第二十七章『それは誰が為に―――――』
『SERVAMP夢』名前変換設定。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それは誰 が為に―――――。
真昼に自分のIDを託した後。その足で向かった第一指令室に置いて露木の姿を確認することが出来なかったイズナは、その直後に姿を見せた副支部長である塔間から避難するよう指示を出されたものの。胸の奥に抱いた憂慮を拭い去ることが出来ず、退去する道すがら、作り上げた武器の保管場所も確認した結果。
―――――試作品が持ち出されてる。
―――――実用化はないって話だったのにまさか・・・。
より一層の危機感を募らせることとなったイズナはすぐさまズボンのポケットから取り出した端末のID探知を起動させると、画面を見ながら一目散にタタッと通路を駆け出して行ったのだが。
「―――――!」
道を曲がろうとした処で、ドンと何者かと衝突することとなってしまい。
「っとォ・・・?」
「えっ?」
慌てて顔を上げるのと同時に反射的に身を引いたイズナの目に飛び込んできたのは、黒いテガロンハットを被ったギザ歯で三白眼の男―――――憤怒の下位であるジルの姿だった。
そしてイズナとぶつかった際に頭から落下しそうになったテガロンハットを、ジルもまた左手で押さえながらイズナを見返すと。
「お急ぎかい? 美味しそうなお嬢ちゃん。一人でこんなとこ歩き回っちゃ危ないぜェェ?」
―――――脱獄した下位吸血鬼・・・!
ニヤリと凶悪な笑みを浮かべながら声を掛けてきたジルに対してイズナは顔を強張らせたのだが。
「この辺は狼さん・・・ならぬ。こわァい吸血鬼がでるからなア゛ッ」
しかし、不穏な台詞を紡ぎ出したジルに制裁を下すように、その背後からゴッと頭部に手刀が落とされたのだ。
「~~~~~ッ!」
そうして容赦のない一撃を食らったジルが苦悶の声を漏らしながら、帽子の上から両手で頭を押さえつつ下を向くと。
「やあレディ。歩きスマホは危ないよ」
クラウンのデザインが施されたウサギ帽子を目深に被ったもう一人の憤怒の下位吸血―――――レイが親し気な口調でイズナに話し掛けてきて。
ジルとは全くの対照的な雰囲気のレイに思わずイズナが呆然と目を瞬かせると。
「ってェェな。何すんだよレイ」
がばっと顔を上げたジルが叫び声を上げた為。
「ごめんよジル」
レイは詫びの言葉を口にしたものの。
「でもレディに親切にするのはイタリア男の義務なんだ」
しかしその後にさらりとそんな台詞を述べてきて。
ジルがまたそれに猛抗議をするかと思われたのだが―――――眉を顰めつつも、嘆息交じりに「でたぜエェ、この色男」と漏らしただけだった。
そうしてその場が落ち着いた処で―――――。
「あ・・・えっと。助けてくれてありがとう!」
「こちらこそ、うちの相方が失礼を」
戸惑いの面持ちになりながら様子を見ていたイズナがレイに感謝の言葉を口にして、レイもまた左手を差し出しながら恭しい態度でそれに応じると。
バタバタバタと大きな足音を響かせながら、
「ちょっとあんたら!! な―――――に油売ってんスか!」
強欲の吸血鬼であるロウレスが此方にやって来て。時間ね―――――んスよ?!と眉を顰めたロウレスとは真逆に、落ち着いた足取りで続いてやって来たロウレスの主人であるリヒトは「このフロアには妖精さんがいないな・・・」と左手を掲げながら耳を澄ませる仕草をしていて。しかし、主人のその行動は通常運転ともいうべきものなので、ロウレスは構うことはせず。
「なんか一人増えてるし・・・」イズナに視線を向けたところで。
「・・・・・・ん・・・? この子・・・どっかで会ったような・・・」
ふと、既視感を覚えたロウレスが漏らしたその言葉に、ジルが思い切り眉を顰めて。
