空即是色
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天にまします我らの父よ
願わくは
御名をあがめさせ給え
御国を来たらせ給え
御心の天に成る如く地にもなさせ給え
我らの日用の糧を今日も与え給え
我らの罪を犯す者を我らが赦す如く、我らの罪をも赦し給え
我らの試みに遭わせず悪より救い出し給え
国と力と栄えとは限りなく汝のものになればなり
《空即是色》
【ヘブライ文字】
alef……1
bet……2
gimel……3
dalet……4
he……5
vav……6
zayin……7
chet……8
tet……9
おお……アレフ、テッドか。アバドンの腹の中まで来たのか。まさか、センター……いや、元老院がアバドンにヴァルハラを飲み込ませるとは……
元老院は君達と私を会わせたくなかった。だが、私がヴァルハラに隠れているのは分かっても見つけられなかった。また、ヴァルハラはもうセンターにとって利用する必要がなくなっていたのだ。そこで、魔王アバドンにヴァルハラを飲み込ませた。邪魔な私と用済みのエリアを一度に消す事が出来たというわけだ。
ところで、三人でいるという事は収容所からヒロコを救ってくれたんだな。ならば、私も君達に真実を話そう。
アレフ、テッド―……つまり、君達はセンターが救世主として造り上げた人間だ。
かつての大破壊後、世界は荒れ果てた。メシア教団は人々を救うため自らの手で千年王国を造ろうとした。これが、“TOKYOミレニアム”だ。そして、救世主の出現をまったのだが、彼らが待ち望んだ救世主は……ついに現われなかった。
センター元老院は自らの手で自らの望む救世主を造り上げようとした。それが、アレフ―……君なのだ。
同時に君を巡る人間がバイオ技術で造り出されたのだ。人体を造る実験だ。当然欠番は生じたが―……それでも、君達を含めた6人がこの実験で生を受けた。
No.2 ベスは君のパートナー
No.3 ギメルは千年王国のテストを行う仮想世界のメシア
No.4 ダレスは救世主のカリスマ性を高めるために倒されるアンチ・メシア
No.7 ザインは君の見張り役
そして、テッド―……No.9はアレフに不都合が生じた際、その代わりに救世主となるために
だが、救世主となるべく造られた君達は他の者達とは違う。まず、人間の受精卵をバイオ研究所で強化し、若く優れた女性の体内に移した。そうやって、君達は生まれてきたのだ。君達はすぐに体を借りた女性から引き離され、丸一日で十数年分に成長させられた。
そう……ヒロコの子はアレフとテッドだ。
私もセンターの命令に何の疑いもなく従っていたが―……このメシア・プロジェクトにはどうしても我慢できなかった……救世主を勝手に造り上げたことも……私の娘を母体としてプロジェクトに使われたことも何もかもだ。
私は花田と協力して、君達の記憶とセンターへの忠誠心を消し、爆発騒ぎを起こして脱出した。アレフはなんとか外へ出す事が出来たが、テッド、君は途中で元老院に捕らえられてしまったようだね。
ヒロコ……君も連れていきたかったが、テンプルナイトとして植え付けられた記憶を消す時間はなかった。
だが、君は自分でアレフとテッドを探しに出かけた。これは、私も考えていなかったよ。
さあ、魔王アバドンに飲み込まれたものは間もなく消え去る。私もどうやら最期だ。君達は早く逃げるんだ。
さらば、我が最高の作品、プロトタイプ1・アレフ、プロトタイプ9・テッドよ……さらば、私の最愛の娘よ……
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「……ッう……」
晩秋の冷たい風が頬を刺す。痛みと寒さを感じて重い瞼を動かせば、自分の頭上数メートルの穴の先から満点の星空と月が見えた。……どうやら、落ちた衝撃で気を失ってしまったらしい。そのおかげで嫌な夢まで見てしまった……散々だ。
「……困りましたね」
