第二十四章『艱難辛苦』
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艱難辛苦
『・・・やればできるじゃないか。吊戯』
大切な友人を自ら手に掛けてしまったことにより、自己喪失に陥ってしまった吊戯に対し、塔間が口にした台詞がそれだった。
「・・・・・・盾一郎さんっ!!」
―――――もう一度、〝三人で笑い合う〟未来を掴む為に盾一郎さんは戦ったのに!!
一方、致命的な傷を負ってしまった盾一郎の元に血相を変えて走り寄った瑠璃は耳朶に届いた塔間の皮肉めいた物言いにまた激しい憤りを覚えていた。
「吊戯さん・・・・・・っ!! 早く盾一郎さんを救護室に!!」
そして瑠璃は吊戯の方に顔を向けると強い口調で訴えかけるも、顔を俯けて立ち尽くす吊戯からの反応はないままで。
『さあ行こうか吊戯。脱獄した下位吸血鬼を殲滅するぞ。そのままf5から〝ミストレス〟のお嬢さんも連れて奥へ向かえ。俺がサポートする』
「・・・・・・うん」
「吊戯さん・・・・・・!!」
手に持っていた漆黒の剣を消失させて塔間に頷いた吊戯に対し、瑠璃はまた声を上げかけたのだが。
『―――――〝ミストレス〟のお嬢さん。わかっているだろうが君に〝拒否権〟はないぞ』
「・・・・・・っ!」
自分に対して呼び掛けてきた塔間が口にした台詞に身体を戦慄かせてしまう。
―――――さっきと今とでは状況が違う。私がこの場に残ろうとしたら、真昼君とクロも吊戯さんに・・・・・・っ。
「・・・・・・わかりました」
意識の内に浮かんだ〝最悪の可能性〟に身体の芯が一気に冷えていくような感覚を覚えた瑠璃が視線を俯けながら押し殺した声で頷いた後に立ちあがると。
「瑠璃姉っ!! 行っちゃ駄目だ!!」
色を失った面持ちで真昼が声を上げたのだが。
「―――――・・・・・・ごめんね、真昼君」
瑠璃は振り返ることをせず、只一言だけ許しを乞う言葉を口にすると、ふらと歩き出した吊戯の後に続いて行こうとした。
けれど―――――
「―――――瑠璃!! オレと真昼なら何とかなるはずだ!! だから行くな!!」
強い口調で自分に向かって呼び掛けてきたクロの言葉を聞いた刹那―――――
―――――・・・・・・クロ・・・・・・っ。
胸の奥が締め付けられる感覚を覚えた瑠璃の瞳の端からはじわりと涙が滲みだしていた。
〝―――――クロ、私は貴方の〝ミストレス〟としてここで『誓約』をするわ。これから先に何があっても、貴方の傍を離れないで一緒に立ち向かっていくことを―――――〟
そして意識の内に浮かんできたのは『最愛の存在』となった彼 に対して自らが誓った言葉。
―――――それを破ろうとしている私はとても〝身勝手〟な人間だ・・・・・・。
だけど・・・・・・
―――――高い塔を登っている―――――
―――――殺して―――――
―――――殺して―――――
―――――登っている―――――
―――――行かなくちゃ―――――
―――――行かなくちゃ―――――
―――――一番上でひとりぼっちであの子が待ってる―――――
―――――まだ微かに聴こえてくる吊戯さんの〝心の叫び〟を無視することはできない・・・・・・。
それに―――――
〝―――――だって俺達はやっぱ三人で笑っていねぇとさ―――――〟
〝―――――そうして詩文が好きだって言ってくれた俺達が〝三人で笑い合っている姿〟を拓人にもたくさん見せてやりたいんだ―――――〟
―――――吊戯さんを塔間さんの〝呪縛〟から、命懸けで助けようとした盾一郎さんの〝想い〟も無駄にしたくない・・・・・・。
盾一郎が唱えた呪文に込められた〝想い〟。
瑠璃の中に或る〝ミストレス〟の『力』が無意識の内にその〝想い〟に〝共鳴〟したことにより。盾一郎の―――――吊戯に繋がる―――――〝過去の記憶〟を瑠璃は垣間見ることとなった。
だから〝私〟は―――――
拘束された状態にある両掌を瑠璃はグッときつく握りしめると、肩越しにチラリとクロに目を向ける。
「・・・・・・クロ。貴方との『誓約』を守ることが出来なくてごめんなさい・・・・・」
そして哀切に満ちた声音で瑠璃はそう言い残すと、吊戯の後に続いてf5通路に向かって行ったのだ。
「脱獄した下位吸血鬼のうち・・・〝憤怒〟の牢に近づいているのが二人か。場所の把握が正確すぎる。やはり誰かの手引きがあるな」
モニターを介して吊戯が瑠璃を連れてf5通路の奥へ向かって行く様を見つつ。さらに手元にあるキーボードを操作して、他のフロアの動向を別のモニターでチェックした塔間は策を巡らせていく。
「〝憤怒〟の牢の前へ先回りさせてもいいが・・・万が一にも〝憤怒〟は渡したくない」
―――――もしそうなれば〝ミストレス〟迄も奪還されてしまう可能性がある。
「下へ降りる前に潰したほうが確実か」
そして結論を出した塔間はマイクのスイッチをONにすると―――――
『吊戯。e7のエレベーター前へ回れ。そこで二人つぶす』
「うんっ!」
塔間から与えられた指示に吊戯が嬉しそうに満面の笑顔で応じる。
いまや吊戯にとっては塔間だけが、唯一の拠りどころになってしまっているのだろう。
「・・・・・・吊戯さん」
そんな吊戯の様子に瑠璃は沈鬱な面持ちになってしまう。
『〝ミストレス〟のお嬢さんには、今しばらくの間、不自由を強いる状況になってしまうが。事を円滑に進める為―――――しいては吊戯の〝状態を安定させる為〟にも協力してほしい』
しかし、あまりにも独善的すぎる塔間の台詞を聞いた刹那―――――
「塔間さん、貴方って人は・・・・・・っ」
瑠璃は怒気を孕んだ眼差しでモニター越しに此方の様子を監視している塔間を睨みつけていた。
―――――自分の手で吊戯さんの心を壊しておいて、よくもそんなそんな事を・・・・・・!