「オイオイ!! お前さんまでナンパかよオォ!? 勘弁&勘弁だぜエエ!?」
「いや、ちげーっスよ!!」
どいつもこいつもよオオ?!と騒ぎ立てたジルに対し、即座にロウレスが否定を返して。一気に騒がしい状況になってしまった中。
すっかり平静を取り戻したイズナは、急がなくちゃ・・・・・・とルートを確認すべく、両手の中に握りしめたままだった端末に目を向けると。
「ところでレディ。どうしてこんなところに一人で?」
騒ぐ相方を窘めることなく、レイが話しかけてきて。
「あっ! ごめんなさい。私、人を追ってて・・・」
イズナは画面から視線を上げることはせず、端的に事情を述べたのだが。
しかし、ピコピコと点滅する座標を確認した刹那――――
「・・・あれ? ・・・ここを指してる・・・?」
イズナは戸惑いの声を漏らしてしまう。
「なんスか? レーダー?」
するとロウレスもまた、イズナの方に目を向けてきて。
「うん・・・私のIDを人に預けてて・・・それを追ってきたんだけど・・・」
端末の画面上に表示されたソレの意味をイズナが説明すると。
それを聞いたロウレスがハッとした面持ちになり、
「・・・・・・あ!! このIDの人!?」
どーりで見たことがあると思った!と所持していたIDをバッと掲げて見せると。
「えっ、なんで!? 真昼くんに渡したはず・・・」
事情を把握していないジルが不思議そうにロウレスの手元に目を向けてきたのと同時に、顔を上げたイズナもIDを確認すると瞠目した面持ちになって。
IDは真昼から預かったのだとロウレスがイズナに告げた後―――――。
イズナが急いでいた理由が、憂鬱の下位の元に単身で向かった可能性がある露木を助ける為だったのだということをロウレス達は知ることとなり。
イズナもまた、憤怒の下位二人が吊戯と戦いを繰り広げて勝利したこと。
それから憤怒の真祖を救出した強欲組と合流した処で。水没したエレベーターの向こう側に落ちた吊戯の救出を望んだ瑠璃に代わって、憤怒の真祖であるザ・マザーがそこに飛び込んで行ったのだという話を聞くと。
「・・・・・・そうだったの。吊戯くんに勝っちゃうなんて・・・」
一瞬、イズナは呆然となったものの。
「二人が落ちたエレベーターホールの位置を検索してみる! 通れそうなルートも」
「頼むぜエェ。姐御が心配だァ」
すぐさま真剣な顔つきになり、端末の探索機能を起動させたイズナにジルが嘆願の言葉を投げかけると。
「任せて! あ、あと一応確認なのだけど、瑠璃ちゃんはいま何処に・・・・・・?」
しっかりと頷き返したイズナが、この場に姿のないの瑠璃所在を尋ねかけると。
「あ! 途中で城田真昼には会わなかったスか? 瑠璃ちゃんも『鍵』を使って、そっちに向かったはずなんスけど・・・・・・」
ハッと真昼のことを思い出したロウレスが、イズナにそう聞き返してきて。
「違う通路から来ちゃったと思う。この建物には案内図に載ってない通路もいくつかあるし・・・」
行き違いにより、イズナは真昼と瑠璃のどちらとも会うことは出来ず仕舞いになってしまっていたという事が判明したのだが。
「そうなんスね。まあ、瑠璃ちゃんが傍に戻れば、きっと兄さんも安心して、自力で何とかしようとするだろうから。問題ないっスね」
アッサリとロウレスはそう結論を出すと。
「あとIDも返しとくっスね。助かったっスよ! これのおかげで姉さんの牢までスムーズに行けたっス」
軽快な口調でイズナに礼を述べてIDを差し出したのだが。
しかしその後に、気まずそうに眉根を寄せると―――――
「でも、その・・・結構ヤベーとこまでこのIDで入っちゃったと思うんスけど・・・」
履歴とか残るっスよね・・・と口ごもりながらロウレスが告げたその事柄に。