嫌な夢を見たとはいえ、体力はそこまで消耗していないが―……落し穴に落ちた時に足を捻ったのだろう。立ち上がれば鈍い痛みが足首に走った。骨は折れていないだろうが……腕の力だけでこの高さを登るのは無理だ。……かと言って、このままここで一夜を明かすわけにもいかない。
既にかじかみ青白くなった手に慰め程度の息をかける。吐きかけた息は外気の影響で白い靄となった。これから益々冷えるのは目に見えている。このままでは危険だ。
「……いつもならハグリットが見回りに来ているはずですけど―……」
今日に限ってはそれがない。今夜が満月だからだ。満月と新月の夜に悪魔の出現率が高いからと、彼とダンブルドアの二人に夜は誰も外に出さないように依頼したのは他ならぬ私自身だ。その弊害がまさかこんな形で現われるとは……予想外にも程が―……
「―……へえ……君は随分と面白い記憶を持っているんだね」
「……ッ!?誰!?」
不意に生じた自身の声とは異なる低い声。咄嗟にホルスターからベレッタを取り出し、声のする方へと銃口を向けた。
ここは城外とはいえ、まだホグワーツの敷地内だ。瞬間移動―……姿あらわしに対して結界が張ってある領域で人間が沸いてくるとは思えないが、悪魔だとするなら有り得ない話ではない。
……しかし、そこにいたのは悪魔でも当然人間でもなかった。淡い緑色の光が声の場所を焦点に収束していく。光は徐々に光度を抑え、ある形を形成していった。それは少年の姿だった。
「……」
先程まで感じていた刺すような冷気とは違う生暖かな風が頬をなぜる。銃口を向け続ける私を一瞥すると、目の前の光―……否、少年は笑みを浮かべた。冷笑という名の笑みを―……
「はじめまして。僕の名はリドル。トム・リドルだ。君の名は?」
まるで親しい旧友に挨拶するかのような気さくさで、少年―……リドルは語り掛ける。しかし、私が銃口を下げないように、少年もまた細い茨の杖を私の左胸へと向け続けていた。……って、その杖。
「……それって私のですよね。返しなさい。使用料利子付けて請求しますよ」
「……質問にきちんと答えないのは感心しないな。もう一度だけ言おう。君は―……」
「……ソフィアです。トム・マールヴォロ・リドル。それとも、ヴォルデモート卿とお呼びしたほうが良かったですか?それとも我が君とでも?」
少年の笑みが醜く歪む。めんどうな事になったと思わずにはいられなかった。
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【sideシリウス】
「ねえ……流石にアレはまずいんじゃないかな……」
「んだよ、ピーター。トリックオアトリートって言ってんのに菓子を渡さなかったからお望み通り悪戯をしてやっただけだろう?それともあれか?お前、俺やジェームズじゃなくてあの女の味方なのかよ」
「そ、そういうわけじゃ―……」
人でごった返した大広間。ハロウィンで浮かれ騒つく会場。親友の一人であるピーターはそんな中で消え入りそうな声でそう呟いた。
「心配すんなって。ただ、ムカつくクソ女を落し穴に落としただけだろう。それに、あれぐらいで死にやしねーよ」
「……でも、シリウス。あの子気を失っていたみたいだし。それにこの時期にあんな薄着じゃ―……」
並々と注がれたカボチャジュースが入ったゴブレットを持つピーターの手が僅かに震えている。―……こいつ、さては今更ビビリ始めたな。
このピーターという男はいつもそうだ。後になってから、終わってから―……俺達、自分のした事に苦言を漏らす。それがターゲットに対する贖罪や後悔ではなく自身の保身から来ていると知っている俺は、文句を言う代わりに大きな舌打ちを一つ吐いた。
何を今更
お前も共犯だ
そんな思いをこめて。
「……まったく、ピーターは心配性だなー。悪戯の天才である僕が、おもちゃをすぐにダメにするような愚策をするわけないじゃないか」
「……ジェームズ、頬が腫れてるよ?だ、大丈夫?」
「ああ、心配には及ばないさ!ピーター!!何故なら、愛しのリリーに今日も愛の証を付けて貰っただけだからね!」
