第二十五章『千辛万苦』
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ドド・・・ン。ガラガラガラと、支部の崩壊を知らしめる音が響き渡る。
クロとともに吊戯の魔法で拘束されていた真昼もまた、自由の身になった直後。
吊戯の身に何かあったのではないかと胸騒ぎを覚え、すぐさまロウレス達を追いかける形で移動を開始していた。
しかし途中でさらにズンズズ・・・という大きな横揺れが起こり。
「うわっ。何が起きてんだ!? さっきの一瞬の停電から・・・」
その衝撃によって落下してきた瓦礫を真昼が叫び声を上げながら間一髪の処で避けると。
「建物が・・・崩れ始めてんのか? もし瑠璃が〝力〟を使える状態にあったとしても、このままじゃデコちゃんどころか。この先にいるロウレスや天使ちゃん達もやべーかもしれねーぞ・・・」
周囲に視線を巡らせたクロが眉を顰めながらそう漏らして。
「・・・・・・っ」
その言葉によって、より強い焦燥感を覚えた真昼は固く右手を握り締めると。
「急ごう、クロ! それでも瑠璃姉なら絶対に諦めないで、俺達と合流しようとするはずだ!!」
そう言い切るのと同時に「下への階段はこの先のはず・・・」と足早に通路を進んで行った。
しかし―――――
目前まで辿り着いた処で愕然と立ち尽くしてしまう。
「な・・・ふ・・・ふさがってる・・・!?」
階段に通じる入り口は建物の崩落により積み重なってしまった瓦礫の壁に閉ざされてしまったのだ。
「・・・思ったより、やばそーだな・・・」
瓦礫の壁に手を添えながらクロは困惑の色を滲ませて呟く。
これじゃ・・・先に進むことが出来ないと、苦悶の面持ちになった真昼が、
「前みたいに床を抜いたりして行けないかな!?」
以前、C3に連れて来られた時に、武器を使って自ら出口を作って脱出した手段を利用することを提案するも。
「今どのくらい崩落が進んでるかわからねぇし、下手すりゃ自分ごと埋まって終わりだぞ」
クロはそれを淡々とした口調で却下したのだが。
「ここ・・・風が流れてるな」
瓦礫の状態を注視していた中で、ふと掌に空気の流れを感じ取り、そこを覗き込むと。
「っ!?」
真昼もまた、クロのその言葉に目を見開き、そちらを注視するように見つめる。
「隙間をぬっていけば抜けられるかもしんねー」
「え・・・!? でもそんなのどうやって・・・」
そしてクロが口にした手段に、真昼は当惑の面持ちになるも。
「オレなら通れる・・・」
ポフ・・・とクロが人型から黒猫の姿に変わったのを目にして、その手段があったかと呆然となった中。
「ずいぶん先まで崩れちまってんな・・・。様子を見て来る。お前はここで待ってろ」
瓦礫の隙間に前足を掛けながら、中を覗き込む仕草をしつつ、黒猫がそう告げてきて。
「で、でも・・・!」
それに対し、真昼は戸惑いの声を漏らすも。
「こんな状況だ。この瓦礫をどうにかできそうなら二人で行くが。瓦礫の向こう側の状況によっちゃあ、オレが一人で、瑠璃とデコちゃんやロウレス達を追うぞ」
黒猫の台詞に、愕然と目を見開き、絶句してしまう。
けれど―――――
「お前はもう強ぇし、大丈夫だと思うから置いていく。その場合、お前はお前で考えて行動しろ。回り道を探すとか、非難をするとかな。ただ無茶すんのが強さじゃねぇってことはもうわかってんだろ」
相棒の口から紡ぎ出された、信頼の言葉を聞き。吊戯の部屋を訪れた際に目にした、吊戯の傷だらけの背中と。訓練の時に目にした、精神の混乱によって、浮き彫りになった傷痍。
目を閉じた中で真昼はそれを思い出し―――――。
そして―――――
―――――・・・・・・ごめんね、真昼君―――――
吊戯とともに行くことを決断した瑠璃の、〝覚悟〟を決めた後ろ姿もまた、意識の内に浮かんできて。
―――――俺は・・・・・・っ―――――
目を開けた真昼は黒猫に姿を変えた相棒の後姿を真っ直ぐに見据えると。
「ああ。大丈夫!」
揺るぎのない凛とした口調でそう言い切り。
「つーかケツ向けて言うセリフか!」
呆れたような面持ちで突っ込みを入れつつ、むぎゅっと黒猫のお尻を右掌で穴の奥に向かって押しやると「にゃっ」という呻き声を上げたのだが。
「お前こそ吸血鬼だからって死ぬようなことはすんなよ! そんなことになったら、さすがに瑠璃姉も怒ると思うぞ」