イズナは顔色一つ変えることなく、端末を操作する手も止めぬまま。
「いいよそんなの! 真昼くんを信じて預けたんだし。どんな形でも役にたってよかった!」
清々しい口調でそう言ったイズナの言葉に憤怒の下位二人はは呆然と目を瞠り。
「なるほどなァ・・・」と漏らしたジルがレイと視線を交わし合いながら笑みを浮かべて。
「それなら嬢ちゃんも憤怒の姐御を助け出してくれた一人ってわけだなアァ!? なあ、レイ!」
「そうだね、ジル。レディの機転に感謝&感謝だ」
イズナの左右に二人は並んで立つと。
「!」
イズナは一瞬、驚いた様子で動きを止めたものの。
「そんじゃ、さっさと姐御とあのデコッパチつれて嬢ちゃんの心配してるロキクンとやらを助けにいこうぜェ!」
ジルの口から飛び出した立案を聞くと、満面の笑みを浮かべて。
「うん! ありがとう・・・! じゃあこっちの階段から・・・」
検索によって、当たりを付けたルートをイズナが指し示そうとした刹那―――――
「・・・待て」
リヒトが左腕を上げてそれを制したのだ。
「何? リヒ・・・」
その行動に、ロウレスが戸惑いの声を漏らすと。
「何か、音がする」
リヒトは鋭い眼差しで角の通路を見据えて。
「え・・・?」
ロウレスもまたそちらを見遣ると。
「何か来る」
リヒトがそう言い放った直後―――――
ずるっ・・・ずっ・・・ずる・・・と何かを引きずる音と共に姿を見せたのは、銜え煙草に、独特の格子模様が施されたストールを肩から掛けた大男―――――C3の副支部長である塔間だった。
「おいおい。ガキの遊び場じゃあないんだがな・・・」
塔間は右手をズボンのポケットに突っ込みながら、反対の左手だけで意識のない吊戯の身体を上着の端を掴んだ状態で持っていて。
「副支部長・・・!?」
目を眇めつつ、皮肉めいた言葉を漏らした塔間に対して、イズナが驚きの声を上げると。
「早く避難しなさい。言っただろう。私と吊戯で片付けると」
塔間は淡々とした口調でそう告げてきて。
「・・・あ! 狼谷吊戯!?」
そこで塔間が引き摺ってきた存在が『誰』であるのか。認識したロウレスもまた、目を瞠りながら名前を口にすると。
「あ!? 憤怒の姐御はどうしたアァ!? そいつと一緒にいたはずじゃ・・・・・・」
ジルも塔間に向かって噛みつくように叫ぶ。
「さっきはうちの犬がずいぶん可愛がってもらった」
すると塔間はチラリと吊戯を一瞥した後に、睥睨するようにジルとレイを見据えて。
「お礼をしないとな」
そう宣言するのと同時に、左手で掴んでいた吊戯の上着から無造作に手を離すと。
意識がないままの吊戯の身体はドサと地面に落下してしまうも、塔間は一切気にする素振りすら見せることなく。掲げた右手の中に、ズと漆黒の拳銃を具現化させる。
しかし、その銃口がジルとレイに突き付けられるよりも前に、
「待ってください!! 彼らとは話し合いで和解できます」
イズナが我が身を盾にするように、バッと塔間の前に立ち塞がったのだ。
「攻撃する必要は・・・」塔間に対してイズナは必死に訴えかけようとした。
しかし塔間はそんなイズナの様を冷ややかな眼差しで一瞥した後に、
「一度、忠告はしたぞ」
「えっ?」
呆然となったイズナ目掛けて、ヒュと銃身を振り翳して殴りつけようとしたのだ。
―――――パン
その時、イズナの窮地に動いたのがジルとレイだった。
跳躍したジルが塔間の右腕を左脚で勢いよく蹴り上げるのと同時に、イズナの傍に駆け寄ったレイが右手を掲げて防御の態勢を取りつつ、左腕でしっかりとイズナの身体を抱き寄せながら後方に下がると。
「おいおい正気かアア!? 仲間の女に手ェ上げるなんて吸血鬼よりよっぽど外道だぜエェ!? なあレイ!!」
「そうだねジル。オレはこういう男が一番嫌いだ」
