ニルヴァーナ
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人は記憶の彼方
遥か遠い日
心に負った小さな傷を庇うために
剣を取る
人は思いの彼方
遥か遠い日
微笑みながら逝くために
剣を奮う
《ニルヴァーナ》
……何が起きた?いや、知っている。
私は死んだ。痛みすらもはや感じない。
災禍の因果の窯の底に落とされた私に残されたものは虚無感だけだった。失った心の臓。文字通りぽっかりと空いた胸から、次から次へと無ばかりが溢れてくる。
キャスカ……キャスカ……
最期に見た彼女の姿が頭を過る。弓なりに反る傷だらけの彼女の細い肢体。絶望と快楽が混ざりあった悲鳴にも似たキャスカの艶声が鼓膜を揺さ振る。そして、その上に乗り、覆い被さっている男の名は―……
私の“世界”は、私の命と共に壊れた。
いっそ、心まで壊れてしまえば良かったのに。どうやら、死ぬ事と心が壊れる事は等号ではないらしい。
―……シンシア……シンシア……―
……誰だ?
不意に聞こえてきた今までなかった声に私は鈍くなっている意識の矛先を向けた。
……似ている。咄嗟にそう感じた。
私がキャスカを呼ぶ声と“シンシア”と呼ぶこの声は似ている、と。
―……勇者の首をここに!……―
―……ハッ!ただ今……こ、これは……―
重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。瞳に写った景色は、今まで見ていた絶望と怨嗟の嵐が吹き荒ぶ亡者共の巣窟ではなかった。
湿った黴臭い空気と死臭が鼻を突く。死臭の元が台座に無造作に置かれた少女の首だと理解するのに時間は掛からなかった。
幼さがまだ残る美しい少女だった。蝋のように白い肌、豊かな桃色の髪―……そこには、名匠が作り上げた芸術品のような怪しい美しさがあった。
―……クッ……まさか、こんな……―
二つあったうちの影が一つ慌ただしく動く。後に残されたのは、もう一つの影ともの言わぬ少女の首と私だけだ。
―……見事だ……―
残った影が呟く。後には沈黙だけがわだかまっていた。