それに構うことはせず、さらに釘を刺すように真昼がそう言うと。
「なんだそりゃ・・・つーか、オレが瑠璃を怒らせたことなんて一度もないだろ」
黒猫は匍匐前進しつつ、向き合えねーと漏らすと、そのまま瓦礫の道を突き進んで行ったのだ。
―――――回り道・・・って言っても。階段はこのひとつだけっぽかったし。
―――――他には・・・。
ズズ・・・ン、ドド・・・という建物の崩壊音が耳朶に聴こえてくる状況で一人残された真昼はどうすべきかと真剣に思考を巡らせる。
その時、ふいに背後でカッと眩い白銀の閃光が瞬いて。
「―――――っ!!」
バッと振り返った真昼は、そこに顕現した存在の姿を目にした瞬間。
「・・・・・・瑠璃、姉・・・・・・」
呆然とした面持ちで立ち尽くしてしまう。
「真昼君・・・・・・っ!! 大丈夫!?」
けれど、そんな真昼の姿を認めた瑠璃が駆け寄ってきて。
「真昼君、一人だけなの? クロは・・・・・・」
「俺は大丈夫だよ。あとクロは今、この瓦礫の隙間から様子を見に行ってるんだ」
主人と共にいるだろうとばかり思っていた怠惰の真祖の姿を探して視線を巡らせた姉に対し、真昼は背後の瓦礫の山を振り返りながらそう告げた後に。
「―――――それより瑠璃姉こそ、あれから吊戯さんと行動していた中で、無茶とかしてないよな!?」
気遣わし気に瑠璃の顔を見つめながら聞き返すと。
「えぇ、〝私〟は平気よ・・・・・・」
瑠璃は顔を曇らせてしまう。
その瑠璃の様子に、吊戯から掛けられた『拘束魔法』が解けた時に感じた、不穏な予感を思い出した真昼は眉を顰めると。
「瑠璃姉・・・・・・いま、吊戯さんは何処にいるんだ?」
「吊戯さんは・・・・・・」
瑠璃は真昼に対して、吊戯の身に起った出来事を伝えるべく、口を開きかけたのだが。
その時、コツ・・・と此方に向かって接近してくる何者かの靴音が聞こえてきて。
ハッと瑠璃が目を瞬かせたのと同時に―――――
―――――今度は俺が・・・・・・っ!!
真昼もまた緊張した面持ちとなり。
「誰・・・!!」
相手の姿を確認するべく声を上げかけた、その直後のことだった。
「あれっ。真昼くん!? それに瑠璃ちゃんも!? どうして君達までこんなところに・・・」
ここまで全力で走ってきたのだろうか。軽薄な笑みを浮かべながら、いつも他者と接する彼が珍しく。微かに息をはずませながら姿を現し、瞠目した面持ちで呼び掛けてきて。
「御国さん・・・!」
そんな御国の姿を目にして、真昼もまた呆然とした面持ちになるも。
どうして自分がここに居るのか、すぐさま事情を説明すると―――――。
「吊戯さんを追ってみたら・・・。・・・そうか・・・崩れてて進めないのか」
「今さっき、クロが瓦礫の隙間を行ったそうなんですけど・・・・・・」
状況を把握した御国に瑠璃が真昼から聞いたことを口にすると。
御国は「・・・困ったな」と眉を顰めて。
「今、指令室で状況を確認してきたんだ。脱獄した下位が爆弾で施設を破壊しているらしい」
「脱獄した下位が・・・・・・!?」
御国からもたらされた情報に瑠璃は動揺の色を浮かべてしまう。
ここに『捕縛』されていたのは、〝憤怒〟の下位と〝憂鬱〟の下位達だった。
けれど、少し前まで一緒にいた〝憤怒〟の下位である、ジルとレイは、建物が崩れ始めたことに対して、当惑している様子だった。
そうなると支部に爆弾を仕掛けたのは〝憂鬱〟の下位ということになってしまう。
と―――――
そこまで思慮を巡らせた瑠璃が沈鬱の色を滲ませながら眉根を寄せた時。
ズズ・・・ンと崩壊のカウントダウンを刻む音がまた響いてきて。
「このペースで破壊が進めばおそらく、あと20分程度でこの支部は壊滅する」
「20分・・・!?」
もはや一刻の猶予も争う事態なのだと、真昼もまた衝撃を受けて。
「すぐに破壊しないのは他の仲間を逃がすための時間稼ぎだろうね。仕掛けたのは椿の下位らしいから・・・」
「それなら俺達も、吊戯さんやみんなを救出しないと・・・!」
切迫しながらそう言ったのだが。
しかし、今度は御国のほうが真昼のその言葉に当惑したような様子を見せて。
それから眉を顰めつつ、神妙な面持ちで瑠璃のほうに目を向けると―――――
「瑠璃ちゃん。じゃあ、やっぱり吊戯さんは・・・・・・下位に負けてさらに下層まで落ちたんだね」
「・・・・・・はい」
瑠璃は沈鬱な面持ちで頷いた。
「吊戯さんが・・・!?」