血の気の引いた顔で固まってしまったイズナに代わって、凶行に及ぼうとした塔間に向かって非難の言葉を口にした相方に同意する意を示して見せた後に。
「レディ、下がって」
イズナを腕の中から離したレイが相方と共に臨戦態勢に入るべく、トッと一歩前に出ると。
「だめ! 戦っちゃ・・・」
襲撃をされかけたのにも拘らず、戦闘を阻止せんとイズナが制止の声を上げかけたのだが。冷然とした眼差しで銃を構えた塔間がレイ目掛けて狙撃したのだ。
「レイ!!」
「大丈夫だ、ジル。少しかすっただけ」
ドンという大きな発砲音が響き渡ったものの、それはレイの腕に致命傷を与えるほどのものではないかに思われた。
しかし、次の瞬間―――――ザラッと掠り傷を負ったそこから灰塵が放出されたのだ。
「―――――えっ?」
瑠璃が応急処置をした際に用いた、レイの右掌に巻いた白いハンカチとジルのストールがパサと下に向かって落ちていく。呆然と声を漏らしたレイが己の右腕に視線を向けると手首から先もまた消失し始めていて。
「下位吸血鬼が相手ならかすっただけで十分だ」
「レイ!!?」
「・・・な・・・ッ」
ニヤリと塔間が嘲笑った中、起った不測の事態に、憤怒の下位二人が愕然となった中。
「腕を切り落として!!」
蒼白な面持ちになったイズナの悲鳴交じりの叫び声が響き渡る。
「!?」
その叫びにジルは意味が解らないという眼差しを向けるも、
「早く!!」
必死の形相で声を張り上げたイズナの様子から、最早一刻を争う事態だと判断し。
「・・・すまねぇ、相棒」
苦渋の色を滲ませながらレイに向かって謝罪の言葉を口にするのと同時に、ドッと水撃を用いて彼の右腕を切り落としたのだ。
そうしてドッと地面に落下したレイの右腕は、その次の瞬間にはザァッと灰になって完全に消失していて。
それを見てジルが絶句した中、
「下がって!! 早く隠れるんスよ!!」
盾になるように一歩前に出たロウレスが叫ぶ。
「レイ! つかまれ!」
そうしてジルがレイの背中に右腕を伸ばしながら負傷したその身体を支えて、レイがジルの首に左手を回した態勢となったところで、イズナと共に後方に向かって退避していくと。
「致命傷じゃなくても、かすれば灰にされちまうなんて兵器の進歩は怖いっスねぇ」
薄っすらと冷や汗を浮かべたロウレスが気を落ち着けようとするように、ふ―――――・・・と深い息を吐き出し漏らしたその言葉に。
「開発班にいいエースが入ったからな」
その兵器を使用した当事者である塔間が平然とした態度で、人差し指と中指の間に挟んだ煙草から紫煙を燻らせつつ応じてくる。
そこでロウレスは一旦塔間から視線を外して背を向けると。
「ま・・・でも、真祖も殺せるなら死にたがりの誰かさんがほっとく訳ないし。オレは死なないっしょ」
平常心を取り戻すべく、そう独り言ちた後に。主人であるリヒトを見遣ると。
「・・・ってアレ? リヒたんのブーツ・・・」
「おい。どういうことだ、片方しか出ねぇ」
眉を顰めながらリヒトもロウレスに目を向けてきて。
「だから・・・オレ今、弱ネズミちゃんで・・・」
武器が常の状態で発動しない理由は、ロウレスの身体から〝灰塵〟が抜けてしまったことにより生じたものだ。
その影響によりロウレスの発言もまた、自己肯定感低めのものとなってしまったのだが―――――主人であるリヒトがそれを許す訳はなく。
しっかりしやがれバカネズミ! とどやしつけられるのと同時にげしっと蹴りを食らうこととなったロウレスがいてっと呻きつつ、いや片方出せただけでもすごくないスか?!と声を上げた処で。
「しかし、理解しがたいな。どいつもこいつも吊戯が好きすぎないか?」
一服し終えた塔間がそんな台詞を口にすると。
