第一章『誓約と契約』
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刹那、閃光と共に、スリーピーアッシュの首の付け根には鎖が現れ、真昼の右腕にはそれと繋がった手錠が現れる。
「・・・お前らみてーな奴が一番めんどくせーんだ・・・」
瑠璃の腕の〝誓約の証〟も、二人のそれに呼応するように、紅い光を瞬かせた。
「でも、しょうがねー。お前が主人 だ―――――それに、瑠璃はオレの〝ミストレス〟だからな」
そう言って戦闘態勢になったスリーピーアッシュの両手からは、長く鋭い漆黒の鉤爪が伸びている。
「・・・困るなァ~~~~~契約しちゃったァ・・・。ああでも・・・へェ真祖は契約するとそうなるのかァ・・・」
少し離れた場所からこちらの様子を見ていた手品師が、物珍しそうな口調でそう言いながら、シルクハットからカードの束を取り出す。
それは、手品師の手の中から踊るように宙に向かって散らばると、ある文字を構成した。
SERVANT+VAMPIRE=SERVAMP
その意味は―――――
「下僕 の吸血鬼 、サーヴァンプ・・・」
「にゃぁ」とスリーピーアッシュがその呼び名に応えるように鳴く。
そのまま、対峙していた手品師と戦闘に入るかと思われたのだが―――――。
「あ―――だめだ・・・ちょっと構えたらもう腰が・・・」
やっぱ無理かもと、背を向けて腰を片手で押さえながら、スリーピーアッシュがこの場から離れようとした為、
「往生際が悪い!!」
すかさず真昼が鎖を掴んで引き止める。
「暴力は何も解決しないぞ。ほらオレ平和主義者だし」
「お前はただのめんどくさがりだ!!」
シリアスな雰囲気だったはずなのだが、何故こうなるのか。
「サーヴァンプ、主人 と鎖で繋がれている間しか力を発揮できない不便な真祖~~~~~。
しかも人間の言う事きかなきゃいけないとかめんどくさそ~」
二人のやり取りに、手品師が茶化すような口調で口を挟む。
するとスリーピーアッシュは、しれっとした態度で、真昼を指し示すと、
「いや・・・そこは案外悪くねーぞ。オレが何したって『こいつがやれっていいましたぁ』って言い訳できるしな。責任のない人生は最高だ」
〝怠惰〟らしい彼の言い分ではあるが、真昼は当然同調するはずはなく。
ふざけんなと握り拳を固めて、スリーピーアッシュを睨んでいたのである。
一方で、瑠璃は手品師の方に視線を向けると、
「ねぇ、手品師さん。どうして、同じ吸血鬼なのに、貴方は襲ってきたの?」
―――――ボク? ボクの話ききたいの??
そう首を傾げた手品師に、瑠璃が頷くと、
「ん~~~? ボクはお使いできたんだよォ」
軽く肩を竦めた後に、シルクハットから、手品師は糸のついた人形を取り出し、語りだす。
「吸血鬼はみんな7人の真祖 の誰かから作られてて、自分を作った真祖 に従うことになってる」
片一方には、主人である真昼の人形―――――そしてその人形が手にした鍵から伸びた鎖に繋がれた怠惰の人形―――――その下に紅い糸で繋がった顔のない人形たち。
もう一方は、主人が不明の人形―――――そして、やはり顔が描かれていない真祖の人形―――――その先には同様に紅い糸で繋がれた人形たちの中に、手品師の人形が一体混ざっていた。
「ボクが従うサーヴァンプの名前は〝椿〟。〝椿〟は〝怠惰〟が大っ嫌い☆」
ふいに、手品師の纏う雰囲気がまた残虐者のものに変わる。
「さァここで問題です~。〝椿〟が〝怠惰〟を嫌いな理由は何でしょォか~?」
手にしていた人形をシルクハットの中に消して、そこから今度は幾本もの剣を取り出してくる。
「答えは30秒後ッ串刺しの後ッ★」
「―――――っ真昼君!?」
手品師が狙いを定めたのは、怠惰の主人である真昼だった。
