Inquisitio Veritatis
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「くまセンターに鷲センター、蛇センター……おっ、ライオンセンターまである!」
「……貴様は少しは黙るということが出来ないのか」
「……うーん……でも、やっぱり最初に行くなら八つ橋工場だな!試食も出来るし―……ところで、なんか言いました?」
目が覚めるような夏空の下を一台のローカルバスが行く。梅雨が明けたばかりの空には、梅雨の間の鬱憤を晴らすかのようにサンサンと照りつける太陽が浮かんでいた。辛うじて舗装されている田舎道を、時折、車体を大きく傾かせながらあたし達を乗せたバスは進んでいく。
「何故、私がこのようなことに巻き込まれなければ―……」
「おっ?でこぽんロードなんていうのもあるぞ!ところで、でこぽんってなんだ?」
俄然テンションが上がるあたしとは対称的に、窓の外の風景を眺めながらブツブツと、蛇顔の男は今更感満載の恨み言を垂れ流す。構っても面倒なだけだと知っているあたしは、村の観光案内パンフから、昨日、ヅラ刑事の部下が持ってきた手紙へと関心の先を移した。
天下の警視庁に堂々と送り主不明で届けられたこの手紙の内容は、なんとも奇妙奇天烈なものだった。
警察庁 公安部 様
と、封筒に宛名が書いてある他は一見すると白紙の紙が一枚入ってるだけの意味不明な郵便。白紙の紙を見たヅラ刑事がアホくさと一蹴したことは想像に難しくないだろう。ちなみに、この手紙を持ってきた刑事は何故か矢部にグーで殴られていた。そういうプレイか。
……話がずれた。戻そう。まあ、あの偽物(頭部)刑事はやり込められても、この真理様の目を誤魔化す事など出来るはずもないんだな。これが。
ヒントは、白紙の紙から漂っていた柑橘系の香り。すぐにピンと閃いたあたしは、それを確かめるべくある事を実行に移した。結果は思った通り。矢部のポケットからスッたライターで火を着け、白紙の手紙に近付ければ見る見る褐色の文字が浮かび上がったのだ。
炙り出し。
小さい頃、筆で蜜柑の汁を付けて文字を書いた人も多いだろう。そんな単純なトリックがこの手紙には仕掛けてあったのだ。そして、手紙には、仕掛けに気付いた者を讃える賛辞の言葉と謝罪の言葉、それと共に、今あたし達が目指している八つ尺村の住所と依頼主の名前。更に、村に眠るという財宝の伝説が書かれていた。
これだけなら流石にお人好しのあたしでも無視をするが、その財宝発掘に協力するだけで謝礼が発生するというのなら話は別だ。おまけに旅費はむこう持ち。しかも、村一番の高級旅館の予約をとっているとの素晴らしいオプション付きである!
一応、用心のため矢部に炙り出しで出た住所が存在することと、送り主の身元がはっきりしているかは調べさせたがどちらも白。詐欺の可能性はない。
しかも、依頼主は戸籍上、華族の末裔!!……のくせ炙り出しみたいな子供騙しを使ってきたけど華族は華族。頭が残念だろうが華族なのである。
だが、たとえ華族からの依頼だろうが、悪戯じみた手紙に警察もかまってる暇はないのだろう(ただ単に矢部が面倒くさがっているだけである)、この件に関して積極的ではない。つまり、あたしが警察のふりして依頼を受ければ、警察は楽だし、依頼主は依頼を受けてもらえる、あたしは前金の30万円+出来高次第でお金が手に入りウハウハというわけである。
win-winとはまさにこのこと。前金だけで家賃1年分軽く払えるなんてやるしなかいっしょ!!ただ、一つだけ難点を上げるなら―……
必ず二人以上でお越し下さいという最後の一文。
当初は家のキンクマと亀を連れていこうと考えたが、武士の情けでこの住所不定極悪人面の蛇男を連れてきてやったというわけだ。……断じて友人がいないわけじゃない。繰り返す、断じて友人がいないわけではない。それにしても―……
自身の隣―……から三席ほど間をあけて座っている蛇男へと視線を動かす。相変わらずこちらに背を向け、外を見ている蛇顔の表情は窺い知ることは出来ない。……ペカーッと電球みたいに輝く頭部はよく見えるけど。
てっきり、一蹴されるとばかり思ってたのに案外すんなり話に乗ってきたなと、その背中を見て昨晩のやりとりを改めて思い出した。相変わらずグチグチしてるけどね。
まあ、それもそうか。実は、依頼主の身元を調べるついでに矢部にこいつの身元についても何か分かるようなことがないか調べてもらったのだが―……結果は案の定の収穫0。
それでも外人なのは顔の造形や最初にアメリカ語を話していた事から確かで、本来なら不法入国の手続きだ云々かんぬん色々あったみたいなんだけど―……矢部ときたら“頭が綺麗な人間に悪人はおらんッ!!”……の一点張りで、あまつ、蛇男の書類も適当に作っておくという無能ぶりを発揮したのだ。働き者の無能が一番厄介だと言ったのは誰だっただろうか。それでいいのか天下の公安部。
だが、いくら書面上はどうにかなろうがこいつの身元が依然不明というのは変わらない。つまり、現時点で頼れるのは事情をある程度把握済みのあたししかいないのだ。
「勘違いするな。私は貴様を利用する気はあっても信用するつもりはないし、頼るつもりも毛頭ない」
「……そりゃあ、あなた毛がないですし。って、なんであたしの考えていること知ってるんですか?」
あたしのボケが気にいらなったのか、蛇顔は返事の代わりに深いため息を一つ付いた。途中からツッコミ待ちでわざと口に出していってたから知ってるのは当たり前なんだけど、パスは受け取らなきゃだめでしょ。一人でボケるの結構恥ずかしいんだぞ。まったく、冗談が通じない男だ。
「……あの白紙の手紙に文字を浮かび上がらせたのは貴様だ。つまり、貴様にも私と同じ魔力があるということだ。脆弱とはいえマグルよりは利用価値があると踏んだだけだ」
「ま~た~意味が分からないことを言ってる。だから、あれはただの炙り出しで子供にも出来るって説明しましたよね?」
「それに貴様は私の心を読んで―……!」
「あ~……アホくさ」
まだ、分かってないのかあのトランプ当てのトリック。頭の固さはあたしの父とどっこいどっこいか?さては。
まあ、確かに読んだといえば読んだんだよね。あいつの後ろのガラスに写ってた絵柄と数字を文字通り。
……ん?あれ?
「……今、外にやけに大きな人いませんでした?白いチューリップ帽子とワンピースを着た女の人」
「ついに狂ったか?気のせいだろう」
「うーん、でも、確かにザッと2メートルはありそうでしたけど―……」
―……次は八つ尺村。八つ尺村。お降りの方はお近くの降車ボタンお押し下さい……―
「うわっ!?降りまーす!」
ピンポンと、いう音と共に降車を知らせる赤いランプが灯る。それから少ししてバスは徐々に減速していった。
「さあ、降りるぞ!ほれ、ちゃっちゃか準備する!」
……あたしが見たあの人影は夏のうだるような暑さが見せた幻だったのだろうか?墨のように広がる違和感を飲み込んで、あたしは一歩外へと踏み出した。