「いや? オレはどっちかっつーと。っていうか明らかに好きじゃないっスけど。でもねぇ、大切な人ならいわば助けて当たり前!」
リヒトのおかげで調子を取り戻したロウレスが言下に両手を左右に掲げながら、肩をすくめる仕草をしつつそう答えた後に。
「助けなくてもいい奴まで助けるからヒーローってのはカッコイイんスよね! そして何より―――――〝大切な彼女〟の願いを叶えるのもヒーローの役目っスからね!!」
リヒトと並んで臨戦態勢に入ると、ニヤリと笑みを浮かべながらそう宣言したのだ。
そうして強欲組が塔間との戦闘を開始したその時―――――。
通路を曲がった処で、瀕死の状態に陥ってしまったレイの身体をジルは壁に凭れさせる形で座らせると。
「レイ! 大丈夫か、レイ・・・」
必死に相棒に向かって呼び掛けながら、止むを得ない事態だったとはいえ、自らの手で相棒に深手を負わせたという事実に対して「くそ・・・」と苛立ちと悔恨の混じった声で呻くと。
血が滴り続ける右半身を左手で押さえながら、微かに苦悶の声を漏らしつつ、レイが口にしたのは弱音ではなく。
「大丈夫だ、ジル・・・落ち着いて」相方を気遣う言葉だった。
「だってよオォ、腕が・・・くそ、もう戻らねぇのかよォ!?」
「いいんだ・・・片腕で済んでよかった・・・っ」
やりきれないという面持ちになったジルに、レイはさらに己の心中を打ち明ける。
「ぞっとするよ。あのまま全身が崩れてなくなってたかと思うと」
そこで漸く相棒の想いを汲み取ったことにより、緊張の糸が切れた状態になったジルは徐に目線を悲愴感に満ちた面持ちで自分達の前に座り込んでいたイズナに向けると。
「そうだ。嬢ちゃんのおかげだな・・・助かったぜ。ありがとなァ」
「・・・やめて、私・・・っ」
ジルは感謝の言葉を口にしたのだが、しかしイズナは憂苦を滲ませた為。
「さすがC3の一員だよ。武器の特性をよく知って・・・」
すかさずレイが賛辞の言葉を述べようとしたのだが―――――。
「やめて・・・違うの。あの武器は
苦悩に満ちた面持ちになったイズナの口から告げられた真実に思わず絶句してしまう。
「・・・知らなかった。こんなふうに使われてるって。威嚇に使うだけだって聞いてて。知らなかったの。実感がなかった。実際に誰かを・・・ころすってこと。私・・・こんなことになるなんて」
自責の念に囚われたイズナは譫言のように、自らの胸の内を吐露する。
と―――――
その刹那、無意識下の中でイズナの中に浮かんできたのは―――――
―――――吊戯さん、その仕事に行くのはやめて下さい!!―――――
武器の『試作品テスト』に怠惰の真祖と主人である真昼と共に参戦した瑠璃が『最終テスト』に赴こうとした吊戯に対して口にした台詞で。
「・・・・・・うそ。ほんとうに知らなかった? わたし・・・」
そこで茫然自失状態に陥ったイズナに対して―――――
「・・・・・・嬢ちゃん。本当に一度も考えたことなかったのかい」
さらにジルが絞り出すような声音で、その言葉を投げかけてきて。
―――――その服を着てる〝キミ達〟に怒る権利ないよ?―――――
刹那、イズナが思い出したのは吊戯から真昼とともにそんなふうに言い返された瑠璃の様子を目にした時。思わず自分は視線を俯けてしまっていたのだというその事実で。
―――――あの時、私は〝ミストレス〟である瑠璃ちゃんに対して、本当は〝負い目〟を抱いていたんだ・・・・・・。
―――――本当はテスト対象となった下位が最後はどうなるのか、データで解っていたはずなのに・・・・・・。
気付かなかったふりをしてしまっていた、その感情と真実にイズナが思い至ってしまったその時。
―――――ドガッという激しい衝撃音が響き渡った。
それは塔間と決死の戦いを繰り広げていた強欲組が敗れ去った刹那に轟いたもので。