結果、愕然となった真昼にも御国は視線を滑らせると。
「このまま吊戯さんが壊れて椿の下位に逃げられ、C3が壊滅する・・・なんてなったら最悪だよ」
淡々とした声音で、想定出来る最悪の事態を口にしたのだが―――――。
しかし、そこで顔を上げた瑠璃はギュッと右手で胸元の『鍵』を握り締めると。
「・・・・・・いいえ。吊戯さんは死んだりしてません。〝憤怒〟の下位であるジルさんとレイさんと一緒に、真祖であるマザーさんが囚われていたフロアまで行って。そこでハイド君とリヒト君と一緒に脱出を果たしていたマザーさんと合流をした後。吊戯さんを助けに行こうとした私にマザーさんが『約束』をしてくれたんです。『貴女が助けたいと望んだ人は私が必ず助けるわ。だから貴女は兄さん達の処へ行って』って。―――――だから絶対に吊戯さんは大丈夫です!!」
凛とした眼差しで御国を見据えてそう言い切ったのだ。
「・・・・・・瑠璃姉・・・・・・」
そうして耳朶に届いた瑠璃の言葉に、真昼が呆然となると。
御国も微かに驚いたように目を瞠りながらを瑠璃見返してきて。
それからゆるりと口元に弧を描くと―――――
「・・・・・・そうだね。瑠璃ちゃんの言うとおり、あの人がそんな簡単に死ぬわけないよ」
踵を返した御国は瓦礫によって塞がれてしまった階段通路の左手側の壁面に向かって近づいて行き。
「まだ道はある。ちょうどこのあたりのはず・・・・・・」
その場にしゃがんで両膝を突きながら右手を伸ばしていく。
それから何かを見つけたらしい御国が「ここだ」とその場所に触れると。
バコッと人が一人通れる程度の扉が現れて。
「・・・ほら」
「それって・・・!」
ニヤリと笑みを浮かべながら振り返ってきた御国に真昼が驚嘆の声をあげて。
「・・・・・・隠し通路ですよね」
その扉の中の壁沿いに並んだ階段を見つめながら呟いた瑠璃の中に思い出されたのは、吊戯と共に行動していた時、同じように利用した隠し扉を経由したダクト配管の通路で。
「そうだよ、瑠璃ちゃん。実はいくつもあるんだ。全部知り尽くしてる人間は・・・吊戯さんくらいだろうけど」
瑠璃の言葉に御国が頷き返すと。
「あっ。そういえば・・・吊戯さん。前にも秘密の通路・・・って」
真昼もまた、オフィスにいた時に吊戯が天井から姿を見せた時の事を思い出して。
「あの人とここで過ごした時にいくつか教えてもらっててね。あの人もきっとこれを使うはずだ。この通路なら吊戯さんが落ちたあたりまで下りられる」
御国は通路に視線を向けながら、吊戯救出の手立てとなるのだということを示して見せてきて。
「ただ・・・崩壊が進むと無事に上がってこられるか」
しかし同時に危険を伴う可能性もあるのだと示唆したのだが。
「じゃあ急ぎましょう!」
真昼は一切の躊躇を見せることなく、御国に対してそう言い切り。
「御国さん。勿論、私も一緒に行きます。いざという時は私の『鍵』で、全員揃って脱出できるように」
瑠璃もまた、揺るぎのないその意志を口にすると。
「君と瑠璃ちゃんならそう言ってくれると思ったよ」そう言いながら御国はフッと笑みを浮かべて。
「それじゃあ、怠惰も呼んでみんなで・・・」
それからくるりと真昼と瑠璃に対して背を向けると、来た道を一度引き返して迂回ルートでクロを呼びに行こうとしたのだが。
真昼とともに通路の中を覗いてみようとした瑠璃が御国の言葉を聞いて。
「御国さん、それなら私が」
クロを呼びに行きますと御国に対して、そう申し出るべく。傍に近づいて行ったその刹那の事だった。
ドド、ズズン、とまた支部内の何処かが崩壊したことを知らせる音が響いてきて。
そこで反射的に顔を上げた真昼が視線をそのまま上に向けると。
ビシィと御国と瑠璃の頭上の辺りの天井に亀裂が走ったのに気づいて。
「御国さん!! 瑠璃姉!! 危ない・・・!!」
はっと目を見開くと、二人に向かって叫ぶのと同時に真昼は血相を変えて駆け出していったその時。
「―――――?!」
反射的に瑠璃は『鍵』の力を発動させようとしたのだが―――――。
「真昼くん!! 瑠璃ちゃんのこと頼むよっ!!」
瑠璃が『鍵』を使うよりも前に、御国がドンッと瑠璃の身体を真昼のほうに向かって突き飛ばしたのだ。
「え・・・・・・っ!?」
そうして自分のほうに倒れ込んできた瑠璃の身体を真昼が咄嗟に抱き留めた処で。
そのまま後ろに向かって倒れ込むと。
―――――ドン! ガラガラガラ!!