咄嗟に瑠璃が真昼を庇うように抱き着くと、
「きゃあ!?」
「わあっ!?」
刹那、間一髪のところで、スリーピーアッシュが自身に繋がれた鎖を、ぐんっと引っ張って、己の方まで引き寄せたのだ。
しかし、勢い余ってしまい、そのまま真昼共々、壁に激突してしまうかと思われたのだが、
「大丈夫だったか、瑠璃?」
気付けば瑠璃は、スリーピーアッシュの片腕に抱かれる形になっており、
「クロ!!」
真昼も、反対の腕に受け止められる状態になったおかげで激突は免れていたのだ。
「えぇ、有り難う。スリーピーアッシュ」
瑠璃はほっとした表情で笑みを浮かべる。
「なんか俺の扱いだけひどくねーか?」
逆さの状態で助けられていた真昼が、ジトっとスリーピーアッシュを見遣ると、
「めんどくせー、自分で避けろ。お前は飛べ」
は―――――と深々と溜息を吐き言われた言葉に、「飛べるかっ、俺は人間だっ」と真昼は抗議の声を上げると、今度は地面に着地したところで、腕の支えを失い、そのまま背中から落ちて頭を地面に打ち付けてしまう。
「あいてっ」
「だっ大丈夫? ・・・真昼君!!」
一方、変わらずスリーピーアッシュの腕に抱かれたままだった瑠璃は、きちんと地面に足を着けた所で降ろされた為に、当然無傷だったのだが―――――。
コブになっていないかの確認の為に、瑠璃が真昼の頭に手を添えると、僅かに面白くなさそうに眉を顰めたスリーピーアッシュが、「めんどくせーことになったな・・・」と呟き、
「・・・どーすんだ? やっぱ逃げたほうがいいんじゃ・・・」
その言葉に対して、真昼の脳裏に過ったのは先程、龍征が襲われた時の光景だった。
傍らに立っていた瑠璃は、真昼の頭から手を離すと、スリーピーアッシュと繋がった鎖の手錠にそっと手を添える。
―――――真昼が戦うつもりなのならば、自分も一緒だという気持ちが伝わるように。
真昼は瑠璃の方を見ると、それに応えるように、覚悟を決めた表情で頷き、
「・・・倒すよ!」
真っ直ぐと前を見据えるとそう宣言したのだ。
するとスリーピーアッシュは、は―――――・・・と深い溜息を吐き出し、
「・・・少年マンガの読みすぎだな・・・向き合いたくね―――――・・・」
呆れたようにそう呟き。
すうと視線を落とすと、両腕を交差させたスリーピーアッシュの体から漆黒の闘気が迸る―――――それは真昼や瑠璃だけでなく、手品師までも圧倒してしまうほどで。
「さっき・・・言ったよな・・・今からオレが何をしようが、オレに責任はねぇ」
そう宣言した刹那、瞬く間に距離を詰めてきたスリーピーアッシュに、漆黒の鉤爪で手品師は身体を切り裂かれてしまったのだ。
手品師の体からは、大量の鮮血が迸り、それは真昼と瑠璃にも雨のように降り注ぐ。
そのあまりにも残虐な光景に、二人は茫然となってしまう。
けれど、虫の息となり倒れ込んだ手品師の髪をスリーピーアッシュが掴み、容赦なく引き摺りあげたのを見た瞬間。
「クロ!! もういい・・・っ。もういいよ!!そいつもう動けない・・・し」
真昼が制止の声を上げたのだが、こちらを一瞥したスリーピーアッシュの瞳は、少し前までの彼とはまるで別人のように、冷酷なもので。
ぞくと体の芯まで震えが走るような殺気に、真昼の顔が蒼白なものになる。
瑠璃もまた、同様にそれに飲まれかけていたが、手品師の喉元にスリーピーアッシュが牙を突き立てようとしているのを見た刹那―――――
「―――――っ駄目!!」
スリーピーアッシュの体に抱き着き、彼の口元に自身の左腕を差し出していた。
ズブリと突き刺さった容赦のない牙の感触は、初めて彼に噛まれた時とは比べ物にならない痛みを感じたが、それでも瑠璃は悲鳴を上げる事は無く、グッと奥歯を噛みしめてそれを堪える。