「……つまり、今日も懲りずにエバンズの平手を嬉々として食らってきたわけか」
「ご名答!流石、シリウス!」
こいつは……
自然と漏れるため息と落ちる肩。横目で様子を伺えば、ピーターも俺と同じように呆れて肩を落としているようだった。……ジェームズで苦労するのはお互い様だな。
そう思うとさっきまでピーターに対して感じていた不快感は既にどこかへ消え去っていて―……俺とピーターはお互い顔を見合わせて大声で笑った。
「……にしても、大丈夫ってどういう意味だよ?ジェームズ」
皿に盛られた大量のチキンに噛り付きながら俺はリーダーであるジェームズに問い掛ける。さっきは舌打ちをしたが、ピーターの言ったことも一理あるからだ。確かにあのクソ女は体力バカだが、あんなに面白いおもちゃが早々に壊れるのは俺としても避けたいというのが本音だった。
「あの場所はハグリットの小屋から近いからね。それにハグリットが夜な夜な外の見回りに出掛けているのはシリウスだって知ってるだろ?夜になればハグリットが彼女を―……」
……なるほど。確かに、ハグリットとあの女はどういうわけか仲が良い。近くにハグリットが通りかかった時に必ず女は助けを―……
「ん?どうしたんだ?ピーター?言いたいことがあんならとっとと言えよ」
ジェームズの話を聞いたピーターの顔は再び青冷めた色へと変わっていく。まごまごと言い辛そうに淀むピーターに声をかければ、観念したのか蚊の鳴くような声で呟いた。
「……僕、さっきハグリットに会ったんだけど……ハグリット今夜は夜の見回りはやらないんだって。なんでも、今夜外は危険だからって―……」
「どうして早く言わないんだ!!」
「なんで、早く言わねーんだよ!!」
ハロウィンで賑わう会場に俺とジェームズの声が響く。得体が知れない君が悪い女だが、何も壊すまでは望んじゃいない。危険だと知って放置するつもりは俺にもジェームズにもなかった。
水を打ったように静まり返った会場に背を向けて俺達3人は走りだす。赤く不気味な月が暗い廊下を薄明かりで染める。
何もない
そう何も―……
何度も言い聞かせるように頭の中で呟くが―……嫌な予感を消すことは出来なかった。
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「……へえ、僕が誰か知ってるんだ」
「ええ。ダンブルドアに日記を見せた時に聞きましたから。似非優等生」
赤い月の光が頭上の穴から降り注ぐ。少年の瞳に緋が混じったように見えたのは、この月明かりのせいだろうか―……いや、どちらでもいい、か。
「……それは知らなかったよ。でも、それなら何故、ダンブルドアは僕を手元に置かず自由にしているんだい?」
「直接狸に聞きなさい。私だっていい迷惑なんですから」
昼間見たダンブルドアの笑顔が脳裏に蘇る。何が、ソフィアに一任するだ。ただ厄介事を私に押しつけただけじゃないか。
「……それに私が何者か……もう見てるでしょ?開心術とやらを使った時に」
「……へえ。よく分かったね」
「……経験がありますから」
さっき見た夢を思う。あのザワザワした感覚には覚えがあった。それに、夢にしてはあまりにも鮮明すぎた。
「……まあ、ね。だが、にわかに信じがたいのも事実だ。君は―……ッ!?」
「……分かりました。見せてあげますよ。その前に、あなた呼び寄せ呪文は使えますか?」
冷たさとも生暖かさとも違う。熱く凍える妖気が漂い始める。事態の異常さにリドルも気付いたのだろう……顔が歪んだのが分かった。
「……何を」
「……いいから、知りたいんでしょ?」
……でも、この妖気……覚えがある。
「呼んでほしいのは私のC.O.M.Pです。あなただってホグワーツが壊されて日記が燃えるのは避けたいでしょう?」
……チッという舌打ちが一つ暗い穴に響く。そして、次の瞬間―……
「……感謝します」
兄もヒロコもいない状況で私だけでどこまで出来るか分からないが―……
「―……オールクリーン。悪魔召喚プログラム起動」
青い召喚の光が迸る。赤い月の光と混ざりあう光を見つめながら私は瞳を閉じた。