『はは。〝ミストレス〟のお嬢さん。副支部長室で話をした時に見せたモノとは比べ物にならないくらい怖い顔をしているね』
一方、塔間はフッと失笑を漏らすと。
『俺はお嬢さんとは仲良くやっていきたいと思っているんだが。一体どうしたら、吊戯と同じように好かれることが出来るのかな?』
「・・・・・・白々しい台詞ですね。〝誰とも向き合おうとする気がない〟くせに」
瑠璃は冷ややかな口調で言い返す。
「―――――塔間さん。私はそんな貴方のことが大嫌いです」
そして塔間に向かって瑠璃がそう言い放つと。
「瑠璃ちゃん?」
吊戯が呆然とした面持ちで此方に目を向けてきて。
「吊戯さん、私は・・・・・・」
そこで気まずさを覚えた瑠璃が視線を俯けると―――――
「あのね、瑠璃ちゃん。e7のエレベーター前に行く為の近道はもうすぐそこなんだ」
金色の双眸が瑠璃の顔を覗き込むように見つめてきて。
「だから大丈夫だよ」
無邪気な笑顔でそう告げてきたのだ。
そして―――――
「―――――行こう、瑠璃ちゃん」
「・・・・・・はい」
吊戯に促された瑠璃がまた歩き出した時。
塔間はマイクを介してそれ以上何かを言うことはせず、そのままOFにすると。
「やれやれ。本当に見た目と違って随分と気が強いお嬢さんだな」
―――――怠惰との別れ際には、あんなにもしおらしい態度だったというのにな。
早くも何本目になるか分からない煙草を右手の人差し指の間に挟んで持ちながら、吊戯とともに目的地への近道となる隠し通路に進んで行った瑠璃の姿を冷めた眼差しで眺めつつそう漏らしたのだ。
「―――――・・・だめだ。動けねぇ・・・つーか全然力が出せねぇ」
吊戯と共に瑠璃が姿を消した後。拘束された状態のまま真昼と二人で取り残される事となってしまったクロは何とかしてそこから抜け出そうと悪戦苦闘していた。
しかし、吊戯の魔法はクロの『力』を全て封じてしまうもののようで。
唯一の突破口であった、動物に変身するという手段も使うことが出来ず。
猫にもなれね―――――し、と苦々しい面持ちでクロが唸ると。
「ごめんクロ・・・っ。俺・・・力になるって言ったのに・・・っ。吊戯さんを止められなかっただけじゃなく、瑠璃姉のことも引き止められなくて・・・・・・っ」
真昼は悔しさに顔を歪めながら相棒に対して謝罪の言葉を紡ぎ出し。
「どうしたらいいんだ。車守さんが・・・っ。それにこのまま吊戯さんが下位吸血鬼 を殺しちゃったら・・・瑠璃姉は・・・・・・」
血だまりの中に仰向けで倒れている盾一郎の姿も視界に捉えながら、意識の内に過ぎった最悪の可能性に苦悩を滲ませると―――――。
「お前が間違ってたとは思ってねーよ。それに瑠璃を思い留まらせることができなかったのもお前が悪いわけじゃない。あのまま瑠璃がここに残ることを選んだら、俺達は無傷ではいられなかった。瑠璃はそれを避ける為に、デコちゃんと一緒に行くことを選んだんだ」
ふと、目線を下に向けたクロが静かな声音で言った。
「一発でなんでもうまくいくとは思ってねーし。しつこく粘ってくしかねーだろ。お前の得意技じゃねーか」
―――――まぁ、瑠璃が口にした〝あの言葉〟だけは、正直向き合えねーもんだったけどな・・・・・・。
〝・・・・・・クロ。貴方との『誓約』を守ることが出来なくてごめんなさい・・・・・〟
そして瑠璃から告げられた台詞を思い出し、クロが哀愁を湛えた面持ちになった時。
真昼もまたクロから言われた台詞に「えっ、俺そんなにしつこいか・・・?」とショックを受けていたのだが。
「それに・・・まだ手詰まりってわけでもなさそーだ」
程なくして、天井に空いた大きな穴を通じて近付いて来る何者かの気配を察知したクロがクロがそちらを見上げた処で。
「え・・・?」
真昼も戸惑いの面持ちになりながら視線を上に向けると。
「うわっ、何スかこの穴!?」
「天の怒りが落ちたのか?」
「はいはいはい。天使ちゃん、危ないから端っこ通って!」
ショートコントのような会話を繰り広げる二人の男達の声が聞こえてきて。
「なあ。オレ達どこに向かってんだ?」
そこにさらにもう一人加わり。
「あんた何にもわかんないままついてきちゃったんスかあ!? だーからぁ・・・」
不思議そうにそう尋ねかけてきた三人目の男に対し、最初に言葉を発した人物が呆れた口調で説明をしようとしたその時。
「この声・・・っ」と真昼が驚嘆の声を上げたことにより。
あちらもまた、穴の向こうに見える下のフロアに誰か居るようだと気づき。
「あれっ!? 兄さん達!?」
その穴からまず顔を見せたのが強欲の真祖であるロウレスだった。
そしてその後に穴の端を通って先に進もうとしていたロウレスの主人であるリヒトと、傲慢の真祖であるヒューと主人である鉄の二人もまた此方に気づき顔を覗かせてきて。
「ロウレス・・・に、リヒトさん!? 鉄とヒューも・・・!!」
瞠目の面持ちになった真昼が四人の名前を呼ぶと。
「うわ―――――ひっでー有様! C3にやられたんスね? だーから言ったんスよ!」
ロウレスが眉を顰めつつ、右手で穴の淵に掴まりながら、慎重に此方に下りてこようとしたのだが。
そんなロウレスの事などお構いなしに、リヒトは一人で穴から真昼の近くに飛び下りてしまい。あっ。天使ちゃん危ないっスよとロウレスが苦言を漏らしたのだが。
ロウレス達は盾一郎の協力を得て、真祖としての力を取り戻す為に、吸血鬼の生態に詳しい人物の元を訪れている筈ではなかったのか。
「なんでここに・・・!?」と真昼が問いかけると。
「今、〝色欲〟が実験中? っスけどオレはムリ! 逃げてきたっス!」
ロウレスは簡単に事情を説明してきた後。
「それより、ちょーどよかった! そこで手に入れた新情報が・・・・・・」