「―――――・・・・っく」
「・・・瑠璃姉!?」
その光景を見て、我に返った真昼が、スリーピーアッシュの首に繋がる鎖を引っ張ると、その反動で繋がれた首が反り返って、瑠璃の腕に刺さっていた牙も離れていく。
「お前・・・全部オレに責任負わせるって言ったよな。じゃあ言うこときけよ・・・っ」
ギリと鎖を握りしめ、真昼がスリーピーアッシュを睨みつける。
すると、スリーピーアッシュが手の力を緩めたため、手品師の体はずるっとそのまま滑り落ちて地面に落下してしまう。
「・・・―――――瑠璃・・・?」
口の中に広がる覚えのある血の味に、呆然とこちらを見てきたスリーピーアッシュに、瑠璃は頷く。
「・・・うん。良かった元に戻ったみたいで」
次いで、足元から意識を取り戻したらしい手品師のチッと言う舌打ちが微かに聞こえてきて、
「・・・くそがァ!! くそが、くそが、くそがァァ!! お客様この列車の行き先はご存知ですかァ!? 楽しい楽しい地獄行き。吸血鬼 ★夜行 !! 暴走特急、途中下車不可の旅だ、クソガキがァ!!」
絶叫しながらそう叫ぶと、がはっと血反吐を吐いてしまう。
「・・・今日のショーはここまでッ」
それから、ごほっとまた血反吐をさらに吐くと、最後の力を振り絞るように締めの言葉を言ってシルクハットを自身の頭にかぶせると―――――煙と共に手品師の姿は消え、変わりにそこには小さな手品師のぬいぐるみが転がっていたのだ。
「な・・・!?」
それを見た真昼は絶句し、呆然とそのぬいぐるみを見つめる。
「・・・ずいぶんと可愛らしい姿に変わったわね」
そっと、瑠璃がぬいぐるみを抱き上げると、
「死んだ・・・の・・・?」
真昼が恐る恐るぬいぐるみの顔を覗き込む。
「あはははははァッ。死なないよォ、吸血鬼だもん!!」
途端、笑い声を上げ、しゃべったぬいぐるみに、驚いた真昼はびくっと体を震わせてしまう。
バーカ、バーカ、と小馬鹿にするように笑い続けるぬいぐるみを黙らせたのは、スリーピーアッシュだった。
「おらCM明けだぞ。クイズの答えは」
漆黒の鉤爪がぬいぐるみのシルクハットを突き刺して、瑠璃の腕の中から取り上げたぬいぐるみを、ぶらぶらと空中で揺らす。
「あァ~~~やめてよォ。ゆらさないでよォ」
帽子取れちゃうよォ~とぬいぐるみは悲鳴を上げると、
「椿がキミを嫌う理由はァ・・・もォわかってるでしょォ? キミがこのクイズに答えられないってことが答えだよォ?」
「・・・・・・?」
スリーピーアッシュは聞かされた答えに眉を顰める。
「そもそもオレは〝椿〟なんて知らねー・・・」
「そう。キミは〝椿〟を『知らない』んだ」
ぬいぐるみはそれを肯定し、言葉を続ける。
「かわいそうな椿。かわいそうな椿。だァれも椿を知らないの~。だから椿は殺したがってる。兄弟も人間も社会も世界も、椿を知らない全部は死んじゃえ★」
「知らねーもんは知らねーよ。めんどくせー・・・」
スリーピーアッシュが顔を顰め、ぬいぐるみを睨むと、突如バシャッという音が響き渡った。
それは真昼と繋がっていた鎖が消滅した音で、「わっ!?」と真昼はその反動で地面に尻餅をついてしまう。
「鎖が・・・消えたのね」
ドキドキと瞬間的に早まった鼓動を鎮めるために、瑠璃が胸に手を当てて息を吐くと。
「おいクロ! 大丈夫―――――・・・」
ふと、上がった真昼の声に視線を前方に向けると、地面には手品師のぬいぐるみが転がっており、その少し離れた場所にはうつ伏せになるスリーピーアッシュの姿が在ったのだ。
「―――――スリーピーアッシュ!!」
慌てて瑠璃が駆けよると、
「大丈夫じゃね―――――・・・。あ―――――明日絶対筋肉痛だー・・・めんどくせー・・・」