一気に天井から瓦礫が降り注いできて。
そして―――――
「いてて・・・・・・瑠璃姉。ケガはない?」
揺れが収まった処で頭を擦りながら真昼が起き上がると。
「・・・・・・え、えぇ。私は大丈夫だけど・・・・・・」
一緒に状態を起こした瑠璃も真昼に頷いて。
「御国さんは・・・・・・!?」
それから目の前に新たに積み上がってしまった瓦礫の山の向こう側に見えなくなってしまった御国の安否を確かめるべく声を上げると。
「瑠璃ちゃん、俺は問題ないよ!!」
御国からの返答が聞こえてきて。
「・・・・・・良かった」
瑠璃が安堵した面持ちになると。
「瑠璃ちゃんも真昼くんも!! 二人は、大丈夫!?」
「はい! 御国さんのおかげで瑠璃姉はケガをしてないですし。俺も大丈夫です!!」
その後にこちらの状態確認の言葉を投げかけてきた御国に真昼が答えて。
「それなら良かった」
御国もまた落ち着いた声音でそう返してきた処で。
「あの、御国さん。私が『鍵』を使って、とりあえずそちら側に行きますから待っていて下さい」
御国に対して瑠璃はそう告げたのだが。
すると御国はそれに対しての返答を逡巡するように、僅かな間、沈黙をして。
「・・・・・・いや、瑠璃ちゃん。それには及ばないよ。さっきも言った通り、俺はまだいくつかある他の抜け道も知っているから大丈夫」
「でも、御国さん。そうだとしても、また別行動をするのは」
御国からの返答に対して瑠璃は異論を口にしようとしたのだが。
「駄目だよ、瑠璃ちゃん。これまで幾度も連続して『鍵』の力を行使したことはなかっただろう。瑠璃ちゃんのその〝力〟はいざという時の『切り札』にも為りえるモノだ。だから今ここで使うべきじゃない」
しかし御国はそんな瑠璃に言い聞かせるように、そう言葉を紡ぎ出して。
それを聞いた瑠璃はそれ以上、御国に対して物申すことが出来ず。
「・・・・・・」
悄然とした面持ちで口を閉ざすと。
御国は「ごめんね、瑠璃ちゃん」と言い添えた後に。
「―――――けど、あまり時間が無いのも確かだ」と真剣な声音でそう漏らして。
「だから真昼くん。君にお願いがあるんだ」
「俺にですか?」
瑠璃の傍らで眉根を寄せながら黙って話を聞いていた真昼は、御国からの呼びかけに目を瞬かせる。
「危険かもしれないけれど、瑠璃ちゃんと二人で下に行ってほしい」
そして御国の言葉に「御国さん・・・・・・」と瑠璃が呆然と目を見開いた一方で。
「大丈夫です。―――――吊戯さんもみんなも・・・絶対、俺が瑠璃姉と力を合わせて助けます!」
真昼の決断は早いものだった。
「ありがとう、真昼くん。―――――あの人を・・・頼んだよ」
そうしてそれを聞いた御国が真昼に対して感謝の言葉を述べるのと同時に、一縷の望みを託す言葉を紡ぎ出すと。
その刹那、真昼の中に浮かんできたのは―――――
―――――『殺してしまおうよ』―――――
―――――『あれはもう・・・ぶっ壊されちゃってる』―――――
御国が吊戯と支部内にて顔を合わせた時、真昼に対して口にした〝悪魔の囁き〟だった。
けれど―――――
「・・・やっぱり、御国さんも吊戯さんのこと・・・心配だったんですね」
あの時、真昼はそれに対し畏怖を覚えてしまったのだが―――――あの言葉には『憎悪』だけでなく、きっと吊戯に対する『憐憫』の感情も含まれていたのだろう。
そんな想いを抱いた真昼が微かに安堵した声音で漏らした言葉に。
御国は驚いた様子で小さく息を呑むと。
「・・・まあ。これでも数年、組んでたしね。相変わらず性格は合わなくて・・・あの時はあんなこと言ったけど。やっぱり心配だよ」
微かな遣る瀬無さを感じさせる声音でその言葉を紡ぎ出したのだが―――――。
その時、瓦礫に隔てられたその向こう側で御国が浮かべていた表情は、それとは真逆で酷薄とした笑みだった事を真昼は知る由もなく。
それは瑠璃もまた同様で―――――。
「御国さん。絶対に私達はみんなで脱出します。だからそうしたら、みんなでお茶会しましょう」
気持ちを奮い立たせるように、御国に向かってそう宣言をすると。
「お茶会かぁ。俺、紅茶にはうるさいよ?」
「大丈夫です。やまねさんに上手な淹れ方を教わりますから!」
揶揄するように軽い口調で応じてきた御国に、瑠璃は気概を持って応じると。
「そっか。それなら断れないなぁ。わかったよ、瑠璃ちゃん。楽しみにしてるよ」
御国は可笑しそうに笑いを零したのだ。