今度は自分の話をしようとしたのだが。
地に足を着けた処で血臭を感じ取ったロウレスは自身の背後に目を遣ると、
「えっ・・・この男・・・な、なんで・・・? 兄さん・・・なわけないっスよね・・・下位っスか・・・?」
今にも息絶えそうな状態になっている盾一郎に気づき当惑の声を漏らしてしまう。
「いや・・・吊戯さん・・・が・・・・・・」
「はあ・・・!? 仲間割れってことスか!?」
「あ―――――・・・C3の中でも・・・何か違う目的がある奴がいるっぽいぞ・・・」
沈痛な面持ちで真昼が告げると、唖然となったロウレスに今度はクロが答える。
「C3の中でのもめごとに巻き込まれるのはごめんっスよ」
その兄の言葉にロウレスは思い切り顔を顰めた後。
―――――つーかこれ・・・もう・・・・・・。
チラリとまた盾一郎の方に目を向けると、間に合わないのではないか、と眉を顰めたのだが。
「―――――そういえば兄さん、瑠璃ちゃんはどうしたんスか? まさか、瑠璃ちゃんの身にも何か・・・・・・」
「ああ・・・・・・瑠璃はオレと真昼を同じ目に遭わせない為に、あのデコちゃんに付いて行くことを選んだ」
瑠璃がいない事に気づいたロウレスに、神妙な面持ちでクロがその理由を告げると。
「だから早く・・・! 車守さんを救護室に連れてってくれ! ここで待っててもたぶん誰も助けに来ない・・・!」
仲間達に向かって必死にそう叫んだ真昼の意識の内に過ぎったのは、この非道な状況を作り出した冷徹な笑みを浮かべている塔間の姿で。
「オレが行く」
その真昼の意思を汲み取って、ぐいと盾一郎の身体を抱え上げたのは鉄だった。
「鉄・・・!」
「弓景の友達だ。絶対助ける」
真剣な顔つきで真昼に頷くと、力強くそう宣言した鉄は自身の頭上に下りてきた、蝙蝠に尋ねかける。
「ヒュー、救護室の場所・・・わかるか?」
「うむ? 先ほど地図を見たからのう。我が輩、一度見たものはちゃあんと覚えて・・・」
すると、のんびりと好々爺然とした口調で蝙蝠は肯定の意を示してきて。
「じゃあ、道案内頼むぜ」と鉄が言うと。
「大きいあんちゃんは人助けもして偉いのう。感心じゃ・・・」
鉄からの頼みを引き受けることにした蝙蝠はそう言いながら、鉄と目線を合わせるように左肩に下りてきて。
灰塵が抜けた影響で精神が後退し、〝ご隠居〟となってしまったヒューの中からは、気力だけでなく、これまで鉄と過ごしてきた〝記憶〟も全て抜け落ちてしまっているようで、鉄は少なからずショックを受けていた。
しかし―――――
蝙蝠の口から紡ぎ出された〝賞賛の言葉〟は鉄にとっては、ヒューと築き上げてきた〝大切な記憶〟の欠片で。
「・・・・・・ああ。ヒューはいつもオレのそういうところがいいとこだって言ってくれてたぜ」
微かに口角を上げながら、喜びを噛みしめるように鉄はそう言うと。
「頼んだぞ、鉄・・・!」
真昼からの掛け声を合図として、右肩に盾一郎を担いだ状態で、蝙蝠のナビによって救護室を目指して勢いよく駆け出していったのだ。
そうして強欲組の二人が身動きを取れないままの真昼とクロの傍に残ることとなり。
「一体、何が起きてんスか・・・? C3内めちゃくちゃじゃないスか」
「わからない・・・だけど! 早く吊戯さんを止めないと!」
困惑の面持ちで唸ったロウレスに真昼が訴えかける。
するとロウレスは右手を首筋に添える仕草をしながら、
「正直・・・あいつはもうキビしくないスか? こんな親しい人間まで手にかけるって。もう・・・手遅れじゃないっスかね・・・」
「えっ?」と当惑の声を漏らした真昼に対し、眉根を寄せつつそう言ったのだが。
『お前が言うか・・・』とクロとリヒトの二人から、呆れた様子で嘆息交じりにそう言われてしまい。
うっ、と呻きながら、ぎくっと肩を震わせたロウレスが「けっ、経験者としての意見っスよ!」と気まずそうに二人に言い返したその時。
―――――あ・・・そうか。
呆然と目を見開いていた真昼は―――――
―――――クロの言うとおりだ。
自分の中にストンと落ちてきたその〝想い〟に気づき、ぎゅっと唇を噛みしめると。
「俺・・・『無理だ』とか『もうやめとけ』とか、そんなの聞き分けられるほど諦めよくないんだ」
「・・・知ってるっスよ」
真昼が口にしたその言葉にニヤと笑みを浮かべながらロウレスが振り返ってきて。
リヒトとクロもまた、真昼の言葉に耳を傾けるように視線を向けてくる。
そんな真昼の意識の内に過ぎったのは〝相手の痛み〟に対する想いを口にした時の吊戯の姿で。
「痛みなんてわかりはしないってあの人は言ったけど。当たり前なんだ。自分の人生は一個しかなくて。同じ経験なんてできない。だけどそれでも誰かと生きていくんだろ!?」
次に真昼の中に浮かんできたのは、これまで体当たりで向き合ってきた『仲間』や『友達』それに『相棒』の姿だった。
「みんな俺がどこまでだって追いかけてやる! 一人一人に総当たりで誰かの痛みと向き合っていくしかないだろ!!」
そして今、真昼は『彼』の事も、我武者羅に追いかけることを選んだ。
「悲鳴が聞こえたんだ。そしたらもう助けるだけだろ!! 瑠璃姉も吊戯さんの悲鳴に気づいていた。だから吊戯さんを助ける為に一緒に行ったんだ!!」
「そうだな。ほんと、瑠璃もどんどん真昼の影響を受けて・・・・・・」
それからクロがしみじみとした口調で「めんどくせーことに」と呟くと。
「兄さんの惚けは置いておくとして。あんたと瑠璃ちゃんがそーゆー奴だってことはこの前の一件でよ―――――くわかってんスよ! C3が何してんのかは、さ―――――っぱりわかんねっスけど。瑠璃ちゃんと合流して、とりあえずあのデコっぱちひっ捕まえて」