ぐだ・・・としながら、ぷるぷると体を震わせて、スリーピーアッシュはそう答えたのだ。
それから黒猫の姿に変わってしまう。
「筋肉痛とかあんのかよ・・・」
それを見た真昼が呆れたような顔をしながら、しっかりしろ吸血鬼と呟き。
・・・良かった元のクロに戻っ・・・て・・・・・。
ホッとした表情を浮かべ、内心で安堵の息を吐いた。
その刹那―――――
―――――あれ? えっ? おい何だよ。次から次へ。誰かシンプルに説明してくれよ―――――・・・。
急激に真昼の意識は遠のいていったのだ。
「―――――じゃあ、とりあえず私が運ぶわね」
そしてクスッと笑いを零し、手を差しだした瑠璃もまた、
<―――――それはこちらに任せて下さって大丈夫ですよ―――――>
ひらひらと一匹の蝶が目の前を過ると、聴こえてきた声を耳にした途端、
・・・だれ・・・?
意識を失ってしまったのだ。
<後書き>
長らく休止しておりましたが、昨年の秋にハマってしまった「SERVAMP」の夢が、読むだけではなく、自分でも書きたい!と思いが溢れてしまった為。その年の11月頃からせっせと書き進めて参りました夢がようやく形になったので、本日こうしてお目見えさせて頂きました。
仕事の合間に書いているものなので、こちらもまた・・・不定期・・・となりますが、もし宜しければ気長にお付き合い頂けましたら幸いです。
(余談ですが、先日イベントに参加した際に遭遇した主要キャラの等身大パネル勢揃いを見た際は、テンションがさらに上がりました。
新プロジェクトも楽しみです)
朱臣 繭子 拝
【本館/17・2/19掲載/別館/17・2/21転記】
「・・・お前らみてーな奴が一番めんどくせーんだ・・・」
瑠璃の腕の〝誓約の証〟も、二人のそれに呼応するように、紅い光を瞬かせた。
「でも、しょうがねー。お前が
そう言って戦闘態勢になったスリーピーアッシュの両手からは、長く鋭い漆黒の鉤爪が伸びている。
「・・・困るなァ~~~~~契約しちゃったァ・・・。ああでも・・・へェ真祖は契約するとそうなるのかァ・・・」
少し離れた場所からこちらの様子を見ていた手品師が、物珍しそうな口調でそう言いながら、シルクハットからカードの束を取り出す。
それは、手品師の手の中から踊るように宙に向かって散らばると、ある文字を構成した。
SERVANT+VAMPIRE=SERVAMP
その意味は―――――
「
「にゃぁ」とスリーピーアッシュがその呼び名に応えるように鳴く。
そのまま、対峙していた手品師と戦闘に入るかと思われたのだが―――――。
「あ―――だめだ・・・ちょっと構えたらもう腰が・・・」
やっぱ無理かもと、背を向けて腰を片手で押さえながら、スリーピーアッシュがこの場から離れようとした為、
「往生際が悪い!!」
すかさず真昼が鎖を掴んで引き止める。
「暴力は何も解決しないぞ。ほらオレ平和主義者だし」
「お前はただのめんどくさがりだ!!」
シリアスな雰囲気だったはずなのだが、何故こうなるのか。
「サーヴァンプ、
しかも人間の言う事きかなきゃいけないとかめんどくさそ~」
二人のやり取りに、手品師が茶化すような口調で口を挟む。
するとスリーピーアッシュは、しれっとした態度で、真昼を指し示すと、
「いや・・・そこは案外悪くねーぞ。オレが何したって『こいつがやれっていいましたぁ』って言い訳できるしな。責任のない人生は最高だ」
〝怠惰〟らしい彼の言い分ではあるが、真昼は当然同調するはずはなく。
ふざけんなと握り拳を固めて、スリーピーアッシュを睨んでいたのである。
一方で、瑠璃は手品師の方に視線を向けると、
「ねぇ、手品師さん。どうして、同じ吸血鬼なのに、貴方は襲ってきたの?」
―――――ボク? ボクの話ききたいの??
