S・O・A・P!!
「……それでね……な事があったのよ~」
「……はあ」
飾られた色とりどりの花が白い病室に新しい色彩を生み出す。おそらく、奴らのうちの誰かが持ってきたその花は、ほのかな優しい芳香で彼女を包んでいた。
……っていうか、何で私、ここにいるんだろ。
マーテルに呼び止められてから早数十分。運悪く彼女に捕まってしまった私は、こうして話を聞く羽目になってしまったというわけだ。
いや、どちらかと言えば人と話をするのは好きだし、構わないんだけど……今、仕事中なんだよね。
そう思うと左手に抱えてるファイルがやけに重く感じるもんで―……っうか、誰がどう見たってサボってるようにしか見えないよなぁ……これ。
「マーテルさん、私、今仕事中で―……」
「“マーテル”です。それに敬語は止めてってさっきも言ったでしょう?」
ダメだ。終わりが見えない。
ついつい漏れ出たため息。そんな私の様子を見たマーテルが楽しそうに笑ったのがわかる。昨日、くえない女と言われたが私よりもマーテルの方がよっぽどくえないと思うんだけどなあ……。あの三人を手懐けてる時点で。
「……三人の事ありがとう」
フッ……とマーテルの顔から今まで浮かんでいた笑顔が消える。そう私に話す彼女の表情は今までにはない真剣なものだった。
「うーん……成り行きでこうなっただけだけどね」
彼女の言う三人とは勿論、あの信号機トリオの事だろう。お礼の言葉をこうやって言ってくれるだけ、やっぱり彼女はあの三人に比べて常識がある。
そりゃあ、礼を言われたくてやってるわけじゃないけど、文句を延々言われるよりはお礼を言ってもらえたほうが誰でも嬉しいでしょ?それが成り行きで始まったとはいえ。
だから、私は素直に嬉しかった。
「辛い?後悔している?」
その言葉に思わず苦笑いが浮かぶ。卵のレンチンから始まりやらかされた回数プライスレス。先日は納豆にキレてたからな!あいつら!腐った豆食わせやがってって言われたって元々納豆は腐ってるんだよ!
……正直、この人達と関わるようになってから私は後悔しっぱなしだ。だけど―……
「安心して。ここまで来たら最後まで面倒見るから。じゃ、面会人が来たみたいだから、私行くね」
嫌な事もある。
後悔しっぱなし。
成り行きで面倒を見る羽目になった。
だけど、一度決めたなら投げ出したくない。
責任を取るなら最後まで。
これは、私の数少ないモットーだ。
「フフッ……それを聞いて安心したわ」
「姉様?どうしたの?」
「それは、女同士のヒ・ミ・ツよ。ね?」
「プッ……何それ?」
悪戯を成功させた子供のように語るマーテルにつられて私の頬の筋肉も自然にゆるむ。
いけない、いけない!さあ、お仕事頑張るぞー!
「……笑えたんだ」
私が去った後の病室でミトスがそう言葉を漏らした事を私は知らない。
S:それは、女同士のヒ・ミ・ツよ。
O:体調確認。女同士の秘密の話。
A:ADL拡大。経過良好。
P:後数日のうちに退院の予定。