Inquisitio Veritatis
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「……ったく、あのクソ教授―……持ち込み不可になんてしやがって。だから、頭髪の神にも見捨てられるんだ」
日当たり(西日)良好の室内にそりゃあもうバンバンとオレンジ色の光が差し込む。そんな劣悪な環境にも関わらず、非常に勤勉なあたしは来週に控えた学期末試験に向けての追込みに勤しんでいた。
「……よし、まとめ終わりッ!!流石、あたし!!」
シャーペンを放り出して、腕を思い切り延ばせば凝り固まっていた筋肉がジワジワと解れていくのが分かる。試験後もそうだが、この時の何とも言えない解放感があたしは好きだった。
フッ……と視線を横にずらせば、父と母と幼いあたしの三人で撮った写真と、偉大なマジシャンだったという祖父が写った写真と目が合った。そして、母から譲り受けた沢山のマジック用具も……
「……」
あたしの母も、そして会ったことすらないが母方の祖父も奇術師だ。あたし自身、母の影響もありマジックと共に育ってきた。
あたしが見よう見真似でマジックをすれば、父も母も笑顔で喜んで見てくれた。それが嬉しくて、二人の笑顔がもっと見たくて美少女だったあたしは益々のめり込んでいったのだ。だけど―……それは所詮、子供騙しのお粗末なマジック。
……今でもマジックは好き。でも、あたしには母や祖父のような才能はない。あたしはそれを知っている。
好きだけでは仕事には出来ない。
好きだけでは食べていけない。
だから、あたしは大学に進学する道を選んだ。具体的な未来予想図はないけれど、この四年間のうちに見つければ―……
「……うるさッ!!」
人がせっかくアンニュイな気分に浸ってるっていうのに……
突然、ガタガタと大きな音を立てて激しく動き出した―……区指定のゴミ袋を被せて玄関に放り出しておいた生ゴミ(仮)へとあたしは意識の先を移す。せっかく、明日が燃えるゴミの日だから他のゴミと一緒に出そうと思ってたのに……
人?いやいや、だって人ならあんなボロ雑巾みたいな黒い布切れを着ないし、あんな蛇みたいな顔しているわけないし、何よりハゲだし―……うん。やっぱり、ゴミだ。
なんかビニール破いてすごい形相で二足歩行しながらこっちに歩いてきてるけど、ゴミよゴミ。
無視だ無視するんだ、真理!ベストを尽くせッ!!
……って、こいつ人の胸倉掴みやがった!!ちょ、苦しいわ!?ボケッ!!……でも、この言葉って……
「……もしかしてアメリカ語?分かるわけないじゃん」
無視をし続けるあたしにいっちょ前に業を煮やしたのだろうか?生ゴミ(仮)はあたしの胸倉を掴むと益々語気を強めてまくし立て始めたのだ。たぶん……アメリカ語で。
純日本人かつ大和撫子なあたしがアメリカ語を聞き取れるはずもない。鼻で思い切り笑いながら言えば、生ゴミ(蛇顔)は何やら目を見開き、そして―……
「……どうだ。小娘。これで私の言葉が分かるようになっただろう」
……と、意味不明な供述を始めたのでしたまる
なんだ、そのはっ倒したくなるドヤ顔は。最初から日本語が話せるなら話しやがれ。
「大人しく質問に答えろ。小娘―……貴様は何者だ?」
まるで蛙を狙う蛇のように生ゴミ(蛇)は瞳を細め、あたしを射るように見つめる。虹彩には薄暗い狂気に宿っているようで、あたしは思わず息を呑み、そして―……
「ってか、苦しいっーのッ!!!!」
「………!?!!?」
大きく振りかぶった右足で急所を思いっきり蹴り上げた!……心なし父より的が小さいような気がするような……まあ、いいや。当たったし。
「……フンッ!!ざまあ見ろってんだ、ターコッ!!」
情けなくもうずくまり呻き声を上げる生ゴミを見下して言い捨てる。ゴミの分際でか弱い美人JDの首を絞めた天罰じゃ、ボケッ!!
「大体、あたしは小娘じゃなくて、真理っていう立派な名前があるの!!」
「……き、貴様の名前など聞いていな―……名前……?」
「……?な、何?どうしたの?もしかして、やりすぎちゃった……とか?」
ただでさえ悪い顔色を更に悪くすると生ゴミ(仮)はわなわなと震え、信じられないものを見る目付きであたしを見つめる。
……やり過ぎたか。おかしいな。母は父のをもっとえげつなく蹴り上げてるけど、父はピンピンしてるんだけどなぁ……
「……私は―……誰だ?」
「……はっ?」
頭を両手で抱え、絞り出すすように男が漏らした言葉にあたしの思考も止まる。俺は誰だ?って、なんじゃそりゃ!?こっちが聞きたいわ!!