やれやれという眼差しで兄を見遣った後、ニヤリと笑いながらまた真昼に目を向けたロウレスとともに。
「瑠璃と俺が女神と天使の力で浄化する」
リヒトがそんな決め台詞を口にすると。
「ん~~~~~~!? まあそう! 天使語で言うとそうっスね! そんですべてはその後で紐解きゃいいってことっスね!」
自分が話している途中で遮られてしまった事に対して一瞬、ロウレスは何とも言えない面持ちで唸ったものの、直ぐにリヒトの台詞も取り込んだうえで口述を纏めると。
「苦労して仲間にしたやつは―――――って兄さん言ってたっスよね? 役に立ってやろうじゃないっスか!!」
不敵な笑みを浮かべてそう宣言したロウレスと共に。
リヒトも凛々しい面持ちで「当然だ」と頷くと。
「なぜなら俺は」
左手を掲げながら、右手をクロスさせて。
『天使だから』
いつもの決め台詞をリヒトが口にした時。ロウレスもまた、左脚を掲げつつ、両手の親指と人差し指でリヒトの事を指し示しながら、茶々を入れるように息ぴったりと台詞を被せてきて。
「ってわけでここはオレたち強欲組に任せとけっスよ!!」
ヒュウ―――――~~~!! と、さらにはやし立てるように騒ぎながらそう言い放ったのだが。
ええ―――――・・・と真昼とクロは揃って思わず何とも言えない面持ちで呻いてしまう。
―――――瑠璃姉って、リヒトさんの中では、いまだに『女神』っていう認識なのか?
真昼が当惑した中で、クロもまた、意味わかんね―――――・・・とぼやきを漏らすと。
「つってもオレら今、戦えないっスから」
先の台詞を撤回するような発言をロウレスがした事により、
「何言ってやがる俺は・・・」
お約束ともいえるリヒトとの口喧嘩が始まってしまうかと思われたのだが。
「はいはい。天使にも不調な時はあるんス!」
ロウレスはリヒトと喧嘩をすることなく、軽い口調であしらうと。
「あ゛?」とリヒトはロウレスを睨んだものの。
「どーすんだ・・・あのデコちゃんつえーぞ・・・」
すかさずクロがロウレスに対して打開策を尋ねると。
「いるじゃないっスか! 戦える真祖 ! 〝憤怒〟の姐さんをつれてくるんスよ!」
ロウレスはズボンのポケットから取り出した自分のスマホを右手に持ちながら、ピッと左手の人差し指を立てつつ、得意気な面持ちでそう告げてきて。
「―――――!!」
その言葉を聞いた真昼が瞠目した様子でロウレスを見返すと。
「〝憤怒〟の姐さんはまだ椿にやられてないっス! 姐さんなら狼谷吊戯と戦って止めることだってできるはずっスよ!」
「つったってお前・・・〝憤怒〟がいる場所わかんのか・・・? どっかに捕まってる らしーが・・・」
ニヤリと笑みを浮かべながら戦略を語った弟に、クロがまた眉を顰めながら聞き返したのだが。
「あ―――――のねぇ! オレは兄さんの主人 みたいにあてずっぽうには動かないっスよ! ちゃんと調査済みっス!」
左手を腰に据えたロウレスは、右手に持っていたスマホをクロに向かって、眉を顰めながら嘆息交じりに差し出して見せてきて。
そりゃあよかった・・・お兄ちゃん安心したぞ・・・、とクロが感心した面持ちで弟を見返すと。
わ、悪かったな・・・と真昼はロウレスを、ジト目で睨んだのだが。
ロウレスは気にすることなく話を続ける。
「さっき言った『新情報』ってのがまさにそれっス! あのマッドサイエンティストの研究室で勝手に調べさせてもらったっス! そこで姐さんの情報を知って・・・助けようと抜け出してきたってわけっスよ!」
そして強欲組と傲慢組が研究室から姿を消しているのにも拘らず、博士 が騒いでいないのは、リリイが今もまだ研究対象になっている真っ最中ということなのだろう。
「・・・前回、助けられた分きっちり働いてやるっスよ!」
そうして真昼とクロが事情を把握した処で、ロウレスはそう言い切ると。
「オレ達で狼谷吊戯を止めるっスよ! そうすればC3と吸血鬼の衝突も回避できて。瑠璃ちゃんも安心してコッチに戻って来られる! さらに兄さん達の拘束も外せるってわけっスね!」
緻密な計画を披露して見せたロウレスに対して真昼が―――――
「そうだ! 俺の右ポケットに貸してもらったIDがある! エレベーターを動かせるはずだ!」
イズナから借りた社員証の存在を思い出し、持って行ってくれ! と言うと。
「おっ! それならスムーズにたどり着けるっスよ!」
ごそごそと真昼の上着の右ポケットを探って、社員証を見つけ出したロウレスは意気揚々とした様子で。
「さ―――――行くっスよ! 足引っ張ったら置いてくっスからね!」
「こっちのセリフだ。ボケネズミ」
リヒトも気合に満ちた態度で。
さっと息ピッタリに二人は声を掛け合ったのだが。
しかし、進行方向だけは左右真逆の状態で。
「そっちじゃない!! こっちから行くんすよリヒたん!!」
右を向いていたロウレスがリヒトに行先を改めるよう呼びかけると。
「あ゛?」とリヒトがまたロウレスを鋭い眼差しで睨みつけて。
「な―――――んでキレるんスかあ!!」と今度はロウレスもリヒトに食って掛かっていき。
いまにもケンカを始めてしまいそうな二人に、あ―――――・・・とクロが微妙な面持ちで唸り。真昼もまた、一抹の不安を感じたものの。
「た、頼んだぞ・・・!」
結局、そのまま出発した二人に『希望』を託す言葉を口にしたのだ。
【本館/22・5/23/別館/22・5/23掲載】
★艱難辛苦(かんなんしんく)⇒困難な状況に苦しみ悩むこと。
『・・・やればできるじゃないか。吊戯』
大切な友人を自ら手に掛けてしまったことにより、自己喪失に陥ってしまった吊戯に対し、塔間が口にした台詞がそれだった。
「・・・・・・盾一郎さんっ!!」
―――――もう一度、〝三人で笑い合う〟未来を掴む為に盾一郎さんは戦ったのに!!