それから―――――
「それじゃあ、頼んだよ。真昼くん。瑠璃ちゃん」
御国の口から紡ぎ出されたその掛け声に。
「「はい!」」
真昼と瑠璃は揃って力強く返事をすると、隠し通路の階段を順に下りていったのだ。
【本館/22・11/26/別館/22・11/29掲載】
クロとともに吊戯の魔法で拘束されていた真昼もまた、自由の身になった直後。
吊戯の身に何かあったのではないかと胸騒ぎを覚え、すぐさまロウレス達を追いかける形で移動を開始していた。
しかし途中でさらにズンズズ・・・という大きな横揺れが起こり。
「うわっ。何が起きてんだ!? さっきの一瞬の停電から・・・」
その衝撃によって落下してきた瓦礫を真昼が叫び声を上げながら間一髪の処で避けると。
「建物が・・・崩れ始めてんのか? もし瑠璃が〝力〟を使える状態にあったとしても、このままじゃデコちゃんどころか。この先にいるロウレスや天使ちゃん達もやべーかもしれねーぞ・・・」
周囲に視線を巡らせたクロが眉を顰めながらそう漏らして。
「・・・・・・っ」
その言葉によって、より強い焦燥感を覚えた真昼は固く右手を握り締めると。
「急ごう、クロ! それでも瑠璃姉なら絶対に諦めないで、俺達と合流しようとするはずだ!!」
そう言い切るのと同時に「下への階段はこの先のはず・・・」と足早に通路を進んで行った。
しかし―――――
目前まで辿り着いた処で愕然と立ち尽くしてしまう。
「な・・・ふ・・・ふさがってる・・・!?」
階段に通じる入り口は建物の崩落により積み重なってしまった瓦礫の壁に閉ざされてしまったのだ。
「・・・思ったより、やばそーだな・・・」
瓦礫の壁に手を添えながらクロは困惑の色を滲ませて呟く。
これじゃ・・・先に進むことが出来ないと、苦悶の面持ちになった真昼が、
「前みたいに床を抜いたりして行けないかな!?」
以前、C3に連れて来られた時に、武器を使って自ら出口を作って脱出した手段を利用することを提案するも。
「今どのくらい崩落が進んでるかわからねぇし、下手すりゃ自分ごと埋まって終わりだぞ」
クロはそれを淡々とした口調で却下したのだが。
「ここ・・・風が流れてるな」
瓦礫の状態を注視していた中で、ふと掌に空気の流れを感じ取り、そこを覗き込むと。
「っ!?」
真昼もまた、クロのその言葉に目を見開き、そちらを注視するように見つめる。
「隙間をぬっていけば抜けられるかもしんねー」
「え・・・!? でもそんなのどうやって・・・」
そしてクロが口にした手段に、真昼は当惑の面持ちになるも。
「オレなら通れる・・・」
ポフ・・・とクロが人型から黒猫の姿に変わったのを目にして、その手段があったかと呆然となった中。
「ずいぶん先まで崩れちまってんな・・・。様子を見て来る。お前はここで待ってろ」
瓦礫の隙間に前足を掛けながら、中を覗き込む仕草をしつつ、黒猫がそう告げてきて。
「で、でも・・・!」
それに対し、真昼は戸惑いの声を漏らすも。
「こんな状況だ。この瓦礫をどうにかできそうなら二人で行くが。瓦礫の向こう側の状況によっちゃあ、オレが一人で、瑠璃とデコちゃんやロウレス達を追うぞ」
黒猫の台詞に、愕然と目を見開き、絶句してしまう。
けれど―――――
「お前はもう強ぇし、大丈夫だと思うから置いていく。その場合、お前はお前で考えて行動しろ。回り道を探すとか、非難をするとかな。ただ無茶すんのが強さじゃねぇってことはもうわかってんだろ」
相棒の口から紡ぎ出された、信頼の言葉を聞き。吊戯の部屋を訪れた際に目にした、吊戯の傷だらけの背中と。訓練の時に目にした、精神の混乱によって、浮き彫りになった傷痍。
目を閉じた中で真昼はそれを思い出し―――――。
そして―――――
―――――・・・・・・ごめんね、真昼君―――――
吊戯とともに行くことを決断した瑠璃の、〝覚悟〟を決めた後ろ姿もまた、意識の内に浮かんできて。
―――――俺は・・・・・・っ―――――
目を開けた真昼は黒猫に姿を変えた相棒の後姿を真っ直ぐに見据えると。
「ああ。大丈夫!」
揺るぎのない凛とした口調でそう言い切り。
「つーかケツ向けて言うセリフか!」
呆れたような面持ちで突っ込みを入れつつ、むぎゅっと黒猫のお尻を右掌で穴の奥に向かって押しやると「にゃっ」という呻き声を上げたのだが。
「お前こそ吸血鬼だからって死ぬようなことはすんなよ! そんなことになったら、さすがに瑠璃姉も怒ると思うぞ」
