Inquisitio Veritatis
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「……お腹すいたなあ……」
「……」
「お~な~か~す~い~た~!!」
「……」
「……知ってますか、トムさん。蛙って鶏肉の味がするらしいですよ」
お前それマジで言ってんの?やっとこっちを見た同行者の男は言葉にせずとも瞳でそう語っていた。
「冗談に決まってるじゃないですか」
まだ……と、小さく付け足せば、返事の代わりなのかトムさんの口から今日何度めか分からないため息が漏れた。
「あー!もう!!やっってらんねー!!」
日に焼け毛羽立ったボロ宿の畳に四肢を投げ出して天を仰げば、昨日見たものと同じ汚らしい染みだらけの天井をなんとも昭和の香りがする裸電球がぼんやり照らしていた。そこから少しずつ視線を動かしていけば、これまた年代物の壁時計が夜の11時を回ったことを知らせていて、改めて目の当りとなった事実に絶望した私のお腹がきゅるるんと鳴った。
「貴様には品というものがないのか?」
「髪ならありますけど」
トムさんとの売り言葉に買い言葉なやり取りももう何度目だろうか。
最初のうちはホイホイ挑発に乗ってくれたトムさんだが、見かけによらず案外適応能力が高いのか、今ではもう面白いリアクションを返してくれなくなってしまった。これはこれでつまらないもんである。
「……本家の話し合いが終わったら藤代さんご飯持って来てくれるって言ってましたけど、このままだと私達飢えて死にますよ」
「またわけがわからないことを……水さえ取っていれば1日や2日食べない程度で死にはせん」
「私の体はトムさんと違って超デリケートにできてるんですよ」
「繊細な人間は口が裂けても蛙を食おうなどとは言わん」
ゲコゲコと、まるでトムさんの言葉に同意するかのように一斉に鳴き出した蛙たち。その合唱に合わせて蛙の歌を口ずさめば、うるさいという言葉とともに硬い枕が顔面めがけて飛んできた。痛い。
「……」
「……どうした?突っかかってこないのか?」
「ん?いや、そーいやトムさんってどことなく品があるよなあってフッと思いまして」
「は?湿気で脳がふやけたか?」
トムさんに投げられた枕を投げ返そうとして手を止めた私を不思議に思ったのだろう。珍しくトムさんから話しかけられ言葉を返せば、彼はトレードマークと化した皺を更に深くし不機嫌そうに悪態を吐いた。
「別に貶してるわけじゃないじゃないですか。なんとなく仕草を見ていてそう感じただけです。もしかして、記憶を亡くす前のトムさんはいいとこのボンボンだったのかも……」
と、自分でここまで言っておいてなんだが……
「ねえな。だってトムさんいいとこのお坊ちゃんっていうよりどー見たって悪役って顔してますもんね。ワイン片手に足組んでふんぞり返っている姿の方がピンときます」
「……黙って聞いていれば……貴様に品がなさすぎるだけだろう。大体、昨日の貴様の寝姿はなんだ」
「え?ああ、これですか?浴衣っていうんですよ。まったく無知ですね」
「違うそれではない!私が言いたいのは貴様の寝相の事だ!!」
「……寝相って……別にトムさんに迷惑かけてなんか……」
……おい。待て。なんでここで微妙に目を逸らす。いや、その前に一瞬こいつはどこを見たー……
「トムさんの変態!!死ね!!禿ッ!!!」
「こっちだって見たくて見たわけじゃないッ!!貴様がひどい寝相でつい立を蹴破ったせいだろうが!!」
”いい真理?着物や浴衣を着る時はブラはしないものなんですよ”
祖母の言葉が頭をよぎる。祖母の教え通り、着物を着る時は涼しい胸元。それは昨日の夜も例外ではない。
さいっっつあく!!!
手あたり次第ガシガシと周りにあるものを投げ合う私達を(いっちょ前に反撃してきやがった)、藤代さんが乾いた笑みを浮かべて見つめていたことを絶賛取り込み中の私達が気付くはずもなかった。
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