一方、致命的な傷を負ってしまった盾一郎の元に血相を変えて走り寄った瑠璃は耳朶に届いた塔間の皮肉めいた物言いにまた激しい憤りを覚えていた。
「吊戯さん・・・・・・っ!! 早く盾一郎さんを救護室に!!」
そして瑠璃は吊戯の方に顔を向けると強い口調で訴えかけるも、顔を俯けて立ち尽くす吊戯からの反応はないままで。
『さあ行こうか吊戯。脱獄した下位吸血鬼を殲滅するぞ。そのままf5から〝ミストレス〟のお嬢さんも連れて奥へ向かえ。俺がサポートする』
「・・・・・・うん」
「吊戯さん・・・・・・!!」
手に持っていた漆黒の剣を消失させて塔間に頷いた吊戯に対し、瑠璃はまた声を上げかけたのだが。
『―――――〝ミストレス〟のお嬢さん。わかっているだろうが君に〝拒否権〟はないぞ』
「・・・・・・っ!」
自分に対して呼び掛けてきた塔間が口にした台詞に身体を戦慄かせてしまう。
―――――さっきと今とでは状況が違う。私がこの場に残ろうとしたら、真昼君とクロも吊戯さんに・・・・・・っ。
「・・・・・・わかりました」
意識の内に浮かんだ〝最悪の可能性〟に身体の芯が一気に冷えていくような感覚を覚えた瑠璃が視線を俯けながら押し殺した声で頷いた後に立ちあがると。
「瑠璃姉っ!! 行っちゃ駄目だ!!」
色を失った面持ちで真昼が声を上げたのだが。
「―――――・・・・・・ごめんね、真昼君」
瑠璃は振り返ることをせず、只一言だけ許しを乞う言葉を口にすると、ふらと歩き出した吊戯の後に続いて行こうとした。
けれど―――――
「―――――瑠璃!! オレと真昼なら何とかなるはずだ!! だから行くな!!」
強い口調で自分に向かって呼び掛けてきたクロの言葉を聞いた刹那―――――
―――――・・・・・・クロ・・・・・・っ。
胸の奥が締め付けられる感覚を覚えた瑠璃の瞳の端からはじわりと涙が滲みだしていた。
〝―――――クロ、私は貴方の〝ミストレス〟としてここで『誓約』をするわ。これから先に何があっても、貴方の傍を離れないで一緒に立ち向かっていくことを―――――〟
そして意識の内に浮かんできたのは『最愛の存在』となった
―――――それを破ろうとしている私はとても〝身勝手〟な人間だ・・・・・・。
だけど・・・・・・
―――――高い塔を登っている―――――
―――――殺して―――――
―――――殺して―――――
―――――登っている―――――
―――――行かなくちゃ―――――
―――――行かなくちゃ―――――
―――――一番上でひとりぼっちであの子が待ってる―――――
―――――まだ微かに聴こえてくる吊戯さんの〝心の叫び〟を無視することはできない・・・・・・。
それに―――――
〝―――――だって俺達はやっぱ三人で笑っていねぇとさ―――――〟
〝―――――そうして詩文が好きだって言ってくれた俺達が〝三人で笑い合っている姿〟を拓人にもたくさん見せてやりたいんだ―――――〟
―――――吊戯さんを塔間さんの〝呪縛〟から、命懸けで助けようとした盾一郎さんの〝想い〟も無駄にしたくない・・・・・・。
盾一郎が唱えた呪文に込められた〝想い〟。
瑠璃の中に或る〝ミストレス〟の『力』が無意識の内にその〝想い〟に〝共鳴〟したことにより。盾一郎の―――――吊戯に繋がる―――――〝過去の記憶〟を瑠璃は垣間見ることとなった。
だから〝私〟は―――――
拘束された状態にある両掌を瑠璃はグッときつく握りしめると、肩越しにチラリとクロに目を向ける。
「・・・・・・クロ。貴方との『誓約』を守ることが出来なくてごめんなさい・・・・・」
そして哀切に満ちた声音で瑠璃はそう言い残すと、吊戯の後に続いてf5通路に向かって行ったのだ。
「脱獄した下位吸血鬼のうち・・・〝憤怒〟の牢に近づいているのが二人か。場所の把握が正確すぎる。やはり誰かの手引きがあるな」
モニターを介して吊戯が瑠璃を連れてf5通路の奥へ向かって行く様を見つつ。さらに手元にあるキーボードを操作して、他のフロアの動向を別のモニターでチェックした塔間は策を巡らせていく。
「〝憤怒〟の牢の前へ先回りさせてもいいが・・・万が一にも〝憤怒〟は渡したくない」
―――――もしそうなれば〝ミストレス〟迄も奪還されてしまう可能性がある。
「下へ降りる前に潰したほうが確実か」
そして結論を出した塔間はマイクのスイッチをONにすると―――――
『吊戯。e7のエレベーター前へ回れ。そこで二人つぶす』
「うんっ!」
塔間から与えられた指示に吊戯が嬉しそうに満面の笑顔で応じる。
いまや吊戯にとっては塔間だけが、唯一の拠りどころになってしまっているのだろう。
「・・・・・・吊戯さん」
そんな吊戯の様子に瑠璃は沈鬱な面持ちになってしまう。
『〝ミストレス〟のお嬢さんには、今しばらくの間、不自由を強いる状況になってしまうが。事を円滑に進める為―――――しいては吊戯の〝状態を安定させる為〟にも協力してほしい』
しかし、あまりにも独善的すぎる塔間の台詞を聞いた刹那―――――
「塔間さん、貴方って人は・・・・・・っ」
瑠璃は怒気を孕んだ眼差しでモニター越しに此方の様子を監視している塔間を睨みつけていた。
―――――自分の手で吊戯さんの心を壊しておいて、よくもそんなそんな事を・・・・・・!