それに構うことはせず、さらに釘を刺すように真昼がそう言うと。
「なんだそりゃ・・・つーか、オレが瑠璃を怒らせたことなんて一度もないだろ」
黒猫は匍匐前進しつつ、向き合えねーと漏らすと、そのまま瓦礫の道を突き進んで行ったのだ。
―――――回り道・・・って言っても。階段はこのひとつだけっぽかったし。
―――――他には・・・。
ズズ・・・ン、ドド・・・という建物の崩壊音が耳朶に聴こえてくる状況で一人残された真昼はどうすべきかと真剣に思考を巡らせる。
その時、ふいに背後でカッと眩い白銀の閃光が瞬いて。
「―――――っ!!」
バッと振り返った真昼は、そこに顕現した存在の姿を目にした瞬間。
「・・・・・・瑠璃、姉・・・・・・」
呆然とした面持ちで立ち尽くしてしまう。
「真昼君・・・・・・っ!! 大丈夫!?」
けれど、そんな真昼の姿を認めた瑠璃が駆け寄ってきて。
「真昼君、一人だけなの? クロは・・・・・・」
「俺は大丈夫だよ。あとクロは今、この瓦礫の隙間から様子を見に行ってるんだ」
主人と共にいるだろうとばかり思っていた怠惰の真祖の姿を探して視線を巡らせた姉に対し、真昼は背後の瓦礫の山を振り返りながらそう告げた後に。
「―――――それより瑠璃姉こそ、あれから吊戯さんと行動していた中で、無茶とかしてないよな!?」
気遣わし気に瑠璃の顔を見つめながら聞き返すと。
「えぇ、〝私〟は平気よ・・・・・・」
瑠璃は顔を曇らせてしまう。
その瑠璃の様子に、吊戯から掛けられた『拘束魔法』が解けた時に感じた、不穏な予感を思い出した真昼は眉を顰めると。
「瑠璃姉・・・・・・いま、吊戯さんは何処にいるんだ?」
「吊戯さんは・・・・・・」
瑠璃は真昼に対して、吊戯の身に起った出来事を伝えるべく、口を開きかけたのだが。
その時、コツ・・・と此方に向かって接近してくる何者かの靴音が聞こえてきて。
ハッと瑠璃が目を瞬かせたのと同時に―――――
―――――今度は俺が・・・・・・っ!!
真昼もまた緊張した面持ちとなり。
「誰・・・!!」
相手の姿を確認するべく声を上げかけた、その直後のことだった。
「あれっ。真昼くん!? それに瑠璃ちゃんも!? どうして君達までこんなところに・・・」
ここまで全力で走ってきたのだろうか。軽薄な笑みを浮かべながら、いつも他者と接する彼が珍しく。微かに息をはずませながら姿を現し、瞠目した面持ちで呼び掛けてきて。
「御国さん・・・!」
そんな御国の姿を目にして、真昼もまた呆然とした面持ちになるも。
どうして自分がここに居るのか、すぐさま事情を説明すると―――――。
「吊戯さんを追ってみたら・・・。・・・そうか・・・崩れてて進めないのか」
「今さっき、クロが瓦礫の隙間を行ったそうなんですけど・・・・・・」
状況を把握した御国に瑠璃が真昼から聞いたことを口にすると。
御国は「・・・困ったな」と眉を顰めて。
「今、指令室で状況を確認してきたんだ。脱獄した下位が爆弾で施設を破壊しているらしい」
「脱獄した下位が・・・・・・!?」
御国からもたらされた情報に瑠璃は動揺の色を浮かべてしまう。
ここに『捕縛』されていたのは、〝憤怒〟の下位と〝憂鬱〟の下位達だった。
けれど、少し前まで一緒にいた〝憤怒〟の下位である、ジルとレイは、建物が崩れ始めたことに対して、当惑している様子だった。
そうなると支部に爆弾を仕掛けたのは〝憂鬱〟の下位ということになってしまう。
と―――――
そこまで思慮を巡らせた瑠璃が沈鬱の色を滲ませながら眉根を寄せた時。
ズズ・・・ンと崩壊のカウントダウンを刻む音がまた響いてきて。
「このペースで破壊が進めばおそらく、あと20分程度でこの支部は壊滅する」
「20分・・・!?」
もはや一刻の猶予も争う事態なのだと、真昼もまた衝撃を受けて。
「すぐに破壊しないのは他の仲間を逃がすための時間稼ぎだろうね。仕掛けたのは椿の下位らしいから・・・」
「それなら俺達も、吊戯さんやみんなを救出しないと・・・!」
切迫しながらそう言ったのだが。
しかし、今度は御国のほうが真昼のその言葉に当惑したような様子を見せて。
それから眉を顰めつつ、神妙な面持ちで瑠璃のほうに目を向けると―――――
「瑠璃ちゃん。じゃあ、やっぱり吊戯さんは・・・・・・下位に負けてさらに下層まで落ちたんだね」
「・・・・・・はい」
瑠璃は沈鬱な面持ちで頷いた。
「吊戯さんが・・・!?」