そう首を傾げた手品師に、瑠璃が頷くと、
「ん~~~? ボクはお使いできたんだよォ」
軽く肩を竦めた後に、シルクハットから、手品師は糸のついた人形を取り出し、語りだす。
「吸血鬼はみんな7人の
片一方には、主人である真昼の人形―――――そしてその人形が手にした鍵から伸びた鎖に繋がれた怠惰の人形―――――その下に紅い糸で繋がった顔のない人形たち。
もう一方は、主人が不明の人形―――――そして、やはり顔が描かれていない真祖の人形―――――その先には同様に紅い糸で繋がれた人形たちの中に、手品師の人形が一体混ざっていた。
「ボクが従うサーヴァンプの名前は〝椿〟。〝椿〟は〝怠惰〟が大っ嫌い☆」
ふいに、手品師の纏う雰囲気がまた残虐者のものに変わる。
「さァここで問題です~。〝椿〟が〝怠惰〟を嫌いな理由は何でしょォか~?」
手にしていた人形をシルクハットの中に消して、そこから今度は幾本もの剣を取り出してくる。
「答えは30秒後ッ串刺しの後ッ★」
「―――――っ真昼君!?」
手品師が狙いを定めたのは、怠惰の主人である真昼だった。
咄嗟に瑠璃が真昼を庇うように抱き着くと、
「きゃあ!?」
「わあっ!?」
刹那、間一髪のところで、スリーピーアッシュが自身に繋がれた鎖を、ぐんっと引っ張って、己の方まで引き寄せたのだ。
しかし、勢い余ってしまい、そのまま真昼共々、壁に激突してしまうかと思われたのだが、
「大丈夫だったか、瑠璃?」
気付けば瑠璃は、スリーピーアッシュの片腕に抱かれる形になっており、
「クロ!!」
真昼も、反対の腕に受け止められる状態になったおかげで激突は免れていたのだ。
「えぇ、有り難う。スリーピーアッシュ」
瑠璃はほっとした表情で笑みを浮かべる。
「なんか俺の扱いだけひどくねーか?」
逆さの状態で助けられていた真昼が、ジトっとスリーピーアッシュを見遣ると、
「めんどくせー、自分で避けろ。お前は飛べ」
は―――――と深々と溜息を吐き言われた言葉に、「飛べるかっ、俺は人間だっ」と真昼は抗議の声を上げると、今度は地面に着地したところで、腕の支えを失い、そのまま背中から落ちて頭を地面に打ち付けてしまう。
「あいてっ」
「だっ大丈夫? ・・・真昼君!!」
一方、変わらずスリーピーアッシュの腕に抱かれたままだった瑠璃は、きちんと地面に足を着けた所で降ろされた為に、当然無傷だったのだが―――――。
コブになっていないかの確認の為に、瑠璃が真昼の頭に手を添えると、僅かに面白くなさそうに眉を顰めたスリーピーアッシュが、「めんどくせーことになったな・・・」と呟き、
「・・・どーすんだ? やっぱ逃げたほうがいいんじゃ・・・」
その言葉に対して、真昼の脳裏に過ったのは先程、龍征が襲われた時の光景だった。
傍らに立っていた瑠璃は、真昼の頭から手を離すと、スリーピーアッシュと繋がった鎖の手錠にそっと手を添える。
―――――真昼が戦うつもりなのならば、自分も一緒だという気持ちが伝わるように。
真昼は瑠璃の方を見ると、それに応えるように、覚悟を決めた表情で頷き、
「・・・倒すよ!」
真っ直ぐと前を見据えるとそう宣言したのだ。
するとスリーピーアッシュは、は―――――・・・と深い溜息を吐き出し、
「・・・少年マンガの読みすぎだな・・・向き合いたくね―――――・・・」
呆れたようにそう呟き。