『はは。〝ミストレス〟のお嬢さん。副支部長室で話をした時に見せたモノとは比べ物にならないくらい怖い顔をしているね』
一方、塔間はフッと失笑を漏らすと。
『俺はお嬢さんとは仲良くやっていきたいと思っているんだが。一体どうしたら、吊戯と同じように好かれることが出来るのかな?』
「・・・・・・白々しい台詞ですね。〝誰とも向き合おうとする気がない〟くせに」
瑠璃は冷ややかな口調で言い返す。
「―――――塔間さん。私はそんな貴方のことが大嫌いです」
そして塔間に向かって瑠璃がそう言い放つと。
「瑠璃ちゃん?」
吊戯が呆然とした面持ちで此方に目を向けてきて。
「吊戯さん、私は・・・・・・」
そこで気まずさを覚えた瑠璃が視線を俯けると―――――
「あのね、瑠璃ちゃん。e7のエレベーター前に行く為の近道はもうすぐそこなんだ」
金色の双眸が瑠璃の顔を覗き込むように見つめてきて。
「だから大丈夫だよ」
無邪気な笑顔でそう告げてきたのだ。
そして―――――
「―――――行こう、瑠璃ちゃん」
「・・・・・・はい」
吊戯に促された瑠璃がまた歩き出した時。
塔間はマイクを介してそれ以上何かを言うことはせず、そのままOFにすると。
「やれやれ。本当に見た目と違って随分と気が強いお嬢さんだな」
―――――怠惰との別れ際には、あんなにもしおらしい態度だったというのにな。
早くも何本目になるか分からない煙草を右手の人差し指の間に挟んで持ちながら、吊戯とともに目的地への近道となる隠し通路に進んで行った瑠璃の姿を冷めた眼差しで眺めつつそう漏らしたのだ。
「―――――・・・だめだ。動けねぇ・・・つーか全然力が出せねぇ」
吊戯と共に瑠璃が姿を消した後。拘束された状態のまま真昼と二人で取り残される事となってしまったクロは何とかしてそこから抜け出そうと悪戦苦闘していた。
しかし、吊戯の魔法はクロの『力』を全て封じてしまうもののようで。
唯一の突破口であった、動物に変身するという手段も使うことが出来ず。
猫にもなれね―――――し、と苦々しい面持ちでクロが唸ると。
「ごめんクロ・・・っ。俺・・・力になるって言ったのに・・・っ。吊戯さんを止められなかっただけじゃなく、瑠璃姉のことも引き止められなくて・・・・・・っ」
真昼は悔しさに顔を歪めながら相棒に対して謝罪の言葉を紡ぎ出し。
「どうしたらいいんだ。車守さんが・・・っ。それにこのまま吊戯さんが
血だまりの中に仰向けで倒れている盾一郎の姿も視界に捉えながら、意識の内に過ぎった最悪の可能性に苦悩を滲ませると―――――。
「お前が間違ってたとは思ってねーよ。それに瑠璃を思い留まらせることができなかったのもお前が悪いわけじゃない。あのまま瑠璃がここに残ることを選んだら、俺達は無傷ではいられなかった。瑠璃はそれを避ける為に、デコちゃんと一緒に行くことを選んだんだ」
ふと、目線を下に向けたクロが静かな声音で言った。
「一発でなんでもうまくいくとは思ってねーし。しつこく粘ってくしかねーだろ。お前の得意技じゃねーか」
―――――まぁ、瑠璃が口にした〝あの言葉〟だけは、正直向き合えねーもんだったけどな・・・・・・。
〝・・・・・・クロ。貴方との『誓約』を守ることが出来なくてごめんなさい・・・・・〟
そして瑠璃から告げられた台詞を思い出し、クロが哀愁を湛えた面持ちになった時。
真昼もまたクロから言われた台詞に「えっ、俺そんなにしつこいか・・・?」とショックを受けていたのだが。
「それに・・・まだ手詰まりってわけでもなさそーだ」
程なくして、天井に空いた大きな穴を通じて近付いて来る何者かの気配を察知したクロがクロがそちらを見上げた処で。
「え・・・?」
真昼も戸惑いの面持ちになりながら視線を上に向けると。
「うわっ、何スかこの穴!?」
「天の怒りが落ちたのか?」
「はいはいはい。天使ちゃん、危ないから端っこ通って!」
ショートコントのような会話を繰り広げる二人の男達の声が聞こえてきて。
「なあ。オレ達どこに向かってんだ?」
そこにさらにもう一人加わり。
「あんた何にもわかんないままついてきちゃったんスかあ!? だーからぁ・・・」
不思議そうにそう尋ねかけてきた三人目の男に対し、最初に言葉を発した人物が呆れた口調で説明をしようとしたその時。
「この声・・・っ」と真昼が驚嘆の声を上げたことにより。
あちらもまた、穴の向こうに見える下のフロアに誰か居るようだと気づき。
「あれっ!? 兄さん達!?」
その穴からまず顔を見せたのが強欲の真祖であるロウレスだった。
そしてその後に穴の端を通って先に進もうとしていたロウレスの主人であるリヒトと、傲慢の真祖であるヒューと主人である鉄の二人もまた此方に気づき顔を覗かせてきて。
「ロウレス・・・に、リヒトさん!? 鉄とヒューも・・・!!」
瞠目の面持ちになった真昼が四人の名前を呼ぶと。
「うわ―――――ひっでー有様! C3にやられたんスね? だーから言ったんスよ!」
ロウレスが眉を顰めつつ、右手で穴の淵に掴まりながら、慎重に此方に下りてこようとしたのだが。
そんなロウレスの事などお構いなしに、リヒトは一人で穴から真昼の近くに飛び下りてしまい。あっ。天使ちゃん危ないっスよとロウレスが苦言を漏らしたのだが。
ロウレス達は盾一郎の協力を得て、真祖としての力を取り戻す為に、吸血鬼の生態に詳しい人物の元を訪れている筈ではなかったのか。
「なんでここに・・・!?」と真昼が問いかけると。
「今、〝色欲〟が実験中? っスけどオレはムリ! 逃げてきたっス!」