結果、愕然となった真昼にも御国は視線を滑らせると。
「このまま吊戯さんが壊れて椿の下位に逃げられ、C3が壊滅する・・・なんてなったら最悪だよ」
淡々とした声音で、想定出来る最悪の事態を口にしたのだが―――――。
しかし、そこで顔を上げた瑠璃はギュッと右手で胸元の『鍵』を握り締めると。
「・・・・・・いいえ。吊戯さんは死んだりしてません。〝憤怒〟の下位であるジルさんとレイさんと一緒に、真祖であるマザーさんが囚われていたフロアまで行って。そこでハイド君とリヒト君と一緒に脱出を果たしていたマザーさんと合流をした後。吊戯さんを助けに行こうとした私にマザーさんが『約束』をしてくれたんです。『貴女が助けたいと望んだ人は私が必ず助けるわ。だから貴女は兄さん達の処へ行って』って。―――――だから絶対に吊戯さんは大丈夫です!!」
凛とした眼差しで御国を見据えてそう言い切ったのだ。
「・・・・・・瑠璃姉・・・・・・」
そうして耳朶に届いた瑠璃の言葉に、真昼が呆然となると。
御国も微かに驚いたように目を瞠りながらを瑠璃見返してきて。
それからゆるりと口元に弧を描くと―――――
「・・・・・・そうだね。瑠璃ちゃんの言うとおり、あの人がそんな簡単に死ぬわけないよ」
踵を返した御国は瓦礫によって塞がれてしまった階段通路の左手側の壁面に向かって近づいて行き。
「まだ道はある。ちょうどこのあたりのはず・・・・・・」
その場にしゃがんで両膝を突きながら右手を伸ばしていく。
それから何かを見つけたらしい御国が「ここだ」とその場所に触れると。
バコッと人が一人通れる程度の扉が現れて。
「・・・ほら」
「それって・・・!」
ニヤリと笑みを浮かべながら振り返ってきた御国に真昼が驚嘆の声をあげて。
「・・・・・・隠し通路ですよね」
その扉の中の壁沿いに並んだ階段を見つめながら呟いた瑠璃の中に思い出されたのは、吊戯と共に行動していた時、同じように利用した隠し扉を経由したダクト配管の通路で。
「そうだよ、瑠璃ちゃん。実はいくつもあるんだ。全部知り尽くしてる人間は・・・吊戯さんくらいだろうけど」
瑠璃の言葉に御国が頷き返すと。
「あっ。そういえば・・・吊戯さん。前にも秘密の通路・・・って」
真昼もまた、オフィスにいた時に吊戯が天井から姿を見せた時の事を思い出して。
「あの人とここで過ごした時にいくつか教えてもらっててね。あの人もきっとこれを使うはずだ。この通路なら吊戯さんが落ちたあたりまで下りられる」
御国は通路に視線を向けながら、吊戯救出の手立てとなるのだということを示して見せてきて。
「ただ・・・崩壊が進むと無事に上がってこられるか」
しかし同時に危険を伴う可能性もあるのだと示唆したのだが。
「じゃあ急ぎましょう!」
真昼は一切の躊躇を見せることなく、御国に対してそう言い切り。
「御国さん。勿論、私も一緒に行きます。いざという時は私の『鍵』で、全員揃って脱出できるように」
瑠璃もまた、揺るぎのないその意志を口にすると。
「君と瑠璃ちゃんならそう言ってくれると思ったよ」そう言いながら御国はフッと笑みを浮かべて。
「それじゃあ、怠惰も呼んでみんなで・・・」
それからくるりと真昼と瑠璃に対して背を向けると、来た道を一度引き返して迂回ルートでクロを呼びに行こうとしたのだが。
真昼とともに通路の中を覗いてみようとした瑠璃が御国の言葉を聞いて。
「御国さん、それなら私が」
クロを呼びに行きますと御国に対して、そう申し出るべく。傍に近づいて行ったその刹那の事だった。
ドド、ズズン、とまた支部内の何処かが崩壊したことを知らせる音が響いてきて。
そこで反射的に顔を上げた真昼が視線をそのまま上に向けると。
ビシィと御国と瑠璃の頭上の辺りの天井に亀裂が走ったのに気づいて。
「御国さん!! 瑠璃姉!! 危ない・・・!!」
はっと目を見開くと、二人に向かって叫ぶのと同時に真昼は血相を変えて駆け出していったその時。
「―――――?!」
反射的に瑠璃は『鍵』の力を発動させようとしたのだが―――――。
「真昼くん!! 瑠璃ちゃんのこと頼むよっ!!」
瑠璃が『鍵』を使うよりも前に、御国がドンッと瑠璃の身体を真昼のほうに向かって突き飛ばしたのだ。
「え・・・・・・っ!?」
そうして自分のほうに倒れ込んできた瑠璃の身体を真昼が咄嗟に抱き留めた処で。
そのまま後ろに向かって倒れ込むと。
―――――ドン! ガラガラガラ!!