すうと視線を落とすと、両腕を交差させたスリーピーアッシュの体から漆黒の闘気が迸る―――――それは真昼や瑠璃だけでなく、手品師までも圧倒してしまうほどで。
「さっき・・・言ったよな・・・今からオレが何をしようが、オレに責任はねぇ」
そう宣言した刹那、瞬く間に距離を詰めてきたスリーピーアッシュに、漆黒の鉤爪で手品師は身体を切り裂かれてしまったのだ。
手品師の体からは、大量の鮮血が迸り、それは真昼と瑠璃にも雨のように降り注ぐ。
そのあまりにも残虐な光景に、二人は茫然となってしまう。
けれど、虫の息となり倒れ込んだ手品師の髪をスリーピーアッシュが掴み、容赦なく引き摺りあげたのを見た瞬間。
「クロ!! もういい・・・っ。もういいよ!!そいつもう動けない・・・し」
真昼が制止の声を上げたのだが、こちらを一瞥したスリーピーアッシュの瞳は、少し前までの彼とはまるで別人のように、冷酷なもので。
ぞくと体の芯まで震えが走るような殺気に、真昼の顔が蒼白なものになる。
瑠璃もまた、同様にそれに飲まれかけていたが、手品師の喉元にスリーピーアッシュが牙を突き立てようとしているのを見た刹那―――――
「―――――っ駄目!!」
スリーピーアッシュの体に抱き着き、彼の口元に自身の左腕を差し出していた。
ズブリと突き刺さった容赦のない牙の感触は、初めて彼に噛まれた時とは比べ物にならない痛みを感じたが、それでも瑠璃は悲鳴を上げる事は無く、グッと奥歯を噛みしめてそれを堪える。
「―――――・・・・っく」
「・・・瑠璃姉!?」
その光景を見て、我に返った真昼が、スリーピーアッシュの首に繋がる鎖を引っ張ると、その反動で繋がれた首が反り返って、瑠璃の腕に刺さっていた牙も離れていく。
「お前・・・全部オレに責任負わせるって言ったよな。じゃあ言うこときけよ・・・っ」
ギリと鎖を握りしめ、真昼がスリーピーアッシュを睨みつける。
すると、スリーピーアッシュが手の力を緩めたため、手品師の体はずるっとそのまま滑り落ちて地面に落下してしまう。
「・・・―――――瑠璃・・・?」
口の中に広がる覚えのある血の味に、呆然とこちらを見てきたスリーピーアッシュに、瑠璃は頷く。
「・・・うん。良かった元に戻ったみたいで」
次いで、足元から意識を取り戻したらしい手品師のチッと言う舌打ちが微かに聞こえてきて、
「・・・くそがァ!! くそが、くそが、くそがァァ!! お客様この列車の行き先はご存知ですかァ!? 楽しい楽しい地獄行き。
絶叫しながらそう叫ぶと、がはっと血反吐を吐いてしまう。
「・・・今日のショーはここまでッ」
それから、ごほっとまた血反吐をさらに吐くと、最後の力を振り絞るように締めの言葉を言ってシルクハットを自身の頭にかぶせると―――――煙と共に手品師の姿は消え、変わりにそこには小さな手品師のぬいぐるみが転がっていたのだ。
「な・・・!?」
それを見た真昼は絶句し、呆然とそのぬいぐるみを見つめる。
「・・・ずいぶんと可愛らしい姿に変わったわね」
そっと、瑠璃がぬいぐるみを抱き上げると、
「死んだ・・・の・・・?」
真昼が恐る恐るぬいぐるみの顔を覗き込む。
「あはははははァッ。死なないよォ、吸血鬼だもん!!」
途端、笑い声を上げ、しゃべったぬいぐるみに、驚いた真昼はびくっと体を震わせてしまう。
バーカ、バーカ、と小馬鹿にするように笑い続けるぬいぐるみを黙らせたのは、スリーピーアッシュだった。
