・」
徹が〝彼〟に声を掛けた理由は同級生であり、友人だと思っている相手の食生活を純粋に気遣ってのものだったのだろう。
「なあお前。気持ちいいか?」
「え?」
しかして予想外の返答を貰ったことにより、きょとんとなった徹に対し。
「『かわいそうな俺に手を差し伸べる。優しいお前』は素晴らしいよ」
〝彼〟は悪感情を露わにしながら告げてくる。
「楽しいか? 気分がいいか? 俺はなお前にそうやって声をかけられる度、惨めで死にたくなるんだよ。俺はお前の身勝手な正義感に付き合わされたくない」
そうして右手で己の喉元を締め上げる仕草をしながら、憎悪のこもった口調でそう言い放つと。
「・・・俺、そんな・・・」
「自覚のないところでお前、俺のこと見下してるんだよ」
血の気が引いた面持ちになった徹の喉元に人差し指を突きつけながらさらに糾弾を行い。
果てには蔑むような眼差しで徹を凝視すると―――――
「〝弱い者さがし〟はよそでやれ。ヒーロー面のクソ野郎」
毒舌な言葉を浴びせてから、踵を返して歩き出したのだ。
そんな〝彼〟の後姿を茫然自失状態に陥った徹は黙って見送ることしか出来ず。
真昼と瑠璃もまた、そんな徹の様子を沈痛な面持ちで見つめることしか出来なかったのだが―――――。
「徹? 何してんの。そんなとこでぼーっとして」
そこに聴こえてきた女性の声に、ハッと我に返った徹がバッとそちらに振り返る。
「姉ちゃん!」
「・・・
呆然と目を見開いた真昼の口から「・・・母さ・・・」という声が漏れ出す。
徹の『姉』―――――ということはつまり。
―――――・・・・・・あの人が真昼君のお母さん。
ゆっくりと目を瞬かせた瑠璃もまた、徹と会話をする女性に視線を向ける。
「部活じゃなかったの?」
ハキハキと喋るその声音は温かみに満ちた人柄が感じられる。
「いや・・・えっと。友達を・・・・・・」
―――――果たして本当はどうするのが正解だったのか。
「・・・なに? どうかしたの? ・・・徹?」
項垂れてしまった弟に姉が眉を寄せながら気遣うような声音で尋ねかける。
その一方で踵を返した〝彼〟の後姿は徐々に闇の中に見えなくなっていく。
―――――あの徹の姿は少し前の真昼と同じだった。
―――――ただ、純粋に友達のことを思って行動したつもりだった。
―――――けれど失敗してしまった。
遣る瀬ない瞳で城田姉弟を見ていた真昼は静かに言葉を紡ぎだす。
「大丈夫だよ。叔父さん」
―――――人は誰しも〝挫折〟を乗り越え、それを力に変えて〝成長〟していく―――――
だから―――――
「行こう、瑠璃姉」
「えぇ」
踵を返した真昼とともに瑠璃もまた一歩踏み出すと―――――手元の梯子をしっかりと握りしめて、そこからさらに塔の上を目指して進んで行く。
―――――・・・のため、ご両親とも任務中の事故で殉職・・・という―――――・・・
―――――辛いことと思いますが・・・武器の整備不良による暴発と認定され・・・保証金等の申請はこちらの書類―――――
C3の職員が〝彼〟の家を訪れて、淡々と両親の訃報と、その後の事務手続きに関する説明を行っていく。
その間、終始一貫して無表情のままだった〝彼〟はバタンと家の扉が閉ざされて、職員が立ち去っていったその直後。
「・・・ははは」
一変して―――――解放感に満ち溢れた―――――清々しい笑みを浮かべて。
「はは! やった!」と歓喜の叫び声を上げたのだ。
その〝彼〟の姿を目にした時、真昼も瑠璃も、衝撃のあまり言葉を失ってしまっていた。
しかして
「全部うまくいった! 事故で二人とも殺せた! 俺だ、吊戯。開けていいぞ!」
室内で在るのにも拘らず、ゴミ袋の山が積まれた状態となっているだけでなく、無数の傷だらけである部屋の扉のドアノブに〝彼〟は手を掛けながら、その中にいる相手に向かって呼び掛ける。
すると程なくしてガチャ・・・と開かれたその扉の向こう側から、あの日〝彼〟に助けられた『吊戯』が顔を覗かせて。
「鍵ももう要らないな。もう誰も帰ってこないからな。これで自由だ。飯にしよう。外に食べに出るか。吊戯」
二ッと笑いながら目線を合わせてきた〝彼〟のその笑顔に釣られるように、ふにゃと『吊戯』もまた眉を下げながら嬉しそうに笑みを浮かべる。
そして先に玄関口で〝彼〟は靴を履いた処で―――――
「・・・・・・ああ。靴がないな。そりゃそうか。お前、外に出るの初めてか」
裸足のままで、玄関で首を傾げて見せた『吊戯』を〝彼〟は肩車をすると、その日、二人で初めて外の世界に出たのだ。
そうして『吊戯』が初めて出た外の世界で、最初に目にしたのは、金色に輝く丸い月だった。
高身長の〝彼〟の肩の上で、上半身を伸ばしながら月に向かって『吊戯』は右手を伸ばしていく。
と―――――
「なんだ。手を伸ばしても取れねぇぞ、それは。はは」
屈託のない笑顔で〝彼〟はまた笑ったのだ。
それは〝彼〟にとっては恐らくは生まれて初めて手にした『平穏な日々』だった。
ぽた、とその過去の場景を見つめていた『吊戯』の瞳から涙が零れ落ちていく。
しかしそれ以降、見えた場景は決して明るいモノではなかった。
―――――・・・お前は外から見えるようなところに傷を作るなよ―――――