一気に天井から瓦礫が降り注いできて。
そして―――――
「いてて・・・・・・瑠璃姉。ケガはない?」
揺れが収まった処で頭を擦りながら真昼が起き上がると。
「・・・・・・え、えぇ。私は大丈夫だけど・・・・・・」
一緒に状態を起こした瑠璃も真昼に頷いて。
「御国さんは・・・・・・!?」
それから目の前に新たに積み上がってしまった瓦礫の山の向こう側に見えなくなってしまった御国の安否を確かめるべく声を上げると。
「瑠璃ちゃん、俺は問題ないよ!!」
御国からの返答が聞こえてきて。
「・・・・・・良かった」
瑠璃が安堵した面持ちになると。
「瑠璃ちゃんも真昼くんも!! 二人は、大丈夫!?」
「はい! 御国さんのおかげで瑠璃姉はケガをしてないですし。俺も大丈夫です!!」
その後にこちらの状態確認の言葉を投げかけてきた御国に真昼が答えて。
「それなら良かった」
御国もまた落ち着いた声音でそう返してきた処で。
「あの、御国さん。私が『鍵』を使って、とりあえずそちら側に行きますから待っていて下さい」
御国に対して瑠璃はそう告げたのだが。
すると御国はそれに対しての返答を逡巡するように、僅かな間、沈黙をして。
「・・・・・・いや、瑠璃ちゃん。それには及ばないよ。さっきも言った通り、俺はまだいくつかある他の抜け道も知っているから大丈夫」
「でも、御国さん。そうだとしても、また別行動をするのは」
御国からの返答に対して瑠璃は異論を口にしようとしたのだが。
「駄目だよ、瑠璃ちゃん。これまで幾度も連続して『鍵』の力を行使したことはなかっただろう。瑠璃ちゃんのその〝力〟はいざという時の『切り札』にも為りえるモノだ。だから今ここで使うべきじゃない」
しかし御国はそんな瑠璃に言い聞かせるように、そう言葉を紡ぎ出して。
それを聞いた瑠璃はそれ以上、御国に対して物申すことが出来ず。
「・・・・・・」
悄然とした面持ちで口を閉ざすと。
御国は「ごめんね、瑠璃ちゃん」と言い添えた後に。
「―――――けど、あまり時間が無いのも確かだ」と真剣な声音でそう漏らして。
「だから真昼くん。君にお願いがあるんだ」
「俺にですか?」
瑠璃の傍らで眉根を寄せながら黙って話を聞いていた真昼は、御国からの呼びかけに目を瞬かせる。
「危険かもしれないけれど、瑠璃ちゃんと二人で下に行ってほしい」
そして御国の言葉に「御国さん・・・・・・」と瑠璃が呆然と目を見開いた一方で。
「大丈夫です。―――――吊戯さんもみんなも・・・絶対、俺が瑠璃姉と力を合わせて助けます!」
真昼の決断は早いものだった。
「ありがとう、真昼くん。―――――あの人を・・・頼んだよ」
そうしてそれを聞いた御国が真昼に対して感謝の言葉を述べるのと同時に、一縷の望みを託す言葉を紡ぎ出すと。
その刹那、真昼の中に浮かんできたのは―――――
―――――『殺してしまおうよ』―――――
―――――『あれはもう・・・ぶっ壊されちゃってる』―――――
御国が吊戯と支部内にて顔を合わせた時、真昼に対して口にした〝悪魔の囁き〟だった。
けれど―――――
「・・・やっぱり、御国さんも吊戯さんのこと・・・心配だったんですね」
あの時、真昼はそれに対し畏怖を覚えてしまったのだが―――――あの言葉には『憎悪』だけでなく、きっと吊戯に対する『憐憫』の感情も含まれていたのだろう。
そんな想いを抱いた真昼が微かに安堵した声音で漏らした言葉に。
御国は驚いた様子で小さく息を呑むと。
「・・・まあ。これでも数年、組んでたしね。相変わらず性格は合わなくて・・・あの時はあんなこと言ったけど。やっぱり心配だよ」
微かな遣る瀬無さを感じさせる声音でその言葉を紡ぎ出したのだが―――――。
その時、瓦礫に隔てられたその向こう側で御国が浮かべていた表情は、それとは真逆で酷薄とした笑みだった事を真昼は知る由もなく。
それは瑠璃もまた同様で―――――。
「御国さん。絶対に私達はみんなで脱出します。だからそうしたら、みんなでお茶会しましょう」
気持ちを奮い立たせるように、御国に向かってそう宣言をすると。
「お茶会かぁ。俺、紅茶にはうるさいよ?」
「大丈夫です。やまねさんに上手な淹れ方を教わりますから!」
揶揄するように軽い口調で応じてきた御国に、瑠璃は気概を持って応じると。
「そっか。それなら断れないなぁ。わかったよ、瑠璃ちゃん。楽しみにしてるよ」
御国は可笑しそうに笑いを零したのだ。
それから―――――
「それじゃあ、頼んだよ。真昼くん。瑠璃ちゃん」
御国の口から紡ぎ出されたその掛け声に。
「「はい!」」
真昼と瑠璃は揃って力強く返事をすると、隠し通路の階段を順に下りていったのだ。
【本館/22・11/26/別館/22・11/29掲載】
