Inquisitio Veritatis
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「ほ~ど~け~ッ!!」
朝目が覚めたら海苔巻き状に布団でぐるぐる巻きにされていました。
昨夜の雨はすでに上がり、雨樋から落ちた夜露の雫が水溜まりに波紋を描き、青い朝顔の花弁を濡らす。いかにも平和な夏の朝の始まりといった風景だが、そんな穏やかさここには欠片だってありゃしない。
あたしにこんな仕打ちをした犯人はどうせ奴だ。抗議の意味を込めてトムさんを強く睨めば、それ以上に鋭い目付きで睨まれました。
眉間の渓谷はいつもの事だけど、トムさんの目ってこんなに赤かったっけ?細い毛細血管が拡張し、完全に充血している。それから導き出される答えはつまり……
「眠れなかったからって八つ当りは大人気ないと思います!神経質そうだとは思っていたが、もしかして潔癖症も併発してますか?まったく、軟弱ですね」
こう手足ごと丸め込まれちゃ立つことも出来やしない。仕方なく転がりながらトムさんへと近づけば、寝不足で頭でも痛むのか、頭に手を当ててため息を一つ吐いた。
「……何も覚えていないのか……貴様は」
「あれ?そう言えば、後頭部にそんな痣ありましたっけ?まるで何かに蹴られたみたい―……」
「……それ以上言ったらその舌を切り落とすぞ」
あたしの口からこぼれたのは乾いた笑い声だけだった。と、同時にヒヤリとした嫌な汗が背中を伝う。……こいつ、目が本気だ。
「真理さん!トムさんッ!!大変なんです!!」
突如聞こえてきた朝には似付かわしくない慌ただしい足音と声に、トムさんの眉間の渓谷が更に深く浸食されていく。音のする方へと顔を向ければ、ただでさえ血色の悪いトムさんよりも顔色を悪くした藤代さんがいた。
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「……嘘」
「……」
ぬるい風があたしの髪と乱れた浴衣の裾を翻す。
あったらし~い朝がき~た~
どこかのラジオから流れているお馴染みの国営放送の明るい曲が場違いで不気味だった。
「危険です!ここから離れてくださいッ!!」
村の自警団に所属している青年の叫び声が辺りにこだまする。しかし、青年の言葉とは裏腹に黒山の人だかりは増す一方だった。
「美萩姉さん……」
震える唇で藤代さんはある名前を呟く。鉄格子のはまった窓から漏れた朝日が光の梯子を架けていた。
まるで、天国へと続くかのような光の道。柔らかな光の先には、胴体から切り離され、光を失った濁った瞳で怨めしそうにこちらを見つめるもの言わぬ屍が一つ転がっていた。昨夜、あたしたちが貰ったものと同じ、古びた萩の柄の花札を胸に抱えて……
「……最初に死体を見つけたのは誰だ」
「……わ、私です」
冷たい、冷水のようなトムさん言葉があたしを現実へと引き戻す。静かに尋ねるトムさん顔には動揺や混乱といった表情は皆無だった。ただ、ただ、淡々と口を開いた―……それだけ。
こんな凄惨な光景を見てるのに、何故、冷静でいられるんだろう……?疑問は浮かべど言葉にならず、言葉になり損ねた空気だけが喉から逃げていった。
「その時、この部屋には鍵が掛かっていたのか?」
「……は、はい。この離れの小屋には鍵が―……えっ?」
「……トムさん、その鍵は?」
「足元に落ちていた。ここの鍵で間違いないな?」
「……そ、そんな!?ありえません!!私達はドアを壊して部屋に入ったんですよ!?この部屋の鍵はそれが一つだけ―……!」
花神家の女中―……雨音さんはそこまで言うと自分の口を手で覆い隠し、目を見開いた。
「……密室殺人」
あたしの言葉に皆が顔を上げる。
八つ尺様じゃ!!八つ尺様の祟りじゃッ!!八つ尺様が代がわりの儀式の匂いを嗅ぎつけた!!
老婆の擦れた叫び声が鉄錆の臭いが強く残る部屋にこだました。