ロウレスは簡単に事情を説明してきた後。
「それより、ちょーどよかった! そこで手に入れた新情報が・・・・・・」
今度は自分の話をしようとしたのだが。
地に足を着けた処で血臭を感じ取ったロウレスは自身の背後に目を遣ると、
「えっ・・・この男・・・な、なんで・・・? 兄さん・・・なわけないっスよね・・・下位っスか・・・?」
今にも息絶えそうな状態になっている盾一郎に気づき当惑の声を漏らしてしまう。
「いや・・・吊戯さん・・・が・・・・・・」
「はあ・・・!? 仲間割れってことスか!?」
「あ―――――・・・C3の中でも・・・何か違う目的がある奴がいるっぽいぞ・・・」
沈痛な面持ちで真昼が告げると、唖然となったロウレスに今度はクロが答える。
「C3の中でのもめごとに巻き込まれるのはごめんっスよ」
その兄の言葉にロウレスは思い切り顔を顰めた後。
―――――つーかこれ・・・もう・・・・・・。
チラリとまた盾一郎の方に目を向けると、間に合わないのではないか、と眉を顰めたのだが。
「―――――そういえば兄さん、瑠璃ちゃんはどうしたんスか? まさか、瑠璃ちゃんの身にも何か・・・・・・」
「ああ・・・・・・瑠璃はオレと真昼を同じ目に遭わせない為に、あのデコちゃんに付いて行くことを選んだ」
瑠璃がいない事に気づいたロウレスに、神妙な面持ちでクロがその理由を告げると。
「だから早く・・・! 車守さんを救護室に連れてってくれ! ここで待っててもたぶん誰も助けに来ない・・・!」
仲間達に向かって必死にそう叫んだ真昼の意識の内に過ぎったのは、この非道な状況を作り出した冷徹な笑みを浮かべている塔間の姿で。
「オレが行く」
その真昼の意思を汲み取って、ぐいと盾一郎の身体を抱え上げたのは鉄だった。
「鉄・・・!」
「弓景の友達だ。絶対助ける」
真剣な顔つきで真昼に頷くと、力強くそう宣言した鉄は自身の頭上に下りてきた、蝙蝠に尋ねかける。
「ヒュー、救護室の場所・・・わかるか?」
「うむ? 先ほど地図を見たからのう。我が輩、一度見たものはちゃあんと覚えて・・・」
すると、のんびりと好々爺然とした口調で蝙蝠は肯定の意を示してきて。
「じゃあ、道案内頼むぜ」と鉄が言うと。
「大きいあんちゃんは人助けもして偉いのう。感心じゃ・・・」
鉄からの頼みを引き受けることにした蝙蝠はそう言いながら、鉄と目線を合わせるように左肩に下りてきて。
灰塵が抜けた影響で精神が後退し、〝ご隠居〟となってしまったヒューの中からは、気力だけでなく、これまで鉄と過ごしてきた〝記憶〟も全て抜け落ちてしまっているようで、鉄は少なからずショックを受けていた。
しかし―――――
蝙蝠の口から紡ぎ出された〝賞賛の言葉〟は鉄にとっては、ヒューと築き上げてきた〝大切な記憶〟の欠片で。
「・・・・・・ああ。ヒューはいつもオレのそういうところがいいとこだって言ってくれてたぜ」
微かに口角を上げながら、喜びを噛みしめるように鉄はそう言うと。
「頼んだぞ、鉄・・・!」
真昼からの掛け声を合図として、右肩に盾一郎を担いだ状態で、蝙蝠のナビによって救護室を目指して勢いよく駆け出していったのだ。
そうして強欲組の二人が身動きを取れないままの真昼とクロの傍に残ることとなり。
「一体、何が起きてんスか・・・? C3内めちゃくちゃじゃないスか」
「わからない・・・だけど! 早く吊戯さんを止めないと!」
困惑の面持ちで唸ったロウレスに真昼が訴えかける。
するとロウレスは右手を首筋に添える仕草をしながら、
「正直・・・あいつはもうキビしくないスか? こんな親しい人間まで手にかけるって。もう・・・手遅れじゃないっスかね・・・」
「えっ?」と当惑の声を漏らした真昼に対し、眉根を寄せつつそう言ったのだが。
『お前が言うか・・・』とクロとリヒトの二人から、呆れた様子で嘆息交じりにそう言われてしまい。
うっ、と呻きながら、ぎくっと肩を震わせたロウレスが「けっ、経験者としての意見っスよ!」と気まずそうに二人に言い返したその時。
―――――あ・・・そうか。
呆然と目を見開いていた真昼は―――――
―――――クロの言うとおりだ。
自分の中にストンと落ちてきたその〝想い〟に気づき、ぎゅっと唇を噛みしめると。
「俺・・・『無理だ』とか『もうやめとけ』とか、そんなの聞き分けられるほど諦めよくないんだ」
「・・・知ってるっスよ」
真昼が口にしたその言葉にニヤと笑みを浮かべながらロウレスが振り返ってきて。
リヒトとクロもまた、真昼の言葉に耳を傾けるように視線を向けてくる。
そんな真昼の意識の内に過ぎったのは〝相手の痛み〟に対する想いを口にした時の吊戯の姿で。
「痛みなんてわかりはしないってあの人は言ったけど。当たり前なんだ。自分の人生は一個しかなくて。同じ経験なんてできない。だけどそれでも誰かと生きていくんだろ!?」
次に真昼の中に浮かんできたのは、これまで体当たりで向き合ってきた『仲間』や『友達』それに『相棒』の姿だった。
「みんな俺がどこまでだって追いかけてやる! 一人一人に総当たりで誰かの痛みと向き合っていくしかないだろ!!」
そして今、真昼は『彼』の事も、我武者羅に追いかけることを選んだ。
「悲鳴が聞こえたんだ。そしたらもう助けるだけだろ!! 瑠璃姉も吊戯さんの悲鳴に気づいていた。だから吊戯さんを助ける為に一緒に行ったんだ!!」
「そうだな。ほんと、瑠璃もどんどん真昼の影響を受けて・・・・・・」
それからクロがしみじみとした口調で「めんどくせーことに」と呟くと。