―――――くだらねぇ同情や好機を集めて面倒くせぇからな―――――
左の目元の辺りにある独特の模様の様な傷跡―――――それは過去に両親に付けられた傷で。〝彼〟にとっては忌々しいものでしかなかった。
だからC3で戦闘員として働く〝彼〟は自らの手で育てながら鍛え上げることで、成長してきた『吊戯』にはそう言い含めるようになった。
それから―――――
―――――・・・なんで俺じゃなくあいつが・・・―――――
―――――俺のほうが・・・っ―――――
―――――絶対俺のほうが能力は上なのに―――――
―――――生まれた家がいいってだけで・・・―――――
―――――・・・ひきずりおろしてやる―――――
〝彼〟は心から笑うことをしなくなり。
他者に対して―――――『恨み』『妬み』『嫉み』といった感情を抱くようになった。
そして狡知に長けた大人に成長した〝彼〟は―――――
―――――困っているなら手を貸そうか?―――――
―――――・・・そう警戒するなよ―――――
有栖院家から嫉妬の主人となった時点で立ち去ることを選択した御国をC3へ勧誘し。
―――――・・・まちがいない。これならきっとうまくいく―――――
―――――吊戯。俺達は―――――
『9番目』のサーヴァンプを誕生させるという計画を組み立てた。
そこで〝彼〟の過去の場景は終わりを迎え―――――。
真昼と瑠璃が梯子を上りきった処で、目にしたのは一つの扉だった。
「ここが・・・一番上?」
「あの扉は・・・・・・」
灯りを手に扉に近づいて行く『吊戯』に真昼と瑠璃は目を向ける。
と―――――
笑みを浮かべた『吊戯』が左手で黒い鍵を此方に向かって差し出してきて。
それを真昼が受け取ると、フッと姿を隠してしまったのだ。
「―――――真昼君。恐らく、この先に」
「あぁ。そうだな」
瑠璃の言葉に真昼は頷き返してくる。
そして手に入れた鍵をゆっくりと鍵穴に差し入れると、カチャ・・・と音がして。
―――――ズズン、ドン、ガガガ、ドドド!!!
開かれた扉の向こう側に、〝彼〟――――『塔間』―――――の姿を見つけたものの。
耳を劈かんばかりの爆音が聴こえてきて。
「・・・塔間」
「・・・・・・塔間さんっ」
薄暗い部屋全体はぐるりと布のようなモノに覆われていて。
その部屋の奥の中央で一脚の椅子に足を組んで座りながら、平然と本を捲って読み続ける『塔間』は入室してきた真昼と瑠璃の存在に気付いている様子はなく。
ビリビリビリ・・・・・・と身体にもまた響き渡るその感覚に、真昼と瑠璃は眉を顰めながら、片耳を抑えた態勢で、幾度も『塔間』に向かって呼び掛けた。
しかし、此方に『塔間』が気付く様子は一切見られず。
「「―――――っつ!!」」
そこで真昼と瑠璃は一気に『塔間』の傍まで走り寄ると。
「塔間!」
「塔間さん!!」
二人で最大限の声量でもう一度、『塔間』に向かって呼び掛けた。
と―――――
「・・・・・・ああ。二人揃って、いたのか。気付かなかった。何か用か?」
「俺達はお前を連れ出しに来たんだ」
「そうよ。ここにいたら誰の声も聞こえないままでしょう!!」
漸く此方の姿に気付いた『塔間』に真昼と瑠璃は強い口調で訴えかけるも。
「・・・? 連れ出しに?」
眉を顰めた『塔間』がそう呟いた刹那―――――ふわと、部屋全体を覆っていた布が捲れあがって。
「外になんて出たら死んでしまうだろ」
そう『塔間』が言った言葉は比喩ではなく―――――部屋の外の世界には無数の戦闘機が飛んでいて。それらが爆撃や銃弾戦を繰り広げていたのだ。
「「―――――・・・・・・っ」」
想像を絶する世界の場景に真昼と瑠璃は愕然と目を見開いてしまう。
「こんななか外へ出ろだなんて、そろそろ死ねって言ってるのか?」
「・・・ちがう。そんなわけないんだ。外の世界はもっと明るくて・・・・・・」
「そうよ。確かに、時に厳しさもあるかもしれないけれど・・・・・・その先には優しさがある。外の世界はそういう場所のはずなのに・・・・・・」
真昼と瑠璃は動揺を隠せない状態になりながらも、自身の想いを言葉にして伝えようとした。
「・・・それはここじゃない世界で生きてる奴らの言葉だ。そちらでは
しかし、淡々とした声音で『塔間』はそれを否定してきて。
「お前らは・・・・・・大切な人と、誰かと、食事をともにする・・・なんてずいぶん気軽に言ってくれたもんだが」
それから視線を落とした『塔間』は徐に右手を椅子の座面に着きながら立ち上がると。
「『席に着け』? 『誰かの手を取れ』? 『こうすりゃいい』? 『なぜしない』? 簡単に言ってくれるなよ。ただ現状を傍受するだけで、そんなことまず
此方に向かって凄まじい殺気に満ち溢れた凄みのある笑みを湛え乍ら語りかけてくる。
そして―――――
「俺達は目隠しをして生まれた。」
己の思想の根幹を述べた『塔間』はスッと目を眇めると。
「親が俺に教えてくれた世界のルールはひとつだけ。〝気に入らない奴は虐げていい〟」
真昼と瑠璃は『塔間』が口にしたその台詞に対し、言葉も出ない様相になってしまっていたのだが。
【本館/24・11/16/別館/24・11/30掲載】
