中世編
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じゃあ、あの川に積み上げられているアレは何?
“誰”じゃなくて、“何”?
※一部暴力的な表現があります。苦手な方はお戻り下さい。読んだ後、気分を害されたとしてもすべて自己責任とさせていただきます。
《LIVE》
その日はとても美しかった。青い…どこまでも澄んだ水を湛える湖。その上に悠然とそびえ立つ白亜の王宮は、柔らかく暖かな月の光に照らしだされ、空の暗幕には無数の星の欠けらたちが惜し気もなく散りばめられていた。
私の故郷―…ナブディス。
隣国であるアルテイディア帝国の圧力を受け、外部からも、そして、内部からも徐々に内乱へと向かいつつあるこの都は、それでも美しかった。そう、まるで一つの…古の偉大な賢者が描いた一枚の絵画のように。
そして―……私の視界は歪み、ひしゃげ、砕け、黒にあるいは白に潰れた。一瞬にして。もし……もし……罪人を裁くという地獄があるのだとしても、今日、この地、この夜ほどまでに酷いものではないだろう。
私はそう確信している。……それほどまでの災禍だったから。
魔力の素……私達の間で“ミスト”と呼ばれるエネルギーが王宮を爆心地として同心円上に波紋を描く。
万物に宿っていると言われるミスト。空気と同じようにどこにでもあるありふれたもの。だけど、この時は違った。
空気中の酸素も一定値を超えれば猛毒になるように……それはミストも同じ。普段であれば目視する事すらかなわないソレは、輝く光の渦になり、弾けたのだ。
爆発に伴って熱線と高濃度に濃縮されたミストは、周囲の大気を瞬間的に膨張させ強烈な爆風と衝撃波を巻き起こす。すさまじい……まるで音速ですら軽く凌駕したかのような爆風は、白亜の王宮を石造りの町並みを無常に薙払った。
時間にすればきっと瞬きをするくらいに短時間の事。だけど、この地を地獄へ誘うのにはそれだけで十分だった。
……いいえ。本当の地獄はまだ…始まってすらいないことにこの時、私は気付いてすらいなかった。もしかしたら、最初の衝撃波で死んだ者は……まだ……
高濃度に圧縮されたミストを材料に、次に待っていたのは制御不能な魔法の暴走。術者を媒介としたものではない。異常により集まったミストのエネルギーが暴走し、結果として魔法という形をとり具現化したのだ。
煉獄の業火のような熱を含んだミストは、焔へとその姿を変え、岩や鉄をも溶かし、大気を焦がし焼き尽くす。強烈な熱により爆心地の近くにいた者たちは全身の皮膚が炭化し、内蔵組織に至るまで高熱で水分が蒸発した。皆、苦悶の姿勢を浮かべて……点々と水気のない黒焦げの遺骸が転がり……白亜の王宮から一直線に見事なコントラストを描いていた。
それでも……死に切れていない者もやはり、いた。
衣類を……そして、表皮すらも失った姿で。ある者は、腕の皮膚が剥がれて垂れ下がり、爪のところでようやく繋がり、ある者は、背中全体の皮膚が剥がれ、腰からだらしなくぶら下がり。強い衝撃により眼球が眼腔から飛び出た者、腸が腹腔から飛び出ている者。皆一様にむき出しの皮膚には無数のガラス片や石片が深々と突き刺さっていた。熱にうなされ痛みにふるえ……それはまるで亡鬼のようで……
そして……彼らは水を求めて、湖川へと沈み……美しい湖畔は……川は、ぐずぐすと崩れた黒い人間たちでみるみる染め上げられていった。
……ううん。あれは、人間だったのだろうか?人?あんなぐずぐずと崩れ腐り落ちている人達が?じゃあ、私の目下の大地に広がっているこれは何?
“誰”じゃなくて、“何”?
一応の形で収まったかに思えたミストの暴走。しかし、それはまだ続く。巻き上げられた粉塵は、大気中に浮遊するミストと共に黒い雨として降り注いだ。
もうそこには月も星もない。あるのは、分厚く冷たい鉛のような色をした空だけ。
止むことのない黒い雨は水煙となり、都を包み囲む。栄華を誇った美しい王都を……死者を包む死装束のように……凍てつく黒い雨は降り続いた。
“魔”に汚染された、私の……故郷。
爆心地から遠く離れた都外れの丘の上。運良く災禍の直撃から逃れた私は、思ってしまったの。友達も……家族もあそこにいるかもしれないのに。
耳をつんざくような悲鳴を……慟哭を聞きながら思ってしまったの……たった一瞬だけれど……思ってしまった。
―……ああ……自分が生き残れてよかった、と……―