「兄さんの惚けは置いておくとして。あんたと瑠璃ちゃんがそーゆー奴だってことはこの前の一件でよ―――――くわかってんスよ! C3が何してんのかは、さ―――――っぱりわかんねっスけど。瑠璃ちゃんと合流して、とりあえずあのデコっぱちひっ捕まえて」
やれやれという眼差しで兄を見遣った後、ニヤリと笑いながらまた真昼に目を向けたロウレスとともに。
「瑠璃と俺が女神と天使の力で浄化する」
リヒトがそんな決め台詞を口にすると。
「ん~~~~~~!? まあそう! 天使語で言うとそうっスね! そんですべてはその後で紐解きゃいいってことっスね!」
自分が話している途中で遮られてしまった事に対して一瞬、ロウレスは何とも言えない面持ちで唸ったものの、直ぐにリヒトの台詞も取り込んだうえで口述を纏めると。
「苦労して仲間にしたやつは―――――って兄さん言ってたっスよね? 役に立ってやろうじゃないっスか!!」
不敵な笑みを浮かべてそう宣言したロウレスと共に。
リヒトも凛々しい面持ちで「当然だ」と頷くと。
「なぜなら俺は」
左手を掲げながら、右手をクロスさせて。
『天使だから』
いつもの決め台詞をリヒトが口にした時。ロウレスもまた、左脚を掲げつつ、両手の親指と人差し指でリヒトの事を指し示しながら、茶々を入れるように息ぴったりと台詞を被せてきて。
「ってわけでここはオレたち強欲組に任せとけっスよ!!」
ヒュウ―――――~~~!! と、さらにはやし立てるように騒ぎながらそう言い放ったのだが。
ええ―――――・・・と真昼とクロは揃って思わず何とも言えない面持ちで呻いてしまう。
―――――瑠璃姉って、リヒトさんの中では、いまだに『女神』っていう認識なのか?
真昼が当惑した中で、クロもまた、意味わかんね―――――・・・とぼやきを漏らすと。
「つってもオレら今、戦えないっスから」
先の台詞を撤回するような発言をロウレスがした事により、
「何言ってやがる俺は・・・」
お約束ともいえるリヒトとの口喧嘩が始まってしまうかと思われたのだが。
「はいはい。天使にも不調な時はあるんス!」
ロウレスはリヒトと喧嘩をすることなく、軽い口調であしらうと。
「あ゛?」とリヒトはロウレスを睨んだものの。
「どーすんだ・・・あのデコちゃんつえーぞ・・・」
すかさずクロがロウレスに対して打開策を尋ねると。
「いるじゃないっスか! 戦える
ロウレスはズボンのポケットから取り出した自分のスマホを右手に持ちながら、ピッと左手の人差し指を立てつつ、得意気な面持ちでそう告げてきて。
「―――――!!」
その言葉を聞いた真昼が瞠目した様子でロウレスを見返すと。
「〝憤怒〟の姐さんはまだ椿にやられてないっス! 姐さんなら狼谷吊戯と戦って止めることだってできるはずっスよ!」
「つったってお前・・・〝憤怒〟がいる場所わかんのか・・・? どっかに
ニヤリと笑みを浮かべながら戦略を語った弟に、クロがまた眉を顰めながら聞き返したのだが。
「あ―――――のねぇ! オレは兄さんの
左手を腰に据えたロウレスは、右手に持っていたスマホをクロに向かって、眉を顰めながら嘆息交じりに差し出して見せてきて。
そりゃあよかった・・・お兄ちゃん安心したぞ・・・、とクロが感心した面持ちで弟を見返すと。
わ、悪かったな・・・と真昼はロウレスを、ジト目で睨んだのだが。
ロウレスは気にすることなく話を続ける。
「さっき言った『新情報』ってのがまさにそれっス! あのマッドサイエンティストの研究室で勝手に調べさせてもらったっス! そこで姐さんの情報を知って・・・助けようと抜け出してきたってわけっスよ!」
そして強欲組と傲慢組が研究室から姿を消しているのにも拘らず、
「・・・前回、助けられた分きっちり働いてやるっスよ!」
そうして真昼とクロが事情を把握した処で、ロウレスはそう言い切ると。
「オレ達で狼谷吊戯を止めるっスよ! そうすればC3と吸血鬼の衝突も回避できて。瑠璃ちゃんも安心してコッチに戻って来られる! さらに兄さん達の拘束も外せるってわけっスね!」
緻密な計画を披露して見せたロウレスに対して真昼が―――――
「そうだ! 俺の右ポケットに貸してもらったIDがある! エレベーターを動かせるはずだ!」
イズナから借りた社員証の存在を思い出し、持って行ってくれ! と言うと。
「おっ! それならスムーズにたどり着けるっスよ!」
ごそごそと真昼の上着の右ポケットを探って、社員証を見つけ出したロウレスは意気揚々とした様子で。
「さ―――――行くっスよ! 足引っ張ったら置いてくっスからね!」
「こっちのセリフだ。ボケネズミ」
リヒトも気合に満ちた態度で。
さっと息ピッタリに二人は声を掛け合ったのだが。
しかし、進行方向だけは左右真逆の状態で。
「そっちじゃない!! こっちから行くんすよリヒたん!!」
右を向いていたロウレスがリヒトに行先を改めるよう呼びかけると。
「あ゛?」とリヒトがまたロウレスを鋭い眼差しで睨みつけて。
「な―――――んでキレるんスかあ!!」と今度はロウレスもリヒトに食って掛かっていき。
いまにもケンカを始めてしまいそうな二人に、あ―――――・・・とクロが微妙な面持ちで唸り。真昼もまた、一抹の不安を感じたものの。
「た、頼んだぞ・・・!」
結局、そのまま出発した二人に『希望』を託す言葉を口にしたのだ。
【本館/22・5/23/別館/22・5/23掲載】
★艱難辛苦(かんなんしんく)⇒困難な状況に苦しみ悩むこと。