ロウレスは塔間が左手に携えた鎖に身体の自由を奪われて壁に叩き付けられ。
リヒトは米神から血を流しながら、地に膝を突く体制になってしまっていた。
そうしてズ・・・と壁に倒れ込んでしまったロウレスを塔間は冷めた眼差しで見下ろしながら、ギッと鎖の拘束を強めた上で反対の右手に漆黒の銃を具現化させると。
「真祖相手だと一発で楽にしてやれなくて申し訳ないな」
塔間の手の中にある銃は先程、憤怒の下位であるレイの右腕を灰にしてしまったものだ。
真祖は不死であると言われているが、灰塵が抜けてしまったロウレスの身体は果たしてどこまで耐えられるものなのか。
「くっそ・・・」
ロウレスが口の端から血を流しながら塔間を睨みつける。
「・・・ッ」
そこでリヒトがロウレスを救済すべく、残された力を振り絞って、唯一使用する事ができる武器である右脚のブーツで、塔間に対して攻撃を仕掛けようとした、その刹那のことだった。
「!」
バキン! という衝撃音が鳴り響くのと同時に勢いよくロウレスの身体を拘束していた鎖が中央部分から切断されて。
「あ・・・・・・」
呆然と目を見開いたロウレスに次いでハッとした面持ちになったリヒトが左手に目を向けていく。
そして凄然とした雰囲気を纏わりつかせながら塔間もまたそちらを見遣ると。
「・・・なんだ。珍しい組み合わせだな」
ジャケットの裾を鉤爪に変化させた状態で、ザッとそれを翻したクロと右手に銃を構えた弓景の姿が在り。
どうやら二人が連携して攻撃を繰り出したことにより、ロウレスを拘束していた鎖の切断に成功したようだった。
「兄さん!!」
ロウレスがクロに向かって叫ぶ。
と―――――
「
弓景が射るような眼差しで塔間を見据えながら言い返す。
そんな中、体力の限界を迎えて座り込んでしまったリヒトの傍に戻ったロウレスが、
「遅いっスよ!! 兄さんはいっつも、いっつも!!」
クロに対して猛抗議するかのように叫び声を上げて。
「あ―――――・・・わかった。わかったから。とりあえず天使ちゃんつれて下がっとけ」
弟からの厳しいツッコミにクロが顔を顰めつつそう答えると。
「言われなくてもそうするっス!!」
倒れ込みそうになったリヒトの身体を、あっぶね―――――!! と背中から両脇に手を指し入れて支えたロウレスはそのまま後ろに向かって後退していく。
「足止めにはなったぞ。お疲れさん」
「・・・ま。そんくらいはね!」
―――――けど、兄さんからだけじゃなく。あとで瑠璃ちゃんからも優しく労って貰えたらもっと嬉しいんスけどね。
そうしてそんな事を心中で考えつつ戦闘に巻き込まれないよう、ロウレスがリヒトと共に憤怒の下位達が退避した側まで移動を完了した処で。
チラリと弓景が座り込んだままでいたイズナの方に目を向けると。
「修平の居場所。テメエの班の連中が見つけてくれたぜ。第三指令室のほうだ」
「!」
目を見開いて反応したイズナに弓景は告げる。
「眼帯の吸血鬼と戦闘になってるらしい。早くそっちに行け。テメエが適任だろ。
しかし、イズナは蒼白な面持ちのまま、自身の鼓動がさらに激しくなるのを感じていた。
それは自らの中に渦巻く、自責の念によるもので。
「・・・・・・でも。もうわたし・・・・・・」
声を震わせたイズナは身を縮こませるように、右手で自身の左腕を掴む。
そんなイズナに対して弓景は振り返ることなく。
「吊戯なら大丈夫だ。塔間とまとめてぶん殴る。脱獄した
―――――ただ言い聞かせるように言った。
「それかテメエだけでも非難しろ。巻き込まれて死ぬぞ」
―――――
その言葉にイズナの意識は大きく揺さぶられて。
―――――ちがう。もう私は―――――
気づかぬ振りをしていた、〝第三者〟ではない。
憂苦を滲ませながら顔を上げたイズナにジルが背後から「・・・・・・嬢ちゃん」と呼び掛けてくる。