「おらCM明けだぞ。クイズの答えは」
漆黒の鉤爪がぬいぐるみのシルクハットを突き刺して、瑠璃の腕の中から取り上げたぬいぐるみを、ぶらぶらと空中で揺らす。
「あァ~~~やめてよォ。ゆらさないでよォ」
帽子取れちゃうよォ~とぬいぐるみは悲鳴を上げると、
「椿がキミを嫌う理由はァ・・・もォわかってるでしょォ? キミがこのクイズに答えられないってことが答えだよォ?」
「・・・・・・?」
スリーピーアッシュは聞かされた答えに眉を顰める。
「そもそもオレは〝椿〟なんて知らねー・・・」
「そう。キミは〝椿〟を『知らない』んだ」
ぬいぐるみはそれを肯定し、言葉を続ける。
「かわいそうな椿。かわいそうな椿。だァれも椿を知らないの~。だから椿は殺したがってる。兄弟も人間も社会も世界も、椿を知らない全部は死んじゃえ★」
「知らねーもんは知らねーよ。めんどくせー・・・」
スリーピーアッシュが顔を顰め、ぬいぐるみを睨むと、突如バシャッという音が響き渡った。
それは真昼と繋がっていた鎖が消滅した音で、「わっ!?」と真昼はその反動で地面に尻餅をついてしまう。
「鎖が・・・消えたのね」
ドキドキと瞬間的に早まった鼓動を鎮めるために、瑠璃が胸に手を当てて息を吐くと。
「おいクロ! 大丈夫―――――・・・」
ふと、上がった真昼の声に視線を前方に向けると、地面には手品師のぬいぐるみが転がっており、その少し離れた場所にはうつ伏せになるスリーピーアッシュの姿が在ったのだ。
「―――――スリーピーアッシュ!!」
慌てて瑠璃が駆けよると、
「大丈夫じゃね―――――・・・。あ―――――明日絶対筋肉痛だー・・・めんどくせー・・・」
ぐだ・・・としながら、ぷるぷると体を震わせて、スリーピーアッシュはそう答えたのだ。
それから黒猫の姿に変わってしまう。
「筋肉痛とかあんのかよ・・・」
それを見た真昼が呆れたような顔をしながら、しっかりしろ吸血鬼と呟き。
・・・良かった元のクロに戻っ・・・て・・・・・。
ホッとした表情を浮かべ、内心で安堵の息を吐いた。
その刹那―――――
―――――あれ? えっ? おい何だよ。次から次へ。誰かシンプルに説明してくれよ―――――・・・。
急激に真昼の意識は遠のいていったのだ。
「―――――じゃあ、とりあえず私が運ぶわね」
そしてクスッと笑いを零し、手を差しだした瑠璃もまた、
<―――――それはこちらに任せて下さって大丈夫ですよ―――――>
ひらひらと一匹の蝶が目の前を過ると、聴こえてきた声を耳にした途端、
・・・だれ・・・?
意識を失ってしまったのだ。
<後書き>
長らく休止しておりましたが、昨年の秋にハマってしまった「SERVAMP」の夢が、読むだけではなく、自分でも書きたい!と思いが溢れてしまった為。その年の11月頃からせっせと書き進めて参りました夢がようやく形になったので、本日こうしてお目見えさせて頂きました。
仕事の合間に書いているものなので、こちらもまた・・・不定期・・・となりますが、もし宜しければ気長にお付き合い頂けましたら幸いです。
(余談ですが、先日イベントに参加した際に遭遇した主要キャラの等身大パネル勢揃いを見た際は、テンションがさらに上がりました。
新プロジェクトも楽しみです)
朱臣 繭子 拝
【本館/17・2/19掲載/別館/17・2/21転記】