そして―――――
「頼む。
憂慮に満ちた声音でそう嘆願してきて。
さらにジルに続いてレイも―――――
「姐さんは強いからね・・・。きっと君の力になるはずだ」
後押しをするようにその言葉を紡ぎ出して。
「もう嬢ちゃんにしか頼めねぇ・・・っ」
「どうか・・・っ、その後悔の前に手を貸してほしいんだ・・・」
憎しみではなく、心からの願いとして憤怒の下位である彼らが紡ぎ出したその言葉に。
「・・・・・・っ」
込み上げてきた涙をぐっと左手の甲でイズナは拭う。
と―――――
―――――教えてくれてありがとう、イズナちゃん。私は瑪瑙瑠璃です。よろしくね―――――
瑠璃から名前を聞かれて答えた時。ふんわりと柔らかな微笑を浮かべた瑠璃の姿が思い出されて。
自身の中に渦巻く、後悔という名の感情と、贖罪。
それらときちんと向き合う為に―――――。
立ち上がったイズナはその場から、踵を返すと走り出したのだ。
そしてその姿を憤怒の下位二人が見送った時―――――。
「・・・〝怠惰〟の。こんなところでのんびりしていていいのか?」
僅かな時間を持て余すように、煙草に火をつけた塔間が、しかし紫煙を吐き出すことなく。
チラリとクロに目を向けた後に、それを床に投げ捨てて、靴先でジュと踏み消すと。
「城田真昼くんと〝ミストレス〟のお嬢さんなら、さっき会って俺が殺したが?」
「・・・・・・――――――」
冷然とした微笑みを浮かべた塔間が口にしたその台詞にクロの顔は、一瞬、凍り付いたものとなる。
そして塔間の台詞に、「な・・・・・・・っ」ロウレスもまた愕然とした面持ちになっていたのだが。
「・・・・・・ロウレス」
「えっ」
クロから名前を呼ばれたロウレスはびくりと身体を震わせながら目線を向ける。
と―――――
「オレの名前を呼べ」
告げられたその言葉に「え・・・?」と目を見開きつつ。
「スリーピーアッシュ・・・?」
〝怠惰〟の真祖の〝通り名〟を口にしたのだが。
「違う。
長兄は目を閉じながら、それを否定してきて―――――。
「あ・・・・・・」
長兄の真意に気づいたロウレスは自らの内に渦巻く、怯えの感情をごく・・・と沈黙と共に呑み込む仕草をすると。
「〝クロ〟」
その〝名前〟を、声を震わせながら、紡ぎ出した。
刹那―――――
チリンと首元に在る契約の証の鈴がそれに応えるように揺れて。
―――――『クロ』―――――
さらに意識の中に己の相棒である〝主人〟と、唯一人の想い人である〝ミストレス〟の声がハッキリと聴こえてきて。
―――――真昼―――――
―――――瑠璃―――――
しっかりと二人の存在を感知したクロは心中でそれぞれの名前を呼んだ後に。
ゆっくりと目を開けると、真っ直ぐに塔間を見据えて。
「真昼も瑠璃も死んでねぇ。あいつらは必ずここに来る」
―――――そう宣言したのだ。
そんなクロの様を冷めた眼差しで塔間は見遣りながら、さらに火をつけた煙草の紫煙を今度は燻らせつつ。
「そうだな。あのお嬢さんは本当に見た目と違って。いや、〝ミストレス〟というその呼び名に相応しい猛々しい性格だったからな」
目を眇めながらそう呟くと。気を失ったまま床に転がった状態になっていた吊戯に視線を滑らせて。
「起きろ、吊戯」
そう呼びかけながら、ゴッと右脚で頭部を踏みつける仕草をすると。
「う・・・?」
ぼんやりと吊戯が意識を取り戻して。
「お友達が迎えに来てくれたぞ。だから〝ミストレス〟のお嬢さんが到着する前に、彼らにはお前が代わりに最後のお別れをしないとな」
その様を確認した塔間は煙草をまた床に投げ捨ててジリッと踏み潰す仕草をすると。
右手に銃を具現化させた処で、そんな台詞を口にしたのだ。
【本館/23・7/31/別館/23・7/31掲載】
